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ドイツにおける管理統制の諸概念について(上)

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ドイツにおける管理統制の諸概念について(上)

その他のタイトル Das Wesen der Kontrolle und Revision (1)

著者 高柳 龍芳

雑誌名 關西大學商學論集

巻 15

号 2

ページ 143‑158

発行年 1970‑06‑25

URL http://hdl.handle.net/10112/00021181

(2)

ツにおける管理統制の諸概念に ついて(上)

ド イ

高 柳 龍 芳

目 次

は~じめに

監査 (Revision)と検証 (Prung)について 検証方法に基づく概念区分について 検証方法に基づく概念区分への批判 身分に基づく概念区分について

(以下次号)

ドイツにおいては,

1 9 3 0

年代に入り会計監査士 (Wirtschaftspriifer)の活動 がめざましくなるにしたがい,監査士はその職業柄,ただ単に会計監査を業 とするだけでなく,経営の管理統制に関する業務全般に亙る広範囲な補佐・

指導を行なうようになった。すでに早く

1 9 3 0

年前後には,各種管理統制に関 する概念(監督 ‑Oberwachung,監査Revision,コントロール Kontrolle)

(1) 

現われてはいたが,その後の経営の巨大化,経営組織の複雑化とともに増大 した監査士の業務拡大に伴なって,これら管理統制に関する諸概念の使用法 について不統一が生じ,実践上混乱がみられるようになった。とくに,

1 9 5 0

年代に入ってからは,実践上の重要な問題として各種論争が行なわれるよう になった。

とりわけ,監査 (Revision)とコントロール (Kontrolle)の概念規定,すな

(1) Schreier, 

J . ,  

Kontrolle und Revision, Hamburg 1925.  Raschenberger,  M.,  Kontrolle und Revision der Aktiengesellschaft, Berlin‑Wien 1934. 

(3)

ドイツにおける管理統制の諸概念について(上) (高柳)

わち,この両者の区分については,現在においても,論者によってそれぞれ 異なった見解がみられるので,各論者の概念規定について紹介してみたい。

監査およびコントロールについての概念規定に関する学説は大きくわけて 三つになるように思える。

まず,第一のグループは,監督客体である経営活動を検証する時点,ない しはその頻度にしたがつて区分するものであり,それによれば,監査とは,

経営活動の確定事項についての一回限りの,ないしは,規則的または定期的 に実施される検証活動を指すものであり,コントロールとは,恒常的な経営 の制度下において継続的に期間に捉われることなく実施される検証活動を指 すものであるとする。この見解に立つ論者には, G.Danert: R. Wipper: C.  W. Meyer:  K. Fluch:  F.  Leitner: A. Esaac:  W. Hasenack:  K. Berg:  E.  Loitlsbergerなどがみられる。

つぎに,第二のグループは,検証活動を行ななう監督主体である監督担当 者が,被監査経営に所属する人であるかどうかという経営従属性 (Betriebs‑ angehi.irigkeit)  をメルクマールとするものであり,それによれば,監査とほ,

経営の作業員以外の人によって実施される検証活動であり, コントロールと ほ,経営の従業員によって実施される検証活動であるとする。この見解にた つ論者にほ, W.Klebba: E.  Zimmermannなどがみられる。

さいごに,第三のグループは,第一のグループと第二のグループとの見解 を交錯させることによって,すなわち,検証方法そのものについては時間的 関係によって両概念を区分するとともに,さらに,経営活動の領域に対して 監督担当者が独立性を保ちうるかどうかをメルクマールとすることによって も,両概念の区別がなされうるとするものである。それによれば,監査とほ,

監督客体である経営活動に対し直接責任を持っていない人によって実施され る検証活動であり,コントロールとほ,監督客体である経営活動に直接責任 をもつ人によって実施される検証活動であるとする。この見解に立つ論者に W.Hasenack: K. Wysockiがある。

第一のグループにおいては,監督客体と監督主体との時間的関係に基づく

「検証方法」をメルクマールとする区分 (Abgrenzungnach der Ai::beitsweise) 

(4)

であり,第二のグループにおいてほ,監督主体の経営従属性の有無に基づく

「身分」をメルクマールとする区分 (Personelle Abgrenzung)であり,第三 のグループにおいては,監督客体と監督主体との責任関係に基づく「責任領 域」をメルクマールとする区分 (Abgrenzungnach  der  Bereichsverantwort‑ lichkeit)であるといえるであろう。

二 監 査 (Revision) と検証 (Prufung)に つ い て

さて,監査とコソトロールおよび監督それぞれの機能についての差異を検 討するに当って,まず,「監査」と内筵証」についての概念規定を行なう必要 がある。

ドイツにおいてほ,現在,「監査」という言葉を表現するものとして, Re‑

visionPrtifungなる二つの用語が使用されており,しかも,この二つの言 葉はかなり混乱した形で使用されている。ロイトルスペルガーも「Priifung

(2) 

Revisionという言葉は同義語として使われている」ことを指摘しており,

イサークもまた「この言葉 (Revision)は無造作にドイツ語の Prtifungにお きかえられている。われわれもまた,この書の中において,問題ない限り時

(3) 

に応じて利用している」と述べている。

しかしながら,上記のような著者の引用にも拘らず,

1 9 3 0

年代頃までの諸

(4) 

文献を観望するときには,そこには明らかな区別がなされていたように考え (2)  Loitlsberger, E.,  Treuhand‑und Revisionswesen, Stuttgart  1961,  S.  26.  (3)  Isaac, A., Revision und Wirtschaftsprilfung, Wiesbaden 1951,  S 7.  (4)  Gerstner, Revisions 

Technik, 3. Aufl., Berlin und Leipzig 1922.この中でゲ

ルストナーはPriifungRevisionとは殆んど同じ意味をもつものと定義している が,実際に使用する方法としては Revisionを総体的抽象概念として, Priif‑ung 個別的具体概念として使用している。

Beigel, R., Lehrbuch der Buchfrungs‑undBilanz‑Revision, 2. Aufl.; Dresden  1914.GrundriB der Betriebswirtschaftslehre, Band 10, Leipzig 1926.この書の中に 集録された諸論文は, Sillen,Gerstner; Werqer, Biinger, Bork, Isaac‑, Hildebrand,  Eich, GroBmann, Penndorf, Adler, Aufermannなど,当時の監査論の権威者によ

るものであるが,ここでも Revisionは総体的抽象概念としてとらえられているよ うに思う。

(5)

146  ドイツにおける管理統制の諸概念について(上) (高柳)

られる。すなわち,これらの文献を要約すれぼ, Pri.ifungとは「監査を実施 する方法ないしは,実施過程に関連するものであって,監査行為そのもの」

を指す言葉であり,監査手続の一つ一つを指す個別的具体概念であり,ある 会計事実の適否・正否を検証 (Pri.ifung)する状態をめぐって使用される言葉 である。

他方, Revisionとは,「監査行為そのものである Pri.ifungの総体的抽象概 念」としてとらえられていたと考えられる。したがって,たとえば,「監査会 Revisionsgesellschaft」・「貸借対照表監査 Bilanzrevision」・「帳簿監査

(5) 

Bi.ichcrrevision」あるいは「監査報告書 Revisionshericht」などの場合に使用 されており,これらは監査の総体的抽象概念を示すものである。

これに対し,個々の監査対象 (Pri.ifungsgegenstand)としての現金在高・手 形在高や有価証券在高についての監査を行なう場合や,帳簿 (Grundbi.icher)

(6) 

についての個々別の監査を行なう場合には Pri.ifungの概念が使用されている。

ゲルストナーについてみれば,「監査の目的・意義ならびにその利用」・「監 査権と監査義務」・「監査制度」などという場合に使う監査には Revision 使われており,これは監査の全体概念を示しているものであり,抽象的な言 葉としての用語法である。つぎに,監査の実施に関して使用される言葉とし ては,「計算の監査と証憑監査」・「個々の帳簿監査の技術」.'「商業における項 目監査の技術」・「決算書監査の技術」・「原価計算の監査技術」・「組織監査の 技術」などがあるが,ここでの監査にあたる言葉にはPri.ifungが使用されて いる。

ただ,決算書の監査という場合, Bilanz‑Revision Bilanz‑Pri.ifungの両 方が使用されているが,前者の場合には,総体的抽象概念としての監査を意 味するものであって,決算書監査という全体概念を指しているのであり,後 者の場合には, Bilanzの中の各項目が,それぞれ技術的な見地から検証され,

具体的な立場から確証された結果としての決算書監査を指すものであると考 えられる。また,証憑監査にしても, BelegsrevisionとBelegsprぽungの両方

(5)  GrundriB, a.  a.  0., Inhaltsiibersicht.  (6)  Beige!, R., a.  a.  0.,  S 4. 

(6)

が使用されているが,後者では,それぞれの証憑を具体的に監査する方法な いしは技術について述べる場合に使用されているのに対し,その結果として の証憑というものの監査という全体概念を示す抽象語として前者が使用され ているを理解できるのである。

ところで,問題となるのは, 1930年頃を境にしてPrtifungの概念が拡大さ れはじめたことである。例えば,「監査の概念」・「監査制度」・「監査規定」な どという全体概念を示す用語に関しても Prtifungが使用されるようになり,

監査人は Rerisor→Prtifer,監査会社は Revisionsge,ellschaft→Prtifungsge‑ sellschaftというように使用されるようになった。

1930年頃を境にして,監査人が業務として行なう職域の拡大化傾向はめざ ましいものがあり,ただ単に会計監査のみでなく,経営相談や経営指尊にま でその業務を拡げた。このような監査人の業務拡大と,監査そのものの領域 の拡大ともあわせて, Pri.ifungという言葉も実践上,その概念内容を拡げる にいたった。現在では, Pri.ifungを個別的・具体的な技術に関する用語から 脱皮させて,さらに総体的抽象概念としての Revi~ion のもつ概念内容をも 包含する形で使用する著者が多くなってきている。

このような用語上の変化は, 1930年以後において発生してきたものと理解 してよい。その理由としては二つのことが考えられる。その一つの理由は,

社会的制度として発展してきた監査制度に関係をもつ法律の公布であり,そ の二つの理由は,会計監査士協会 (Institut der Wirtschaftspriifer)の設立に ともなう Prtifer (Revisor vことって代った)の活動の進展によるものである。

第一の理由にとりあげられる法律についていうならば,それは, 1931• 9 

• 19公布の株式法,銀行監督および租税減免に関する大統領の緊急命令 (Verordnung des Reichsprasidenten tiber Aktienrecht,  Bankaufsicht und eine  Steueramnestie)であり,この中にはじめて,貸借対照表監査士 (Bilanzprtifer)

262 A, F)による決算監査が取上げられたのであるが,それまで 一般世間の慣行として監査人について使用されていたRevisiorという用語は 使用されることなく,法律用語として監査人に対し使用される用語は Prtifer に統一されたのである。

(7)

148 (42)  ドイツにおける管理統制の諸概念について(上) (高柳)

理由の第二は会計監査士協会の設立であるが, 1930年 ま で は , 監 査 人 は Bticherrevisor と慣行上呼ばれていたのであり,いわゆる宣誓監査士制度も,

商工会議所による試験制度によって存在していたのであるが,上記の緊急命 (1931年)により, Bila priiferが法定監査制度の監査主体となる°におよ んで,公認監査士 (offentlichbestellte  Wirtschaftsprilfer)についての国家試 験制度が確立した。ついで1932年には,帳簿監査士協会 (VerfandDeutscher  Bticherrevisoren)が発展的解消をとげて会計監査士協会となったのである。

以上のように, 1930年頃を境として,株式法においては,一般慣行上使用 されてきた Revisionに代って Prtifungが法律用語として使われるとともに,

職業専門家としての監査士も Revisiorから Pferと呼称されるようになっ た。このような実践上の用語の使いわけの結果は,その後における文献の中 Priiferおよび Prilfungを監査の用語として使用するものが増加するに ともない, Priifungそのものの概念内容が拡大解釈される傾向をおびてきた のである。したがって,論者によっては, Revision Prungを全く同じ 意味をもつものとして使用するものもあれば, Revisionは一切使用せず,

Prtifungのみを使用するものもあり,さらに,ある論者は,伝統的立場にた って Priifungを個別的具体概念で使用し, Revisionを総体的抽象概念で使

(7) 

用することにより両者を使いわけているのである。

しかしながら,以上の結論とは逆に, Revisionという言葉が個別的具体概 念として使用されるような文献はみることができない。 Prilfungは例えば,

Prilfungs‑gegenstand(監査客体),ーvorgang(ー行為),ーgebiet(ー領域), —ha- ndlung (ー手続),—durchftihrung (一実施), 一objekt(—対象), ‑methode 法)などのような個別的具体概念としての合成用語となって使用されている が,これら監査実施に関する手続や方法上の技術的用語としては, Revision  は合成されていない。

(7)  Blohm‑Brennis, Wegweiser fur den Einsa.tz von interner und externer Revi‑ sion,  Berlin 1964; Loitlsberger, a.  a.  0., Isaac,  a.  a. 0.,これらの著書におい

ては,総体的抽象概念として使用されているのは Revisionであり,監査実施上の 個別的問題や具体的な実施手続や方法に関している問題を取扱うときには,Prufung が使用されている。

(8)

ところで,このようにPrtifungの概念が,監査技術上の個別的具体概念と してだけではなく,最近の概念内容拡大化傾向にともなって,監査の総体的 抽象概念としても使用されるようになると,これから取り扱おうとするとこ

ろの,三者の概念,すなわち,「監督・コントロールおよび監査」などの概念 規定ならびにそれらの区分関係についての論争が同一平面の上に立って行な われなくなり,混乱をもたらす原因ともなっている。このような関係は,

Revision概念の対立関係として取上げられるコントロール概念にも影響を与 えることになる。論者によっては,コントロールを監査よりも広い概念をも つものと規定しており,逆の場合もあるような混乱を表わすのは,その一端 を示しているものといえよう。

例えば,ライトナーやクレッパによれば,コントロールは広い意味で監督 (‑Oberwachung)と考えられ,その下位概念として特別の場合を Revision

(8) 

する。したがって,彼らによれば,監査とは一種のコントロールとなる。ま た,逆に,イサークの場合のように, Prtifungが広い意味をもつ場合には,

コントロールの上位概念となり, コントロールは監査の一種として位置づけ

(9) 

られる。

このように,監督, コントロール,監査の諸概念の区分を論ずるに当って,

基本的な概念規定としての監査そのものに重要な用語上の混乱がみられるの で,拙論においては,この中で引用する Revisionについては,総体的抽象 概念をもつものとして「監査」という語句を使用するとともに,概念内容が 拡大化されて使用されてきたPfungについては,総体的抽象概念を表現し ていると考えられる場合には Revisionを意味するものとして,同じく「監 査」という訳語を使用し,これに反し,個別的具体概念のみを表現している と考えられる場合には,「検証」という訳語を使用することにより概念上の混 乱をさけて以下論述をすすめたい。

(8)  Leitner, F.,  Die Kontrolle in  Kaufmiinnisehen  Unternehmungen unter  be‑ sonderer Beri.icksichtung  der Bilanz‑und  Wirtschaftspriifungen,  Frankfurt  1939;  Klebba, W., R .,  Revisionspraxis, 4 Aufl.  1953. 

(9) Isaac,  A.,  a.  a.  0., S 9. 

(9)

150 (44)  ドイツにおける管理統制の諸概念について(上) (高柳)

このような使用法は,例えば,チムマーマンが「監査(Revision)とほ被監 査側に属する人々以外の人によって実施される検証 (Priifung)を意味し,こ れに対し,コントロールとは被監査側の人々によって実施される検証 (Pf

(10) 

ung)である」と述べている場合,あるいはハーゼナックが「

I .

コントロー ル:その領域に責任ある者……による検証 (Pfun&). II.監査 (Revision): 

(11) 

被監査責任領域から独立した……人による検証 (Priifung)」と述べている場 合に,明らかに RevisionPriifungを概念上区分して使用しているのであ り,検証 (Priifung)という言葉は,監査のみならず, コソトロールを説明す る場合にも使用されているのであって,これら監査とコントロールという二 つの統制概念が実際に運用され,実施される際に使用される技術又は手段と

して,共通に用いられる個別的具体概念であると考えられるのである。

検 証 方 法 に 基 づ く 概 念 区 分 に つ い て

監査 (Revision)とコントロール (Kontrolle)を区分するに当っての第一の グループのうち代表的なものとしてイサークの見解を紹介したい。このグル ープにおける両概念区分の主要なメルクマールは「検証方法(Arbeitswerise) であった。

加藤氏の説にしたがえば,このグループはさらに二分できるという。すな わち,「第一(のメルクマール)は,監査客体である経営活動について批判し てゆく時点の相違であって,監査とは経営活動の確定事項についての監督で あるのに反して,コントロールとは目下進行中の経営活動について継続的に

(12) 

監督してゆくことであ」り,「第二のメルクマールは,監査を実施するところ の頻度に従って,コントロールとは,継続的,恒常的な批判行為であるのに

(13) 

反して,監査とは,規則的,定期的に実施される批判活動である」とする。

(10)  Zimmermann, E.,  Theorie und Praxis  der  Pri.ifungen  in  Betriebe,  Essen,  1954, S 19. 

(11)  Hasenack, W., Theorie und Praxis  der  Priifungen  in  Betrib,  insbesondere  die Abgrenzung von Revision und Kontrolle, Wpg 1955, S 420. 

(12) (13)  加藤訳「会計監査基礎理論」中央経済社・昭和41年・228

(10)

加藤氏の,このメルクマールによる二分説は時点か頻度かといういずれに せよ時間的間隔に差異を求めての区分であるので,経営活動に対する監督が 継続的に行なわれているかそうでないかという観点からみるならば,「検証方 法」をメルクマールにしているという点で一つの類型にまとめてはめこみぅ

ると考えられる。

(14) 

さて,イサークによれば. Revisionとはラテン語の revidereからきてお り,これはドイツ語の wiedersehen(見直す), nocheinmal sehen(も一度見 る)であり,ゲルストナーの監査概念(全般的又は部分的に実施されるとこ ろの,精神的な業務の反復 (geistigeArbeitswiederhclung)」に相応するもの であるとする。この「見直す。も一度見る」という言葉でうけとる印象から は,実施ざれた業務については全部漏れることなく取上げねばならないと考 えられる

6

しかし,実際にはすべての業務ゃ取引その他記帳処理について漏 れなく検証することは不可能であるので,「監査」の第一のメルクマールとし て「撰択 (Auswahl)」の問題が生じてくることをイサークは指摘している。

イサークは,この「撰択」のメルクマールから「監査」には試査が重要な 役割として現われてくることを指摘する。このことは「監査」が非継続的な 形でしか実施しえないものであることを暗示したものといえよう。この試査 との関連においてイサークは,コントロールを取上げてはいないが,コント ロールを継続的監督であるとみなしている立場からいって,イサークによれ ば,コントロールには試査が適用されないと考えてよいものと思われる。

つぎに,「監査」の第二のメルクマールとして,彼は監査が企業組織内に確 立されている「継続的管理制度 dauemdeEinrichtung」とは関係をもつもの ではないことを指摘している。業務への検証がたえず繰返し継続して実施さ れていることが,一つの組織に基づいてなされている場合がコントロールで あって,そのような条件のない場合において検証されるものが監査なのであ る。しかし,一見したところでは継続的管理制度のもとで監査が行なわれて いるようにみえる場合がある。例えば貸借対照表監査のような定期的には継 続性のある場合である。毎期継続してこの監査は実施される。しかし,彼に

(14)  Isaac, A., a.  a.  O., S.  7 10.

 

 

(11)

152 (46)  ドイツにおける管理統制の諸概念について(上) (高柳)

よれば,一期間内をとってみれば,それは時間的には一定の時点における非 継続的な行為であるにすぎない。また.中小企業における精細監査のように,

一期間全体にわたって,精細な帳簿検証が行なわれたり,また,一項目につ いて完全な検証がなされるような場合も考えられるが,これも長期的期間や,

全般業務からみれば,必ずしも継続されることが前提となっているのではな もあったとしても例外に属するものであるとする。

以上の説明から,イサークによれば,当然,「コントロール」については,

監査とは関係のなかった「恒常的管理制度 stdige Einrichtung」をもって 行なわれる監督行為を指すこととなる。

さて.イサークによれば, Kootrclleという言葉は,フランス語の contre‑ roleから生じたものであり, ドイツ語の Gegenrolleを意味している。この Rdleの代りに Bucherをおきかえると, Gegenbiicher(対照簿,通帳)とな り,銀行経営においては,この通帳が実際に使用されている。この通帳は,

銀行預金者の手許において保管されるものであるが,この通帳への記入の元 となった原簿は当然,銀行において保管されている。すなわち,ここでは,

一つの業務が二つの異なった記帳処理を行なわれた結果.常に対照しうるも のとして統制をうけている。このように「ある一つの業務が,二つのたがい に独立した記帳を通ずることによりその正当性がたえず検証されているよう な恒常的管理制度として経営の組織内において完全に運営されている」場合,

コントロールがあると考えられる。

さて,イサークは,コントロールを恒常的管理制度の名において経営組織 内に確立された統制の手段として特長づけた結果,会計上の管理機能だけに 限定することなく,現実の経営において機能しているところの種々の業務に 対する管理機能をもすべてコントロールの概念としてとらえる。すなわち,

彼によれば,帳簿の管理のみならず,倉庫管理,門衛その他あらゆる業務に 対する管理機能をもつものとして,それらが「諸種の欠陥の発生を予防し,

摘発する目的をもった恒常的管理制度のすべての方法」である限り,これら はコントロールとして特長づけられるのである。

以上のように,イサークは,コントロールをば監査と対立せしめるととも

(12)

に,この両者は経営における検証制度の両翼を担うものとして特長づけてい る。したがって,イサークによる図示は以下のようになり, Pri.ifungの概念 RevisionとKontrolleを連結する共通概念としてか,または,両者を包 括する上位概念としてか(イサークはこの関係については明確にふれていな い),いずれにせよ, Revisionとは違った概念としてとらえられているといえ

よう。

Revision 

Wirtschaftspung

Konttrolle 

ところで,イサークは,つぎのような例を示した。市街電車の車掌ほ乗客 の乗車券を検札することがある。この行為は継続的監督行為に属さない。し かもその行為ほ乗車券を「見直す•も一度見る」ことである。この検札の行 為は明らかに「監査」の概念に含まれるべきものでありながら,この車掌ほ,

実際にはコントローラーと呼ばれており,監査人とは呼ばれない。

しかし,彼の概念によれば,コントロールとは一つの業務が独立した二つ の行為を通じることによってその正当性が検証されるものでなければならな い。このように考えると車掌の行為ほ監査であってコントロールではなくな る。実際には監査を行なっているといわざるをえない車掌が,世間でコント ローラーと呼ばれている点に重点をおいて,この業務をコントロールの概念 で規制することの必要から,イサークは恒常的管理制度という概念を導入し たのである。しかも,それは諸欠陥の予防ないしは摘発を目的とするもので ある。この恒常的管理制度の導入は,上述した車掌による検札行為を,実践 上の用語であるコントローラー(車掌)としてのコントロール行為であるこ とを是認する。すなわち,監督行為が非継続的行為であっても,恒常的な管 理制度として経営組織内に確立されてあるなら,その監督行為はコントロー ルとなるであろう。イサークによるこの恒常的制度の導入は,一番最初の大 前提であったところの「継続的」行為というメルクマールをば,もはや監査 とコントロールとの間の区分のためのメルクマールとしては使用しなくなる しまずである。この問題について,イサークは掘さげた論義をしていない。

したがって,車掌の場合と類似的に考えられうる内部監査またはコンツェ

(13)

ドイツにおける管理統制の諸概念について(上) (高柳)

ルン監査は,彼によれば,いずれの概念に属することになるのであろうか。

もし継続性概念を基準にとれば,それらは非継続であるがゆえに「監査」に 含まれるであろうし,恒常的管理制度を基準にとれば,それらは企業経営内 に確立した制度であるがゆえに「コントロール」に含まれることになるであ ろう。この問題に関してはイサークは解決を与えていない。

検 証 方 法 に 基 づ く 概 念 区 分 へ の 批 判

監査とコントロールとを区分するメルクマールを身分,すなわち,監督行 為を行なう人の経営従属性 (Betriebsangehorigkeit) に求める場合には,「監 査」とは,経営の従業員以外の人が監督担当者となって実施するところの検 証活動をいうのであり,「コソトロール」とは,経営の従業員が監督担当者と なって実施するところの検証活動をいうのである。

さて,この身分に基づく両概念の差異を論ずる著者の中でその代表とみな されているチムマーマンを紹介してみたい。

彼によれば,「経営における検証活動 (Pri.ifurg) とは,ある場合には監査

(15) 

(Revision)ともなり,ある場合にはコントロール\Kontrolle)ともなりうる」

という。ここでは監査と検証とは区別して使用されている。すなわち, Pri.if‑ ungという言葉は監査にも,コントロールにも共通する概念としてとらえら れている。さらに,彼はこの二つの概念(監査とコントロール)の上位概念 として,監督 (Uberwachung)概念を考えているという点からみれば,ここ で使用されたPri.ifungは両者の上位概念としてではなく,監査とコントロー ルをつなぐ共通概念としてとらえられていることはまちがいない。

それゆえに,チムマーマンによれば Revisionおよび Kontrclleという言 葉は,総体的抽象概念として位置づけられ,この監査およびコントロールが,

実際に運用されるに当って,両者に共通するところの,検証手段という具体 的用具として Pri.ifungが位置づけられている。

ちなみに,彼の各種管理統制機能の構成図を表示すればつぎの通りである。

なお,チムマーマンによれば,監査 (Revision)とは被監査側に属しない人に (15)  Zimmermann, E.,  a.  a.  0.,  S. 19. 

(14)

よって実施される検証手続 (Pri.ifung)であり,他方,コントロールとは,被 監査側に属する人によって実施される検証手続である,と規定づけているこ

とを附記しておく必要がある。

監 督 (‑Oberwachung)

コントロール(Kontrolle) 監 査(Revision)

継続的 定期的 臨時的 経 営 内 部 監 査 経 営 外 部 監 査 コントロール コントロール コントロール

さて,チムマーマンは,監査とコントロールを区分するために,経営従属 性の有無のいかんをメルクマールとしたのであるが,このような考察ほ伝統 的な両者の区分についてのメルクマールであったところの,監督客体と監督 主体との時間的関係に基づく「検証方法による区分」に対する批判として生 まれてきたものであるといえよう。

チムマーマンによれば, Revisionとは新ラテン語 revidereからきたもの であり, ドイツ語の zurtickschauen(振りかえってみる)に当り,決算後の 実際在高について事後的に検証をすること (riickschauendePrtifung)を意味 する。これに対し, Kontrclleは contra‑rotulaであって,その意味は,継続 的に経営活動の過程に即して実施されるものと理解されている。

慣行的な観点にたてば,監査とは,主として決算後の実際在高を対象とし て検証をしてゆくものであろうし,コントロールとは,主として,同時的に,

あるいは少なくとも経営活動と時間的に直結した前後関係を持続しながら,

その経営活動を継続的に検証してゆくものであることはまちがいない。この ような検証方法の差異によって両者の概念が一応区別されていることを認め た上で,なお,チムマーマンはこのような時間的な継続的関係という検証方 法をメルクマールとして両者を区分する概念規定については否定的な批判を 行なう。

すなわち,チムマーマンの批判するところによれば,多くの場合そうであ ることを認めるにしても,コソトロールが必ずしも,個々の経営活動に即し てその進行過程と同時的または直接的な時間的前後関係として行なわれる検 証のみを含むものとは限らないし.他方,監査にしても,必ずしも一定時点

(15)

ドイツにおける管理統制の諸概念について(上) (高柳)

の在高を事後的に検証するばかりであるとはいいきれないという。

例えば,ここで彼は,部門費配賦表または月次損益計算書を利用して行な うコントロールについて言及する。この場合,コソトローラーは経営活動そ のものを直接に監督しているのではない。これらの配賦表や計算書における 計数は一度判断という網の目をくぐって計上された経営活動であって,ただ,

そのようにして加工された経営活動の計数を管理の対象としているのである。

したがってこの場合,慣行的概念に基づけばコントロールの領域に属するも のと考えられる検証業務であっても,それはもはや,経営活動と直結した関 係とみなしうるものではなくなる。

また,これとは逆に,監査として無条件に認めざるをえないような検証業 務でありながら,時間的な前後関係を前提としたために,コントロールと呼 ばざるをえないような状態もおこりうる。その例として,現金取引の監査が 挙げられる。監査人は現金取引の監査をする場合,監査を実施している期間 に発生した現金収支およびその日の現金残高は,発生すると同時に監査をす ませてゆくのが有効であることを知っている。このような場合を想定するな らば,経営活動(現金収支)と直結した時間的な前後関係(発生と同時に監 査を行なう)においてなされた検証業務はコントロールと呼ばれるべきであ るが,この現金監査はコントロールとは明らかに呼びえないものである。

したがって,チムマーマンによれば,経営活動に直結した時間的前後関係 は,両概念の区分についてかなり重要な比重をしめはするが,決定的に区分 を可能にしうるメルクマールではないと結論づける。もし,このようなメル クマールを認めるならば,その結果は,監査とコントロールとの実際的な区 分は不可能となり,同一の検証手続を用いているに拘わらず,一方において は監査業務であると認めたり,他方では,コントロール業務であると断定し たりせざるをえなくなり,さらにいえば,監査人はときにコントローラーと 呼ばれざるをえないような状態も生じうるであろう。

身 分 に 基 づ く 概 念 区 分 に つ い て

チムマーマンは以上のように「検証方法」に基づく両概念の区分について

(16)

批判を加えた結果,両概念を厳密に区別しうるメルクマールとしては,被監 査経営への監督担当者の従属関係におかざるをえないとの結論に達する。こ の事情については,すでに加藤氏の要約があるので,つぎに引用しておく。

「チムマーマンの説明から知られるように,経営活動と監査時点との時間的 な関係は監査人の意見形成過程と検証方法にとって必ずしも重要なメルクマ ールとはなりえない。むしろ,時間的な関係は経営組織にとって意義がある。

そこでチムマーマソは監査人と被監査側との独立,従属の関係というメルク マールを主張する。それによれば,当該経営に属して自ら業務を担当してい る人はコソトローラーであり,他方組織上完全に被監査側から独立している 人は監査人といえる。したがって,コソトロールとはコントローラーが実施 するところのすべての検証業務であるから,それは監査客体と直接的な時間 上の関連をもって実施されるときもあれば,そうでないときもあり,また継 続的に経営活動を検討するかもしれないし,精密に吟味するかもしれない。

(16) 

•…••他方,監査人の業務は常に監査と呼称される。」

このように,チムマーマンの立場は,監督担当者の経営従属性の有無いか んによって,監査かコントロールかを区別するのであるから,伝統的方法に よってはコントロールとして位置づけられる管理統制概念が,時には監査と して取り扱われるとともに,その逆の場合も考えられざるをえなくなる。

例えば,経営組織の領域に属する経営活動について,経営の組織的な計画 に基づく指図事項に従って継続的に監督することを,経営外部の監査会社そ の他の監査機関に依頼することがある。このような監督は,継続的な時間的 前後関係による検証業務であるから,伝統的な検証方法をメルクマールとす るかぎり,たとえ,外部の監査人による業務であろうとも, コントロールの 区分に入ることになろう。しかしながら,チムマーマンによれば,被監査側 に所属するか否か,すなわち経営従属性の有無いかんがメルクマールとなる 関係上,このような監督業務はコントロールの概念に含まれることはなく,

監 査 と し て 特 長 づ けられる。そしてこのような監査を,組織依存的監査 (organisationsabhiingige Revision)と呼ぶ。これに比べて,監督の過程が監査

(16)  加藤訳,同掲書, 230

(17)

ドイツにおける管理統制の諸概念について(上) (高柳)

機関またほ監査人個人の判断に基づいてなされるとともに,契約によってな されるところの本来の監査の形態をば, 契約依存的監査 (auftragsabhngige Revision)  と呼ぶ。チムマーマンによれば,外部監査人によって実施される 監督業務であるかぎり,それがいかなる形態をとるものであろうとも監査と

して特長づけられることになるのである。

以上二つの監査を総称して,経営外部監査(betriebsextern.eRevision)と呼 ぶが,さらにチムマーマンは,特別の場合として,経営の内部において独立 している内部監査課か,または経営者の依頼に基づいて実施する監査を経営 内部監査 (betriebsinterneRevision)と呼び,これを監査の区分の中に採り入 れている。チムマーマンのメルクマールである経営従属性の有無いかんを基 準にするならば,このような経営内部監査はコントロールの概念に属する筈

...。..

であるが,チムマーマンは,監督されるべき部門に従属していない人(内部 監査課)によって実施される検証業務であるとの理由から,これを監査の分 類に入れたのである。世上一般に,内部監査は interneRevisionと称されて いることにかかわって彼は,自らのメルクマールを曲げて,敢えてこれを監 査の分類に入れたものと思われる。

以上のように,チムマーマンは「経営従属性」を重要なメルクマールとし て出発したのであるが,内部監査を監査の分類に入れるべきか,コントロー ルのそれに入れるべきかという段階では,経営従属性を放棄して「部門従属 性」を取り上げるに至ったのである。この点は,ハーゼナックやヴィゾッキ イにより批判をうけるのであるが,大きな矛盾を露呈したものといえるであ ろう。経営従属性がメルクマールとなっている以上は,部門従属性の有無の いかんは問題とならない筈だからである。 (以下次号)

参照

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