心理診断法としての描画テスト : 家族画テストを 中心として
その他のタイトル Family Drawing Test
著者 高橋 雅春
雑誌名 関西大学社会学部紀要
巻 16
号 1
ページ 277‑288
発行年 1984‑12‑21
URL http://hdl.handle.net/10112/00022753
関西大学「社会学部紀要』第1
6
巻第1
号,1 9 8 4 , pp. 2 7 7 ‑ 2 8 8 ISSN 0 2 8 7 ‑ 6 8 1 7
研 究 ノ ー ト
心理診断法としての描画テスト
—家族画テストを中心として一~
. I
磨ー 橋
雅 春
Family Drawing Test
Masaharu Takahashi
Abstract
This study explains the theory and clinical application o f Family Drawing Test, which can give u s information about a subject's recognition o f his family relations and dynamics. Family Drawing Test, which emphasizes nonverbal and graphic communi‑
cation, has the advantage over the other verbal psychological tests. This test i s effective to a subject who could not express his family conditions i n his own words, a subject who conceals his feelings for the family, and a subject who was unaware o f unconscious image o f his family. The interpretation of this test i s given by global rating, formal analysis, and content analysis. The theoretical grounds of the drawing test depends on d~velopment of the drawing, symbolism of the drawing, and symbolism of space.
key words : Family Drawing Test, graphic communication, projective t e s t , symbolism.
抄 録
本論文では家族画テストの実施法,解釈理論,臨床的遮用について述べた。家族画テストは家 族相互の人間関係と力動性についての,被検者の認知に関する情報を得ることを目的とする。ま た家族画テストは言語的コミュニケーションのかわりに,図示的コミュニケーションによって情 報を得るところに特色がある。このテストは (1)被検者が家族の状態やそれへの自分の感情に気 付きながらも,言葉で適切に表現できない時や, (2)被検者が家族について話すのを回避したり作 為的に反応する時に役立つし, (3)被検者が家族に対して無意識裡に抱く心像を明らかにする目的 に有効である。解釈の方法は (1)全体的評価, (2)形式分析, (3)内容分析によるが,その理論的根 拠は (1)描画の発達, (2)描画の象徴性, (3)空間の象徴性に基づいている。
キーワード:家族画テスト 描画テスト 図示的コミュニケーション象徴性
関西大学『社会学部紀要」第
1 6
巻第1
号I
描画テストの目的描画テストとは, 臨床の場において被検者になんらかの筆記具を与え, (フィンガーペインテ ィングを含め)紙上に何かを表現させる心理テストである。(美術用語として素描のことを描画 と呼び,彩画と区別している人もいるが,両者を含める心理テストの意味で,本論文では描画テ ストと呼ぶことにする。)
描画テストの目的は,それを厳密に心理テストとみる限り,心理診断のための情報源として機 能させることにある。改めていうまでもなく,臨床場面において心理診断と心理療法(心理学的 援助)との間に,明確な境界線を引くことは困難である。たとえばロールシャッハ・テストでも,
検査者が被検者と反応を中心に話しあうことで,被検者がこれまで気づかなかった自分の考え方 や欲求や感情を意識するなど,ロールシャッハ・テストが治療的機能を示すこともある。同じよ うに心理テストとして絵を描かせることが,被検者の抑圧していた欲求や衝動を発散させたり,
被検者の自己理解や洞察に役立ったりすることも多い。しかし描画テストを心理テストとして捉 える時,描画テストは心理診断のための情報源となることを主目的としており,絵画療法あるい は芸術療法となることを意図していないし,描画テストが直ちに心理療法として機能するもので もない。描画を心理療法として機能させるには,別の観点からの発展が必要であり,この論文で は描画テストの心理診断法としての側面を取りあげる。
心理診断は精神医学的診断ないし疾病分類的診断と異なり.被検者のパーソナリティの客観的 記述を行おうとするものであるが,その情報源は①生活史の調査,R面接,⑧行動観察,④心理 テスト,⑥医学的検査の
5
つにある。心理臨床家なら誰でも,これらの情報源のあるものが,っ ねに他の情報源よりも優れているとか,心理テストのうちのあるものが万能であるとは考えない であろう。しかしまた,特定の情報源や特定の心理テストの使用に習熟した心理臨床家が,そう でない人よりもそれによって,被検者に関するより多くの有用な情報を得るのも事実であり,豊 かな臨床経験や心理テストの習熟は心理臨床家には欠かせないところである。ここでは心理診断のための 5つの情報源のうちの心理テストから,とくに描画テストを取りあ げて考察するが,描画テストがパーソナリティのどのような情報を得るのに最も有効かを考える 必要がある。これに関しては,描画テストが投影法に属しているし,投影法はバーソナリティの ー側面を捉えるのでなく,パーソナリティ全体の構造や力動性を広く知り得るということも可能 であろう。しかし既述のように万能の心理テストが存在するはずはないし,すべての心理テスト には有効性(長所)と限界(短所)があり,心理臨床家はつねにこれを意識して,必要な情報の 獲得に適した心理テストを使用するぺきである。
たとえば人物画テストで,
Goodenough,F . ( 1 9 2 6 )
やH a r r i s ,D . ( 1 9 6 3 )
はMachover,K . ( 1 9 4 9 )
と異なり,描画テストによる児童の知能測定に関心を持っていたし,人物画テストが児‑278‑
心理診断法としての描画テスト(高橋)
童の知能を測定するのに有効なことは, わが国でも追試され実証されている。一方,
Buck, J .
( 1 9 4 8 )
のHTP
テストが成人の知能を測定できるという点について,高橋( 1 9 8 4 )
は一般大学 の学生と美術大学の学生に,職業適性検査とHTP
テストを行い,両者から得られた知能得点 を比較したことがある。これによると職業適性検査の知能得点の平均が,一般大学生1 3 0 . 6 ,
美 大生1 1 2 . 8
であるのに対し,Buck
のHTP
修正IQ
は一般大学生1 0 9 . 4 ,
美大生1 1 6 .0
となり,いずれにも有意差が認められ,
Buck
のHTP‑IQ
には描画の巧拙という要因が関与している可 能性がある。これらから直ちに結論を出すわけにはいかないが,描画テストによって成人の知能 を測定するのには限界があるといえる。そして成人の描画テストの有効性は,被検者の知能より も行動様式,認知の仕方,性格特徴,欲求などの理解にあると考えられる。I I
刺 激 の 構 造 と 描 画 テ ス ト の 課 題人が「チューリップの花」のように明確に構造化された刺激に直面したとき,現実吟味力のあ る健康な精神状態の人であれば,たいてい同じように「花」と知覚するであろう。しかしそのと きにも人によって, 「美しい花」「過去のある出来事を思い出させる花」「血を連想させる,気味 悪い,ふみつけたい花」などと,主観的知覚あるいは統覚的歪曲を行うものである。心理診断に おいて心理臨床家が関心を持つのは,被検者が「花」を客観的に正しく知覚したかどうかだけで なく,むしろ被検者の統覚的歪曲であり,これによって被検者の内的世界を理解しようとするの である。
改めていうまでもなく,投影法は刺激の構造をあいまいにすることにより,被検者の防衛を少 なくして統覚的歪曲をより前面に出させ,誰もが行う客観的知覚を減少させることを意図してい る。そして投影法では, 「あいまいな刺激や構造化されていない刺激を完成したり構造化するさ ぃ,人はその人独自の反応の仕方でこれを行い,自分自身の欲求や葛藤などの内的世界の状態を 表わす。」という基本仮説を有している。
たとえば心理臨床家が被検者のパーソナリティのうち,とくに敵意〔
B u s s ,
A. (1 9 6 1 )
のいう「長期間にわたって人や事物に向けられている否定的態度の枠組」)に関する情報を得ることを考 えてみよう。心理臨床家は被検者に「馬鹿にされたと思うとひどく腹が立ちますか」など,敵意 に関連するような質問を直接行ったり,暴力行為の写真を刺激として見せ,これについて物語を 作らせたりするかもしれない。この場合,被検者がその質問を警戒して作為的に答えたり,写真 に対し自己防衛し,誰もが反応するような客銀的知覚に基づく物語を作ったりすれば,その被検 者特有の統覚的歪曲としての敵意は示されない。そこで反応として敵意の主題が生じやすいもの の,攻撃行動が明確に構造化されていない
TAT
の4
図や8BM
図を刺激として物語を作らせる と,被検者の防衛はある程度和らげられ,自分自身に関連した物語を話していると意識すること なく,敵意を中心にした統覚的歪曲が生じやすくなるのは周知の通りである。このようなTAT
関西大学『社会学部紀要」第
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巻第1
号の図版は現実生活(暴力行為)の写真を刺激とするよりも,通常は被検者の防衛を少なくするが,
被検者によっては却って警戒心を高めて防衛を強くし,心理臨床家の知りたいパーソナリティの 側面である敵意の存在を,意識的・無意識的に秘匿する場合も時にみられる。さらにロールシャ ッハ・テストになると,刺激が著しくあいまいになり構造化されていないために,統覚的歪曲が TATよりも生じやすくなる。たとえばX図に生じた「血まみれの男と女が兇器をふり回して戦 っている。あちこちに血が散っていて,互いに争っている。」の反応は,統覚的歪曲としての敵 意が明白に示された例である。
それでは刺激の構造化が少ないほど, たとえば TATの16図(白紙)が, 被検者に統覚的歪 曲を最も生じやすいとしても,これが被検者の内的世界を最も投影しやすいのであろうか。われ われは刺激が著しくあいまいであったり,全く構造を欠いている時,被検者がとまどったり,却 って防衛を高めたり,被検者の反応様式が多様になりすぎたりして,心理臨床家が知りたいバー ソナリティの側面を開示させる刺激と必ずしもならないで,心理診断に必要な情報を得られない ことを経験する。したがって心理臨床家が心理診断のためにいかなる情報をとくに必要とするの か,心理テストに対する被検者の構えはどうかなどによって,テスト・バッテリーのあり方を考 ぇ,心理テストの選択や投影法の刺激の構造を配慮するぺきであり,この問題は描画テストでの 課題にも関連してくる。
投影法に属する描画テストを刺激の構造という点からみると, 自由画と課題画に分けられる し,筆記具の種類による分類も可能である。このうちの自由画は,被検者が自由に課題(主題)
を選び思うままに描く絵であり, 刺激が構造化されていない TATの16図(白紙)への物語と 同じように,パーソナリティの理解に役立つとしても,要因が多すぎて分析や解釈が困難なこと も事実である。したがって描画テストという時は,自由画よりも課題画,それも抽象的課題(最 も不快なもの,希望など)よりも具体的課題(家,木,人など)を描かせることが多い。具体的 課題は課題(刺激)が構造化されているので, TATの4図やBBM図が被検者の敵意に関する 情報を多く与えるように,描画テストの特定の課題が開示しやすいパーソナリティの側面があ る。たとえば同性の人物画は,自己や重要な他者を表わすが,理想像よりも意識された現実像を 表わしやすいといわれている。また樹木画によって家族関係を知ることもできるが,樹木画は無 意識裡の自己像をより多く示すといえる。さらに家族画も人物画と同じように自己像を示すが,
むしろ家族相互の人間関係とその力動性についての被検者の認知に関する情報を多く与えると考 えられる。
しかし構造化された刺激には,構造化の程度が明確になるにつれて,被検者間に共通した客観 的知覚による反応が生じやすく,これらを統覚的歪曲に基づく反応と区別したり,必要な情報を 得るために統覚的歪曲を高めるような課題を設定する配慮が必要である。たとえば
HTP
テス トで通常の描き方をしていた被検者が,家族画で5人のスティック状の人物を描いたことがある が,これは家族画という課題がHTP
テストの課題よりも構造化した刺激として受け取られ,防‑‑280‑
心理診断法としての描画テスト(高橋)
衛的に反応したともいえる。さらに家族画で家族全員の姿や顔だけを並列的に描くのは,適応し た被検者によくみられる客観的知覚による反応といえるが,描かれる人物の順序,位置,大小,
表
t
青,動作などに,統覚的歪曲に基づく反応が認められるものである。][ 家族画テストの実施法
描画を心理テストとして心理診断に用いる場合,当然のことながら他の心理テストと同じよう に,テストの実施条件や実施方法とテスト結果の分析や解釈の仕方を統一し,規準化しなければ ならない。ノートの余白に書かれたなぐり書きや,メモ用紙にボールペンで描かせた樹木画であ っても,描いた人のパーソナリティのある側面を表わしているし,時にはその人のパーソナリテ ィ全体の理解につながる情報を与えることもあろうが,これが心理テストであるとはいえない。
心理テストとして厳密に実施方法が規定されている描画テストはいくつかあるが,そのうち高 橋
( 1 9 7 4 , 1 9 8 4 )
のHTPP
テストは,B u c k , J . ( 1 9 4 8 , 1 9 6 6 )
のHTP
テストではなく,人物 画の課題に関してはMachover,
K. (1 9 4 9 )
の方法を取り入れ,次のように行っている。HTPP
テストは個人法での実施を原則とし,用紙としてB5
判の白ケント紙を用い,筆記具はHB
の 鉛筆であり,消しゴムの使用を許し,教示も一定にしている。このうちの樹木画については,わが国での樹木画の教示の多くが,
K o c h ,
K.( 1 9 4 9 )
の" O b s t ‑ baum"
を翻訳した形で,「実のなる木」を描くように指示しているのに対し,高橋はB u . c k
と同じように, たんに「木を
1
本」描くように教示している。 この理由の第1
は, 日本とヨーロ ッバの風土や文化の違いから,日本語としての「果樹」や「実のなる木」の持つ内包が,ョーロ ッパでいう"Obstbaum"
の有する内包と同じと思えないからである。第2
の理由は,投影法と しての刺激の構造化の見地からであり, 「実のなる木」よりもたんに「木」という教示の方が必 要な情報を得られるからである。すなわち樹木画の解釈において,実の描画の有無が意味を持つ のであれば, 「きずのある木」を指示しないのと同じように, わざわざ「実のなる木」という必 要はないであろう。ちなみに高橋( 1 9 7 4 )
の資料によると,樹木画で指示なくして自発的に実を 描く被検者は,幼稚園児で約2
バーセントであり,成人では1
パーセント以下である。このこと からみて,成人の描いた樹木画の実は,子どもや達成感や自己の誇示などの象徴と一般にいわれ ているが,依存性や未成熟性,あるいは感情的に拒否された経験などを表わすとも考えられる。ところで家族画テストについては,昭和
5 9
年7
月8
日に浜松医科大学で行われた第1
回家族画 研究会において,一応,次のように実施することが話しあわれた。家族画テストの実施は原則と して個人法とするが,集団法で行う場合は,被検者が互いに他の被検者の絵を見ないように教示 し,被検者の座る位置の間隔に注意し,質問があるときは個人的に行わせて他の者に聞こえないよ うにするといった細心の配慮が必要である。用紙はB4
判の画用紙を用い,筆記具としてはHB
の鉛筆1
本と消しゴムのほかに,1 2
色のJ I S
規格の色鉛筆を順序どおり箱に入れた状態で渡す。‑281‑
関西大学「社会学部紀要」第 1 6 巻第 1 号
教示は, 「『私の家族」という題で絵を描いて下さい。」とだけ述べる。被検者が「全部の色鉛筆 を使うのですか。」「家族全員ですか。」「自分も入れるのですか。」「顔だけですか。」などの質問 をした時は,「思ったようにして下さい。」と答えるが,質問内容を記録しておく。また検査者は 描画中の被検者の行動をそれとなく観察し,描かれる人物の順序や被検者の態度などに注意を払 わねばならない。描画時間に制限を加えないが,だいたい 50分から 80分ぐらいの間に描き終える 被検者が多い。したがって集団法で実施する場合,だいたい
1
時間ぐらいで描き終えるように指 示する。被検者が描画し終わってから, 「これは誰ですか。」「何をしていますか。」「この絵につ いて説明して下さい。」などの描画後の質問を行い,絵を中心に話しあい,家族の人間関係とカ 動性についての情報を得ることも忘れてはならない。集団法の場合は「画用紙の裏面に描いた絵 についての簡単な説明を書いて下さい。また人物を描いた場合は,その人が誰で,どの順番に描 いたかの番号をつけるなどもして下さい。」と教示する。IV 描 画 テ ス ト が と ら え る パ ー ソ ナ リ テ ィ の 層
われわれが臨床場面で,被検者のパーソナリティに関する情報を得る場合,①被検者自身に意 識され,明白に認知された,パーソナリティの上層にあるものと,Rパーソナリティの内部にあ って被検者が漠然と感じたり知っているものと,⑧パーソナリティの深層にあって自己に認知さ れない,いわゆる無意識層にあるものとのうち,どれを捉えているかの問題が生じる。
たとえば検査者が面接で,「あなたは自分の行動や性格をどのように思っていますか。」と尋 ね,被検者が「私は負けずぎらいで,目立ちたがりで,自分の実際以上の姿を人に見せようとし ます。そのためによく失敗もしました。」と答えたとしよう。 この場合, われわれは被検者が自 己顕示性の特徴の存在を自己認知していると考えるであろう。また面接での質問に被検者が,
「ほがらかな性格です。」と答えたり, 自分の状態を言葉で適切に表現できないために, 「はっき りとは分からない。」と答えたとしよう。そこで性格を捉える質問紙法を実施し, テスト結果か ら自己顕示性の特徴が判明した場合を考えてみよう。検査者が質問紙法の結果を説明すると,多 くの被検者は,「自分の行動や性格は全くそのとおりです。」と答えがちであり,自発的に述べな かったにせよ,被検者は自分が自己顕示性の特徴を有していることを,意識できたり,漠然とし ているにしても知っていることが分かる。
しかし心理臨床家の心理診断においては,被検者自身が気づくことのできるパーソナリティの 層以外に,被検者が自己認知していない,無意識層にある性格特徴,態度,動機づけなどを捉え てこそ,被検者の行動を真に理解することが可能となる。心理テストのうちの投影法がパーソナ リティの深層を理解するのに有効といわれているが,
B u c k , J . ( 1 9 6 6 )
はMMPI, TAT,
ロー ルシャッハ・テスト,HTP,
色彩HTP
の順で,パーソナリティのより深い層を捉え得ると述べ ている。Buck
の主張の是非は別として,面接, 質問紙法, 投影法の中の文章完成法(SCT)
‑282‑
心理診断法としての描画テスト(祁橋)
と, TAT,ロールシャッハ・テスト, 描画テストなどの投影法から得られた情報とでは, パー ソナリティの層,つまり被検者が自己認知できる程度が異なると考えられるし,その故にこそテ スト・バッテリーの必要性が生じるのである。
ところで心理臨床家がさまざまな問題行為を示す人に出会った時,被検者自身のパーソナリテ ィとともに, 外界とくに一次的集団である家族との関係についての情報を必要とすることが多 い。そこで面接において検査者が,「あなたと家族との関係はどうですか。両親をどう思ってい ますか。」などと尋ねることがあろう。 これに対し被検者が, 家族の状態や自分自身の心理状態 を客観的に意識していて, 「私だけが孤立しています。私はとくに父親には強い憎しみの気持ち を抱いています。」など,率直に, 言葉で明確に詳しく答えるときがある。 このような場合や,
SCT で「私の家は……ばらばらです。」「父親は•…••氷のよう。」と書いた場合,家族間の問題の 有無を知るために,改めてわざわざ家族画テストを実施するのと,むしろ他の心理テストを行う のといずれが適切かは,心理診断の目的によっても異なるであろう。しかし心理臨床家が被検者 の心理診断を行うための時間は限られており,できるだけ短時間に,できるだけ多くの有効な情 報を得る必要があるので,上のような場合,広く他の情報を収集するための心理テスト(たとえ ば TATやロールシャッハ・テストなど)を行う方が望ましいといえるであろう。
面接や他の心理テストから家族間の力動性や問題点が推察されたとき,これを確かめたり,ょ り具体的な情報を得るために,家族画テストを実施することが有効な場合もあろうが,被検者が 自発的に述べた情報以上のものが,家族画テストで表現されるとは限らない。したがって心理診 断で家族画テストを行う目的は, ①被検者が家族の状態や家族への自分の感情に気づきながら も,それを言葉によって適切に表現できない場合,R被検者が意識的に家族に触れるのを回避し たり,意図して作為的に述べたりする場合,③被検者が家族への特定の感情や家族の人間関係を 意識面で認知できず,それらが無意識化されパーソナリティの深層にある場合,家族に対する被 検者の認知の仕方に関する情報を,被検者の言葉によってでなく,描画に象徴された内容から得
ることにある。
先にも述べたように,投影法は被検者自身が明確に認知していないパーソナリティの側面や深 層の理解に役立つといわれている。そして刺激の構造化という点からみて, TATよりもロール シャッハ・テストさらに描画テストの方が構造化されていないために,被検者が統覚的歪曲をな しやすいといえる。とくにTATやロールシャッハ・テストなど多くの心理テストが,刺激を受 け取って反応する被検者の受け身の心理過程
( i n c o m i n gp r o c e s s )
を示すのに対し,Hammer, E . ( 1 9 5 8 )
もいうように, 描画テストは自発的に反応する自己表出の心的過程( o u t g o i n gp r o ‑ c e s s )
を表わすので,この点からも描画テストがパーソナリティのより深層を示しやすいと考えられよう。
しかし人が自分の行為に意義(価値)を見出そうとするのは世の常であり,心理テストについ ても,特定の心理テストに関心を持つ心理臨床家は,そうでない人よりも,その心理テストの価
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巻第1 号
値を高く評価しがちなことは否定できない。また特定の心理テストを研究し,臨床面での使用に 習熟している人は,そうでない人よりも,その心理テストからの情報を多く得ることができるの も既述の通りである。したがって心理臨床家としては,個々の心理テストが有する一般的な有効 性と限界を知るとともに,同じ心理テストであっても,検査者や被検者によって,またテスト状 況によっても,得られる情報の内容や程度が異なることに留意しなくてはならない。たとえば家 族の人間関係に関する情報にしても,面接や質問紙法で家族について述べなかった被検者が,
TAT
の主人公とその家族の物語で,被検者自身の家族の相互関係を生き生きと述べることもあ る。またロールシャッハ・テストで述ぺられたさまざまな動物が,被検者の家族成員を象徴して いることに気づく検査者もいるし,これを見過ごす検査者がいるかも知れない。さらに家族画テ ストにおいては,とくに青少年の被検者が自分の家族の状態を視覚的かつ象徴的に表現すること がよくみられ,その意味するところを庫観的に体験できる検査者も多い。しかしF a l k , J . ( 1 9 8 1 )
もいうように,成人の被検者は自分の内的世界を描画の形で投影するのに抵抗や防衛を示すのも 事実である。成人の被検者の中には, 「絵が下手で……」といって粗雑かつ形式的に描いたり,描画を拒否する者が児童や青少年よりも多いようであり,描画テストが成人の被検者にとくに適 切とはいえない場合もある。
V
グ ラ フ ィ ッ ク コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン と し て の 家 族 画 テ ス ト心理臨床家が家族画テストを行うのは,家族相互の人間関係や力動性を明らかにし,被検者自 身と家族の心理的相互作用を理解するための情報を得ようとする目的からである。これらの情報 を得る手段として,家族画テストが面接などの他の情報源や他の心理テストよりも, 「できるだ け短時間のうちに, 最も有効な情報を, より多く与える」必須の心理テストといえないにして も,グラフィック(図示的)コミュニケーションによる情報が得られる点に特色がある。すなわ ち面接や多くの心理テストが言語的コミュニケーションを媒介とするのに対し,家族画テストを 含む描画テストは非言語的コミュニケーションのうちの,グラフィックコミュニケーションを伝 達手段としている。
心理臨床家が被検者の家族の人間関係を知ろうとするとき,面接,質問紙,
SCT
などから得 られる情報と同じものを,家族画テストから知るだけなら,面接などでの言語的手段に基づく情 報が,視覚的に図示される点でそれなりに興味深く,他の情報源からの情報を裏づける点に価値 があろうが,それ以上の意味はない。家族画テストの存在価値は,他の情報源で得られなかった 家族関係の情報を,グラフィックコミュニケーションの形で得られるところにある。前述したよ うに家族画テストは,①家族の人間関係の力動性や自分の感情を,被検者が言葉によって適切に 表現できない場合,それらを絵画の形で図示的に表現したり,言語的表現のための契機を与えた りすることに意味がある。たとえば言語的コミュニケーションの能力が不十分な児童や非行少年‑284‑
心理診断法としての描画テスト(高橋)
などが,家族内での自分の孤立感や母親への敵意を,グラフィックコミュニケーションとしての 家族画に図示的に描くことがよくみられる。われわれが家族画を眺めて,描いた人の家族の相互 関係を,言葉を媒介としなくても視覚的・直観的に体得できるのは,このような場合である。さ
らにこのとき,被検者に家族画の説明を求め,描いた絵を中心に話しあうことにより,これが契 機となって,面接での直接的な質問におけるよりも,家族の状態を言葉で詳しく述べ,これが心 理診断に役立つことも多い。
さらに家族画テストは,R面接,質問紙,
SCT
などで家族に触れることを意識的に回避した り,意図して作為的に反応する被検者の本心を知る効果がある。たとえば面接などで家族への親 和感を述べながら,家族画でスティック状の人物を描いたり,漫画的あるいは抽象的に家族を描 いたりするなど,グラフィックコミュニケーションの形で,家族に触れるのを防衛したり,家族 への違和感を表わしたりして,自分の本心を示すこともある。しかし意図して家族に触れるのを 避ける被検者は,家族に対する感情を家族画よりも人物画や樹木画などの他の課題の描画の方に,より明白に表わしやすいようである。
家族画テストが心理診断に最も有効なのは,⑧被検者が家族の人間関係や特定の家族への感情 を認知しないで,パーソナリティの無意識層に抑圧し,これらをグラフィックコミュニケーショ ンの形で象徴した場合である。人びとは,対象が明確でなく,言葉で具体的あるいは適切に説明 しにくい抽象概念や無意識の感情(たとえば超自然的存在への畏敬やそれへの恐れ,家族への親 和感や愛情あるいば憎悪感や敵意,体験される喜びや幸福感あるいは悲哀や不幸感など)を伝え るとき,特定の色彩や形象を用いて描画に表現することがある。さらに言葉で具体的に指示でき る対象(たとえば乳房,生殖器,糞便など)や説明できる具体的な欲求(たとえば近親相姦や,
同胞の死への欲求など)であっても,その存在の意識が自我を脅かすとき,これらはバーソナリ ティの無意識層に抑圧されがちである。これらの抑圧された心的内容も,抽象概念や無意識の感 情と同じように,さまざまな姿で示されるが,描画に象徴的に表出されることがある。したがっ て家族画テストは,被検者が無意識裡に抱いている家族イメージをグラフィックコミュニケーシ
ョンとして示す場合,心理診断にきわめて重要な情報を与えるのである。
V I
家族画テストの解釈既述のように家族画テスト(を含む描画テスト)から心理診断のための情報を得るには,描画 だけの目かくし分析
( b l i n da n a l y s i s )
をしないで,描画後に質問を行い,描かれた絵を中心に して話しあうことにより,家族間の力動や被検者のパーソナリティに関する情報を得なければな らない。たとえば 4人家族の被検者が,父親のいない 3人の家族を描いたとき,被検者が父親と の違和感や敵意を示したのか,父親が単身赴任をしている現実の姿を描いたのか,それへの淋し さを示すのかなどは,目かくし分析だけによっては把握できないであろう。関西大学「社会学部紀要」第
1 6
巻第1 号
一方,描画の解釈は高橋
( 1 9 7 4 )が述べているように,①全体的評価,②形式分析,⑧内容分
析に分けられるが,これら3
つは全く別個の解釈過程ではなく,相互に関連するものである。こ のうちの全体的評価とは,家族画の全体的印象から,被検者の家族関係やそれへの感情や欲求な どを直観的に理解する方法である。われわれは誰でも相手の人と話しあい,言語的コミュニケー ションを行うことで,相手の人の家族に閲する情報を得ることが可能である。同じようにわれわ れはグラフィックコミュニケーションとしての家族画によって,視覚的に表現され象徴された家 族の人間関係を理解することができるし,中にはこの能力にとくに優れた人もいる。これまで述 べたようにグラフィックコミュニケーションは,言語的コミュニケーションよりもパーソナリティの深層を直接的に示しやすい反面,これを正しく十分に理解するのは必ずしも容易ではない。
家族画を常識的な水準ではなく,より深く理解し解釈するには,絵画などの芸術作品への関心と ともに,臨床心理学や精神医学の知識を持ち,描画に関する研究文献を広く読まねばならない。
さらにできるだけ多くの家族圃を眺め,年齢やパーソナリティや家族関係や文化を異にする被検 者の状態を検討することが必要である。筆者がいう描画の全体的評価や直観的理解とは,上述の ような臨床経験によって高められる能力に基づくものであり,天与の才能とか勘のように漠然と したものではない。しかし心理臨床の場においては, 科学的なもの
( s c i e n c e )
以外に, 芸的な もの (art)が存在することを否定できない。家族画テストの解釈にもこの両者が関与している が,あえていえば, 描画の全体的評価はより芸的 (art)であり,次の形式分析と内容分析はより科学的
( s c i e n c e )
色彩が強いといえよう。形式分析とは家族画をどのように描いたかの分析であり,描線の性質(連続・不連続・ふるえ など),使用される色彩の種類,濃淡や陰影の有無,描画像の大きさ, 描かれる順序, 用紙上の 位置,パースペクティブ,筆圧,対称性,透明性,省略,切断,抹消,強化,歪曲の有無などを 取り上げる。たとえば透明性は現実吟味力の欠如を示すと考えられるし,石川
( 1 9 8 0 )が赤色と
黒色の占める割合の大きい絵は自殺の危険性を表わすと述べるなどは,ここでいう形式分析の例 である。内容分析は形式分析のサインや描画後の質問などを参考としながら,家族画の中で強調された り無視されている部分や特殊な対象を取りあげ,それらが象徴する意味を解釈して,家族間のカ 動や葛藤やそれらに対する被検者の感じ方などについての情報を得ようとするものである。内容 分析のサインはきわめて多く,たとえば主題(並んだ家族,仕事,勉強,レクリエーション,争 ぃ,食事,休息,就寝など)や家族のいる場所(戸外,自然の中,食堂,茶の間,客間,寝室な ど),運動・作業などの動きの有無と内容,人物や特定の家族の欠如や出現, 人物画か抽象画か
(人物のかわりに動物,図形,文字,色彩などの使用)などから,家族の相互関係(集合,協調,
争い,孤立,疎外,暖かさ,冷たさ)を知ることができる。さらに人物の部分の強調や省略(大 きい目,色眼鏡,歯や舌の表示,空白の顔,顔だけの絵,手や足の欠如など),姿勢(正面,横 向き,後向き,立位,座位など),文字の記入とその内容,特殊な対象の存在(冷蔵庫,テレビ,
‑286‑
心理診断法としての描画テスト(高橋)
クリーナー,ふとん,机,椅子,自動車,太陽,山,川,木,花,動物など)と多くのサインが みられる。たとえば太陽が父親や権威像を,歯が敵意を,テレビが家族間の暖かさを象徴するな どは, 内容分析の一例である。なお家族画の内容分析について
Burns,
R.& Kaufman, S . ( 1 9 7 2 )
が,「ネコは母親に対する同一視の過程に生じる葛藤のシンボル。」とか,「電灯は暖かさ と愛情のシンボル。」など,家族画に生じやすいシンボルを取りあげ, それが一般に何を象徴す るかを述ぺている。かれらのいうシンボルとは筆者のいうサインのことである。描画のあるサインが何を象徴するかの理論的根拠は,高橋
( 1 9 8 4 )
が述ぺたように,①描画の 発達,R描画の象徴性,⑧空間の象徴性に基づくと考えられる。そしてあるサインが象徴するも のについては,それが多くの文化に共通した普遍的意味を有する場合もあれば,特定の文化や特 定の個人だけに特有の意味を持つものもある。 したがって外国の文献にみられたサインの象徴 を,わが国の被検者の描画に無批判に適用すべきでないのはいうまでもない。あるサインの象徴 するものを正しく理解するためには,そのサインが象徴する普逼的意味や,特定の文化のみに共 通する象徴的意味を,精神分析学,文化人類学,神話,おとぎ話,芸術作品などから知り,さら に被検者個人に特有な象徴的意味を,描画後の質問や他の心理テストや生活史を含む臨床所見か ら知るようにしなければならない。またあるサインが出現した場合,その意味の理解は仮説とし て考えるべきであり,1
対1
の関係で機械的に解釈してはならず,他のサインとの関係などから 総合的に解釈することが大切である。以上,心理テストとしての家族画テストについて主に述べたが,初めに触れたように描画テス トは心理診断のために用いるだけでなく,臨床の場においては心理療法の一方法として用いた り,面接を円滑にすすめる手段として用いることも多いが,これらについて改めて述べることに したい。
参 考 文 献
B u c k , J . ( 1 9 4 8 ) The H 平 P t e c h n i q u e : A q u a l i t a t i v e and q u a n t i t a t i v e s c o r i n g m a n u a l . J o u r n a l o f c l i n i c a l p s y c h o l o g y . 4 : 3 1 7 ‑ 3 9 6 .
B u c k , J . ( 1 9 6 6 ) The H o u s e ‑ T r e e ‑ P e r s o n t e c h n i q u e . ( r e v i s e d m a n u a l ) . C a l i f . : Western p s y ‑ c h o l o g i c a l s e r v i c e s .
バアンズ・カウフマン加藤孝正他(訳)
1 9 7 5
子どもの家族画診断黎明書房( B u r n s , R . , & Kauf‑
man, H . 1 9 7 2 A c t i o n s , s t y l e s and s y m b o l s i n k i n e t i c f a m i l y d r a w i n g s . N . Y . : B r u n n e r . ) B u s s , A . ( 1 9 6 1 ) Th e p s y c h o l o g y o f a g g r e s s i o n . N . Y . : W i l e y .
F a l k , J . ( 1 9 8 1 ) U n d e r s t a n d i n g c h i l d r e n ' s a r t : An a n a l y s i s o f t h e l i t e r a t u r e . J o u r n a l o f p e r s o n a h t y a s s e s s m e n t . 4 5 : 4 6 5 ‑ 4 7 2 .
G o o d e n o u g h , F . ( 1 9 2 6 ) Measurment o f i n t e l l i g e n c e by d r a w i n g . N . Y . : World B o o k . Hammer, E . ( 1 9 5 8 ) The c l i n i c a l a p p l i c a t i o n o f p r o j e c t i v e d r a w i n g s . I l l . : Thomas.
H a r r i s , D . ( 1 9 6 3 ) C h i l d r e n ' s d r a w i n g s a s measures o f i n t e l l e c t u r a l m a t u r i t y . N . Y . : H a r ‑
c o u r t .
関西大学「社会学部紀要」第
1 6
巻第1 号
石 川 元
( 1 9 8 0 )
自殺の表現病理精神神経学雑誌( 8 2 )1 2 : 7 9 2 ‑ 8 0 2 .
K o c h , K
.( 1 9 4 9 ) Der Baumtest‑Der Baumzeichenversuch a l s p s y c h o d i a g n o s t i s c h e s H i l f s ‑ m i t t e l . ( 1 s t e d . ) B e r n : H u b e r .
M a c h o v e r , K
.( 1 9 4 9 ) P e r s o n a l i t y p r o j e c t i o n s i n t h e drawing o f human f i g u r e . I l l . : Thomas.
高橋雅春
( 1 9 7 4 )
描画テスト入門文教書院高橋雅春