インドにおける「無償義務教育に関する子どもの権 利法(RTE2009)」の成立と教育選択の自由
著者名(日) 西村 史子
雑誌名 共立女子大学・共立女子短期大学総合文化研究所紀
要
巻 21
ページ 101‑111
発行年 2015‑02
URL http://id.nii.ac.jp/1087/00003013/
Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by‑nc‑nd/3.0/deed.ja
インドにおける「無償義務教育に関する子どもの 権利法 (RTE2 0 0 9 ) J の成立と教育選択の自由
西村史子
はじめに
インドの義務教育については.独立後の 1 9 5 0 年 1 月 2 6 日に施行された憲法 ( 1 9 4 9 年 1 1 月 2 6
日に成立,一部施行)第 4 5 条で. r 各州は すべての子どもに対し 1 4 歳に達するまで.無償義 務教育を憲法の発効から 1 0 年以内に保障するよう努める j と規定され,実現に向け各州の責任と 努力が求められていた。しかしこれは強制力を伴わない国家の指導原則に過ぎなかったとされ る 。 1 0 年後の 1 9 6 0 年度の就学率は.初等教育学校第 1 ‑ 5 学年 6 2 . 4 % . 第 6 ‑ 8 学年 2 2 . 5 % に過ぎず.
1 9 7 0 年になっても識字率は 30% を下回っていた
1)。調査報告の操作.児童労働によるドロップア ウトの発生.女子教育に対する意識の遅れなどで.実情はもっと劣悪であることが指摘され 2 1 現 在まで繰返される。
インド政府もこういった状況に手をこまねいていたわけではない。 1 9 6 8 年に「国家教育政策
( N a t i o n a l P o l i c y o n E d u c a t i o n ) J と題した教育基本計画を打出して.国家統合と文化経済的発展の ために教育機会の平等を強調し. 1 9 7 6 年の憲法改正で第 2 4 6 条 第 7 附則が修正されて,教育は 連邦政府と州の共通管轄事項になった 3 ) 。
1 9 8 6 年の「第二次国家教育政策 J には, 1 9 9 2 年の修正で指定カーストや部族.女性に対する配 慮が加えられ.同年と翌年の憲法改正とともに.教育行政の権限をパンチャヤト ( p a n c h a y a t ) な どの地方自治体に大幅に委譲し住民の意思をより反映するものとした(第 9 編パンチャヤトの追 加.第 2 4 3 条 G及び第 1 1 附則)。公約として. 2 0 日年を目標に「万人のための教育 ( E d u c a t i o n f o r A l l ) J の達成が掲げられた。そして 1 9 8 0 年代後半からは スエーデン,オランダ等の諸外 国による特定地域を対象にした支援プロジェクトが成功し 1 9 9 0 年のジョムティエン(タイ)で の「万人のための教育宣言」を受け.世界銀行等の資金援助で 1 9 9 4 年に郡初等教育計画 ( D i s t r i c t P r i m a r y E d u c a t i o n P r o g r a m : DPEP) を進めた結果,大幅に就学率が向上し. 1 9 9 9 年度には第
1
・5 学年の就学率は 9 4 . 9 % に達した
1102 ∞ 0 年には「全国初等教育完全普及計画 ( S a r v aS h i k s h a A b h i y a n : S S A ) J が開始され.その目的は 2 0 1 0 年までにか 1 4 歳のすべての子どもが就学し基礎教 育 ( e l e m e n t a r ye d u c a t i o n ) の 8 年間の課程を修了するものであった。 2 0 0 8 年には第 6
・8 学年の就 学率は 7 7 . 5 % に 達 し 2 0 1 1 年の識字率は 74% を超えている九
この学校教育の量的拡大を背景に, 2 0 0 2 年に改正された憲法では.①州による無償義務教育
( 6 ‑ 1 4 歳対象)の保障が改めて確認され(第 2 1 A 条).同条は「教育を受ける権利 ( AR i g h t t o E d u c a t i o n ) J 規定となった。また,②保護者等が教育機会 ( 6 ‑ 1 4 歳対象)を保障する義務(第 51A 条)
‑ 1 0 1
ーインドにおける「無償義務教育に関する子どもの権利法
(RTE2∞
9)Jの成立と教育選択の自由 と.③州の幼児教育及び保育 ( 6 歳未満対象)を保障する努力義務(第 4 5 条)が加わった
6)。こ うして.インド政府は就学奨励の段階から就学義務を原則とする義務教育制度を整えていく。
本論文では. 2 0 1 0 年に施行された「無償義務教育に関する子どもの権利法 (The R i g h t o f C h i l d r e n t o Free and Compulsory E d u c a t i o n 2 0 0 9 ) J (以下. RTE 法と略称)を検討して.今後の 課題を指摘する。特に.パイロット事業としてデリー地区で開始され一定の評価を受けている学校 選択の自由が,同法にいかに組み込まれようとしているのか。それまで認められてきた就労児童に 対するノンフォーマルな教育 ( n o n f o r m a le d u c a t i o n ) . そして上流階級が選択してきた就学せずに 家庭で行う教育.いわゆるホームスクーリングが こういった義務教育制度の整備過程においてど のような位置づけになるのか インドの教育選択の自由への影響について着目する。
1 . r 無償義務教育に関する子どもの権利法 J の成立
憲法改正後の 2 ∞ 4 年に政権が交代し.国民会議派がリードする与党連合・統一進歩同盟 ( U n i t e d P r o g r e s s i v e A l l i a n c e : UP A)が 2 0 0 9 年 5 月の下院総選挙で圧勝した後. 8 月 4 日に「無償義務教 育に関する子どもの権利法」が成立し.翌年の 4 月 1 日から施行されている。同法第 3 条第 1 項は,
f 6 ‑ 1 4 歳のすべての子どもは.基礎教育 ( e l e m e n t a r ye d u c a t i o n ) を修了するまで.近隣の学校で 無償義務教育を受ける権利を有する J と規定している。ここでは.学校での教育が権利として保障 されている o 途中入学.学齢超過の子どもにも課程修了までの在籍が認められている(第 4 条 ) 。 さらに,政府や地方当局の同法施行 3 年以内の学校設立義務(第 6 条)が規定され,第 8 条では,
政府 ( g o v e r n m e n t ) の義務として改めて無償義務教育の保障を掲げ,具体的には社会的弱者層お よび文化的経済的に不利益を被っている層 ( w e a k e rs e c t i o n and d i s a d v a n t a g e d g r o u p ) の子ども の修学が差別や妨害を受けないことへの保障,中途入学の子どもに対するキャッチアップのための 特別訓練.在籍状況の監督,学校建築や設備の整備.教員の配置.教員訓練機関の設置.設置基準 C S c h e d u l e ) に従った質の高い教育および適切な教育課程の保障が列挙されている。憲法を受けて,
基礎教育について保護者の子どもを就学させる義務が規定されている(第 1 0 条)。同様に,政府が 6 歳未満の乳幼児に対して無償の就学前教育を保障するよう適切な措置をとることが示された(第 1 1 条 ) 。
政府補助私立学校の授業料無償化.独立系私立学校は入学定員 25% 以上の授業料無償枠を設定 する義務(第 1 2 条第 1 項)が謀せられ.関連諸費用の徴収禁止(第 3 条第 2 項. 1 3 条).同規定 の対象である社会的弱者層ないし文化的経済的に不利益を被っている層は.この措置によって子ど
もの就学先に質の高い私立学校を選択することが可能になった。
そして.質の高い教育の保証として.充足すべき教育日数. S/T 比.設備などの標準を示した 設置基準を別表にし.認可外学校の設置や運営の禁止.違反に対する認可取消しゃ前金が定められ.
設置基準の周知や改定は中央政府の管轄とされた(第 1 8 ‑ 2 0 条)。教員の資格規定.服務規定もま た着目される。教員には.中央政府承認の最低資格が求められ.無資格者には同法施行後 5 年以内 に取得が義務付けられた。服務内容に規則的かつ時間厳守の勤務態度.所定の教育課程の遵守.生
‑ 1 0 2 一
徒に応じた適切な教育実践.保護者との定期的な会合等が列挙され.選挙・災害・国勢調査などの 公務以外の兼職や家庭教師などの私的教育活動の禁止が規定された(第 2 3 ‑ 2 8 条)。基礎教育のカ リキュラムと評価手続きについては.政府が委嘱した機関により定められることになって.生徒は 基礎教育修了までどの委員会 ( B o a r d ) の試験も合格は認められず 所定の手続きに従い修了証を 授与されることになった(第 2 9 , 3 0 条)。既に,中央中等教育委員会 ( C e n t r a lB o a r d o f S e c o n d a r y E d u c a t i o n : C B S E ) が総合・継続評価 ( c o m p r e h e n s i v ea n d c o n t i n u o u s e v a l u a t i o n : C C E ) システム
を開発し, HP 内にガイドラインを掲載している。教員研修も実施しており, 2 0 0 9 年 1 0 月に認可 学校の第 9 , 1 0 学年から開始し他学年については順次進めている 7 ) 。
2 0 0 0 年代に入ってからのインドの基礎教育政策は 義務教育=就学の徹底を図るものといって よい。そしてカリキュラムおよび学力評価の手続きにも国家統制が進行している。これまで認めら れてきた学校外での教育形態を学校教育へと統合,収赦させようとする意図が.同法第 1 0 条の保 護者の就学義務規定,第 2 9 .3 0 条の基礎教育の修了義務規定.修了資格の取得が各種委員会 ( B o a r d )
試験の受験資格になるとの規定等からうかがえる。また. DPEP や SSA などの地方自治体の住民 を参加させる政策の成功は. 75% 以上が保護者で構成される学校運営委員会 ( S c h o o l ~anagement
C o m m i t t e e ) の設置規定(第 2 1 条)になったともいえ.地域社会の学校教育の受容を一層促すも のとなっている。
2 . r 無償義務教育に関する子どもの権利法jによる学校選択の自由の促進
2 0 0 7 年に着手された「デリー学校パウチャ一計画 ( D e l h iS c h o o l V o u c h e r P r o j e c t ) J は,公立学 校から私立学校ないし他公立学校の自由な選択を認め その費用を計画実施主体の NPO 法人であ る「市民社会センター ( T h eC e n t e r f o r C i v i l S o c i e t y : C C S ) が負担するというインドで初めての パウチャー制である。デリー市 6 8 区 ( w a r d )x 6 人の生徒を希望者から抽選により選抜している。
応募資格は.デリー市に居住し.パウチャー給付時の学年が第 7学年以下であることと.公立学校 に在籍している生徒である。資格を得た生徒は,選択により生じる教育費用について年間 3 6 0 0 ル ピ ー を 上 限 に 受 給 し そ れ は 3年間保障される。 ( 1 ル ピ ー = 1 . 9 0 円 2 0 1 4 年 1 2 月現在)デリー 市との連携事業であるヘ
すでに公立学校に在籍しながら無認可学校でより良い教育を求めることが実態化しでもいて 9 : >
市民の関心は高く.合計 4 0 8 人の枠に対して応募者(保護者)数は 1 2 万人超と報告されている。また.
受給生徒及び保護者の満足度については. r メディア研究センター ( C e n t e rf o r ~edia S t u d i e s ) J
によるアンケート調査が実施され.初年度および次年度分の受給者の選択状況等が判明している。
2 0 0 9 年の同調査報告によれば.調査時点で 6 3 . 1 %の生徒が私立学校に転校をし 内 94% は満足を 示している o 転校者の 30% が低学力のため下級学年に編入されているものの,保護者の 8 割は適 切な処置と見倣しており.保護者の 9 割は転校手続きに問題無しと回答している。また. 5 割がパ
ウチャー無しでは子どもが公立学校に戻らざるを得ないと断言している。
センターが実施したパウチャー受給と非受給生徒の比較を目的とした学力テストでは.パウチヤ
‑ 103‑
インドにおける「無償義務教育に関する子どもの権利法 (RTE2 ∞ 9 ) J の成立と教育選択の自由 一受給生徒の学習到達度は一般の公立学校生徒よりも高く.同じ学校に通学する非受給生徒と同等 以上との結果が報告されている 1 0 ) 。
この評価報告は.たった 2 年のパウチャ一実施に関するもので.慎重に分析検討しなければなら ないが,いずれにしても市民の関心の高さ.受益者の満足度,生徒の学力達成への一定の効果は検 証されたと言えるだろう。すでに, 2 0 0 6 年の憲法改正では.第 1 5 条第 5 項に.社会的弱者層の私 立学校入学に際し州の配慮規定が求められ 1 , ) 1 RTE 法の制定と軌をーにして同計画の実施と検証 が行われたことは極めて戦略的である。授業料を政府が負担する.私立学校の授業料無償枠 25%
割当てに対する国民的支持の傍証ともなる。インド政府は学校教育による基礎教育の徹底.教育の 質の向上,そして国民統合の全てを達成しようと企図している。一方で.授業料以外の諸費用の徴 収が禁止されて.独立系私立学校の財政運営に変革を余儀なくされることは必須の上, 1 1 4 以上の 授業料無償枠の生徒が入学すれば校風や伝統の維持が困難になることも懸念され.私立学校関係者 の反発は大きいようである 1 2 ) 。
3 . ホームスクーリングを認める現行制度
義 務 教 育 を は じ め 学 校 教 育 制 度 の 整 備 が 不 十 分 ゆ え に . 人 材 開 発 省 ( M i n i s t r yo f Human R e s o u r c e D e v e l o p m e n t : MHRD) や州の各種委員会が実施する中等教育修了試験 ( S e c o n d a r y S c h o o l E x a m i n a t i o n ) や上級中等教育修了試験 ( H i g h e rS e c o n d a r y E x a m i n a t i o n , S e n i o r S e c o n d a r y C e r t i f i c a t e E x a m i n a t i o n )の受験資格に.学校教育の修了や在籍証明が不必要である場合(i r r e g u l a r c a n d i d a t e , p r i v a t e c a n d i d a t e ) が認められている 1 3 ) ロ家庭での教育だけでも.これらの試験に合格 すれば大学への進学が可能になる。こうして各種中等教育修了資格試験は ホームスクーリングを 制度として認めてきたといってよい。
( 1 ) 中央中等教育委員会 ( C e n t r a lBoard o f S e c o n d a r y E d u c a t i o n : CBSE) の全インド中等学校 試験 ( A l lI n d i a S e c o n d a r y S c h o o l E x a m i n a t i o n : AISSE)他受験資格
中 央 中 等 教 育 委 員 会 の 実 施 す る デ リ ー 中 等 学 校 修 了 資 格 試 験 ( D e l h iSecondary S c h o o l E x a m i n a t i o n 第 1 0 学年)の受験資格は,所定の学校教育を受けた正規の受験者の他,①女子につ いては, a . デリー首都圏 ( N a t i o n a lC a p i t a l T e r r i t o r y o f O e l h i)の正規居住者であり, b . 適切な指 導の下に定められた教育課程を個人で履修し, c . 同教育委員会関連の中等学校に在籍できないか.
非正規の受験者として試験を受けなければならない他の理由がある場合に受験が認められる。また.
②障害を持つ者については.実技の訓練や試験を含まない教科において正規の教育機関に通学する のが困難であると認めるに十分な事実がある場合には受験が可能である。
デリー上級中等学校修了資格試験 ( O e l h iS e n i o r S c h o o l C e r t i f i c a t e E x a m i n a t i o n 第 1 2 学年)では.
同様に①女子には.上述の a ‑ c( c は「中等学校」→「上級中等学校」に読替え)の条件を満たす他.
同試験の 2 年以上前にデリー中等学校修了試験または同等の試験を合格している場合に受験が認め られる。また.②障害をもっ者についても. b ‑ c の条件を満たした上.学習の目的を達成するため
‑ 104‑
正規の教育機関に通学するには困難な障害を有すると認められた場合に受験が可能である。 2 0 1 2 年現在全インド中等教育学校修了資格試験 ( A l l I n d i a S e c o n d a r y S c h o o l E x a m i n a t i o n 第 1 0 学 年).上級中等教育学校修了試験 ( A l ll n d i a S e n i o r S c h o o l C e r t i f i c a t e E x a m i n a t i o n 第 1 2 学年)の 受験資格に,非就学者への言及はない 1 4
(2 ) 国立オープンスクール研究所 ( N a t i o n a ll n s t i t u t e o f Open S c h o o l i n g : NIOS) の各種教育プ ログラムと修了資格
国立オープンスクール研究所(旧国立オープンスクール)は.人材開発省が管轄する遠隔教育委 員会でもあるが. CBCE と同じく.中等教育や上級中等教育修了試験を実施する機関でもある。
①オープン基礎教育プログラム (OpenB a s i c E d u c a t i o n Programme: OBEP) は. 6 歳以上の非 就学者,学校教育非修了者を対象とし. A ( 第 1 ‑ 3 学年相当). B ( 第 4 ‑ 5 学年相当). C ( 第 6 ‑ 8
学年相当)レベルに段階分けされた各地認可機関でのノンフォーマル(非正規)の教育を認め.
また通信制の教育課程を提供し各々修了資格を発行している。このプログラムに在籍し修了す ることで.義務教育の修了が証明される。これまで.いわゆるホームスクーリングを実質的に支 えてきた制度と言えよう。
②中等教育コース ( S e c o n d a r yC o u r s e ) による第 9 ‑ 1 0 学年相当の教育についても同様で.修了試 験による中等教育学校修了資格を発行している。
③上級中等教育コース ( S e n i o rS e c o n d a r y C o u r s e ) による第 l
ト1 2 学年相当の教育について同様に.
修了試験による上級中等教育学校修了資格を発行している!日。
(3) 各州中等教育委員会実施の中等学校・上級中等学校修了試験等の受験資格
2 0 1 2 年現在で調査した限りでは.上級学校への進学を認める州学力試験の受験資格に,下級学 校の修学証明が必要のない州は多い。例えば.以下が事例として挙げられる。
①アンドラ・プラーデイシュ州の中等学校修了試験受験資格が. 1 4 歳以上であること
16JO②オリッサ州の中等学校修了試験受験資格が.州教育委員会の認める通信教育で第 9 .1 0 学年の修 学済みであること
1710③ゴア州の中等学校修了試験受験資格は.州民かっ 1 7 歳以上であること。上級中等学校修了試験 受験資格は.州民かっ 1 9 歳以上であること
18JO④ヒマーチャル・プラーデイシュ州の第 8 学年修了試験受験資格は. 1 2 歳以上であること。中等 学校修了試験受験資格は.前述の試験合格かつ 1 5 歳以上であること。上級中等学校了試験受験 資格は.同様に前述の試験合格かっ州民で‑あること
1910⑤タミル・ナードゥ州の中等学校修了試験受験資格は.第 8 学年標準試験(英語によるもの)を合 格し. 1 2 歳半以上であること
:!()IO‑ 1 0 5 一
インドにおける「無償義務教育に附する子どもの権利法
( RTE2 ∞ 9 ) J
の成立と教育選択の自由 図. インドの学校教育制度. ゥモ‑思想較iiIO許 可
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ト1 2 8
を参考に作成。4. r 無償義務教育に関する子どもの権利法 j 施行後のホームスク ー リングに対する政 府見解
( 1 )シュレヤ
・サハイの訴訟と人材開発省の初期対応2 0 1 0
年に.デリー在住で1 2
歳になるシュレヤ・
サハイ( S h r e yaSaha i )
の保護者で父親のサン ディープ・
スリパスタパ( Sande e p S r i v a s t a v a )
が.RTE i
去は「間際人権規約」に認められた税 の権利を侵害している.そして憲法条項(基本権 第1 4 .1 9 . 2 1 . 2 1 A . 2 5 . 2 6 . 2 8 . 2 9 . 3 0
条)に抵触 しているゆえ.ホームスクーリングを合法化(accommodate)
するよう同法を修正する必要があ ると.代理人弁護士( A d o v o c a l e )
のソムナス ・パーティ(SomnathB h a r t i )
を通じて.デリー高 等放判所( D e l h iH i gh Cou r t )
に訴えた。シレヤは目ホームスクーリグが好ま しいと考えていた保 護者の下で.もっと音楽や美術に時間を費やしたい.N I OS
を利用しようと 第8
学年の修了試験 に受験申し込みをしたが拒否された。そこで父親からの訴訟となったわけである。
同年4月 1 3
日 に同裁判所は訴えを梨却したが.18 週間以内に.保護者は人材開発行に際的 {~y. を提出するよう J 指示.同省のホームスクーリングへの立場を問うよう示唆した( W . P .( C ) # 1 7 4 4 / 2 0 1 0 Sh r eya Saha i & Ol h e r s v s . U n i on o f I n d i a & O t h e r s )
。保説者は6
月9日に提出している2 1 。
これに対し.当時の人材開発相の
K a p i lS i b a l
(在任2 0 0 9
年5
月31
日一2 0 1 2
年1 0
月2 8
日)は‑ 106‑
同年
9
月7
日にT i m e so f l n d i a
紙に対して,同法がホームスクーリングを禁じたものではなく,i
家 庭が就学させない判断をした場合.政府はこれに干渉するつもりはないJ
と正式に見解を示した恥。ちなみに,同年
4
月1 0
日に.人材開発省はNIOS
に対し,6 ‑ 1 4
歳を対象にした基礎教育プログラ ム( O B E P )
を4
月1
日から3
年間に限って継続する旨を通達していた加。2 0
日年にシュレヤ・サハイは.今度は母親を通じて 再びパーティ弁護士を代理人に訴状を提 出し( W . P .( C ) # 8 8 7 0 / 2 0 1 1 S h r e y a S a h a i & O t h e r s v s . U n i o n o f I n d i a & O t h e r s )
,RTE
法は才能 や能力のある生徒が学校教育から離脱する権利を認めず 正規の学校教育以外の教育形態を許容し ていないと糾弾した。「自分たちの初等教育の方法を選択する権利が,RTE
法により正規の学校教 育のみに制限され侵害されていると恐怖を感じているか1 4
歳の全ての子どもたちとその保護者の 利 益J
が強調された。訴状は.子どもたちの基本的人権を侵害しているRTE
法の条項を裁判所が 無効にするよう求めている。さらに.ホームスクーリング及びオルタナティヴスクール等を.同法第 2
条( P )
に規定される国立の特別な諸学校のように「特定の区分( s p e c i f i e dc a t e g o r y ) J
とし て包含し,NIOS
の継続を認めるよう要請していた2 4 )
。2 0 1 2
年7
月1 6
日 に デ リ ー 高 等 裁 判 所 に 提 出 さ れ た . こ の 訴 状 に 対 す る 政 府 の 宣 誓 供 述 書( a f f i d a v i t )
は,ホームスクーリング支持者にとっては朗報となった。7
頁にわたる人材開発省の 学校教育局( D e p . t o f S c h o o l a n d L i t e r a c y )
の陳述には,RTE
法はホームスクーリングを違法 とするものではないことが明記されていた。ホームスクーリングを学校教育の代替と認めること.及 び
RTE
法によりホームスクーリングは違法であるとの主張に関しては,RTE
法が求めるのは6 ‑ 1 4
歳の子どもたちに近隣の学校で無償義務教育を受ける権利を提供することと述べられなけれ ばならないとする。RTE
法はまた国公立以外の学校にも一定の責任を課している。RTE
法は子ど もの権利に配慮、し.子どもが近隣の学校に通学するのを強制するものではないと明らかにすべきで あるo
事実.同法の下では,当該年齢のすべての子ども逮に無償義務教育を提供することが.政府 等に強制されている。それゆえ.強制は子どもではなく政府に課せられている。2 0 1 1
年1 0
月1
日 付けの同省からM i c h a e lP . D o n n e l l y
宛ての手紙にも,i
自らの意思でホームスクーリングや同様の 代替方法を選択する保護者は それを継続してもよい。RTE
法は代替の教育方法の行く手を塞ぐ ものではなく.そのような教育形態を違法と断言するものではないJ
旨示したことが言及されてい た251。
また,
NIOS
による6 ‑ 1 4
歳対象の基礎教育プログラムは2 0 1 3
年3
月までとされていたが.人 材開発省が設置した委員会は延長を認め,3
,5
,8
学年修了試験を含み2 0
日 年3
月までにすると発 表された2610(2 )人材開発省の方針転換
ところが.この後.政府の姿勢は反転する。国立教育行政大学
( N a t i o n a lU n i v e r s i t y o f E d u c a t i o n P l a n n i n g a n d A d m i n i s t r a t i o n : NUEPA)
のジャンデイヤラ・テイラク(Ja n d h y a l a T i l a k )
教授は.1 0
月1 3
日付けE c o n o m i ca n d P o l i t i c a l W e e k l y
に.ホームスクーリングへの反対意見を表明して‑ 1 0 7 一
インドにおける「無償義務教育に関する子どもの権利法 ( R T E2 ∞ 9 ) J の成立と教育選択の自由 いた。「義務教育の場合,個々の選択は適切ではない。子ども達は認可された学校にのみ行かなけ ればならず.オルタナティヴスクールにではない J と主張した 2 i ) 。
2 0 1 2 年 1 0 月 1 7 日での法廷陳述で 裁判所が任命した訴訟参加人弁護士アショク・アグラワル ( A s h o k A g r a w a l ) は.こういった議論を踏まえ,シレヤの事件での政府の見解も原告のホームス クーリング支持の立場にも反対したのである。アグラワルは. r 前回のホームデュケーションに対 する見解は誤りで RTE 法の第 1 0 条に反する J とデリー高等裁判所の審理法廷 ( d i v i s i o nb e n c h ) で申し立て. r ホームスクーリングないし代替の学校教育を要求する原告側と. 7 月 1 6 日付けの反 対陳述を通じてこのような請求を支持したインド政府の立場は. RTE 法の言葉と精神と意図の.
不用意極まりない誤った解釈に基づいている J と陳述の中で意見を述べた。そして.保護者の親権 は国家の権利の下位に置かれるのであって. RTE 法がホームスクーリングを認めるという解釈は.
NGO 団体が運営するような標準以下の学校の激増を招いてしまうと主張したお ) 0 2 0 1 2 年 1 2 月 1 9 日に.高等裁判所はインド政府に.反対陳述を求める命令を発したが,提出はないまま期限の 3
ヶ月が過ぎた。
こうしてインド政府は.それまでの暖味な立場を翻し.ホームスクーリングを認めない姿勢を圏 内に示した。 2 0 1 3 年 1 月 2 4 日に.裁判所が RTE 法の修正を政府に命じることを拒否し.最終的 にはこの訴訟は却下された。デリー高等裁判所は. r 当法廷が政府に対して. RTE 法…の修正命令 を発する法的根拠はない。いかなる法律あるいは同法のいかなる条項を修正するのも.それは政府 と議会の権限である jとの判決を下し勧 それ以上の司法府の関与を避けた。
この訴訟と前後して . R T E 法の改正が進められ . 2 0 1 2 年 6 月 1 9 日に,第 3 条の「障害をもっ生徒 J
( a c h i l d w i t h d i s a b i l i t i e s ) について.特に複数の障害を抱える者 ( m u l t i p l e d i s a b i l i t i e s ) や障害 が重い者 ( s e v e r ed i s a b i l i t i e s ) には. r 家庭での教育を選択する権利もまた有する (maya l s o h a v e t h e r i g h t t o o p t f o r h o m e ‑ b a s e d e d u c a t i o n ) J という文言が加わった 3 0 ) 。この改正は.極めて限定 的ながらホームスクーリングが認められたとも,学校教育では支援が困難な障害者を家庭に押し付 けたままにするのを追認したとも捉えられる。
おわりに
以上,インドのホームスクーリングについては. RTE 法施行下でも.当初は教育行政担当閣僚 の肯定的なコメントで制度的に許容されるかと思われたのだが.実際のインド政府の政策は無償義 務教育の徹底した就学義務化にシフトしている o そして.初等中等教育学校の全学年を通じた学力 評価手続きを全国共通のフレームワークで浸透させ.従来の各種委員会実施の修了資格試験に替え ようとしている 3110 国家レベルの教育改革の優先課題が,社会的弱者層の包摂と国民統合.学校 教育の質向上であることは.エリート層の子女が通学する独立系私立学校のいわばクォータ制の導 入でも明確である。 RTE 法による就学義務制度が整う中で.全国の特殊な才能や資質を有する子ど も遠の指導や教育は,国立の英才教育機関であるナヴオダヤ・ヴイドヤラヤ(J awaharNavodaya V i d y a l a y a ) 以外ではどのように保障されていくのか。
‑ 1 0 8
ー今後の課題として SSA をはじめとする既存の教育政策から RTE 法に基づく制度への事業移管 や予算移譲の手続き状況を整理しつつ.インドの義務教育制度改革の下で進行していると恩われる 教育選択の自由の変容を構造化したい。
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