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小学校教師の児童に対する指導意識について

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

小学校教師の児童に対する指導意識について

著者 藤田 正

雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要

巻 36

ページ 87‑91

発行年 2000‑03‑01

その他のタイトル Teaching belief of elementary school teacher's to their pupils

URL http://hdl.handle.net/10105/7054

(2)

小学校教師の児童に対する指導意識について串

藤田  正}

(心理学教室)

要旨:経験年数10年以上の公立小学校教師155名を対象に、低学年児童と 高学年児童に対する指導意識を①子どもの自発性尊重主義対外発性尊重主 義、②自己統制尊重主義対子ども教化主義、③子どもの仲間関係自発性尊 重主義対教師の配慮主義の3つの領域について評定させた。その結果、ど の領域においても、ほぼ低学年の児童に対しては教え込みを重視する指導 意識を持ち・高学年の児童に対しては子ども自身の自発性や自己統制感を 重視する指導意識を持っていることが明らかになった。

キーワード:児童に対する指導意識、自発性尊重、外発性重視

 教育観には、伝統的に両極ともいえる2つの考え方がある。それらは、教師主導型と児童中心 型である。教師主導型の教育観は、従来から強く存在していた教育観であり、「望ましい人間に 育てたい」という方向に引っ張って行く立場である。児童中心型の教育観は、教師が子どもの思 い、やりたい気持ちを大切にして、それを育てていく、伸ばしていく教育観であり、「子どもが やりたいと思っていることを、支える、支援する、援助する」という立場である。

 最近の教育改革では、子ども自身の自己教育力の育成をはじめとして、子どもの自発性、自主 性など、子どもが主体的に活動を起こし、自己の活動に責任を持ち、自己の行動を制御できるよ

うになることが重要視されるようになってきた (制11.1998;北尾,1986)。このような動向の 中で、教師はどのような信念を持って子どもへ関わっているのだろうか。

 教育活動の中で、教師の子どもへの関わり方を先に述べた教育観と対応させてみると次のよう になる。ひとつは、児童中心型の教育観に基づくもので、 子どもというものは、好奇心が強く て自発的にいろいろと学んでいくものだ という子どもの自主性、自発性を尊重した関わり方を 重視する『自発性重視』の立場である。もうひとつは、教師主導型の教育観に基づくもので、

子どもというものは、外からいろいろ刺激を与えないと学んでいこうとはしないものだ とい う働きかけ、教え込みを重視する『外発性重視」の立場である。いずれの立場を取るかは、教師 自身の指導観・子どもの発達状況、能力、学習意欲・指導の内容によって異なってく乱  藤田(1998)は、教師の子どもへの関わり方の信念や指導観の違いがどのような要因によって 影響を受けるのかに関心があったので、その点について検討してきた(藤田,1998)。調査は、

直接現職の教師に実施したものではなく、将来教師になることを目指す教員養成大学の学生を対 象にして行われた。子どもへの指導の信念や態度は、大学での教職教養科目や教職専門科目など の講義や、教育実習の経験を通して形成されるのは言うまでもないことであるが、一部には、生 育歴の中で自分の親から受けてきた厳格・干渉などの養育態度により影響を受ける可能性が予想 されたので、その点を検討した。指導の信念に関しては、領域I[子どもの自発性尊重主義対

Teaching be1ief of eエementary schoo1teacher s to their pupi1s

−Tadashi FUJITA(Dξραれ肌e〃。ゾPsツ。ん。王。gツ,Mαrαση三リers北ツ。!亙ぬ。α鏡。η,Nαrα)

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 外発性重視主義]、領域■[自己統制尊重主義 対 子ども教化主義コ、領域皿[子どもの仲間 関係自発性尊重主義 対 教師の配慮重視主義コの3つの領域について評定してもらった。

 調査の結果を要約すると、親の養育態度が厳格であったと意識している学生程(研究1)、ま た干渉的であったと意識している学生程(研究2)、子どもに接する場合に教え込みを重視する 立場が強い。それに対して親の養育態度が、厳格過きず(研究1)、あまり干渉もされないで育っ てきた学生程(研究2)、子どもの自主性・自発性を重視する自発性重視の立場を取る傾向が強 いことが明らかになった。

 これまでにも教師の指導行動・態度に関して梶山地(1985.1986)は、一連の研究において教 師の指導行動の背後にあってそれをコントロールしている、指導に対する教師個人のパーソナル な信念「個人レベルの指導論(PersonaユTeaching Theory)」という概念を用いて研究してきて いる(梶山地,1985.1986,中野,!990)。教師は日常自分に最もぴったりすると思われる方法 で日頃指導している。同時に、教科の得意・不得意、やる気の有る無しなど、そのときどきの生 徒側の状況に応じてやり方も変化させていることも明らかにされている(中野,1990)。

 中野(1990)の結果では、ある教科に対して得意な感じを持っている生徒、やる気のある生徒 に対しては、基本的には学習者のぺ一スで、自分の能力に合った学習をするように指導すると考 えており、家庭での学習についても教師が読む本などを指示をする必要がないと考えている。そ れに対して、不得意な生徒に対しては生徒任せの指導や一斉指導などに対しては反対の態度を取 り、それぞれの学力の水準に合わせて個別に、しかも教師が主導的に指導する必要性を感じてい る。また、やる気のない生徒に対しては、教材を使って、一斉的に、教師が主導的に指導するこ とが必要であり、家庭学習においても、内容について細かく指示を与えた方がよいと考えている。

さらに、小学校の教師と中学校の教師においても教科の得意な生徒ややる気のある生徒の場合に は、生徒の積極的な活動を認める指導観を持っているが、教科の不得意な生徒ややる気のない生 徒に対しては、積極的に指導し、指示する必要があると考えているという結果がみられた。

 本研究は、先に藤田(1998)で行ってきた研究を発展させるために、現職の小学校教師が教育 活動の中で、低学年と高学年の児童への関わり方において、子どもの自主性、自発性を重視した 関わり方をするか、子どもへの教え込みを重視した関わり方をするかの指導観・信念を明らかに するために意識調査を行うことを目的として行われた。

方  法

 調査対象 調査対象は、平成8年度認定講習「教育心理学」を受講者したN県内の公立の小学 校に勤務している教師155名(男子83名、女子72名)であっれ

 調査内容 手どもへの関わり方についての調査 松田ら(1989)の「子育てに関する信念体系 尺度」の中から、3領域に関する!3項目を使用した。領域Iは、[子どもの自発性尊重主義 対  外発性重視主義]について、[子どもというものは、好奇心が強くて自発的に色々学んでいく

ものだ一子どもというものは、外から色々刺激を与えないと、学んでいこうとはしないもの だ]のような内容の5項目で構成されていた。

 領域皿は、[自己統制尊重主義 対 子ども教化主義コについて[子どもは、自分なりに適切 な方向をみつけて成長していくものだ   子ともは、うまく方向づけをしていかないと、なか なか成長していかないものだコのような5項目で構成されていた。

 領域㎜は、[子どもの仲間関係自発性尊重主義 対 教師の配慮重視主義]について[子ども

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は、自然に友達を作って、うまく遊ぶものだ一子どもが、うまく友達と付き合うためには、

教師の配慮が必要だ。コのような内容の3項目で構成されていた。評定する項目は、それぞれの 領域の例に示したように、対になっている内容について、「どちらでもない」を中心に「全くそ の通りだ」を両端にして5件法で回答するようになっている。使用した項目は、図1に示す通り

である。

 これらの項目について低学年の児童と高学年の児童の場合にそれぞれ どのような関わり方を するか について回答させた。得点は高い値ほど子どもの自発性や自己統制を尊重する傾向が強 いことを表している。

 手続き 大学で行われた教員免許法認定講習での講義時間を利用して実施した。調査は、最初 に低学年の児童への接し方について、調査者がそれぞれの項目を読み上げて、一斉に回答させた。

続いて、高学年児童への接し方について回答させた。回答の仕方については、調査の冒頭の部分 に述べてある説明文を用いて説明した。

結果と考察

 図1は、領域ごとに各項目について、低学年の児童と高学年の児童への接し方意識得点の平均 値をプロフィールにしたものである。それぞれの領域で項目ごとに両群の得点についてt検定を

行った。

 その結果、領域Iでは、項目1で低学年が高学年に比べて有意に得点が高かった(亡(154)=

3.49,ρ〈.001)。また、項目4(亡(154)=3.71,ρ<.001)と、項目5(亡(154)=7.20,ρ〈.001)

で高学年が低学年に比べて得点が高かった。

 このように領域I(子どもの自発性尊重主義VS外発性重視主義)では、高学年に対しては評 定の仕方に大きな変化が見られなかったが、低学年に対しては好奇心が強くて自発的に色々学ん でいくので子どもの自発性を重視する一方で、子どもは放っておかれると無駄なことをして時間 をつぶすとか、自然にまかせておくとどうしてもだらしない生活を過ごしてしまうという意識を

もっている。

 相対的に見ると、教師は高学年の児童に対しては、より自発性を尊重する傾向がみられた。し かし、項目1においてのみ、領域Iの全体的な評定傾向とは逆に、低学年の児童に対しての方が、

高学年の児童に対してよりも子どもの自発性を重視した捉え方をしている。この点に関しては、

低学年の児童の方が好奇心が旺盛で、外から刺激を与えなくても、自発的にいろいろと興味を示 すことによるものと思われる。

 また、領域1Iでは、すべての項目で高学年が低学年に比べて有意に得点が高かった(項目1 亡(154)・=7.20,ρく.001;項目2 亡(154)=5.90,ρ<.001;項目3 ε(154)=5.56,ρ<.001…

項目4 亡(154):7.28,ρ〈.001;項目5 亡(154)=7.78,ρ〈.001)。

 領域11(自己統制尊重主義VS子ども教化主義)では、全体として、低学年の児童に対しては、

高学年の児童に対してよりも教え込みが必要であると考える傾向がある。それに対して、高学年 の児童に対しては、教師が方向づけをする必要がなく、子ども自身に任せる傾向がある。しかし、

項目別にみると、項目4の ものの正しさ、善し悪し などや、項目5の しっけ については、

他項目に比べて、低学年の児童に対しても、高学年の児童に対しても、  教師が子どもに教えて やらなければいけない 考える傾向がある。

 しかし、領域皿では、項目1でのみ、低学年が高学年に比べて有意に得点が高かった(亡(154)

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      全       く       そ       の       通       り       だ

I子どもの自発性算重主義VS外発性重視主義

・子どもというものは、好奇心が強くて自 発的に色々学んでいくものだ。

・子どもは放っておかれると自分からすす んで活動するものだ。

・子どもは、自由にさせておくと、なにか 独創的なことをしているものだ。

・子どもは放っておかれると、かえって自 分なりに工夫して、勉強していくものれ

・自然に任せていても、子ども自身が、自 分の生活を良くするために努力するもの

だ。

ち ら

も な

㌧、

の 通

低学年 高学年

・子どもというものは、外から色々刺激を 与えないと、学んでいこうとはしないも のだ。

・子どもは、放っておかれると何もしない  ものだ。

・子どもは自由に任せておくと、あまり意 義のあることはしないものだ。

・子どもは放っておかれると・無駄なこと をして時間をつぶしているものだ。

・自然にまかせておくと、子どもはどうし てもだらしない生活を過ごすことになる。

1I自己統制算重主義VS子どもの教化主義

・子どもは、自分なりに適切な方向をみっ  けて成長していくものだ。

・子どもは教師の目がなくても、やるべき  ことはきちんとやっていくものだ。

・子どもはうまく方向づけをしないと、な かなか成長していかないものだ。

・物事の正しさ、善し悪しなどはとくに教 えてやらなくても、子どもなりに身につ けていく。

・特にしっけに気を配らなくても子どもな りに地域や学校できちんと生活できるも のだ。

・子どもは、信頼して任せておけば、とく に悪いことや困ることをしないものだ。

・子どもは、教師がきちんと見てないと、

するべきこともしないものだ。

・子どもというのは正しいことを教えてや  らなければ・良くないことをしてしまう  ものだ。

・しっかりしたしっけをしておかないと、

子どもは地域や学校できちんとした生活 ができないものだ。

・子どもはしっかり目を配っていないと、

なにか良くないことをしてしまいがちだ。

皿子どもの仲間関係自発性尊重主義VS教師の配慮重視主義

・子どもは、自然に友達を作ってうまく遊         ・子どもは、うまく友達と付き合うために ぷものだ。      は、教師の配慮が必要だ。

・子どもは自分で工夫して、友達とうまく         ・友達とうまく遊んでいくには、教師が十  付き合っていくものだ。       分に気を配ってやる必要がある。

・子どもは、教師が手を出さなくても上手      ・子どもの仲間関係がうまくいくためには、

 に友達を作って遊ぶものだ。       教師が条件を整えてやらないといけない。

        図1 領域別の項目ごとの接し方意識得点の平均値のプロフィール

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=3.56,ρ<.001)。

 領域㎜(子どもの仲間関係自発性尊重主義VS教師の配慮重視主義)では、どちらかといえば、

低学年の場合も、高学年の場合も、共に、子どもが仲間関係をうまく作っていくには、教師が子 どもの自発性を尊重した方がよいと考えている傾向がある。しかし、項目1においては、低学年 の児童に比べて高学年の児童に対しての方が、教師の配慮が必要であると考える傾向が強い。こ れは、高学年になると子ども同士の人間関係が複雑になってくることを考慮した上での半日断と考 えられる。

 以上の結果から、小学校教師は、全体的に低学年の児童に対しては、教え込みや強い働きかけ をすることを重視し、高学年の児童に対しては、より自発性や自己統制を重視した接し方の意識 を持っていることが明らかになった。このような見方は、教師のもつ一般的な見方であると思わ れるが、さらに中野(1990)の研究でみられたように、教師は教科の得意な生徒ややる気のある 生徒に対しては、基本的には学習者のぺ一スで、自分の能力に合った学習をするように指導する こと、また家庭学習に対しても読む本などを指示することの必要性がないと考えている。それに 対して、教科に不得意がある生徒ややる気のない生徒に対しては、教師が主導的に指導し、細か

く指示を与えることが必要であると考えてい孔

 以上の結果を参考に、子どもへの接し方を考えた場合、子どもの側の要因(教科の得意・不得 意、やる気の有無)の他、一人一人の個性、想い、能力などの要因を十分に考慮することによっ て2つの指導のタイプを柔軟に教師が使い分けていくことが、子どもの可能性を引き出したり、

新たな知識や技能を学習させていくために重要な課題となる。

 教師のもつ子どもへの接し芳信念は、さまざまな要因により形成されるが、藤田(1998)の結 果が示すように自分が受けてきた厳格、干渉といった親からの養育のされ方がそのまま子どもの 見方、接し方を方向づける可能性がある。教員養成に携わるものとしては、この点を再認識して、

教職についた場合に柔軟な姿勢でもって子どもへの教育的関わりが行えるような資質を習得させ るように導くことが大切であると考えている。

引 用 文 献

藤田 正 1998教師としての子どもへの関わり方に影響する親の養育態度 奈良教育大学教育   研究所紀要,34,137−146.

市川伸一 1998開かれた学びへの出発一21世紀の学校の役割一子どもの発達と教育6、

 金子書房、東京.

梶田正巳 1986授業を支える学習指導論一PLATT一金子書房、東京.

梶田正巳・石田勢津子・宇田光 1985「個人レベルの指導論(Persona1Learningand Teachi㎎

 Theory)」の探究 一提案と適用研究一 名古屋大学教育学部紀要一教育心理学科一

 3ユ, 51−93.

北尾倫彦 1986 自己教育力を育てる先生 図書文化、東京.

松田握・鈴木眞雄・富永健司 1989親の子育てについての信念体系の検討 一子どもの効力  感との関連から一 愛知教育大学研究報告,38,113−132.

中野靖彦 1990教師の指導観に関する研究 愛知教育大学研究報告,39,83−94.

[謝辞] データの分析にあたっては、黒田朋子、佐野香南子、松久修、森 陽子の皆さんの協

力を得た。ここに記して厚くお礼申し上げます。

参照

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