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龍谷大學論集 473 - 004藤本 忠「経路積分と時間表示の関係について : 積分表示からみた量子物理学的時間論」

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(1)

経路積分と時間表示の関係について

一 一 積 分 表 示 か ら み た 量 子 物 理 的 時 間 論 一 一

概 要

Abstract

"A relation between a representation of Path Integral and Time" In this paper. 1 consider a philosophical and physical interpretation of a relationship betweenPath Integral and Time. On Quantum Mecha-nics. a rigid quantization is based on canonical quantization. so various representations concerning quantization-for ex:ample. Integral kernel. Green function. or Path lntegral-basically give us same information about evol司

ution of a state function_ However. the representation based on Path Integral endows us a interesting perspective which guides us Time. Path Integral connotes a viewpoint of Time and an average of total Time with evolution of a state function on a品目itespace.

1

は じ め に 本論は,量子物理学,特に有限自由度の量子物理系(量子力学〉における量 子化の表示の問題を考慮、に入れた経路積分表示と時間の問題について解釈を加 えることを目的としている。 物理学の一般的な教科書を参照すると, 量子化の方法として「正準交換関 係J.

r

正準反交換関係」という代数的関係と等価な方法として

R

.

フ ァ イ ン (2) マンの創始による「経路積分」が取り上げられていることが多い (8J。しか し本論においては,経路積分を正準量子化と対等の量子化とみる見方はとら ない。むしろ経路積分の方法は,数学的に厳密な観点からすれば,正準交換関 (1)無限自由度の量子系は

r

場の量子論」において扱われる。 (2) ( 8 ). 56ベージでは

r

場の量子論の最も正統的で厳密な方法は,…正準量子化で ある。しかし,経路積分を用いた量子化』土,場の量子論では対称性を明確にするなど の点で大変有用である。」と論じられている。 48 経路積分と時間表示の関係について(藤本)

(2)

係による量子化を経た後の状態関数の時開発展を表示する一つの方法に過ぎ ず, それは, 他の表示, 例えば本論で扱うプロパゲーター (Green関数〉の 積分核表示と同等の立場に立つ表示にすぎない。物理学においては,経路積分 はラグランジアンを指数の肩に乗せて計算を行うため,物理量の対称性を議論 する場合や, 対称性の破れ, アノマリーを計算する場合に有効である [9, 13J。だが,そうした有効性とは裏腹に,数学的な基礎付けは, 極めて特殊な 場合を除いて出来ていない[5, 11J。一方,積分核表示においては, 数学的 な基礎付けは経路積分に比べればずっとよく行われている。しかし相互作用 の入った物理系においては,計算が複雑なため,経路積分に比べてあまり多く の計算がなされてはいないようである([17,18Jなどは最近の結果である〉。 このように,状態関数の表示の仕方には,一長一短がある。 次節で,正準量子化と経路積分表示,積分核表示を整理し,後者の二つの表 示の関係を考える。その後の節では,時間パラメータと経路積分の関係を,時 間の作用素の解釈とともに議論する。

2

量 子 化 の 方 法 と 状 態 関 数 の 表 示 無用な混乱を避けるため,本論においては,そデルとなる量子力学系のハミ ルトニアンとして,非相対論的量子系を扱うシュレディンガ一作用素に限定 し,一体(一粒子〉の一次元空間上の運動のモテソレについてのみ議論する。ま た以下でみるように,正準交換関係については,シュレディンガー表現に限定 する。 正準交換関係とは, 二つの自己共役作用素を

Q

,Pとするとき, すべての ゆεD(QP)nD(PQ)に対して,以下が満たされることをいう。 [Q,PJo=(QP)

(PQ)

=iA=iE

[Q

QJゆ=O=[P

P]ゆ 以下,自然単位系を用いて

λ=1

とする。えはプランク定数hを2πで割っ (3) ( 4

J

, 481~483ベージ,参照のこと。 (4) まず, Tが対称作用素とは, D(・〉を対象となる作用素の定義域とし,D(T)が 調密で,すべての

ψ

r

p

E

D(T)に対して ,(T

ψ

,ゆ〉巴

ψ

(

,Tゆ〉が成立することで ある。言い換えれば ,TcT*。 ここで,T*は Tの共役である。 Tが自己共役作用 素になるのは,D(T)=D(T*), T=T*が成立する場合である。観測量が自己共役 作用素によって記述されることは,フォン・ノイマンによって初めて正確に規定され た。 穣 谷 大 学 論 集 -49ー

(3)

7

こ定数て、ある。この関係式が正準交換関係といわれる。 [Q,

PJ=i;

今, 位置 作用素と運動量作用素の正準交換関係を考える。 ここで

Q

,Pが, シュレデ ィンガー表現であるとは, 二つの共役物理量を表す作用素が,

Q.=M

", かつ

P.=-iD

と表される場合をいう(以下,

Q

P

の下に付けた添え字sは,上 記の一般の作用素表示

Q

P

と区別しそれらがシュレディンガー表現である ことを明確化するために使う。〉。ここで

M

",は関数xによる掛け算作用素であ り ,

D

は一般化された(超関数の意味での徴分も含む〉偏徴分作用素である。 ハミノレトニアン

H

がポテンシャル

V

をもっ場合, ポテンシャルが掛け算作用 素 Q の一つの表現として定義される。 次に,況をヒルベルト空間とし,今f{

=V(R)

とする。 Vは,二乗可積分 の関数の全体(同値類[ルペーグ測度に関してJ)をさす。 モデルとなるハミルトニアンは,以下である。

H =

+

V,

D(H)cV(R)

ω

量子系の観測量は

V(R)

上の自己共役作用素によって表されるが, 有界作 用素とは限らない。

P

.

は運動量作用素(シュレディンガー表現による)0

m

は 質量。

V

は外的ポテンシャル。 V=Oの場合, (1)の

H

を自由ハミルトニアンと いし、Hoで表す。以下ヒルベルト空間の内積を(,)で表す。 V が実関数で下 に有界,無限回徴分可能な滑らかな関数であれば適当な空間の上ではHは自己 共役作用素になる。本論では,自由ハミルトニアン

H

。を考える。 さて,こうした自己共役ハミルトニアンが定まると, (1)のシュレディンガー タイプのハミルトニアンHoに対し,次の方程式が定まる。 i

吟 昌 二 九

<t(t,x), <t(to,x)=<t

ω

Hoが作用する状態ベクトノレ。(t,x)は,物理的にはtが時間 xが座標(位 置〉を表す。 Hoは, 系の状態ベクトルの時開発展の生成子の役割も担ってお り,Hoが時間を揚に含まない場合には, U(t, to)=exp( -iHo(t-to)) という 形のユニタリ作用素の形をとる。

ψ

(t,x)の時間発展は次のように記述される。 なお,状態の時開発展の描像はシュレディンガー描像といわれる。

ゆ(t,x) = U(t, to)ゆCto,x) (2)

これは,状態ベクトルの時間tに関する連続的変化を表している。そして, ここに現れた U(t,to)=exp( -iHo(t-to))の ん を 普 通Oと取り直し,U(t, to)<t(x)=exp( -iHo(t-O))<t(x)の表示を与えるのが, 一般にヅロパゲーダ

(4)

ーの積分核表示であり,また,経路積分表示である。これらの表示は,ハミル トニアンの自己共役性が保証されてはじめて意味をもつのであり,経路積分や プロパゲーターは量子化を直接与えるものではなく,あ〈まで時開発展の状態 ベクトルの具体的表示を与えているとみなされるべきである。 では,次に,上のシュレディンガータイプの時開発展の状態ベクトルの表示 として,以下,プロパゲーターの積分核表示と経路積分表示を,証明を省いて 与える。

εD(R)と tER¥Oに対して, L2(R)の収束の意味で,

e-itHoØ(x)=limR_OO(,,_~., ìt~ .__el~hz-yI2ø(y)dy

(3) ¥<:πt 1/ Jlyl三R これが数学的に厳密な意味での状態関数の時開発展を司る自由シュレディン ガーハミルトニアンの積分核表示である。 Green関数表示は, この積分核を 使って, レゾルベントという作用素に関して, ヒルベルト空間における内積を とることによって得られる。物理学の流儀では,上の積分核をもってプロパゲ ーターという場合があるが,数学的には,プロパゲーターそのものが作用する 状態関数をきちんと定義しなければ意味がない。 次に,自由ハミルトニアンの経路積分表示は,この積分核を使用して, トロ vター (Trotter) の公式を使って定義される。 この方法がファインマンがと ったオリジナルな方法である。ファインマンは,さらに, 自由ハミルトニプン と外的ポテンシャルの和が調和振動子の形になるものを使って経路積分を計算 したが (9,13J, この形のハミルトニアンでは, 運動量部分の変数の積分が 実行出来るので,積分の測度が位置の作用素にのみ依存することになる。アイ ディアは至極簡単で, (3)にあらわれる時間のパラメーターをn等分し,同じ形 の積分核の作用素をn倍し, その後で, 形式的にnを無限大に飛ばすのであ る。もちろん,このnの無限大化は形式的なもので,積分とnの極限(ここで (5)経路積分は古典的ラグランジアンの表示のみによっていろいろな計算が出来るとい われている。確かに物理的な形式においてはそういう言い方も正しいであろう (9, 13J。だが,厳密な意味での無限次元測度の存在や積分の収束の問題からいえば,数 学的には殆ど超越的方法であり,量子化を厳密に与えているとは言いがたい (5, 6, 11)

(6)証明は, (3, 7, 11J参照。 (7) (21)0 [Trotterの公式1:A, Bを可分なヒノレベルト空間上の自己共役作用素とす る。

A+B

がD=D(A)nD(B)を定義域とする自己共役作用素のとき,強収束の意 味で, limn→∞(euted〉nzeM叩が成立する。 龍 谷 大 学 論 集 ー 51ー

(5)

の極限は強収束の意味〉を交換出来るためには,空間変数に関わる無限次元の 測度が定義できていなければならない。 E叫 ¥2π仰 /

J

R

・・・

J

R_

.

.

.

.

.

L

2

J

ゆ(xo)dxo・.. dXn-1 (4) ここで,積分の中に含まれる和の部分が nを無限大に飛ばした時に,古典 物理学の意味での作用汎関数に収束するとみなし Sn(Xo,...,Xπ-11 x, t}::::Sg L(x(s), i:(s))dsと考えると,先に述べたように,経路積分は, ラグランジア ン密度

L

を被積分関数とする,無限測度による積分という形になる。 一見して明らかだと思われるが, (3)と(4)は, ともに時間発展の状態関数を記 述している。その限り,同じ情報しか与えていない。また,今の場合, (4)の積 分は,各変数につき積分可能であるので,積分した結果は,形式的には, (3)と 同じになる。むしろ,数学的な定式化からみれば,経路積分は複雑であり,無 限次元測度が存在しないと L、う根本的欠陥があるから, (4)を積極的に使う意味 はなし、。もちろん,物理学の立場から見れば様々な形式的計算が,ラグランジ アンを使うことによって容易になるとL、う長所があり,また,複雑なハミルト ニアンになると,積分核が特殊関数を使わなければ表せず,また,系の相互作 用が入った場合には,積分核があらわに表記できない, とL、う問題もある。そ こで,ここでは,厳密性を多少犠牲にして,経路積分への書き換えによって, 時間についてどのような解釈が可能になるかを考えてみよう。

3

積 分 の 時 間 表 示 と 時 間 平 均 の 明 示 化 (3)と(4)の表示の根本的差異は何か。どこに注目すべきなのか。これは,時間 に対する解釈にある。 (3)では,時間のパラメーター tは,連続スカラー量とし て一気に与えられている。これに対して,仏)では,極限をとる前の時間はn等 分され,そのn等分の時間に対して,個別に粒子の運動と位置に関する積分核 が割りられている。つまり, (4)は,ある一定の時閣における粒子の状態関数が (8) シュレディ γガータイプの経路積分に関しては,実数時間の基本解を与える測度は 存在しない[l1J。 (9)最近になって,相互作用の入った基本的プロパゲーターの積分核が研究されている [17, 18J。 - 52ー経路積分と時間表示の関係について(藤本)

(6)

分割されているのである。時間にのみ着目すれば, [(3)の時問。=[n等分され た(3)の時間のn倍]と言い直すことが出来る。 し か し こ こ で , 実 は n等分という場合の「等分」は不要である。なぜな らs 問題は(3)の時聞が全体の和において(4)においても実現されているかどうか が問題なのであり,時間tが何らかの形で分割されてきえいれば,その分割が 均等であるかどうかは,本質的ではない。もちろん, (4)において使われている トロッターの公式による分割は,均等なn分割によって,指数関数の積を足し あげることに基づいている。だが, この分割は,最初から全時間パラメータ t を前提し,その上で,それを均等に分割しているに過ぎない。量子的経路が不

確定性関係により,確率的にしか認識できない限り,細分化された各時聞にお いて, 粒子が均等な運動をしているということは, 最初からいえないのであ

る。つまり,同 (4)の時間 t …、て t=~j~み叩=叫(そ山r なる

条件が満たされていれば, 細部の時間については不聞に付されている。 さら に,この細分化された時間についても, それをさらに細分化し, 各jについ て,~r~ltj(k) と細分化し その細部化された時聞を再び細分化することも可 能であるo こうした手続きは,粒子全体の経路を問う過程においては,計算の 煩雑化を招くだけで, 意味がない。だが, 経路積分は, このような時間の分 割・細分を可能にする側面を持っており,さらに,細分化された際の各積分核 は,どれも同じ重み・形で企積分に寄与するということが前提されている。 以上を踏まえると, (4)は,いわば,全体の時間tにいたる様々な細分時間の 平均を足し合わせた時間によって構成されていると見ることも出来るだろう。 つまり,各時間は,全体として足しあわされる前には,不均一であっても構わ ないのである。また,その不均一な時間の聞に粒子がどのような経路を通って 進んでいたかs どの程度の運動をしていたかについての情報を,時間との関係 で正確に測ることは不可能で、ある。 これが, 良く知られた時間とエネルギー 〈ハミルトニアン)との不確定性関係である。 (lQ [3J;[不礎定住関係

1:

T, Sを災上の対称作用素とする。また,

ψ

ED([T,S]) とする。このとき, (ムT)",(ムS),"三tlCψ,[T,S]州 但し, (ム

T)

φは,確率変数T世の標準偏差を表す。詳細は,確率論の入門書を参照 されたい。 龍 谷 大 学 論 集 -53ー

(7)

4

時間の作用素

ところで,時聞が単なるスカラー量であれば,ハミルトニアンは一般にヒル ベルト空間上で定義された(非有界〉作用素であるから,正準交換関係を考え れば [t,HJ=Oになってしまう。 しかし 非定常状態でエネノレギーを測って 測定値がぱらつく, とL、う実験結果から,エネノレギーの不確定さと非定常状態 の尺度を示す時間幅との聞に不確定な関係があることは事実である [12J。 だ が,時聞は,今述べたように,通例,古典物理学の類推からみても,数学的に はスカラー量であって,作用素ではない, と理解されてきた。そのため,時間 に関する作用素など存在しないと考えられてきた。しかし最近,時間は作用 素として定式化されるべきだという考え方が市民権を得てきた (2J。 作用素として考えられる時間とは,シュレテeインガー型のハミルトニアンに 限れば, 自己共役作用素ではない。これは,フォン・ノイマンの一意性定理と いう定理によって,下に有界な自己共役作用素と正準交換関係を満たす自己共

ω

役作用素が存在しないことが容易に分かるからである。そのため,時間作用素 が自己共役であれば,当然,フォン・ノイマンの一志性定理より,その存在は 否定されるo 作用素が自己共役でないということは,時間作用素のスベクトル 〈離散的な場合には固有償ともいわれる〉が実数でない可能性もある。 しか し,そもそも虚数,複素数という数は,複素共役との積を通じて平方根を取 らない限り,長さを測ることは出来ない数である。我々は, 日々の実感から, 時間とは直線的に, 一様に, 過去から未来へと流れ行く直接計量可能な「何 か」として実感している。このため,車数時間などといわれても時間の本質を ついているとは,即座には考えられないで、あろう。 ここで,時間の作用素について簡単に触れ,時間の表示の問題にかえろう。 物理学的時聞は, しばしば時間の矢にたとえられ,過去から未来へいたる直 線的対象と解釈されることがある(lO

J

。 しかし, こうした物理学的時聞は, (ll) [12), 115ページ。 ~~ [6), 328~329ページ。

I

フォン・ノイマンの一意性定理): QとPをシュレディンガー表現とする。このとき ,exp(isQ), exp(itP), s,tε R は既約である。 ヒルベルト空間上の有界作用素の族のすべての元が不変にする部分 空間が {O}か, ヒノレベノレト空間全体に限られる場合, その有界作用素の族は既約 (irreducible)といわれる。 - 54ー経路積分と時間表示の関係について(藤本〉

(8)

古典物理的時間,我々の身体スケールに近い測度で測られたマクロ的な時間で あり,こうした時聞を物理学的時間であるといってしまうことには少々問題が あるかもしれない。古典物理的範晴で、常識的に測っている時聞は,確かに一次 元的に,切れ目なく,流れているようにも思え,時間の表象を空間化すること ができるだろうし,その時聞は,我々が知覚する物体の運動とも関係している だろう(もちろん,静止も運動状態である〕。物体の運動は, 古典的には, 一次元運動に限ってみても,必ず連続的であり,飛躍しない。そして,運動の

ω

ω

状態は一意に定まる。さらに,運動量(あるいはエネルギー)と時聞はともに 別々に確定的である。 しかし, 現代の物理学, 量子力学系にうつると事態はそれほど単純ではな い。不確定性関係は,位置と運動量が別々に(非依存的に〉確定値を持たない ことを示している。また,先に触れたように,時間とエネルギーとが不確定で もあることが,形式的(物理的〉には,定式化されている。 時間作用素とは,系のハミルトニアンとの聞で正準交換関係を満たす作用素 であるが, この作用素が時間作用素といわれるのは,形式的には,それが時間 の物理次元をもつことによる。量子物理学においては,観測量と観測値は分け て考えられなければならないが,観測量が自己共役作用素〈の一部〉でなけれ ~ ば,観測値が実数でな〈なる可能性がある。このため,時聞は実数に違いない という思い込みから,パウリの主張以来,時間作用素は存在しなhと考えられ てきた。しかし,ハイゼンベルクの不確定性関係は,二つの作用素がともに, 自己共役作用素である必要はなく, 自己共役作用素よりも広いクラスの対称作 用素によって導出できる(3 。) まず,時間作用素は対称作用素として定義され,さらに,一般に,着目して いる物理系のハミルトニアンHと正準交換関係をみたす対称作用素として定義 される。すなわち [時間作用素の定義] ヒルベルト空間の上でTがハミルトニアンHに関する時 間作用素であるとは,以下を満たすことである。 帥正確に言えば,古典物理的時間とは,相対論状態も併せて,同次元時空連続多様体 上に局所座擦を引き戻して定義した空間表象によって,理解可能である。その多様体 上の微分方程式を考えれば,古典物理学のエネルギー・位置・遂動量は,理論的にす べて確定的に計算できる。 帥エネルギーは運動量を使って定義できる。 帥 (3

J

.

250~251ページ。 制厳密には対称、拡大を行なう。数学的に厳密な定式化は,宮本によってなされた[20J。 龍谷大学論集ー55ー

(9)

(1)

T

が対称作用素であるo (ll)

D(TH)nD(HT)

上 で

[T

HJ=i

時 間 似 用 素 は , 正 準 交 換 関 係 を 介 し た 解 析 を 通 じ て , ハ ミ ル ト ニ ア ン や 系 の 時開発展に関する情報を与える。 ところで,時間作用素には,位置を表す作用素Qと運動量を表す

P

が 使 わ れ て お り , こ れ ら 両 者 は , ハ イ ゼ ン ベ ル ク の 不 確 定 性 関 係 を 満 た す 。 ま た , 時 間 作 用 素 は 対 称 作 用 素 で あ る 。 系 の 時 開 発 展 を 表 す ス カ ラ ー 量tは 作 用 素Tで は な い 。 し か し tは 実 は

T

の 平 均 値 と し て 計 算 さ れ 得 る 。 す な わ ち ヒ ル ベ ル ト空間上の内積を使って,

ω

Tψ):=<T>=t

となるo 物 理 的 に は , 時 間 作 用素の系との時間平均によって, 状態関数は時開発展している [19J。次に, 以 下 の こ と が い え る 。 平 均 を と る 前 の 時 間 作 用 素 はTは, P,

Q

から成り立っ ているが, P,

Q

は不確定性関係を満たす。つまり, Tは 最 初 か ら 時 間 の 不 確 制 こうした解析のためには,上の時間作用素の定義に加え,次の定義を加えておくこ とが必要である。 [T-弱Weyl関係式の定義

I

T

を上の対称作用素,

H

を'H..上の自己共役作用素とする。 このとき

T

H

T

-弱Weyl関係式をみたすとは, すべての ψεD(T) とすべての tεRに対して, e-itH<tED(T)であり Te-itH<t =e-itH.(T +t)

ψ

が成立することである。 TとHを [T-弱Weyl関係式の定義]を満たすものとするo さらに,H";2:.0であ り,すべての tEC(lmt::;O,ただしCは複素数を表す。)に対して [T-弱Weyl関 係式の定義]のもとで, 時間とハミルトニアンの不確定性関係は, 以下のようにな る。 (ムT)o(ムH),"

>

t

,ψεD(TH)nD(HT),(11<T11=1) ハミノレトニアン H=PS2に対するアハロノフ・ボームの時間作用素Tといわれる ものは以下のように定義される形をもっ。 T:=+(QsP;1十P;IQふ (ただし定義域は D(T):=D(QsP;うnD(P;IQS)である。〉 したがってHoに対する時間作用素Toは,係数部分が異なるだけの, To:=号(QsP;1+P;IQS) という形になる。 この形の作用素を対称拡大することにより T-弱Weyl関係式を 満たす時間作用素が構成される。 - 56ー経路積分と時間表示の関係について(藤本〕

(10)

定性を内包しているといえるo時間作用素には直線的時間というモテソレは成り 立たない。しかし実際上の計算では,平均値をとったtが時開発展のパラメー ターとして使われている。 時間作用素とは, 本質的にはスカラー量とは異なる物理現象を担う量であ り,平均値をとったり,状態ベグトルとの間で標準偏差を計算したりする作業 を通じて,あるいは不確定性関係の計算を通じて,他の物理量へとある種の規 制を与えるo時間が位置と運動量の作用素として記述され得るということは, 不確定性関係からみて,象徴的な言い方をすれば,時間がある種の「揺らぎ」 を持ってしか語れなレ, ということを意味する。ここで古典物理学的時間像は 破綻するかも知れない。ある時間の近傍全体が,ある時間のある瞬間を指して いる,としか表現できないのである。つまり,時間も確率的にしか表現でき ない。物理的表現としては, この時間平均tをパラメーターとするシュレディ 同 ンガ一方程式は,決定論的方程式として解くことができる。 5 経 路 積 分 の 時 間 表 示 の 意 味 さて,ここで,経路積分の時間表示について再考しよう。経路積分において は,時間に関する情報は,いわばー穫の時間平均として考えることが可能であ る,と先に述べた。もちろん,ととでいう平均とは, (4)の表示をみれば明らか なように,作用素としての平均ではない。また,一般に時間作用素は有界作用 素ではない。しかし次のような制限をおくことによって,時間作用素の期待 値と,経路積分における時間平均の聞の繋がりを「形式的」に考えることが出 来る (1形式的」というのは以下にみるように, 数学的な作用素論の観点から すれば,問題がある, ということである〉。 (4)においては, シュレディンガータイプのハミルトニアンに対する無限次元 測度が存在しないのだから,最初から極限と積分が交換できない。そこで,時 間分割の連続化はあきらめ, ある始時間t;から終時間んまでを離散的に分割 する。この分割は等間隔でなくてもよく,同じ時聞を重複して数え上げてもよ いことにする。その場合,有限次元の密度行列 L;f=IPt=lを使い, 全体の時 聞を t= LPiti (5) 伺以上の観点から観測問題を解釈できるが,この点は [14Jを参照のことo 龍谷大名論集 -57ー

(11)

と重複度も込めて数え上げる。 一方,時間作用素を有限次元に制限してLまえば(有限次元作用素にしてし まうならば), 対称作用素は, 有限次元称おいてはエルミート行列と同じであ るから,簡単に対角化ができる。そこで,任意の時間作用素TEMsa(m,

C

)

(m次元複素エルミート行列〕に対して,その対角化における固有値を相異な

ω

るものに並び替えて, k個とれば,単位の分解{P1, ... ,Pk} と相異なる実数列

f

A

l

'

.

.

.

'

ん}が一意に定まり,

T

=

1

)

t

p

(6) t回1 となる。

"

また,密度行列は,単位の分解 {Pl'. . . , Pk}と,その上の確率分布{μl'. . . , μk}, (片手μj,i手j)を使って,一意に p=[μ小 (7) と書ける。 よって, (5), (7)より, t=[ [μ jtれ j (8) となるから, (6)の射影の族と(8)の射影の族の和を適当に取り直し,対応をつけ れば,時間作用素の固有値を表す実数列{ん.. ,.Ak}と経路積分の時間分割の

ω

各要素 {μt1,. . , μ. fk}の聞に定量的対応関係が築ける。 今,有限次元の最も初等的な例で時間作用素と経路積分の対応関係を見たわ けであるが,ここには根本的な問題がある。それは先に論じたように時間の作 用素は自己共役作用素であっては意味がない(フォン・ノイマンの一意性定理 より〉。 しかし,有界なエルミート作用素は, すべて自己共役作用素だから, 帥単位の分解とは,射影の集各族で,Pi=pt=pi, PtPJ=dt,j pt.I: ~~IPt=lπ を満 たす(今は,有限次元を考えている〉。 帥 ここでいう,単位の分解の上の確率分布とは, μi?:O,

I

:

f

gl向=1を満たす実数列 {μh・・.,μk)のことである。 帥 目下考察している作用素が働いている有限次元空間の次元が同じであれば,一対一 対応が付けられる。 伺以上の議論で使われている数学については,例えば[1]を参照。 - 58 経路積分と時間表示の関係について(藤本)

(12)

時閣を作用素として考える, という数学的な意味はなくなってしまうのであ る。したがって,時間の作用素を考えるには,必然的に非有界作用素の世界, 無限次元の世界へ移らなければならない。 しかし無限次元に移ると,とたんに話は難しくなる。それは,一つは,繰 り返しになるが.(4)において,極限と積分の交換が簡単には成立しなし、からで

ω

ある。もし,仮に極限を積分の中に入れて,指数関数の肩のラグランジアンを 計算できたとしても,今度は,これに対応する時間作用素は,対称作用素であ るとL、う問題が浮かび上がる。無限次元空間では,対称作用素は必ずしも自己 共投ではないので,固有値の決定などに関わるスベクトル解析が簡単に出来な いのである。従って,作用素論的に高度な議論が必要になり,また,対応関係 がつかない可能性さえある。 だが,有限次元に限れば,経路積分は,時間要素の分割を陽にみることが出 来る表示といえるだろう。また,確率論的な情報が,グリーン関数の表示に比 例 ベて, より分離しやすいということもいえる。

6

ま と め と 方 向 経路積分は, 数学の理論としては, 無限次元浪,U度の存在とリンクして, 未 ~ だ,量子力学に関してさえも超越的方法にとどまっている。しかし例えば, 実時間,実数パラメータ tを虚数時間へ解析接続すると,我々が馴染みのウィ ナー測度へと変容する [5, 6, 11J。ウィーナ測度は確率論で多用される測 度であるが,この測度はもちろん収束し,値をもっ。時間作用素が対称作用素 であり,そのスベクトルが仮に虚数,複素数になった場合には,その時間スベ クトルを経路積分の時間と考えて,経路積分を定式化することが出来るだろ う。このとき,経路積分は実時聞の時に比べて,大幅な適用範聞と意味を獲得 する。こうした立場から見れば,そもそも古典物理学的に時間をスカラーとみ なし時聞を実数として表せること,さらに,直線的に過去から未来へと続く パラメータであることのほうが派生的であるのかもしれない。時間概念さえ, 古典物理学的概念から量子物理学的概念へ大幅な変更が迫られるべきかもしれ 制普通の実解析の測度論では不可能であるので,超準解析などを用いてもよいとする [11)

帥経路積分から確率情報を得やすいことは,この意味でも理解できる [15)。 帥従って,場の量子論における経路積分の数学的定式化など,全く予測さえつかな L 。、 龍谷大学論集ー5

(13)

9-"

ない。 さて, 本論では, 一 体 の 自 由 シ ュ レ デ ィ ン ガ ー 型 の ハ ミ ル ト ニ ア ン に 限 っ た 。 し か し , 実 際 に は , 粒 子 は 様 々 な 外 的 ポ テ ン シ ャ ル を も っ 。 ま た , 観 測 問 題 を 考 え る 場 合 に は , 外 的 ポ テ ン シ ャ ル を 観 測 装 置 そ の も の と み る こ と も 可 能 で あ る 。 こ う し た 観 点 か ら , 時 聞 と 経 路 積 分 , 観 測 の 問 題 を 考 え る 必 要 が あ る だろう。木論は,未だ,そのためのほんの序論的準備にすぎない。 参考文献 (1] 明出伊類似・尾畑伸明「量子確率論の基礎.J],牧野書庖, 2003年。 (2) 新井朝雄「量子力学の数学的構造一量子的代数の表現と物理一J,数理科学,2001 年12月号。 (3 ) 新井朝雄,江沢洋「量子力学の数学的構造.J]

CI)CU)

,朝倉書庖, 1999年。 (4) 新井朝雄

r

物理現象の数学的諸原理一現代数理物理学入門ー.J], 共立出版, 2003 年。 (5) 一瀬孝 rPathIntegral入門J ~数理物理への誘い..1,遊星社, 1994年。 (6) 江沢洋(他),岩波講座「現代物理学の基礎〔第 2版)4 量子力学U,]J.1978年。 (7) 黒困成俊「スベクトノレ理論

U

.!],岩波基礎数学講座, 1979年。 (8) 坂井典佑『場の量子論.J],裳華房, 2002年。 (9) M. S. スワンソン「経路積分法一量子力学から場の理論へー.1(青山秀明(他〉 訳),吉岡書庖, 1996年。 (10) 中島義道「時間論.1,ちくま学芸文庫, 2002年。 (11) 中村徹『超準解析と物理学.J], 日本評論社, 1998:年。 (12) 並木美喜雄「物理 OnePoin不確定性原理一量子力学を語る .1,共立出版, 1982年。 (13) 藤川和男

r

経路積分と対称性の量子的破れJj,岩波書庖, 2001年。 (14) 藤本忠「量子物理学と時間の問題一時間作用素 (Timeoperator)の解釈に基づ いてー」北海道哲学会『哲学年報』第51号, 2004年。 (15) 吉田伸夫「量子過程の記述から確率情報を分離することは可能か

?J

日本科学哲 学会

r

科学哲学.!l35-1号, 2002年。

(16) Y.Aharonovand D.Bohm: Time in the Quantum Theory and the Un-certainty Relation for Time and Energy, Physical Review, 122, 1649 (1961).

(17) Arvind N. Vaidya, Car10s F.de Souza, Marcelo B.Hott: Algebraic calu -culation of Green function for a spinless charged particle in an external plane-wave electromagnetic field, J. Phys. A: Math. Gen. 21(1998), 2239 -2247.

伺量子物理学においては,位置や速度が作用素へ置き換わったので、あるから,時聞の みが古典的なままでよいと考えるのも不自然だろう。

(14)

(18) Arvind N. Vaidya, Pedro B. da S. Filho: Green function for a charged spin'1/2 particle with anomalous magnetic moment in a plane-wave exte司

rnal electromagnetic field, J. Phys. A: Math. Gen. 32(1999), 6605-6612. (19) H.Kobe and V. C.A-Navarro: Derivation of the energy-time uncertain

relation, Phy. Rev. A 50, 933(1994).

(20) M. Miyamoto: A generalized Weyl relation approach to the time operator and its connection to the survival probability, Journal 01 Mathematical Physics, 42, 1038(2001).

(21) Reed and Simon: Functional Analysis, Academic Press, 1980.

キーワード 経路積分,時間の作用素,不確定性関係

※ 本論は「文部科学省科学研究費補助金」を得て行った研究成果の一部である。

参照

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