氏 名 橋詰 拓弥 学 位 (専 攻 分 野) 博士(工学) 学 位 記 番 号 総研大甲第 2066 号 学位授与の日付 平成 31年 3 月22日 学位授与の要件 高エネルギー加速器科学研究科 加速器科学専攻 学位規則第6条第1項該当 学 位 論 文 題 目 中性子個人線量計の開発を目的とした蛍光飛跡検出器の中 性子・光子応答の実験的研究 論 文 審 査 委 員 主 査 教授 波戸 芳仁 教授 文珠四郎 秀昭 准教授 萩原 雅之 助教 岸本 祐二 教授 佐波 俊哉 教授 髙田 真志 防衛大学校 応用科学群 教授 安田 仲宏 福井大学 附属国際原子力工学研究所
(様式3)
博士論文の要旨
氏 名 橋 詰 拓弥 論 文 題 目 中 性 子 個 人 線 量 計 の 開 発 を 目 的 と し た 蛍 光 飛 跡 検 出 器 の 中 性 子 ・ 光 子 応 答 の 実 験 的 研 究 中性 子 個人 線 量計 は,放射 線作 業 従事 者 の中 性子 線 量モ ニ タリ ング に用 い られ る . 代表 的な 線 量計 と して ,中 性 子コ ンバ ー タと 飛跡 検出 器 の組 み 合わ せ (以下 ,飛 跡 線量 計) が挙 げら れ る.飛 跡線 量計 で は,中 性子 との 核反 応 によ り コン バー タで 発 生し た 荷 電 粒 子 を 飛 跡 検 出 器 で カ ウ ン ト し , 得 ら れ た 飛 跡 密 度 [mm-2] を 校 正 定 数 [mSv-1 mm -2] で 除 す る こ と で , 中 性 子 線 量 [mSv] を 算 出 す る .飛跡 線 量計 の 検出 器に は ,主 に PNTD: Plastic Nuclear track detector が使 わ れて きた (1980’s~).PNTD は ,熱 ,高 速 中 性 子 の 両 方 を 検 出 で き る が ,長 時 間 の 測 定 前 処 理 を 必
要と する .PNTD に 代 わる 飛跡 検 出器 と して ,2000 年代 初 期 に Al2O3:C,Mg 単 結晶 を素
材と した 蛍 光飛 跡 検出 器 (FNTD: Fluorescent nuclear track detector) が登 場し た .FNTD は,照射 後 直ぐ に 測定 可能 で,早 速中 性 子個 人線 量計 へ の応 用 が開 始さ れた .FNTD に よる 飛 跡検 出は ,FNTD の励 起/発 光特 性 に より 飛 跡を 画像 化 し, それ ら をカ ウン ト す るこ とで 達 成さ れ る.この 過程 は FNTD リー ダー およ び 画像 解 析ソ フト (以 下 ,FNTD 測定 系) で自 動 化さ れ てい るが , 実用 化 には 至っ てい な い. FNTD を 中 性 子 個 人 線 量 測 定 に 適 用 す る に は 課 題 が あ る : 1. FNTD 線量計 シ ステ ム で は , 低 線 量 中 性 子 (~0.1 mSv) の 測 定 精 度 は 担 保 さ れ て お ら ず , ま た 低 線 量 限 界 (LLD: Low Limit of Detection) の 算 出 手 法 も 確 立 し て い な い . 2. 低 線 量 測 定 で は , 解 析 ソ フ ト の 飛 跡 読 み 落 と し が 線 量 の 過 小 評 価 に 繋 が る が , 読 み 落 と し の 原 因 と な る 飛 跡 の 性 質は 調 べ ら れ て い な い .3. 光 子 線混 在 は 中 性子 由 来 飛 跡 の 読 み 落 とし を 誘 発 する が , 飛跡 の 性 質 に よ る 光 子 線影 響 の 違 い は 調 べ ら れて い な い .4. 校 正 線源 と ス ペ クト ル が 異 な る 任 意 の 中 性 子 場 で 線 量 測 定 を 行 う に は , 中 性 子 由 来 飛 跡 の 性 質 か ら 読 み 落 とし を予 測 し, 校 正定 数お よ び LLD の 算出 が必 要に な る. 本研 究 では,FNTD の 飛跡 画 像が 中性 子・光子 照 射に よっ て ど のよ うに 変 化す るか 測定 し, そ の結 果 を基 に, 任意 の 中性 子 場に おい て FNTD 線量 計 シス テム の 中性 子 個 人線 量測 定 にお け る適 応範 囲を 決 定す る こと ,を 目的 と した . FNTD 線 量 計 は FNTD (Al2O3:C,Mg 単結 晶, 4 × 8 × 0.5 mm3) に 3 種 類 の コ ン バ ー
タ: 高密 度ポ リ エチ レ ン (HDPE: High Density Polyethylene),リチ ウム ガラ ス (Li-glass),
テフ ロン (Teflon®, (CF2)n),を 組 み 合 わ せ た 形 状 で ,各 コ ン バ ー タ は そ れ ぞ れ ,高 速 中
性子 ,低 速中 性子 ,バ ック グラ ウ ンド (BG) 放射 線の 検 出 ,を 可 能 にし てい る .照射 済 み FNTD を FNTD リ ーダ ー (FXR-700N ver. 5.7, Landauer, Inc.) でス キャ ン し (表面 深
さ: 2.0, 3.5 µm), 飛跡 画像 を得 た .飛 跡 画像 は 1 枚 100 × 100 μm2,505 × 505 ピク セル
で 構 成 さ れ , 測 定 面 積 に 応 じ て 得 ら れ る 画 像 枚 数 が 決 ま る . 各 ピ ク セ ル は APD (Avalanche Photodiode, C10508, Hamamatsu Photonics K.K.) が 検 出 し た 蛍 光 強 度 (FI:
Fluorescence intensity [mV]) を 示 す .
本研 究 で は FNTD の照 射に ,1. 241Am-α 線 (5.48 MeV),2. 陽子線 (2 MeV),3. 137
Cs-γ 線,4. 中性子 (241AmBe, 5.0 MeV),5. いばら き中 性 子医 療 研究 セン ター (iBNCT) で
の治 療用 中 性子 ビ ーム ,を 用い た .1, 2 では ,中 性子 線 量測 定 で検 出対 象と な る α 粒
子,陽子 の飛 跡 画像 と 読み 落と し の関 係 を調 べる ため ,フ ル エン ス ,角 度,エネ ルギ ー (LET) を 調 整 し た 粒 子 を FNTD に 照 射 し た . 照 射 済 み FNTD で 得 ら れ た 飛 跡 画 像 を ImageJ (National Institute of Health) に 取 り 込 み , 飛 跡 と BG 領 域 そ れ ぞ れ の FI 値 を測
定し た.一方 で,画像 解析 ソフ ト の飛 跡 読み 取り 効率: Te ff = 出 力 飛 跡 密 度 ÷目視 に よる
飛跡 密度 の 絶対 量,を 算出 した .3 では ,すで に α 線あるいは陽子線照射した同一 FNTD
に 13 7Cs-γ 線を追加照射した.一定線量 γ 線を追加するごとに FNTD を測定し,飛跡画
像お よ び Te ffの変 化 を 得た.4 で は,FNTD 線量 計 (FNTD と コ ン バー タの セ ット) に中
性子 照射 (241AmBe,5.0 MeV) を行 っ た.241AmBe 照 射 サ ン プ ル で は ,測 定 系 の 出 力 飛
跡 カ ウ ン ト ( 出 力 飛 跡 密 度 × 測 定 面 積 ) の 平 均 値 : 𝑁𝑁� (5 個 ず つ ) と 変 動 係 数 : CV
(coefficient of variation) の 関 係 を 求 め た . 5.0 MeV 中 性 子 サ ン プ ル で は , 得 ら れ た 飛 跡 画 像 の 解 析 か ら 飛 跡 の 角 度 分 布 を 求 め , モ ン テ カ ル ロ シ ミ ュ レ ー シ ョ ン (PHITS: Particle and Heavy Ion Transport code System) の 計 算 結 果 と 比 較 し た .さ ら に 飛 跡 の 角 度
分布 か ら Te ffの推 定 手 法を 開発 し ,校 正 定数 ,LLD の 算出 式を 定 義し た .5 で は ,校 正 線源 とは ス ペク ト ルの 異な る中 性 子実 用 場と して ,iBNCT 治 療室 に て LLD の 算出 ,線 量測 定を 実 践し た . FNTD 線 量計 シ ス テム の 241AmBe 中 性 子 に 対 す る 平 均 出 力 飛跡 カウ ント : 𝑁𝑁�と変動 係数: CV には ,CV = 1 �𝑁𝑁�⁄ の 関 係 が 成 り 立 っ た . た だ し , こ の 出 力 飛 跡 カ ウ ン ト は , 測定 系の 飛 跡読 み 落と しを 含む .そこ で,飛 跡の 性質 (エ ネ ルギ ー (LET)・角度) と Te ff の関 係を 調 べた.そ の 結果,Te f fは 飛跡 の 入射 角度 に依 存 して 低 下傾 向を 示し た (241 Am-α 線,0° → 60°において,0.87 ± 0.02 → 0.82 ± 0.02).一方,50~581 keV/μm の範囲にお いて ,飛 跡 読み 取 り効 率は 粒子 の LET に 依 存し なか っ た. 飛 跡画 像の 解析 で は, 入 射 角度 が大 き い飛 跡 ほ ど FI 値 が低 く, 読 み 落と しの 原 因の 一 つと して 考え ら れた .γ 線 混 在 に よ る 飛 跡 読 み 落 と し は , 入 射 角 度 の 大 き い 飛 跡 ほ ど 顕 著 に 見 ら れ た . ま た 飛 跡 画像 の解 析 から ,蛍光 強度 の低 い 角度 飛 跡ほ ど γ 線照射による FI 値のバラつき増加の 影響 を受 け,検出 が 難 しく なる こ とが 分 かっ た.中 性 子照 射で は,5.0 MeV 0°照 射に 対 して ,Ttot a l (全 飛 跡 に 対 す る Te ff): 0.86 ± 0.01 が 得 ら れ ,こ れ は 反 跳 陽 子 飛 跡 の 角 度 分 布 と,前述 の 角度 飛跡 に 対す る Te ffか ら予 測 す るこ とが で きた .最 終 的に ,任 意 の中 性子 スペ クト ル に対 す る LLD (CV = 40%) を, 測 定面 積, BG 飛跡 密 度 ,校 正定 数 ,角 度分 布,γ 線量によって予測することを可能にした.iBNCT での中性子線量測定では,Li-glass 下 の 飛 跡 密 度 に 対 し て LLD(C V= 0. 4) を 計 算 し ,LLD(C V= 0. 4) 以 上 で の 中 性 子 線 量 測 定 が可 能で あ るこ と を実 証し た.
(様式8・別紙)F o r m 8 ・ S e p a r a t e S h e e t
Results of the doctoral thesis screening
博士論文審査結果
氏N a m e i n F u l l名 橋 詰 拓 弥 論 文 題 目T i t l e 中 性 子 個 人 線 量 計 の 開 発 を 目 的 と し た 蛍 光 飛 跡 検 出 器 の 中 性 子 ・ 光 子 応 答 の 実 験 的 研 究 中 性 子 個 人 線 量 計 の 素 子 と し て 広 く 用 い ら れ て い る CR-39 などのプラスチック核飛跡 検 出 器(PNTD) には、0.1-50mSv という実用上問題のない範囲で使用可能であり、光子感 度 が な い と い う 長 所 が あ る 一 方 、 測 定 後 処 理 に 数 時 間 が 必 要 、 再 利 用 が で き な い こ と な ど の 欠 点 が あ り 、 よ り 良 い 素 子 の 開 発 が 望 ま れ て い る. 中性子個人線量計の新たな素子 の候 補 の 一 つ で あ る 蛍 光 飛 跡 検 出 器(FNTD)は、測定後処理が不要、再利用可能という大きな利 点 を 持 つ 一 方 、 光 子 に 対 し て 感 度 を 持 つ 、 飛 跡 読 み だ し 領 域 が 小 さ く 感 度 が 低 い な ど の 欠 点 が あ り 、 中 性 子 個 人 線 量 計 と し て 実 用 で き る ま で に 至 っ て い な い 。 そ こ で 出 願 者 は 、FNTD 検出器の元データ=「飛跡を含む画像データ」に立ち返り、FNTD 素 子 を 個 人 線 量 計 に 応 用 す る 際 の 性 能 の 評 価 を 行 っ た 。 具 体 的 に は 、 中 性 子 入 射 時 に 発 生 す る 粒 子 を 種 々 の 特 性 が 既 知 で あ る 状 態 で FNTD に照射する実験を行って、粒子の種類・ エ ネ ル ギ ー・入 射 角 度 に よ る 飛 跡 画 像 と 検 出 感 度 の 違 い を 調 べ る こ と で 、FNTD の性質を 調 べ 、 中 性 子 個 人 線 量 計 と し て 用 い る 場 合 の 問 題 点 の 定 量 的 に 明 ら か に す る と い う 問 題 設 定 を 行 っ た 。エ ネ ル ギ ー・角 度 を 変 え た α 線・陽 子 線 を 直 接 FNTD に打ち込むというアイ デ ィ ア を 実 行 し 、 飛 跡 画 像 の 特 性 、 飛 跡 検 出 効 率 、 γ 線 の 影 響 な ど を 個 々 に 実 験 的 に 明 ら か に し た 。 そ の 過 程 で 、FNTD 検出器のα線検出効率の角度依存が理解され、また、CR-39 の検出効率と FNTD 検出器の検出効率の違いとその原因が理解された。さらに光子照 射 時 の 荷 電 粒 子 の 数 え 落 と し の 原 因 が 、二 次 電 子 に よ る ノ イ ズ の 変 動 で あ る こ と を 解 明 し 、 そ の 程 度 を 定 量 化 し た 。そ し て 4 種類の高速中性子場における FNTD の校正定数および測 定 下 限 を 決 定 し た 。 こ の 手 法 は 他 の 中 性 子 場 に も 適 用 可 能 で あ る た め 、 例 と し て こ れ ま で に な い 強 度 の 高 い 中 性 子 線 を オ ー プ ン ス ペ ー ス で 扱 う iBNCT 施設の治療室での FNTD の 適 用 可 能 性 を(世 界 で 初 め て )実 証 し 、 校 正 定 数 と 測 定 下 限 を 求 め た . 測 定 下 限 は 既 存 の ソ フ ト ウ ェ ア を 用 い て い る 限 り で は 約 1mSv であり、目標とする 0.1mSv には及ばないが、 こ れ が ソ フ ト ウ ェ ア の 問 題 に 起 因 し て お り 、 素 子 と し て は 十 分 低 い 下 限 値 が 得 ら れ て い る こ と を 明 ら か に し た. FNTD を中性子線量測定に用いた際の不確かさについて、すでに英文雑誌に掲載されて お り 、 荷 電 粒 子 の 飛 跡 を 読 み 出 す 際 の γ 線 分 布 の 影 響 に つ い て も 英 文 雑 誌 に す で に 掲 載 さ れ た 。 こ の 他 に 、 角 度 を 持 っ た 飛 跡 の γ 線 影 響 と iBNCT への素子の応用の2報の論文に つ い て 投 稿 準 備 を 進 め て い る 。 ま た 、 国 際 会 議 で も 複 数 回 の 発 表 を 行 っ て お り 英 語 力 に 問 題 が な い こ と が 確 認 さ れ た 。 中 性 子 個 人 線 量 計 の 標 準 的 な 素 子 が PNTD から FNTD に今後置き換わるとすれば、本 博 士 論 文 は 、 そ の 移 行 の た め の Mile Stone として重要な研究として位置づけられるであろ う 。