運輸政策研究所は,2010年に設立15周年を迎えました. 1995年の設立以来,当研究所は交通運輸に関する中長期的な課題に対して,「実務」と 「学術研究」との橋渡しとなるべく,多分野にわたる数多くの研究を実施してきました. 研究成果については,研究報告会をはじめ,運輸政策コロキウム・セミナーでの発表, 機関誌「運輸政策研究」,運政研叢書,ITPS Reportの発刊,国内外の学会などへの論文投 稿や発表,各国政府や中央官庁などが主催する講演会での発表など様々な形で政策提言 を実施してまいりました.また,機関誌「運輸政策研究」は,交通運輸に関する実務と学 術研究の橋渡しと関係者の幅広い議論喚起を目的として1998年7月に第1号が発刊され, 2010年10月に通巻50号を発行しております. これまでの研究所の活動に対して,日本財団に多大なご支援,国土交通省,大学関係者, 交通事業者,諸研究機関等の関係各位にご指導,ご協力を頂きましたことに厚く御礼を申 し上げます. この度,研究所設立15周年の節目を迎えるに当たり,「運輸政策研究所設立15周年記念 号」を発刊することといたしました. 巻頭言を宿利正史 国土交通省国土交通審議官より,特別寄稿を運輸政策研究所初代所 長であった中村英夫 東京都市大学学長,寺嶋潔 運輸政策研究機構元会長・現顧問・研究 アドバイザーよりご寄稿頂くとともに,我が国の交通運輸分野における研究の第一線で ご活躍されている5名の先生に「これからの交通運輸の課題と展望」と題して,今後の社 会環境変化の中での政策研究のあり方について特集論文をご寄稿頂きました. この場を借りてご寄稿頂いた皆様に厚く御礼申し上げます. 最後に関係各位の皆様に本誌をご一読頂き,今後の更なるご支援,ご鞭撻を頂くようお 願い申し上げます. 2011年2月吉日 運輸政策研究所 所長 森地 茂
記念号発刊にあたって
記念号発刊にあたって 001 研究所の風景 004 巻頭言 交通運輸行政における運輸政策研究所の貢献と今後への期待 006 宿利正史 国土交通省国土交通審議官 特別寄稿 運輸政策研究所設立の経緯と今後への願い 008 中村英夫 東京都市大学学長・前運輸政策研究所長 運輸政策研究所の特質とこれからの歩み 010 寺嶋 潔 (財)運輸政策研究機構顧問・運輸政策研究所研究アドバイザー 運輸政策研究所15年間を振り返って 012 森地 茂 運輸政策研究所長 特集論文「これからの交通運輸の課題と展望」 地球温暖化と気候変動に対応する交通体系・計画制度のありかた 016 屋井鉄雄 東京工業大学大学院総合理工学研究科教授 航空・空港政策の転換なるか? 026 中条 潮 慶應義塾大学商学部教授 アジアを見据えた国際物流施策 032 根本敏則 一橋大学大学院商学研究科教授 社会資本としての地域公共交通 038 喜多秀行 神戸大学大学院工学研究科教授 これからの観光戦略 044 本保芳明 首都大学東京都市環境科学研究科教授 研究所の活動報告 研究所15年のあゆみ 052 機関誌「運輸政策研究」のあゆみ 069 参考資料 074 編集後記 運輸政策研究所の持続的発展に向けて 098 伊東 誠 運輸政策研究所企画室長
運輸政策研究所設立15周年記念号
C O N T E N T S 運輸政策研究所 http://www.jterc.or.jp/kenkyusyo/index.html 機関誌「運輸政策研究」 http://www.jterc.or.jp/kenkyusyo/product/tpsr/tpsr.html運輸政策研究所開設記念シンポジウム (1996年5月,於;東京,外洋クルーズ船ふじ丸) 中村所長挨拶 運輸政策研究所開設記念シンポジウム シンポジウム会場 運輸政策研究所開設記念シンポジウム レセプションでの研究員挨拶 オランダ運輸・インフラストラクチャー・ロジスティクス研究所 (TRAIL)との研究協定の締結(1997年10月,於;東京) Bovy所長と中村所長 日蘭交流400年周年記念 交通運輸⻑崎シンポジウム(2000年10月,於;⻑崎) Netelenbos オランダ運輸・公共事業・水管理大臣 来賓挨拶 合宿ゼミ(1997年2月,於;湘南セミナーハウス) 都市間交通に関する国際シンポジウム (2002年11月,於;北京) パネルディスカッション 第67回運輸政策コロキウム(2003年10月,於;東京) 伊東企画室長 発表
第15回研究報告会(2004年5月,於;東京) 森地所長挨拶 第15回研究報告会 報告会会場 国際シンポジウム:気候変動と交通戦略 (2007年12月,於;東京) Omuブリティッシュコロンビア大学教授,森地所長総括 国際ワークショップ:アジア大都市の持続可能な交通 (2008年2月,於;東京) 韓国交通研究院(KOTI)との研究協定の締結 (2008年5月,於;東京) Kim所長と森地所長 関西運輸政策コロキウム(2010年3月,於;大阪) コロキウム会場 所内ゼミ 第15回研究報告会終了後の懇談会(2004年5月,於;東京)
財団法人運輸政策機構 運輸政策研究所の設立15周年を心からお祝い申し上げます. 貴研究所は,交通運輸に係る分野について科学的立場に立脚して政策の分析・研究を 行い,さらに政策提言を行うことを目的として1995年に設立されましたが,爾来,陸・ 海・空の各輸送モードについてはもちろんのこと,総合交通,地域交通,物流,環境, 観光といった横断的なテーマについても,多数の,かつ,多岐にわたる研究成果をまと め上げ,これらを広く発信・提言してこられましたことに深く敬意を表します.また, 初代の中村英夫所長,現在の森地茂所長をはじめ,この間貴研究所の研究活動を担って こられた多くの研究員,スタッフの皆様に対しても敬意を表したいと思います. 貴研究所は,交通運輸,観光などの各分野において,中長期的・学際的・国際的な視 野など幅広い視点からの学術的研究や先進的研究は言うに及ばず,地道な実態調査等を 踏まえた実務的な政策提言を行っていくための調査研究なども実施されております.例 えば,貴研究所の発足初期の頃に実施された「観光地の魅力度評価」は,観光地の魅力 度を客観的に評価するという,当時では先進的かつ意欲的な手法を示され,その後の観 光地域の振興策のあり方について大きな影響を与えたと認識しています.また,研究成 果を広く世の中に発信することも重視されており,研究報告会や運輸政策コロキウム・ セミナーを定期的に開催し,研究結果の報告や各種の提言をされるとともに,研究途上 での中間報告や問題提起など,交通運輸政策に携わる関係者が研究成果に接する機会を 数多く設定されています.こうした取り組みは,若手を中心とした研究者の研鑽の場と なり,また,国内外の研究者・実務者の交流を生み出し,人材の幅広いネットワークの 形成にもつながっていると思います.そしてそのことが,貴研究所の研究活動のさらな る進展を支える大きな財産となっているものと考えます. 国土交通省におきましては,2010年5月,将来の憂いのない安心した国民生活のため には我が国の経済成長が必要不可欠との認識から,当省所管の産業分野が有する人材, 技術力,ノウハウ等を最大限に活用し,経済のパイの拡大や国際競争力の向上を図るこ とを目的として,海洋,航空,観光,国際展開・官民連携,住宅・都市の5分野につい て成長戦略をとりまとめました.海運・港湾及び航空について,国際競争力の強化を図
交通運輸行政における
運輸政策研究所の貢献と今後への期待
巻 頭 ⾔
宿利正史
SHUKURI, Masafumi 国土交通省国土交通審議官るための諸々の施策を着実に推進するとともに,高速鉄道をはじめとする鉄道の整備・ 運営技術など日本が世界に誇る最先端の交通運輸技術について,海外への展開を強力に 進めていきます.また,観光についても,訪日外国人3,000万人を目指して,従来の発 想にとらわれることなく総合的な取り組みを着実に進めることとしています. また,急速な高齢化の進展や人口減少などの我が国の社会構造の変化や内外の経済環 境の変化への対応等の観点から,交通基本法の制定とその関連施策の充実を図る取り組 みを進めています.これは,喫緊の課題である地域における生活交通手段の確保の問題 にとどまらず,まちづくりや総合交通体系を含め,今後の日本の社会や経済をしっかり と支えていくことができる交通運輸のあり方を根本的に検討し,再構築していくことに なると考えております. さらに,CO2の排出削減をはじめとする環境問題への対応も交通運輸分野における重 要な課題であり,国際的な連携を図りつつ,輸送機器の技術開発や効率的な輸送システ ムの構築など多角的・多面的な施策の実施が求められます. 交通運輸行政としては,当然のことながら,これらの課題にとどまらず,我が国の社 会・経済構造の変化やグローバルな政治・経済の動向,技術革新の状況等を踏まえつ つ,常に国民・利用者等の求めるところを見極め,かつ,世界と将来を見据えた行政展 開を検討し,実践していかなければならないと考えております. しかしながら,交通運輸行政の現場では,山積する目前の課題の処理・解決に多くの エネルギーを注がざるを得ず,日々様々な関係者との調整に追われているのが現実で す.そのため,新たな行政課題についてじっくりと腰を据えて検討を行うことや,斬新 な政策手法・取り組みについて前広に幅広く研究することについては,残念ながらどう しても限界があるのが実情です. 貴研究所におかれましては,交通運輸分野の様々な課題について,あるいは埋もれて いる課題を発掘して,今日の日本を取り巻く閉塞感を打ち破ることにつながる調査研究 や政策提言を行い,行政当局を含め交通運輸分野に関わる多くの関係者に対して,講ず べき施策や方策の可能性と選択肢を広く発信されることを大いに期待しております. 貴研究所が,今後ますます発展されますことを心から祈念いたします.
財団法人運輸経済研究センターは今を去る42年前の 1968年に産・官・学各界の支援のもとに設立され,交通政 策策定に必要な調査分析を行ってきた.このセンターに は当時の我が国の交通研究の中心にあった学者をはじ め,センター外部の識者も数多く参集し調査研究の指導 からプロジェクトの提言までの活動を幅広く行ってきた. しかしこのセンターの調査するテーマは運輸省など行政 当局から依頼されるものがほとんどで,独自性に乏しく, 時の運輸行政に批判的な考えや長期的視野に立った全 体的な構想に乏しいものとなりがちであった.センターの メンバーもほとんどが官公庁などの出向者と事務系の職 員で占められており,研究者と呼べるスタッフはほとんど いなかった.そうした事情もあって,発足以来すでに20数 年が経過したこのセンターが,今後の我が国さらには世界 の発展に寄与できる運輸政策を研究し,提言できる機能 を持つ機関へ脱皮することが求められた. 当時日本経済は,停滞期に入りつつあり,地球的規模 での環境問題への関心の高まりなどもあり,社会情勢は 大きく変化しつつあった.運輸部門でも各種の規制緩和 や民営化の推進など従来とは大きく異なる政策が中心的 な検討課題となってきた. このような社会的要請に応えるため,既存のセンターを 大幅に改組する改革案が学識者と運輸省の関係者から なる委員会で多くの時間をかけて検討された.そこでは 運輸経済の発展と運輸政策の質的向上に資する調査研 究の実施を目的として,独立した組織を作り,必要な人材 を確保し,国内外の各機関とも連携して活発な活動をす ることが期待された.そして,この新しいシンクタンクの運 営基盤を固めるため,公益性の高い事業の支援に力を注 ぐ日本財団より多額の助成が施されることになった. 1995年末には運輸経済研究センターは虎ノ門から神谷 町の 現 在 の 建 物 に 事 務 所を 移し,運 輸 政 策 研 究 所 (Institute for Transport Policy Studies, ITPS)に発展的に 改組されるべく準備に入った.ちょうど大学を定年退職す る時期に当たったこともあり,私がこの研究所の初代所長 になることになり,従来のセンターからの職員共々多くの 関係者の協力を得て新しい研究所の体制づくりに入った. 研究所づくりに当たっては,センターの抱えていた上記 のような課題や既存の同種の財団法人の研究機関の持 つ問題の克服を図ろうとした.研究所の能力を決めるも のは言うまでもなく研究に当たる人材である.そこで優秀 なしかも若手の研究者を国内外から集めようとした.ま た,研究所のマンネリ化,高齢化を避けるためこれらの研 究者の在職期間は1期3年とし,最大でも2期までとした. 研究テーマの選択は研究所の成否を決定づけるもの であることは言うまでもない.テーマの選択は研究所が 全く独自に行い,社会の必要とする研究を大学にありが ちな抽象的議論に偏らず,また多くの企業や官公庁内で の研究でなされがちな短期的あるいは狭い分野での利 益追求に陥らないことを旨とした. このような観点から研究者の人材は可能な限り広い範 囲から求めることにし,国内外の大学を中心に運輸関連 の企業や省庁からも人材を募った.しかし,このように短期 間のみ雇用される条件で若い優秀な研究者を確保するこ とは必ずしも容易ではなかった.幸い大学で博士課程を 終え,新たに大学などでの職を求めるまでの期間を,この 新しい研究所で経験を積みたいという研究者を中心に, 所期の予定の数の研究者もここに集めることができた.
特 別 寄 稿
運輸政策研究所設立の経緯と今後への願い
中村英夫
NAKAMURA, Hideo 東京都市大学学長・前運輸政策研究所長こうして運輸政策研究所は1996年4月から本格的な活 動に入った.また1998年にアメリカでの活動を主とする国 際問題研究所と従来からの委託調査研究を行う調査部 との3つが一体となって運輸政策研究機構を構成するこ とになった.研究所の設立記念のシンポジウムが鉄道, 空港,海運の分野の世界の代表的な学者をドイツ,アメリ カ,ベルギーから招いて,東京港に停泊する外洋クルーズ 船ふじ丸船内で時の運輸大臣をはじめ300人を超える来 賓,参加者の下で催された. 研究を常時活性化し,質を確保し,さらにその成果を 世に問うため,毎月開く運輸政策コロキウムと春秋と年2 回開く研究報告会の開催,そして季刊の研究報告「運輸 政策研究」の刊行を行い,研究員はこれらの場での成果 報告を義務づけられた.また外部への専門的情報提供 の場としてその分野の専門家による講演会を運輸政策セ ミナーとして随時開催したし,研究員による著作として運 政研叢書の発行をも随時行った. 外国人の研究者もヨーロッパやアジアの各国から研究 員として多数が在籍し,多いときには研究員の1/3を越え ることもあった.また海外からこの研究所を訪問する学 者,研究者は極めて多く,比較的短期間のうちにITPSの 名は海外の運輸交通の研究者の間では広く知られるよう になった.このようにして進められたこの研究所での運輸 政策研究は広い分野を包含し,多くの研究の質も充分高 いものであった.そしてこの研究所で育った研究員はそこ を退職後は多くの大学に招かれて教員となり,あるいは企 業や官公庁での中核となって,その後も大いに活躍するよ うになる. 従来の同種の研究所や講演会の雰囲気を少しは変え たいとの思いもあって,研究所の入口にはモネのサンラ ザール駅の絵(オルセー美術館の公式複製)を架け,また 研究報告会には軽い室内楽の演奏を短時間ではあるが 挟むようにした. 8年間にわたり務めた所長を私が退いた後,森地茂氏 にこの職が引き継がれた.森地所長の時代になっても当 初私たちが進めてきた方針の多くは引き継がれ,それが さらに改善されて発展してきているように思われる.30 回目に近づく研究報告会の盛況や,ほぼ毎月の運輸政策 コロキウムの多くの参加者を見てもこのことは明らかであ ろう. 現在は発足当時とは国内外の運輸を取り巻く事情は大 きく変化してきている.また我が国の政治・行政の様相も 変わり,研究所の運営も以前には無かった多くの難しさが あると想像できる.しかし研究すべき課題は今もって数 多く,また広範にわたりつつある.15年前に私たちが進め た研究所づくりの良い点を活かし,必要な改善を加えて 一層発展していただきたいと願っている. 最後に,今後に向けて望みを2,3述べさせていただく. 第1は昨今の複雑な政治情勢の下で特に望まれること で,時の政治や行政の政策に迎合することなく,科学的理 論に立って正しいと思われる方向を堂々と主張してほし いことである.2つ目は,一層国際的な活動を強めてほし いという願いである.我が国の運輸の実状や研究状況を 国外へ向かって伝えることは勿論,世界の交通研究の一 つの拠点として機能できればと願っている.そして3つ目 に,いつまでも若い人材を集め,常に活発にしかも大学と 実務をまたがる研究活動を進めていただきたいと期待 するのである.
運輸政策研究所15年の歩みを,機構の理事,会長,顧 問兼研究所の研究アドバイザーとして,切れ目なく見てき た経験から,その特質のいくつかに触れてみたい. 第1は,そのオープンネス(開放性)である.これは中村 英夫初代所長が研究所の土台づくりをされるにあたって 最も強く意識された点であるとうかがっており,森地茂現 所長にもそのまま引き継がれている.研究員の構成は,大 学人はもとより官庁および企業からの出向者がバランス よく渾然一体をなしており,また,海外からの研究者も常時 数名が在籍している.また,客員研究員,運輸政策コロキ ウムのコメンテータ,セミナーの講師,研究評価委員会の 委員などにも,第一線の先生方を所外から幅広くお願い しており,研究所を取り巻く分厚いサポート陣が形成され ている.機関誌「運輸政策研究」は,ひろく一般からの寄 稿にも開放されており,厳格な査読をパスして掲載された 論文は,研究実績として高い評価を受けることになる.年 2回の研究報告会には,所員の発表に加えて,内外の運 輸企業の経営トップを招き,躍動する企業活動をヴィヴィッ ドに聴けるのが大きな呼び物となっており,広い分野から の聴講者で毎回満席となる盛況である. 第2は,前述の開放性がもたらすシナジー効果の大き さである.一般論として,若い大学人は,研究対象である 経済・社会現象の実体に直接携わる機会を経ていない ため,統計にあらわれた数字の解析だけに終わりがちで あり,他方,企業や官庁からの出向者は,実務的知見はす ぐれている反面,育てられた組織特有の思考方法にとら われがちで,発想の飛躍に乏しい.これらの異なる背景と 傾向を有する人達が机を並べて研究生活をともにするう ちに,お互いに啓発されて,長所を学びあうことができる メリットは大きなものがある.ちなみに,中村前所長と森 地現所長がともに,大学卒業後しばらくの間それぞれ営 団地下鉄と国鉄に勤務されたのち大学に戻られ,そのか たわら政府の審議会等で政策形成に参画されて,身を もって産学官のシナジーを体現しておられるのはあなが ち偶然ではないように思われる. 第3に,このようなシナジー効果は,ひとりでに醸成され るばかりではなく,週1回の所内のゼミでの活発なディ ベートを通じて,意識的に創りだされていることである.和 をもって尊しとするようしつけられてきた日本人は,ガチン コの議論をすることを好まず,官庁や企業の中でも縦割り の組織が互いの立場を侵さないように振舞うことの多い 時代が長かった.しかも,今の若い人は相手を傷つけな い優しさを大事にし,突出した異論をのべることはKYと して疎まれる風潮がある.この研究所のゼミでは,各研 究員が自らの研究の進捗状況を定期的に所長以下全員 の前で報告することになっているが,所長から質問やコメ ントの雨が降り注ぐことは勿論のこと,同僚研究員からも 遠慮会釈なく率直な批判や意見がぶつけられるのを常と しており,前述した「日本的美風」とはかけ離れた本物の ディベートが行われている.私も研究アドバイザーの立場 で参加しているが,感情を交えずに議論できるのは気持 ちのよいものである.これは歴代所長の薫陶のたまもの であり,私はこのゼミを「中村道場」「森地道場」と呼んで いるが,ここで鍛えられた人材が,広くなった視野と人脈を 活かしてそれぞれの領域で大いに活躍している例は少な くない.
特 別 寄 稿
運輸政策研究所の特質とこれからの歩み
寺嶋 潔
TERASHIMA, Kiyoshi (財)運輸政策研究機構顧問・運輸政策研究所研究アドバイザーこれからの運輸政策研究所は,その優れた特質にさら に磨きをかけていくとともに,激動の最中にある内外の政 治・経済・社会状況に対応して,考えなければならない点 も少なくないように思われる. 第1に,新しい研究テーマへの取り組み方である.日本 経済が成熟段階に入り,交通インフラの全国ネットワーク も概成の域に近づいて,今後はその補強や効率的利用に 重点が移る一方,少子高齢化,移動の自由の保障,地球 環境問題の切迫化など新しい政策ニーズが生じているが, 既にこれらのテーマの多くは取り組みが始められている. ただ,個々の研究員が限られた任期のうちに出せる成果 には自ずと限りがあり,スケールの小さい研究が多くなり がちな傾向があった.この反省から,同じテーマを後任者 が引き継いだり,大型のテーマのためにチームを組成して 研究を促進したりする試みも行われてきている.最近の 大きな成果は,首都圏空港の将来のあり方を包括的に探 求した研究で,研究所外の方々のご協力も得て短期間の うちにまとめられ,研究叢書としても刊行されて,相当の社 会的インパクトを与えたものと思われる.今後もこのよう な時宜を得た大型テーマへの取り組みが期待される.そ の一方,現在進行中の個々の研究員による研究にも,社 会的ニーズに合致したテーマに意欲的な方法で取り組ん でいるものがいくつもあることは心強い. 第2に,それとの関連で,政府に対するスタンスの取り 方の問題がある.今日の「政治主導」のもとで,霞ヶ関と いうわが国最大のシンクタンクはフルに活用されてはいな いように見受けられる.そのことの是非はさておくとして, このような状況下では,長年公共政策の観点から研究を 積み重ねてきた運輸政策研究所の存在価値は従来にも 増して高まっていると思われる.政策研究をする以上, データの交換をはじめ政府との緊密な連携は必要である が,客観的,実証的な研究から導かれた結論は遠慮なく 公表して,一般社会に思考のための糧(food for thought) を提供し,政策の取捨選択は為政者に委ねればよい.そ れこそかつてM・ウェーバーが官僚制の果たすべき役割 としたものである. 第3に,国際的発信力の強化である.わが国の運輸政 策は,大都市における公共交通網の充実,新幹線鉄道 ネットワークの全国的展開,厳格な自動車排出ガス規制な ど,世界に冠たる成果をあげる一方,ハブ空港やハブ港湾 の形成の立ち遅れ,過疎地の公共交通の衰退などの弱点 もかかえている.これらの成功例,失敗例から学ぶべき 教訓を,外国とくに急速な発展の著しい開発途上国に伝 えていくことは先達としての務めであり,国際協力政策の 形成や地球環境対策の国際的論議への有力な論拠を提 供することにもなろう.既に2004年に「都市交通と環境」 についての国際共同研究の成果を英文書籍として刊行し た実績があるが,今後も機構の国際問題研究所とも連携 しつつ,対外発信活動を強化していくことを期待したい.
運輸政策研究所の設立の発端は運輸経済研究センター の改組であった.そもそも運輸経済研究センターは1966 年第2次佐藤内閣の中曽根康弘運輸大臣による,運輸省 を許認可官庁から政策官庁へ脱皮させるとの方針の下 で68年に設立された.大学の若手も育てたいとの初代調 査役喜多健一郎氏の方針により,経済学分野の杉山雅洋 早稲田大学大学院生(現 同大学教授)と,工学分野は東 京工業大学助手の筆者に,度々研究会や調査業務に参 画する機会が与えられた.数年後,専任の研究員も育て るべきとの考えから,現主席研究員の伊東誠氏も採用さ れることとなった.その後,東京圏都市鉄道計画,全国幹 線旅客純流動調査を始め,数多くの研究調査に関与して いたこともあって,中村英夫初代所長の特別寄稿文にあ る「運輸経済研究センター改革検討委員会」に伊東氏と 共に加わることとなった. その後の経緯は,上記特別寄稿文にある通りであり, より詳しくは,文献1)に詳しい. 運輸経済研究センターの部門として,91年に国際問題 研究所が設置され,95年に運輸政策研究所が設立され たのである.実際の多くの活動は96年に中村英夫初代所 長の赴任後に始まった. 98年に運輸経済研究センターは,両研究所が核となり 従来の調査受託部門も包含する組織として,運輸政策研 究機構と改称されたのである. その後,後述するように社会的に重要な様々な研究に 取り組み,その成果に基づく政策提言を積極的に行ってき た.その結果,運輸政策研究所は国内のみならず,国際的 にも広く知られる存在感のある組織として発展してきた. また,本研究所が政策研究,政策提言を目的とするため, 研究員は社会科学と工学の博士課程修了者と官公庁及び 民間から迎えており,かつ約1/4は外国人で構成されている. 研究報告の場として始められた,年2回の研究報告会 (研究員5−6名の報告と著名な専門家による特別講演) には毎回400−500人の参加者が,毎月の運輸政策コロキ ウム(研究員1名の発表と外部専門家のコメントおよび参 加者の討議)や運輸政策セミナー(外部専門家による発 表と参加者の討議)には,100−200人の参加者があり,情 報発信機能を発揮している.更に,参加者から頂いた多 くの意見について,毎週1回の所内ゼミで議論して研究に 反映することにより,研究報告の場が,多方面の専門家の 意見や社会のニーズにこたえる研究活動の基盤となって いるのである.官公庁,民間企業,大学から幅広く,こんな に多くの著名な専門家が高頻度に集まる研究発表会は, 学会でも例がない. また,機関誌「運輸政策研究」,「運政研叢書」,国際活 動などを含め,上記本研究所の活動は,同じような財団, 社団と比べ極めて顕著であるといえよう. これらほとんどの活動は,中村英夫初代所長により始 めら,尽力された成果である. この15年間のこのような活動は,全面的な財政的支援 を頂いた日本財団の御理解なくしては成り立ちえなかった. また,この間,研究所を支えていただいた国土交通省,理 事会,評議会,研究評価委員会,運輸政策研究編集員会 のメンバー,および客員,招聘,非常勤を含む研究員,研究
特 別 寄 稿
運輸政策研究所15年間を振り返って
森地 茂
MORICHI, Shigeru 運輸政策研究所長 1)伊東誠[2003],“交通政策に貢献する公益的研究の役割−運輸政策研究所の活動を通じて−”,「国際交通学会誌」,Vol.27,No.4.員を推薦,派遣して頂いた産官学の組織と関係者の方々, コロキウムや研究報告会の特別講演を始めいろいろな形 で参加頂いた方々,事務局に心から感謝の意を表したい. 以下に,15年を振り返って,今後の継続とさらなる発展 のために,特に重要な3点について記述しておきたい.
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研究テーマ設定 政策提言を目的とする本研究所にとって,研究テーマ設 定は最も重要である.その決定の要件の第1は,研究員 が楽しんで研究できることであり,そうでなければ成果は 限定的であり,また,新たな研究員を迎えることの制約と なり,研究所の存続にもかかわる.第2の要件は,政策提 言の社会的価値である.社会的に関心を持たれなけれ ば上述した参加者も減少し,研究所としての存在意義を 失うこととなろう.第3は研究に値する新規性であり,問題 認識,現象分析,分析方法論,提案される政策とその実行 方法などのどこかに新規性が求められる.第4は,研究の フィージビリティであり,データの存在,分析方法,研究の 仮説,時間的・資金的制約,研究員の能力など,新規性あ る結果を得られる可能性を見通して研究に着手する. 例えば次のような研究テーマ,即ち,地球環境からみた 交通政策,交通整備の非市場価値,交通情報のGISデータ ベース,規制緩和政策が航空・高速バスなどにあたえた影 響分析,少子高齢化社会が交通市場に及ぼす影響分析,地 域交通のミニマム基準,物流のインターモーダル交通システ ム,埋め立て余地の少ない港湾地域の土地利用を再編す る再開発制度,都市鉄道のサービス評価,慢性化する東京 の都市鉄道の遅延の現象解明と対策,整備制度しかなく管 理制度の不備な駅前広場のあり方,鉄道駅の景観,首都圏 空港の将来像,空港経営の現状分析と改善方策,複数空港 の機能分担,観光地の魅力度評価,シャッター街化する商店 街と同様に空洞化する温泉街など観光地の再生方策,ガソ リン価格や高速道路通行料の変化が交通市場に及ぼす影 響分析などや,後述する国際的なテーマに関し,内外の政 策担当者をはじめ社会に対する明快なメッセージを発信で きたと考えている.運輸政策コロキウムのテーマに関係す る担当課長など官公庁,民間会社の専門家に参加頂ける ことが,研究成果を政策形成に反映させる上での本研究所 の強みである.また,研究報告会や運輸政策コロキウムへ のメデイアの参加も恒常化し,情報発信につながっている. GISシステム,都市鉄道の上下分離,首都圏空港の容量 増加,東京圏の都市鉄道の遅延など官庁による検討の発 端となったテーマは多くあり,政策形成に貢献した事例で あろう.残念ながら必ずしも政策を大きく転換させるには 至っていないテーマについては,転換の必要性は認めら れながらも,その実現を図ることの困難さを超えられてい ないのであろう.首都圏空港や地球環境のような喫緊の 課題に取り組むとともに,独自に問題設定した研究成果 について,その重要性をより強く発信し,政策転換につな げる努力を一層高めることが必要であろう. 一方,我々が社会のために重要だと考えるテーマについ て,その重要性を訴え,先行的に成果を蓄積しておくことこ そが研究所の最も重要な役割であると考える.政策を直 接支える研究を使命とする政府所属の研究所との差別化 も必要だからである.社会的関心の高い課題を取り上げる ことと,次の段階で話題を集めるであろうテーマに先行的に取り組んでおくことと,話題にならなくても社会にとって重 要なテーマに関し提案することなど多様性も重視したい. なお,研究所の研究評価委員会より,各研究員による独 立した研究テーマ設定の故に,研究所としての時系列的 蓄積と,異なる経験を有する研究員の相乗効果とを不足 させていると指摘された.これに対し,各研究員の研究 成果やデータ等の蓄積システムを形成し,担当した研究 員の退職後も情報を共有できる仕組みを立ち上げた.ま た,研究員単位のテーマの外に,所内共同研究テーマを 2,3設定している.交通システムに対する災害危機管理制 度,都市間交通政策の評価とネットワークの変遷,インバウ ンド観光政策,都市間交通に関する地球環境などである. 研究組織であるからには,実務社会からの評価のみな らず学会からも評価されることが求められることは言うま でもない.研究員はそれぞれの専門分野の学会におい て,論文集への審査付き論文の登載や学術研究会での 論文発表,学会での研究委員会への参加など活発に活 動し,評価されている.また,科学研究費に応募できる組 織として認められ,毎年3∼5人の研究員が研究費を獲得 している.応募する研究員数に対するその獲得件数割合 は,トップクラスの大学と同等またはそれ以上である.
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研究員の確保と活動 研究員は大学博士課程修了者と,中央官庁,地方自治 体,独立行政法人,民間シンクタンク,コンサルタント,鉄道 会社からの派遣人材で構成されてきた.1/4程度は外国人 研究者である.例えば現在は,大学博士課程修了者が8 人,官公庁からが4人,独立行政法人が1人,コンサルタント が3人,鉄道会社が2人となっており,その内外国人は5人で, 韓国,ベトナム,フィリピン,ネパール,エチオピアからである. 大学院博士課程修了者にとっては,本研究所で異分野 の研究者や実務の専門家と触れることにより,研究者に とって最も重要な研究テーマ選択能力を高められること や,政策形成過程の思考方法を身につけられることが本 研究所に参画する意義である.研究のマンネリ化を防ぎ, 研究員の質的低下を防ぐために,期限つき契約となって いるが,大学院博士課程修了後に研究所に迎えた研究員 のほとんどはその後,全国あるいは海外の大学の教員や 研究機関の研究者として活躍している.その人数は15年 間で21人である.課題として,経済学分野と工学分野が 約半数ずつという構成できたのに対し,近年,経済学分 野の人材が不足しつつある.経済学分野で交通を専門と する教員の公募が減少し,結果的に交通を勉強する学生 が激減しているのである.研究所としては観光,地域政策 なども研究対象であるので,交通分野に限らず経済学分 野の研究者を確保することが重要であるが,交通を勉強 しても大学のポストが無いというのは大きな制約条件で ある.学位を持つ高度の専門家の実務界におけるキャリ ア・パスの少なさは,我が国の特異な状況であり,あらゆ る分野における我が国の課題となっているが,交通界で もその受け入れ態勢を欧米並みにすることが望まれる. 一方,関係組織の特別の配慮により,現在までのところ 確保できている官庁の行政職,技術職や,コンサルタント, 鉄道会社などからの派遣研究員も,本研究所にとって不 可欠である.官民の実務界からの専門家にとっては,学 界の蓄積や論理的思考方法,分析方法を身につけること に意味があるが,公務員改革や民間企業の経営状況か ら,その確保に一層の努力を必要としている.異なる分野, 異なる経験を有する優秀な人材の混在があってこそ,各 研究員は貴重な経験ができ,研究成果も上がるのである. ところで,大学からの新規採用者のほとんどは,博士課 程での研究の継続を希望する.現実社会の課題に対す る政策研究を志向することに楽しさを感じられるかどう かが,その成果を左右する.大学以外からの研究員は,目 前の課題を解決することに集中し,先行的に行われてい る研究成果や,政策が使えるならそれでよしとする傾向が ある.また,既往研究や過去,あるいは海外での政策経 験を広くレビューするという習慣を持たない.このような思 考方法なら実務として実行すればいいのであり研究所の 存在意義を失う.研究とは新規性にこそ意味があり,1章 で述べたいろいろな新規性の追求が求められる.特に 政策研究には,過去の論文のレビューのみならず,政策に ついての歴史研究と,国際比較研究が重要である.大学 からの研究員も,実務界からの研究員も,最初は苦労しつ つ,適切な研究テーマとシナリオを設定して,研究に着手 し,最初の発表機会を得る頃には大きく成長している. 間もなく過去の研究員が累積100人に達することから, そのような人材との連携をも強め,小さな研究機関ながら そのアウトプットと,社会的影響力を高めることにより,より 多くの若い研究者が入所を希望し,育って巣立っていく組 織としての一層の発展を目指したい.3
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研究所の国際性 研究所が国際的であるべきということは,設立時からの前提であり,研究員の構成,研究員の国際活動,国際共 同研究,研究所の国際交流が図られてきた.財政制約で 中止されたUITP発行誌の日本語版発刊も行われていた. 研究所の国際性に関し,① 国際的に認知されることと は,存在を知られる,研究能力や影響力を認められる,国 際共同研究への参加を望まれる,等の段階があり,② 国 際的活動も,研究員が国際会議で発表する,基調講演等 に招待される,国際共同研究を主宰する,海外から研究 委託をされる,など各段階がある.③ 研究成果に関して も,国際的課題に対する研究上の貢献,我が国のODAな ど国際的な政策への提言,外国の政策形成への貢献な ど一様ではない.④ 人材養成に関しても,博士課程修了 留学生の受け入れ,海外からの研究員受け入れ,国際研 究を通じた海外の研究者の養成など多様である. 国際的認知度に関しては,欧米,アジアからの多くの来 訪者があること(P.067 表―10)や,各国大使館からの訪 問や研究報告会,運輸政策コロキウムへの参加が増えて いることからも,研究所の認知度が高まっていることが伺 える.アメリカのFHWA:Federal Highway Administration の報告書2)には運政策研究所が国際的にみても日本の 強みであると記載された.所長が各国の学会や政府主 催の会議の基調講演を度々依頼され,シンガポール政府 の交通分野の顧問を3年間勤めたのみならず,伊東主席 研究員,スルヤ主任研究員,藤崎主任研究員もASEANの 交通関係省の次官会議,世界銀行やアジア銀行主催の国 際会議などの基調講演,招待講演を複数回勤めている. 他の多くの研究員が国際会議で研究発表を行っており, 招待講演を依頼される機会が更に増加していくことであ ろう. 国際活動として,海外の研究所との連携契約を締結し, 定期的交流を行っており,海外の政策形成にも貢献してき た.国際的テーマの研究としては,発展途上国の交通公 害,アジアにおける海運と港湾の競争力,欧州の地方分 権と交通政策,欧米と日本の交通関連制度の比較研究等 を取り上げてきた.地球環境に関しては,「都市交通と環 境」と題する国際共同研究を主宰し,その成果を英語と, 日本語で出版している.その後,アジア交通学会の国際 プロジェクトとして,「アジアの大都市の持続可能な交通プ ロジェクト」に関する国際研究プロジェクトを主宰し,各国 でシンポジウムや研究会を開催し,近々成果を出版する ことになっている.アジアの巨大都市の特殊性を明らか にし,現在の都市交通政策や欧米の専門家が主張する政 策は必ずしも正しくないことなどを主張している.また,ア ジアにおける交通整備財源不足に対応するため,重要な ガソリン税の導入が政治的に難しい状況にあることに着 目し,世界各国のガソリン税関連政策の時系列的変化に 関する研究と提言も行っている.中国総合運輸研究所と の研究発表会でその導入についての議論をした次の年 は見送られたが2年後に導入が決定された.韓国大統領 のGreen Growth政策として取り上げられた高速鉄道の 駅周辺開発は我々の情報提供に端を発している.昨年か ら,「アジア諸国における都市間交通システム」に関する アジア交通学会の国際共同計画を,インドを含む10カ国 の研究者と始めたのは,発展途上国の都市間交通にお ける高速鉄道政策への提言を意図している. なお,本研究所が国際研究所として機能する証しとして の海外への貢献をより進めて,海外から有償で研究受託 を受けることを,韓国から始めて3年になる.今年度は上 記大統領主導のプロジェクトに関するテーマである.また, 上記,アジア交通学会の国際プロジェクトに関しても,韓 国,台湾,マレーシアから共同研究の資金が提供されてい る.アジアの経済成長の中で,国際研究機関としての存在 感を如何に高められるかが課題である. 運輸政策研究機構の意義は,以下の理念,すなわち交通 運輸に関する総合的な研究および調査を実施し,交通運 輸全般にわたる政策の評価および提言を行い,これにより 交通運輸に関する政策の策定に資するとともに,国民生活 の質的向上,魅力ある地域社会の創出,産業経済の発展 および国際的な共生の推進に貢献することを目的とする財 団法人にある.そして運輸政策研究所は,そのような状況 下で新たな政策提案とそれに資する国内,国際の両方の 社会のために研究を実施している.研究は科学的知識に 裏付けされ,研究者や研究方法もよりアカデミックに近い立 場をとっているが,このことは研究が現実と遊離し,学問的 な形にこだわることを意味するものではない.研究対象は 現実社会で要求される政策課題であり,その成果は交通 運輸の実務において容易に理解されうることが要求され, これに対応すべく様々な工夫を行っていく.このような宣言 に著された社会的使命を所員一同が共有し,更なる発展 を目指すことを再確認し,次なる時代に向いたい.関係各 位に更なるご支援ご鞭撻を頂くようお願いしたい.
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はじめに 本稿では今後の交通運輸の課題と展望のうち,特に地 球温暖化と気候変動に対して,交通体系と計画制度がど のようにあるべきかという2つの観点から環境問題を掘 り下げてみることを予定している.気候変動が顕在化す る中で集中豪雨や大型台風,それらに伴う洪水や高潮等, これらの災害に強く,あるいは被災後に速やかに復旧で きる都市や交通システムが今後求められる.しかし,その ための膨大な投資財源は甚だ限られており,その配分に 対する合意形成を安定的に進めることも容易ではなくなっ ている.本稿で強調したいのは,このような気候変動へ の適応を含む様々な環境施策を明確に位置付ける計画 の制度の方にあり,そこにスポットを当てて論じることが, 今の日本に欠けているとの認識に立っている. 2050年に温室効果ガス(GHG)の排出量を1990年比 で80%減らすと言うなら,日常生活でほぼゼロカーボンの 生活を実現せざるを得ない.そのような社会を構築する ためには,社会が目標を長らく共有して一丸となり,様々 な生活社会資本の刷新と共に進まなければ到底望むこ とはできないだろう.日本人が不得手とされる長期の計 画に基づく確固たる歩みが求められているのである.短 期の政権交替で安易に方針変更されない安定した基盤 の上で初めて可能になるとも考えられる.20世紀後半に 奇跡の経済復興を遂げた我が国が,21世紀前半の環境 の時代に,今一度環境の国として奇跡の復活を果たすと すれば1),体系や制度は前提として必要となるのではない か.本稿では,このような長期計画が,本当に我が国では 必要がないのか,この疑問を念頭に,15年ほど前まで振 り返りつつ,地球環境問題の課題と展望という視点で論 じたいと考えている.2
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米国を例に15年間を振り返る 今から15年前の1995年といえば,COP1がベルリンで屋井鉄雄
YAI, Tetsuo 東京工業大学大学院総合理工学研究科教授 開催された地球環境問題としても重要な年であり,その成 果が2年後の京都プロトコルに繋がっていった.1995当 時,筆者は米国ボストンに滞在していたが,当地で地球環 境問題は多少身近に感じられ,ノーカーディに車を運転し ていてデモ参加者から白い目で見られた記憶もある.ボ ストンは米国でも社会資本ストックが豊かで,美しい街並 みや,オルムステッド,エリオットの時代からの水と緑のネッ トワークを誇り,既に1970年代以降は公共交通網の整備 に力を入れてきた都市であった.景気による浮沈はある とはいえ,豊かさをストックとして備えた都市であった. 1950年代に建設した高架道路の地下化工事も始まり,郊 外地下鉄駅に大規模駐車場を設置したP&Rのシステムも 一通り完成していた.我が国の地方都市と比べることに 無理はあるが,社会資本の違いは歴然としていて,まだま だ日本は経済や生活環境の改善が先で,地球環境を語 れるレベルに達していないと感じたものである. 当時,ボストンでは1959年に廃線となったオールドコロ ニー鉄道を復活させる事業が進んでいた.この鉄道はメ イフラワー号で有名なプリマスとボストンとを結び1830年 代に開業した歴史的に意味のある鉄道ではあったが,通 常,1人の乗客獲得に要する費用として数ドル程度が標準 的なLRT整備費に比べ,この事業にはそれを数倍は上回 る費用が投下されたことは驚きであった. ほぼ同じ乗客が毎日利用することを考えると,10年で5 万ドルの支援と同等になり,すなわち,すべての乗客に高 級車を1台ずつ与えることと同じ費用を投下していたこと になる.車なら10年しかもたないが,鉄道なら長く利用で きるという違いはあるものの,費用対便益では説明がつ かない気がした.ところが,この事業には落ちが付き,開 業から10年で線路枕木の設計ミスによる強度不足が判 明し,15万本の枕木すべてを取り換える事態に陥った. GHG削減だけを考えるなら,本当に電気自動車でも貸与 した方が安上がりの事業になってしまった. よく知られているように,米国では1970年代にいち早く ガソリン税を公共交通整備に充当する仕組みを作り,自特 集 論 ⽂ ▶ これからの交通運輸の課題と展望
地球温暖化と気候変動に対応する交通体系・
計画制度のありかた
動車を増加させない取り組みを進め,その制度は今も維 持されている.効果はさほど上がっていないが,フランス 同様に各地に路面電車が再生され,良好な都心環境を 取り戻しつつあることも事実である. さて,この15年間に米国は計画の制度と言う点ではど のような進化を遂げたのであろうか.この答えは比較的 簡単である.1991年のISTEA制定時に構築された州政府 とMPOとが連携しながら長期の地域交通計画を策定し, そこで定めた将来目標の達成に資する各種のプロジェク トや対策を実施する法的枠組み(図―1)は,何度か政権 が替わったが,その根幹を変えることなく現在に至ってい る2).1990年代後半には,アトランタ都市圏で,交通計画 の実行に伴う大気環境悪化の防止対策が十分に説明さ れず,訴訟問題に発展する事態が生じ,その後,交通計画 と大気環境との整合性確保が実効性を求められるように なったが,これは本来の枠組みの実質化が求められたも のであり,交通計画制度の根幹に問題があったためとは 言えない. 2007年には連邦最高裁判所が二酸化炭素を含むGHG を大気浄化法における大気汚染物質と認めたことから, 2010年末には連邦環境庁(EPA)が13州に対して大気浄 化法に基づくSIP(州実行計画)を概ね1年以内に改訂し て,GHG削減を含めるよう要求している3).今後は,先の 図―1に示した都市圏交通計画と大気浄化法との整合性 確保において,GHGを含める要求も予想されるが,このよ うな制度上の変化は,安定的な交通計画の根幹が法制度 として備わっている環境であれば,大きな混乱なく対応し て行けると思われる.
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温暖化と気候変動への対応の現状 3.1 米国・英国・仏国の地域交通計画の仕組み 我が国を除けば,1990年代以降,主要国の地域計画制 度は一定の改善を果たしてきた.図─2に各国の近年の 地域の計画体系を示す4).上述の米国では1990年代に 入って交通社会資本を整備推進するために地域の合意 形成が重視されるようになり,長期計画で目標を共有する 段階から市民参画を法制度化して現在に至っている.フ ランスでは行政裁量に基づく国土の道路網計画が1990年 代終わりには実質的に破綻し,SRU法体系に基づく都市 圏の土地利用計画および交通計画の体系に,道路網の 位置づけも包含されるようになっていった.なお,2007年 の政権交代によって環境政策は一層重視されて現在に 至っている5). また,近年の英国では,地域計画の法制化や地域計画 主体の強化が図られたり,国家的な社会資本の計画確定 手続きの新たな法制化が進められたりと,気候変動にも 配慮した地域計画や社会資本整備計画の法制度改革に 力を注いできた6),7).2010年の政権交代で,広域の地域 空間戦略(RSS)の策定は時間がかかり複雑との理由か ら,それを廃止して地方自治体単位の空間計画を重視す る方向に戻るようである.この背景には,住宅開発を必要 とする人口増加国の地域事情等があると考えられるが,広 域調整が自治体間に委ねられる点は懸念材料として残る. さて,これらの改訂は,すべてが地球温暖化や気候変 動への対応を主目的にしたものではないが,近年は,こ れらの計画制度において,地球温暖化や気候変動への 州実行計画(SIP) の策定 大気汚染の 適合分析 交通計画から 事業化へのプロセス 交通計画の 適合性の検討 地域交通計画(RTP)の策定 (20年程度の長期計画) 主要投資調査(MIS) と環境評価案 交通改善プログラム(TIP) と州独自プログラムの策定 個別のプロジェクトの事業化 環境影響評価プロセス <MPO> <MPO/州> 反映 <MPO> <州/MPO> プログラムの 適合性の検討 修正 修正 総事業費/総財源 の明示 計画と財源に対する パブリックインボルブメント コリドー等の 代替案比較と 環境影響評価 不足分の増税に 対する住民投票 個別事業費と 財源の明示 個別事業の計 画と環境評価 修 正 ■図―1 1990年代中頃の米国における都市圏交通計画の体系なっている12). 改訂中のフロリダ州タンパ都市圏長期交通計画2035 では,消費税を1%上げることで,今後の公共交通施設整 備等を推進できることを,そのことの重要性と共に伝える 努力を惜しまない.その一方で,フロリダ州法で推奨され るGHG削減のための交通と土地利用との統合戦略を策 定し,長期交通計画の目標にはGHG排出の最小化を掲 げる13). 行政も責任を持ち,市民にも責任や負担を求める.そ のための目標の共有がPI(パブリックインボルブメント) の取り組みとして各地で20年に亘って地道に継続されて いる.これが米国の長期計画策定の姿なのである.MTC でも,自転車網の整備が費用便益比で1を下回るが,それ でも地球温暖化,健康,アクセス性向上等から推進すべき と示されている.そういう方針が市民と共有できれば実 現も可能になる. さらに,環境部局ではない連邦道路局(FHWA)で あっても,気候変動への対応が交通計画の法制度に一層 明確に組み込まれる事態を予期し,長期計画の目標,手 段,評価指標の各レベルでの対応を,様々な主体と協力 的に行うとともに,土地利用との統合や予算獲得とのリン クなど,計画における配慮方法や要点等を積極的に取り まとめ公表している14). 先にも述べたように,温暖化対策は長期に亘る社会の 対応を,その計画目標や主要な手段,あるいは評価指標 等に含めるように修正されつつある.そのような改訂や対 応が各国で容易に行えるのは,基盤となる計画の法制度 が確固として存在しているからに他ならない. 3.2 米国MPO制度にみる気候変動への対応 たとえば,ニューヨーク州では2002年のエネルギー計 画策定にあたり,州内のMPO(都市圏計画機構)に対し て,交通計画や交通改善プログラムにエネルギー消費や GHG排出の推定値を記載するよう要請し,その結果13都 市圏すべてが対応している8).シアトル等でも交通計画策 定時に気候変動に関わる膨大な意見が提出されており, GHG削減を計画内容に反映することが自然に行われる 状況になっていると推察できる9). 一方,カリフォルニア州では,地球温暖化対策に関わる 法案を続けて可決し,都市圏交通計画との連携を一層 強化している.これらは参考文献10),11)に詳しいが,た とえば,サンフランシスコ都市圏(MTC)の地域交通計画 でも,長期計画の目標の1つにGHG削減が示されている. ただし,各交通施策を順調に実施したとしても,目標とす る削減レベルには遠く及ばないことが明らかで,今の行 動の延長上にはゴールはないことが示されている.この ことも長期計画の役目であり,市民に計画の効果の不足 や財源の不足などを訴えることが計画の重要な役割に 計画方針書 PPS 都市圏 長期交通計画 RTP/LRTP 国レベル 州・ 県レベル 都市圏 レベル フランス 英国 米国 日本 Plan 国土整備方針 DTA 地域空間戦略 RSS 20yrs 20yrs
Policy Program Study
10-15yrs
law option
5yrs
Compre-hensive transport Road
都市圏 交通改善プログラム TIP 3yrs 州長期交通計画 Plan SLTP 主要投資調査 MIS 総合交通調査 MMS 地域交通戦略 RTS 15yrs SAFETEA-LU (計画・事業法) Performance-based program 都市圏統合計画 都市圏統合計画 SCOT SCOT 地方交通計画 地方交通計画 LTP LTP 地方交通計画 LTP 都市圏交通計画 PDU PDU 都市圏交通計画 PDU 都市圏統合計画 SCOT 【SRU法】 長 期 ビ ジ ョ ン 長 期 ビ ジ ョ ン 州交通改善プログラム STIP 凡 例 3yrs 20yrs 国土形成計画 (全国計画) 国土形成計画 (広域地方計画) 都市圏 総合交通計画 地域総合 交通戦略 ■図―2 近年の地域・都市圏計画の体系(文献4)を一部修正)
取り組みを前提とすることから,各国が策定してきた地域 計画のように,20年を超える将来の目標や施策の重要性 を地域単位で共有する活動と共通性が高い.また,国が 方向を示し地方が実践する役割分担が想定される分野 も多いことから,地域計画の体系と統合的な制度設計を 進めることで,継続的な効果を発揮することが期待され る.後述するように我が国では,各国が努力して整備して きた地域計画の制度設計を十分発達させていなかった ことから,温暖化対策についても,自治体や地域単位で 長期的な対応を行う基盤を形成しづらい決定的な弱点 を抱えている. 3.3 自転車交通政策にみる法的枠組みの重要性 さて,最近では各国で自転車交通政策が,地球温暖化 対策や健康にも効果があるとして注目されるようになって いる.自動車王国の米国も例外ではないが,米国がどれ ほど真剣に自転車を展開するのか疑問視する向きも少な くないだろう.自転車台数が自動車台数を上回るとされ るわが国ですら,まだまだ車道空間を自転車に与えるコ ンセンサスの形成に時間がかかっており,このような疑問 も当然である. 図─3には米国の自転車政策を法律,政策,計画,事業 の各レベルに応じて描きこんでみた15).ここでは連邦の 制度と州としてカリフォルニアを例に重ねて記してある.米 国では元々自転車交通が少なく,我が国のように長年に 亘り放置問題や歩道走行の危険などの問題を抱えた国 とは観点も異なることに注意は必要であるが,近年の法 制度化や取り組みには観るべき点がある. 何故,遅れていた自転車政策に対して,このように体系 的に取り組めるのか,その背景を改めて特徴として整理し てみると,まず浮かび上がる第1の特徴は,先にも指摘し た,「継続性」ということになる.ISTEA以降の18年間,変 わらない計画制度を有していることで自転車交通政策に ついても,一過性で終わらせない政策や計画の継続性を この枠組みのなかで維持することが可能なのである. 第2の特徴には,「法定理念」を挙げられる.道路は自 動車のためにあるのではなく,すべての利用者が安全に 利用できるようにしなければならない.カリフォルニア州 のComplete Street法に示されたような基本理念の法定化 がなされ,地方計画への反映の義務づけなど明示的な条 件が示されれば,理念を浸透させることも可能になる. 第3の特徴として,「計画手続き」を挙げられる.長期計 画,短期プログラム,事業化の各段階でPIが行われる.沿 道コミュニティや自転車利用者の意見を踏まえることで, 社会的合意を形成しやすい法的手続きの仕組みが備 わっている.これが自転車走行空間整備などの場面でも 連邦 州 (CA) 都市圏 (MTC) 市 (San Francisco, Davis) 法律 法律・計画で 示された政策 計画制度 事業制度・ プロジェクト :連邦 :州 ISETA(1991)から SAFETEA-LU(2005)まで 連邦法による交通方針の明確化 州・都市圏計画の制度規定 州長期交通計画 LRSTP(CTP2025, 2006年に確定) CTP2035のPI実施中, 自転車の記述 州短期プログラム STIP 政策方針 ISTEA以降,継続的な支援 (政権交代後も基本は不変) 加州自転車歩行者の青写真 (2002)州の方針(2001年州予 算法への補足報告書) 事業への連邦補助要件は長期計画, 短期プログラムへの記載が必要 連邦の自転車補助プログラムは (Title23 Chapter2, 217)に記載 政策方針定型配慮 (自転車利用をす べての計画・設計 時に考慮すべしと の方針) 都市圏交通計画 Transportation 2035 地域自転車計画RBP 20億円(2001) →1,000億円(2008) 例:自転車総合計画2006(Davis) 自転車計画1997(SF)(計画更新, 提訴あり,環境評価) 連邦法USC23,連邦施行規則 連邦法USC23,連邦施行規則 CFR23(州・都市圏の計画制度) CFR23(州・都市圏の計画制度) (自転車交通の整備スキーム)自転車交通の整備スキーム) Complete Streets法(2008) 全ての利用者に配慮し,郡,市が 計画策定時にCS方針を義務付け 加州道路法 加州道路法 (含:自転車交通法)含:自転車交通法) 地方自治体の自転車計画が策 地方自治体の自転車計画が策 定可能に,郡・MPOへの計 定可能に,郡・MPOへの計 画の承認依頼など 画の承認依頼など SAFETEA-LUSAFETEA-LU,交通増進活動プ,交通増進活動プ ログラム ログラム(TETE),アメリカ回復再,アメリカ回復再 投資法2009 投資法2009(交通増進交通増進)),,CMAQ 改善プログラム,安全な通学経 改善プログラム,安全な通学経 路プログラム,ハイウェイ安全 路プログラム,ハイウェイ安全 改善プログラム,非電動交通パ 改善プログラム,非電動交通パ イロットプログラム 等 イロットプログラム 等 SAFETEA-LU,交通増進活動プ ログラム(TE),アメリカ回復再 投資法2009(交通増進),CMAQ 改善プログラム,安全な通学経 路プログラム,ハイウェイ安全 改善プログラム,非電動交通パ イロットプログラム 等 主要プロジェクトに伴う整備, 主要プロジェクトに伴う整備, 地方交通基金,特定団体の消費 地方交通基金,特定団体の消費 税及びレベニュー債,州交通改 税及びレベニュー債,州交通改 善プログラム,交通計画・開発 善プログラム,交通計画・開発会 計,大気浄化と交通改善法1990 計,大気浄化と交通改善法1990 ( 建 議1 1 6),自 転 車 交 通 会 計 ( 建 議1 1 6),自 転 車 交 通 会 計 (BTA),環境増進緩和基金 等 (BTA),環境増進緩和基金 等 主要プロジェクトに伴う整備, 地方交通基金,特定団体の消費 税及びレベニュー債,州交通改 善プログラム,交通計画・開発会 計,大気浄化と交通改善法1990 ( 建 議1 1 6),自 転 車 交 通 会 計 (BTA),環境増進緩和基金 等 連邦法USC23,連邦施行規則 CFR23(州・都市圏の計画制度) (自転車交通の整備スキーム) 加州道路法 (含:自転車交通法) 地方自治体の自転車計画が策 定可能に,郡・MPOへの計 画の承認依頼など ■図―3 米国の自転車政策の体系図−連邦とカリフォルニア州を例に−(文献15)より抜粋)
有効と考えられる. そして第4の特徴には,「ルーチン化」を挙げられる.計 画・設計時に必ず自転車交通に配慮すべしというMTCの 自転車交通計画の目標では,このような従来の不備を補 う新たな方針が強調されることで,高速道路から駅前広 場まで,いかなる交通計画においても自転車利用につい て明示的に配慮すべきと理解されるようになる. 3.4 我が国の地方都市の取り組み 以上のように,自転車交通に関して後進国といえる米国 において,理念のレベルから事業・財源に至るまで関係 性を持って制度設計が進んでいることを伺い知れるが,一 方,我が国では自転車ネットワーク整備に対応する計画・ 事業の手続きは未だ曖昧で安定性を欠く.裁量に基づく 事業では,事業継続が保証されず,責任分担も不明確で あり,国民や利用者の目から無駄な整備と評される懸念 も残る16).法定の理念レベルや長期計画の目標共有レ ベルが弱いのであるが,温暖化対策や気候変動への継続 的な適応策の推進では,正にこの点が核心になるのでは ないだろうか. このような状況を尻目に,最近の都道府県の地球温暖 化対策条例の制定状況をみると,既に神奈川県[2009] や京都市[2010]等の条例17),18)では,公共交通や自転 車の利用促進を事業者や県民・市民に課すと同時に,県 や市が率先して自動車交通の削減策や公共交通機関等 の利用環境を整備する義務等が示されており,その実行 力が今後問われることになろう.また,温暖化対策推進法 に定める実行計画との関係の記載,独自の計画策定とそ の内容を記載した自治体,東京都[2008]のような独自 の取引制度と罰則規定の導入を行った自治体など,国の 制度化の動静に配慮しつつも,各地域が独自の制度設計 に向かう状況にあり19),地方分権の時代にあって当然の 取り組みと考えるべきであろう. 3.5 都市間および国際交通への制度展開 地球温暖化対策と都市間交通との関係性について,特 に各国の詳細は参考文献10),11)に譲るが,一般に高速 道路や航空輸送に比べて鉄道輸送のエネルギー効率が 優れているものの,これら複数交通機関を横並びに評価 して,総合的な計画のもとに整備決定する仕組みは,各 国で必ずしも十分ではない.また,GHG削減の観点から 計画を定める国はまだ多くはないと思われる.しかし,地 球温暖化問題への国家レベルでの対応が緊急性を増す 中で,都市間交通システムの全体体系を温暖化対策との 関係で検討する国が今後増すことも考えられる. しかし,これを計画法制度の側から見ると,地域計画の 範囲を超える都市間交通が,地域単位の総合的な計画 検討の枠をはみ出すことから,個々の交通機関の計画に 成らざるを得ないだろう.国土計画でこの問題に対処で きない国では,たとえば高速鉄道計画が高速道路や空港 計画と必ずしも整合的に進められない事態も生じる. 我が国ではGHGの野心的な削減目標とは裏腹に,高 速道路の完全無料化のように車利用を促進しGHGを一 見して増やす政策が,両者の整合性を説明することもなく 提案された.このような国レベルでの矛盾が放置されず, 国民的な目線でも確固とした理念に基づくことを理解で きるような制度的枠組みが求められる20).この点では今 後,温暖化対策に関わる新たな立法化の中で配慮事項 等による枠組みづくりを含めた検討が進められることが 期待される. 一方,国際交通については,国家間の協定で定められ ると同時に,常に競争に晒される環境から,地球温暖化 対策の枠で単純化することは容易ではない.EUや米国の ように特定地域ではルール化が進むものと考えられるが, 我が国を含む東アジアや東南アジアのように,社会経済 条件の異なる多数の国が存在する地域で統一的な枠組 みを策定することは容易ではないだろう.例えば,国際航 空交通からの排出量削減は,京都議定書の枠外であった ことから,国を超えたルール化が進展せず,EUが先行的 に排出権取引制度を航空交通にも当てはめる方針を決 めた経緯がある.2010年にはICAOが今後のGHG削減 に向けた方針として,年率2%削減で2050年には0.44まで 削減することを示したことから,今後はアジア地域でも議 論の進展が期待される21).