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日本動物心理学会第72回大会発表要旨

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Academic year: 2021

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(1)

・発表要旨本文は発表者から送られてきた原稿をそのまま記載した。 ・発表者が複数の場合,主発表者の前に○印を付した。

・非会員発表者には*印を付した。

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 自発的物体再認テストは,見本期に同一の2つの 物体を提示し,一定の遅延期ののちにテスト期とし てすでに示した物体と新奇な物体を対提示した際に, それら物体への探索時間を比較することによって動 物の物体の記憶をテストするものである。本研究で はグルタミン酸受容体の一種であるN-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体に着目し,長期遅延を伴 う物体再認テストの検索過程に対する海馬NMDA 受容体遮断薬の効果を検討した。  被験体は8~9週齢のWistar系雄ラットを用いた。 見本期1として,2つの同一な物体をアリーナ内に提 示し,被験体に自由探索させた。見本期は5分間を5 回行い,翌日に同様の手順で見本期1とは異なる物 体を用いて見本期2を行った。見本期とテスト期の 間の遅延期の長さから,被験体を遅延1週間群,3週 間群,6週間群に振り分けた。遅延1週間群は見本期 の1週間前に,遅延3週間群と6週間群はテスト期の1 週間前に薬物投与のためのガイドカニューレ埋込手 術を行った。テスト期には,見本期で提示した2つ の同一な物体の一方を新奇な物体と入れ換えて提示 し,それぞれに対する被験体の探索時間(ラットの 鼻が物体から約2㎝以内に接近している状態)を計 測して,新奇物体弁別率[(新奇物体への探索時間 /両物体への探索時間の合計)×100](%)を算出し た。テスト期は見本期1,2に対応して連続した2日 間で行い,それぞれ15分前にNMDA受容体拮抗薬 であるAP5(20mM)またはリン酸緩衝液(PB) を両側の背側海馬に1μLずつ投与した。  その結果,遅延1週間群はAP5条件,PB条件とも に新奇物体を見慣れた物体より長く探索し,弁別率 が理論値(50%)より有意に高かった。遅延3週間 群のPB条件では新奇物体を50%より長く探索したが, AP5条件ではその傾向がみられなかった。遅延6週 間群はAP5条件,PB条件ともに弁別率が50%と差 がみられなかった。このことは,3週間前の物体記 憶の検索には海馬NMDA受容体が重要な役割を果 たすが,一方で1週間前の記憶の検索には不可欠で はないという可能性を示しており,記銘後の時間経 過に伴って検索時の海馬NMDA受容体の重要性が 変化する可能性が示唆された。  イヌは自力では解決できない場面(解決不可能場 面)において,ヒトを注視する行動を示す。このヒ ト注視行動は,オオカミではヒトに育てられた個体 であってもあまり見られない。従って,ヒト注視行 動は家畜化の過程で発生した,イヌに特徴的な行動 であると考えられる。しかし,その遺伝的基盤につ いてはまだ解明されていない。ドーパミンやセロト ニンなどの神経伝達物質に関連する遺伝子の多型は, ヒトを含む様々な動物種の性格・行動特性に関連す ると言われているが,それらの遺伝子は社会性の高 い種で多型が見られることが多く,社会性との関連 も示唆されている。本研究で我々は,解決不可能場 面でイヌが示すヒト注視行動と,様々な動物種で行 動との関連が示唆されている,ドーパミン受容体 D4遺伝子(DRD4)の多型との関連を検討した。 イヌ55頭を対象に,フタ付きの透明な容器に報酬を 入れ,自力ではとれないようにした際の反応を観察 する行動テスト(解決不可能課題)をおこなった。 解決不可能課題でイヌが飼い主に対して示す注視行 動の生起頻度,持続時間,潜時を記録した。課題の 終了後,被験体からDNAサンプルを採取し,DRD4 の3領域(exon1,exon3,intron2)の遺伝子型を 判定した。DRD4の遺伝子型と注視行動との関連を, 一般化線形モデルを利用して解析した。その結果, 3種類の行動指標(頻度,持続時間,潜時)全てに ついて,intron2の多型との有意な関連が見られた。 intron2にはPとQの2種類の対立遺伝子(アレル) が存在するが,Pアレルをもつ個体は,もたない個 体に比べて解決不可能場面における注視行動の生起 頻度が高く,持続時間が長く,潜時が短かった。ま た,生起頻度に関しては性別,年齢の効果も見られ, 潜時に関しては年齢の効果も見られた。本結果は, DRD4のintron2における多型が,イヌの社会的行 動特性に影響を及ぼす可能性を示す。intron2にお ける多型は,先行研究で遺伝子発現に影響すること が報告されているため,多型がもたらす発現の変化 が社会的行動特性に影響を及ぼす可能性が考えられ るが,その詳細な経路については今後の検討が必要 である。また,本研究では様々な品種を含んだサン プルを用いているため,品種差の検討も今後の課題 である。 OA-1 ラットの長期自発的物体再認記憶の検索過 程における海馬NMDA受容体の役割 筑波大学 ○髙野越史・山田一夫・一谷幸男 OA-2 イヌにおけるヒト注視行動とドーパミン受 容体D4遺伝子の関連 京都大学 ○堀 裕亮・岸 尚代 *井上-村山美穂・藤田和生

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 グルタミン酸NMDA受容体の活性化は様々な記 憶障害に対する回復効果を示す。自発的物体再認テ ストおよび位置再認テストは,それぞれ新奇な物体 および物体の位置に対する動物の自発的探索傾向を 利用した再認記憶テストであるが,その遂行障害に 対するNMDA受容体活性化の効果は調べられてい ない。本研究では両テストにおいて,ムスカリン性 受容体拮抗薬スコポラミン(SCOP)による再認障害 に及ぼすNMDA受容体部分的作動薬D-cycloserine (DCS)の効果を検討し,NMDA受容体の活性化が コリン系機能不全による物体・物体位置再認障害を 回復するかどうか調べた。  被験体としてWistar-Imamichi系雄ラット(物体 再認テスト11匹,位置再認テスト12匹)を用いた。 どちらのテストにおいても,オープンフィールド (OF)内の2ヶ所に同じ物体を配置し,5分間ラッ トを自由に探索させた(見本期)。15分間の遅延の後, 物体再認テストでは片方の物体を異なる物体に置き 換え,位置再認テストでは片方の物体を異なる位置 に移した状態で,ラットをOFに戻し,2分間自由に 探索させた(テスト期)。薬物は,SCOP 0.5㎎/ 溶液およびDCS 7.5,15あるいは30㎎/溶液を生 理食塩液(SAL)を溶媒として作成した。見本期 60分前にSCOPあるいはSALを,見本期30分前に DCSあ る い は SAL を 腹 腔 内 投 与(1  / ㎏ )し, SAL+SAL,SCOP+SAL,SCOP+DCS 7.5,15, 30の5条件を設定した。各条件は被験者内計画でラ ンダムな順にテストした。  その結果,両記憶テストにおいて,SAL+SAL条 件で認められた新奇物体への選好(あるいは新奇位 置物体への選好)はSCOP投与によって減少したが, その障害はDCS投与により回復した。一方,DCS 投与の有無に関わらずSCOPを投与された4条件に おいて物体総探索時間の減少,OF内周辺部滞在時 間の上昇が認められた。また,OF内移動距離につ いてはいかなる薬物によっても有意に変化しなかっ た。以上より,NMDA受容体活性化は,コリン系 機能不全による物体・空間情報の再認障害を回復す るが,弁別行動以外の行動的変化に対しては必ずし も影響しないことが示唆された。  オスマウスの求愛時にはメスに対して長く複雑な, 歌とも呼ばれる超音波発声が見られる。この発声は 無音区間で区切られたシラブルと呼ばれる多様な音 を単位として構成され,条件や状況によって異なる 時間・音響的構造を示す。また求愛は重要な情動発 現の一つであり,求愛時の発声は情動が深く関与す る行動であるといえる。そこで本研究では,情動と 発声行動の関係を探るため,情動と関連の深い扁桃 体の損傷手術を行い,扁桃体損傷が求愛歌に与える 影響を検討した。 方法 10-20週齢のC57BL/6 Ncr(N=15)を被検 体として用いた。15分間の録音を扁桃体損傷前後7 日間行った。録音時には10分の装置順化後,メスを 直接呈示した。録音テスト後,扁桃体損傷による情 動状態・行動量への影響を検討するため,高架式十 字迷路テストとオープンフィールドテストを行った。 すべての実験終了後,還流固定を行い,脳切片を作 製して損傷部位を確認した。 結果と考察 扁桃体損傷は長く複雑なシラブルを顕 著に減少させた。特に倍音で長いシラブル(harmonic) は著しく減少し,マウント数も有意に減少した。扁 桃体は性行動の制御中枢としても働き,扁桃体損傷 は性行動を著しく損傷する。さらに長いシラブルは マウント時やイントロミッション時に頻繁に発声さ れることから,長いシラブルの減少は扁桃体損傷に よる性行動の抑制の影響だと示唆される。一方,そ れ以外の発声は完全には抑制されず,手術前の録音 時にほとんど発声しなかった個体が手術後に著しく 発声するようになった例も見られた。抑制されなかっ た短いシラブルはメスの呈示直後の匂い嗅ぎ行動の 際に多いことから,呼びかけ行動と示唆される。し たがって扁桃体損傷により新奇メスへの警戒応答や メスの拒否行動に対する情動応答の抑制が,積極的 なアプローチの機会の増加を促進し,短いシラブル の出現率の増加につながった可能性も考えられる。  本研究は扁桃体損傷がマウスの求愛歌に影響する ことを示した。その作用機序には扁桃体の機能の異 なる側面である性行動と情動がともに関わると考え られ,それらの関連性の解明にはさらなる研究が必 要である。 OA-3 NMDA受容体活性化はラットにおけるスコポラミン誘 発性の自発的物体および位置再認遂行障害を回復する 理研BSI ○小澤貴明 筑波大学 山田一夫・一谷幸男 OA-4 マウスの求愛歌に及ぼす扁桃体損傷の効果 東京大学・JST ERATO ○松本 結・関 義正・岡ノ谷一夫

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 日内の時間帯による生体外部の環境変化は生体内 物質の分泌量を変化させ,学習や記憶に影響を与え ると考えられる。たとえば,学習の生理学的基礎と 考えられている海馬長期増強は,夜間に多量に分泌 される松果体ホルモン・メラトニンによって増強の 程度が減弱することが電気生理学的実験により明ら かになっている。メラトニンが多量に分泌される夜 間は海馬長期増強が生じにくくなっているため,記 憶成績が低くなると考えられる。しかし,位置再認 課題を用いて記憶成績の日内変動を検討すると夜間 の方が成績は高くなり,電気生理学的知見とは一致 しない。本研究では位置再認課題における記憶成績 の日内変動に対してメラトニンが与える影響を検討 した。位置再認課題は獲得試行とテスト試行から成 り,獲得試行では異なる2つの物体が対角線上に配 置された装置内をラットに探索させ,テスト試行で は一方の物体の位置を新奇な位置に配置して探索さ せた。ラットには新奇性のある対象をより探索する 性質があるため,獲得試行時に提示された物体の位 置を記憶している場合は,テスト試行において新奇 位置に配置された物体を既知位置の物体より長く探 索すると考えられる。テスト試行における総探索時 間に占める新奇位置物体の探索時間の割合を識別指 標とし,学習成績として評価した。明期と暗期が各 12時間の明暗周期で飼育したラットを用いて,明期 と暗期いずれかの時間帯にメラトニン(10㎎/㎏) もしくは生理食塩水を腹腔内投与(10/㎏)し30 分後に獲得試行を行った。訓練試行の1時間後に短 期記憶テストを行った結果,明期のメラトニン投与 群と暗期の生理食塩水投与群でのみ識別指標の値が チャンスレベルよりも有意に高く,新奇位置に配置 された物体を既知位置の物体よりも長く探索してい た。これらの群において,短期記憶テストの時点で は訓練試行時に提示された物体の位置を記憶してい たと考えられる。さらに短期記憶テストから23時間 後,新奇位置に配置した物体を別の新奇な位置に配 置した長期記憶テストを同一個体に対して行った。 全ての群において識別指標の値とチャンスレベルと の間に有意差はなかった。位置再認課題の短期記憶 の成績に対してメラトニンは明期では促進的,夜間 には抑制的な影響を与えており,日内の時間帯によっ てその影響は異なる可能性が考えられる。  負パターニング課題の解決に海馬機能が重要であ ることが示されている。しかし,先行研究の多くは 損傷や薬理学的手法を用いた研究であり,負パター ニング課題と海馬の電気活動(海馬脳波)の関係に ついてはほとんど研究されていない。そこで,本研 究では学習初期から負パターニング課題中の脳波を 測定し,海馬機能が重要でないと考えられる単純弁 別課題中の脳波と比較検討を行った。  被験体は120日齢のWistar系オスラットを用い, 装置は1レバーオペラント箱を用いた。ラットにま ずレバー押し反応形成を訓練し,その後,連続強化 スケジュール,VI30秒を訓練し電極挿入手術を行っ た。1週間の回復期間後VI30秒を1セッション,そ の後,負パターニング課題もしくは単純弁別課題を 訓練し,この訓練中の脳波を測定した。  負パターニング課題では音や光が単体で提示され たときのラットのレバー押し反応は強化し,これら の刺激が同時に提示される複合刺激に対する反応は 強化しなかった。単純弁別課題では音刺激が提示さ れたときのラットのレバー押し反応は強化し,光刺 激が提示されたときのラットのレバー押し反応は強 化しなかった。被験体間で刺激のカウンターバラン スをとった。  セッションは強化試行が60試行,非強化試行が60 試行の計120試行を1セッションとした。試行間間隔 (ITI)は平均30秒とした。  脳波測定ではラットの海馬CA1に電極を挿入した。 脳波は刺激提示前1秒から刺激提示後5秒までを wavelet解析を行った。  負パターニング課題の複合刺激提示2-5秒間にお いて学習初期よりも学習後期で海馬θパワーが増加 した。また,学習後期において負パターニング課題 の複合刺激提示2-2.5秒間の海馬θパワーが単純弁 別課題中の海馬θパワーより増加した。  本研究では学習初期から負パターニング課題中の 脳波を測定し,単純弁別課題中の脳波と比較検討し た。結果は学習後期において単純弁別課題より負パ ターニング課題で海馬θパワーが増加した。この結 果は負パターニング課題において海馬機能が重要で あることを示した損傷研究の結果と一致する。また, 負パターニング課題の複合刺激に対する海馬θパワー が学習初期より学習後期で増加したことは学習に伴っ て海馬機能の重要度が変化している可能性を示して いる。 OA-5 ラットの位置再認課題におけるメラトニン 腹腔内投与の効果 上智大学 ○高橋良幸 専修大学 澤 幸祐 上智大学 岡田 隆 OA-6 負パターニング課題学習に伴うラット海馬 脳波の検討 広島大学 ○崎本裕也・武田 梢・坂田省吾

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 刻印刺激は,餌と同様に,ニワトリのヒナのオペ ラント反応を強化する刺激として機能する。本実験 は,刻印刺激と餌の強化機能を比較するために,両 刺激を2キー並立強化スケジュールの強化刺激とし て提示したときのヒナの選択行動を調べた。  孵化直後の5羽のヒナに,赤筒を呈示して刻印訓 練を行った。刻印訓練終了後,ヒナが赤筒に刻印づ けられたかどうかを調べるため,赤筒と新奇な刺激 (緑球)を同時にヒナに呈示して,刻印テストを行っ た。赤筒と餌を同時に呈示した刻印テストも実施し た。これらの刻印テストにおいて,赤筒と他の刺激 に接近した全時間の8割以上の時間,赤筒付近に滞 在したヒナを,赤筒に刻印づけられたヒナとし,そ の後,そのヒナのみを被験体とした。刻印テスト終 了後,刻印刺激と餌を強化刺激としたオペラント条 件づけを行って,最後に,2つの刺激を2つのキーへ のそれぞれの反応に随伴して呈示する並立強化スケ ジュールを実施した。各キーに対する並立強化スケ ジュールの値は,EXT-VI5s,VI3s-VI7s,VI5s-VI5s,VI7s-VI3s,VI5s-EXTの5種類であった。 それぞれの強化スケジュールを各ヒナに対して3セッ ションずつ行った。スケジュールの順序は,セッショ ン間でランダムであった。  並立強化スケジュールの実験の結果,全てのヒナ において,餌に対する刻印刺激の相対選択率は,餌 に対する刻印刺激の相対強化率に対応していた。な お,並立強化スケジュールで刻印刺激を選好したヒ ナは2羽,餌を選好したヒナは2羽であった。他の1 羽は,刻印刺激と餌のどちらの刺激に対しても同程 度の選好を示した。  以上の結果から,質の異なる強化刺激に対する選 好を,並立強化スケジュールを用いることで,幼い ヒナであっても明らかにすることができたといえる。 さらに,個体によって,刻印刺激や餌に対する選好 が異なることも明らかとなった。このように,刻印 刺激と餌に対する選好が個体によって異なる結果と なったのは,①反応率が安定しないで並立強化スケ ジュールの値を変えたこと,②各強化刺激に対する 確立操作を明確に操作しなかったこと,といった並 立強化スケジュールの実験手続き上の問題が考えら れる。これらの問題を,今後検討する必要がある。  本研究の目的は,Morris型水迷路(場所課題) を用いて,空間記憶の獲得後における長期に渡る NMDA(N -methyl-D-aspartate)型グルタミン酸 受容体の阻害が忘却(想起成績の低下)に与える影 響を検討することである。  予備実験では,4群のラット(Wistar系)に,訓 練終了から異なる保持期間(1,7,14,28日間)を 経た後にプローブテストを行った。訓練は,プール 内の一定の位置にある水面下の逃避台を探索させる 場所課題(4日間×4試行)であった。プローブテス トでは,逃避台を取り除いたプール内を60秒間自由 遊泳させ,訓練時に台があった四分円を探索した割 合(目標象限滞在率)を計測した。その結果,1日 後の群でのみ,目標象限滞在率がチャンスレベル (25%)を有意に上回った。このことから,本研究 の訓練手続きでは,逃避台位置に関する記憶の保持 が7日後には低下すると結論付けた。  次に,別の個体を用いて本実験を行った。投与薬 物により2群設定した。訓練(予備実験と同様)の 翌日に左側脳室へのカニューラ挿入及び浸透圧ポン プ(Alzet製,MODEL 1007D)の埋め込み手術を 施し,NMDA受容体阻害剤D-AP5(30mM)また はVehicle(人工脳脊髄液)の脳室内慢性投与(約 6日間,投与速度0.5μ/h)を開始した。投与完了 後(訓練の7日後)におけるプローブテストの結果, AP5投与群では目標象限滞在率がチャンスレベルを 有意に超えた一方で,統制群は有意に超えなかった。 つまり,訓練後のAP5投与が逃避台位置に関する記 憶の保持を促進したといえる。  以上をまとめると,水迷路課題獲得の7日後に生 じる空間記憶の忘却は,獲得後のAP5脳室内慢性投 与によって抑制されることが明らかとなった。この 結果は,空間記憶の獲得後にはNMDA受容体の通 常の活動によって忘却が生じることを示唆している。 OA-7 刻印刺激と餌を強化刺激とした並立スケジュー ルにおけるニワトリのヒナの選択行動 常磐大学 ○長谷川福子・森山哲美 OA-8 水迷路課題獲得後のAP5脳室内慢性投与は ラットの空間記憶の忘却を抑制する 同志社大学 ○篠原恵介・畑 敏道

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 我々の環境世界は網膜像上に投影される。初期視 覚野では網膜像の空間関係(レチノトピー)が保持 されるが,高次視覚野になるに従ってニューロンの 受容野は大きくなり,単純なレチノトピーは保持さ れない(Boi et al., 2010)。我々は,刺激の時空間 的な特性を変化させることによって,レチノトピー・ ベースの視覚処理と非レチノトピー・ベースの視覚 処理を切り分ける,新たな視覚刺激を考案した。こ の視覚刺激を使った弁別課題をヒトとハトそれぞれ に課すことで,それぞれの種が有する視覚システム の特性を明らかにした。  3名の大学生および3羽のハトに,円盤の回転方向 を弁別する課題を訓練した。刺激は一連のフレーム を連続呈示することで構成した。各フレームには標 的円盤を含む2つ,もしくは3つの円盤が呈示され, 標的円盤のみが常に同じ絶対座標で回転した。円盤 数が2つの条件では,標的円盤の左,もしくは右隣 にそれ以外の円盤が呈示された。円盤数が3つの条 件では,標的円盤以外の円盤はフレーム毎に呈示座 標が変化し,最も左(もしくは右)側の円盤が次の フレームでは最も右(もしくは左)側に呈示された。 フレーム間の時間間隔(0~200)と円盤の数(2,3) を操作して,弁別成績に与える影響を検討した。  結果,ヒトはフレーム間隔と円盤数の間に交互作 用が見られた一方で,ハトには交互作用が見られな かった。ヒトは,フレーム間隔が200で円盤数が3 つの条件で,弁別に要する反応時間が増大した。こ れは,フレーム間隔が200の場合,3つの円盤がま とまりとして,左右に反復運動しているように知覚 され,標的円盤の絶対座標を追従できなかったため である。一方,ハトはフレーム間隔に依存せず,標 的円盤の絶対座標を追従できたことを示している。  ヒトが,フレーム間隔によって標的円盤の絶対座 標を追従できなくなったことは,非レチノトピー・ ベースな視覚処理に依存していることを示している。 一方ハトは,どのようなフレーム間隔であっても標 的円盤の絶対座標を追従でき,レチノトピー・ベー スな視覚処理に依存していることを示している。両 種の視覚処理の特性の違いは,彼らの視覚システム の時間解像度の違いを反映していると考えられる。  音楽選好の進化的起源を探るために,ヒト以外の 霊長類の音楽選好を検討した。特に音楽選好の生得 的な面と経験による変化という2つの側面に着目し, リスザルを対象に2つの実験をおこなった。  実験1では生来の音楽選好について検討した。3つ の実験箱を連結し両端の箱の外側にスピーカーを設 置した装置を用いた。1種類の現代ポピュラー音楽 が流れる期間(有音フェイズ)と無音の期間(無音 フェイズ)を設け,有音フェイズでは一定の間隔で 左右いずれかのスピーカーから音楽が再生された。 この装置にサルを16分間入れ,行動を観察した。記 録した行動指標は,各箱滞在時間,箱間移動頻度, 発声頻度であった。音楽を選好するなら音源に接近 し,選好しなければ音源から離れる行動が見られる のではないかと予想した。その結果,音源から近い 箱と遠い箱の間に滞在時間の差は見られなかった。 よってリスザルは音楽を選好しないが,忌避もしな いことが示唆された。また有音フェイズでは無音フェ イズに比べ,発声頻度が有意に低く移動頻度は高い 傾向があった。これは探索行動だと解釈できた。よっ てリスザルにとって音楽とは中立な聴覚刺激である 可能性が示唆された。  実験2では経験による音楽選好性の変化について, 単純接触効果のパラダイムによって検討した。実験 1と同じ装置を用い,一方の箱に入場すると初めて 聴取する音楽が流れ,他方に入場すると20回聴取経 験のある音楽が流れるように設定した。この装置に サルを16分間入れ,行動を観察した。その結果サル は,聴取経験のある音楽の箱に有意に長く滞在した。 この結果は現代ポピュラー音楽に対する単純接触効 果が確認されたことを示唆する。実験1の結果と合 わせると,生来の音楽選好が見られない種であって も経験によって音楽の好みが分化してくることが示 唆された。  以上の結果から,ヒトとリスザルにおける相違点 と共通点が示された。まずヒトでは生得的な音楽選 好がある(Nakata & Trehub, 2004)のに対し,リ スザルでは見られない。次にヒト(Wilson, 1979; Jhonson et al, 1985)もリスザルも音楽に対する 単純接触効果が見られる。よって生得的な音楽選好 はヒトがリスザルとの共通祖先から別れた後に生じ た可能性が示唆される。その分岐以降におけるどの 時点で,どのように音楽選好が生じたのかを明らか にするためにはよりヒトに近縁な種でのさらなる検 討が必要である。 OB-1 非レチノトピー・ベースのヒトとレチノト ピー・ベースのハト 京都大学・日本学術振興会 ○大瀧 翔 日本学術振興会・大阪教育大学 渡辺創太 京都大学 藤田和生 OB-2 音楽の繰り返し聴取がリスザルの音楽選好 に及ぼす影響 京都大学 ○角野祐志・松野 響・藤田和生

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 It has been well documented that we humans have a strong tendency to mimic or synchronize to other’s behavior during social interaction. Moreover these tendencies are known to facilitate affiliation between the interacting partners. However, yet, whether highly social non-human primates also spontaneously mimic or synchronize each other is unknown. Therefore, the present experiment aimed at examining an emergence of synchronized behavior in three mother (mean age: 30.3) and her biological offspring (mean age: 10) chimpanzee pairs in Primate Research Institute, Kyoto University. For an apparatus, two interconnected computer touch-screen monitors were used. During the experiment, pairs of participants sat side-by-side. The participants were required to produce repetitive finger-tapping movements, while an auditory feedback which is responding to their tap was provided. For a data analysis, time difference between the nearest tapping events of two participants was calculated.

 Results revealed that synchronized tapping between pair of participants did not emerge in the chimpanzees. However the synchronous tapping appeared in three human adult pairs, although they were not explicitly instructed to match their tapping movements to others. Additional analysis on tapping speed or tapping variability in the chimpanzees showed the negative result on synchrony is not because they were not interactive each other during the experiment. Overall, we suggest humans seem more sensitive to other’s auditory rhythms than chimpanzees. This might be because we humans use complex acoustic communication during interaction. On the other hand, chimpanzees use tactile communication to maintain social relationship such as grooming. Therefore, sole auditory information of the others’ movement may not be enough for chimpan-zees to produce the synchronous tapping movement.  ヒト以外の霊長類における意識や内省は,ヒトの こころの進化を考えるうえで興味深い。しかし,ヒ ト以外の動物における意識の研究はヒトと同様の言 語報告を主とした方法で進めることはできず,アプ ローチに工夫が求められる。一方,第一次視覚野に 損傷を受けた患者では,主観的な見え(知覚経験) は成立しないが行動には視覚情報が反映される「盲 視(blindsight)」という現象が起きることが知ら れている。盲視を調べることで,視覚処理における 意識と無意識の役割を考えることができるのではな いだろうか。本研究の目的は,大脳右半球後頭部に 嚢胞が見つかり,行動課題から視野の問題も確認さ れているチンパンジー(宮部ら,投稿準備中;兼子 ら,投稿準備中)を対象に盲視の可能性を検討する ことである。盲視における,主観的な見えと,視覚 情報の行動への反映という2つの側面を調べるため, モニターに呈示される光点の有無を報告させるGo/ NoGo課題と,先行呈示された光点の位置を2点の 候補位置から強制的に選択させる強制選択課題を用 いて検証した。チンパンジーはトラックボールを使っ てモニター上のカーソルを操作することで課題を遂 行した。課題中の視線の移動は非接触・非拘束型の アイトラッカーで記録した。Go/NoGo課題では, 半数の試行で画面中央のターゲットへのヒット後, 画面周辺に光点プローブが136呈示された。その 後1000以内に中央エリアからカーソルを移動させ た場合をGo反応,カーソルを留めた場合をNoGo 反応とした。一方,強制選択課題ではプローブ呈示 後,2点の候補位置が呈示された。うち一方はプロー ブと同位置であり,位置の再認を強制的に行わせた。 Go/NoGo課題において,先行研究で確認されてい た患部領域での光点検出率は著しく低く,Go反応 率はNoGo試行時のエラーGo反応と比較しても有 意差は見られなかった。一方,強制選択課題におけ るこの領域内での正答率は53.4%でチャンスレベル よりも有意に高くなった(p<.01)。また,刺激6点 中5点で正反応が誤警報を有意に上回った。この結 果は,光点検出ができないにもかかわらず,強制選 択では位置の再認が可能であることを示し,盲視の 可能性が高いことを示唆している。 OB-3 ヒトとチンパンジーにおける自発的な行動 の同調 京都大学霊長類研究所・日本学術振興会 ○ユ リラ 京都大学霊長類研究所 友永雅己 OB-4 チンパンジーにおける「盲視」 京都大学霊長類研究所 ○植田 想 京都大学文学研究科・日本学術振興会 兼子峰明 京都大学霊長類研究所 友永雅己

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 自身の内的な認知活動を客観視しその認知活動自 体を情報処理の対象とする内省的な認知能力,いわ ゆるメタ認知能力はヒト以外の動物にも分有されて いることが示唆されてきている。しかし鳥類におけ るメタ認知研究はまだ数少なく,また肯定的な結果 においてもメタ認知以外の種々の手がかりを利用し て行われたという解釈が可能である。メタ認知以外 の手がかりとは,たとえば過去の強化履歴や反応時 間など,公共的に得られる情報がそれにあたる。こ れらメタ認知以外の手がかりを利用している可能性 は,メタ認知判断を課題遂行前に行わせること(予 見的メタ認知)によって低くすることができると考 えられている(Hampton, 2009)。予見的メタ認知 はハトにおいて遅延見本合わせ課題を用いて検討 され,否定的な結果が得られている(e.g., Sutton & Shettleworth, 2008)。しかしこの課題では多く の作業記憶容量を必要とするためメタ認知を行う 余地がなかった可能性がある。そこで本研究では参 照記憶課題である系列学習課題を基礎課題として 用い,ハトが課題遂行前にメタ認知判断を行うこと ができるかを検討した。本実験では,3項目系列学 習課題の前に反応すべき刺激を教示する情報を希 求するか否かをハトに選択させた。課題には常に同 じ項目が呈示される「定常リスト」と項目がセッ ション毎に変化する「変動リスト」があり,どちら のリストが呈示されるかは各スタートアイコンに よって弁別することができた。もしハトが自身の知 識状態を認知(メタ認知)できるとすれば,「定常 リスト」の時より「変動リスト」の時に多くヒント 付き試行を選ぶだろうと予想される。テストを行っ たところ,4個体中2個体で「定常リスト」より「変 動リスト」においてヒント付き試行をより多く選択 した(Clara,p=0.022;Neon,p<0.001;George, Roki,p>0.05,Fisher’s exact test)。この「変動 リスト」においてヒント付き試行を選択する行動は テスト中に学習した可能性が考えられるが,テスト の前半からこの行動が見られたことからその可能性 は低いと考えられる。本研究は,作業記憶負荷の少 ない参照記憶課題を基礎課題に用いることにより, ハトが課題遂行前に適切なメタ認知を行えることを 示唆した。

 Inoue & Matsuzawa(2007,2009)の研究では, チンパンジーの親子の正答率の比較から,チンパン ジーにおいて加齢の影響が存在する可能性が示唆さ れた。しかし,縦断的検討は行っていない。また, Inoue & Matsuzawa(2007 )は,ヒ ト の 大 学 生 を対象に同様の課題でテストしたが,加齢の影響に ついては調べていない。さらに,アユムの正答率が ヒトよりも高いことを示したが,ナイーブな参加者 を対象としているため,訓練によってヒトの正答率 が伸びる可能性を否定できない。  本研究では,先行研究と同じ装置・課題を用い, チンパンジーとヒトにおける加齢の影響について検 討・比較し,ヒトの参加者における訓練効果につい て調べることを目的とした。チンパンジーについて は,先行研究と同じ個体を対象として縦断的比較も 試みた。  マスキング課題では,チンパンジー3親子(オト ナ群:平均31.7歳,ワカモノ群:11歳)を対象とし た。スタートキーをさわると非連続なアラビア数字 が5個呈示された。そして,一番小さい数字をさわ るとほかの数字がマスキングされた。参加者は,マ スキングされた刺激を小さい数字から順にさわるこ とを求められた。  時間制限課題では,チンパンジーはアイ(36歳) とアユム(11歳),ヒトは若齢群(平均26歳)と高 齢群(平均62歳),訓練を受けた参加者1名(25歳) を対象とした。スタートキーを触ると非連続なアラ ビア数字5個が呈示され,一定時間(全6条件)経過 後,自動的に全ての数字がマスキングされた。参加 者は,マスキングされた刺激を小さい数字から順に さわることを求められた。  両課題において,現在も,チンパンジーのワカモ ノの正答率は,オトナよりも有意に高かった。しか し,ワカモノ・オトナいずれも,先行研究での正答 率より下がった。よって,チンパンジーにおいては, 横断的にも縦断的にも加齢による影響が認められた。 また,ヒトの参加者では,若齢群の正答率は高齢群 よりも有意に高く,横断的比較によって加齢の影響 が認められた。  ヒトの参加者においては,5ヶ月以上の訓練後に, 有意に正答率が上がっていた。従って,ヒトにおい て訓練効果が存在するといえる。訓練を受けた参加 者の正答率は現在のアユムを上回るが,5.5歳時の アユムの正答率は上回らなかった。 OB-5 ハトにおける予見的メタ認知の検討系列 学習課題を用いて 京都大学・日本学術振興会 ○岩崎純衣 日本学術振興会・大阪教育大学 渡辺創太 京都大学 藤田和生 OB-6 チンパンジーとヒトにおける作業記憶課題のパ フォーマンスの比較:加齢が与える影響を中心に 京都大学霊長類研究所 ○村松明穂・松沢哲郎

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 昨年度の大会では,非カテゴリ事例の中からカテ ゴリ事例を探索する課題をハトに対して行った研究 を報告した。5名の日本人男子学生顔画像の合成画 を用いて,以下のようなカテゴリを作成した。ハト ごとに任意に選んだ1名の顔画像を合成画の共通成 分(P),他4名の顔画像(A,B,C,D)及びそれ らの50%合成画(AB,AC,AD,BC,BD,CD) を事例特異的成分とし,それら両方の成分を50%ず つもつ計10種の合成画を標的刺激として訓練した。 非カテゴリ事例にはカテゴリ作成に使用しなかった 顔画像8種を用いた。テストでは,カテゴリ事例の P合成率を5段階(P%=0,25,50,75,100)に変 化した。訓練事例(P%=50)よりもP合成率が高く, カテゴリ典型性の高い事例(P%=75,100)では 効率的な探索が見られた。一方P合成率が低く,カ テゴリ典型性の低い事例(P%=0,25)の探索効 率は悪くなった。共通成分(P)が標的刺激に注意 を誘導することで,典型性が高い事例の探索を効率 的に行っていたと考えられる。そこで本研究では, 妨害刺激としてカテゴリ事例,標的刺激として非カ テゴリ事例を用いた課題を4羽のハトに対して行い, 妨害刺激のカテゴリ典型性によって探索が促進され るか検討した。訓練では,P合成率50%の事例を妨 害刺激として用いた。テストでは,P合成率を5段階 に変化した事例を妨害刺激として用いた。テストは 16セッション行った。最初4セッションでは,1)P 合成率が高い事例(P%=75,100)を妨害刺激に 用いた試行の正答率は,訓練事例(P%=50)と同 程度に高い,2)P合成率25%を用いた試行の正答 率はそれらの正答率より低い,3)P合成率0%を用 いた試行の正答率はさらに低い,4)探索時間には, P合成率による違いは見られない,という結果になっ た。最後4セッションでは,1)P合成率が低い事例 (P%=0,25)を用いた試行の正答率も高くなり, 合成率の違いによる正答率の差はなくなる,2)P 合成率0%の事例を用いた試行の探索時間は,他の 合成率を用いた試行よりも長くなる,という結果に なった。以上の結果から,ハトは妨害刺激であるカ テゴリ事例の共通成分(P)を学習し,効率的に妨 害刺激を回避することで,迅速に標的刺激へ注意を 向けていたと考えられる。  空間探索において,多様な動物種が環境の幾何学 的形状を手がかりとして利用できることが知られて いる。先行研究のほとんどは2次元平面上の手がか りを想定しており,実環境に多分に含まれる垂直次 元の情報との関連については知見が少ない。本研究 では,地面の段差と幾何学情報がともに手がかりと なる空間再定位課題において,齧歯類のシリアンハ ムスター(Meso-cricetus auratus)が段差という垂 直次元の情報を用いた空間探索を学習するかを検討 した。  成体シリアンハムスター8個体(雌雄各4個体)を 対象とした。中央に1.6㎝の段差がある長方形装置(70 ×35㎝)において,装置中央から被験体を放し,四 隅のうち強化子のある1つを最初に訪れるよう訓練 した。他の手がかりを用いないよう,試行毎に装置 内を清拭・装置を回転し,投入時の頭の方向も毎試 行ランダムに変更した。1セッション辺り12試行実 施し,2セッション連続で9試行以上成功した場合に 学習成立と判断した(chance=1/4)。結果,8個体 中1個体が8セッションで基準に達したが,その後再 び学習基準に達することはなく全体的に成績は不安 定であった。割り当てた正解コーナーの高低ごとに 被験体を分類し(H-igh群/Low群),群間で幾何 学情報・段差情報の学習曲線(冒頭8セッション分) を比較したところ,幾何学情報の学習は両群とも進 展しなかった一方,段差情報ではLow群のみが容 易に学習した。実験2では,ハムスターが幾何学情 報のみを手がかりとして利用できるのか確認するた め,段差のない装置で実験1とは別の個体を訓練した。 正解コーナーおよび対角コーナーを最初に訪れた回 数の合計値が2セッション連続で10試行以上である ことを学習基準とした(chance=1/2)。結果,参加 4個体中3個体が3~16セッションで学習基準に達した。 実験2で最終的に幾何学情報のみの学習が成立した ことから,実験1において(降下反応をもたらす) 段差情報が,幾何学情報の利用に妨害的に影響した 可能性がある。ただし,訓練前半の成功試行数の推 移を実験1のHigh群/Low群と合わせて分析すると, 単調増加せずHigh群と同様のパターンであった。 今後は,両手がかりの刺激強度がより明瞭になるよ う操作が必要だと考えられる。 OB-7 妨害刺激のカテゴリ典型性はハトの非カテ ゴリ探索を促進するか? 千葉大学・日本学術振興会 ○大北 碧 千葉大学 実森正子 OB-8 シリアンハムスターにおける幾何学情報と 垂直次元情報を用いた空間探索の検討 京都大学・日本学術振興会 ○別役 透 京都大学 藤田和生

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 最古の家畜であるイヌは,ヒトとの関係において 他に類を見ない極めて協調的な行動を取ることがで きる動物であるといえる。発表者らは先行研究にて, イヌ-ヒト間のコミュニケーションにおいて,イヌ の注視行動が社会的合図として神経内分泌学的に重 要な役割を果たすことを示した(Nagasawa et al. 2009)。そこで,本研究ではイヌへのオキシトシン 経鼻投与が,ヒトに対する社会行動に影響を及ぼす かについて検証した。  実験は一般家庭で飼育されているイヌ(n=22, オス13頭,メス9頭,平均年齢5.7±0.7歳)とその 飼い主を対象とし,投与はオキシトシン(OT),と 生理的食塩水(S)の2条件を,被験者内デザイン で行なった。イヌにOT(40IU)あるいはSをスプレー にて経鼻投与し,飼い主1名と見知らぬ人2名が椅子 に座っている実験室へ入れた。場所の影響を排除す るために,飼い主と見知らぬ人の位置はランダムに 決め,さらに10分毎に席替えをした。合計30分間, イヌの行動をビデオカメラで撮影し,人に顔を向け ている時間,人に接触する時間,人の1m以内にい る時間を測定した。また,飼い主および見知らぬ人 はそれぞれストップ・ウォッチを持って,イヌと目 があった時間を測定した。  その結果,メスイヌにおいて,SよりもOT投与 時に有意にイヌが飼い主と目があうことが示された。 また,最初の10分間では,SよりもOT投与時にイ ヌが有意に飼い主に顔を向けることがわかった。一 方,オスイヌについては,注視に関する行動にOT 投与の影響は認められなかったが,見知らぬ人への 接触がOT投与時に有意に増加することが示された。  以上のことから,オキシトシン投与による飼い主 特異的な注視行動がメスイヌにおいて増強されるこ とが示された。一方,オスでは注視行動の増加が認 められず,見知らぬ人への関心が増していることが 考えられることから,オキシトシン作用の性差がイ ヌにも存在することが示唆された。  期待違反法を用いた研究で,イヌは視聴覚を統合 した社会的認識を持ち,飼い主の声や足音からその 姿を思い浮かべること,男女の声から男女の視覚像 を思い浮かべることなどが示唆されている。今回こ うした感覚統合的認識の一般性を確かめるため,イ ヌにとって最重要とも思われる匂い手がかりを用い て,飼い主認識に関する同様の検討をおこなった。 イヌにとって嗅覚は特異的に発達した感覚であり, 他感覚との統合において,視聴覚とは異なった性質 が示されるかもしれない。実験では,調査室にイヌ を座らせて軽く保定した。隣室に飼い主あるいは同 性の未知人物に入ってもらい,ドアの開口部を覆う ように取り付けられた板の最下部に設けられた隙間 を通して,扇風機の風を調査室に送った。30秒後そ の隙間を閉じ,その上部に取り付けられた液晶モニ ターの覆いを外し,飼い主あるいは未知人物の顔写 真を30秒間イヌに提示した。刺激は,匂い2種×顔 写真2種の組合せの4通りで,同じ匂いの試行を連続 するようにして全ての組合せの4試行を各イヌに実 施した。順序は個体間でカウンタバランスした。試 行間間隔は同じ匂いの2試行については約1分,異な る匂いの試行については他の調査を挟み10分以上と した。30頭中,注視時間が0の試行があった個体を 除く22頭のデータを分析した結果,匂い刺激を嗅ぐ 反応は飼い主に対して有意に長く,匂いによる飼い 主の認識が確認された。視覚刺激に対する凝視時間 については視覚刺激の主効果が有意で,イヌは飼い 主の映像を長く見ていた。このことから視覚による 飼い主認識も確かめられた。しかし,過去の視聴覚 感覚統合実験とは異なり,匂いと映像が不一致の時 ではなく,飼い主の匂いに続いて飼い主の写真が提 示される試行において,凝視時間が長くなる傾向が 顕著にあり,同じ匂いが提示されていた最初の2試 行だけを分析すると,飼い主の匂いの時に限り,飼 い主への凝視時間が有意に長かった。匂いから飼い 主の姿を思い浮かべているという仮説は支持されな かったが,匂いと映像の感覚統合的な飼い主認識は 示された。期待違反が生じなかった理由については, 日常,匂いはその発信者とともに常在するという特 殊性の他,視覚刺激提示時に匂いが残存していたと いう手続き上の問題,未知人物への興味の低さ等が 考えられる。これらは今後の検討課題である。 OC-1 オキシトシン投与によるイヌの飼い主への 注視行動の増強 麻布大学 ○永澤美保・*圓史緒理小川美里・茂木一孝・菊水健史 OC-2 イヌは匂いから飼い主を思い浮かべるか 京都大学 ○藤田和生・*梁井友里江 高岡祥子・堀 裕亮

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 「夫婦ゲンカはイヌも食わぬ」ということわざが あるが,イヌが第3者間のやりとりを見て怒りの感 情を認識していることを示唆している。先行研究で は,イヌが第3者間のやりとりから協力的なヒトと 非協力的なヒトを識別していることが示されたが (Marshall-Pescini et al., 2011),本研究では,ヒ ト同士のやりとりを見たイヌが,感情状態を認識し ているか検討した。実験では,イヌ自身と直接やり とりをしていない人物同士がイヌの前でやりとりす る演技をし,それをもとにイヌの行動が変化するか 否かを調査した。演技の種類によって2条件を設け, 被験者間計画で行った。Conflict条件では,実験者 1と実験者2がケンカの演技をし,実験者3は傍らに 立っていた。演技終了後,ケンカの当事者(実験者 1)と,ケンカとは無関係の人物(実験者3)が同時 に餌を差し出したときに,イヌがどちらの人物を選 択するか調べた。Friendship条件では,実験者1と 実 験 者 2 は 仲 の い い 演 技 を し た。そ れ 以 外 は Conflict条件と同様であった。イヌが第3者の怒り の感情を認識していた場合,怒っている人物よりも 怒っていない人物から餌をもらう方が身の危険が少 ないことから,Conflict条件においてのみ実験者1 を避け実験者3を選択する率が高くなるだろうと予 測した。しかし,検証の結果,いずれの条件でも, イヌが実験者3を選択した率は50%だった。餌を差 し出してからイヌが動き出すまでの時間を計測して も,条件間に差はなかった。ただし,両条件とも, 実験者3を選択した個体の第1試行における反応時間 が長かった。本研究からは,イヌがヒト同士のやり とりを観察して,怒りの感情状態を認識しているか 明らかにはされなかった。とはいえ,実験者3に近 づく場合には反応までに時間がかかり,実験者1に 近づく場合には反応時間が短かったことから,実験 者3の存在に気づいた個体のみが実験者1と実験者3 の比較をしていた可能性がある。この点に関して, 実験者3の存在をイヌに明示して検討し直す必要が ある。また,第3者が怒っていたとしてもその人物 を避ける必然性はない。このことから,本研究では Conflict条件でも実験者1を避ける行動が増えなかっ たものの,イヌが第3者の怒りの感情を認識してい る可能性は残されており,方法を改めて研究する余 地がある。  私たち動物は,環境内の多様な物体と自身の身体 との相互作用の中で生活している。外部環境に適応 するためには,自己身体の大きさや可動性を正しく 認識することが大切である。今回は,狭い隙間を通 過するときにどのように行動を調整するかを手がか りに,ネコが自己身体の幅をどのように認識してい るのか検討した。  ネコをサークルの中に閉じ込め,出口となる隙間 を様々な広さに調節し,ネコがそれを通過する際の 行動を観察した。実験1で呈示した隙間の広さは, ネコの肩幅の実寸を1とし,その約0.69,0.83,1,1.2, 1.44,1.73倍となる6条件であった。0.69倍でもほ とんどの個体が通過を試みたことから,これらはネ コにとってはすべて十分な広さの隙間であったと考 えられたため,実験2では実験1の6条件に約0.48,0.58 倍を加えた8条件を呈示した。その結果,隙間の通 過を試みる際,0.58倍以下の隙間では全個体が隙間 を顔で無理矢理広げたのに対し,1倍以上の隙間で はそのような個体は観察されなかった。よって,ネ コは実寸の0.69~0.83倍以上の隙間を通過可能と判 断し,隙間の広さによって行動を選択していること が示唆された。また,0.83倍以下の隙間では,表情 変化(耳の位置や目の大きさの変化)を見せた個体 が多かった。これらを姿勢の調整と考えるならば, ネコが通常の姿勢で隙間を通過するには,少なくと も肩幅の1倍以上の幅が必要だと考えられる。  しかし,ネコは体が柔軟なため,隙間が肩幅より 狭くても,顔が通過すれば体の形を変化させること が可能である。0.69,0.83倍を通過可能と判断した のは,顔が通過するには十分な広さだったからとも 考えられるため,ネコに呈示した隙間が顔幅の何倍 になっていたかを実験1,2の被験体を総合して計算 した。すると,実寸(顔幅)の0.88~1.06倍以上の 隙間を,隙間を広げることなく通過することがわかっ た。つまりネコは,自己身体の幅を顔幅のほぼ実寸 として認識している可能性がある。さらに,姿勢変 化なく隙間を通過するのは,顔幅の1.3倍以上であ ることがわかった。これはヒトが肩の回旋なく隙間 を通過する基準(Warren & Whang, 1987)に類 似している。その一方で可能な限り狭い隙間の通過 も試みたことから,ネコは人工的な環境と自然環境 の両方に適応できるような身体認識を持って行動し たのかもしれない。 OC-3 イヌにおける第三者としての感情認識夫 婦ゲンカをイヌは食わないのか 京都大学大学院 ○鍋岡 紫・藤田和生 高岡祥子・堀 裕亮・李 奕錦 OC-4 ネコにおける自己と環境の認識 京都大学 ○千々岩眸・藤田和生

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 バンドウイルカなどの小型鯨類は水中という環境 の中で様々な方向で姿勢保持を行ったり遊泳したり している。このような環境と身体の関係は陸上の動 物のそれとは明らかに異なる。陸上の動物は,地上 性であれ樹上性であれ,少なからず重力(上下)と いう基準軸の中で空間認識を行っている。それに対 し,水中で縦横無尽に体勢を変えることのできるイ ルカたちにとっての空間認識の様式は陸上性の動物 とは大きく異なるのではないか。このような疑問を 出発点として,バンドウイルカによる空間認識にお ける環境と身体の関係について,様々な観点から検 討を加えるべく研究を進めている。今回は,トレー ナーが発するサインに対する反応を利用して実験を 行った。名古屋港水族館では,同型のサインが,右 手または左手で出された場合で,バンドウイルカに 要求されるアクションが異なるものがある。そこで, このようなサインを利用して彼らが空間をどのよう に認識しているかについて検討した。まず,実験1 では,イルカがトレーナーに対して背を向けた状態 でサインを出した際の反応を調べた。その結果,表 裏は関係なく,イルカたちは自分の身体の右ないし は左側にサインが出ているかのように反応した。た とえば,トレーナーが右手である音声を発声するサ インを出すと背中を向けて待機していたイルカは通 常左手で指示される音声を発したのである。また, 実験2ではイルカをプールサイドにランディングさせ, 正面ではなく,イルカ右または左側方からサインを 出した。この場合も,実験1同様,イルカの身体の 左右いずれの側でサインが出されたかが重要な手が かりとなっていることが分かった。以上の結果から, イルカは自己の身体を基準とした環境認識がなされ ていることが示唆された。  顔認知に関して,目や鼻,口などの特徴が単に加 算的に処理されているだけではなく,それらの特徴 の空間配置や特徴間距離などの全体情報の処理も含 んでいると言われている。また,これらの全体情報 は,顔の向き(正立か倒立)によって顕著性が変わ るために,倒立効果やサッチャー錯視といった顔に 特有の現象を生じさせると考えられている。しかし, 全体性とは,ゲシュタルト心理学の「全体は部分の 総和とは異なる」という表現に見られるように,本 来,特徴の非加算性(創発性)のことであり,空間 配置のことではない。そこで,本研究では,チンパ ンジーの顔認知に関して,創発的特徴が見られるか どうかを検討した。創発性的特徴の知覚の例として, ある特徴を弁別する場合,その特徴だけが呈示され る時よりも,弁別とは直接関係ない余分な文脈情報 が付加された時に弁別が用意になるパターン優位性 効果が知られている。パターン優位性効果は,弁別 する特徴と文脈情報のまとまりにより創発的な特徴 が生じる場合に見られる。したがって,顔刺激に関 して創発性が処理されているのならば,目や口だけ を呈示するよりも,それらを顔文脈上に呈示すると きに弁別が容易になると予測される。3個体のチン パンジーは,遅延見本合わせ手続きを用いて目と口 の弁別を訓練された。文脈なし条件では,個体Aも しくはBの目および口だけを見本刺激として呈示し, 比較刺激のうちから見本刺激と同じものを選択する ことが強化された。文脈あり条件では,個体Aもし くはBの目および口を個体Cの顔に配置したものを 見本刺激とし,比較刺激のうち,見本刺激と同じも のを選択することが強化された。顔刺激には,チン パンジーとヒトの顔,それぞれ3種類を用い,それ らの刺激は正立,倒立の2方向で呈示された。3個体 中2個体のチンパンジーは,顔文脈なし条件よりも 文脈あり条件で正答率が低く,この傾向は,顔の呈 示方向(正立,倒立)やチンパンジーの顔,ヒトの 顔に関わらず一貫していた。これらの結果は,チン パンジーの顔認知では特徴の創発性は処理されてい ないことを示唆している。

OC-5 バンドウイルカ(Tursiops truncatus)の サイン理解における自己中心座標系の役割 京都大学霊長類研究所 ○友永雅己 名古屋港水族館 上野友香・*佐藤麻美・小倉 仁 関西学院大学 陳 香純 OC-6 チンパンジーの顔認知における創発性の検 討 相模女子大学 ○後藤和宏 京都大学 友永雅己

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 本研究グループでは多摩動物公園のチンパンジー 幼児を対象に2000年より定期的に観察を行い,7頭 の出生から3歳頃までの発達過程を観察してきた(柿 沼他 2010)。特に放飼場における母子関係,探索活 動,他個体とのかかわり,道具使用の発達について 検討を進めている。  今回は育児放棄のため人工哺育となった個体(ジ ン,2008.7.2生まれ♂,GAIN識別番号0705,母ピー チ,父ラッキー)が群れに加わってからの発達につ いて,他個体(我々が観察してきた7頭)と比較し て報告する。ジンは生後20ヶ月から養母サザエと過 ごし,24ヶ月で群れに入った。観察期間は2010年7 月~2012年5月。全22回の観察回数の内,21回でジ ンを撮影。総観察時間は1311分であった。  ジンの放飼場での探索活動や社会的行動は,群れ に加わって半年(生後30ヶ月)の時点では他個体の 月齢18ヶ月に相当する水準であったが,1年後には 探索活動や社会的行動の幅が広がった。26ヶ月には 養母から離れてキッズルームで遊び,27ヶ月には養 母と高所で過ごすだけでなく,他の子どもと高所で 遊び,自分で地面まで降りている。34ヶ月には大人 の♀とのマウンティングや大人♂との接触も確認さ れている。  人工蟻塚などの穴に枝を挿入する定位的操作は 30ヶ月前後に(7個体の開始時期は10-31ヶ月),棒 を穴にしっかり差し込み,浸し,取り出して舐めた のが32ヶ月前後(7個体,21-33ヶ月),ハンマーを 振り下ろしナッツを割るための定位的操作は36ヶ月 前後,ナッツ割りの成功は41ヶ月(7個体中3個体は 操作せず,2個体は時期不明,2個体は39,48ヶ月) に観察された。  多摩動物公園ではジンを群れに戻すことを前提に 養母候補個体とのお見合いを早い段階から行うなど, 飼育担当者が準備をしてきた(多摩動物公園 2011)。 ジンの発達は群れに加わって1年後の段階では,社 会性,運動発達面,認知面ともに問題なく適応して いると思われる。  ヒトの子どもの場合,環境剥奪下から適切な環境 に移されると,急激に発達が追いつくことが報告さ れている(藤永他 1987)。ジンの場合も同様に,社 会性,運動発達,探索活動に多少の遅れは見られた が,1年で大きく変化している。また道具使用に関 しては他の個体と同じような発達経過を経ている。  近年のヒトを対象とした研究では,他者との関係 形成を支える認知基盤として同調行動が注目されて いる。一方,ヒト以外の霊長類でも,あくびの「伝 染」や相手のリズムに反応するようなコミュニケー ションが逸話的に見られるものの,これまで実験的 な検討はほとんど行われておらず,外部のリズムが チンパンジーの行動にどのように影響を与えるのか は不明だった。そこで本研究では,チンパンジー2 個体を対象に,自発的なタッピングのリズムが外部 のリズムに影響をうけるのかを調べた。まず,光に よってタッピングするキーを誘導できる電子キーボー ドを用いて,2つのキーを交互に30回連続してタッ ピングすると餌が与えられることを学習させた。2 試行連続で90%以上間違わずにタッピングできれば, 基準に達したとみなしてテスト試行へ移行した。テ スト試行は,ベース1,テスト,ベース2からなって おり,それぞれ30回のタッピングを3回行わせた。ベー ス1とベース2は訓練と全く同じ(刺激が提示されな い)で,テストでは以下の3条件のうち1つかランダ ムに提示された:①Fast条件(自発的なタッピン グより速いメトロノームを提示),②Slow条件(遅 いメトロノームを提示),③Control条件(刺激提 示なし),を提示しタッピング速度の変化を調べた。 各条件を6試行ずつ行った結果,Fast条件でのタッ ピングスピードはControl条件でのそれよりも速かっ たのに対して,Slow条件はControl条件と有意な差 は見られなかった。このことから,チンパンジーの 自発的なリズムは速い外部のリズムに影響を受ける ことが示唆される。 OC-7 多摩動物公園の人工哺育チンパンジー個体 の集団飼育開始後の発達 日本獣医生命科学大学 ○柿沼美紀・畠山 仁 東京農業大学 土田あさみ 日本獣医生命科学大学 野瀬 出 OC-8 チンパンジーにおける外部刺激がおよぼすタッピングのリズム への影響電子キーボードを用いたタッピング課題での検討 京都大学霊長類研究所 ○服部裕子・友永雅己

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 コモンマーモセットに対し,1対の視覚刺激を用 いた同時弁別課題を訓練した。弁別訓練では,形は 同じだが大きさの異なる刺激対の相対的大きさ(「よ り大きい」「より小さい」)が手がかりとされた。1 つの刺激対で弁別を獲得後,それらに対する反応の 強 化 随 伴 性 を 繰 り 返 し 逆 転 さ せ る repeated reversalを行った。これにより,それぞれの刺激が 「より大きい」「より小さい」のどちらかの訓練文 脈において正刺激となった。逆転学習が5回行われ た後に,移調transpositionテスト試行を挿入した。 移調テストでは,同じ図形で大きさの異なる刺激が 提示されたが,その一方の刺激は訓練対に含められ ていたことにより,被験体は,刺激の強化履歴と, 刺激間の相対的大きさのどちらを弁別手がかりに用 いているかが調べられた。その結果,相対的大きさ が大・中・小の3種からなる2パターンの対を用いた どの訓練文脈においても,移調,すなわち相対的大 きさを手がかりとした弁別が確認された。次に,こ のような刺激間の相対的大きさに基づく弁別は,全 く異なる図形刺激を使った場合にも般化されるのか どうか,5種類の新奇図形刺激をそれぞれ3種類の大 きさで用意し,移調テスト時と同様に,訓練試行に 混ぜてそれらの刺激への般化テストを行った。その 結果,5種類のうち2種類の図形刺激に対しては,訓 練成績と有意差のない反応が得られた。何が手がか りとなって刺激ごとの差が生まれたのか調べるため に,般化成績と,刺激の物理的特徴との間の相関関 係を算出したところ,刺激の外周長と辺の数との間 に高い相関関係が見られたが,面積との相関関係は 低かった。従って,本研究により,コモンマーモセッ トでは刺激対の相対的関係に基づく反応が可能であ ること,さらに,その反応は訓練刺激と異なる図形 刺激に対しても般化し,外周長を中心とした物理的 次元が手がかりとして利用されていたことが示され た。  コモンマーモセット1個体を用い,要素A(0.5kHz, 50)と要素B(2kHz,200)によるABAB系列 とAABB系列の弁別訓練を一日60試行行った。装置 には,一方に滞在すると刺激の呈示される止まり木 と,刺激への反応のための止まり木を設置した。  1試行にS+かS-のどちらかをランダムな順序で 呈示する絶対弁別条件では,一方の止まり木に2-6 秒間滞在すると,他方の止まり木に移動するまで5 秒間刺激を呈示した。S+に対するGO反応には食 物報酬を与えたが,S-に対しては天井等を消灯した。 NOGO反応は強化しなかった。結果,30セッショ ン以内に弁別の成績は70%に到達しなかった。  一方,AABB系列からABAB系列への変化を検出 させる相対弁別条件において,刺激が呈示される止 まり木に止まると2-6秒間S-と同じ手がかり刺激 が呈示された。S+試行では,その後手がかり刺激 はS+に置き換わり,他方の止まり木に移動するま で5秒間呈示された。S-試行では,刺激が変化す ることなくS-が呈示された。結果,弁別が可能であっ た。その後,絶対弁別訓練を繰り返したが,刺激系 列の弁別はできなかった。  これらの結果は,どちらの系列がS+なのかをセッ ションを超えて長期記憶に貯蔵しておくことが必要 な絶対弁別が困難で,手がかり刺激に依存して弁別 することが可能である相対弁別は可能であることを 示している。ただし,どちらの刺激系列も同じ要素 で構成されているため,刺激要素の物理的特徴にし たがって弁別していたとは考えられない。つまり, コモンマーモセットは呈示されている聴覚系列のオ ンラインの分節化は可能であるが,分節化した系列 を長期記憶に貯蔵することはできないことがわかっ た。  さらにこうした認知的制約は,ヒト以外の霊長類 では,ヒト弓状束・上縦束に相当する構造が,下前 頭葉から下頭頂葉あるいは上側頭葉(ヒトでは中・ 下側頭葉)までしか連絡しておらず,聴覚信号の系 列の表象を形成できないことが関連すると考えられ る。 OD-1 コモンマーモセットによる同時弁別学習と 般化 慶應義塾大学・理化学研究所 ○山﨑由美子 理化学研究所 *斉木正門・稲田正幸・入來篤史 慶應義塾大学 渡辺 茂

OD-2 コモンマーモセット(Callithrix jacchus) における聴覚系列の知覚

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