日本助産学会誌 J. Jpn. Acad. Midwif., Vol. 23, No. 2, 230-240, 2009
原 著
*1慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科後期博士課程(Keio University, Graduate School of Health Management)
*2慶應義塾大学看護医療学部・健康マネジメント研究科(Keio University, Faculty of Nursing Medical Care & Graduate School of Health Mangement) 2009年4月14日受付 2009年11月24日採用
正常な産褥早期の母親への背部マッサージによる
リラクセーション効果
—自律神経活動および主観的指標の観点から—
Effect of relaxing back massages
on early healthy postpartum mothers
—Autonomic nervous system activity and subjective analysis—
中 北 充 子(Michiko NAKAKITA)
*1竹ノ上 ケイ子(Keiko TAKENOUE)
*2 抄 録 目 的 本研究の目的は,正常経過をたどる母親を対象に背部マッサージによるリラクセーション効果を自律 神経活動および主観的指標の観点から検討することである。 対象と方法 対象は正常な産後経過をたどる母親45名で,無作為に介入群(22名)と対照群(23名)に割り付け,2 群間比較をおこなった。産後3日目,一定条件下の介入群では20分間の無臭オイルを使用した背部マッ サージを施行,対照群には20分間の安静臥床を行い,心拍数・HF・LF/HFによる自律神経活動とRE 尺度による主観的指標でリラクセーション効果を測定した。 結 果 介入群では,介入前と比較し介入中・後に心拍数の減少,HFの増加,LF/HFの減少やRE得点の上昇 がみられ,リラクセーション効果を示唆する結果が得られた。しかし,対照群においても変化の仕方は 異なるが,介入群同様の結果がみられ,2群間には有意な差は認められなかった。 結 論 産後早期の母親は,背部マッサージを受けることで副交感神経活動が優位に変化すること,主観的に もリラックス感を得られることが推測された。しかし,統計的に有意差は認められず,背部マッサージ のリラクセーション効果の判定には至らなかった。安静臥床や睡眠による影響,産後における自律神経 活動の個人差が大きいことが推測された。 キーワード:自律神経活動,リラクセーション,背部マッサージ,産褥早期母親,無作為化比較試験Abstract Purpose
To confirm the effects of relaxing back massages on early healthy postpartum mothers by using autonomic nervous system activity and subjective self-ratings derived using a questionnaire on relaxation.
Method
We randomly assigned 45 healthy mothers who had delivered 3 days previously to 2 groups: intervention group (22 mothers who received 20-min back massages with odorless oil) and control group (23 mothers who did not receive back massages but were instructed to rest in bed in the supine position). A quiet climate-controlled room was used. Autonomic nervous system activity was assessed using the heart rate, RR-interval variability, LF/HF (low frequency/high frequency) ratio, and HF, all of which were measured using LRR-03 (GMS). The data of RR-interval variability and subjective relaxation scores were used to determine the effects of back massages.
Result
The heart rate and LF/HF ratio decreased, while the HF value and relaxation score increased in both the groups. Although the results derived using the RR-interval variability data and relaxation scores indicate that back massages had a relaxing effect, no significant differences were detected between the groups. In some mothers of the intervention group, unique and varying patterns of heart rate, HF, and LF/HF ratio were observed because of changes in their autonomic nervous system activity.
Conclusion
Back massages seemed to predominantly activate parasympathetic rather than sympathetic nerves. They also apparently produced a feeling of relaxation. However, the results did not validate any substantial effect of the relax-ing back massages on postpartum mothers because of the absence of a statistically significant difference between the 2 groups. We estimate that this result is attributable to the following factors: frequent resting in bed in the su-pine position, sleeping during the intervention, inter-individual differences in autonomic nervous system activity, and time since delivery.
Key word: autonomic nervous system activity, relaxation, back massage, early postpartum mother, randomized controlled trial
Ⅰ.は じ め に
分娩を終えると胎盤娩出に伴うエストロゲンやプロ ゲステロンの急激な減少,乳汁分泌や射乳にかかわる プロラクチンやオキシトシンなどのホルモン分泌の促 進が起こる(佐川,2001)。三上他(2005)は,産後女 性を対象とした研究において,自律神経活動の変調が, プロゲステロンの激減により交感神経の不安定や混乱 を引き起こす可能性があると述べている。産後早期の 母親は,妊娠・分娩を終え急激なホルモンバランスの 変化と自律神経活動の変調を経験する。 さらに産後3∼10日は,涙もろさ,困惑,不安な どを症状とするマタニティ・ブルーズの発症時期で もある(岡崎,1986;Dalton, 2000)。マタニティ・ブ ルーズの発生機序は明確にされていないが,Hendrick (1998)によると,産後の気分の変化がプロゲステロ ン値の急激な低下と関係していることやマタニティ・ ブルーズとホルモン状態の変化やノルアドレナリン, カテコールアミン,βエンドルフィンなどの神経化学 物質との関連も示唆されている(岡野,1998)。また, 交感神経は副交感神経よりも,精神現象との関係が深 いとされ,精神的な緊張・興奮の際には交感神経緊張 に傾く(キャノン,1988)。したがって,産褥早期の母 親は,出産を無事に終えた喜びと安堵,同時に育児に 対する不安や葛藤を抱えながら,授乳や育児を体験す るため交感神経の緊張状態を招きやすい状況にあると 考える。 近年,補完/代替療法に対する関心の高まりととも に,様々なリラクセーション技法の効果が検証され, エビデンスを求めて研究がおこなわれてきた。その一 つとして背部マッサージの効果には,身体症状を和ら げ,自律神経機能を刺激して交感神経の緊張を緩める 可能性がある(柳,2006)。小板橋(2006)によるとマッ サージによる皮膚への刺激は,脊髄神経節を介して脊 髄に伝達され,延髄,脳幹を経て大脳皮質を介して感 覚野に伝達し,触覚・圧覚が認知される。そして,こ の刺激が脳幹部において自律神経中枢と連絡し,自律 神経反射を引き起こすとされている。また,看護職者 の手は,身体と心を癒すために「触れる」ことを期待 されている。 産後早期の母親にとって,これから続く育児に備え て,自律神経活動のバランスを整え,交感神経活動が優位な状態から心身ともにリラックスした状態へ整え ることは重要である。これまで,産後の母親にとって 背部マッサージを受けることは,不安の軽減につな がり心理的に効果がある(井村他,2005;Imura et al., 2006)とされてきたが,生理学的にどのような影響を 与えるかに関してはまだ十分な検討がなされていると は言えない。 本研究の目的は,正常経過をたどる母親を対象とし て,背部マッサージによるリラクセーション効果を自 律神経活動および主観的指標の観点から明らかにする ことである。背部マッサージの生理的・心理的効果を 検証することにより,産後早期の母親への効果的なケ アの提案につながると考える。
Ⅱ.研究の枠組み
本研究の枠組みを図1に示した。産褥早期は,胎児・ 胎盤の娩出や乳汁分泌などにより急激にホルモンバラ ンスが変化し,プロゲステロンの激減による交感神経 の不安定や混乱が生じている(三上他,2005)。それに 加え,産褥早期の母親は,分娩時の疲労の残存や,授 乳・育児などによる精神的緊張・疲労などを体験し ている。Robertson&高橋他(2007/2007)は,身体的, 心理的ストレスによる全身性の反応として,交感神経 系が賦活化され,副交感神経は抑制されるとしている ことから,この時期の女性は,心身共に自律神経活動 の変調を起こす可能性が高い。産後早期の母親は,交 感神経活動の変調を整え,リラックスできるようなケ アを受けることが今後の育児を行っていく上で重要で ある。背部マッサージは体に悪影響を及ぼさずに,リ ラクセーションをもたらすことができる効果的な方法 である(Fraser et al., 1993)ことから,産後早期の母親 は,背部マッサージを受けることにより,リラクセー ション効果が得られるであろうという考えに基づいて いる。Ⅲ.方 法
1.研究デザイン 無作為割り付けによる背部マッサージをおこなう介 入群とマッサージをおこなわない対照群の2群間比較 をおこなう無作為化比較試験である。本研究の仮説を 以下のように設定し,検証することとした。 介入群における介入前・中・後の変化 ①介入前に比べて介入中および介入終了後に心拍数は 減少し,HFは増加,LF/HFは減少する。 ②主観的リラックス度の得点(RE得点)は,介入前に 比べて介入後に上昇する。 介入群と対照群の2群間比較 ③介入群は対照群と比べて,背部マッサージ介入後に 心拍数が減少し,HFは増加,LF/HFは減少する。 ④介入群は対照群と比べて,背部マッサージ介入後に 主観的リラックス度の得点が上昇する。 2.研究対象者 対象は,産婦人科に入院中で,産後3日目の正常分 娩後の褥婦である。対象の条件は,児の経過が正常で 授乳を行っている褥婦であり,質問紙の読解,回答に 十分な日本語能力を有する日本人。さらに腹臥位で背 部マッサージをおこなうため帝王切開後の褥婦は対象 外とした。また背部に創部や疾患がない人,循環器疾 患や皮膚疾患等のない,結果に影響を及ぼすと考えら れる合併症などを有していない人とした。 研究実施施設は,神奈川県内にあるA産婦人科医院 1施設である。 3.研究期間 研究期間は,2008年7月∼10月末の4ヵ月間である。 4.測定用具 1 ) 生理的指標 心拍数・HF・LF/HFの測定をおこなった。心拍 数・HF・LF/HFのデータは,心拍変動を記録した心 産後早期の母親 ホルモンバランスの変化 エストロゲン ↓ プロゲステロン ↓ オキシトシン ↑ プロラクチン ↑ 分娩・育児による興奮 慣れない育児で緊張 睡眠不足 自律神経のアンバランスが生じやすい ☆交感神経の興奮状態の持続 ☆リラックス状態が保てない 背部マッサージ (軽擦法・強擦法) リラクセーション ☆生理学的指標 ☆主観的指標 図1 本研究の枠組み電図のデータを心拍計(LRR-03,GMS,東京)を通し てパソコンに直接取りこみ,周波数解析プログラム MemCalcを用いてオンラインにより解析した。周波 数は0.04Hzまでの領域を対象とし,0.04∼0.15Hzのパ ワー成分を低周波成分(LF: Low-frequency)と0.15∼ 0.40Hzのパワー成分を高周波成分(HF: High-frequen-cy)とした(谷他,1999;Task Force, 1996)。自律神経 はさまざまな刺激に反応して動的な変化を示し,それ らの変化は心拍変動成分にも反映される(早野,1996)。 心拍変動の周波数解析による各周波数成分の個々の 増減が自律神経活動の指標となる(谷他,1999;大塚, 1998;林,1999;早野,1996a;早野,1996b)ことが明 らかになっており,ガイドライン(Task Force, 1996) も示されていることから,自律神経活動を捉える方法 として心拍変動の周波数解析を用いることは妥当であ ると考えた。 HFは心臓副交感神経機能を表し,交感神経機能 の指標としてLF/HF比を用いた(早野,1996a;早野, 1996b;大塚,1998;林,1999)。HFとLFは,周波数 領域の分布の個人差,ばらつきが大きいことから,正 規分布に近づけるため対数変換(log10)し,分析をお こなった。 2 )主観的指標 主観的リラクセーション度を測定する尺度として, The rating scale of emotion as defined in terms of relax-ation(以下RE尺度)を用いた。根建他(1984)により 開発された自記式質問紙である。4項目から構成され, リラクセーションの各状態を「気分が高ぶっていた̶ のんびりしていた」,「身体に力が入っていた̶体の力 が抜けていた」,「不安であった̶安心していた」,「束 縛的な気分だった̶開放的な気分だった」の両極にお いた11段階評定尺度で,得点が高いほどリラックス 感が強い。妊婦を対象とした研究(高橋他,1996;成 田他,1998)で用いられ,大平らの健康女性を対象と したリラクセーション技法を用いた研究では,心理的 リラックス効果を評価することが可能であることが明 らかとなっていることから産後の母親を対象とした主 観的指標として活用性が高いと考えた。 3 )基本的属性 母親の年齢,既往歴,嗜好品の有無,妊娠・出産・ 新生児に関する情報として,妊娠歴・分娩時の状況・ 分娩所要時間・出血量・会陰切開/裂傷の有無・出生 時体重について基礎情報収集シートを用い,口頭で回 答してもらい収集した。 5.データの収集手順 自律神経活動測定の取り扱い手順や手技の習熟, マッサージ方法・手順の均一化や標準化を図るため予 備実験によりトレーニングを行った。その結果,RE 尺度は背部マッサージの効果を測定する尺度として, リラックス感をより正確にとらえることができること, 自律神経活動は,心拍数・HF・LF/HFにより自律神 経活動の変化を測定できるであろうことを確認した。 1 )実験条件のコントロール 季節による室温変動を避けるため,室温を24℃∼ 28℃(7∼9月:24∼26℃,10月:25∼28℃)に設定し, 空気調節機能の整った,清掃された同じ部屋で実験を 行った。 自律神経指標は午前中の方が安定しており再現性は 高いとされているが,褥婦は,午前中は日常のケアや 指導などがスケジュールに入っており忙しいことから, 褥婦への負担を考慮し,午後2時から5時の間に行っ た。食直後,シャワー後など自律神経活動に影響を及 ぼすと考えられる行動の後は避け,実験をおこなった。 さらに,会話により自律神経活動が影響を受ける可 能性があり,また実験へのバイアスがかからないよう, 実験時における説明のみおこない,介入中の会話など によるコミュニケーションを控えた。 マッサージ群と対照群は同一施設で同時期に介入を おこなうことから,各介入について対象者内での情報 交換などによるハロー効果を最小限に抑えるとともに, 倫理的配慮から,対照群には,希望者に対して介入終 了後のデータ収集に影響がない日に,介入群と同様の マッサージを施行した。 2 )介入と測定の流れ 基礎情報や妊娠・出産・新生児に関してフェイス シートを用いて情報の聞き取りをおこない,口頭で回 答してもらったのち,RE尺度に記入をしてもらった。 介入群,対照群ともに臥床してもらい心拍計を左右の 腕に装着し5分間安静臥床の状態で安静時の心拍変動 を測定した。心拍計は,実験終了まで持続して装着し た。介入は腹臥位の状態で20分間,介入群には背部 マッサージ,対照群には安静臥床をおこなった。介入 終了後,10分間安静臥床のまま心拍変動を測定したの
ち心拍計は取り外した。その後RE尺度に記入をして もらった(図2)。測定時点は,予備実験によりデータ が比較的安定していると考えられた介入前から,介入 開始10分,15分,終了直後,終了5分後の5時点を採 用した。 3 )マッサージの手順 マッサージ時間は,抑うつのある妊婦へのマッサー ジ効果を検証したField(2004)や乳房うっ積のある褥 婦への背部マッサージの緩和効果を見た研究(子安他, 2007)を参考にし,予備実験を行ったうえで,産後3 日目の母親に対し負担とならずさらにリラクセーショ ンを得られるであろうと考えられる20分間と設定した。 マッサージに使用するマッサージオイルは無香料と し,グレープシードオイルを用いた。マッサージ手技 として,基本的に軽擦法と強擦法を用いた。排泄がす んでいることを確認し,ベッド上にクッション等を用 いて,安楽な腹臥位で臥床してもらい,背部・頚部・ 肩甲骨周囲・臀部・上腕のマッサージを20分間実施 した。マッサージは個室で行い,露出部位を少なくす るため,バスタオルを用いて,プライバシーの保護に 努めた。 マッサージは,術者の技術レベルを一定に保ち,強 さ・速さなどが統一できるように看護師,助産師,ア ロマセラピストの資格を持ち,マッサージの知識と実 績を積んでいる研究者1名が担当した。また,研究者は, マッサージ方法・手順の均一化を図る目的で,マッ サージのプロトコールを作成し,それに沿ってトレー ニングを実施した。 6.分析方法 標本の属性等については,記述統計および2群間の 均一性を確認するために t 検定およびχ2検定を用いて 分析した。RE尺度は,t検定を用いた。各測定値の経 時的変化について,反復測定による分散分析をおこな い,介入前値と各測定値の比較を多重比較のDunnett の検定を用いておこなった。2群間の比較は二元配置 分散分析をおこなった。有意水準は5%とし,すべて 両側検定である。分析には統計解析用ソフトSPSS. Version16.0J for Windowsを用いた。
7.倫理的配慮 対象者には,文書及び口頭で研究の趣旨を説明し, 研究協力は任意であり,研究参加を拒否してもその他 のケア内容に不利益を被ることは全くないこと,中途 辞退が可能であること,プライバシーを保証する旨の 説明をおこなった。得られたデータは,研究目的以外 には使用せず,終了後はすべて破棄すること,匿名性 を保証し専門学会等で発表する場合もあることを伝え, 研究協力の承諾意志を確認し,書面にて同意を得た。 この研究計画は,慶應義塾大学大学院健康マネジメ ント研究科研究倫理審査委員会の承認を得て実施した。
Ⅳ.結 果
1.対象の特性 条件に合う対象者として選出された褥婦85名に本 研究への調査協力の依頼をおこない,47名の同意が得 られた。途中,乳房緊満感の増強や面会者の来訪があ り多忙という理由から,不参加となった2名を除く45 名を分析対象とした。 対象者は,介入群22名,対照群23名であった。平 均年齢は,介入群が30.6( 5.0)歳,対照群が30.6( 3.8)歳で2群間に差は認められなかった。また,分娩 所要時間,児の出生体重,分娩回数,分娩方法,会陰 切開等について,2群間に有意差がないことを確認し 〈測定時点〉 〈時間軸〉 〈介入〉 基礎情報RE尺度 安静5分間 安静10分間 RE尺度 介入群:背部マッサージ20分間 対照群:安静臥床 20分間 両群ともに心拍計の装着 ①介入前 ②介入中10分 ③介入中15分 終了直後④介入 終了5分後⑤介入 図2 実験プロトコールた。さらに,嗜好品や内服薬(鎮痛剤の内服)の有無 についても2群に有意な差がないことを確認し2群が 同質の集団であることを確認した(表1)。 2.産後3日の対象者の状態 産褥期は,分娩後の疲労や会陰部や後陣痛による痛 みや授乳・育児による筋肉疲労などを訴える褥婦が多 い。また,産後3∼4日になると,乳房に乳汁が充満 するため乳房緊満感が生じてくる。今回の対象者にお いても,疲労感を有する者は,介入群が11名(50%), 対照群が12名(52.2%)と両群ともにほぼ半数にみられ, 痛みを訴える褥婦も介入群では16名(72.7%),対照群 では13名(56.5%),乳房緊満を訴える褥婦が介入群で は11名(50%),対照群では9名(39.1%)に認められた。 熟眠感は,介入群では18名(81.8%),対照群では17 名(73.9%)が有りと回答した。なお,2群間には有意 差はなく,両群における産後3日目の状態に差がない ことを確認した(表2)。 3.心拍数・HF・LF/HFの変化について(仮説①③) 1 )介入群における前・中・後の変化 介入群における介入前(71.2/分)と比較したそれぞ れの時点の心拍数は,介入中10分では68.5/分(p= 0.04),介入中15分で67.7/分(p=0.003),介入終了 表1 対象者の特性 グループ p値 介入群(n=22) 対照群(n=23) 年齢(歳) 30.6 5.0 30.6 3.8 0.988 所要時間(分) 601.2 401.8 577 370 0.834 出生体重(g) 3194.1 334.2 3213.9 404.2 0.859 分娩回数 初産婦 経産婦 1111(50.0%)(50.0%) 14 9(60.9%)(39.1%) 0.463 分娩方法 誘発・促進分娩 麻酔分娩 2 1( 9.1%)( 4.5%) 5 1(21.7%)( 4.3%) 0.503 会陰切開 有 無 16 6(72.7%)(27.3%) 15 8(65.2%)(34.8%) 0.586 飲酒習慣 有 無 14 8(63.6%)(36.4%) 14 9(60.9%)(39.1%) 0.848 喫煙習慣 有 無 220( 9.1%)(90.9%) 716(30.4%)(69.6%) 0.074 内服薬(鎮痛剤) 有 無 715(31.8%)(68.2%) 518(21.7%)(78.3%) 0.445 mean SD 表2 対象者の状態 グループ p値 介入群(n=22) 対照群(n=23) 熟眠感 有 無 18 4(81.8%)(18.2%) 17 6(73.9%)(26.1%) 0.524 疲労感 有 無 1111(50.0%)(50.0%) 1211(52.2%)(47.8%) 0.884 痛み 有 無 16 6(72.7%)(27.3%) 1310(56.5%)(43.5%) 0.256 乳房緊満 有 無 1111(50.0%)(50.0%) 914(39.1%)(60.9%) 0.463
直後で67.8/分(p=0.012),介入終了5分で68.1/分(p =0.029)であった。すべての時点で有意に心拍数の 減少がみとめられた(図3)。副交感神経活動を示す指 標であるHFは,介入前log10 HF 2.6msec2だったのに 対し,介入中10分,介入中15分ではほとんど変化が みられなかった。介入終了直後では2.65 msec2,介入 終了5分で2.62 msec2とごく軽度HFの増加がみられた。 しかし,すべての時点で介入前と比較し有意なHFの 増加は認められなかった。交感神経を示す指標である LF/HFは,介入前LF/HF1.34であった。介入中10分 で1.14,介入中15分で1.06,介入終了直後で1.15と介 入前と比較しごくわずかに減少がみられたが,すべて の時点で介入前と比較し有意な差は認められなかった。 2 )2群における経時的変化の比較 2群の心拍数・HF・LF/HFの経時的変化の比較に ついて表3∼5に示す。 心拍数は,すべての時点において2群の間に有意 な差はなく,介入後の心拍数に有意な差はなかった。 HFは,すべての時点において2群の間には有意な差 はなかったが,それぞれの群によって,変化の仕方が 異なっていた。LF/HFも,すべての時点において2群 の間に有意な差はなかったが,それぞれの群によって, 変化の仕方が異なっていた。 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 介入群(n=22) * p<0.05 ** p<0.01 * * * ** 90 85 80 75 70 65 60 55 50 心拍数/分 介入前 介入中10分 介入中15分 介入終了直後 介入終了5分後 図3 介入群における心拍数の経時的変化 表3 2群の心拍数の経時的変化の比較 介入群 (n=22) (n=23)対照群 F値 p値 介入前 介入10分 介入15分 介入終了直後 介入終了5分後 71.2 10.2 68.5 9.0 67.7 9.4 67.8 9.4 68.1 9.4 73.3 9.9 70.9 9.4 70.6 9.3 70.5 9.9 70.5 9.8 0.5 0.75 1.1 0.9 0.72 0.483 0.391 0.299 0.348 0.401 表4 2群のHFの経時的変化の比較 介入群 (n=22) (n=23)対照群 F値 p値 介入前 介入10分 介入15分 介入終了直後 介入終了5分後 2.60 0.76 2.59 0.71 2.60 0.72 2.65 0.65 2.62 0.64 2.45 0.55 2.49 0.55 2.50 0.54 2.50 0.58 2.50 0.60 0.57 0.31 0.25 0.56 0.42 0.453 0.580 0.623 0.457 0.518 表5 2群のLF/HFの経時的変化の比較 介入群 (n=22) (n=23)対照群 F値 p値 介入前 介入10分 介入15分 介入終了直後 介入終了5分後 1.34 1.09 1.14 0.89 1.06 0.90 1.15 0.70 1.37 1.17 1.20 1.17 1.54 1.31 1.33 1.45 1.30 1.41 1.11 1.13 0.16 1.18 0.54 0.19 0.58 0.696 0.230 0.467 0.659 0.451
3 )介入群・対照群における変化パターンの分析 2群それぞれに変化のパターンに差があるかどうか を検討するため,二元配置分散分析をおこなった。要 因は,時間(介入前から介入終了5分の5時点)と群(介 入の有無)であり,交互作用は時間 群である。心拍 数の変化における時間の主効果には有意な差が認めら れた(F=19.705, p=0.000)(表6)。しかし,群による 主効果には有意差は認められなかった(F=0.805, p= 0.375)。時間と群の間にも,交互作用は認められなかっ た(F=0.287, p=0.756)。HFの変化における時間の主 効果には有意な差は認められなかった(F=0.597, p= 0.583)。また,群による主効果(F=0.438, p=0.512), 時間と群の間にも,交互作用は認められなかった(F =0.195, p=0.861)。さらに,LF/HFの変化においても, 同様に,時間(0.266, p=0.819),群の主効果には有意 な差はなく(F=0.091, p=0.764),時間と群との間に は交互作用がなかった(F=1.691, p=0.18)。 4.RE得点の変化について(仮説②④) 1 )介入群の前後比較 介入群のRE得点は,すべての項目で,介入前後で 有意に得点が上昇した。各項目の前後の得点は①項目 「気分が高ぶっている̶のんびりしている」は,介入 前6.68,介入後10.05と得点の有意な上昇がみられた(p <0.001)。②項目「体に力が入っている̶体の力が抜 けている」は,介入前6.59,介入後10.14と得点が有意 に上昇し(p<0.001),③項目「不安である̶安心して いる」は,介入前8.18から,介入後10.14へと得点が有 意に上昇した(p<0.01)。④項目「束縛的な気分であ る̶開放的な気分である」においても,介入前8.0,介 入後10.0と得点が有意に上昇し(p<0.001),リラク セーションを示す結果が得られた。 2 )2群間比較 2群のRE得点の変化の比較について表7に示す。項 目①②では,両群ともに介入前後で得点の上昇がみら れたが,両群には有意な差は認められなかった。項目 ③は,介入後に2群の間に有意な差が認められた(p= 0.05)項目④は,2群の間に介入前後ともに有意な得点 の差がみられた(前p=0.04,後p=0.02)。
Ⅴ.考 察
1.背部マッサージの生理的・心理的効果について 今回の結果では,介入群において介入前と比較 し,介入中・介入後に心拍数の有意な減少がみられた。 HF,LF/HFの変化については有意な差はなかったが, HFは介入後に増加し,LF/HFは介入中に減少がみら れた。腰背部痛の自覚がある入院患者を対象とした 背部マッサージの効果に関する研究で,柳(2006)は, 背部マッサージにより心拍数の有意な減少,HFの増 加,LF/HFの減少がみられ,副交感神経活動を活性化 させたと報告している。また,健康人へのマッサージ においても,有意な心拍数の減少,収縮期血圧・拡張 期血圧の低下がみられ,心拍変動分析により副交感神 経活動の増加がみられたと報告されている(Delaney, 2002)。今回の結果は,これらの先行研究の結果と一 部合致するものであった。しかし,HFやLF/HFの変 化については,非常に微細な変化であったことから更 なる検証が必要と考える。 野戸他(2006)は,生体反応の相互作用によって生 体の調和がはかられ,ストレス反応への拮抗作用(リ ラクセーション)が生じるとしており,荒川(1996)は, リラクセーション反応は副交感神経反応とみなすこと ができるとしている。今回の結果では,微細ではある が,介入後にHFの増加とLF/HFの減少,心拍数の有 意な減少がみられたことから,背部マッサージにより, 生体内の調和がはかられ,副交感神経活動が優位にな 表6 心拍数についての二元配置分散分析 要 因 平方和 自由度 平均平方 F値 p値 時間 群 時間×群 311.374 356.702 4.528 2.04 1 2.04 152.622 356.702 2.219 19.705 0.805 0.287 0.000 0.375 0.756 表7 2群におけるRE得点前後の比較 介 入 前 介 入 後 RE得点 介入群(n=22) 対照群(n=23) t値 p値 介入群(n=22) 対照群(n=23) t値 p値 (1)気分 (2)身体 (3)安心 (4)開放 6.68 2.4 6.59 1.9 8.18 2.6 8 2.0 6.17 2.17 6.13 1.94 7.00 1.95 6.83 1.75 0.75 0.75 0.75 2.06 0.46 0.46 0.46 0.04 10.05 1.3 10.05 1.3 10.05 1.3 10 1.4 9.22 1.62 9.22 1.62 9.22 1.62 8.91 1.68 1.87 1.87 1.87 2.35 0.06 0.06 0.06 0.02り,背部マッサージによりリラックス反応が得られた 可能性があることが推測された。 さらに,介入群では心理的指標であるRE尺度に おいて,介入前後で有意な得点の上昇が認められた。 マッサージによって,気分がのんびりし,体の力が抜 け,リラックス感を示す結果が得られた。産後早期の 2∼3日は,依存ニードの高い時期(taking-in phase)で あり(長谷川,2004),マッサージを通して,温かく優 しく触れられることにより,産後の緊張や興奮を鎮め 安心した状態となり,心理的なリラクセーション効果 が得られたのではないかと考える。 介入群と対照群は,2群の比較において,自律神経 活動には有意差は認められなかった。また,2群にお けるグラフから変化の仕方が異なっているものの,二 元配置分散分析による時間と群には交互作用は認めら れなかった。 以上より,背部マッサージにより心理的なリラク セーション効果が認められたが,生理的指標において, 心拍数以外では介入前・中・後に有意な差が認められ なかったこと,介入群と対照群の間に有意な差が認め られなかったことから,背部マッサージのリラクセー ション効果を判定するには,至らなかった。 2.リラクセーション効果に影響を及ぼす要因 背部マッサージのリラクセーション効果について明 確に示すことができなかった理由として,以下の理由 が考えられる。 対照群では有意差は認められていないが,介入前に 比べ,介入中・介入後に心拍数の減少とHFの増大が 見られたことから,対照群にもリラクセーション効 果が見られた可能性も考えられた。自律神経活動は体 位により著しく影響を受け,臥位では副交感神経優 位の状態となりやすい(早野,1996;林,1999)ことか ら,介入群・対照群ともに安静臥床そのものの効果 を考慮する必要がある。深井他(2002)は,健康女性 を対象とした自律神経活動の研究で,傾眠状態の時に 血圧上昇と心拍数の減少がみられ,交感神経活性,副 交感神経活性ともに増大すると示唆している。さら に林(1999)は,睡眠中は心拍数が減少し,HFが増加 し,LF/HFはやや減少するとも報告している。これは, 先行研究で示されている背部マッサージの効果と類似 している。さらに平田他(2006)は,ノンレム睡眠では, 副交感神経系が優位となり,レム睡眠においては,一 過性の交感神経の緊張亢進や副交感神経の緊張低下が 生じるとしている。今回の結果において,介入群では, マッサージにより入眠した対象者が観察されたことか ら,睡眠状態にあった対象の中には,自律神経活動が 睡眠によって影響を受けていた可能性があると考える。 野戸他(2006)の健康人を対象とした研究では,軽 擦法での3分,10分の背部マッサージでは,バイタル サインに変化はなく,病気の対象者に対して軽擦法に よる背部マッサージは安全に用いることができると述 べている。このことから,自律神経活動の変動が著し いとされる産後早期の母親にとって,背部マッサージ の介入が大きな変化をもたらすものではなかった可能 性が考えられる。 以上より,リラクセーション効果を示唆する結果が 得られたが,効果を特定するには至らなかった。 3.今後の課題 多くの対象者で,安静臥床により入眠するというこ とが観察された。疲れや寝不足を感じている褥婦は, 環境が整えられた個室において安静臥床することでの リラクセーション効果が考えられ,背部マッサージの 効果および安静臥床や睡眠によるリラクセーションの 可能性についても検証が必要である。 今後の育児への影響や産後のマタニティ・ブルーズ 等などの予防という側面からも背部マッサージの効果 について,さらなるデータの積み重ねにより検討が必 要であると考える。
Ⅵ.結 論
本研究は,産後早期の母親への背部マッサージのリ ラクセーション効果を4つの仮説の検証を通して明ら かにした。 介入群における経時的変化について, ①介入前に比べて介入中および介入終了後に心拍数は 有意に減少した。HFは増加,LF/HFは減少したが, 有意な差は認められなかった。 ②主観的リラックス度の得点は,介入前に比べて介入 後に有意な得点の上昇がみられた。 介入群と対照群の2群を比較して, ③介入群は背部マッサージ介入後に心拍数が減少し, HFは増加,LF/HFは減少したが,対照群と比べて 有意差は認められなかった。 ④介入群は背部マッサージ介入後に主観的リラックス 尺度の得点が上昇し,一部の項目において対照群と比べて,有意差が認められた。 背部マッサージを受けることにより,リラックスで きる可能性が示唆されたが,背部マッサージのリラク セーション効果の判定には至らなかった。 謝 辞 本研究にご協力いただきましたお母様方,施設長は じめスタッフの皆様に深く感謝申し上げます。また, 研究をご指導くださいました慶應義塾大学近藤好枝教 授,小熊祐子准教授,福田亮子先生に心より感謝申し 上げます。 なお,本研究は,2008年度慶應義塾大学大学院健康 マネジメント研究科修士論文の一部を加筆・修正した ものである。また,内容の一部は,第23回日本助産 学会学術集会において口頭発表した。 文 献 荒川唱子(1996).看護介入としてのリラクセーション技法. 臨床看護研究の進歩,8,28-35. Dalton, K., Holton, W.M./上島国利&児玉憲典訳(2000). マタニティ・ブルー 産後の心の健康と治療,東京: 誠信書房.
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