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理学療法士による起業戦略

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Academic year: 2021

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理学療法士の起業  理学療法士および作業療法士の多くは,「訪問リハ・ステー ション制度化」,「開業・独立起業」への関心が非常に高い。い い換えれば,独立・開業権に対するコンプレックスが高い。こ れは,業界を成長させ,個人の「起業」を成功させるための原 動力となる。一般的に,法人の生存率は 1 年で 79.6%,5 年で 52.6%,10 年で 35.9%(中小企業白書 2006 年版)とされている。 開業から数年間は廃業率が高い。開業から数年間が勝負で,事 業開始に開業資金を借り入れる場合が多く,数年の間に利益を 生みだし返済に充てられないと事業継続が困難となる。創業時 の収入は予測困難で,創業 1 ∼ 3 年間は生活費も含めた資金繰 り(個人資金からの出し入れを含む)に経営者は追われること になる。  一方,日本の黒字企業は,276 万 1 千社のうち 27.4%である (平成 24 年度法人税申告)。これは,日本を運営するための財 源である法人税を納めている企業割合でもある。起業の本分 は,事業継続させて,黒字転換し,法人税を納め社会的責任を 果たすことでもある。高騰する「社会保障費」等はこれらの税 金が支えているのは周知のことである。  起業当初は,「営業活動」,「キャッシュフロー(日単位の手 元現金の収支計算表)」,「資金繰り」,「人材確保」,「管理業務」 などに追われる毎日である。業績の良好な事業を抱えても,意 外にも創業 3 年間はキャッシュフローが後手回りとなり,苦し い経営を強いられる。通常,銀行などの金融機関が創業 3 年間 の企業との取引に消極的である理由はここにある。起業には, 人事,労務,採用,財務,経理,税務などをはじめ,契約など 法務が必要とされ,「予備知識がないままの起業はチャレンジ を通り越して無謀」とされている。しかし,右腕となる経営の 取締役などのパートナーや税理士,公認会計士,社会労務士, 司法書士などのアウトソースに頼るのもひとつの創業の手段で あり,経営者は事業の営業や成長に専念すればよい。ただし, 「経営の結果責任」はすべて創業者が負うことも念頭に置いた うえで事業を行っていかなければならない。 私の起業実践の経験  筆者の起業経験を紹介する。起業した会社は平成 26(2014) 年 8 月に 11 回の決算を終え,創業 12 年目に突入した。筆者が 在住する 12 年前の千葉県は,「高齢者」に限らず,在宅で療養 する「小児と神経難病の患者および家族」に対する地域医療・ リハビリテーション(以下,リハ)の普及がきわめて低いと感 じていた。そこで,看護師・助産師・ケアマネージャーの資格 を有する妻とともに地域の「小児と神経難病の患者」のサポー トをボランティアで行ってきた。しかし,継続的な地域看護・ リハのサービス提供の必要性を肌で感じ「我々が動かなけれ ば」という思いで,事業パートナーの妻とともに法人格を取得 (平成 15(2003)年 9 月)し,同年 12 月から「訪問看護事業」 からの看護・リハのサービスを開始した。  事業所開設時は,筆者らは 4,6,8 歳児の子供の育児に追わ れる夫婦で,できるだけお金を掛けない設立方法に心掛けた。 まず情報入手および事業計画・各種申請書類等の作成の多くは インターネットの情報を中心に行った。法人設立の準備(会社 定款,他),訪問看護事業所の開設準備(就業規則,運営規定, その他の各種書類,事業賠償責任保険加入準備,他),資金繰 り(国民生活金融公庫融資)は法務局,公証役場,商工会議所, 労働基準局,県庁・介護保険課などに相談しながら準備を進め た。看護師等の確保,事業所物件・備品・自動車等の準備,そ してロゴ,リーフレットなどの販促物の作成も自らの手作業で 同時に行った。会社登記後に公認会計・税理士,社会保険労務 士と顧問契約し,法人設立後の税務(地方税を含む)と労働保 険等の届出と煩雑な各種助成金申請も委託した。開業後数ヵ月 または 1 年以降に入金される補助金が経営上大きな支援となる ことは,この申請の際には考えもつかなかった。開業後,「訪 問看護・リハ」があたり前でなかった地域と時代に合って,営 業と啓蒙から開始することになった。徐々に営業に反応があり 常勤スタッフも増加していった。しかし,給与以外の源泉税, 社会・労働保険料などの支払いは大きい負担と感じるくらいに キャッシュフローは不安定であった。また,過剰な人件費負担 は経営リスクとなるため,訪問看護事業の認可要件である看護 師の人員の不安性も常に経営者の頭を悩ませた。開業 2 年間は 経営者の給与は事実上発生せず,結果的に持ちだし(経営者に よる会社への「短期貸付」という経理処理)により,筆者の生

理学療法士による起業戦略

阪 井 康 友

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日本のこれからと理学療法

Entrepreneurship Trends and Strategies Related to the Physical Therapist in Japan

1) 帝京平成大学健康メディカル学部理学療法学科 (〒 170‒8445 東京都豊島区東池袋 2‒51‒4)

Yasutomo Sakai, PT, PhD: Department of Physical Therapy, Faculty of Health and Medical Science, Teikyo Heisei University 2) (株)祥ファクトリ

Sachi Factory Co., Ltd 3) (株)リハプロ Rehab Pro Co., Ltd

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命保険等の解約も事実である。開業の数年間は,経営者の勤務 時間は四六時中といっても過言でない。起業の本音のひとつに は,家族の幸せも目標としていたため,育児も両立しなければ 本末転倒となってしまう。そこで,妻が会社に時間拘束される 場合は筆者が育児に力を入れた。女性に限らず「起業」には, 家事・育児・介護などの家族の影響がもっとも大きくかかわる ことが多く,家族の協力と理解なしで踏み切ることも乗り越え ることさえも困難であると考える。  現在は,会社規模も 180 名超の企業へと成長した(表 1)。 創業からの訪問看護事業に加えて,平成 19(2007)年 4 月に は女性だけのフィットネスをフランチャイジーとして開始し た。この事業から介護保険外事業,広域展開,業務の標準化戦 略について学んだ。平成 21(2009)年 6 月より利用者 5 人に 対し理学療法士または作業療法士 1 人を配置した半日リハ特 化型の通所介護(デイサービス)の事業展開を開始した。平 成 25(2013)年 8 月に千葉県柏市で指定訪問リハビリテーショ ン事業所を開設した。現在は,千葉県および東京都,神奈川県 の関東では 4 業種 18 事業所を展開し,関東外の愛知県,大阪 府には子会社が 2 事業所の訪問看護事業所を事業展開している (表 2)。 起業家の一般的実像  本来なら,理学療法士の起業状況について実像を取り上げれ ばよいのだが,関連する詳細な調査資料がないため,政府系金 融機関の日本政策金融公庫が発刊する「調査資料」と中小企業 庁が発刊する「中小企業白書(2014 年版)」1)を参考に起業を 体験したときの一般的な実像について紹介する。 1.起業志向者の属性について  日本政策金融公庫「起業意識に関する調査(平成 26 年 1 月 9 日発表)」2)の調査結果を解釈すると,起業家,起業予備群を 「起業志向者」,起業無関心群を「起業無関心者」とすると,起 業志向があるほど「年齢は 20 ∼ 30 歳代と若く」「配偶者は(無 関心群より)比較的少なく」「両親が(無関心群より)経営者 表 1 会社(グループ)の社員構成と職種 全 社 職 種 訪問事業居宅 介護支援含む 通所事業 本部・他 リハ 108 80 理学療法士 リハ 89 65 リハ 16 12 3 20 作業療法士 16 4 0 8 言語聴覚士 8 0 0 41 看 護 師 39 1 1 5 ケアマネージャー 5 0 0 20 介    護 0 20 0 15 管理・事務・営業 10 0 5 189 合    計 143 37 9 グループ:(株)祥ファクトリ・(株)リハプロ(平成 26 年 10 月現在) 表 2 会社の事業概要 株式会社 祥(さち)ファクトリ 株式会社 リハプロ  創業 平成 15 年 9 月  創業 平成 25 年 9 月  代表取締役 阪井 春枝  代表取締役 阪井 春枝  全 18 事業所(平成 26 年 10 月現在)  全 2 事業所(平成 26 年 10 月現在) 1.[訪問事業:10 ヵ所] 1.[訪問事業:2 ヵ所]  ●さかいリハ訪問看護ステーション  ●リハプロ訪問看護ステーション   (9 ヵ所: 船橋・千葉・西船橋・蘇我・八千代・ 行徳・横浜・江戸川・松戸)   (2 ヵ所:大阪都島・名古屋)平成 26 年 4 月開設  ●さかいリハ訪問リハビリテーション・柏   (※特区「訪問リハステーション」) 2.[通所事業:6 ヵ所]  ●さかい「WHIZ」倶楽部   (5 ヵ所:薬円台・津田沼・宮本・三咲・東船橋)  ●スタジオぴあ(実籾) 3.[ケアプラン事業]   ●さかいリハ・ケアプランセンター船橋 4.[フィットネス事業](女性のためのフィットネス)  ●カーブス稲毛小仲台

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の割合が高く」「年収も(無関心群より)高い」という属性と なる。 2.起業しない理由  日本政策金融公庫の同調査結果2)によれば,起業志向のあ る「起業予備群」の起業しない理由として「自己資金の不足 (47%)」「ビジネスのアイデアが思い浮かべない(34%)」「失 敗したときのリスクが大きい(34%)」「財務・税務・法務に関 する知識不足(25.8%)」を挙げている。 3.起業家が活用した満足・優先度の高い支援  筆者の起業体験について前述した。興味深いことに,中小 企業庁委託「日本の起業環境及び潜在的起業家に関する調査」 (2013 年 12 月)」3)の中でも,起業家が活用した満足・優先度 の高い支援の中で,起業経験者は「商工会・商工会議所」の満 足度がもっとも高いとしている。次に,「インターネット等に よる起業・経営に関する情報提供」の活用も満足度が高い。時 間に関係なく起業に関する情報入手が可能で,役立つ情報やノ ウハウ,起業に関する疑問を認定専門家に相談もできる。起業 には多くの自己資金が必要となるため,コストがかからず効率 のよい情報源は満足度が高い。次に満足度の高い「先輩経営者 による起業指導」も,現実感があり信頼度が高い情報源である。 筆者も「商工会・商工会議所」「インターネット等による起業・ 経営に関する情報提供」そして異業種だったが「先輩経営者に よる起業指導」の存在は頼もしかったと記憶している。 4.起業時の相談相手  中小企業庁委託の同調査の「起業時の相談相手」に関する調 査3)では「相談する相手はいなかった」とする場合がもっと も多い。その背景として自治体や中小企業支援機関,商工会・ 商工会議所の相談窓口,または経営や各種専門家に対する不安 や敷居の高さを感じるためであろう。当然ながら「家族・親戚」 はもとより,「起業仲間やすでに起業した先輩起業家」「企業の パートナー」が相談相手であることは納得させられる。筆者も 「家族・親戚」「起業仲間やすでに起業した先輩起業家」「企業 のパートナー」が相談相手であった。 5.起業経験者が周囲に与える影響  ここで,「起業家が活用した満足・優先度の高い支援」とし ても「起業時の相談相手」としても上位に挙げられるものに 「起業仲間やすでに起業した先輩起業家」のキーワードがある。 中小企業庁委託の同調査結果3)の中では「周囲の起業家の存 在」について,「周囲にいない」とする割合が,①起業無関心 者(n = 7,005)は 66.1%,②起業関心者(n = 773)は 32.9%, ③起業家(n = 911)は 33.6%である。逆をいえば,起業の志 向性には「両親,配偶者,兄弟,親戚,子供,友人・知人,職 場の同僚・上司など」の周囲に「起業仲間やすでに起業した先 輩起業家」の存在の影響も大きいのかもしれない。 6.女性起業の実像 1)日本女性の起業余力  起業活動に関する国際的な調査「グローバル・アントレプレ ナーシップ・モニター(以下,GAM)」によれば,我が国の女 性の総合起業活動指数は世界の中で最も低い。総合起業活動 指数(Total Early-Stage Entrepreneurial Activity: TEA)は, 成人(18 ∼ 64 歳)人口 100 人に対して,実際に起業準備中の 人と起業後 3 年半未満の人の合計が何人であるかを示す指標で ある。2013 年のデータ(GAM の 2013 年データを基に筆者作成) をみると,日本は 2.7 で,アセアンで個人 GDP が日本より高 いシンガポール(8.2),中国(12.2)はもちろん,米国(10.5) や英国(5.5)など他の先進国の数値よりも低い(図 1)。生産 年齢の減少する中で,女性の起業活動には余力があり,経済成

図 1 男女別の総合起業活動指数の国際比較(Total Early-Stage Entrepreneurial Activity: TEA)

生産人口(18 ∼ 64 歳)に占める起業者(起業準備中の人と設立から 3 年半に満たない企業 を経営している人の合計)の割合(出典)GEM ホームページ< http://www.gemconsortium. org/key-indicators >より取得した 2013 年データを基に,筆者作成.

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長を押し上げることになるとしている。 2)女性の開業後の業績の推移  藤井ら4)によれば,男女別のアンケート調査から,開業後 の「黒字基調」と回答する企業の割合として,女性起業家は開 業後 2 年間は男性起業家を下回っているが,その差は徐々に縮 んでいき,3 年間で男性に追いつき,4 年後には女性の「黒字 基調」割合が男性を逆転する。女性はスタートアップの段階で は苦労するものの,やがて男性起業家と遜色のない実力を発揮 していくのだと考えられている。 7.若者の起業の実像  日本政策金融公庫国民生活事業が 2010(平成 22)年 4 ∼ 9 月にかけて融資した企業のうち,融資時点で開業後 1 年以内 の企業(開業前の企業を含む)にアンケート調査を実施(n = 1,443 件)。太田5)によれば売り上げ目標の達成率,採算,予 想月商達成率(「調査時点の月商」÷「開業前に予想していた月 商」× 100)を起業家の年齢層別に比べると,「34 歳以下」が「55 歳以上」に比べて非常に高く若年層ほど業績が高い。  採算状況を示す「黒字基調」とする割合を年齢別に見ても, 予想月商達成率と同様に,年齢が高くなるほど「黒字基調」と する割合は減少する。「39 歳以下」が 73.6%であるのに対し, 「50 ∼ 59 歳」では 60.4%,「60 歳以上」では 58.9%となっている。 8.経営者を補佐する人材  筆者には,妻という経営パートナーが存在する。起業した会 社の代表取締役社長は妻である。筆者は本業が大学教員であり 「二足のわらじ」とならぬように,役職に就かず会社出資者と して経営サポートと企画・教育・臨床を担当していたが,会社 規模が 100 人超となったために 2010 年 12 月より取締役会長に 就任し,正式に経営参画した。実は,起業当初は筆者が企画・ 準備して,妻に「数年後には,筆者が専任の代表取締役として 引き継ぐので,代表取締役を引き受けてほしい」と理解と協力 を得ていた経緯がある。代表取締役は取締役と比較しても非常 に重く,多忙であり,会社随一の営業マンという役割も有す る。起業時の約束は大目に見てもらい,筆者は現在も頼りにな る「右腕」という立場に就いている。一般的に,このような立 場の人材を置くことによって,代表取締役が誤った判断をした としても誤りを正すことが可能になるとされている。また,代 表取締役に足らないものを「右腕」が補うことによって,経営 に対してもよい影響を与えることになる。「右腕」の有無によ る企業の成長の影響については,「右腕」がいる企業は従業者 数の増加率が高いとされている。過去の調査結果でも,「右腕」 の存在が企業の成長に影響を与えることが確認されている(中 小企業庁「中小企業白書(2003 年版)」)1)。「右腕」がいる企 業の割合について中小企業庁「人材活用実態調査」(2004 年) によれば企業規模が大きいほど「右腕」がいる割合は高くなっ ている。 起業支援・資金調達  前述,起業志向の人が「起業しない理由」として,「資金不 足」という理由を挙げた。筆者の起業時は一般金融機関の融資 のハードルが高く,起業実績のない筆者が起業時の資金調達に 利用したのは,国民生活金融金庫であった。当然,国民生活金 融金庫は解散し,その役割は日本政策金融公庫に移管されてい る。現在は,創業または開業まもない会社であっても「各種の 融資」,筆者も利用した「補助金・助成金」,「利子補給」など の自治体独自の制度,「その他」の税制制度など様々な資金調 達と起業支援策がある。なお,融資の方法には①日本政策金融 公庫による公的融資,②自治体の制度融資で信用保証協会の保 証つき金融機関での融資,③金融機関独自の創業融資制度,④ 車両等のリースファイナンス(決算書のない開業時は利子に相 当するリース料が高いため「相見積」を要する)などがある。 ノンバンクも存在するが基本的に利用すべきでない。  これらの情報は 1 ヵ所で入手できるとは限らない。各商工会 議所,日本政策金融公庫(国民生活事業,中小企業事業),各 金融機関,各自治体,全国信用保証協会連合会(各自治体信用 保証協会),経済産業省(新規産業室),中小企業庁(創業・新 事業促進課),各経済産業局,各都道府県地域事務局,沖縄振 興開発公庫,厚生労働省,ハローワーク,その他で確認する必 要がある。また,募集期間が短期間である場合,申請書の内容 が複雑な場合,添付書類の期日,採択率が低いもの,複雑な条 件づけがある場合もある。創業時は,多忙なため社会保険労務 士,行政書士などに依頼することを勧める。 理学療法士による起業戦略  筆者も含めた理学療法士による起業の多くが「介護保険」の 「訪問看護事業」「通所介護事業」を主力事業とする事業モデ ルとなっている。団塊世代の 65 歳人口突入という節目となる 2015 年度介護保険制度改正は,通所介護事業にとって厳しい 内容と予測されている。また,訪問看護からの理学療法士等に よるリハサービスも介護保険制度改正を前に各所からの圧力を 受け続けている。国は,団塊世代が 75 歳人口突入する 2025 年 までに医療・介護保険制度の改革とともに「地域包括ケアシス テム」が推進される中で,通所リハ・サービス(デイサービス を含む)と訪問リハ・サービス(訪問看護を含む)の重要性が 増してゆくと予測されている。しかし,医療・介護保険制度が 公定価格であることを忘れてはならない。これらの改革には社 会保障・税一体改革を推進する財務省が主導してきている。医 療・介護保険にかかわるすべての事業所・職種が適正化(粛 清)が予測される中で,各種団体の予測不能な思惑が影響しな いとも限らない。それらの経営リスクも覚悟しておかねばなら ない。今後の「理学療法士による起業戦略」を考えてみる。 1.訪問リハ・ステーションだけが起業ではない  3 年ごとの介護保険制度改定で注目しているものに「訪問リ ハ・ステーション」新設がある。現在は東北地方の時限付特区 および千葉県柏市の特区のみに認可されている。  2014 年度の医療・介護保険のダブル改定で,期待されてい た「訪問リハ・ステーション」は実現しなかった。  しかし,「訪問リハ・ステーション」だけが起業ではない。 医療法人や社会福祉法人の法人格でなくとも,訪問看護ステー ションからの訪問リハ・サービス,リハ特化型のデイサービス

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を設立することができる。特にリハ・サービスをメインにしな くても,通常のデイサービス等の介護保険事業の法人経営でも 充分可能である。また公的保険外の自費対応によるリハ・サー ビス,フランチャイズや起業支援・コンサルテーションなどの 後方支援事業も可能である。これらすべての事業は,すでに理 学療法士等によって実際に行われている。  これらの事業は,医療・福祉領域の職種のみならず,鍼灸 マッサージ・薬局・土建・印刷・フィットネス・書籍・投資 家・元金融関係者・他からの参入実績が多いのも事実である。 インターネットで「リハビリ,デイサービス,起業」「訪問看護, リハビリ,起業」で検索すると,異業種からの新規事業を支援 するコンサルタント,フランチャイズ,講習会等がいかに多い か理解できる。なかには,Web を媒介に巧みに多くの異業種 会員(高額な会費)を集め,看護師確保と管理運営が難しい「訪 問看護」の開業支援のみ(高額なコンサル料,フランチャイズ 契約でないため運営は自己責任となる)を行い,結果として開 業できないか,または開業後に継続困難となる悪質なコンサル 業者も見られるようになった。関係団体や厚生労働省も監視を はじめている。 2.日本の高齢者人口の変遷  日本の人口は平成 17(2005)年をピークに減少している。 この人口減少は少子高齢化が背景となっている。65 歳以上の 高齢者数は 2025 年には 3,657 万人となり,2042 年にはピーク (3,878 万人)を迎えると予測されている。75 歳以上の高齢者の 全人口に占める割合は増加していき 2055 年には全人口の 25% (2,401 万人)を超えると見こまれている。  首都圏(東京都および近隣 3 県)においても平成 27 年以降 は人口減少が予測されている。75 歳以上人口は 2010 年→ 2025 年の 15 年間に「都市部(埼玉県 2.00 倍,千葉県 1.92 倍,神奈 川県 1.87 倍,大阪府 1.81 倍,愛知県 1.77 倍,東京都 1.60 倍)」 では急速に増加し,「もともと高齢者人口の多い地方(山形県・ 島根県 1.15 倍,鹿児島県 1.16 倍)」では緩やかに増加する。各 地域の高齢化の状況は異なるため,各地域の特性に応じた対応 が必要とされている(表 3)。  当社の営業地域は千葉県,神奈川県,大阪府,愛知県,東京 都であり,急速な高齢者人口の増加に伴い,地域医療・看護・ リハ・介護の整備がもっとも急がれる地域である。ひとつの時 代を支える大義とミッションとチャレンジの想いで事業展開を 行っている。 3.2015 年度介護保険制度改正  今回の制度改正の目玉は,大きく 3 点となっている。①要支 援 1・2 の対象者について介護保険本体の給付(予防給付)か ら,訪問介護と通所介護を外し,対応するサービスについて地 域支援事業を再編成。②通所介護の機能の改革,特に定員 10 人以下の小規模型については,地域密着型サービスへ移行さ せ,今後新たな事業所開設については保険者の管理にする。③ 特別養護老人ホームの入所対象者を原則要介護 3 以上とするこ とである。  要支援 1・2 の方の訪問介護と通所介護だけが 2015 年 4 月か ら 3 年間のうちに国から市町村事業へ移行については,当社の デイサービスがある船橋市では,2015 年度内に条例を制定し て移行準備に取り掛る予定であり,全国に先駆けて 6 月 26 日 に当社と一部の事業所が招集され船橋市介護保険課によるヒヤ リングが実施された。7 月 9 日の日本経済新聞「介護予防自治 体動く」の見出しで掲載されている。国は専門性の必要な分野 に関してはサービスの継続性を勧めており,当社の理学・作業 療法士によるリハ特化型(全国でも稀な小規模 10 人定員 / 半 日でも 2 名の療法士を常時配置体制)は非常に理解を示した。 ただし,単価設定も市町村でされることから,市町村の財源状 況により左右されることは必至であり,要支援の受入れについ ての経営判断も重要となる。  現在,介護保険給付費の第 1 位は特別養護老人ホームである。 特別養護老人ホームは 2015 年から入居条件を「要介護 3 以上」 に変更が決定している。そして介護給付費の第 2 位は通所介護 である。平成 24 年度の介護予防を含む「通所介護費費用額累 計」は約 8.9 兆円であり,介護給付費の 15.6%を占め,実に介 表 3 都市部と地方の 75 歳以上人口の増加率(15 年間)の違い 【急増加】 埼玉 千葉 神奈川 大阪 愛知 東京 2010 年 58.9 56.3 79.4 84.3 66 123.4 2025 年 117.7 108.2 148.5 152.8 116.6 197.7 増加率 2.00 倍 1.92 倍 1.87 倍 1.81 倍 1.77 倍 1.60 倍 【緩増加】 鹿児島 島根 山形 2010 年 25.4 11.9 18.1 2025 年 29.5 13.7 20.7 増加率 1.16 倍 1.15 倍 1.15 倍 上段:「都市部では急速に増加」,下段:「地方でも緩やかに増加」 国立社会保障 ・ 人口問題研究所の刊行資料からデータを引用して算出. 【引用資料】国立社会保障 ・ 人口問題研究所人口構造研究部:「表Ⅱ -13 都道府県別 75 歳 以上人口と指数(平成 22 年= 100)」p. 27, 報告書『日本の地域別将来推計人口−平成 22 (2010)∼ 52(2040) 年 −( 平 成 25 年 3 月 推 計 )』(2013( 平 成 25) 年 12 月 25 日 刊 行 ). ( 人 口 問 題 研 究 資 料 第 330 号,ISSN1347-5428).http://www.ipss.go.jp/pp-shicyoson/j/ shicyoson13/1kouhyo/gaiyo.pdf(平成 26 年 11 月 11 日引用)

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護サービス利用者全体の概ね 3 人に 1 人が利用しているといわ れている。特に小規模事業所については介護報酬単価が高く設 定されており,様々な事業者の参入もあり,増加が顕著な状況 にあると指摘された。それが今回の小規模通所介護の地域密着 型サービスへの移行,つまり総量規制に繋がったとされてい る。地域密着型事業は,市町村の総量計画に基づいて必要量が 決められる。指定権者の保険者への移行,人員要件の変更など 改正の動向への注視が不可欠である。  経営上の観点からすると,リスクヘッジ(Risk Hedge)も 重要となる。つまり,起こりうるリスクの回避,軽減,分散マ ネジメントのことである。方法としては①介護保険内の多角的 事業化。②同事業収入の介護保険比率を軽減させ全額自己負担 比率を高める。③同事業を外国人または海外で大義ある事業展 開をする。④介護保険に依存しない異なる新規事業により多角 的展開。⑤その他がある。 4.世界の変化に目を向けて,大義ある新しい事業を生みだせ  筆者の興味のひとつに「日本・中国・韓国・ASEAN・イン ドの人口オーナス・人口ボーナス・高齢化」「2015 年のアセア ン統合と今後の医療政策」などがある。  特に 2015 年のアセアン 10 ヵ国の統合は経済分野のみならず, 医療分野では医療機関の「クロスボーダ」と医師,看護師,理 学療法士等の資格の「クロスライセンス」が注目されている。 筆者はタイ,フィリピンなどの視察の中で,医療ツーリズムや ロングステイに代表されるように,日本人が世界を舞台にサー ビスを選ぶ時代だと感じた。アセアンなどでは数万人規模の日 本人マーケットが誕生し年々規模を拡大している。特にマレー シアやタイ王国は充実した医療インフラを整備して国家戦略と している。日本は現在,TPP の参加を留保しているが,数年 後には医療領域の解放・改革も余儀なくされる。  「人口ボーナス」,つまり生産年齢人口(15 ∼ 64 歳)が従属 人口(0 ∼ 14 歳,65 歳以上)の 2 倍以上の人口動態を示し, 経済成長の躍進期の指標とされる。一方,2 倍未満の状態を「人 口オーナス」といい,衰退期を示す。日本は 1955(昭和 30) ∼ 1990(平成 2)年に人口ボーナスの影響により経済成長が享 受できたが,1995(平成 7)年以降はオーナス期となっている。 ボーナス期を終えるのは,韓国,香港は 2010 年,シンガポール, タイ,台湾,中国は 2020 年,インドネシアは 2025 年,ベトナ ムは 2030 年,インドは 2040 年,マレーシアは 2045 年,フィ リ ピ ン が 2050 年 と な っ て い る( 国 連 統 計 資 料:UN, World Population Prospects: The 2012 Revision, IMF)。人口ボーナ スは,生産年齢人口の増加,GDP(国内総生産),そして個人 GDP(個人所得)を増大させる。対して,人口オーナスは高齢 者化をもたらす。日本は高齢化の速度は類のない速さである。 しかし,東アジア・アセアンも「人口オーナス」に突入すると 日本と類似した速度で高齢化を迎える。日本の高齢者人口は 2042 年をピークに減少傾向にある。我々は,少なくとも 2025 年までは日本の高齢化に向けた地域リハのインフラ整備に努め る必要性があるが,医療・介護保険事業のノウハウを武器に, アジア・アセアンの高齢化に向けた大義ある事業展開のニーズ も存在する。すでに,アジアの富裕層は日本の「食文化(米, リンゴ,本マグロ等)」だけでなく医療・介護への興味関心も 強い。  筆者の事業の失敗経験となるが,2011 年 6 月∼ 2012 年 5 月 の期間で「フィリピン・セブ」にて会社設立(当社資本)して 休止した経験がある。その概要としては『①政治塾「一新塾」 で筆者がプロジェクトリーダとなるテーマに連動させた活動, ②事業内容:リハビリテーション・サービス(ネガティブリス ト:外国資本では設立できない営業領域),③対象者:ロング ステイ邦人,隣国富裕層のリハニーズ,④協力者:現地政治家, 現地弁護士,マニラ JETRO 職員,現地日本人,⑤提携先:「大 学病院」「リゾートホテル」との提携調印,⑥スタッフ:現地 の看護師 1 名,理学療法士 2 名,作業療法士 1 名採用,⑦休止 理由:為替上昇(事業モデルの再検討)およびリハ・スタッフ の教育と雇用リスク(キャリア文化・労働法で雇用リスクがあ り,現地リハスタッフは米国移住志向)のため』となっている。 現在の国内事業展開が優先のため,時期を見て再チャレンジを したいと考えている。 最 後 に  理学療法士の起業を早くから実践してきた経営者として多く の方が挙げられる。彼らは,自らの事業の成長のみならず,こ れからの理学療法士の後輩育成に惜しみなく注力し,業界の今 後の戦略的成長を導くリーダーとして敬意を表したい。  さて,起業,その後の成長,そして会社規模に応じ,組織に 対応して変化させていかねばなりません。企業のための基本知 識は他情報や書籍に譲り,ここでは私の経験を踏まえた実際の 経営戦略と理学療法士を取り巻く様々な情報を取り上げまし た。起業は女性,若者にもチャンスがあり,様々な支援策が存 在します。まず,身近な起業経験者の体験を聞いたり接するこ とが,その可能性を高めます。協会においても関連した調査・ 情報収集に加えて理学療法士の起業家をまとめる機会をつくら れることを希望します。 文  献 1) 中小企業庁:中小企業白書(2014 年版),第 3 部 中小企業・小規 模事業者が担う我が国の未来,第 2 章 起業・創業─新たな担い 手の創出.日経印刷,東京,2014,pp. 181‒245. 2) 日本政策金融公庫 総合研究所 小企業研究第 1 グループ:起業意識 に関する調査(平成 26 年 1 月 9 日発表).https://www.jfc.go.jp/ n/fi ndings/pdf/topics_140109_1.pdf(平成 26 年 11 月 11 日引用) 3) 三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング(株):中小企業庁委託「日 本の起業環境及び潜在的起業家に関する調査」(2013 年 12 月発表), 中小企業白書(2014 年版),第 3 部 中小企業・小規模事業者が担 う我が国の未来,第 2 章 起業・創業─新たな担い手の創出.日 経印刷,東京,2014,pp. 181‒245. 4) 藤井辰紀,金岡諭史:女性起業家の実像と意義.日本政策金融公 庫論集.2014; 23: 27‒42. 5) 太田智之:年齢によって異なる新規開業者の実態.日本政策金融 公庫論集.2012; 15: 49‒61.

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