• 検索結果がありません。

クリニカルリーズニングに基づく症例検討

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "クリニカルリーズニングに基づく症例検討"

Copied!
4
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

理学療法学 第 41 巻第 8 号 584  本稿ではおもに臨床意思決定→治療介入→再評価の流れと, 患者教育,患者への治療参加への促し方や行動を変容させるた めの方略について,メタ認知を含めた思考過程を提示する1)。 (症例提示)64 歳,女性。診断名は腰椎椎間板ヘルニア。性格 的に非常に前向き,negative な因子は見受けられない。理学療 法への参加も積極的である。職業は清掃業で 1 日に約 9 時間, フローリングワイパー・掃除機を使用しての立位での作業が主 である。現在の職場に 10 年以上勤務し,スタッフ内では中心 的な役割を担っている。趣味ははじめて間もないボーリングで あり,可能であれば再開したいとの要望があった。  主訴としては立位・歩行時の左腰殿部∼大 後面・下 後面 にわたる痺れと痛みであった。座位での症状は認められない。 元来腰痛は有していなかったが,4 月上旬に誘引なく起床時に 主訴。他院にて内服とマッサージのみ行っていたが,2 週間経 過しても症状持続のため,当院受診となった。 (画像所見)レントゲンでは年齢に比して変性が顕著で,L5/ S1 椎間板高の低下,第 4・5 腰椎右回旋,第 3 腰椎における左 回旋が認められた(図 1)。MRI では L5/S1 高位にて下方まで migration したヘルニアが認められた(図 2)。 (症状再現)SLR test では 70/70 で左側の下肢症状の再現は認 められなかった。もっとも再現が得られたのは Kemp 徴候で, 左腰殿部から遠位に放散する疼痛・痺れの再現が得られた(図 3)。下肢の著明な股関節可動域制限は認められなかったが,左 股関節伸展・外転筋力は MMT にて 4 レベルであった。仙腸 関節へのストレステスト2)もすべて陰性であった。圧痛は左 PSIS,左 L5/S1 椎間関節,左梨状筋,左大 直筋に確認され, 左 L5/S1 椎間関節の圧迫により左殿部への放散痛が出現した。 (仮説生成)症状部位,画像所見から左 L5/S 椎間板ヘルニア に由来する症状が考えられたが,SLR test は陰性であった。久 野木らは腰椎椎間板ヘルニアの神経根障害様式は神経根絞扼型 と非絞扼型(圧排型)に分類されるとし,SLR test 陽性の場 合は神経根圧迫型が,Kemp 徴候陽性例では腰椎後屈制限が顕 著となり,ヘルニアより尾側,上関節突起基部にて神経根を圧 迫する神経根絞扼型が多く認められると報告している3)。MRI では L5 神経根症状を示す所見は明確でないものの,Kemp 徴 候が陽性であること,左 L5/S 椎間関節の圧迫による殿部症状 の再現が認められたこと,歩行や清掃業務時など腰椎伸展を伴 う動作にて出現することから,左 L5 神経根絞扼症状が主症状 であると推察した。 (主観的・客観的評価)触診にて仙骨左側屈・左回旋,左寛骨 下制・outfl are が認められた。 1.片脚立位検査  左 PSIS と仙骨下外側角を触診し,左片脚立位になった際に 理学療法学 第 41 巻第 8 号 584 ∼ 587 頁(2014 年)

クリニカルリーズニングに基づく症例検討

─下肢神経症状を有する症例について─

多々良大輔

1)

 常 盤 直 孝

2)

 木 藤 伸 宏

3)

運動器理学療法研究部会

Case Study Based on Clinical Reasoning: About a Case Having Lower Limbs Neurologic Symptoms

1) 福岡志恩病院

(〒 838‒0101 福岡県小郡市美鈴が丘 1‒5‒3) Daisuke Tatara, PT: Fukuoka Shion Hospital 2) 川越整形外科医院

Naotaka Tokiwa, PT: Kawagoe Orthopedic Hospital 3) 広島国際大学総合リハビリテーション学部理学療法学専攻 Nobuhiro Kitou, PT: Department of Integrated Rehabilitation,

Faculty of Rehabilitation, Hiroshima International University キーワード:クリニカルリーズニング,ホームエクササイズ,再評価

図 1 X-P

図 2 MRI L5/S Japanese Physical Therapy Association

(2)

クリニカルリーズニングに基づく症例検討 585

左 PSIS が仙骨下外側角に対し,前方に変位が認められた(図 4,5)。この検査にて仙腸関節にて仙骨後傾・寛骨前方回旋位: loosed packed position となった場合,腰椎骨盤帯と下肢の荷 重伝達が行われず,不安定な片脚立位となる4)。本症例では左 寛骨を前方回旋させるトルクをおもに左大 筋膜張筋・大 直 筋が担っていることが予測された。

2.ASLR (active straight leg raise) test

 左下肢挙上時に骨盤帯の左回旋が出現し,主観的にも左下肢 の方が重いとの訴えと一致が得られた。検者が左寛骨を infl are ・挙上方向へ徒手的に他動修正すると左下肢の鈍重感は即時的 に減少するとともに,左大 筋膜張筋・大 直筋の圧痛の消失 も確認した。三島らは超音波を用い,ASLR test にて骨盤前方 圧迫により腹横筋の筋厚増加とともに自覚的な挙上時の鈍重感 の改善が得られたと報告していることから,本症例では左腹横 筋・内腹斜筋の機能不全が示唆された5)。 3.股関節外転テスト  側臥位での左股関節外転筋力テストにて,外転最終域での抵 抗に抗することができず,最終外転位での出力不全が認めら れ,代償運動として下位腰椎伸展が認められた。そのため 2. 同様,左寛骨を infl are・挙上方向へ徒手的に固定を加えた状態 で同抵抗を加えると,下位腰椎伸展の消失とともに最終外転位 での保持が可能となった。Cynn6)ら,筆者7)らは表面筋電図 を用い,同肢位での股関節外転活動に際し,固定部となる左寛 骨の安定性の提供源として同側内腹斜筋の協調的活動が必要で あることを報告している。本症例では主動作筋となる左股関節 外転筋群の弱化よりも,左内腹斜筋を中心とした固定筋の動員 不全が示唆された。 (患者の判断・治療方針の理解)1.における左片脚立位に伴う 症状の再現に加え,2.3.の左寛骨の徒手誘導による症状変化 によって『左の骨盤を安定させること』が主要問題点の大きな ひとつとすることを患者との共通見解とすることに成功した。 (治療→ホームエクササイズ指導)徒手療法としては左 L5/S 椎間関節に対する mobilization を行うとともに,下位腰椎屈曲 可動域の拡大を図った。  ホームエクササイズとしては,1.背臥位で左膝・右足底で 圧迫することによる左寛骨 infl are 方向への Muscle energy(図 6),2.右側臥位にて左寛骨の outfl are・左下位腰椎椎間関節 の過伸展を生じないように自身の左手指で寛骨をモニタリング しつつ,左股関節の開排運動に伴う股関節外転筋・内腹斜筋の 協調的なコントロールを促すように指導した(図 7)。 (再評価)ホームエクササイズ指導直後に主観的・客観的評価 に挙げた 3 項目を再度評価すると,左腰殿部から大 部痛の 緩和が得られた。また 1.の左片脚立位での安定性の増加,2. の ASLR test では左下肢の鈍重感の改善,左大 筋膜張筋・ 図 3 Kemp 徴候 図 4 左片脚立位テスト 図 5 左大 筋膜張筋・ 大 直筋 Japanese Physical Therapy Association

(3)

理学療法学 第 41 巻第 8 号 586 大 直筋の圧痛の減少,3.の股関節外転テストでは他動固定 を外しても左寛骨の安定性向上により最終域での抵抗に抗する ことができることを患者に実感させることを試みた。 (問題に対する考え方の発展)経過の中で症例から清掃を行う 際の動作について『よく思い返すと右足を前方にだして突っ 張ったような形で体重を支え,左手でワイパーや掃除機を操作 しています。腰の左側を反ってしまう習慣って,作業方法が原 因なのでしょうか』との質問があった(図 8)。  詳細を分析するため,類似行為を試してみた結果,四つ い にて左上肢の最大挙上を行うと,同側の左膝へ荷重をまったく 行えず,右下肢に体重を移動してしまうことを確認した。また 腹臥位にて左上肢を最大挙上する肢位:Daniel の僧帽筋下部 線維の筋力検査:4 レベルで左殿部から下 へ放散する痺れ・ 痛みの再現が得られた(図 9)。このときに左梨状筋・大 筋 膜張筋・大 直筋の過剰収縮を伴う下位腰椎伸展が認められた が,左寛骨挙上・infl are 方向への他動的補助を行うと,左下肢 症状の寛解が得られるとともに前述の 2 筋の圧痛が減弱した。 (ホームエクササイズ指導→再評価→生活指導)上記 2 つの分 析内容から,ホームエクササイズとして四つ いにて左膝下に 厚手のバスタオルを重ね合わせた状態から,下位腰椎の伸展 を生じないように左膝で体重支持しつつ,対側の右膝を 2 ∼ 3 cm 挙上する運動を追加・指導した(図 10)。このエクササ イズにて左腹横筋・内腹斜筋の促通と合わせ,下位腰椎屈曲・ 伸展中間位でのコントロールと併行して左膝への荷重伝達を促 した後に,左僧帽筋下部線維の筋力テストを行うと,左下肢症 図 6 等尺性収縮を用いた左寛骨挙上・infl are 方向への誘導 図 7 股関節外転筋・内腹斜筋の協調的収縮トレーニング 図 10 四つ いでの腰椎─骨盤帯の安定化トレーニング 図 8 作業姿勢の再現 図 9 腹臥位での左上肢最大挙上 Japanese Physical Therapy Association

(4)

クリニカルリーズニングに基づく症例検討 587 状の減弱が確認できた。  これらの一連の流れを通して,図 8 の作業姿勢が症状に関与 している可能性があることを共通見解とすることができ,左下 肢を前方で体重支持,右手での作業を積極的に行いたいと症例 から申し出があったため,徐々に導入してみるように助言を 行った。 (仮説修正)上記の一連の介入を通して,立位・歩行時の左腰 殿部痛は著明な改善を示したが,左大 部∼下 後面の痺れ・ 疼痛に関しては NRS にて 4/10 の改善に留まった。左 L5/S1 椎間関節における圧痛・左殿部への放散痛は寛解に至ったもの の Kemp 徴候での症状は左大 ∼下 後面が主となったこと から,左殿部痛は Fukui らが報告している左 L5/S 椎間関節に 由来する関連痛と合併していた可能性も考えられ8),残存した 下肢症状は左 L5 神経根神経根絞扼症状もしくは migration し たヘルニアに由来する S1 症状が残存している状態ではないか との仮説修正を行った。  久野木らは腰椎屈曲時に神経症状が出現する神経根圧排型よ りも伸展時に症状を有する神経根絞扼型の方が手術適応となる 例が高いと報告しているが3),本症例では現状の大 から遠位 に至る症状は寛解傾向にあったことから,主治医からは投薬と 合わせ,時間をかけて経過をみる必要性について症例に対して 説明があり,ホームエクササイズと週 1 回の理学療法を継続し て行っていくことに同意が得られた。 結  語 理学療法場面における患者への教育と情報の共有については, 医師の指示・協力の下,理学療法士の一方的な情報提供に留ま るのではなく,患者の価値観を大事にしながら,患者の自己効 力感(self-effi cacy)を強化し,行動変容を促すことに繋げる必 要がある。Jones は再評価を『セラピストと患者間の治療方針 決定に対する理解を深め,共有する機会である』と定義してい る1)。ホームエクササイズ指導前後での再評価を計画的に行う ことで,その効果について患者に実感させるとともに,自身の 有する疾病と対峙するための姿勢・作業習慣の見直し,症状と の関係性への意識づけを通し,症状改善に向けた能動的参加を 促すことが重要である。  本稿を終えるにあたり,御指導・御校閲を賜りました小橋 芳浩医師,志田義輝医師に謝意を申し上げます。 文  献

1) Jones MA, Rivett DA, et al.:マニュアルセラピーに対するクリニ カルリーズニングのすべて.藤縄 理,他(訳),協同医書出版社, 東京,2010,p. 3.

2) Laslett M: Evidence-Based Diagnosis and Treatment of the Painful Sacroiliac Joint. J Man Manip Ther. 2008; 16(3): 142‒152. 3) 久野木順一:腰痛疾患の臨床徴候と診断手技.日本腰痛会誌.

2005; 11(1): 12‒19.

4) Hungerford BA, Gilleard W, et al.: Evaluation of the ability of physical therapists to palpate intrapelvic motion with the Stork test on the support side. Phys Ther. 2007; 87(7): 879‒887. 5) 三島孝史,高田雄一,他:下肢伸展挙上時の骨盤圧迫が腹横筋筋

厚に与える影響.第 48 回日本理学療法学術大会.2013. 6) Cynn HS, Oh JS, et al.: Effects of lumbar stabilization using a

pressure biofeedback unit on muscle activity and lateral pelvic tilt during hip abduction in sidelying. Arch Phys Med Rehabil. 2006; 11: 1454‒1458.

7) 多々良大輔,吉住浩平,他:側臥位での股関節外転運動における 主動作筋・固定筋の役割.第 47 回日本理学療法学術大会.2012. 8) Fukui S, Ohseto K, et al.: Distribution of referred pain from the

lumbar zygapophyseal joints and dorsal rami. Clin J Pain. 1997; 13(4): 303‒307.

Japanese Physical Therapy Association

参照

関連したドキュメント

(平成 10 年法律第 114 号。)第 15 条に基づく積極的疫学調査の一環として、「新型コロナ

和歌山県臨床心理士会会長、日本臨床心理士会代議員、日本心理臨床学会代議員、日本子どもの虐

2各 種 の思春期早 発症につ き, その臨床的特徴 と検 査所見 につ き簡 単に述 べ, そつ発 生機序, 原因並びに治.. 療 につ き若干 の文献

この基準は、法43条第2項第1号の規定による敷地等と道路との関係の特例認定に関し適正な法の

大学設置基準の大綱化以来,大学における教育 研究水準の維持向上のため,各大学の自己点検評

医師の臨床研修については、医療法等の一部を改正する法律(平成 12 年法律第 141 号。以下 「改正法」という。 )による医師法(昭和 23

医師と薬剤師で進めるプロトコールに基づく薬物治療管理( PBPM

infectious disease society of America clinical practice guide- lines: treatment of drug-susceptible