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競走馬の馬名に「パブリシティ権」を認めた事例

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「企業と発明」(2004 年 11 月号)掲載 (社団法人発明協会大阪支部発行)

米国における特許権侵害を日本の裁判所で判断した事例Ⅰ

平成 15 年 10 月 16 日東京地裁平成 14 年(ワ)第 1943 号(サンゴ砂事件) レクシア特許法律事務所 弁護士・弁理士 山田 威一郎 Ⅰ はじめに 近年、経済活動のグローバル化、ボーダ レス化が進展する中で、企業にとっては世 界的な特許戦略の構築が急務の課題となっ ており、特許紛争も国際化の傾向が顕著で ある。こうした中で昨年10月に東京地裁 から出された本判決は、米国における特許 権侵害の成否につき我が国の裁判所が具体 的な判断を下した最高裁、下級審を通じて 初めての判決であり、実務上、重要な意味 を持つ。本稿では、本判決における国際裁 判管轄、準拠法についての考え方を紹介し た上で、外国における特許権侵害を日本の 裁判所で争うことの可否、利害得失につい て検討を加える。米国特許権侵害の具体的 判断の部分については、次号(12 月号)で 立花顕治弁理士(米国研修中)が解説を加 える予定である。 Ⅱ 事実の概要 日本法人であるX(原告)は、日本国内 で造礁サンゴ化石を粉砕したサンゴ化石微 粉末を製造し、これを健康食品として販売 し、米国にも輸出、販売していた。 同じく日本法人であるY(被告)は、サ ンゴ砂を利用した健康増進のための組成物 等の発明について米国特許権を有しており、 Xの米国での大口取引先H社(X製品にビ タミン類などを混合したカルシウム健康食 品を米国で販売していた)に対し、X製品 およびH社製品はYの特許権を侵害するも のであること、Yとしては米国での訴訟提 起の用意があること等を主張する警告書を 送った。この警告を受けて、XはH社との 取引ができなくなった。 そこで、XはYに対し、①米国における Xに対する差止請求権の不存在確認、②X の取引先に対しX製品の販売行為がYの米 国特許権を侵害する旨の警告をすることの 差止、③米国におけるXの取引先に対する 差止請求権の不存在確認、④Xの取引先に 対し同社によるX製品の販売行為がYの米 国特許権を侵害する旨の警告をすることの 差止、⑤虚偽事実の告知・流布についての 損害賠償を求めて東京地裁に訴えを提起し た。

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これに対し、Yは、我が国の国際裁判管 轄の不存在、訴えの利益の不存在、原告製 品は被告米国特許を侵害するものであるこ とを主張して争った。 Ⅲ 判決要旨 請求①(Xへの差止請求権不存在確認)、 請求②④(営業誹謗行為の差止)は認容。 請求⑤(損害賠償)は一部認容。請求③(取 引先への差止請求権不存在確認)は訴えの 利益を認めず却下。 (1)まず、国際裁判管轄について以下の ように述べる。 「国際裁判管轄については、国際的に承認 された一般的な準則が存在せず、国際慣習 法の成熟も十分ではないため、具体的な事 案について我が国に国際裁判管轄を認める か ど う か は 、 当 事 者 間 の 公 平 や 裁 判 の 適 正・迅速の理念により条理に従って決定す るのが相当である。そして、我が国の裁判 所に提起された訴訟事件につき、我が国の 民事訴訟法の規定する裁判籍のいずれかが 我が国内に存する場合には、我が国におい て裁判を行うことが当事者間の公平、裁判 の適正・迅速の理念に反するような特段の 事情が存在しない限り、当該訴訟事件につ き我が国の国際裁判管轄を肯定するのが相 当である(最高裁昭和55年(オ)第130 号同56年10月16日第二小法廷判決・ 民集35巻7号1224頁、最高裁平成5 年(オ)第764号同8年6月24日第二小 法廷判決・民集50巻7号1451頁、最 高裁平成5年(オ)第1660号同9年11 月11日第三小法廷判決・民集51巻10 号4055頁参照)。 そして、これを本件についてみるに、被 告は我が国内に本店を有する日本法人であ り、被告の普通裁判籍が我が国内に存する ものであるから(民訴法4条4項)、上記 のような特段の事情のない限り、我が国の 国際裁判管轄を肯定するのが相当である。 被告は、特許権については属地主義が適 用されることを挙げて、上記の各請求に係 る訴えについては、我が国の国際裁判管轄 が否定される旨を主張する。しかしながら、 特許権の属地主義の原則とは、各国の特許 権が、その成立、移転、効力等につき、当 該国の法律によって定められ、特許権の効 力が当該国の領域内においてのみ認められ ることを意味するものであり(最高裁平成 7年(オ)第1988号同9年7月1日第三 小法廷判決・民集51巻6号2299頁)、 特許権の実体法上の効果に関するものであ って、特許権に関する訴訟の国際裁判管轄 につき言及するものではない。 特許権に基づく差止請求は、私人の財産 権に基づく請求であるから、通常の私法上 の請求に係る訴えとして、上記の原則に従 い、我が国の国際裁判管轄を肯定すべきか どうかを判断すべきものであり、被告の普

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通裁判籍が我が国に存する場合には、我が 国の国際裁判管轄が肯定されるものである。 たしかに、特許権については、その成立要 件や効力などは、各国の経済政策上の観点 から当該国の法律により規律されるもので あって、その限度において当該国の政策上 の判断とかかわるものであるが、その点は、 差止請求訴訟における準拠法を判断するに 当たって考慮されるものであるにしても、 当該特許権の登録国以外の国の国際裁判管 轄を否定する理由となるものではない(最 高裁平成12年(受)第580号同14年9 月26日第一小法廷判決・民集56巻7号 1551頁参照)。 なお、特許権の成立を否定し、あるいは 特許権を無効とする判決を求める訴訟につ いては、一般に、当該特許権の登録国の専 属管轄に属するものと解されている。特許 権に基づく差止請求訴訟においては、相手 方において当該特許の無効を抗弁として主 張して特許権者の請求を争うことが、実定 法ないし判例法上認められている場合も少 なくないが、このような場合において、当 該抗弁が理由があるものとして特許権者の 差止請求が棄却されたとしても、当該特許 についての無効判断は、当該差止請求訴訟 の判決における理由中の判断として訴訟当 事者間において効力を有するものにすぎず、 当該特許権を対世的に無効とするものでは ないから、当該抗弁が許容されていること が登録国以外の国の国際裁判管轄を否定す る理由となるものではなく、差止請求訴訟 において相手方から特許無効の抗弁が主張 されているとしても、登録国以外の国の裁 判所において当該訴訟の審理を遂行するこ とを妨げる理由となるものでもない。 本件は、米国特許権に基づく差止請求権 の存否が争われている事案であるところ、 米国においては、差止請求訴訟において相 手方が特許無効を抗弁として主張すること ができることが、法律に明文で規定されて い る も の で あ る が ( 米 国 特 許 法 2 8 2 条 (2)項)、当該訴訟における特許無効の 判断により、当該特許が直ちに対世的に無 効となるものではない。 本件は、特許権に基づく差止請求の不存 在確認請求訴訟であり、いわゆる消極的確 認訴訟であるが、差止請求訴訟について述 べた上記の点は、同様に妥当するものであ る。 また、原告による米国内における原告製 品の販売につき、被告が本件米国特許権に 基づいて差止請求訴訟を提起する場合につ いては、相手方である原告の本店所在地で ある我が国か、あるいは特許権の登録国で あり侵害行為地でもある米国に国際裁判管 轄を認め得るものと解されるが、特許権者 たる被告の本店が我が国に存すること等に 照らせば、被告が我が国において本件訴訟 に応訴することが、米国において差止請求

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訴訟を提起して追行することに比して、不 利益を被る事情が存在するとは認められな い。この点に照らせば、本件は、被告によ る差止請求訴訟の提起に先んじて、原告か ら差止請求権不存在確認訴訟を我が国にお いて提起したものであるが、原告が本件訴 訟の提起により我が国の国際裁判管轄を不 当に取得したということもできない。 以上によれば、本件においては、被告の 普通裁判籍が我が国内に存するものであり、 我が国において裁判を行うことが当事者間 の公平、裁判の適正・迅速の理念に反する ような特段の事情も存在しないから、我が 国 の 国 際 裁 判 管 轄 を 肯 定 す べ き も の で あ る。」 (2)次に、原告製品の販売が本件米国特 許権を侵害するかどうかを判断する上での 準拠法について、以下のように述べる。 「米国特許権に基づく差止請求は、被害者 に生じた過去の損害のてん補を図ることを 目的とする不法行為に基づく請求とは趣旨 も性格も異にするものであり、米国特許権 の独占的排他的効力に基づくものというべ きであるから、その法律関係の性質は特許 権の効力と決定すべきである。特許権の効 力の準拠法については、法例等に直接の定 めがないから、条理に基づいて決定すべき ところ、①特許権は、国ごとに出願及び登 録を経て権利として認められるものであり、 ②特許権について属地主義の原則を採用す る国が多く、それによれば、各国の特許権 がその成立、移転、効力等につき当該国の 法律によって定められ、特許権の効力が当 該国の領域内においてのみ認められるとさ れており、③特許権の効力が当該国の領域 内においてのみ認められる以上、当該特許 権の保護が要求される国は、登録された国 であることに照らせば、特許権と最も密接 な関係があるのは、当該特許権が登録され た国と解するのが相当であるから、当該特 許権と最も密接な関係がある国である当該 特許権が登録された国の法律によると解す るのが相当である(最高裁平成12年(受) 第580号同14年9月26日第一小法廷 判決・民集56巻7号1551頁参照)。 し たがって、請求の趣旨第1項の請求につい ては、米国特許法が準拠法となる。」 (3)そして、特許権侵害の成否について は、米国特許法に基づき、原告製品は被告 特許の文言侵害にも均等侵害にも該当しな いと述べ、被告が、原告の米国内の取引先 に対して、特許権侵害の警告をした行為は、 不正競争防止法2条1項14号所定の不正 競争行為(営業誹謗行為)に該当すると判 断している。 Ⅳ 本判決についての考察 1.国際的な私法関係をめぐる紛争を規律 するための枠組 本件のように国際的な私法関係をめぐる

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紛争が我が国の裁判所に提起された場合、 まず、我が国の裁判所が当該事件の裁判管 轄権を有するかが問題となる。そして次に、 当該事案に適用されるべき法律はいずれの 国の法律かを決定する必要がある。前者が 国際裁判管轄権の問題であり、後者が準拠 法の問題である。国際裁判管轄の問題と準 拠法の問題は各々別個の問題であり、日本 の裁判所において外国法が適用されること も往々にして起こりうる。 2.我が国の裁判所に訴訟を提起すること が可能か(国際裁判管轄) 外国特許権侵害訴訟の国際裁判管轄につ いて、古くは、属地主義の原則を理由にこ れを否定する見解が有力であった(豊崎光 衛「工業所有権法(新版・増補)」法律学 全集(1980年)37頁参照)。しかし、 現在では属地主義の原則は実体法上の権利 の効力に関する原則であり国際裁判管轄を 否定する根拠にはならないとして、外国特 許権侵害訴訟につき我が国の裁判管轄を肯 定する見解が通説となっている(田中徹「外 国特許権侵害の裁判管轄権と法令11条2 項」ジュリスト215号94頁、紋谷鴨男 「知的財産の法的保護」国際私法の争点(新 版)560頁、山田鐐一「国際私法」38 8頁、高部眞規子「特許権侵害訴訟と国際 裁判管轄」牧野利秋判事退官記念論文集「知 的財産権法と現代社会」125頁、茶園成 樹「外国特許権侵害の国際裁判管轄」日本 工業所有権法学会年報21号59頁)。 いかなる場合に、我が国の国際裁判管轄 を認めるべきかについては、特許権侵害訴 訟も財産権関連訴訟の一類型にすぎない以 上、原則として、財産関連事件についての 国際裁判管轄についての一般的な管轄ルー ルが妥当すると考えてよい。我が国におけ る財産関連事件の国際裁判管轄の決定基準 については、学説上、逆推知説(国際裁判 管轄は、民事訴訟法上の土地管轄に関する 規定から逆に推知するほかはなく、民事訴 訟法の規定する裁判籍が日本国内に存在す る場合には、我が国の国際裁判管轄を肯定 する考え方)と管轄配分説(国際裁判管轄 の問題を国際社会における裁判機能の分配 の問題ととらえ、国際的配慮に基づいて民 事訴訟法の土地管轄の規定に修正を加え、 国際民事訴訟法独自の国際裁判管轄の規範 を確立すべきであるとの考え方)の対立が あるが、最判昭和 56 年 10 月 16 日民集 35 巻 7 号 1224 頁(マレーシア航空事件)は逆 推知説を採用している。その後、最判平 9 年 11 月 11 日民集 51 巻 10 号 4055 頁は、「我 が国で裁判を行うことが当事者間の公平、 裁判の適正・迅速を期するという理念に反 する特段の事情があると認められる場合に は、我が国の国際裁判管轄を否定すべきで ある」と判示し、逆推知説に一定の修正を 加えている(修正逆推知説)。本判決は、

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「我が国の裁判所に提起された訴訟事件に つき、我が国の民事訴訟法の規定する裁判 籍のいずれかが我が国内に存する場合には、 我が国において裁判を行うことが当事者間 の公平、裁判の適正・迅速の理念に反する ような特段の事情が存在しない限り、当該 訴訟事件につき我が国の国際裁判管轄を肯 定するのが相当である。」と述べ、前記判 例の枠組で本件の国際裁判管轄を判断すべ きとしている。そして、その上で、被告が 日本国内に本店を有する日本法人であり、 被告の普通裁判籍が日本国内に存すること、 我が国において裁判を行うことが当事者間 の公平、裁判の適正・迅速の理念に反する ような特段の事情も存在しないことを理由 に、我が国の国際裁判管轄を肯定している。 かかる判断は、前記の通説的見解によった ものであり、学説の立場からも支持しうる ものである。 3.外国特許権侵害訴訟につきどこの国の 法が適用されるか(準拠法) 外国特許権が当該外国で侵害された場合 に当該外国の特許法が準拠法として適用さ れることについては学説上も争いはなく、 当然の帰結として受け入れられている。 外国特許権侵害事件についての適用法規 の決定方法については、①属地主義の原則 を根拠に特許権の効力に関する問題には保 護国法が適用されるとする見解、②差止請 求、損害賠償請求ともに法令11条により 不法行為地法が準拠法になるとの見解、③ 差止請求については特許権の効力の問題で あり保護国法が準拠法になり、損害賠償請 求については法令11条により不法行為地 法が準拠法になるとの見解の対立があるが、 外国特許権が当該外国で侵害された事案に ついては、権利の保護国と不法行為地国と が一致するため、いずれの説を採ったとし ても結論に影響はない。 本判決は、③の見解を採った最高裁平成 14 年 9 月 26 日第一小法廷判決民集第 56 巻 7 号 1551 頁(カードリーダー事件)に従い、 権利保護国法たる米国法を準拠法としてい る。 4.本件における実体的判断 前述した国際裁判管轄、準拠法の議論を 受けて、本件では、原告製品が被告の米国 特許を侵害するか否かの判断がなされてお り、結論としては文言侵害にも均等侵害に も該当しないとの判断がなされている(こ の点の解説は次号に譲る)。 そして、その上で、被告が原告の取引先 に対し特許権侵害の警告を送った行為が不 正競争防止法2条1項14号所定の不正競 争行為(営業誹謗行為)に該当するとの判 断がなされている。取引先への特許権侵害 警 告 が 客 観 的 事 実 に 反 し て 行 わ れ た 場 合 (すなわち、特許権侵害に該当しなかった

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場合)、当該警告は営業誹謗行為に該当す るというのが今日までの裁判例の基本的立 場であり(東京地判昭和 47 年 3 月 17 日「フ イゴ履事件」判タ278号374頁、大阪 地判昭和49 年 9 月 10 日「チャコピー事件」 無体集6 巻 2 号 217 頁)、本判決は従来の 裁判例に沿った妥当な判断であるといえよ う。 Ⅴ 特許権侵害訴訟の国際裁判管轄に関 する今後の課題 1.どのような場合に我が国の裁判管轄が 認められるか 本判決は、一般の財産関連訴訟における 管轄ルールが特許権侵害訴訟にも適用され ることしたが、これによると、被告が日本 に 住 所 ま た は 主 た る 営 業 所 を 有 す る 場 合 (民訴法4条)のほか、合意管轄(民訴法 11条)、応訴管轄(民訴法12条)が認 められる場合に我が国の国際裁判管轄が肯 定されることになる。不法行為地管轄(民 訴法5条9号)については不法行為地が外 国となるため適用の余地はなく、義務履行 地管轄(民訴法5条1号)については原告 の所在地が日本であることのみをもって損 害賠償の義務履行地である日本に管轄を認 め る こ と に は 消 極 的 な 見 解 が 有 力 で あ る (前掲高部「特許権侵害訴訟と国際裁判管 轄」)。 被告が日本に何らの拠点も有さない外国 企業の場合、原告が日本で訴訟を提起する ことを認めるとは考えにくいため、合意管 轄、応訴管轄が認められる事例は稀であろ う。そのため、実際に我が国に国際裁判管 轄が認められるのは、主に日本企業同士の 争いと考えてよい(本件も日本法人同士の 争いである)。 2.差止請求についても我が国の裁判管轄 は認められるか 前述した通り、外国の特許権侵害につい ても我が国の裁判管轄を肯定するのが現在 の通説的見解であり、本判決の考えでもあ るが、差止請求訴訟について我が国の裁判 管轄を認めてよいかについては、依然とし て学説上の対立がある。 否定説は、我が国の裁判所が外国におけ る差止の是非を判断することは当該国の主 権を侵害することになるとの理由で外国に おける差止請求の可否については我が国の 裁判所は判断できないとする(前掲高部「特 許権侵害訴訟と国際裁判管轄」)。これに 対し、肯定説は、我が国の裁判所の判断は 外国における特許法に従い外国でも禁止さ れる行為だけであり、また執行法上の効果 も当然に外国に及ぶものではないから、差 止請求を認めても外国主権を侵害すること にはならないとする(前掲田中「外国特許 権侵害の裁判管轄権と法令11条2項」、 前 掲 茶 園 「 外 国 特 許 権 侵 害 の 国 際 裁 判 管

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轄」)。 学説上は、肯定説が多数であり、本判決 も差止請求訴訟の裁判管轄を肯定すること を当然の前提としている。しかし、東京地 裁の高部判事が前記論文の中で否定説をと っていることもあり、今後の判例の展開が 注目される。 3.権利無効の抗弁の扱い 我が国では、最判平成 12 年 4 月 11 日民 集54巻4号1368頁(キルビー事件) により、無効理由が存在することが明らか な特許権に基づく権利行使は権利の濫用に 当たるとされたが、諸外国においても特許 権侵害訴訟において権利無効の抗弁を認め る国が多い。そこで、我が国で提起された 外国特許の侵害事件について権利無効の抗 弁が提出された場合に、裁判所が権利の有 効性の判断をすることができるかが問題と なる。特許の有効性の判断は登録国の専属 管轄であるとの考えが国際的にも一般的で あり、我が国でも通説であるが、特許権侵 害訴訟で権利無効の抗弁が提出された場合、 侵害訴訟の管轄裁判所はそれにつき判断を しなくてはならなくなるため、両国の判断 の抵触が問題となるのである。 学説では、権利無効の抗弁についても審 理可能であるとする見解(前掲茶園「外国 特許権侵害の国際裁判管轄」)と権利の有 効性の判断は侵害判断の先決問題であった としても差し控えるべきとの見解(前掲高 部「特許権侵害訴訟と国際裁判管轄」)が 真っ向から対立している。 この点、本判決は、権利無効の抗弁が提 出される可能性があることが我が国の国際 裁判管轄を否定する根拠になるかとのコン テクストにおいて、「抗弁が理由があるも のとして特許権者の差止請求が棄却された としても、当該特許についての無効判断は、 当該差止請求訴訟の判決における理由中の 判断として訴訟当事者間において効力を有 するものにすぎず、当該特許権を対世的に 無効とするものではないから、当該抗弁が 許容されていることが登録国以外の国の国 際裁判管轄を否定する理由となるものでは なく、差止請求訴訟において相手方から特 許無効の抗弁が主張されているとしても、 登録国以外の国の裁判所において当該訴訟 の審理を遂行することを妨げる理由となる ものでもない。」と述べており(実際に権 利無効の抗弁の成否が判断されたわけでは ない)、権利の有効性についても侵害訴訟 の先決問題としてであれば審理可能である との考えをとっているものと理解できる。 4.我が国に訴訟を提起することが有効な のはどうような場合か (1)判決の承認・執行の手続 外国における特許権を侵害する相手方が 日本に住所または主たる営業所を有する場

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合、特許権者としては、侵害訴訟を権利保 護国で提起するか、日本で提起するかの選 択権を持つ。そこで、特許権者としては、 いかなる場合に、我が国で訴訟を提起する ことが効果的かを十分に検討する必要があ る。 この問題を考えるにあたっては、まず、 外国判決の承認、執行の手続を理解してお く必要がある。 判決の効力は、原則として、判決がなさ れた国の国内のみに及び、外国判決を執行 するためには、執行を行う国で外国判決の 承認・執行を求める必要がある。例えば、 我が国の裁判所で外国特許に基づく侵害品 の差止判決が出された場合、侵害国での差 止の執行を行うためには侵害国で我が国の 判決の承認を受け、執行の手続をとらなく てはならない。また、損害賠償を命ずる判 決が出された場合、被告が我が国に保有す る財産については判決を債務名義として強 制執行が可能であるが、被告が外国で保有 する財産について強制執行を行うためには やはり執行を行う国での判決の承認を受け、 執行の手続をとる必要がある。外国判決の 承認・執行の手続は国によってまちまちで あるが、国際間の礼譲、手続の重複の回避 等の観点から、外国判決の内容に踏み込ん だ審査はなされないのが一般的である。 (2)外国での差止を求める訴訟を日本に 提起する意義 外国における侵害行為の差止を認める判 決を我が国の裁判所で得たとしても、当該 外国でこれを執行するためには、当該外国 で判決の承認を受け、執行の手続をとらな くてはならない。 また、我が国で訴訟を提起する場合には、 我が国の裁判所が当該国の法規、判例等を 調査適用する能力があるかどうかを十分に 考慮する必要がある。米国特許法のように、 情報の豊富な法規については裁判所の的確 な判断を期待できるだろうが、それ以外の 場合(例えばアフリカや南米の国の特許権 侵害事件)には、我が国の裁判所の調査判 断能力を越える場合もあり、かえって紛争 の長期化、複雑化を招く危険性があるので 注意が必要である。 訴訟を提起する特許権者としては、上記 の点を十分に踏まえた上で、訴訟に要する 費用、期間、判断の信頼性・安定性、執行 の容易性等を個別具体的に検討した上で、 侵害国で訴訟を提起するか、我が国で訴訟 を提起するかを検討すべきである。 なお、侵害訴訟については我が国の裁判 管轄を認めないとの見解(前掲高部「特許 権侵害訴訟と国際裁判管轄」)をとった場 合、そもそも日本での訴訟提起は認められ ないことになる。

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(3)外国特許権侵害に基づく損害賠償請 求訴訟を日本に提起する意義 過去の侵害に関する損害賠償を目的とし た訴訟については、差止請求訴訟の場合よ りも日本で訴訟を提起するメリットが大き い。被告が我が国に財産を保有する場合(被 告が日本法人の場合など)、我が国の判決 を債務名義として被告財産に強制執行をか けることが可能であり、外国判決の承認・ 執行の手続が不要だからである。 ただし、この場合も前述した裁判所の調 査判断能力の問題は残るため、特許権者と しては、種々の要素を検討した上で、訴訟 提起国を決定すべきである。 (4)消極的確認訴訟を日本に提起する意 義 本判決の事案のように、相手方から特許 権侵害訴訟が提起されるのに先立ち、差止 請求権不存在確認訴訟または損害賠償請求 権不存在確認訴訟を我が国に提起したり、 外国で特許権侵害事件が起こされた場合の 対抗策として我が国で差止請求権不存在確 認訴訟等を提起することなども一般の財産 関連事件ではよく行われる手法である。外 国で判決が確定する前に、我が国で消極的 確認の判決を受けておけば、外国判決が日 本で承認され執行されることを阻止するこ とができるため、消極的確認訴訟の提起も 有効な場合がある。ただし、あくまで被告 が日本に住所、営業所等を有することが前 提となるため、米国企業から米国で特許権 侵害訴訟を提起された際の対抗策として日 本で消極的確認訴訟を提起することは原則 として認められない。 Ⅴ 最後に 冒頭でも述べたとおり、次号でも引き続 き本判決を取り上げる。本稿では、米国特 許権侵害の判断手法についての判決紹介及 び解説を省略したため、この点については 次号に掲載予定の「米国における特許権侵 害を日本の裁判所で判断した事例Ⅱ」(立 花顕治弁理士担当)をご参照いただきたい。 以上

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