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日本消化器外科学会教育集会

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膵腫瘍および膵内分泌腫瘍の病態・診断・治療

佐賀医科大学外科学 一般・消化器外科  

宮   耕 治

はじめに

 膵臓は膵管上皮細胞、ランゲルハンス島細胞、 外分泌細胞をはじめ多種の細胞によって構成され るため、その腫瘍も上皮性腫瘍から非上皮性腫瘍 まで多岐にわたる。膵癌取扱い規約による組織型 分類を表1に示す1) 。嚢胞性腫瘍、IPMT、MCT は平成15年度に取り上げられる予定で、今回は膵 の上皮性充実性腫瘍のなかで代表的な浸潤性膵管 癌、内分泌腫瘍について解説する。

Ⅰ.膵癌

 膵の上皮性腫瘍として最も多く膵管癌が90%を 占める。年間1万9千人以上が死亡しており、 2000年の全癌死亡の6.5%を占め癌死亡の第5位 となって著増している2)。発生部位は頭部が半数 近く、体部、尾部の順で、残りを全体が占めてい る。60∼70歳代の男性に多く、切除例でも5年 生存率が10%前後と、予後が最も不良な消化器癌 として知られる。 A.症状  早期では殆ど症状はなく、時に腹痛、腹部重圧 感、背部鈍痛、食思不振がみられる。進行すれば 腹痛、黄疸、体重減少、背部痛が出現し、急性の 糖尿病症状を訴えることもある。胆管の完全閉塞 では白色便がみられる。 B.診断  膵頭部癌では黄疸で発見されることが多く、 無 痛 性 の 腫 脹 し た 胆 嚢 を 触 知 す る い わ ゆ る Courvoisier徴候を認めることも多い。直接型ビ リルビンの増加、超音波検査による肝内胆管の拡 張を認め、閉塞性黄疸の診断から鑑別診断を進め る。膵体尾部癌ではさらに症状が出にくいため に、無痛性の呼吸性移動のない腫瘤を触知するこ とにより発見されることもある。可及的な早期診 断のためには、膵逸脱酵素(血清アミラーゼ)の 上昇、胆道系酵素の上昇、耐糖能の異常から超音 波検査を行い、膵腫瘍の描出や主膵管の拡張を検 索し、腫瘍マーカー(CEA、CA19-9、DUPAN2, Span1)を測定する。膵癌スクリーニングの成績 によると、腹背部痛、黄疸、耐糖能異常を高危険 群とした場合、超音波による発見率は0.75%とい われる3)  超音波検査:不整形の低エコー性腫瘤として描 出され、これより末梢膵管の拡張を認める(図1)。 しかし、通常型膵癌のみならず膵内分泌腫瘍、腫 瘤形成性慢性膵炎などでは低エコー性の類似の所       表1:膵腫瘍の組織型分類 〔1〕上皮性腫瘍 Epithelial tumors  A.外分泌腫瘍 Exocrine tumors

  1.漿液性嚢胞腫瘍 Serous cystic tumors   2.粘液性嚢胞腫瘍 Mucinous cystic tumors   3.膵管内腫瘍 Intraductal tumors

  4.異型過形成および上皮内癌 Atypical             hyperplasica(AH)and carcinoma in situ(CIS)   5.浸潤性膵管癌 Invasive ductal carcinoma   6.腺房細胞腫瘍 Acinar cell tumors  B.内分泌腫瘍 Endocrine tumors  C.併存腫瘍 Combined tumors  D.分化方向の不明な上皮腫瘍 Epithelial tumors of       uncertain differentiation  E.分類不能 Unclassifiable  F.その他 Miscellaneous 〔2〕非上皮性腫瘍 Non-epithelial tumors血管腫         Hemangioma    リンパ管腫 Lymphangioma    平滑筋肉腫 Leiomyosarcoma

   悪性繊維組織球腫 Malignant fibrous histiocytoma    悪性リンパ腫 Malignant lymphoma

   傍神経節腫 Paraganglioma    その他 Others

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見を示すため、この鑑別が必要となる。腫瘍内血 流は膵癌で5%程度、膵内分泌腫瘍では80%と血 流検出率が大きく異なり鑑別点となるためカラー ドプラ―法が有用といわれる4)が、腫瘤形成性膵 炎では血流検出率に異論があり、超音波での鑑別 は困難なことが多い。  CT:造影CTでは増強されない低吸収域として 描出され、膵管の拡張像が認められる(図2a, b)。 Thin sectional helical CTではこれまで困難だっ た小膵癌の描出率も改善している。しかし、腫瘤 形成性膵炎との鑑別は依然困難であるが、3-phase helical CTのTime-attenuation curve (TAC)を用いれば慢性膵炎で門脈相、遅延相とな るにつれCT値が漸減するのに対し、膵癌では漸 増する傾向がある点で有用視されている5) 。    MRCPは簡便かつ非侵襲的に膵管を描出できる 点で、膵癌のスクリーニングの手段として期待さ れている。ERCPと異なり、閉塞があってもその 尾側まで描出できるなど優れた点も多いが、機 種、撮像法により空間分解能に差があるなど問題 点を残している。  ERCP:膵管の詳細な描出という点で最も膵管 癌の診断に適している。膵炎のリスクはあるが、 バルーンERPは分枝膵管までの詳細な情報が得ら れ、早期膵管癌の診断能が高い。所見としては、 膵管の断裂(図3a)、不整狭窄、硬直化、走行 の偏位、閉塞、膵管径の急峻な変化、分枝膵管の 消失(図3b)が膵管癌診断のポイントとなる。  FDG-PETは腫瘍組織内の活発な糖代謝を画像 化した代謝画像であり、安全性の高さ、侵襲の低 さ、全身検索が容易なことなどより、小膵癌、小 転移巣のスクリーニングに期待が持たれている6) 。  Angiography:膵癌は乏血性の腫瘍であるた め、局在診断には向かないが、膵十二指腸動脈な ど分枝動脈へのencasementなどをみることによ り、質的膵癌診断が得られる場合も多い。静脈相 でpharmacoportographyを撮像することにより 門脈浸潤情報も得られる。  EUS-FNA:(Combination of pathological diagnosis and analysis for mutant K-ras gene)腫瘤の局在診断から確定診断に至らない場 合の質的診断として内視鏡超音波下に穿刺細胞診

図1:52歳、男性の膵頭部癌症例。不整形の低エコー 腫瘤(矢印)と尾側膵管の拡張を認める。

図2a:47歳、男性の膵体部癌症例。造影CTで造影さ れないlow density massとして描出された。

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が行われるが、この細胞診診断率が62%だったの に比し、膵癌で高頻度に突然変異がみられるK-ras解析を加えることにより81%に改善し、さら に膵液K-ras解析を加えると88%の診断率となっ たと報告されている7) 。 C.治療  可能なものは切除。膵頭部癌では膵頭十二指腸 切除(2/3胃切を伴うもの、亜全胃温存、ある いは直接浸潤や⑥番リンパ節転移がなければ全胃 幽門輪温存のいずれかが選択される)+D2リン パ節後腹膜神経叢郭清±門脈合併切除再建、膵体 尾部癌では膵体尾部脾合併切除+D2リンパ節郭 清を行う。膵全摘、動脈合併切除の意義について は否定的意見が多い。  切除不能例に対して、黄疸例にはPTCDないし は 内 視 鏡 的 に 内 瘻 化 を 行 い 、 最 近 は m e t a l l i c stentがよく用いられる。したがって、黄疸に対 してのバイバス術をすることは少なくなったが、 胃・十二指腸浸潤への直接浸潤による狭窄や出血 例 で は 胃 空 腸 吻 合 を 行 う 。 黄 疸 も 伴 う 場 合 、 s t e n t挿入前であれば同時に肝管空腸吻合を行 い、QOLの改善を図ることもある。非観血的治 療では化学療法なかでもgemcitabineが他剤との 併用8) あるいは放射線療法との併用9) のかたちで 選択されているが、生存率の著明な向上は得られ ていない。

Ⅱ.膵内分泌腫瘍

 既に20世紀初頭に膵ランゲルハンス島由来の腺 腫の存在が知られていたが10) 、1922年インスリ ンの発見を経て、1927年この過剰分泌悪性腫瘍 が報告されている12) 。ついで1955年Zollingerと Ellisonは空腸の消化性潰瘍が膵ラ島腫瘍と関連し ていることに気づき13) 、後年これが、ガストリン の分泌によることが判明してZollinger-Ellison s y n d r o m eの 本 態 が 明 ら か と な っ た1 4) 。 V I P (vasoactive intestinal peptide) を産生する WDHA症候群15)、16) は1973年に、グルカゴノーマ は1981年に1 7)、そしてソマトスタチノーマは 1977年に報告されている18) 。また、このような 機能性腫瘍が同一症例において2カ所以上の異な る内分泌臓器に出現する病態が知られており、 MEN (multiple endocrine neoplasmia) と呼ば れ常染色体優性遺伝といわれている。膵内分泌腫 瘍を含むものはMEN1型で他に副甲状腺腫瘍、 下垂体腫瘍などを腫瘍病変とする19) 。1997年に はこの病因がMEN1型遺伝子の胚細胞遺伝子変 異にあることが明らかにされている20) 。一般に、 膵内分泌腫瘍は超音波検査では辺縁平滑、境界明 瞭、低エコーが特徴(図4)で、尾側膵管の拡張 を伴わないことが多い点で膵癌と異なる。また、 hypervascularな腫瘍であることも鑑別点とな る。 図3a:図2症例。主膵管の急峻な狭窄、分枝の消失を 認める。 図3b:77歳男性。膵体部癌。主膵管の完全な断裂を認 める。

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1.インスリノーマ  膵β細胞に由来し、膵内分泌腫瘍では最も頻度 が高い。9割は単発性で良性21)、約1割がMEN 1を合併する。悪性傾向は低い。 A.症状  低血糖発作によりその存在が疑われるが、その 際、Whipple三徴(①空腹時や運動時の意識障 害、②発作時低血糖、③ブドウ糖投与により改 善)が有名である。しかし、この3主徴は低血糖 発作の特徴を示したものでインスリノーマに特異 的ではなく、低血糖時の高インスリン血症を証明 し、腫瘍の局在診断を行う必要がある。インスリ ンの過剰産生による慢性低血糖状態のため意識障 害や性格変化をきたすこともある。過食により肥 満となることも多い。 B.診断  空腹時低血糖と高インスリン血症。健常者では 血中インスリン値と空腹時血糖値の比がほぼ一定 であることを応用したFajansの式が判定によく用 いられる。即ち、IRI(μU/ml)/BS(㎎/dl)>0.3 であればインスリノーマの存在が考えられる。血 中C-peptideも空腹時血糖に対して異常高値示す ため(外来性のインスリン投与では上昇しない)、 プロインスリン分泌インスリノーマのようなIRI 高値を示さない場合でも有用である(表2)22) 。局 在診断率は超音波検査;40%、CT50%、血管造 影71%、PTPVS 95%といわれる22) 。  超音波検査では低エコーで境界明瞭、辺縁整な ものが多く、EUSでは中心に高エコーがみられる ものが多い。  CT:膵内分泌腫瘍は多血性であるが、経静脈 性CTでは膵実質の濃染と区別できず検出されな いことがある。血管造影CTでは動脈が造影され る早期動脈相をみることが可能なため腫瘍を明瞭 に描出できる。一般に膵内分泌腫瘍では膵管の拡 張をみることは少ない。  MRI上の特徴はT1強調像で低信号、T2強調 像で高信号を呈するものが多い。Dynamic MRI では早期相では増強されずに低信号領域となり、 後期相で徐々に増強される。

 PTPVS(percutaneous transhepatic portal sampling) Ingemanssonらにより考案され23) 皮経肝的に門脈にカテーテルを挿入、上腸間膜静 脈側から1cm毎に肝側へ向け血液を採取、つい で、脾静脈末梢側から門脈側へ同様に採取し、イ ンスリンを測定することにより、そのマップから インスリン分泌部位を同定する(図5a, b)。イ ンスリノーマの検出率は高いが、部位が画像で同 定できない場合や多発性腫瘍の際に有用である。  選択的膵流入動脈(Ca2+)注入後肝静脈採 血法(ASVS)24) :インスリンの分泌を促進する カルシウムを支配動脈から選択的に負荷し、肝静 脈から採血を経時的に行い、IRI値の上昇する部 図4:21歳 VIPoma。膵頭部に境界明瞭な低エコー腫 瘤を認めるが、尾側膵管の拡張はない。 表2

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位を同定する(図6)。血管造影に引き続いて施 行できるためPTPVSより、侵襲が少なくて済む 利点がある。ただ、膵内の吻合枝の存在のために 本来の支配動脈以外からの刺激でIRIの上昇をみ ることがあり、IRIのカットオフ値を150μU/ml 以上にする、あるいは負荷後60秒までの採血を有 意とするなど判定基準が設けられている(表3)25) 。 また、切除の根治性を確認するためにも術中迅速 IRI測定を行えば有効な手段となる(図7)。 C.治療  膵内分泌腫瘍の8割以上にソマトスタチン受容 体の発現がみられるために、octreotide 150∼ 300μg三分割投与により臨床症状の改善がみら れるとされる26) が、切除が可能であれば腫瘍摘出 術(腹腔鏡下に行うこともある)を行う。悪性度 が低いために、主膵管から離れた腫瘍では核出術 でもよい。主膵管に近ければ、乳頭部より主膵管 にステントチューブを挿入しておくとOUSで観 察しながら安全に核出ができる。膵管の損傷が疑 われる場合にはセクレチンを50単位静注して膵液 の漏出がないかを確認する必要がある27) 。主膵管 に接するために膵切除を行う場合には良性を考慮 し、体部であれば分節膵切除28) などの温存術式を 選択する。ただ、1割程度のMEN1型に合併し 図5:PTPVS:上腸間膜静脈末梢から番号のごとく採 血(a)、次いで脾静脈末梢側から肝門部へ向かって採血 (b)、インスリン値を測定することによりピーク部位を 同定する。 表3 図6a:ASVSの実際。 図6b:インスリノーマ摘出後の確認

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たものでは多発で悪性の可能性が高いといわれ、 広範な膵切除が推奨されている27) 2.ガストリノーマ:Zollinger-Ellison症候群  ランゲルハンス島での異所性ホルモン産生腫瘍 によりガストリンが過剰に分泌され、胃酸分泌が 過剰となる。多発するものが多く、腫瘍径は数 mmで膵内外に位置する。70%が悪性の経過をた どるとされ、15%はMEN1型に合併し、MEN1 型に合併する膵内分泌腫瘍の半数が本症といわれ る29) 。 A.症状  難治性の消化管潰瘍を胃、十二指腸、空腸に生 じる。また胃酸の過剰分泌は胃内pHの低下を招 き、膵消化酵素の不活化を起こし、吸収障害とな って下痢や脂肪便をきたす。 B.診断  高血清ガストリン値(200pg/mL以上が多く 1000pg/mL以上であれば確定的)、胃酸分泌検 査で基礎胃酸分泌量(BAO)が15mEq/時以上、 基礎胃酸分泌量/最高胃酸分泌量(BAO/MAO) が0.6以上30)。セクレチン負荷試験でガストリン 分泌の亢進がみられる。これは通常セクレチンは 胃幽門前庭部G細胞のガストリン産生を抑制する が、本症では逆であり、セクレチンのガストリノ ーマ細胞への直接作用である31)ことを応用したも ので、空腹時に前値を採血したあと3U/㎏のセ クレパン(エーザイ)を急速静注し、2分、4分、 6分、10分後に採血血清ガストリン値を測定す る。通常本症では4分後にピークを示し、漸減す る30) 。本症では小さな腫瘤が多く、多発性である ことから局在診断が困難なことが多いとされる。 例えば、超音波では診断困難で診断率は20∼30 %にすぎない29)。ソマトスタチン受容体シンチ グラフィーやFDG-PETなどの新しい画像診断 の組み合わせが精度向上に期待されている30) Imamuraらはこの不顕性ガストリノーマの局在 診断に選択的動脈内セレクチン注入試験(SASI test)を考案し32) 、90%以上の陽性率で有用性が 評価されている。 D.治療  本質的に悪性との認識で完全切除が要求され る。SASI testで局在を明らかにし、膵頭十二指 腸切除術、十二指腸腫瘍摘出術、膵体尾切除を局 在に応じ選択し、必ずリンパ郭清を行う。腫瘍摘 出後は術中にセクレチン負荷試験を行い、血清ガ ストリン値を迅速RIA法で測定することにより完 全摘出を確認する事が推奨されている30) 。 3.グルカゴノーマ  膵ランゲルハンス島α細胞に由来し、グルカゴ ンの過剰産生により解糖系抑制と糖新生促進によ り高血糖をきたす。膵内に存在するものが多く、 図7a:21歳女性。単純CTでisodensity massを認める が、主膵管の拡張はない。 図7b:造影早期相で淡く造影される境界明瞭な腫瘤を 認める。

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半数が膵尾部に発生し、通常単発で7割が2cm 以上と大きくなって発見されるためか6割は悪性 である33) 。 A.症状  糖尿病症状、体重減少、口内炎、正色素性貧 血、壊死性移動性皮膚紅班(低アミノ酸血症が原 因と考えられている)。 B.診断  高グルカゴン血症(早期空腹時の血中グルカゴ ン値が500pg/mLを越えていればグルカゴノーマ の可能性が極めて高い34) 、また、グルカゴン高値 によるgluconeogenesis亢進によるアミノ酸消費 のため低アミノ酸血症をきたす。高血糖もみられ るが、糖尿病は軽症のことが多い。  画像所見は他の膵内分泌腫瘍と同様だが、大き くなって発見されるため腫瘍の局在診断は比較的 容易とされる。ただ、他の内分泌腫瘍と異なるの は腫瘍内部に壊死や出血のための嚢胞を有する場 合が1/4程度にあるとされ、嚢胞性腫瘍との鑑 別の際注意を要する35) 。 C.治療  腫瘍を含めた膵の外科切除が第一選択で、膵尾 部に多く単発が多いので問題は少ないが、多発を 見落とさないために術中超音波検査は必要であ る。診断時既に半数が転移を伴っているとされる が、発育が遅いため、切除の意義36) と頻回の肝動 脈塞栓術の有効性37) が報告されている。 4.VIPオーマ:WDHA症候群(Verner-Morrison 症候群)  異所性ホルモン産生腫瘍としてVIP (vasoactive intestinal polypeptide) ホルモンを過剰に産生す る。成人では大部分が膵内分泌腫瘍に起因する が、小児では膵外腫瘍(副腎、縦隔などに生じる 神経節腫、神経節芽腫など)によるとされる38) 。 膵内分泌腫瘍の10∼15%とされる。本症の主要 徴候である腸液分泌の亢進はVIPによるアデニル サイクラーゼの活性化によるとされる39) 。多発す ることは7.7%と少ないが、2cmを越えるものが 8割以上であり、65%は悪性で既に転移を有する 症例が56%にみられる40) 。 A.症状  VIPホルモンの作用として血管拡張、血流増 大、平滑筋の弛緩、胃液分泌抑制、胆汁、膵液、 腸液分泌の亢進などにより、重篤な水様性下痢 (Watery Diarrhea)、低K血症(Hypokalemia)、 無酸症(Achlorhydria)を呈する。 B.診断  検査所見:高VIP血症(200pg/ml以上)、低 カリウム症、高カルシウム血症。3cm以上の 大きいものが多く、存在診断は比較的容易であ る。自験例のVipomaは21歳女性。単純CTで isodensity massを膵頭部に認めるが尾側膵管の 拡張を認めない(図8a)。造影早期で淡く染ま る境界明瞭な腫瘤像が描出され(図8b)、MRI ではT1強調で低信号、T2強調でやや高信号と して腫瘤像を認める(図9a, b)。Gd造影像でさ らに高信号として捉えられる(図9c)。  治療:半数以上が悪性であり腫瘍を含む膵切除 が必要で、リンパ節転移を28%に認めため郭清を 行ったほうがよい。自験例に対しては、3 lを越え る水様性下痢のためソマトスタチン誘導体で制 御、電解質を是正したのち膵頭十二指腸切除を行 った。リンパ節転移を認めなかったが、一部に浸 図8a:同MRI T1強調像。

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図8b:同T 2 強調像。 図8c:Gd 造影像。 潤癌を有するVIPomaであった。 5.ソマトスタチノーマ: ソマトスタチンは成長ホルモンを抑制するペプ チドとして抽出されたが、インスリンやグルカゴ ン、ガストリン、セクレチンなど広範はペプチド の分泌を抑制する。ソマトスタチノーマはこれま で100例程の報告しかない稀な腫瘍で、著明な症 状はなく、上腹部痛、全身倦怠感などの不定愁訴 が多く、耐糖能障害、胆石形成、下痢、脂肪便、 体重減少などを認める程度とされる。したがっ て、小腫瘍として発見されることはなく、大部分 が大きく、悪性で肝、肺、骨などに転移する。し かし、9割以上は単発性でMEN1型に属するも のは10%以下である40) 6.その他   さ ら に 稀 な 膵 内 分 泌 腫 瘍 と し て P P オ ー マ 、 皮膚紅潮、下痢を主徴とするカルチノイド腫瘍、 Cushing症候群、肥満、糖尿病、高血圧をきたす ACTH産生腫瘍、カルシトニン産生腫瘍、ニュー ロテンシン産生腫瘍が判明している。また、膵内 分泌細胞由来にもかかわらず、特異機能を有さな い無症候性腫瘍があり、動脈造影で濃染像を示す など画像上膵内分泌腫瘍の特徴を持つものがあ り、ホルモンの定量を行うことにより機能性腫瘍 を否定して診断する。 1)膵癌取扱い規約〔第5版〕2002日本膵臓学  会編 金原出版社、東京 2)徳原真、寺島裕夫、跡見裕:膵癌の疫学に  関する最新のデータ 臨外 2002; 57(11):246- 254 3)崔仁煥、有山襄、須山正文ほか:膵癌の診断  −現況と新しい試み―MRCPによる膵癌の診断  外科治療 2001; 84(6):941-944 4)古瀬純司、長瀬隆通、丸泰ほか:カラードプ  ラ超音波による膵診断−最良の撮影法−胆と膵  1999; 20(11):907-912 5)山田康成、 森宣、 清末一路ほか : Helical  CTによる膵癌の進展度診断 肝胆膵 1998;  36(1):79-89 6)東達也、佐賀恒夫、小西淳二:良悪性の鑑別  におけるFDG-PETの役割 消化器外科 2001;  24(9):1531-1536

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