発達障害
考え方と実際の対応
日本小児保健協会理事 東京大学医学部小児科非常勤講師国立成育医療研究センター理事 Rabbit Developmental Research代表
平岩 幹男
適切な行動を子どもに
学習させるためには
そのための技術を
身に着ける必要がある
学習は経験と教育で得られる
経験するたびに学習する →こうすればこうなる・・それは増える しかしすべてを経験することはできな い →他人の経験を学んで生かすことが学習 例え行ったことがなくてもパリには →エッフェル塔があることを知っている:学 学習は繰り返しが必要 →使わない英語は忘れる学習には良い面と悪い面がある
道路にごみを捨てたら100円もらえる →道路にごみを捨てるようになる →社会のルールには逆行する ごみを拾って捨てたら100円もらえる →ごみを拾うようになる →社会のルールと認識すれば100円はいらない 適切な学習をしなければ →適切な行動は生まれない自己決定権
命令系 →・・・しなさい・・自己決定権なし 禁止系 →・・・してはだめ・・自己決定権なし 希望系 →・・・してくれるとうれしいな →あたりまえのようにほめること →自己決定権あり主導権はどちらに?
要求が通るまで暴 れる、わめく 要求が通ればおと なしくなる 暴れれば要求が通 ることを学習する 暴れるたびに学習 は強化される 要求して暴れても無視 する、タイムアウトする 別の指示を出してそれ を実行させる 実行したらほめる 自分で当初の要求をど うするか決めさせる対応は
やる気と技術
努力すれば誰でも出来る
自動車の運転と基本は同じ
どれが大切ですか?
技術とは・・
基本を押さえること →そのうえで自分なりにアレンジ →上達を目指すこと 再現性が欠かせない →再現するたびにうまくなる(経験値が増える) →その場次第では経験値は増えない 冷静に意識して使うこと技術に大切なのは
基礎と練習
練習あるのみ:口に出さなければ
社会生活訓練
Social Skills Training (SST)
社会で暮らしてゆくために知って おく必要があ り、また実行できる必要がある →日常生活習慣 →対人関係の基礎(あいさつなども含む) →要求に応え、うまくできたら褒めてもらう うまくいった経験が、次につながる
社会生活訓練(SST)
落ち着かせる ほめる →ほめる回数を増やす →相手にわかるようにほめる 失敗させない →失敗はself-esteemを下げる 自分で説明させる 叱ってもよいが怒ってはいけな いもう少しがんばれば
うまくできるのに
これは無効な指示
自分のクラス全員
良いところが
3つ挙げられますか?
それができればOK
できなければ努力
名前をカードに書く
クラスの人数分のカード どれが出ても →3秒で3つのいいところ 声に出すことがポイント 黙っていてはできない みんなで競争しよう3つのいいところ
3秒で、クラスのすべての子のいいところが 3つ浮かぶか? 浮かぶならば、そのクラスはうまく いって いる 気になる子ではこれが「すぐに出て こない」 これは単純にトレーニング →誰でもできるようになる →できれば「扱いにくさ」は感じなくなる 保護者と共有すればモンスター化しなくなる受容的対応が
関係性のカギ
子どもに拒否感を持てば
子どもも持つ
3秒
注意するとき
1秒
ほめるとき
3秒
頭の中で1,2,3 それから話す →かなり練習が必要 →感情のたかぶりを抑える 冷静に話す →子どもに説明させる →説明できたらほめる その行動を止めることではなく →次にその行動が起きなくなることが目標1秒以内(秒速)
反応すべき時点から1秒以内に対応 →ほめるときにはすぐに反応 →ほめる以外では感情的にならないこと →注意するときの瞬間湯沸かし器はNG 動作的な補助を使うことも →ハイタッチなど動作的補助だけでも →ありがとうでもハーイで手を上げる
・・できる子 手を挙げて ・・する子 手を挙げて ハーイと言いながら 手を挙げる そこでまずほめる それから指示を出す できたらほめる 注目させてから指示を出す →モチベーションを上げるハイタッチ:達成感
あいさつにも ごほうびにも ほめることにも お互いの目よりも 高い位置で元気に パチンとハイタッチ 嫌いな子は少ない ロータッチではなく!ハーイからハイタッチに
自己決定+達成感
両手でタッチ
3歳児ではハイタッチは 早いかも・・ 目の高さをあわせる 視線を合わせる 子どものうれしそうな顔を 確認する ごほうびにも挨拶にもハンドリング
なるべく目の高さを そろえて 手は握らない 開いた手の上に 手をのせてもらう この状態で話す 話を聞くどっちのサイクル?
手伝っても「ほめる」
できるためには →わかる指示をする できないことをできる ようにするためには →手伝う →手伝ってもできたら 「ほめる」最初は1回完結(不連続)
1サイクルを5秒が目 標 目標1日50回:1回ず つで完結する 最初は1つの指示で できたらほめる 表情の変化を見る テンポを作るほめる・・ほめ上手とほめ下手
ほめることは秒速 →だから練習が必要 ほめることは「技術」と「経験」 ほめ上手は気軽にほめる ほめ下手は「ほめる」ことをためらう だれでも「ほめ上手」にはなれる →子どもとうまくつきあうための基本 →繰り返し練習することごほうびは「望ましい行動に」
望ましくない行動にごほうび →これあげるから「けんか」 をやめて →もっと派手にしたら何がもらえるかな? けんかをやめて話をする →まず説明ができたらほめる →次はどうするかを自分たちで決める →叱る必要すらないかもしれないほめるということ
出来て当たり前・・それでは前には進まない それが出来なければ叱る、注意をする →それならば出来たときには、ほめるべき ほめる手間を惜しむことは子どものself-esteem が上昇する機会をのがす 列に並ばなければ注意する →ならば、きちんとならんだらほめるほめることは技術と蓄積
ほめることは簡単ではない ほめかたは技術と習慣 →子どもにわかるようにほめる →手軽にほめる習慣をつける ほめられることは蓄積される →子ども蓄積されることが行動を変える →叱られることは蓄積しない、慣れるだけほめ言葉:レパートリーを増やす
やったね、すごいね、さいこー、かっこいー、い いねー、ありがとう、ぐっど( ぐー)、すてき、 が んばったね、みごと、ひらめいたね、 すばらしー、ぜっこーちょー、 かしこいねー、 うれしいねー、あんしんだねー、 よく考えたねー、よく気がついたねー、ほめ言葉:レパートリーを増やす
やったね すごいね さいこー かっこいー すばらしー すくなくとも5つは使えるようにしようありがとうから
はじめよう
ほめることとおだてることは別のもの ありがとうは小さなお手伝いからお願いしますの
ひとことが
やる気につながる
問題行動を消す、減らす
無視する タイムアウト ほめて消す、減らす 切り替える説明できるようにする
理解できない行動、困った行動 →落ち着かせる →自分で説明させる →それができたらまず「ほめる」 行動をコントロールするより も説明が先 →説明する、説明できたことをほめる →そこで希望系の出番 →行動変容はそれからやってくる子どもへの声かけ
CCQ(close, calm, quiet)が原則 →近づいて、穏やかに、静かに 先に注意をひくのも効果的 遠くから大声で指示するのはダメ 手を伸ばせば届く範囲で声をかける 何かに熱中して振り向かない →それでも静かに声をかける →腕をつかむなど乱暴はいけない
かかわりを持つために
まずは3分間の練習 →いきなり「指示」をしない →話すことだけではなく、手をつなぐだけでも →できたらほめる・・うれしかったと伝える 園だけではなく家庭でも練習してもらう →できたら褒めることを忘れずに 特定の保育士との間で出来たら →その他の保育士ともできるようにカウントダウン
準備をするときクールダウンのとき →3,2,1,0(場合により5から10から) →出かける前に心の準備 →家に入ったらクールダウンの準備 最初は大きめの声で子どもの動きを見ながら →カウントを調節して成功させる →とにかく成功させて「ほめる」 →トークンエコノミーで強化する声のボリューム:ナンバーで
もっと大きな声で・・もっと小さな声で →理解できない・・具体的でないから 3の声、2の声、1の声を実際に一緒に出す →実際にボリュームを変える練習をする →3の声:大きな声 →2の声:普通の声 →1の声:小さな声 今度は保護者など違う人に指示してもらうタイムアウト
○Xボード
砂時計は使える
あいさつ7
おはようございます こんにちは こんばんは おやすみなさい さようなら ありがとう ごめんなさい会話をはじめよう
Open ended question(OEQ) →今日の朝ごはん何食べた?
Closed ended question(CEQ) →朝ごはん、パン食べた、ご飯食べた? Yes no question(YNQ) →朝ごはん、パン食べたの? OEQで2秒待つ。出なければCEQ→YNQ YNQでも最初に戻ってOEQ
会話とは
お互いに質問し、答えあって成立する OEQができるようになっても →自分から質問するのはしばしば苦手 「朝ごはん」がOEQでできたら →「朝ごはん何食べたって聞いてみて?」 質問をすること →やはり最初は練習 YES,NOも練習する(NOは大切)説明できるようにする
理解できない行動、困った行動 →落ち着かせる →自分で説明させる →それができたらまず「ほめる」 行動をコントロールするより も説明が先 →説明する、説明できたことをほめる →そこで希望系の出番 →行動変容はそれからやってくる信じて見守れば期待通りに?
世の中そんなに甘くない 信じて見守ることは・・何もしないこと 良くなることを信じるのであれば →良くなるように行動しよう →たくさんではなく、少しずつ →良くなっていることをほめよう しかし「信じること」は大切ピグマリオン(Pygmalion)効果
昔ギリシャのキプロスに ピグマリオン王がいた 理想の女性の彫刻を作り それに恋をした 女神が彫刻に命を吹き 込んだ 願い続ければ叶う!発達障害というあいまいな障害
診断自体の成熟度が低い 「発達」も「障害」ももともとある 言葉だが 結びつけると意味が異なる もともとの発達障害は「 知的障害」 それでも対応が必要な人たち がいて 増え て いる 医学的対応だけで は社会的困難は解決で きな い 小中学生で60万人?100万人?とも いわれる発達障害とは?
発達障害 発達の過程で明らかになる行動やコミュ ニ ケーションなどの障害で、根本的な治療は現 在ではないが、適切な対応により社会生活上 の困難は軽減される障害 したがって発達そのものの障害ではない発達障害の種類
自閉症 →知的障害を伴う(言葉の遅れがある) →知的障害がない(言葉の遅れがない) ADHD(注意欠陥・多動性障害) 学習障害 これらはしばしば合併する発達障害の抱える問題
行動やコミュニケーションの問題を抱えるので →注意されたり叱られたりしやすい →めったにほめられない →そして二次障害につながる Self-esteem(自己肯定感、自尊感情)の低下 →低下しては行動は改善しない→Social skills training(社会生活訓練)が重要
薬物療法だけではなかなかうまくいかない