• 検索結果がありません。

赤門マネジメント・レビュー 15(7),

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "赤門マネジメント・レビュー 15(7),"

Copied!
9
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

赤門マネジメント・レビュー 15 巻 7 号 (2016 年 7 月) 〔研 究 会 報 告 〕 コンピュータ産業研究会2016 年 1 月 26 日

世界最高峰の人工知能研究の成果としての

コグニティブコンピューティング

的 場 大 輔a 要約:コグニティブコンピューティングとは、人工知能、機械学習、音声・自然言語処理などの研究・技術開発コミュニティ で培われてきた知的な情報処理のための技術の集合である。人との自然なインタラクションや大量のデータから学習 し、これまでのコンピューティングでは実現できなかった高度な意思決定を支援するシステムの構築が可能である。コグ ニティブコンピューティングの概要と、今後産業と行政がこの技術からどのような変革を期待することができるかを説明 する。 キーワード:コグニティブコンピューティング、人工知能、AI a デジタル・ブレイン・イネーブルメント合同会社・代表社員, [email protected] 1. はじめに コグニティブコンピューティングは最近ビジネス用語として注目を集めているが、IT 用語とし て認識されることが多く、一般に理解が浸透しているとは言えない。本稿では、できるだけ分かり やすくコグニティブコンピューティングについて解説したいと思う。まずは身近なコグニティブコ ンピューティングの例を紹介する。次にコグニティブコンピューティングに用いられる技術である 機械学習、ディープラーニング、ニューラルネットについて説明する。また、ビジネスとしてコグ ニティブコンピューティングにどういう役割が期待されているかを示す。発展し続けるコグニティ ブコンピューティングに恐れを感じるという意見もあるが、誤解の部分もある。最後に、日本はコ グニティブコンピューティングをどう生かすべきかを考える。 2. コグニティブコンピューティングが身近になっている コグニティブコンピューティングとは学習して人と自然に対話する新しいコンピューター処理方 式である。具体的には、人工知能、機械学習、自然言語処理、音声認識、画像処理、感情認識、 ディープラーニングなどの総称である。コグニティブとは人の言葉、意図、動きを認知できるとい うことを意味する。今まであまり関わりが無かった神経科学とコンピューター工学の融合が求めら れていて、両方を把握しないとコグニティブコンピューティングを理解することは難しい。 本稿は2016 年 1 月 26 日開催のコンピューター産業研究会での報告を宋元旭 (東京大学大学院) が記録し、 本稿掲載のために報告者の加筆訂正を経て、GBRC 編集部が整理したものである。文責は GBRC に、著作権 は報告者にある。なお、研究会の開催と本稿の作成にあたっては、東京大学ソーシャル ICT グローバル・ク リエイティブリーダー育成プログラムの支援を受けた。 印刷版ISSN 1348-5504 ©2016 Global Business Research Center

(2)

人と自然な会話ができるアップルのSiri がコグニティブコンピューティングの一例であり、今後 は自動車やナビも同様になると考えられる。もともと、人間とコンピューターは言語が異なる。コ ンピューターの言語は1 と 0 で構成される機械語である。C 言語などは、機械語を人間が使いやす くしたものであるが、今後は人間の自然言語をコンピューターが理解することになる。 欧米企業は積極的にコグニティブコンピューティングに取り組んでいる。たとえば、グーグルは ゲームをコンピューターに自律的に学習させ、人間より高い結果を得ることができた。ここで重要 なのは、人間がプログラミングせず、機械がゲームの勝ち方を人間のように自ら理解したことであ る。グーグルは Google Translate というリアルタイム翻訳サービスも開始している。マイクロソフ

トはMicrosoft Skype Translator を開発し、言語の異なる人同士がテレビ電話で話せるようにした。

また、マイクロソフトはMicrosoft Project Adam も開発した。これはコンピューターが 1,400 万件の

画像データを学習し、犬の種類が分類できるようになったものである。フェイスブックもコグニ ティブコンピューティングに参加し、Facebook Deepface を開発した。これは人間の顔を認知する もので、2D である人間の写真データを統合し、3D で人間の顔を認知出来るようにした。結果的 に、異なる角度から見た顔認識率がほぼ人間と同等の97.53%まで上がった。また、Facebook M は 知覚を持ったメッセンジャーで、人間の会話を認知し、店舗予約なども行う。このメッセンジャー を使うと、各個人の好みが集められるので、フェイスブックが個人向けのサービスをより的確に提 供できる利点もある。アマゾンも Amazon Echo でコグニティブコンピューティングサービスを提 供している。ショッピングリストの作成、日々のニュース、天気、交通情報、アラーム、タイマー、ス ケジュール管理などの機能を持つ。この機器には7 個のマイクが内蔵されており、複数の人の声を 識別できるほか、遠くにいる人の声もノイズなく認知できる。 3. コグニティブコンピューティングの中身は機械学習、ディープラーニング、ニューラルネット コグニティブコンピューティングの仕組みを簡単に紹介する。コグニティブコンピューティング の元々の目的は論理上の理想機械チューリングマシン、つまり一定の手順に従えば答えが求められ る仮想機械を作ることであった。ただし、最終的な目標とする人間の能力は複雑すぎ、技術的限界 もあったため、第 1 世代の AI テクノロジーは、特定の作業において人間を支援するロボットな ど、いくつかの専門的な用途に限ったものだった。 最近はビッグデータへの注目度が高まっているが、ビッグデータというものは、そのままではノ イズが多く信頼できない。そこで、構造化されていないビッグデータから洞察を引きだすために新 たに開発されたツールが「機械学習」とよばれるこの 10 年間でめざましく発達してきた自動化の 進んだ統計的パターンマッチング手法である。統計学の様々な方法を用いるこの複雑な手法は、人 間と同じくデータをパターン化することでより早く答えを返せる。機械学習を用いれば、自然言語 処理、音声認識、画像処理、文字認識などが可能になり、応用範囲は非常に広い。

様々なAI の中で最もクリエイティブなのが IBM の Watson である。2011 年 2 月、IBM Watson は

米国の人気クイズ番組である Jeopardy! に挑戦し、人間に勝ち、最高金額の賞金を獲得した。

Watson の特徴は類推ができるということであり、自然言語である司会者の質問を機械語に翻訳し 答えを探す。日本でも同様の自然言語処理の試みはあるが、日本語は英語とは異なりスペースがな いので、単語の理解が異なる。そのため、日本語は単語分割を行い、品詞を分類し、意味を把握する。

(3)

画像処理においても機械学習は応用できる。人間の脳でも画像処理が最も負担が大きく大脳皮質

の 30%が視覚に使われる。画像処理技術の最終目標はロボットの目でも人間と同じ処理が実現で

きることである。今の画像処理技術はまずコントラストを調整し、物体の輪郭を把握した後、パ

ターンを分けることで物体を認知している。Deep Visual-Semantic Alignments はより優れた技術

で、画像を文章化しデータとして取り入れる。そこから画像の特徴を把握し、文章と比較し、文章 の意味を学習する。この技術を用いることで、人間が画像を文章化することと同じことができる。 ただ、上述したように人間に近づいたと評価される人工知能も効率は人間より悪い。Jeopardy! に挑戦したWatson はクロック 3.55 GHz の多数 CPU コアで構成され、約 200 kW の電力が必要で あった。一方、人間の脳は10 Hz のクロックでありながら、消費電力は 20 W/h にすぎない。もち ろん、大きさも人間の脳が圧倒的に小さい。おそらく、この効率の差はやり方の違いから生じてい ると考えられる。したがって、最新のコグニティブコンピューティングの開発者は従来技術のノイ マン型ではなく、人間の脳にヒントを得た非ノイマン型で開発しようとしている。IBM 社が 2011 年に開発した TrueNorth がそのひとつで、ニューロンとシナプスの数でいうと、人間にはまだ及ば ないが、マウスには近い成果を出せた。このように、人間の脳にいかに近づけるかの努力はある程 度の成果を上げていて、今後も続いていく。 4. 期待したいコグニティブなビジネス 人間に近づいてきたコグニティブコンピューティング技術は実際のビジネスにどう活用されるの か。米調査会社BBC Research によると、自律的に動くスマートマシンの世界市場は、2014 年の 62 億ドルから2019 年には 153 億ドルまで年間 19.7%成長すると予想されている。また、AI を扱うス タートアップに対するベンチャーキャピタルの投資額は 2010 年の 1,490 万ドルから 2014 年には 3.9 億ドルまで増えている。 また、IBM は「コグニティブ・ビジネス」の有効性を五つ紹介し、コグニティブコンピュー ティングが産業として成長すると予測している。その五つはより深いヒューマンインタラクショ ン、高度な専門性、コグニティブな製品・サービス、コグニティブなプロセス・運用、インテリ ジェントな探査・発見である。 より深いヒューマンインタラクション おもてなしを、人間ではなくコンピューターができるようにしたサービスが Go Moment の Ivy である。これは宿泊客ごとに個別化した会話を行い、予約など様々なリクエストを処理するサービ スである。このシステムには人間が全く介在しない。また、語学学習システム開発ベンチャーのア イスランド Cooori は 2015 年 5 月、日本法人コーリジャパンを設立し、英単語・例文の出題にビッ グデータ解析を取り入れた。この分析から、「そのユーザーが間違えた」、「回答に時間を要した」、 「類似の学習レベルの他のユーザーもよく間違えている」といったデータを蓄積し、個人に最適な学 習が可能な出題を自動的に行えるようになった。 高度な専門性 アメリカの Seton という病院では、がんで再入院する患者を分析し、再発の原因の特定を試み

(4)

た。その結果、メモなどの非構造化データを伴わない限り、システムに入力された構造化データは 不揃いで不正確であることが判明した。これを踏まえ、非構造的データを分析が可能なように再分 類し、原因特定に有効なデータを構築することができた。 コグニティブな製品・サービス 福島第一原発に投入された災害対策ロボットなど、人間を代替できる様々なロボットがこれに当 たる。たとえば、テレプレゼンスロボットというタブレットが移動するロボットがある。これは海 外の学会などに不在でも、カメラを通じて情報を得たり、意見を言うことができる。 コグニティブなプロセス・運用 報道・メディアで使われるコグニティブコンピューティングがこれに当たる。たとえば、AP 通 信は、データ分析や自然言語生成を使用した記事の自動作成を行った。その結果、人工知能は 3 ヵ 月で約 3,000 の記事を作成した。最初は人間の手による編集が必要であったものの、現在ではほぼ 自動化され、人間よりもミスが少なくなっているという。理論的には1 秒間に 2,000 の記事を書け

る。もうひとつはドローンを用いた流通、運輸である。Amazon Prime Air やグーグルが取り組んで

いるGoogle Project Wing がこれに当たる。中国の Alibaba もドローンによる配送サービスの試験運

転を行っている。自動走行自動車の開発も最近は活発になっている。日本でも ZMP が DeNA と手 を組み、2020 年までに完全自動走行を目指している。自動運転には画像や位置推定が必要であ り、そこにディープラーニングコンピューターが用いられる。 金融にも最近コグニティブコンピューティングを用いようとする動きがある。たとえば、英 Barclays はテレフォンバンクで音声認識による個人認証を試みている。認証の登録も簡単で、コー ルセンターと数分の会話で声紋を記録できるようにしたという。また、創業7 年目の金融投資会社 Binatix はディープラーニングを用い金融トレーディングを行っていて、すでに十分な利益を上げ ている。 インテリジェントな探査・発見 米テキサス州のベイラー医科大学は、多くのがんに関連する重要なタンパク質である P53 を修 飾するタンパク質を、わずか数週間で正確に特定した。これは実験を通じたものではなく、既存の 論文をコンピューターに読ませ、使われている言葉の種類・数・文書構造などから表現の特徴を抽 出し、論文間の距離を 2 次元にプロットし、P53 との関係が判明しているキナーゼを頂点としたバ イナリーツリーを作図し、特定に成功した。このように、人間がすでに発見したものから新たな発 見を生み出そうとする動きは他の産業にも見られる。たとえば、アメリカ政府は 2011 年からマテ リアルゲノムに 2.5 億ドルを投入し、データ化を試みている。新マテリアルの場合、今まではシー ケンシャルに結果を見ることしかできなかったが、マテリアルゲノムが作成されるとコンピュー ターがデータを分析し、新たな物質を発見できるようになる。 5. 人類はパンドラの箱を開けたかもしれない論 コンピューターが人間の能力に近づくほど、それを恐れる人も多くなってくる。このテーマにつ

(5)

いて議論するためには、もう一度、なぜコグニティブコンピューティングが注目されるのかという ことに戻る必要がある。コグニティブコンピューティングが発展し続けている理由は簡単には二つ ある。まず、新しいビジネスを生み出せるという期待があるからである。コグニティブコンピュー ティングは破壊的イノベーションをもたらす新しい IT であり、複雑な作業を効率的に実行できる よう支援してくれるものである。また、複雑な問題の解決や、新しいアイデアの創出を支援でき る。したがって、コグニティブコンピューティングをうまく活用すれば新たなビジネスが生まれる と期待されるのである。 コグニティブコンピューティングが注目されるもうひとつの理由は必然性があるからである。世 の中のデータは破壊的に増加しているが、そのデータを紐付けし意味づけおよび推論することにお いて、コンピューターは人間の処理能力を越えている。また、瞬間的なデータ生成の速さと量もコ ンピューターの方が優れている。そのため、人間に代わってデータを処理するコンピューターの出 現は必然的である。 少し前までコンピューターに操作可能なデータはネット空間から生じるデジタルなバーチャル データだけであり、実世界から生じるアナログなリアルデータまでは直接操作できなかった。しか し、最近は IoT を用いることで、リアルデータもデータベース化できるようになり、コンピュー ターにも扱えるようになってきた。逆にデータの量や質の面で、人間にリアルタイムにデータを与 えても処理できないし、かえってミスをする可能性が高い。以下の一話が人間による大量データ処 理の危険性を表す事例である。 2010 年 2 月 21 日、米軍プレデター無人偵察機がアフガニスタン南部のシャヒディ・ハサス村 の近くの道路を走っていた 1 台のピックアップトラックと 2 台の SUV を追尾し始めた。同じ 頃、CIA はウサーマ・ビン・ラーディンの隠れ家の情報収取のためにドローンを使い、イスラエ ル空軍はガザ地区の衝突対応のために無人飛行機数機を飛ばしていた。洪水のような情報によっ て混乱したドローンのオペレータが行った空爆により、23 人のアフガニスタン民間人が犠牲に なった。 また、ジョージ・メイソン大学のライアン・マッケンドリックの研究によると、マルチタスク環境 下にあるドローンオペレーターのシミュレーションでは防空任務のパフォーマンスを低下させるこ とを明らかにした。つまり、人間に複数のミッションを同時に執行させると効率が悪くなる。した がって、情報が大量に更新され続ける状況であれば、人間よりコグニティブコンピューティングを 用いることが有効である。 一方、このような人工知能の進化を恐れる人々もいる。たとえば、スティーブン・ホーキングは 人工知能の進化は人類の終焉を意味するとも言った。完全な人工知能を開発できたら、それは人類 の終焉を意味するかもしれない。人工知能が自分の意志をもって自立し、さらにこれまでにないよ うな早さで能力を高め自分自身を設計しなおすこともあり得る。そうであれば、ゆっくりとしか進 化できない人間に勝ち目はない。いずれは人工知能に取って代わられる可能性がある。人工知能の 発明は人類史上最大の出来事だったが、同時に『最後』の出来事になってしまう可能性もある。 しかし、人工知能によってネガティブな出来事だけが起こるとは限らない。人間の認知能力と機 械の推論をうまく組み合わせることで、より効率的な判断ができる可能性もある。結局、問題は人

(6)

工知能をいかに扱うかということになる。

もうひとつ議論されている問題は人口知能と法律の問題である。発展し続ける人工知能に法律が 遅れているのが現状である。たとえば、人工知能による自動運転で交通事故が起こった場合誰の責 任になるのだろうか。まだ答えは出ていないが、近い未来で起こり得ることである。そこで、著名

なIT 関連研究者や実務家が Future of Life Institute (FLI) を設立し、以下のような公開書簡を作っ

た。AI の研究が着実に進んでいること、そしてそれが社会に及ぼす影響が大きくなりそうだとい うことは、今や共通認識として広く存在する。そこには非常に大きな恩恵が潜んでいる。というの も、文明がもたらすものはすべて、人類の知性が生み出すものだからだ。AI がもたらす道具に よってこの知性が強化された時、人類が何を達成できるのかは予測が付かない。病気や貧困の根絶 も、決して想像できないことではない。 AI の経済的利益を最大限に高めながら、悪影響を抑える方法について、有意義な研究が必要だ という点に関しては、エコノミストやコンピューター科学者の多くが同意している。こうした悪影 響には、格差の拡大や失業者の増加が含まれる可能性がある。2045 年にコンピューターの知能が 人間を超える、技術特異点 (シンギュラリティー) に達すると言われている。そこで、人間の仕事 がなくなる可能性がある。そうなると、人間は仕事の対価として金をもらうわけでなく、存在して いる対価として金をもらうと言われている。 ケインズは『孫たちの経済的可能性』(1930) において「技術失業という病」は「長期的には」「人類 が経済問題を解決しつつあるというだけのことでしかない」と言っている。おそらく、人間がやる ことは何かを新しく探すことになると考えられる。ただ、今の仕事が維持できるとは限らないの で、一定の考慮は必要であろう。今後、必要とされる人間の仕事は答えを出すのではなく、機械に 良い質問をすることになるかもしれない。機械は質問なしには動かない。人工知能が発展しても仮 説を立てることは人間にしかできない。また、質問そのものの信頼性について考えられるのも人間 であろう。 アメリカの心理学者であるロバート・スタンバーグ (1985) は「三頭理論」を提案し、知能を構 成する要素は分析知能、創造知能、実践知能の三つであると主張した。分析知能は判断の必要な問 題であり、類推を使って情報処理を行うことを指す。この知能は成長とともに向上する。また、条 件やメタ情報がこの知能の鍵となる。創造知能は未知の新解決法を見出す知能である。自動化して 繰り返すことはできるが他と連携はできないとされている。また、特定領域に特化した知能であ る。最後の実践知能は日常生活で直面する問題に関わる知能であり、暗黙知である。つまり、経験 そのものではなく、経験から得られる利益や学びを指す。おそらく、人工知能は分析知能や創造知 能において人間より適性が高い。ただ、実践知能においては人間が優位を持つと考えられる。した がって、見て、触れて、経験し、五感を生かし、感性を磨き、命題を考え、生活に技術の発展を生 かすことが人類の仕事になるだろう。 6. 我が国の産業を転換期に追い込む可能性がある 今後発展が期待されるコグニティブコンピューティング産業によって日本はどういう影響を受け るだろうか。もちろん、日本でもコグニティブコンピューティングによる利便性は高く評価されて いる。特に日本は高齢化、少子化の問題が今後深刻化するので、高齢者でも高い生産性を保てるよ

(7)

う、コグニティブコンピューティングは大きな役割を担うだろう。 しかし、コグニティブコンピューティングのもたらす変化の中で、日本は有利な立場にいられる だろうか。図 1 はサプライチェーンにおける日本製品の付加価値を表している。1970 年代から 80 年代までに、日本はサプライチェーンの中で最終製品を中心に高い付加価値をつけてきた。しか し、近年は新興国との競争により、より川上や川下の方で付加価値をつけるようになった。この変 化を一言で言うと、逆スマイルカーブがスマイルカーブになったと言える。 コグニティブコンピューティングの取り組みが進むとこのカーブはまた変化する。上述したマテ リアルゲノムやIoT による統合システムが発展することで、より川上と川下に付加価値が移動する と考えられる (図 2)。したがって、コグニティブコンピューティングへの取り組みが遅れると世 界から取り残される可能性も高い。残念ながら、コグニティブコンピューティングの観点からみた 日本の展望はそれほど明るくない。 コグニティブコンピューティングの流れに取り残されないように日本が取り組むべきことは何 か。まずはさらなる規制緩和である。規制緩和は進みつつあるが、まだ十分でないので、海外の先 進企業が積極的に日本に入ろうとしない。Bloomberg BETA のキャピタリスト調査で 2,529 社の人 工知能関連のスタートアップが存在したが、日本企業がほぼ見当たらないことも日本の遅れを示し ている。 また、スタートアップを元気にするため、スタートアップインキュベーション環境を整える必要 がある。もちろん、日本でもスタートアップインキュベーションとして、2015 年 5 月に UBIC と サムライ・インキュベートが人工知能ハッカソンを開催した。しかし、残念ながらこのようなス タートアップインキュベーション環境はこれ以外に見当たらない。 コグニティブコンピューティングを発展させるためには多様なエコシステムを作ることが重要で 図1 サプライチェーンにおける日本の差別化ポイントの変化

ア フ ター サー ビ ス

問 題 解 決 シ ス テ ム 提 供 材料・デバイス分野 システム・サービス分野 現在 70・80年代

(8)

ある。そのため、自前主義が多い日本企業は弱いとされている。今後は垂直統合型から水平統合指 向への意識改革が必要とみられる。 ポストM&A に耐えうるグローバルガバナンスも必要である。海外企業は買収を積極的に行い、 月に1 社買収とも言われている。たとえば、Google は直近 2 年で AI、ロボット関連 10 社を買収し た。しかし、日本企業はグローバルガバナンスに備えていないため、買収してもされてもガバナン スの面で問題を起こす。コグニティブコンピューティングにおいてはM&A が必須になる可能性が 高いため、グローバルガバナンスが問題になるだろう。

最後に Born digital な経営層と CTO、CDO、DMO を育成しなければいけない。コグニティブコ

ンピューティングはあくまでお皿である。それに盛り付ける料理が重要であり、ここでいう料理は データである。つまり、コグニティブコンピューティング企業において競争力上重要なのはデータ をいかに集め、分析するかである。そのために、経営層はデジタルに慣れている人でなければいけ ない。 図2 コグニティブコンピューティングによる付加価値ポイントの変化

ア フ ター サー ビ ス

問 題 解 決 シ ス テ ム 提 供 材料・デバイス分野 システム・サービス分野 現在 未来

マテリアル

ゲノム

統合システム

IoTによる

(9)

赤門マネジメント・レビュー編集委員会 編集長 新宅純二郎 編集委員 阿部誠 大木清弘 粕谷誠 桑嶋健一 清水剛 高橋伸夫 藤本隆宏 編集担当 八代麻希 赤門マネジメント・レビュー 15 巻 7 号 2016 年 7 月 25 日発行 編集 東京大学大学院経済学研究科 ABAS/AMR 編集委員会 発行 特定非営利活動法人グローバルビジネスリサーチセンター 理事長 高橋 伸夫 東京都文京区本郷 http://www.gbrc.jp

参照

関連したドキュメント

• 競願により選定された新免 許人 は、プラチナバンドを有効 活用 することで、低廉な料 金の 実現等国 民へ の利益還元 を行 うことが

キャンパスの軸線とな るよう設計した。時計台 は永きにわたり図書館 として使 用され、学 生 の勉学の場となってい たが、9 7 年の新 大

当面の間 (メタネーション等の技術の実用化が期待される2030年頃まで) は、本制度において

人間は科学技術を発達させ、より大きな力を獲得してきました。しかし、現代の科学技術によっても、自然の世界は人間にとって未知なことが

ご使用になるアプリケーションに応じて、お客様の専門技術者において十分検証されるようお願い致します。ON

ご使用になるアプリケーションに応じて、お客様の専門技術者において十分検証されるようお願い致します。ON

ご使用になるアプリケーションに応じて、お客様の専門技術者において十分検証されるようお願い致します。ON

ご使用になるアプリケーションに応じて、お客様の専門技術者において十分検証されるようお願い致します。ON