アレルギーの臨床 30(3), 2010 16 (206) 容は教科書的な EBM 中心である。改定を経て 2008 年に日本語版 2 版目が作成され,アレル ギー性鼻炎を理解するよい教科書となってい る。ARIA の最も大きな問題点は内容がアレル ギー性鼻炎のことであったり,鼻炎全体であ ったり,鼻副鼻腔炎のことであったりと一貫 してアレルギー性鼻炎のことについて書かれ ているのではないことである。多くの専門家 が集結したため余計に混乱が生じたのかしれ ない。しかし,診療における参考資料として ARIA における国際的な EBM は重要であり, 質の高いエビデンスを否定するものではない。 これを参考にして日本のガイドラインも 2002 年版から巻末に厚生労働省科学研究でまとめ られた EBM が添付されている。 アレルギー性鼻炎(花粉症)における診療 は多岐の科にまたがり行われている現状で鼻 アレルギー診療ガイドラインの果たす役割は 大きい。 今回の特集では花粉症の最新治療を論じて いる。ガイドラインで実地医療を優先はして いるが,日本から発信可能なエビデンスを載 せることは必要であり,各種治療において述 べた部分もある。欧州やアジアでは韓国,シ ンガポールで始まっている舌下免疫療法も取 り上げて今後の実地医療での役割を論じてい る。できれば花粉症を含むアレルギー性鼻炎 は画一治療ではなく,それぞれの症例にあっ た治療法を選択することの一助になることを 期待する。
-特集に寄せて-日本医科大学 耳鼻咽喉科大久保
お お く ぼ公裕
きみひろ Key words : ARIA,花粉症,疫学,EBM,免疫療法大久保 公裕 1984 年,日本医科大学卒業。88 年,同 大学院卒業。89 年より米国国立衛生研 究所 NIH アレルギー疾患部門へ留学し, 91 年帰国。93 年,日本医科大学耳鼻咽 喉科講師,医局長を経て,2000 年より 日本医科大学耳鼻咽喉科准教授。現在厚 生労働省「花粉症研究班」主任研究員, 日本アレルギー学会理事 日本でアレルギー疾患のガイドラインが作 成されたのは 1995年が始めてである。10 年以 上 の 歴 史 を 持 ち , 最 も 古 い と 考 え ら れ る International consensus report on the diagnosis and management of rhinitis. International Rhinitis Management Working Group. Allergy 19 (49): 1-34, 1994.から遅れることわずか 1 年である。 さて日本ではスギ花粉症という国際的に見 ても症状の悪化が著しく,罹患人口も増加し 社会問題ともなっているスギ花粉症がある。 このためにもともとアレルギー性鼻炎を診断 していた耳鼻咽喉科医以外でも診断治療が行 えるように配慮されたのが,初回合本以降の 鼻アレルギー診療ガイドラインである。日本 と他の地域のアレルギー性鼻炎は抗原の種類, その重症度分類など細部においては異なる点 が多い。この点を加味して初めから日本独自 に作成された最新の鼻アレルギー診療ガイド ライン 2009 年版の特徴は初めからの決め事で ある EBM(evidence based medicine)に偏らず, 実地医療を優先していることである。これは 先に述べた一般医家への使用を初めに考えら れ,医療現場での使用を最優先の目標にして いることからきている。 一方,国際的なガイドラインである WHO の ワ ー ク シ ョ ッ プ レ ポ ー ト の ARIA(Allergic Rhinitis Impact on Asthma)はアレルギー性鼻炎 の権威の世界のアレルギー医,耳鼻咽喉科医, 内科医が参加し作成された。診断・治療方針 は各国の医療状況や医療制度にもよるため内
◆特集/花粉症の最新治療◆ はじめに アレルギー性鼻炎の有病率の増加は目を 見張るものがあるが,特にスギ花粉症の有 病率は非常に高く,通年性アレルギー性鼻 炎の有病率を追い越した1)。花粉症の治療薬 の中心は抗ヒスタミン薬や局所ステロイド薬 であるが,最近スギ花粉症の基礎的な研究が 進み,スギ花粉症のみをターゲットした治療 薬の開発も盛んになってきている。こういっ た薬剤の評価として薬剤の臨床効果だけでな く,内服続行による効果減弱の有無,安全性, さらには効果発現時間と持続時間など同一条 件下での客観的な評価が必要である。薬剤の 有効性を含めた臨床試験はスギ花粉飛散時期 に施行するため,施行年度や施行する地域に よりスギ花粉飛散数が異なり,また気温や天 候が一定しないことから,それぞれの薬剤の 効果や安全性を客観的に評価することは困難 である。これらの欠点を克服するために,安 定した温度・湿度のもとで一定数の花粉曝露 が可能な花粉曝露室での臨床試験が有用と考 えられる。 1. 海外の花粉曝露室(表1) アレルギー性鼻炎の薬剤評価試験は従来か ら外来患者による多施設大規模臨床試験が最 も一般的な試験である。とくに花粉症を対象 とした臨床研究では,花粉飛散時期のみの施 行となり,天候や気温といった変化要因によ
抗原曝露室での臨床研究
北里研究所病院 耳鼻咽喉科橋口
はしぐち一弘
かずひろClinical trials in Japanese cedar exposure chamber
Key words :花粉症,花粉曝露室,臨床試験,薬剤効果 橋口 一弘 1982 年慶應義塾大学医学部卒業。 89 年産業医科大学耳鼻咽喉科講師, 90 年北里研究所病院耳鼻咽喉科勤 務 , 98 年 同 病 院 部 長 。 研 究 テ ー マ:口腔咽頭疾患。
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Abstract 本邦において人工的に一定濃度の花粉を飛 散 さ せ る こ と が で き る 花 粉 曝 露 施 設 が , 2004 年の EEU Wakayama の開設を皮切り に,2005年には大阪 (Osaka AAC),東京, そして 2008年に千葉 (α Chamber) に開設さ れた。われわれは東京に OHIO Chamberを 2005年 9月に設立し,スギ花粉曝露の臨床 症状発現に関して,安定した症状を誘発する ためのスギ花粉濃度と曝露時間について妥当 性試験をおこなった。以降同一条件下で抗ヒ スタミン薬,抗ロイコトリエン受容体拮抗薬 などの臨床効果についての臨床研究を行って きた。って結果が左右されることがある。さまざま な変化要因を抑える目的で代替方法が開発さ れてきた。その中のひとつが花粉曝露室であ る。 世界最初の花粉曝露室は 1985年にオース ト リ ア , ウ イ ー ン 大 学 耳 鼻 咽 喉 科 内 に , Vienna Challenge Chamber (VCC) のプロトタイ プが設立されたことに始まる。その後改良が 計られ 1992年に世界で最初の本格的な花粉 曝露室がウイーン大学に Vienna Challenge Chamber (VCC) として設立された2)。この施 設は 2002年に西ウイーンのアレルギーセン ター内に移転し,収容人数を 24人に増やし て稼動している。ウイーンの花粉曝露室に続 いてカナダ (Kingston, Mississauga) やアメリカ (Atlanta), ド イ ツ (Hannover), オ ラ ン ダ (Copenhagen)にも曝露室が設立されている3)。 一般的に,ヨーロッパにある花粉曝露室は収 容人数が少人数であるのに対して,北アメリ カにある曝露室は 150 人前後の人数が収容で 18 (208) アレルギーの臨床 30(3), 2010 きる大型のものであることが特徴である。こ れらの曝露室で飛散させる花粉は欧米で主に 飛散している雑草花粉が主である。これまで に抗アレルギー剤,ステロイド点鼻薬などの 薬剤を使用して季節性アレルギー性鼻炎に対 する臨床試験が数多く施行されている。 2. 国内での花粉曝露室について(表2) 日本においても花粉症の原因となる飛散花 粉の種類は多いが,花粉症といえばスギ花粉 が原因となって発症するⅠ型アレルギー疾患 のことを指すくらいスギ花粉症患者数が多 い。わが国最初となるスギ花粉曝露室が榎本 らにより 2004年 11月に和歌山県有田郡有田 川町に EEU(Environmental Exposure Unit) Wakayamaと名づけられ,設立された4)。引 き続いてOsaka AACが大阪医大さわらぎキャ ンパス内に開設され5),2005年 9月にはわれ われが OHIO Chamberを東京四谷左門町クリ 14 人 24 人 18 人 1 人 160 人 120 人 150 人 *この世界最初の花粉曝露室は,現在は西ウィーンのアレルギー センターに移転しており,現在稼働していない。
◆特集/花粉症の最新治療◆ はじめに 筆者は 2006年に本誌に同じテーマの総説 を記している1)。結論を述べるならばその後 の数年で画期的な新知見が出てきているとは 認識していない。そこで本稿ではわが国にお ける抗ヒスタミン薬使用の現状を考察し,そ の使用法の根拠となるいくつかの知見を述べ るとともに, その解釈のされかたについて解 説してみたい。また本稿は第 59回日本アレ ルギー学会総会の期間中に執筆しており, こ の学会におけるトピックスも念頭に置き述べ てみたい。 1. OTCにおける抗ヒスタミン薬の 普及と抗ヒスタミン薬の作用 総合感冒薬に配合される第 1世代の抗ヒス タミン薬と睡眠導入剤として使用される抗ヒ スタミン薬については本項目から除外し,Ⅰ 型アレルギー, 特に花粉症とアレルギー性鼻 炎の治療に用いられる第 2世代の薬剤につい て述べる。2009年の時点で OTC化され市場 に出回っている主な経口抗ヒスタミン薬など のアレルギー治療薬を表 1に挙げてみた。ア ゼプチン,ザジテン,ダレン,レミカットな どの製品名で我々臨床家も処方使用していた 薬剤が含まれており, 今後エバステル, アレジ オ ン な ど も OTC 化 の 対 象 と さ れ て い る 。 WEBサイトを含む各種メディアにおいてこ れらの薬剤が患者に対しどのような効果をも
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抗ヒスタミン薬のエビデンス
Evidence of H1-antihistamine 藤倉 輝道 1988年日本医科大学卒業。94年谷津保健 病院耳鼻咽喉科部長,2004年東京女子医 科大学附属第 2病院耳鼻咽喉科講師,08 年日本医科大学武蔵小杉病院耳鼻咽喉科 講師。研究テーマ:アレルギー性鼻炎の 薬物治療,アレルギー性炎症のメカニズ ム。趣味:読書,旅行。 Key words :H1受容体拮抗作用, 化学伝達物質遊離抑制作用, 抗炎症作用, 花粉暴露室, コントローラー 日本医科大学武蔵小杉病院 耳鼻咽喉科藤倉
ふじくら輝道
てるみち Abstract 抗ヒスタミン薬には古典的な意味での H1 受容体拮抗作用, 化学伝達物質遊離抑制作用 に加え炎症性サイトカイン産生抑制などの抗 炎症作用があるということは多くのエビデン スに基づくものであり, コンセンサスである とも言える。近年注目される知見としては花 粉暴露室を用いた試験結果, 内視鏡を用いた 試験結果, インペアードパフォーマンスに関 する知見, インターネット調査から得られた 動向, H1受容体発現と初期療法の因果関係に 関する知見などが挙げられる。コントローラ ーとしての鼻局所ステロイドとの使い分けは 今後さらに重要となろう。24 (214) アレルギーの臨床 30(3), 2010 興味深い。 ザジテンを例にとると, 基本的なヒスタミ ン H1受容体拮抗作用に基づく, くしゃみ, 鼻 汁, 鼻閉の 3主徴に対する効果があり, これを 「鎮める効果=抗ヒスタミン作用」と表現し ている。これに加えアレルギー症状を起こす 化学伝達物質遊離を抑制する効果「抑える効 果=抗アレルギー作用」があると述べられて いる。さらに粘膜の炎症の遷延化を防ぎ「ひ どくしない効果=抗炎症作用」も含め 3つの 作用を有する薬剤と評されている。 この抗ヒスタミン薬の 3つの作用,特に最 後の抗炎症作用については過去において多く の議論がなされてきた項目であり, 少なくと も CONGAにおける提言において本件は臨床 容量,in vivoでの証明が必要となされ一応の 決着をみた感がある2)。この抗ヒスタミン薬 の 3つの作用については Simons FEが総説を 書いており,また抗炎症作用につながる多く の知見も挙げられている3)。図 1にその概説 の図を載せるが,これが抗ヒスタミン薬の有 する薬理作用に関するコンセンサスであり, これはまた多くのエビデン スの上に成り立っているも のと考える。ザジテンが患 者向けにアピールしている 内容は本質的にはこれと同 様のものと理解できる。 2. 第2世代抗ヒスタミン薬 の効果に関する 最近の知見 日常診療において我々が 処方する第 2世代抗ヒスタ ミン薬について, 現在各製薬メーカーが着目 し強調している知見をいくつか挙げてみる。 1)花粉暴露室を用いた検討 我が国においても現在 4か所の花粉暴露室 が設置されており, これを用いて何らかのエ ビデンスを得ようという試みがなされてい る。アレジオン, タリオン, エバステルなどい くつかの薬剤は花粉暴露室を用いて花粉季節 中に一定量の花粉の暴露実験を行い, スギ花 粉症における同薬剤の初期治療における有効 性を検討している。一時期多くのデータを 図 1 抗ヒスタミン薬の3つの効能 Benefits of H1-Antihistamines H1-Receptor Calcium-ion Nuclear channels factor-κ B
Decreased allergic inflammation, itching, sneezing, rhinorrhea, and whealing
Decreased antigen presentation, expression of cell-adhesion molecules, chemotaxis, and proinflammatory cytokines