諮問庁:法務大臣 諮問日:平成14年8月1日 答申日:平成14年9月18日 事件名:熊本刑務所が本人に対して行った分類調査や累進審査の結果を記録し た分類調査票等の不開示決定(存否応答拒否)に関する件(平成14年 諮問第346号)
答申書
第1 審査会の結論 熊本刑務所において分類審査規定や累進審査規定などに基き,審査請求 人に対して行った分類審査や累進審査の結果を記録した分類調査票及び行 刑成績考査表(以下「本件対象文書」という。)につき,その存否を明らか にしないで開示請求を拒否した本件決定は,妥当である。 第2 審査請求人の主張の要旨 1 審査請求の趣旨 本件審査請求の趣旨は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以 下「法」という。)3条の規定に基づく本件対象文書の開示請求に対し,平 成14年7月3日付け福管総発第222号により福岡矯正管区長が行った 不開示決定について,これを取り消し,本件対象文書の開示を求めるとい うものである。 2 審査請求の理由 審査請求人の主張する審査請求の理由は,審査請求書及び意見書の記載 によると,おおむね以下のとおりである。 (1)処分庁は,不開示の理由として,本件対象文書の存否を答えるだけで, 法5条1号の規定により不開示とすべき個人識別情報が開示されるのと 同様の結果が生じる旨説明する。 しかし,同号の規定は,そのような情報が開示されると個人のプライ バシーなどを含む権利・利益が害されるおそれがあることから設けられ ているのであって,本件対象文書が審査請求人に開示されたとしても, それは審査請求人に関する情報が審査請求人に対して開示されるのであ るから,審査請求人のプライバシーを含む権利・利益が害されるおそれは 全くないことは明らかである。 さらに,審査請求人が刑務所に在所中であることが明らかになること は,同人にとって不利益をもたらすことも全くない。なぜなら,審査請求人は,東京拘置所及び熊本刑務所において内省を深めてきたので,同 刑務所に在所中であることを他人に知られても,それによって権利・利益 が侵害されたとする気持ちは全くないからである。 むしろ,審査請求人は,罪を犯したことの誤りを自覚し,自己省察を 重ねた結果,自己の罪過や服役中であることを他人に隠したりすること は,自分の犯した罪に対する真の責任をとって生きる生き方ではないと 考えるようになった。このような考え方を持つようになった審査請求人 にとって,諮問庁の理由説明書にあるように,審査請求人が服役中であ ることが他人に知られることは,同人の名誉などの侵害になると考えら れることは,当該説明書を作成した人の価値観などを押し付けられるこ とにほかならない。むしろ,審査請求人が受刑者であることを他人に隠 すことを欲する人間とみなすことこそ,同人の名誉を汚すものである。 そのような一般論で個人を推し量ることは誤りである。 また,同刑務所で服役中の審査請求人に対し,同人が服役中であるこ とを明らかにする本件対象文書が開示されても,審査請求人が同刑務所 に服役中であることは同人にとって自明のことであり,その開示が同人 の権利を侵害することにならないことは自明のことである。 (2)本件対象文書が開示されれば、審査請求人個人の権利・利益の侵害の防 止に役立つこととなる。審査請求人が本件対象文書の開示を求めたのは, 現在係争中の損害賠償請求訴訟の控訴審において被告及び熊本刑務所側 が審査請求人の同刑務所内での素行に関し主張していることが不合理な ものであることを明らかにすることができる可能性があると考えたから である。 本件対象文書を開示することは,審査請求人の個人の権利や利益を守 るために必要不可欠なものであるとさえ言える。 逆に,福岡矯正管区長・熊本刑務所側からすれば,本件対象文書が開示 された場合,審査請求人に対する不当・不法な対応が明らかになるおそれ があり,開示を拒むことが都合のよいものである。 このような性格を持つ本件対象文書を開示することは,法 1 条にいう 政府の諸活動についての国民への説明責任を全うするため,あるいは, 公正で民主的な行政の推進に資するためという法の目的に完全に合致す るものである。同条にかんがみて,このような審査請求人の権利・利益に 資するものは,当然開示されるべきである。 また,上記訴訟の一審において本件対象文書の提出命令の申立てを行 ったが,採用されなかった。そして一審判決は,審査請求人側の敗訴と
なり,同人の損害賠償請求が認められなかったばかりか,訴訟費用の支 払いまで求められることになった。 法5条 1 号ただし書ロが「人の生命,健康,生活又は財産を保護する ため,公にすることが必要であると認められる情報」は,個人情報であ っても開示すべきと定めていることからして,本件対象文書が審査請求 人に対し開示されるべきものであることは明らかである。 第3 諮問庁の説明の要旨 1 本件対象文書は,分類調査票及び行刑成績考査表であり,本件開示請求 は,開示請求者自身について熊本刑務所が作成した当該文書を特定してな されたものである。 本件対象文書は,当該個人が熊本刑務所に受刑者として収容されている ことを前提として作成されるものであることから,本件対象文書が存在し ているか否かを答えることは,当該個人が同刑務所に収容されている事実 の有無を答えることと同様の結果が生じるものと認められる。 特定の個人が刑務所に収容されている事実の有無は,個人の名誉や信用 に直接かかわる個人に関する情報であって,当然に当該個人の識別性を有 するものであることから,法5条1号の不開示情報に該当することは明ら かである。 2 したがって,本件対象文書が存在しているか否かを答えることは,当該 個人が刑務所に収容されている事実の有無という同号の不開示情報を開示 することとなることから,法8条の規定により本件対象文書の存否を明ら かにしないで,本件開示請求は拒否すべきものと認められる。 第4 調査審議の経過 当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。 ①平成14年8月1日 諮問の受理 ②同日 諮問庁から理由説明書を収受 ③同月22日 審査請求人から意見書を収受 ④同年9月13日 審議 第5 審査会の判断の理由 1 本件対象文書について 本件対象文書は,本件開示請求の趣旨に照らすと,熊本刑務所が作成し, 保有管理する特定の個人の分類調査票及び行刑成績考査表である。分類調 査票は,新たに入監する者に対し,本人の個性,心身の状況,前歴,境遇, 適性その他拘禁及び処遇に関する事項について行われた分類調査の結果を 記載したものであり,行刑成績考査表は,分類調査の結果に基づき累進処
遇の適否を検討した考査結果を記載したものである。 この種の行政文書は,特定の個人が特定の行刑施設に収容されているこ とを前提として作成されるものである。 2 本件対象文書の存否応答拒否について 法5条1号は,個人に関する情報であって,当該情報に含まれる氏名, 生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるものに ついては,同号ただし書に該当する情報を除き,不開示情報として規定し ている。 本件開示請求は,個人を特定した上で,当該個人が服役する刑務所が作 成した本件対象文書の開示を求めるものであり,本件対象文書の存否を答 えることは,特定の個人が刑務所で服役しているという事実の有無を示す こととなる。 特定の個人が刑務所で服役しているという事実の有無は,同号にいう特 定の個人を識別することができる情報であり,同号の不開示情報に該当す ると認められる。 審査請求人は,現在係争中の訴訟に必要な情報を得るために本件開示請 求を行っているのであるから,本件開示請求により得られる情報は同号た だし書ロに該当する旨主張するが,これをもって同号ただし書ロに規定す るところの「人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にするこ とが必要であると認められる」情報に該当するものとすべき事情が存する ものとは認められない。 したがって,本件対象文書の存否を答えるだけで,特定の個人が刑務所 で服役しているという事実の有無という法5条1号の不開示情報を開示す ることと同様の結果を生じることとなるため,法8条の規定により,本件 開示請求を拒否すべきものと認められる。 3 本人による自己情報の開示請求について 法の定めた開示請求権制度は,何人に対しても,請求の目的のいかんを 問わず開示請求を認める制度であるから,開示・不開示の判断に当たって は,本人からの自己情報についての開示請求である場合も含め,開示請求 者が誰であるかは,考慮されないものである。このことは,特定の個人を 識別することができる情報については,法5条1号ただし書イからハまで に該当するものを除き,これを不開示情報とするのみで,本人から請求の あった場合について法は特段の規定を設けていないことからも,明らかで ある。 したがって,本人の自己情報であっても,同号の不開示情報に該当する
ものである。 4 その他の主張について また,審査請求人は,同人の権利・利益を守るための開示請求について 処分庁が不開示としたことは法1条の趣旨に反する旨主張するが,同条の 趣旨を踏まえても,開示すべきと認められる事情はなく,上記主張は当審 査会の判断を左右するものではない。 5 本件不開示決定の妥当性 以上のことから,本件対象文書につき、法8条の規定に基づき開示請求 を拒否した本件決定は,妥当であると認めた。 第6 答申に関与した委員 吉村德則,髙木佳子,戸松秀典