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〈論文〉大学において教えるべき英語についての考察

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大学において教えるべき英語についての考察

概要 本論は大学において教えるべき英語について再考するものである。「英語が使える日 本人」を育成するという観点から,大学生が学ぶべき英語を「①専門分野に必要な英語力」 「②社会人にとっての日常英語」「③広範で高度な教養英語」の3種類に分類する。そして, それぞれどのような形で授業運営をするべきかを考察する。「②社会人にとっての日常英語」 は TOEIC Program を活用し,「③広範で高度な教養英語」を合理的に教えるには直近の 話題を扱う「時事英語」の授業を設置するべきであると提案する。 キーワード 英語が使える日本人,TOEIC,実用英語検定(英検),時事英語 原稿受理日 2019年10月7日

Abstract This paper reconsiders the types of English to be taught at universities. From the perspective of nurturing“Practical use of English by Japanese,”university English could be categorized into the following three categories:  English skills re-quired for specialized fields,  Daily English for working adults, and  Highly-cultivated English used in extensive topics. The author then considers how each class should be managed. Furthermore, this paper proposes that for teaching“ Daily English for working adults”the TOEIC Program should be utilized, and that for effectively

teaching“ Highly-cultivated English used in extensive topics,”“Current English” classes should be set up to get in touch with, understand and discuss the latest social issues.

Key words Practical use of English by Japanese, TOEIC, Eiken Tests, Current

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1.は じ め に

本稿は大学において一般英語教育(専門分野に特化した英語教育と対比される)にたず さわる立場から,大学で教えるべき英語について再考するものである。大学の英語教育に おいては,4 技能(リスニング,リーディング,スピーキング,ライティング)をそれぞ れ伸ばすという観点からカリキュラムを構築したり,就職活動や卒業後に役立つという観 点から TOEIC テスト対策の授業に力を入れたり,海外留学を奨励するために TOEFL テスト対策の授業を開講したりということがおこなわれ,また,時事的な話題や文化的な 話題など,学生にとって有益な情報や興味が湧く情報を教える英語科目も開講されている。 これらの英語科目はそれぞれ個別に有意義な目的を持っているが,建て増しされて出来上 がった建築物のように,全体としての体系や意図が読み取りにくい状態になりがちではな いだろうか。そのような疑問から,日本の大学における英語教育を俯瞰し,合理的なカリ キュラムを構成する足場を見いだすべく考察を開始した。本稿は文部科学省による英語教 育の目標設定を検討した上で,目標を達成するためには大学でどのような教育プログラム を組むべきか考察するものである。

2.日本における英語教育の目標

ほとんどの日本人が最低6年間,約半数の日本人が10年弱の英語学習期間を過ごしてい るにもかかわらず,諸外国に比べると日本人の英語力は相対的に低い。このことは国も認 めており,2003年には文部科学省が『「英語が使える日本人」の育成のための行動計画』 (以下,『行動計画』と略す)を発表した。この中の1ページ目では,「日本人に求められ る英語力」の目標を大きく2つに分け,まず第1に「国民全体に求められる英語力」とし て「中学校・高等学校を卒業したら英語でコミュニケーションができる」という目標が掲 げられ,第2に「専門分野に必要な英語力や国際社会に活躍する人材等に求められる英語 力」として「大学を卒業したら仕事で英語が使える」という目標が掲げられた。中学校・ 高等学校卒業段階に関しては,それぞれ,「挨拶や応対,身近な暮らしに関わる話題など について平易なコミュニケーションができる(実用英語技能検定(英検)3級程度),お  『「英語が使える日本人」の育成のための行動計画』(文部科学省,http://www.mext.go.jp/ b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/004/siryo/04031601/005.pdf)

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よび,「日常的な話題について通常のコミュニケーションができる(卒業者の平均が英検 準2級~2級程度)」という具体的な目標が設定されている。そして大学卒業段階につい ては,「各大学が,仕事で英語が使える人材を育成する観点から,達成目標を設定」する ことになっている。 英語学習期間に関しては,文部科学省は現状の年数では短すぎると判断し,2020年度か ら小学校高学年(5年生・6年生)において英語を教科とし,英語力の早期定着をはかろ うとしている。このことによって,2020年度以降小学校に入学する日本人は,ほぼ全員が 8年間英語を教科として学習し(小学校3年生・4年生における「外国語活動」を含める と学校で英語に触れる期間は10年間),約半数がさらに大学4年間でも英語を学ぶことに なる。 また,英語能力の達成目標との関係で,2021年度大学入学生を選抜するための「大学入 学共通テスト」の一環として,民間の資格・検定試験の活用が検討された。これは,「読 む」「聞く」「話す」「書く」の4技能を適切に評価するため,一定の評価が定着している 民間の資格・検定試験を活用しようというものである。しかし,導入した場合の様々な 問題が明らかになり,2019年11月1日に延期が発表された。試験方法は再議論されること となったが,この入試制度改革が目指しているのは,これまで比重が置かれることが多 かったリーディング・リスニングという受身の能力だけではなく,スピーキング・ライ ティングという情報発信能力を高校卒業段階までに育成することにある。

3.大学における英語教育の目標

文部科学省の『行動計画』では,大学卒業段階の英語力達成目標として,「専門分野に 必要な英語力や国際社会に活躍する人材等に求められる英語力」,「大学を卒業したら仕事 で英語が使える」という文言が並び,具体的な目標に関しては,「各大学が,仕事で英語 が使える人材を育成する観点から,達成目標を設定」することになっている。すなわち, 各大学や各学部,各専攻・専門分野において求められる英語力は多様であるため,それぞ れの大学において専門家が個別の達成目標を決め,適切なカリキュラムや教材を作成する ことになっているのである。  「大学入学テスト実施方針」(文部科学省,http://www.mext.go.jp/component/a_menu/ education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2017/10/24/1397731_001.pdf)

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だが,ここで1つ注意しておくべきと思われるのは,各大学や学部・専攻が英語の達成 目標を設定する場合に,大学卒業段階で必要とされる英語の種類は1つではない                        ,という ことである。文部科学省の『行動計画』では明確な区別をつけずに使われているが,以下 の文言,すなわち,「専門分野に必要な英語力」「仕事に使える英語力」「国際社会に活躍 する人材に求められる英語力」は,それぞれ異なる種類の英語力に分類することができる のである。以下,その違いについてまとめておく。

4.

「専門分野に必要な英語力」

「専門分野に必要な英語力」と言う場合,文系の学部を例にとると,法学部の専門的な 英語は当然法律に関わる英語であり,経済学部の場合は経済理論,金融・財政や国際経済 などに関わる英語であり,文学部・文芸学部などの場合には,さまざまな芸術・文化の ジャンルに関わる現代的・歴史的な英語である。これらの英語は各学部の専門家が専門の 知識として教えるべき英語であり,多くの場合は,ゼミや原典購読などの形で専門科目の カリキュラムに組み込まれている。大学で学んだ特定の専門分野の職業に就く学生や大学 院に進学する学生には必須であり,就職・進学の条件とも言えるが,分野や職種を特に選 ばずに就職先を決定するかなり多くの(大半の文系)学生にとっては,このような専門分 野の英語が大学卒業後に役立つかどうかはわからない。いわば,学問的な英語であり,少々 極端な言い方をすると,学習者にとって机上の英語として終わってしまう可能性が高い。

5.

「仕事に使える英語力」

「社会人にとっての日常英語」

「仕事に使える英語力」はもちろん「専門分野に必要な英語力」と重なる部分があるが, それ以上に,さまざまな仕事の場面における基礎的な常識英語という側面が重要である。 別の言い方をすると,「仕事に使える英語力」は,どんな業種にも共通する最大公約数的 な英語力であり,「社会人にとっての日常英語」である。これは社会人が1日の大半の時 間を費やす「ビジネス・シーン」を場面として想定した英語であり,英語を使って日常生 活を送ろうと思った場合に最低限必要な英語力ともいえる。学生(中学生~大学生)に とっての日常生活が学校という場面を中心にしたものであるのに対し,大学卒業生にとっ ての日常生活は会社を中心としたビジネスの場面である。そのような場面で英語を用いて 生活するためには,分野・業種・職種に特有な専門英語とは別に,職場環境や日常の仕事,

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人間関係などについてのきわめて一般的な英語を身につけておく必要がある。

6.

「国際社会に活躍する人材に求められる英語力」

「広範で高度な教養英語」

「専門分野に必要な英語」(経済英語や法律英語などテクニカルな英語)と「仕事に使え る英語」(=「社会人にとっての日常英語」。以下,こちらの表現に言い換える)に加えて, 文部科学省の『行動計画』には「国際社会に活躍する人材に求められる英語力」という文 言が添えられている。「国際社会」で活躍するためには,「専門分野に必要な英語」「社会 人にとっての日常英語」は当然必要であるが,それらに加えて,外国人の交渉相手,コ ミュニケーションの相手とお互いを尊重しあえる関係を築くことができるような英語力が 必要である。これはどのような英語力かというと,「広範で高度な教養英語」であり,社 会や文化を時事的および歴史的な面から理解し,それについて外国人と語りあったり,自 分の考えを文章にしたりすることができるような英語力である。

7.大学卒業段階における3種類の英語力の獲得

以上,セクション4~6では大学卒業段階において獲得していることが望ましい英語力 3種類をまとめた。それらは,「①専門分野に必要な英語」,「②社会人にとっての日常英 語」,「③広範で高度な教養英語」に分類できる。これらのうち,「①専門分野に必要な英 語」は,すでにセクション4で述べたとおり,各大学・各学部・各専攻の専門家が教える べき英語であり,多くの場合は,ゼミにおける英語のプレゼンや論文執筆,原典購読など の形で専門科目のカリキュラムに組み込まれている。「②社会人にとっての日常英語」と 「③広範で高度な教養英語」に関しては,より具体的なイメージをつかむために,文部科 学省の『行動方針』でも到達目標の目安として掲げられている実用英語検定(英検)の内 容をまず見ておきたい。 英検各級の出題における「場面・状況」と「話題」をレベル別に整理したのが次ページ の表である  公共財団法人日本英語検定協会ウェブサイトの「試験内容・過去問」ページの各級の試験内容 と過去問へのリンク(https://www.eiken.or.jp/eiken/exam/)

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1級 準1級 2級 準2級 3級 場面・状況/話題 ○ ○ ○ ○ ○ 家庭 場 面 ・ 状 況 ○ ○ ○ ○ ○ 学校 ○ ○ ○ ○ 職場 ○ ○ ○ ○ ○ 地域(各種店舗・公共施設を含む) ○ ○ ○ ○ ○ 電話 ○ ○ ○ ○ ○ アナウンス ○ ○ 講義 (○) (○) (○) (○) ○ 家庭 話 題 ( 筆 記 ・ リ ス ニ ン グ ) (○) (○) (○) (○) ○ 友達 (○) (○) ○ ○ ○ 学校 (○) (○) ○ 仕事 (○) (○) ○ ○ ○ 趣味 (○) (○) ○ ○ ○ 旅行 (○) (○) ○ ○ ○ 買い物 (○) (○) ○ ○ ○ スポーツ (○) (○) ○ ○ ○ 映画 (○) (○) ○ ○ ○ 音楽 (○) (○) ○ ○ ○ 食事 (○) (○) ○ ○ ○ 天気 (○) (○) ○ ○ ○ 道案内 (○) (○) (○) (○) ○ 自己紹介 (○) (○) (○) (○) ○ 休日の予定 (○) (○) (○) (○) ○ 近況報告 (○) (○) ○ ○ ○ 海外の文化 (○) (○) (○) ○ ○ 人物紹介 ○ ○ ○ ○ ○ 歴史 ○ ○ ○ ○ 教育 ○ ○ ○ ○ 科学 ○ ○ ○ ○ 自然 ○ ○ ○ ○ 環境 ○ ○ ○ 医療 ○ ○ ○ テクノロジー ○ ○ ○ ビジネス ○ ○ 政治 ○ ○ 社会生活一般 ○ ○ 芸術 ○ ○ 文化 (○) (○) (○) (○) ○ 身近なことに関する話題 話 題 ( 英 語 面 接 ) (○) (○) (○) ○ 日常生活の話題 (○) (○) ○ 社会性のある話題 (○) ○ 社会性の高い分野の話題 ○ 社会性の高い幅広い分野の話題

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この表において,黒く塗ってある部分は該当する級で扱われない「場面・状況」,「話題」 であり,(○)と書かれ薄く塗られている部分は,すでに下位の級で扱われているため, 該当する級では知っていて当然の「場面・状況」,「話題」である。 この表の上部7行に渡る「場面・状況」を見ると,英検3級レベル(中学卒業段階)で は「職場」の場面はなく,また2級レベル(高校卒業段階)までは「(大学の)講義」の 場面は出題されない。英検で想定している「場面・状況」は分類項目としては多くないが, 当然のことながら,レベルによって扱われる話題の範囲や難易度が異なってくる。 「話題」(筆記・リスニング)に関しては,「仕事」が話題になるのは2級以上のレベル (高校卒業段階)であり,このセクションの上から20番目にある「教育」から始まる社会 性の高い話題に関しては,「話題(英語面接)」のセクションと近しい対応関係がある。例 えば,3 級では「話題(英語面接)」で「身近なことに関する話題」が扱われるが,級が 上がっていくにつれてより広い範囲の「日常生活の話題」や「社会性のある話題」が扱わ れるようになり,2 級,準1級,1 級では,社会性の高さや分野の広がりが大きくなって いく。別の言い方をすれば,この表における「話題」(筆記・リスニング)の「教育」か ら下の項目は,「社会性のある話題」ということで,それよりも上に書かれている「日常 生活の話題」の項目とは区別されているのである。 「日常生活の話題」は3級,準2級,2 級では筆記・リスニング試験の大きな部分を占 めているが,準1級,1 級では「社会性のある話題」の比重が大きい。英検2級までを高 校卒業段階と考えるならば,3 級,準2級,2 級を受験する学生たちの「場面・状況」は 家庭および学校(中学校,高校だけではなく大学も含まれるだろう)が中心となる。また, 準1級や1級を大学卒業段階と考えると,本来ならば「日常生活の話題」としては,学校 卒業後の職場における話題が出題されるのが自然である。しかし,準1級や1級は,「日 常生活の話題」よりも「社会性のある話題」の比重が高いので,社会人にとっての「日常 生活の話題」であるビジネス関連の話が出てくる頻度は相対的に低い。文部科学省の『行 動計画』では大学卒業段階の英語力の目安として英検準1級や1級を掲げていないが,「社 会人にとっての日常生活」の場面が不足しているという意味で,英検を目安としていない のはある意味適切といえる。 学部・専攻ごとの専門分野の英語を英検がカバーしきれないのと同様に,会社生活など  『2019年度版 英検1級 過去6回全問題集』,『2019年度版 英検準1級 過去6回全問題集』 (ともに旺文社)

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ビジネスの場面における一般的な英語をカバーしきれていないことが英検の特徴である。 それは,大学生レベルを想定している英検準1級,1 級レベルでは「社会性のある話題」, すなわち,本セクション冒頭でまとめた3種類の英語力のうちの「③広範で高度な教養英 語」の比重が大きいからである。この英検英語の特徴について別のいい方をすれば,英検 準1級,1 級レベルの英語は,大学で教育することが望ましい「③広範で高度な教養英語」 だということでもある。このことは,英語圏の大学に入学する学生に求められる広範で高 度な一般教養の内容をカバーする TOEFL テストの内容とも共通する。この種類の英 語力は,範囲が広くまた内容も高度であるため,獲得するのが難しい。そのため,大学の 一般的な英語教育のカリキュラムに組み込むには工夫が必要である。 英検準1級,1 級レベルの内容が十分にカバーしきれていない「②社会人にとっての日 常英語」に特化しているのが TOEIC Program(TOEIC Listening & Reading Test

および TOEIC Speaking & Writing Tests)である。この英語は主にビジネス・シーン

における一般英語に限定されているため,ボキャブラリーの範囲やシチュエーションも限 定され,教えやすい英語であるといえる。また,多くの一般企業が社員の英語力の判定に TOEIC Program を活用しているため,学生が学ぶ意義を見つけやすいという利点があ る

8.大学における一般英語教育1:

「②社会人にとっての日常英語」

すでに述べたとおり,大学の学部や専攻ごとのテクニカルな専門英語(「①専門分野に 必要な英語」)は,ゼミや原典購読,外国人教員による専門教育クラスなどで教えるべき である。それに対して,大学で教えることが望ましい「②社会人にとっての日常英語」と 「③広範で高度な教養英語」は,外国語教育の一環として一般英語教育のカリキュラムの 中に含まれる。

「②社会人にとっての日常英語」の内容は,TOEIC Program( TOEIC Listening & Reading Test および TOEIC Speaking & Writing Tests)の内容そのものであり,

別のいい方をすれば,企業が大学卒業生に最低限望む英語力は,TOEIC テストで高得点

 ETS の TOEFL iBT テスト内容についてのウェブサイト(https://www.ets.org/jp/toefl/ ibt/about/content/)

 一般財団法人 国際ビジネスコミュニケーション協会のウェブサイト上で公開されている「上 場企業における英語活用実態調査」報告書(2013年)(https://www.iibc-global.org/library/ default/toeic/official_data/lr/katsuyo_2013/pdf/katsuyo_2013.pdf)

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を獲得することができる英語力だということである。大学の一般英語科目として TOEIC テスト対策のクラスを導入することに障害はなく,各教科書会社も TOEIC テスト対策 の教材を毎年多く出版している。「②社会人にとっての日常英語」を習得することの意義 を学生・教員が共有していれば,明確な目的(TOEIC テストで高いスコアをとるという 目的)に向けてスムーズな授業運営を行うことが可能である。そして,模擬テストや学内 実施テスト,公式テストなどを通じて,学習効果の測定が容易であるという利点もある。 余談となるが,TOEIC Program の内容は大学生が社会人になる前に必ず身につけて おくべき基本的な英語であるにもかかわらず,2021年度大学入学生を対象とした民間試験 から脱落した。TOEIC Program が「英語が使える日本人」としての最低限の英語能 力を測定できることを考えると,残念な気がすると同時に,「③広範で高度な教養英語」 を志向する民間テストだけが残ったのは公平性の観点からは望ましいことであったかもし れない。

9.大学における一般英語教育2:

「③広範で高度な教養英語」

英検準1級や1級,あるいは TOEFL テストの内容に一致する「③広範で高度な教養 英語」を大学における一般英語教育で効果的に行うには工夫が必要である。本稿セクショ ン7の英検の内容を示す表で明らかなように,教える内容の範囲が広く,まだどのような レベルの内容を教えるべきか,各大学・学部・専攻の条件に合わせて対応を考えなければ ならないからである。 「③広範で高度な教養英語」では,先に英検の内容を示す表で見たように,教育,科学, 自然,環境,医療,テクノロジー,ビジネス,政治,芸術,文化,その他社会生活一般な どの話題が対象となる。大学の一般教養課程などにおいて,これらのジャンルを個別に日 本語で教えることはありえるが,それらすべての日本語科目の内容に対応する英語科目を 設置することは困難である。現実的な解決策としては,学生にとって有益と思われる優先 順序を決めて,とりあげる話題を選択することが考えられる。そして,何が学生の知識と して有益な話題となりうるかは,学部組織や教員が決めるというよりも,むしろ,現在進 行形の社会における話題の重要性,議論の大きさに従って決めるべきであろう。ひらたく  2019年11月1日の民間試験導入延期決定以前に,TOEIC Program は民間試験制度への参加 予定を取り下げた。

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いえば,「時事的に重要な話題」を教えるべきだということである。 われわれが生きている現代の社会の中では,日々事件が起こっているが,大学教育の場 では,定説化し書物化された知識が伝授されがちである。シラバスは授業が開始される数 カ月前に決定され,シラバス通りに授業がおこなわれることが教員の評価につながりさえ する。日々世界で起こる出来事に関しては,マスメディアやネットを通じて自分で情報を 積極的に入手する学生もいるが,まったく無関心な学生も多い。授業の際に常に現在進行 中の社会的事件を話題として取り上げる教員もいるが,そうでない教員も多い。就職活動 において,企業側が求める人材のひとつの条件は,自分の生活する社会について積極的に 情報を入手し分析する能力を持っているかどうかだが,幅広い分野においてそのような姿 勢を育むことができる科目(例えば「時事問題」?)が現在の大学において一般的である とはいい難い。だが,「時事英語」という科目を設置することで,ある程度までその目的 を達成することができるのではないだろうか。 ここで提案する「時事英語」という科目の運営には2つの条件がある。1 つは,常に授 業直近の話題を教材とすることであり,もう1つは,英語よりもむしろ日本語でその内容 を学生に正確に理解させることである。英語を正しく理解することはもちろん重要だが, 英語に関するテクニカルな知識を身につけること以上に重要なのは,英語というツールを 通じて獲得する情報の内容だからである。日本語できちんと理解できていない情報を,母 国語以外の言語でよりよく理解できるはずがない。だが,このような授業運営によって, 社会性の高い情報の入手と理解は進むかもしれないが,それだけでは,自ら分析・構築し た情報の発信能力を育成することはできない。そのためには,最新の時事的な話題を英語 でプレゼンテーションしたり,ディスカッションをしたり,レポートを書いたりする発信 型の授業を組み合わせる必要がある。例えば,最新の話題に関する新聞記事やテレビニュー スを理解するための授業を日本人教員が行い,同じ話題に関する発信型の授業を外国人教 員が行うというような組み合わせが効果的ではないだろうか。

0.ま  と  め

文部科学省が『行動計画』の中で奨励しているように,「大学を卒業したら仕事で英語 が使える」人材を育成するために,「各大学が」「達成目標を設定」して,それぞれの展望 や状況や条件に合わせた一般英語教育をおこなってきた。それと並行して,英語を小学校 の教科にする制度改革や,大学入試における民間試験導入の検討など,行政によってさま

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ざまな試みがおこなわれてきた。行政主導による改革が果たして望ましい結果を生むかど うかを知るには時間の経過を待たなければならないが,現在進行形で大学内でおこわれて いる一般英語教育に対して,小さな修正を加えたり,ある程度の規模の改革をしたりする ことは可能である。本稿では,英語教育の「方法」論ではなく,英語教育の「内容」の観 点から,合理的と思われる一般英語教育のあり方を再考してみた。専門分野の教員による 「①専門分野に必要な英語」の教育に加えて,学生にとって有益な英語とは何かという観 点から,TOEIC テストを教材として利用した「②社会人にとっての日常英語」の教育を 合理的なものととらえ,「③広範で高度な教養英語」を具体的に教えるための最新の話題 を扱う「時事英語」の授業(日本人教員による受信・理解型クラスと,ネイティヴ教員に よる発信型クラスの組み合わせ)を提案した。これらの教育の実現は「英語が使える日本 人」を育成する上では必要最低限の条件であるかもしれないが,実際には,ひとつの学部 に所属するすべての学生に対してこのような英語教育を施すことは現状では難しい。筆者 の所属する学部においても,「①専門分野に必要な英語」の教育を全学生にほどこすだけ のスタッフの人数が足りていないし,最新の話題を扱う「時事英語」(受信型・発信型の どちらも)をすべての学生に学ばせる体制は整っていない。本稿における考察が,大学に おける一般英語教育の合理化につながる議論に,多少なりとも寄与することができれば幸 いである。

参照

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