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新時代における糖尿病患者の食事指導 ─管理栄養士における必要な技術を考える─

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Academic year: 2021

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はじめに 糖尿病診療はチーム医療であり,管理栄養士の役割 は糖尿病患者とその家族が適切な食事療法を実践,継 続できるように食事指導を行うことである.糖尿病患 者の場合は,家庭環境,生活習慣の問題が背景にある ことが多く,自己変容が困難なケースがある. 新しい令和の時代に入り,これまで以上に患者とそ の家族の生活習慣や食習慣が多様化した.多種多様な 背景を抱える糖尿病患者に対し,食事療法に意欲的に 取り組めるように促すにはどのような食事指導が必要 なのか,管理栄養士の立場から考える必要がある.そ こで今回,患者にとってよりよい食事指導とは何かを 考える目的で,当院で実施している管理栄養士の食事 指導の振り返りを行い,今後求められる食事指導の技 術及び知識について考察を行った.また上記を踏まえ て,管理栄養士が食事指導で重要視すべき点,習得す べきスキルについて提言を行いたい. 1.糖尿病患者を取り囲む環境の変化 1-1 情報ネットワークや食の流通の変化 総務省の通信利用動向調査1)によれば平成 30 年度 モバイル普及率は 95.7%であり,モバイルを通じて情 報を簡単に入手できるようになった.情報量は増加し, 食の流通は大きく変化しているが(Table 1),情報源 やメディアによるバイアスも増加すると考えられる. メディアは情報を購読する市民の心情を忖度しながら 報道する傾向がある2).よって,市民が注目しやすい 情報ばかりが流行し,増加する可能性がある.バイア スが混入することで情報の質が下がっていく.情報を 獨協医科大学埼玉医療センター栄養部 (受領:令和 2 年 3 月 31 日) 日本臨床生理学会雑誌 Vol. 50, No. 5, 2020.

総  説

新時代における糖尿病患者の食事指導

─管理栄養士における必要な技術を考える─

大 口   萌

鵜呑みにして,誤った行動を起こし,健康被害が発生 する可能性も危惧される.そのため食事指導では,患 者が健康情報を正しく活用できているかを注意して傾 聴する必要がある.ある特定の食品や健康法は長所も 短所もあるが,都合の良い部分しかフォーカスされて いない場合があるので,その点を伝えることが必要で ある.そして,より正しく,わかりやすい情報提供に つなげるためには,健康のために必要な情報を入手し, 活用できる力(ヘルスリテラシー)の能力3)を高め ることが必要であると考える. 1-2 外国人糖尿病患者の増加,国際化 平成 30 年度の在留外国人数は,243 万 1,093 人で, 前年末に比べ 16 万 9,245 人(6.6%)増加となり過去 最高となった4).近年,海外からのアウトバウンドも 増加している5) 当院は埼玉県東南部に位置しており,隣接する川口 市は埼玉県内で在留外国人数が最も多い6).また,埼 玉県は都道府県別在留外国人数が全国で 5 位であり, 増加の一途をたどっている7).日本では,在住外国人, 訪日外国人を受け入れる医療機関の体制整備が求めら れており,このような背景から多言語による診療案内 や異文化・宗教に配慮した対応など外国人患者の受入 れに資する体制を第三者的に評価する制度として「外 国人患者受入れ医療機関認証制度」(JMIP)が設けら れている8, 9) 当院の糖尿病内分泌・血液内科の外来外国人患者数 は,平成 25 年度では 8,560 人中 34 人(0.3%),平成 30年度では 8,987 人中 71 人(0.7%)と 5 年間で約 2 倍に増加していた.なお,当院のこの調査は,外国籍 を対象とした詳細な調査が困難であったため,ローマ 字,英語もしくはカタカナ語表記の氏名を抽出して算 出した.

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外国人の増加により,輸入食品,海外料理レストラ ン,ハラールフード販売店も多く見受けられるように なり,海外の文化が浸透しつつある.外国人糖尿病患 者の食事指導において,母国の食習慣,風習,言語を ある程度理解しないと,具体的な食品量や調理の上の 工夫点を伝えることは困難である.患者の食文化や習 慣を理解し,受け入れることで,外国人糖尿病患者に 対してスムーズな食事指導が可能になると思われる. 1-3 多種多様化する糖尿病患者に対して聴取す る項目 情報化,国際化という変化によって,生活習慣,風 習,食事内容,嗜好,情報の取り入れ方など多種多様 化する糖尿病患者に対し,聴取する項目も増加した (Table 2). 2.食事指導のプロセスの把握 限られた時間の中で効率的に患者にアプローチする ために,無理や無駄がない食事指導を実施していく必 要がある.そのため,管理栄養士による基本的な食事 指導のプロセスの振り返りを行った(Table 3).食事 指導の流れは,「導入」→「聞き取り」→「指導」→「提 案」の 4 段階を踏む.多種多様な患者に対して,個々 にあった指導や適切な行動計画の提案を行い,行動変 容を促したい.そのためには,本人の食事療法に対す る意欲や実際に実行している食行動や食事摂取量,管 理栄養士に対する信頼度,行動変容ステージの把握な どが必要である.患者の様々な情報を収集する「聞き 取り」の部分が,食事指導の中で重要な位置を占め, 指導・提案の土台になっていると考えられる. 3.食事の聞き取りの注意 前述で,食事指導の中で聞き取りの部分が重要であ ると述べた.聞き取りの際には,管理栄養士の聞き取 りの経験や傾聴の技術が必要とされる.食事指導の会 話の中には様々な誤差を生む場面があり,その部分を 理解しておくこともポイントである. 3-1 食事調査法による誤差 食事の聞き取りの際には食事摂取状況を確認し,栄 養量の算出を行うが,食事調査法の種類によっても 誤差が生じる.食事調査法には様々な種類がある10) 各調査法には長所,短所があり,導入可能であるかは 医療機関によって異なる.当院では,前日に摂取した Table 1 患者を取り囲む環境の変化について ・新聞,本,インターネット,テレビなど様々な媒体による情報量の増加 ・情報発信源の多様化(口コミ,ステルスマーケティング) ・中食の発達(宅配食,冷凍食品,お取寄せ食品など) ・食品の購入時間,入手方法の変化(コンビニ,24 時間スーパー,ネット注文) ・めまぐるしく変化する食の流行,新商品の回転率の速さ Table 2 多種多様化する糖尿病患者に対し聞き取りが必要な項目 項目 具体例 食事療法の有無・関心度 食事療法に対する意識の有無・知識・姿勢・認識度 食事時間・回数・間食 生活リズム・食事間隔・摂取時間・間食の内容・摂取量 外食の頻度 生活リズム・食事傾向・頻度 調理担当者 本人・キーパーソン・協力者の有無・介護状況 食品購入の難易度 経済面・購入アクセス・自家製品(野菜・保存食) 加工食品の利用 冷凍・インスタント・レトルト・ファストフード 食事をする環境 家族構成・独居・デイサービス利用の有無 嗜好飲料 清涼飲料水,アルコールの摂取 種類・量・頻度・タイミング 地域性・宗教 郷土料理・味付け・特定食材・宗教  食歴 家族の嗜好・幼児期・思春期・25 歳以降 嗜好の変化 いつ頃から(1 週間前 1 ヶ月 3 ヶ月 6 ヶ月以上) 食習慣だけでなく人種民族・生活習慣・仕事・家族構成・宗教など多様化し,個人差が大きく なった.その把握により糖尿病患者個人のレベルに合った知識の提供が可能になる.

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食事を思い出してもらい,管理栄養士に口頭で回答し てもらう 24 時間思い出し法を採用している.24 時間 思い出し法は,本人の認知機能,記憶力の誤差がある こと,視覚や聴覚の低下によって会話が困難な場合は 信頼性が望めない場合もある.しかし,当日でも対処 可能であり,事前の準備が不要なので患者自身の負担 が少なく簡便であることが利点である11) 3-2 食事記録の誤差 食事摂取量の聞き取りの際には,患者の過少申告, 日間変動にも注意する.過少申告に関しては,肥満度 が高くなるほど,自身の食事摂取量を過少に申告する ということが報告されている12).また,習慣的なエ ネルギー量や栄養素の摂取量は毎日変動している.こ れを日間変動という13).旅行などのイベント,不規 則な仕事の勤務時間,家族の都合などを加味したとし ても,過少申告や日間変動があるために,習慣的な食 事摂取量の評価は容易ではないと予想される . 3-3 行動変容ステージモデルの正しいあてはめ 人が行動を変える場合は,「無関心期」→「関心期」 →「準備期」→「実行期」→「維持期」の 5 つのステー ジを通る14)と考えられているが,対象者のステージ を把握し,ステージにあった働きかけを行うことが重 要とされている15).ステージのあてはめが誤ってい ると,その後の指導や提案が,患者にとって全く響か ない状況になってしまう可能性がある.食事指導の際 の患者の発言は,行動変容ステージモデルのあてはめ のヒントの一つである(Table 4). Table 3 管理栄養士による基本的な食事指導のプロセス 導入→ 聞き取り→ 指導→ 提案→ ▶この表は同僚の管理栄養士と口頭で実際に行っていることをヒアリングし抽出し作成した. ▶実際には導入から聞き取り,具体的な指導提案を行い,患者の今後の目標を策定する. ・挨拶  ・自己紹介 ・栄養指導時間を伝え  る ・対象者の名前の確認 ・対象者と同席者との  関係の確認 ・本人の状況確認 (入院中なら入院前) ・食事指導の目的の確認 ・食事摂取状況の確認 (食事回数,時間,調理従事者) ・間食,アルコール (摂取している水分の種類の確認) ・指導前の事前チェック以外の確認 ・指示栄養量と自宅での  食事の比較 ・食事計画案,その他  資料に沿って食事指導 ・食品交換表の単位 ・交換表の各グループの  具体的な目安量 ・今後の目標,行動計画の  設定,提案  ・指導のポイントの確認 Table 4 主観で考察する行動変容ステージモデルへのあてはめ例 ▶食事指導の際,患者の発言をもとに行動変容ステージモデルのあてはめを行う. ▶あくまで主観によるものであるが,近いステージを考察し,提案・指導に活かす. 患者の言動の例 ・「俺,糖尿病なの⁉」と病識がない,栄養指導になぜきたかわかっていない ・「奥さんにまかせてるから」「短く太く生きるから」など言い訳し開き直る ・「わかっているけどやめられないんだよね」とは言うが,栄養指導を聞く意欲  はある.食事に対する質問もある. ・「お友達はこうしていたよ」など他から情報を仕入れている ・「やってみようかな」「宅配食をためしてみようと思っている」など意欲的発言 ・積極的に栄養指導の継続を希望する ・食事記録の実践,人工甘味料や減塩調味料を購入し利用している ・「野菜は先に食べはじめた」など食習慣の行動変更が具体的に言える ・食品交換表や糖尿病の知識が高く,自信をもって継続していると言える あてはめ 無関心期 関心がない 関心期 関心がある 準備期 実行したい 実行期 継続自信ない 維持期 持続に自信

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文 献 1) 総務省:通信利用動向調査の結果.https://www.sou mu.go.jp/menu_news/s-news/02tsushin02_04000062. html(アクセス日:2020 年 1 月 23 日,最終更新日: 2019年 5 月 30 日) 2) 小島正美:メディア・バイアスの正体を明かす.エ ネルギーフォーラム新書,2019,pp 37­82

3) Health Literacy 健康を決める力.http://www.health literacy.jp/internet/post_10.html( ア ク セ ス 日:2020 年 1 月 23 日,最終更新日:2019 年 9 月 18 日) 4) 法務省:平成 30 年末現在における在留外国人数に ついて.http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/ nyuukokukanri04_00081.html(アクセス日:2020 年 1 月 23 日,最終更新日:2019 年 3 月 22 日) 5) 日本政府観光局:日本の観光統計データ訪日外客 数の推移.https://statistics.jnto.go.jp/graph/#graph— inbound-travelers-transition( ア ク セ ス 日:2020 年 1 月 23 日,最終更新日:2019 年 12 月 26 日) 6) 法務省:在留外国人統計,市区町村別国籍・地域 別在留外国人.http://www.moj.go.jp/housei/toukei/ toukei_ichiran_touroku.html(アクセス日:2020 年 1 月 23 日,最終更新日:2019 年 12 月 6 日) 7) 埼玉県 HP:埼玉県内の在留外国人数(平成 30 年 12 月末現在)について.https://www.pref.saitama.lg.jp/ a0306/keikakutoukei/h30-12toukei.html(アクセス日: 2020年 1 月 23 日,最終更新日:2019 年 8 月 7 日) 8) 厚生労働省の医療機関における外国人旅行者及び在留 外国人受入れ体制等の実態調査結報告.https://www. mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000173230. html(アクセス日:2020 年 1 月 23 日,最 終 更 新日: 2019年 12 月 6 日) 9) 一般財団法人日本医療教育財団:外国人患者受入れ 医療機関認証制度.http://jmip.jme.or.jp/index.php (アクセス日:2020 年 1 月 23 日,最終更新日:2019 年 12月 26 日) 10) 山中英治:ワークブック形式で症例別にレッスン! 栄養アセスメント&ケアプラン.株式会社メディカ 出版,2009,pp 36­37 11) 幣憲一郎:患者のやる気を引き出す!行動変容をサ ポートする!栄養指導スキルアップ.株式会社メディ カ出版,2015,pp 66­67

12) Murakami K, Sasaki S, Takahashi Y, et al.:

Misreport-まとめ 新しい令和の時代を迎え,患者とその家族の生活習 慣や食習慣の多様化が進んでいる.管理栄養士が指導 で重要視すべき点,習得すべきスキルについて Table 5 にまとめた. 患者を取り巻く環境変化と多様化への理解,異文化 の食習慣や言語,風習などへの理解,健康情報の情報 源・根拠を確認して患者へフィードバックできる能力, 食事摂取量,行動ステージを把握する上での聞き取り の能力,食事摂取量の聞き取りでは,調査方法や過少 申告・日間変動による誤差も考慮した上で指導提案を 行える能力が今後必要であろう. 患者一人一人にあわせた食事指導により患者の行動 変容を促すことが可能になる.管理栄養士は,一方通 行の会話ではなく,患者のバックグラウンドを理解し, 聞き取りの際に生じる様々な誤差を理解,加味できる ことによって,より正しい評価につなげることが重要 である.ただし,最も重要なことは,患者およびその 家族への食事療法を応援する姿勢であり,相互の信頼 関係を構築してこそ,患者の行動変容,食事療法の継 続が可能になることを忘れてはならない. 糖尿病療養指導の中の重要な柱の一つである食事療 法は,即効で簡単にできるものではなく,生涯継続し なければならない.患者が不安を解消し,正しい食行 動へ導いていくために,管理栄養士として日々知識の 向上に努めることが必要である.筆者自身もこの総説 の内容が机上の空論にならないよう,日々研鑽を重ね, 実務に取り組んでいきたい. 本稿は第 56 回日本臨床生理学会総会(令和 1 年 10 月 27 日)のシンポジウム糖尿病セミナーで発表した ものを元に,総説としたものである. 利益相反:本論文について開示すべき利益相反は無い. Table 5 管理栄養士が指導で重要視する点,習得すべきスキル 患者を取り巻く環境変化と多様化 への理解 異文化の食習慣や言語,風習など への知識 健康情報の情報源・根拠を確認し て患者へフィードバック 食事摂取量,行動変容ステージを 把握する上での聞き取りの能力 食事摂取量の聞き取りでは,調査 方法や過少申告・日間変動による 誤差も考慮した上で指導,提案を 行う

(5)

ing of dietary energy, protein, potassium and sodium in relation to body mass index in young Japanese women.

Eur J Clin Nutr 2008, 62: 111­118

13) 佐々木敏:佐々木敏がズバリ読む栄養データ.栄養と 料理 2019, 5: 115­119, 2019, 6: 115­119 14) 厚生労働省:e ヘルスネット.https://www.ehealthnet. mhlw.go.jp/information/exercise/s-07-001.html(アク セス日:2020 年 1 月 23 日,最終更新日:2019 年 12 月 26日) 15) 諏訪茂樹:ティーチングとコーチングによる健康支 援.日本保健医療行動科学会雑誌 2014, 28 (2): 86­89

参照

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