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英国における監査品質規制の構図

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英国における監査品質規制の構図

永 見   尊

[抄録]  英国では,Carillion事件やBHS事件などを契機として,法定監査に対する規制改革の議論が 高まっており,「監査市場」,「規制機関」そして「監査の質と有効性」に関する調査が国の主導 のもとで行われている。本稿では,それらの調査報告書を踏まえて,英国における監査品質規制 の現状,問題点そして改革案を検討するものである。本稿の視点は,PIEにおける財務諸表監査 を対象として,監査事務所による品質管理,会計士団体による教育研修と登録,監査委員会によ る監督およびFRCによる公的規制の4点に基づいて英国の監査規制を捉え,とくに監査規制に おいて重要な役割を有するFRCと監査委員会について,それぞれの役割および相互の連携につ いて言及する。そしてCMA調査報告書およびKingmanレビューが示す規制構造の問題点を提 示した上で,勧告されているさまざまな規制改革案を明らかにするものである。 [キーワード] 監査品質,CMA調査報告書,Kingmanレビュー,FRC,監査委員会,規制

Ⅰ 問題意識

 制度として実施されている財務諸表監査にお いて,監査職能のあり方や監査を担う公認会計 士の責任など,監査を巡るさまざまな問題は, 歴史的にみれば,その時代によって形を変えテ ーマを変えて議論されてきた。その中でも,時 として議会を巻き込んだ非常に大きな監査論争 が行われることもあった。アメリカでは,1970 年代において,上院小委員会が「メトカーフ報 告書」とよばれる1,760頁にも及ぶ報告書を答 申し,大規模化した会計事務所による会計支配 の構図を指摘し,その後の監査規制改革の議論 をもたらした。そして英国では,まさに今,国 の主導によって監査規制構造の改革がさまざま な委員会による最終報告書をもとに進められて いる。  近年,英国は2つの大きな企業破綻を経験し た。2016年4月に監理ポストにおかれたBHS社, そして2018年1月に清算手続に入ったCarillion 社である。それぞれの監査は,大手監査事務所 であるPwCとKPMGが担当していたが,その 監査において重大な不備が指摘されている。英 国における法定監査への危機は高まり,担当大 臣および競争市場局(CMA)は,これを受け て監査における3つの側面について別個に調査 を行うことを通達した。それは,CMAによる 法定監査の市場に関する研究(2018年12月に公 表),Kingman氏によるFRC監査規制に関する 研究(2018年12月に公表),そしてBrydon氏 による監査の質と有効性(監査期待ギャップ)

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に関する研究(2019年12月に公表)である。こ れらの報告書では,監査規制におけるさまざま な問題が浮き彫りにされ,そして制度の改革案 がいくつも提案されている。  本研究の問題意識は,英国において,財務諸 表監査の品質維持を目的としてどのような規制 の構図がとられているのか,そしてその構図の いかなる部分に対して問題が指摘され,どのよ うな改革が主張されているのかを明らかにする ことである。  そもそも「規制」(regulate(v))とは,Oxford・ English・ Dictionary(Simpson・ and・ Weiner [1989])によれば,「規則(rule)あるいは規 制(regulation)によって管理・統治・指示す る こ と 」 と い う 意 味 と,「 い く つ か の 基 準 (standard)または目的に準拠して時間・数量・ 力あるいは業務の正確性を調整すること」と説 明されている。つまり,規制にはある主体の行 動を規則(rule)によって主体外部から管理・ 統治・指示するという側面と,基準(standard) に準拠することで主体内部において業務を調整 するという側面が認められるであろう。  そこで,本研究では,監査人による財務諸表 監査に対して,監査事務所による品質管理,会 計士団体による教育研修と登録,監査委員会に よる監督およびFRCによる公的規制,という 4つの視点から英国の監査規制を捉え,それぞ れの位置づけを示した上で,とくに会計・監査 において広範な権限を有するFRCに焦点を当 てて監査品質規制の構図を明らかにしていくも のである。そして上述した2つの報告書が浮き 彫りにした監査規制の現状と問題を分析し,そ れぞれが提案する改革案を整理し,英国におけ る監査品質規制の意義について検討していきた い。 な お, 規 制 の 対 象 は,Public・Interest・ Entity(PIE)が公表する財務諸表に対する監 査とする。PIEは,英国では上場会社,金融機 関および保険会社が含まれ,2017年に公表され たAccountancy・Europeの調査では,その数は 全体で1,750社,上場会社に限定すると1,700社 と な っ て い る(Accounancy・Europe[2017] pp.1-5)。

Ⅱ 4つの視点から見た

英国の監査品質規制

1.監査事務所による規制   英 国 の 監 査 事 務 所 は,International・ Standard・on・Quality・Control(UK)に準拠し て事務所の品質管理を実施することが求められ ている。この基準は品質管理の国際基準をベー スに,一部英国の状況に合わせた修正や追加が 行われたものである。品質管理の目的は,監査 事務所とスタッフが職業基準・法・規制に遵守 することについての合理的保証を提供するため の品質管理システムを確立し維持することにあ る。監査事務所は,監査の質を確保するための 内部品質管理システムを整備すること,そして 内部品質管理の構造,整備および有効性を監視 し評価することが求められている(FRC[2016a])。  品質管理に対する各事務所の取り組みは,そ れぞれ独自の視点や手法を取り入れて行われて いる。Deloitteは,高い品質の監査を提供する ために,リーダーシップのある行動を示すこと, 倫理観を明確に示し共有すること,そして客観 性や懐疑心を有することといった「組織文化」, 厳格なリクルートプロセス,監査の質に関する 測定と報酬,そして実地訓練といった「人」, 監査業務の品質管理レビュー,不適切な監査の 原因分析,そして監査報告書のレビューといっ た「システムとプロセス」,および「グローバ ルな監査品質の一貫性」という4つの側面から

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取り組んでいる(Deloitte[2018])。またPwC は,監査の質に関連する3つの領域において質 問調査を実施し,識別された問題点の解決に取 り組んでいる。とくに2018年度の報告書では, 「業務提供の品質」,「教育研修の実施」および 「リーダーの誠実性」については高いスコア(71 〜89%)であったが,「業務の遂行における十 分な時間と資源の確保」についてはスコアが低 下したため(32%),必要に応じた人員の補充 を可能とする弾力的提携プログラムを設定して いる(PwC[2018])。 2.会計士団体による自己規制  監査に関する規制は,2016年6月17日発効の EU・Audit・Regulationお よ びStatutory・Audit・ Directiveに基づいて,そのすべての責任は「法 的能力を有する機関」(Competent・Authority) である財務報告審議会(Financial・Reporting・ Council:FRC)に与えられた。しかし両法は, 法で認められた別の団体に監査規制の機能を委 譲 す る こ と を 認 め て い る。 こ の 団 体 は Recognized・Supervisory・Bodies(RSB)であり, FRCはRSBに会計士および監査事務所の登録, 継続的専門職業開発(Continuing・Professional・ Development:CPD),法定監査業務のモニタ リング(PIE以外の会社の監査)および監査に おける調査と執行(PIE以外の会社の監査)と い う 4 つ の 機 能 を 委 譲 し て い る(ICAEW [2017])。なお,現在,RSBには4つの会計士 団体が認められている。それらはAssociation・ of・ Chartered・ Accountants(ACA),Char-tered・Accountants・Ireland(CAI),Institute・ of・ Chartered・ Accountants・ in・ England・ and・ Wales(ICAEW), お よ びInstitutes・of・Char-tered・Accountants・of・Scotland(ICAS)である。  PIEの監査に限定すれば,RSBによる規制は, 法定監査人として適格であるかどうかを決定す る「登録規制」,職業専門家としての教育訓練 の実施とレビューを行う「CPD」,そして監査 プロフェッションの自己規制として「会則・倫 理規定の作成と遵守状況の監視および処分」が 実施されている。RSBの登録規制については, FRCによる規制状況の監視が実施される。また, CPDについては,ICAEW・Principal・Bye・Law 第56条において,「会員は,専門職業業務に関 連した教育訓練の必要性に関するレビューを受 け,そのレビューによって特定の教育訓練の必 要性が認められた場合には速やかにそれを満た し,そして毎年,協会に対してこれらの規定に 準拠していることを証明しなければならない。」 (ICAEW[2018])と規定されている。ICAEW が 実 施 す るCPDの 内 容 に は,(1)Technical・ reading,(2)Learning・at・work,(3)Meetings・ with・ experts,(4)Conferences,(5)Courses・ and・ seminars,(6)Online・ learning,(7) Workshops・ with・ your・ peers,(8)Reading・ magazines,・ newspapers・ and・ journals,(9) Registering・for・updates・and・email・alertsなど が紹介されている⑴ 3.FRCによる公的規制  先に言及したように,FRCは,監査規制の 実行と監視に対する最終的な権限を有しており, その権限は,会計基準の設定,監査基準の設 定,ガバナンス・コードおよびスチュワードシ ップ・コードの更新,財務報告のレビュー,財 務諸表監査と会計事務所のレビューおよび懲戒 処分に及んでいる。財務諸表監査における品質 管理を維持するためのFRCによる直接的な規 制に目を向ければ,「監査品質のレビュー」お よび「不適切な監査に対する懲戒処分」の2つ が挙げられるであろう。

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 まず,監査品質のレビューは,PIEの法定監 査の監査手続および監査事務所の品質管理を対 象としてFRCの監査品質レビューチームによ って実施されている。大手監査事務所による PIEにおける財務諸表監査および品質管理のレ ビューは毎年実施され,2018年から2019年のレ ビューは,・Deloitteで25件,・EYで18件,・KPMG で24件,そしてPwCで28件が行われた。各事 務所の検査結果は,「優れている,または部分 的な改善が必要」,「改善が必要」そして「大幅 な改善が必要」の3段階で評価される。2015年 から2018年までの3年間における大手監査事務 所およびBDO監査事務所とGrant・Thornton監 査事務所を加えた6監査事務所に対して実施さ れたFRCのレビューの結果は,以下の図1の 通りとなっている。検査の多くは良好の結果を 得ているが,KPMGは他の4大事務所に比べ て改善を求める割合が高く,また全体として 2017/18年度の検査は他の年度よりもより厳し い指摘が増えていることが見て取れる。  FRCのPIE監査に対するレビューの特徴は, アメリカのPCAOBのレビューと比較すると, 大きく次の3つの点が挙げられるであろう。  第1は,検査の焦点である。PCAOBは,証 拠の入手や検証の十分性といった監査プロセス を重視しているのに対して,FRCは「われわ れのレビューは,監査意見に至る重要な監査判 断の適切性に焦点を当てている」⑵と表明して いるように,監査手続において監査判断を重視 している。  第2の特徴は,PCAOBが「批判的なアプロ ーチ」,言い換えれば問題点厳格指摘型である のに対して,FRCは「指導的なアプローチ」 を採用していることである。毎年公表される FRCの検査報告書では,FRCは検出事項を指 摘し,その問題点に対する対応策を提示する, それを受けて監査事務所は実施した是正措置を FRCに報告する,という3段階のプロセスが 示されてる。たとえば,EYに対するレビュー では,「経営者の仮定を裏付けるための証拠が 不十分であった」ことが指摘され,そして「金 融機関における引当金の設定に関連した経営者 の主要な仮定に対して十分な説明を求め,そし て評価の範囲を広げること」という対応策が FRCから示され,それを受けてEYは「2018年 度の訓練計画において貸倒引当金の監査に継続 出所:Accountancy Daily.(https://www.accountancydaily.co/aqi-2018-decline-audit-quality-big-four-firms) GT グラフは左から 2015/16,2016/17,2017/18 の各年度を示す BDO EY Deloitte KPMG PwC 30 25 20 15 10 5 0 良好  要改善  要重大な改善 図1 6大監査法人に対するFRCの監査品質レビューの結果

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して焦点を当てる」および「監査調書にはすべ ての重要な事項が十分に証拠付けられていなけ ればならないことを銀行監査チームに十分理解 させる」との是正措置をとったことが報告され ている(EY[2018])。  そして第3の特徴は,監査品質レビューの結 果について,監査委員会と緊密な情報交換を行 って,その後の改善に結びつけるというプロセ スが踏まれている点である。このようなプロセ スは,PCAOBのレビューではとくに明示され てはいないようである。FRCと監査委員会と の連携については次節で詳述する。  FRCによるもう1つの規制は,不適切な監 査に対する懲戒処分である。懲戒処分はFRC が規定する「監査執行手続」に基づいて実施さ れ,懲戒処分の決定は,検出した違反事項の評 価,懲戒処分の識別,適切な抑止効果を達成す るために必要な調整の検討,そして減額措置の 検討といったプロセスを経て行われる(FRC [2018f])。また,具体的な懲戒処分の内容は, 監査事務所に対する「警告」から「監査業務の 禁止」そして「金銭的罰金」など多様となって いる(FRC[2018f])。最近における監査事務 所およびパートナーへの懲戒処分の例として, KPMGに対して,重要な虚偽表示がないこと に関する合理的な保証を得ていなかったこと, 十分かつ適切な監査証拠を入手していないこと および十分な職業的懐疑心を行使しなかったこ と等を理由として「注意処分」および「罰金 270万ポンド(EY)と9万ポンド(契約パート ナー)」,またDeloitteに対して,一部取引の会 計処理および開示の適切性,売上原価の評価お よび有価証券の実在性において違法行為が検出 されたことを理由として,「厳重注意」および「罰 金400万ポンド(EY)と15万ポンド(契約パー トナー)」が科されたこと等が公表されている (FRC[2018g])。 4.監査委員会による監視  第4の種類の規制は,被監査会社の監査委員 会による監査人および財務諸表監査に対する監 視である。監査委員会が担う役割と責任は,英 国のコーポレート・ガバナンス・コードにおい て規定されており,財務諸表監査に関連した役 割は,外部監査人の任命や再任に関する入札プ ロセスの実施,外部監査人の独立性と客観性の レビューと監視,そして外部監査プロセスの有 効性のレビューが示されている(FRC[2018h])。 とくに外部監査プロセスの有効性のレビューに ついて,監査委員会の指針は「Guidance・on・ Audit・Committee」において詳述されており, 適切な監査計画が設定されているかどうかを確 かめること(第75項),監査業務において検出 された事項および監査報告書について,外部監 査人と共にレビューしなければならないこと(第 76項),外部監査人の検出事項および勧告に対 する経営者の対応についてレビューし監視する こと(第77項),そして監査プロセスの有効性 について評価すること(第78項)が求められて いる(FRC[2016b])。さらに監査委員会は, 外部監査を監視するために,規制機関,監督機 関あるいは株主といった会社外部の関係者から の情報,経営者からの情報,監査人からの情報 そして監査委員会のメンバー相互からの情報を 収集し評価する。この情報収集において,会社 外部の情報であるFRCからは,監査品質レビ ューチームによる監査品質レビューの報告書を 通じて監査委員会の委員長宛に直接コピーが送 付される。この報告書は,外部監査の有効性を 評価する監査委員会を支援するように意図され て作成されている(FRC[2015])。このように, 監査委員会による外部監査の監視は,特別なラ

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インを持ってFRCとの緊密な情報交換が行わ れているところに特徴があるといえる。  監査委員会は,財務諸表監査に対する最終的 な評価を下すこととなるが,監査人の判断に対 する監査委員会の評価ポイントは,①重要性, ②リスク評価,③監査業務の内容と範囲,そし て④監査人の結論と監査報告書,という4点で 行われ,表1で記されるようにそれぞれにおい て詳細な指針が示されている(FRC[2015])。 このことから,監査委員会は監査プロセスや監 査上の判断にかなり踏み込んだ監視手続を行う ことが求められており,英国における財務諸表 監査に対する規制の構図において,監査委員会 は恐らく最も重要な位置づけを担っていること が推測され,そしてそれが英国の1つの特徴と なっているといえるであろう。なお,これら4 つの側面におけるPIEの財務諸表監査に対する 規制の構図は,図2として表されよう。

Ⅲ 英国における法定監査危機の

高まりと改革案

1.監査の失敗と法定監査危機の高まり  英国における法定監査の危機を高めたのは, 2つの大きな企業破綻の事件が契機であろう。 その1つはBHS事件である。英国の著名なデ パート・チェーンであるBHS社は,163の店舗 数を誇り,11,000名のスタッフを擁していたが, 表1 監査人の判断に対する監査委員会の評価ポイント ①重要性  ◦・重要性の水準を設定するための基礎は何か,重要性の水準を決定する上で監査人が用いた指標は適切なものであ るか  ◦・全体レベルの重要性は何か,それを決める上で考慮された要因は何か  ◦・重要性の質的側面に対する監査人のアプローチは何か ②リスク評価  ◦・識別された最も重要な虚偽表示は何か,それらは会社に関連した固有のものか  ◦・監査人は,リスクをもたらすインセンティブ,文化その他経済的要因の理解を示したか  ◦・監査人は,企業経営,経営環境および財務報告の枠組みを理解し,そしてリスク評価において十分な情報に基づ く新たな視点を用いていたか  ◦・監査人は,規制リスク,不正リスク,収益認識リスク,および経営者が内部統制を無視するリスクを識別したか ③監査業務の内容と範囲  ◦・監査人は理解可能な形で彼等の監査戦略を説明することができたか,監査人は特定の領域において監査戦略の選 択を説明できるか,またなぜ代替的な手続が適切ではなかったのか  ◦・監査委員会が最大の関心を有する特定領域のリスクは存在するか  ◦・監査人はどの程度内部統制の有効性に依拠しようとしているのか  ◦・財務報告プロセスの質および有効性に対するリスクは,監査計画においてどの程度取り組まれているか  ◦・監査人は,特別な監査上の検討が必要なところにおいて(たとえば関連当事者の開示),財務諸表の金額と開示 に関連したいかなる領域を識別したのか  ◦・FRCの監査品質レビューによって,監査戦略に関する監査品質の問題はどの程度識別されたのか,監査人は監 査戦略について規制当局による指導を検討したのか,またこれは監査計画にどのような形で組み込まれたのか  ◦・財務諸表レベルにおいて評価された重要な虚偽表示リスクへの対応 ④監査人の結論と監査報告書  ◦・監査人は,理解可能な形で監査委員会に対して主要な会計および監査上の判断を伝達したか  ◦・もし未修正の虚偽表示があれば,監査人はそれが経営者によって修正されない理由について説明することができ たか  ◦・監査人は,監査手続の過程で生じた重要な問題がどのように解決されたのか,また関連する場合には,それらの 問題がなぜ未解決のまま残されていたのかについて説明することができたか  ◦・監査人が同意された監査計画に準拠して監査を実施したかどうか

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2016年4月に監理銘柄におかれた。PwCが担 当した同社の監査で問題となったのは,固定資 産の減損,投資の減損,およびゴーイング・コ ンサーンの評価であった。とくに担当した監査 パートナーは,財務諸表監査に対してわずか2 時間しか費やしておらず適切な監査業務の監督 を 怠 っ た こ と が 強 調 さ れ た(FRC[2018i; 2018j])。  もう1つはCarillion事件である。英国の大手 複合建設会社であるカリリオン社は,2018年1 月に強制清算手続に入った。それまで健全な業 績を表明していたにもかかわらず,同社は突然 破綻し,およそ70億ポンドの負債を抱え,また キャッシュはわずか2,900万ポンドであった。 同社の監査人は19年間にわたりKPMGがつとめ, そして2016年度の財務諸表は真実かつ公正なも のとの意見が表明されていた。しかしながら, KPMGの監査は,重要なリスクとして識別さ れていた建設請負契約による収益認識や借入金 の処理,さらにゴーイング・コンサーンの評価 について,経営者に対して批判的に検討するこ とをせず,同社の積極的な会計判断に対して職 業的懐疑心を行使していなかったこと,そして むしろ同社の不正に加担していたことが疑われ ており,調査が進められている(BEIS・&WPC [2018])。さらに,近年において,たとえば, Tech・Data・Ltd,Aero・Inventory・(UK)・Ltd, RSM・Tenon・Group,Ted・Baker,Quindell社, Conviviality社,Mitie・Groupそ し てSports・ Direct社に対する監査など,FRCによるいく つもの不適切な監査の事例が摘発されている。 これらの監査は,いずれも大手監査事務所が担 当 し た も の で あ っ た(BEIS・&WPC[2018] pp.7-8)。  このような重大な企業破綻に伴う監査の失敗 や度重なる不適切な監査実務への指摘によっ て,監査業界への懸念はいよいよ深まっていっ た。監査に対する信頼の危機は,監査市場にお ける競争,利害の対立,規制の弱体化および監 査自体に対して疑念をもたらすこととなった。 そしてついに英国政府は,すでに述べたように, 監査規制および監査の有効性を調査するために, Kingman氏およびBrydon氏を中心とする2つ の独立したレビューを委託し,またCMAは主 として市場の競争に関する調査を行った。さら にMcDonald議員(Shadow・Chancellor)の依 頼によってSikka教授を中心とした規制構造と 監査産業の改革に関する調査が行われた。以下, 監査品質規制に焦点を当ててCMAとKingman 氏による2つの調査報告書が示す英国監査の問 FRC 監査委員会 会計士団体 監査事務所 PIEの 財務諸表 監査 品質管理の監視 監査品質レビュー情報の提供 監査品質   レビュー 監査業務の監視 品質管理 CPD 登録 懲戒   処分 規制状況   の監視 図2 英国における監査品質規制の構図

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題点を明らかにし,その改善策として提案され ている改革案を見ていくこととする。 2.監査規制上の問題点  「 法 定 監 査 業 務 の 市 場 に 関 す る 研 究 」 (Statutory・Audit・Services・Market・Study)と 題するCMAの調査報告書は,2018年12月に中 間報告書(CMA[2018])が公表され,そして 2019年4月に最終報告書(CMA[2019])が公 表された。CMAの調査は,そのタイトルが示 すように,法定監査に関するPIE監査市場にお いてビッグ4が独占していること,そしてビッ グ4の収益は監査よりも非監査業務からその大 部分が生み出されていることを問題視し,監査 業務と非監査業務の分離案や共同監査を制度化 する案などが提示されている。しかしCMAに よる調査は,監査市場の問題のみならず,監査 品質規制に関連して,監査委員会による監視の 状況にも及んでいた。  そこでは,大きく次の3つの問題が指摘され ている。  第1は,監査委員会による監視機能の有効性 である。監査委員会は,監査業務の質を直接的 に観察することはできず,むしろ監査リスクが より高い領域に対して実施した監査業務につい て監査人と議論するだけであり,高い質の監査 を提供するインセンティブを弱め,システム全 体を脆弱化させている,と結論づけている。  第2は,監査委員会による監査人選任におけ る問題である。報告書では,監査人の選任プロ セスにおいて,株主の利益よりもむしろ会社お よび経営者の利益を優先させる形で監査人が選 任されていることが報告されている。いくつか の入札においては,「監査人の技術」や「懐疑 心の行使」といった要因よりも,「文化的な適 合」や「個人的関係」という要因を重視してい る傾向があり,監査の質に目を向けるのではな く監査人との人間関係を優先させていることが 強く問題視されている。  そして第3は,監査人に対する監査委員会の 姿勢である。報告書によれば,何人かの投資家 は,監査委員会が監査人の活動を監視し評価す ることにおいてどれほどの独立性を持って行っ ているのかについて懸念を表明した。監査委員 会は,経営者の判断に関して批判的に検討せ ず,あるいは監査人の業務の分析について監査 人に批判的な目を向けていない。このことに関 連して,報告書のデータでは,監査委員会が外 部監査人に対して費やす時間は,1年で400時 間を超えるものから20時間未満のものまで広が っていることが明らかにされており,監査委員 会は適切に監査人の活動を監視できているのか どうか,という疑念が提起されている(CMA [2018;2019])。  財務諸表監査の規制におけるもう1つの問題 の焦点は,FRCである。Kingman氏による「FRC に関する独立レビュー」と題する報告書(以降, Kingmanレビュー)は,まずFRCの組織の位 置づけについて言及している。FRCは,有限 責 任 保 証 会 社(company・limited・by・guaran-tee)として創設され,その形態は現在でも残 っている。FRCは,その歴史の多くにおいて, 公的機関ではなく,奇妙にも私的機関であった。 このため,FRCには国会から提供される明確 な法的基盤がなく,現在は法的機能と限定的に 委譲された監査に関連する権限の混合および任 意の契約に依存している。FRCは,その執行 において法的機能を引き受けてはいるが,法的 義務に拘束されてはいない。このような法的基 盤はFRCの効果を著しく制限している,と報 告書は指摘している。  さらに,FRCは任意の寄付を通じて資金を

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一部まかなっている。毎年行われる会社その他 の団体の善意に基づいたこのような規制団体の 資金調達が任意の形で行われているという側面 は,FRCが資金を提供する者の手にかみつく というインセンティブを鈍らせるというリスク を生み出し,著しく不適切であることも指摘さ れている。  また,組織の人事についても問題視されてい る。FRCの役員会は永続勤務が可能であり, 政府の関与は会長と副会長の選任に関してのみ であること,また役員会および評議会のメンバ ーの採用は不適切なほど非公式であり,さらに 大手監査事務所のOBのネットワークに依存し ていることが指摘されている。そして財務諸表 監査に対するFRCの規制活動に対して,FRC は監査事務所の品質管理問題に懸念を抱いて も,正式にその事務所に介入し,改善を要求し, また変更を強制することはできないこと,法定 監査人の承認および登録に関する規制業務は職 業会計士団体に委譲されているが,このことが FRCにおける重大な規制上の欠陥となってい ること,そしてFRCは執行を実施したがらず, 結果を出すのが遅く,そしてそれ故に不正行為 に対する適切な防止ができていなかったとの評 価がなされている(Kingman[2018])。図3は, これらの規制上の問題を図で示したものである。 3.提案されるさまざまな監査規制改革 ⑴ CMAの改革案  CMAは,上述のように監査委員会による財 務諸表監査の監視および監査人の選任について 問題を提起しており,このためその改革案は, 監査委員会における監査人選任プロセスおよび 監査業務の監視を強化することに焦点が当てら れた。具体的には,監査委員会は入札による監 査人選任プロセスにおいて規制団体に直接報告 すること,監査委員会のなかに規制団体のオブ ザーバーをおくこと,そして監査業務の始めか ら終わりまで監査委員会がどのように監査の質 を監視しているのかを規制団体に直接報告する ことが要請された(CMA[2019])。 ⑵ Kingman氏の改革案  Kingmanレビューでは,FRCに対してさま ざまな側面から改革案が示されている。まず, 機関としてのFRCは,明確な法的権限を有し た新たな独立規制機関に速やかに代えられなけ ればならないと主張し,新機関の名称は「監査・ 報告・ガバナンス局」(Audit,・Reporting・and・ Governance・Authority:ARGA)としている。 その上で,役員会の規模を小さくし,役員の選 FRC 監査委員会 機能しない 甘い 遅い 委譲 権限が弱い 会計士団体 監査事務所 PIEの 財務諸表 監査 品質管理の監視 監査品質レビュー情報の提供 監査品質   レビュー 監査業務の監視 品質管理 CPD 登録 懲戒   処分 規制状況   の監視 図3 英国監査品質規制の問題点

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任はBEISの大臣が承認する形で公的な任命と すること,PIE監査を実施する監査事務所の承 認と登録の権限をRSBから返還させること, 監査事務所の監視アプローチは現行の任意の形 から法的権限の対象とすること,そして監査品 質レビューを一層強化することが勧告されてい る(Kingman[2018])。これらCMAの改革案と Kingman氏の改革案を現行の監査品質規制の 構図から入れ替えれば,図4として表されよう。 ⑶ Sikka他の改革案  Sikka他による2つの報告書では,RSBは会 員である会計士や監査事務所の利益提供のため に行動しており,その権限は廃止すべきである, またFRCは規制を行う業界とあまりにも近く なりすぎており,規制の役割を果たすことがで きず,また執行においてはあまりに権限と姿勢 が弱いため,すべての権限を廃止すべきである と主張している。その上で,新たな規制団体と して“Business・Commission”を創設することを 勧告している。Business・Commissionは,政党 の影響が及ばないよう政府部門から独立してお り,議会に対して説明責任を有すること,そし てビジネス法のすべての側面における準拠と執 行を検査する責任を負うこととしている。そし てBusiness・Commissionの下に“Company・Com-mission”をおき,会計および監査を含む会社法 のすべての側面を監督する権限を与えることと している(Sikka・et・al.[2018;2019])。このよ うに,Sikka他の改革案は,全く新しい公的規 制の枠組みを提案するものである。 ⑷ Coffee教授の改革案  英国監査規制に関するさまざまな調査報告書 が公表されるなかで,ほぼ同じ時期に英国の Coffee教授による論文が公表された(Coffee [2019])。本論文の提案は,PIE監査に対する FRCのレビューをより強化し,監査の質のグ レーディングを行ってそのランクに応じて監査 事務所への処分を行うというものである。FRC による監査の質に対する評価は,すでに図1で 示したように「良い」「改善が求められる」そ して「重大な改善が求められる」という3段階 で行われている。このような評価は,監査委員 会の検討の対象となり,そして監査事務所との 議論に結びつくこととなるであろう。  しかし,この構図をより一層拡張し,また低 い格付けに対して懲戒処分を結びつけることに よって効果的な規制となることを彼は主張する。 具体的には,監査人の業務を「優れている」 (excellent),「 満 足 の い く も の で あ る 」 (satisfactory),「不十分である」(deficient), ARGA 〈法的権限を有した規制機関〉 監査委員会 会計士団体 監査事務所 PIEsの 財務諸表 監査 入札の報告要請・オブザーバー 法的権限を有する 監査アプローチ 監査業務の監視 品質管理 CPD 監査品質の   レビュー    の強化 懲戒処分 登録・抹消 図4 キングマン氏が提案する監査品質規制の構図

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および「不合格」(failing)といった評価で複 合的な格付けを用いて格付けの尺度を拡張する こと,そして監査人の監査がたとえば3年間と いったある定められた期間において基準以下の 状況が続く場合には,被監査会社はその監査人 の格付けを公表すること,不合格が続く監査人 に対して強制的な交替を行うこと,監査業務が 不十分なものであった場合には最低限の懲戒処 分として公的にけん責を行うこと,そして事務 所が低い格付けをある定められた回数受けた場 合には,新規クライアントの契約を禁止するこ とが提案されている。

Ⅳ おわりに

 英国監査規制の史的展開を研究するGrodz [2016]は,その論文において監査人と規制と の関係を次のようにまとめている(p.146)。  英国の会計プロフェッションは,長い年 月をかけて自己規制の権限を失っていった。 監査人は高額なコンサルティング業務の役 割を担い,同時に独立性の義務を放棄して いった。会計プロフェッションはますます 商業化し,そして評判に対するダメージは より深刻となった。財務報告の信用を維持 するために,国は厳しい措置を導入し,そ してより監視を強くしていかなければなら なかった。  企業規模が拡大し,商業機会が増大にするに つれて,監査事務所が獲得する収益はますます 成長していった。それに伴い,監査事務所はプ ロフェッショナリズムから商業化・ビジネス化 へとその姿勢が徐々に変わってしまったのかも しれない。英国における規制問題の大きな焦点 の1つとなっているFRCは,そもそも自己規 制機関から拡張された組織であり,その権限や 活動には自ずと限界があったことが指摘された。 また,規制の両輪のもう一方である監査委員会 も,調査報告書においてその有効性に疑念が呈 されている。そして,FRCに代わる確たる法 的権限を有した厳格な規制機関の創設が勧告さ れ,また監査品質規制の一層の強化が現在取り 組まれている。ここで改めて,公的規制と私的 自治のバランスの問題が問われているように思 われる。英国では,公益を保持するために公的 規制が一方的に強化される流れとなっているが, もう一方で会計士のプロフェッショナリズムを 貶めることなく法定監査人の役割と責任を果た すための私的自治について,その両者のバラン スとあるべき姿も模索されるべきであるように 思われる。 《付記》  本稿は,2019年8月4日に日本大学で開催された 日本監査研究学会第42回全国大会の統一論題報告を もとに執筆したものであり,科学研究費・基盤研究(B) MKK852Hによる研究成果の一部である。 [注] ⑴ https://www.icaew.com/membership/cpd/ what-is-cpd/our-guide-to-cpd ⑵ https://www.frc.org.uk/auditors/audit-quality-review [参考文献]

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