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日仏社会学会奨励賞を受賞して

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Academic year: 2021

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日仏社会学会年報 第29号(2018年) 99

日仏社会学会奨励賞を受賞して

吉本 惣一

(横浜国立大学) この度は、日仏社会学会奨励賞に、拙著『蘇る『社会分業論』―デュル ケームの「経済学」―』(創風社、2016年)を選出していただき、誠にあ りがとうございます。経済学を専攻してきたため、本書の内容は「社会学」 とは言い難いにもかかわらず、斯様な賞を賜ることができ大変光栄に思い ます。また、昨今の実学重視の潮流の中、実学とは縁遠い本書を評価して いただいたことは、望外の喜びでございます。荻野昌弘会長をはじめ、選 考委員の先生方に厚くお礼申し上げます。受賞者として、本賞の名に恥じ ぬような研究を残せるよう、今後一層努力していく所存でございます。 通常であれば、ここでは拙著について言及するのが本筋かと思いますが、 拙著に至る過程を中心とさせていただきます。 そもそも、経済学専攻でありながら、なぜデュルケームをテーマにした のか、その発端は学部時代にまでさかのぼります。二十歳前後のころまで に誰しもが一度は考えるように、私もまた、人間とは、人間と動物の違い は一体どこにあるのか、などと考えておりました。一般的にすぐに思いつ くのは、言語の使用、道具や火の使用などですが(あるいは現在であれば 虚構を信じる力)、分業が大きな要因の一つではないかと考えるに至りま した。周知のとおり、『国富論』の第1篇第1章は「分業について」であり、 分業ならば、経済学の観点から分析できるのではないかと感じました。し かし、効率性の観点から分業を捉えるスミスよりも、分業を道徳として捉 えるデュルケームの考えに惹かれ、『社会分業論』を中心に研究していこ うと決意しました。division of labour という言葉を考えるならば、人間と 動物の違いを理性ではなく労働に見たマルクスを選択するという道もあっ �ック 1.indb 99 2018/11/27 15:01

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日仏社会学会年報 第29号(2018年) 日仏社会学会奨励賞を受賞して 100 たはずなのですが、マルクスに興味を持てなかったのは時代故でしょうか。 ほとんどの学部生がマルクスを過去の遺物とみなしていた中で、あえて逆 に「今こそ再びマルクスを読むべき」と考え、大津定美先生のロシア・東 欧ゼミを選択したというのに。当時はまったく気がつきませんでしたが、 今改めて振り返ってみますと、分業に興味を持ち、その流れでデュルケー ムに出会ったのは、大津ゼミで『国富論』第1篇第1章の「分業について」 の報告を担当させていただいたからに違いありません。大津先生には、卒 業後不義理を働いてしまっており、お詫びの言葉もございません…。私の デュルケーム研究の道の最初のきっかけを作って下さった大津先生に、こ の場をお借りしてお礼申し上げます。 少々脱線してしまいました。こうして、浅薄ながら、デュルケーム、特 にその分業に焦点を絞って研究の第一歩を踏み出したわけです。ところが、 当然のことではありますが、修士論文に執りかかるにあたり、『社会分業 論』を経済学と関係づけて読み解いていくのは一筋縄ではいきませんでし た。一筋縄でいかないどころか、スミス、マルクス、デュルケームを分業 という観点から分析した研究などは多少あったものの、それ以外にほとん どつながりを見出せず、一旦『社会分業論』から距離を置くことに致しま した。学部時代に社会学に触れることが全くなく、根本的にデュルケーム についての知識が大幅に不足していたのです。そこで、デュルケームがど のように解釈されているのかを知るために、デュルケームに関する先行研 究を読み、整理していくことに致しました。それと並行して、下地誠先生 の下でゲーム理論を、斎藤純一先生の下でT. H. マーシャルや A. O. ハー シュマンなどを、植村博恭先生の下で比較経済システムを学びました。特 に、植村先生にはB. アマーブル氏や A. オルレアン氏を紹介していただく など大変お世話になっており、感謝の気持ちでいっぱいです。 ただ、私の力不足ゆえ、ご指導いただいた知識を充分消化し活かすこと ができず、結局修士の段階では、(パーソンズの『社会的行為の構造』は デュルケーム解釈において多大な影響を持ったとされていましたが、当時 私が手に入れられた資料を読んだかぎり、その意義はあまり論じられてい なかったため)パーソンズによるデュルケーム解釈はどのように評価/批 判できるのかを(デュルケームにおける社会と個人の関係性について)検 討するところどまりで、『社会分業論』の分析にまで辿りつけませんでし �ック 1.indb 100 2018/11/27 15:01

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日仏社会学会年報 第29号(2018年) 日仏社会学会奨励賞を受賞して 101 た。 博士課程に進み、いざ、もう一度、デュルケームと経済学を結びつけよ うと『社会分業論』にとりかかったわけですが、やはりその糸口はなかな か見つかりません。そもそも、デュルケームと並び、社会学の祖とも言わ れるウェーバーが経済学において様々に言及されているのに対して、デュ ルケームが経済学において言及されることはほとんどなく、管見の限りヒ ントになるような先行研究がほとんど見当たらない状態でありました。 そこで、最初にとりかかったのが、デュルケームが経済、あるいは経済 学をどのように分析していたのかを検討することでした。それが形となっ たのが、拙著の第1部第2章「デュルケームと経済―経済学批判から社会経 済学へ―」です。ワグナーやシュモラーなどのドイツ学派、テンニエス、 イギリス学派など、そして社会主義と自由主義経済学に対するデュルケー ムの分析を整理し、デュルケームの思想を明らかにすることにより、よう やくデュルケームと経済学との間に一筋の光を見出すことができました。 ここから、『社会分業論』をデュルケームの「経済学」の書として読み解 くというアイデアにつながっていきました。また、第1部補論「デュルケー ム『社会経済学』の経済思想史的位置」にて、デュルケームをフランス経 済思想史の中に位置付けることもできるようになりました。フランス経済 思想史の中の位置付けについては、今後より詳細に整理していくことがで きればと考えております。 正直に申しますと、デュルケームと経済学の結びつきがなかなか見出せ ない中、デュルケームを、そして『社会分業論』をテーマに選択したのは 失敗であったかと思う時もありました。もっと流行りものをやるべきでは ないかと。それ故に、この度賜りました日仏社会学奨励賞には大変感慨深 いものがあります。 拙著の詳細な内容、評価につきましては、実際に読んでいただいてご判 断願えればと思いますが、以下に少しだけ。表題に「蘇る『社会分業論』」 とありますように、拙著の大きな目的の一つは、拙著を一つのきっかけと して、『社会分業論』、そして、デュルケームと経済学の結びつきについて 興味関心が注がれ、社会学・経済学両分野から、とりわけ経済学の分野か ら研究がなされるようになることです。近年の行動経済学や幸福研究の進 展は、ある種、ホモ・エコノミカスの行き詰まり、デュルケーム風に言う �ック 1.indb 101 2018/11/27 15:01

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日仏社会学会年報 第29号(2018年) 102 ならば、「経済学と道徳の更新」の端緒と言えるかもしれません。社会学 者故に定式化しなかったデュルケームの「経済学」を明確なものとして析 出すること、あるいは定式化しえない限界を明らかにすることは今後の課 題の一つです。『社会分業論』周辺をより深く検討していくのか、『宗教生 活の原初形態』に代表される後期にまで射程を広げて検討していくのか、 あるいは社会経済学/経済社会学を軸に研究していくのか、種々方向はあ ります。 ここ1、2年、生活環境が一変し研究が余り出来ていない状態なのですが、 本賞を励みに研究を進めていきたいと思います。そして、デュルケームを 足掛かりに、経済学と社会学のマリアージュを目指し、日仏社会学会に少 しでも貢献することができればと考えております。 拙著を出版することができたのは、これまでご指導して下さった先生や 中島道男先生をはじめとするデュルケーム研究会の方々など、多くの人た ちの支えや導きのおかげです。そのご恩に報いることが、この度の受賞で 少しは果たせたのではないかと願っております。全ての人のお名前を挙げ ることはできませんが、最後にお二方だけ、改めましてお礼申し上げさせ ていただきます。 まずは、修士の時より指導教官としてご指導して下さった有江大介先生。 遅々として捗らない私の研究に匙を投げず、貴重な数々の助言をいただき ました。仮にこの度の受賞を誰かに捧げるとするならば、有江先生をおい て他におりません。次に、横浜国立大学OB の鎗田邦男氏。鎗田氏の創設 した横浜国立大学社会科学系80周年記念(鎗田基金)の出版助成により拙 著の刊行が可能となりました。それがなければ、本賞を賜ることもなかっ たわけです。誠にありがとうございました。 �ック 1.indb 102 2018/11/27 15:01

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