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上顎欠損患者の顎義歯装着時・非装着時における発音時口腔内圧と音圧の関係

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Academic year: 2021

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(1)顎顔面補綴 43 巻 2 号,2020. 21(65). 上顎欠損患者の顎義歯装着時・非装着時における 発音時口腔内圧と音圧の関係 小 飯 塚 仁 美. 堀. 一. 浩. 小. 野 高. 裕. Relationship between Intraoral Air Pressure and Sound Pressure during Pronunciation in Maxillectomy Patients with and without Obturator Hitomi KOIZUKA, Kazuhiro HORI and Takahiro ONO Nasal air leakage during pronunciation and eating in maxillectomy patients reduces their quality of life. However, an objective evaluation of the sealing effect of wearing an obturator prosthesis has yet to be established. We aimed to verify the sealing effect of obturators by comparing intraoral air pressure(IAP)and sound pressure(SP)between with and without obturators as well as with healthy people. The participants were seven maxillectomy patients with obturators and 15 healthy young volunteers. IAP was measured by miniature digital atmospheric pressure sensors placed on their palates with denture adhesive. SP was measured using a voice-level meter. Each subject was asked to pronounce the plosive sound /pa/ 10 times. The mean maximal IAP in maxillectomy patients with obturators was significantly higher than that without obturators. Wearing obturators significantly increased IAP. No differences in mean maximal SP were observed among the three groups, i.e. with/without obturators and healthy volunteers. Positive, moderate to strong correlations between IAP and SP were found in the healthy participants and maxillectomy patients without obturators, indicating that IAP was affected by SP. From these results, it was suggested that the sealing effect of obturators could be inferred from the relationship between IAP and SP. Key words : maxillary defect(上顎欠損),intraoral air pressure(口腔内圧),sound pressure level(音圧). Ⅰ.緒  言. の諸問題を生じるため,患者の QOL は著しく低下すると 述べている3).その中でも,発音時の鼻腔からの息漏れは,. 日本における口腔・咽頭腫瘍の罹患者数は年間約 22,000. 発語や発話,発音の明瞭さを低下させ,コミュニケーショ. 人であり,全癌に対する割合は約 2%である1).口腔腫瘍. ン障害の原因となる4,5).. に対する治療の多くは外科的切除が行われ,その結果,咀. 上顎欠損患者は顎義歯を装着し口腔と鼻腔を隔てること. 嚼・嚥下・発音などの機能障害を残存する.上顎腫瘍切除. で機能回復を図るが,顎義歯による欠損部の封鎖は鼻腔か. 術により口腔から鼻腔・副鼻腔へと通じる実質欠損が生じ. らの息漏れを改善するうえで,重要な役割を果たしている.. ると,患者は咀嚼・嚥下・構音の全てにおいて重篤な障害. これまでに,上顎欠損患者において,顎義歯装着により語. 2). を抱える .塩入らも,口腔・鼻・副鼻腔の交通に伴う咀. 音明瞭度や開鼻声,発語速度などが改善することが報告さ. 嚼・嚥下・構音障害などの広範な機能障害ならびに整容上. れている6,7).一方で,不適合な顎義歯装着や,それに起. 新潟大学大学院医歯学総合研究科包括歯科補綴学分野(主任:小野高裕教授) Division of Comprehensive Prosthodontics, Faculty of Dentistry & Graduate School of Medical and Dental Sciences, Niigata University (Chief : Prof. Takahiro Ono) 2020 年 7 月 31 日受付.

(2) 22(66). 顎顔面補綴 43 巻 2 号,2020. 因する構音障害をきたす場合には患者の QOL を低下させ ることも報告されている. 4, 8). .これらの報告は,顎義歯の. 良否が患者の機能回復や QOL に関わることを示しており, その効果を左右する要因の一つとして顎義歯による欠損部. 損であること,軟口蓋に欠損がない者とした.対照は,顎 口腔ならびに発音機能に異常のない若年健常者 15 名(以. 下,健常者群,男性 8 名,女性 7 名,平均年齢 31.8 ± 6.2 歳) とした.. の封鎖性が挙げられる.. 対象者について,診療録より術後経過年数,顎義歯装着. 発音において,口腔内圧を適切に産生することは重要な. 年数,術式,顎欠損範囲を調査したところ,術後経過年数. 点9)であり,上顎欠損患者において顎義歯による鼻腔と口. は 1.7 から 26.1 年,現在使用中の顎義歯装着年数は 0.1 か. 腔の封鎖は,発音時の口腔内圧産生に重要な影響を与える. ら 3.6 年だった.硬口蓋と歯槽部の欠損は,HS 分類13) で. といえる6).. 前方欠損(H5)が 1 名,片側欠損(H4)が 6 名だった.1. 近年のセンシング技術の向上により,小型で安価な大気. 名は上顎欠損部に皮弁移植を受けたが,口蓋正中部に鼻腔. 圧センサが開発10),販売されている.我々は小型大気圧セ. と交通する欠損が残存していた(ID 7).全ての対象者に. ンサを応用し,口腔内で直接口腔内圧を測定する試みを. ついて,軟口蓋に欠損はなく(S0),視診にて軟口蓋挙上. 行ってきた.これまで,発音時の封鎖性の確認にはナゾメー. に障害を認めないことを確認した.. ターなどを用いて,口腔・鼻腔の音響エネルギーの比から. 本研究は,新潟大学歯学部倫理委員会の承認(承認番号. 鼻音化率を測定し,鼻咽腔閉鎖不全による開鼻声につい. 28-R1-4-7)を得ており,対象者には本研究の趣旨および内. 4, 11, 12). て評価したものがほとんどであった. .これに対して,. 容を口頭および文章にて十分に説明し,書面による同意を. 口腔内の気圧変化をもとに顎義歯の封鎖を検討し,加えて,. 得て行った.. 発音時の口腔内圧を指標として,顎義歯の封鎖性を評価し. 2.口腔内圧測定. た報告はこれまでに見られない.そこで,本研究では,小. 口腔内圧は,小型デジタル大気圧センサ(MPL1151A1,. 型大気圧センサを用いて,上顎顎義歯装着患者の発音時の. 5.0×3.0×1.2 mm,Freescale 社)(図 1A)を用いて測定. 口腔内圧を測定し,「顎義歯による欠損部の封鎖性が良好. した.上顎欠損患者は,顎義歯非装着時と装着時において. であれば高い口腔内圧が認められる」という仮説を検証し. 計測を行った.センサは義歯安定剤(タッチコレクトⅡ,. た.さらに,口腔内圧と音圧の関係を分析し,健常者と比. シオノギ製薬社)を用いて口腔内に貼付した.貼付位置は,. 較することにより,顎義歯の封鎖効果を評価する指標とし ての可能性について検討した.. 健常者は口蓋正中線上の切歯乳頭より 15 mm 後方とした (図 1B).上顎欠損患者は健常者に準じた位置とし,顎義 歯非装着時は健側硬口蓋に,装着時は顎義歯研磨面の口蓋. Ⅱ.研究方法. 部とした.測定の前後に,口腔内圧キャリブレーション用. 1.対象者. の電気信号(90︲110 kPa)を入力し,採得された気圧デー. 対象者は,上顎腫瘍切除術後に顎義歯を装着した患者 7. タは,キャリブレーション信号と共に,データ処理機を介. 名(以下,上顎欠損患者群,男性 6 名,女性 1 名,平均年. して AD コンバータ(U3-HV, LabJack 社)でデジタル化し,. 齢 69.0 ± 16.1 歳)(表 1)とした.選択基準は,2015 年 2. サンプリング速度 1,000 Hz で PC に記録した.. 月から 4 月の 2 か月間に新潟大学医歯学総合病院義歯診療. 3.音圧測定. 科に外来受診しており,術後 1 年以上経過し,顎義歯装着. 口腔内圧測定と同時に,普通騒音計(NL-26,RION 社). 後初期の調整を終えている者とした.また,患者の主観的. を用いて音圧測定を行った.測定場所は静粛な部屋とし,. に咀嚼・嚥下障害がなく,HS 分類の H4 以上の硬口蓋欠. 対象者を,部屋の中央に,頭部を固定しない状態で椅子に. 表 1 上顎欠損患者群 Table 1 Status of maxillectomy patients ID. 性別. 年齢. 術後経過 年数. 顎義歯 装着後年数. 術式. 1 2 3 4 5 6 7. 男 男 男 男 女 男 男. 37 79 75 82 80 59 71.  3.7 26.1  4.5  4.1  7.7  6.3  1.7. 3.6 3.1 3.3 2.0 0.7 0.1 0.4. 両側上顎骨部分切除術 左側頸部郭清術 RT 右側上顎骨部分切除術 右側上顎骨部分切除術 右側上顎骨部分切除術 両側頸部郭清術 RT 左側上顎骨部分切除術 皮膚移植術 右側上顎骨部分切除術 皮膚移植術 RT 左側上顎骨全摘術 腹直筋皮弁移植術. HS 分類 H 分類. S 分類. 5 4 4 4 4 4 4. 0 0 0 0 0 0 0.

(3) 上顎欠損患者の発音時口腔内圧. 23(67). 図 1 小型デジタル大気圧センサ(A)と,センサを貼付した口腔内写真(B) Fig. 1 Ultra-small digital atmospheric pressure sensor(A)and intraoral view with the attached sensor(B). 図 2 測定風景(A)と騒音計(B) Fig. 2 Scene of measurement(A)and image of sound level meter(B). 座らせた.騒音計は対象者の正面に設置し,マイクロホン. だけ大きい声の 3 つの声の大きさについてそれぞれ 2 回程. から口唇までの距離を 30 cm とした(図 2A).マイクロ. 度の練習を行った.測定は,騒音計や口腔内圧の測定モニ. ホンには防風スクリーン(WS-10,RION 社)を取り付け,. タが対象者に見えないようにして行った.発音タイミング. 測定モードは,周波数重み特性を A 特性,時間重み特性. と声の大きさは,1 回の発音ごとに測定者が指示した.発. を Slow とした(図 2B).測定は,静粛な部屋で行ったた. 音の指示は,3 つの声の大きさが含まれるように,小さい. め空調や風の影響は少ないが,可能な限り影響を除外する. 声(50 ~ 60 dB),普段の声(65 dB 前後),大きい声(75 dB. ため防風スクリーンを併用した.さらに 30 cm 距離をと. 以上)を目安に測定者が発音状況を判断して 10 回の発音. ることで呼気の影響を減らすように配慮した.音圧データ. を指示した.さらに,同じ声の大きさが連続しない様にし,. は,発音の音声と共に騒音計の表示画面をビデオカメラで. 明確に声の大きさが異なるように指示した.. 撮影し記録した.. 5.データ分析および統計解析. 4.測定タスク. 測定で得られた口腔内圧データは,波形解析ソフト. 発音は,歯列状態,舌の可動状態の影響を受けにくく,. (Spike2 version6,CED 社)を用いて分析した.まず,キャ. 構音時に舌と口蓋の接触が無く,発音に際して口唇閉鎖に. リブレーション信号を元にデータを kPa 単位に換算した. より口腔内で圧力産生が行われるものとし,破裂音である. (図 3A).次に,フーリエ変換を行い,得られたパワース. /pa/ 発音とした.顎義歯の有無による口蓋形態の変化や,. ペクトルより,50 Hz にて Low pass filter を適応し波形. 歯・人工歯の影響を少なくするために,両唇音を選択した.. を整えた.個々の /pa/ 発音時波形を選出し,最大振幅と. また,舌がセンサに接触することによるアーチファクトを. Baseline の差を口腔内圧として算出した(図 3B).Base-. 抑えるために,低舌位母音を選択した.. line 値は /pa/ 発音時波形の前方で基線が安定している 0.5. 測定前に,楽に発音できる普段の声,小さい声,できる. 秒間の平均値とした.音圧データは,音圧測定時の動画を.

(4) 24(68). 顎顔面補綴 43 巻 2 号,2020. もとに各 /pa/ 発音時の音圧を記録した. 発音時波形は,大きい声が最も明瞭な波形となった.ま た,上顎欠損患者では大きい声が測定者の指示に対して安. め,3 群を比較した(図 4A).最大口腔内圧の平均(±SD)は, 健常者群は 1.5 ± 0.7 kPa,上顎欠損患者群の顎義歯非装着. 時は 0.9 ± 0.7 kPa,顎義歯装着時は 2.0 ± 0.9 kPa だった.. 定して発音できていたことに対して,小さい声や普段の声. 上顎欠損患者群の顎義歯非装着時は,健常者群との有意差. では,音圧にバラつきがあった.そのため,口腔内圧と音. は認められなかったが,顎義歯装着により口腔内圧は有意. 圧の最大値を代表値として選択し比較を行った.対象者ご. に増加した.上顎欠損患者群は,顎義歯装着により全ての. とに 10 回分の発音データから口腔内圧と音圧の最大値を. 対象者の最大口腔内圧が増加した(図 4B).顎義歯装着に. 選択し,健常者群と上顎欠損患者群の顎義歯装着時・非装. よる口腔内圧の増加量は,最少で 0.4 kPa,最大で 1.6 kPa. 着時の 3 群に対して,一元配置分散分析を行った.有意差. となり,患者による個人差を認めた.. が認められた場合には Tukeyʼs post hoc test を用いて多. 2.最大音圧. 重比較検定を行った.また,上顎欠損患者群における顎義. 最大音圧の平均は,上顎欠損患者群の顎義歯非装着時で. 歯の有無に対して paired t-test を用いて比較した. さらに,各対象者において 10 回分の発音データをもと に,口腔内圧と音圧の関係をピアソンの相関係数を用いて. 83.1 ± 7.0 dB,顎義歯装着時は 83.8 ± 6.5 dB,健常者群は. 83.9 ± 2.5 dB であった(図 5A).3 群間において有意差は 無く,上顎欠損患者では顎義歯装着の前後で有意差を認め. 検定し,その関係における回帰式を算出した.統計解析は. なかった.患者ごとの比較は,顎義歯の装着により最大で. SPSS 20.0J(IBM)を用い,有意水準を 5%とした.. 4.2 dB 増加,最小で 3.5 dB の減少となり,変化量は少なく,. Ⅲ.結  果. ほぼ同じ大きさだった(図 5B). 3.口腔内圧と音圧の関係. 1.最大口腔内圧. 音圧と口腔内圧の関係を明示するため,対象者ごとに散. 各対象者の最大口腔内圧より,各群において平均をもと. 布図を作成した.図 6 に健常者と上顎欠損患者の顎義歯の. 図 3 /pa/ 発音時口腔内圧波形例(A:全波形,B:1 回発音) Fig. 3 Sample waveform of intraoral air pressure during /pa/ pronunciation(A:entire procedure, B:one pronunciation). 図 4 最大口腔内圧(A:各群における平均 ± SD,B:上顎欠損患者群における個別最大口腔内圧) Fig. 4 Maximal intraoral air pressure(A:mean ± SD, B:individual values in maxillectomy patients).

(5) 上顎欠損患者の発音時口腔内圧. 25(69). 図 5 最大音圧(A:各群における平均 ± SD,B:上顎欠損患者群における個別最大音圧) Fig. 5 Maximal sound pressure(A:mean ± SD, B:individual values in maxillectomy patients). 図 6 口腔内圧と音圧の関係(A:健常者の一例(34 歳女性),B:上顎欠損患者群の一例(ID6,顎義歯非装着時), C:上顎欠損患者群の一例(ID6,顎義歯装着時)) Fig. 6 Relation between intraoral air pressure and sound pressure(A:sample of a control subject(34-year-old female), B:sample of a maxillectomy patient(ID6, without obturator), C:sample of a maxillectomy patient(ID6, with obturator). 有無についての散布図をそれぞれ代表例として示す.散布. 相関が弱くなるグループ B(ID 2,4,7)の 2 つに分けら. 図をもとに,線形近似を行い回帰式と傾きを算出し,その. れた.グループ A は,相関係数が最大 0.907,最小 0.806. 傾きの違いを検討した.合わせて,口腔内圧と音圧の相関. と強い相関関係となったが,グループ B は最大 0.457,最. 関係を算出し検討を加えた.健常者,上顎欠損患者の顎義. 小 0.220 となり相関関係は弱くなった.さらに,強い相関. 歯非装着時と装着時の 3 群は,いずれも口腔内圧と音圧の. 関係を維持したグループ A は回帰式の傾きが大きくなっ. 回帰式は正の傾きであった.そのため,大きな声で発音す. たが,相関関係が弱くなるグループ B の回帰式の傾きは. る際は口腔内圧の上昇を認めた.. 小さくなった.. 散布図より得た相関係数と回帰式の傾き(表 2)より, 健常者の相関係数は平均 0.771 ± 0.144 で中等度から強い. Ⅳ.考  察. 相関関係を認めた.また,上顎欠損患者群の顎義歯非装着. 上顎腫瘍切除などの理由による上顎欠損患者において,. 時は,相関係数が最大 0.859,最小 0.723 で,いずれも中. 顎顔面補綴治療はその機能回復や社会復帰のために必要不. 等度から強い相関を示した.一方で,顎義歯装着時は,強. 可欠なものである14,15).顎義歯の適合性や栓塞部の封鎖性. い相関関係を維持するグループ A(ID 1,3,5,6)と,. は,発音や嚥下機能に影響を与えており,封鎖性が悪いと.

(6) 26(70). 顎顔面補綴 43 巻 2 号,2020 表 2 口腔内圧と音圧との関係(健常者群は平均値 ± SD) Table 2 Relation between intraoral air pressure and sound pressure(for the control subjects, the value is the mean ± SD of all control subjects) ID 1 2 3 4 5 6 7. 相関係数. 回帰式傾き. 顎義歯-. 顎義歯+. *. 顎義歯-. 顎義歯+. 0.018 0.011 0.065 0.047 0.015 0.019 0.028. 0.044 0.004 0.084 0.027 0.053 0.066 0.016. *. 0.810 0.740* 0.859* 0.836* 0.726* 0.723* 0.840*. 0.907 0.220(p = 0.244) 0.841* 0.457* 0.896* 0.806* 0.270(p = 0.240) 0.771 ± 0.144. 健常者群平均. 0.033 ± 0.020 (*:p < 0.05 Peasonʼs correlation coefficient test). 鼻腔への食塊の侵入や開鼻声による発語の不明瞭さが起こ. ことより,顎欠損状態でも発音の明瞭さや構音の正確さと. る.今回,我々は小型大気圧センサを用いて発音時の口腔. は別に,健常者と同等の音圧の発生が可能だと確認できた.. 内圧を口腔内で直接測定する試みを行い,健常者および上. しかし,最大口腔内圧と最大音圧において 3 群間の測定値. 顎欠損患者における発音時の口腔内圧と音圧の変化につい. の比較からでは,顎義歯の封鎖効果の有無の推定にとどま. て検討した.. り,口腔内圧もしくは音圧だけの評価では,顎義歯の封鎖. これまで顎義歯の封鎖性に関する検討として,発音時や. 効果を評価するには不十分であると思われた.. 嚥下時における呼気や液体の鼻腔への漏出が評価されてき. そこで,我々は顎義歯装着前後による相関係数と回帰式. 16︲18). た.発音時に関しては,アンケート調査. 19, 20). ,鼻息鏡. ,. の傾きの変化に着目し,上顎欠損患者を 2 つのグループに. ナゾメーター4,11,12,21),呼気流量トランスデューサ22)など. 分けた.一般に,両唇破裂音の産生時においては,両口唇. による評価が行われている.今回用いた大気圧センサは小. の閉鎖と鼻咽腔閉鎖により一時的に口腔内圧が高まる24).. 型であるためセンサ装着時の対象者への拘束が少なく,口. グループ A においては,口腔内圧と音圧との間に中等度. 蓋に貼付するのみと比較的簡便である.加えて,直接,口. から強い相関関係が認められたことから,口腔内圧の増減. 腔内圧の測定ができるという利点を有している.また,本. によって音圧は安定的かつ効率的に調整されているものと. 研究では普通騒音計を使用して音圧の測定が可能であった. 考えられた.なお,顎義歯非装着時には,両口唇と鼻咽腔. ことから,無響室や防音室といった特別な環境を必要とし. の閉鎖は良好であったとしても,顎欠損により破裂音発音. ないことも利点と考えられる.. 時に呼気は鼻腔もしくは副鼻腔へ流出する.しかし,顎義. まず,健常者と上顎欠損患者の顎義歯非装着時の最大口. 歯非装着時においても,口腔内圧と音圧の間に弱い正の相. 腔内圧に有意差を認めなかった.このことより,顎欠損状. 関関係(図 6B)が認められたのは,音圧を増加させるた. 態により発音の明瞭さや構音の正確さが低下し,鼻からの. めに代償的に呼気量を増加させた25,26) ことによるものと. 息漏れが生じていても,健常者に近い口腔内圧を発現する. 考えられる.. ことが可能であることを確認した.次に,最大口腔内圧に. 一方,グループ B では,顎義歯装着によって口腔内圧. おいて,上顎欠損患者は顎義歯装着により有意に口腔内圧. は増加したものの,音圧との相関係数は弱くなり,回帰式. が上昇し,顎義歯による封鎖効果が確認された.すべての. の傾きも小さくなった.このことは,顎義歯による封鎖効. 上顎欠損患者において顎義歯装着時に口腔内圧は上昇して. 果が低いために音圧に対する口腔内圧の発生が不安定かつ. いたが,その上昇量は 0.4 kPa から 1.6 kPa にわたってお. 非効率的であることを示しており,その背景因子として,. り患者による個人差がみられた.これは,顎欠損の形態や. 破裂音発音時に口腔および口腔周囲器官の動きにより生じ. 口腔周囲器官の可動性の違いによって鼻腔への呼気流出量. た顎義歯との隙間,もしくは顎義歯そのものの動揺によっ. が異なることに加えて,顎義歯の封鎖効果の違い. 12, 23). が. て生じた隙間など,目視不可能な隙間からの圧力漏れの. あったためと考えられる.一方で,最大音圧の平均は,3. 関与が推察される.今回グループ B に含まれる 3 症例は,. 群のいずれの間にも有意差を認めなかった.健常者,上顎. 栓塞部が適合不良のため再製作途中であったもの(ID 2),. 欠損患者の顎義歯の有無による声の大きさに差が無かった. 開口量が著しく少なく栓塞部の高径が低いもの(ID 4),.

(7) 上顎欠損患者の発音時口腔内圧. 右側上顎骨全摘出後に腹直筋皮弁による再建が行われたが 一部に鼻腔との交通を残しており,皮弁が過度に厚く可動 性に富んでいたもの(ID 7)が含まれており,これらの影 響により,顎義歯による封鎖効果が低いと考えられた.以 上,グループ A と B の差異から,口腔内圧と音圧の相関 関係と回帰式の傾きの変化によって,顎義歯の封鎖効果を 推測する可能性があると考えられた. 本研究の限界として,対照群として若年健常者を用いた ことが挙げられる.口腔腫瘍の好発年齢は 60 代から 70 代 であり,本研究での上顎欠損患者群の平均年齢は 69 歳で あったことから,対照群として健常高齢者における口腔内 圧の測定と比較についても検証が必要と考えられる.また, 内視鏡検査による鼻咽腔閉鎖機能の評価や動的状況での適 合診査が必要であると思われた.今回の研究では,主観的・ 客観的なものを含めて顎補綴治療の最終的なアウトカムで ある発語の明瞭性に関する評価を行っていない.特に,呼 気漏出による音声変化に感度が高いとされるサウンドスペ クトログラム27︲29)と口腔内圧との関係について検討が必要 と思われる.被験音についても,顎義歯の有無や口蓋形態, 歯・人工歯の影響や,舌とセンサの接触によるアーチファ クトを考慮し,両唇音かつ低舌位母音を選択したが,後続 母音の違い,他の単音についても検討が必要と思われる. さらに,不適合な顎義歯が装着されていた場合には臨床 的に粘膜調整材や義歯裏装材(リライン材)などを用いて 栓塞子部を調整する手法がとられる.このような顎義歯の 調整や製作の前後で封鎖性の比較を行い,治療効果を検出 しうるかどうかを検証する必要がある.これらの検証に加 えて,適合性を評価するためのカットオフ値や具体的基準 については,今後の課題としたい. Ⅴ.結  論 上顎欠損患者は,顎義歯装着の有無にかかわらず /pa/ 発音時の最大音圧と最大口腔内圧において,健常者との間 に有意差を示さなかったが,顎義歯装着により口腔内圧が 有意に増加した.このことから,発音時の口腔内圧と音圧 には相関関係があり,顎義歯の装着により相関が変化し, 相関係数と回帰式の傾きの変化より,顎義歯の適合性によ る封鎖効果について推測する可能性が示唆された. 謝辞:稿を終えるにあたり,本研究を遂行するに際し,多大な る御教授をいただきました小林 博先生,山田好秋先生に心 より深謝いたします.本研究は科学研究費補助金(若手研究 18K17115)の支援を受けて行われた.本稿の内容は第 32 回日 本顎顔面補綴学会学術大会(2015 年 6 月,東京)にて発表した.. 本論文に関し,開示すべき COI 関係にある企業などはない.. 27(71). 文. 献. 1)政府統計の総合窓口(e-Stat)「全国がん登録 全国がん登録 り患数・率 都道府県一覧 罹患数・率 年次 2017 年口腔・咽 頭」.https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&la yout=datalist&toukei=00450173&bunya_l=15&tstat=00000 1133323&cycle=7&year=20170&month=0&tclass1=0000011 33363&tclass2=000001133368&tclass3=000001133369&stat_ infid=000031941937&result_back=1 (2020 年 7 月 25 日) 2)Vickery, L. E., Latchford, G., Hewison, J., et al : The impact of head and neck cancer and facial disfigurement on the quality of life of patients and their partners. Head Neck 25: 289︲296, 2003. 3)塩入重彰,村上和裕,秦 正樹,他:上顎欠損患者において 顎義歯は外科的再建よりも機能回復に有用か?.顎顔面補綴 42:18︲23,2019. 4)Rieger, J. M., Wolfaardt, J. F., Jha, N., et al : Maxillary obturators : the relationship between patient satisfaction and speech outcome. Head Neck 25:895︲903, 2003. 5)Mikamo, S., Kodama, N., Pan, Q., et al : Effect of nasal speaking valve on speech intelligibility under velopharyngeal incompetence : a questionnaire survey. J Oral Rehabil 42: 136︲143, 2015. 6)Sullivan, M., Gaebler, C., Beukelman, D., et al : Impact of palatal prosthodontic intervention on communication performance of patientsʼ maxillectomy defects : a multilevel outcome study. Head Neck 24:530︲538, 2002. 7)Kumar, P., Jain, V., Thakar, A., et al : Effect of varying bulb height on articulation and nasalance in maxillectomy patients with hollow bulb obturator. J Prosthodont Res 57: 200︲205, 2013. 8)Depprich, R., Naujoks, C., Lind, D., et al : Evaluation of the quality of life of patients with maxillofacial defects after prosthodontic therapy with obturator prostheses. Int J Oral Maxillofac Surg 40:71︲79, 2011. 9)Mayo, R., Warren, D. W., Zajac, D. J. : Intraoral pressure and velopharyngeal function. Cleft Palate Craniofac J 35:299︲ 303, 1998. 10)Ono, T., Hori, K., Masuda, Y., et al : Recent advances in sensing oropharyngeal swallowing function in Japan. Sensors 10:176︲202, 2010. 11)Dalston, R. M., Seaver, E. J. : Nasometric and phototransductive measurements of reaction times among normal adult speakers. Cleft Palate J 27:61︲67, 1990. 12)Rieger, J., Wolfaardt, J., Seikaly, H., et al : Speech outcomes in patients rehabilitated with maxillary obturator prostheses after maxillectomy : a prospective study. Int J Prosthodont 15:139︲144, 2002. 13)Keyf, F. : Obturator prostheses for hemimaxillectomy patients. J Oral Rehabil 28:821︲829, 2001. 14)高端泰伸:上顎欠損補綴患者の発音機能.大阪大学歯学雑誌 31:97︲117,1986. 15)Sapienza, C. M., Brown, W. S., Williams, W. N., et al : Respiratory and laryngeal function associated with experimental coupling of the oral and nasal cavities. Cleft Palate Craniofac J 33:118︲126, 1996. 16)Irish, J., Sandhu, N., Simpson, C., et al : Quality of life in patients with maxillectomy prostheses. Head Neck 31:813︲ 821, 2009. 17)堀 一浩,小野高裕,耕田英樹,他:上顎顎義歯装着者の 発話に対する満足度に影響を及ぼす因子.顎顔面補綴 26: 47︲54,2003. 18)Bettens, K., Wuyts, F. L., De Graef, C., et al : Effects of age and gender in normal-speaking children on the nasality.

(8) 28(72). 顎顔面補綴 43 巻 2 号,2020. severity index : an objective multiparametric approach to hypernasality. Folia Phoniatr Logop 65:185︲192, 2013. 19)緒方祐子,中村典史,菊田るみこ,他:口蓋裂における鼻息 鏡による検査での動作別鼻咽腔閉鎖機能の解析 鼻咽腔閉鎖 機能不全の病態に基づく治療指針の試み.日本口蓋裂学会雑 誌 32:273︲282,2007. 20)Prunkngarmpun, C., Sumita, Y. I., Taniguchi, H. : Three Monosyllables for Standard Words in Nasometer Test : To Evaluate Air Leakage in Maxillectomy Patients. 日本補綴歯 科学会雑誌 52:507︲512,2008. 21)中村康典:上顎切除患者の鼻咽腔閉鎖運動ならびに構音に関 する研究.日本口腔科学会雑誌 48:304︲321,1999. 22)Davison, S. P., Sherris, D. A., Meland, N. B. : An algorithm for maxillectomy defect reconstruction. Laryngoscope 108: 215︲219, 1998. 23)Inoue, M. S., Ono, T., Honda, E., et al : Characteristics of movement of the lips, tongue and velum during a bilabial plosive : a noninvasive study using a magnetic resonance. imaging movie. Angle Orthod 77:612︲618, 2007. 24)鯨井和朗,大石公直,岩村節子:最近開発された発声機能検 査装置(PS-77)の使用経験.音声言語医学 23:174︲183, 1982. 25)岩田重信,竹内健二,岩田義弘,他:空気力学的にみた発声 機序 声の強さの調節.音声言語医学 36:14︲21,1995. 26)Chen, C., Ren, W., Gao, L., et al : Function of obturator prosthesis after maxillectomy and prosthetic obturator rehabilitation. Braz J Otorhinolaryngol 82:177︲183, 2016. 27)大谷俊一,山県健佑:上顎切除後の顎義歯装着患者の破裂音, 弾音の発音機能評価法.日本補綴歯科学会雑誌 38:155︲ 167,1994. 28)中野良信,小野克己,島原政司,他:上顎・口蓋欠損患者の 調音障害に関する研究.日本口腔外科学会雑誌 27:313︲ 324,1981. 29)Wang, R. R., Hirsch, R. F. : Refining hollow obturator base using light-activated resin. J Prosthet Dent 78:327︲329, 1997..

(9)

Table 1 Status of maxillectomy patients
Fig. 1  Ultra-small digital atmospheric pressure sensor (A) and intraoral view with the  attached sensor (B)
Fig. 3 Sample waveform of intraoral air pressure during /pa/ pronunciation (A:entire procedure, B:one pronunciation)
Fig. 5 Maximal sound pressure (A:mean ± SD, B:individual values in maxillectomy patients)

参照

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