入学前英語教育について考える
宇佐美 彰規
推薦入試やアドミッション・オフィス(AO)入試など多様な入試形態から の大学合格者を対象とした入学前教育を実施する事例は、多く紹介されている。 日本リメディアル教育学会が実施したアンケートによると、入学前教育は私立 大学と私立短期大学では約80%、国立大学でも70%に達する大学が実施してい る(穗屋下他 2012)。そこでは、学力試験に依拠しない幅広いバックグラウ ンドを持つ学生への教育支援が行われ、高等学校での教育課程の違いだけでな く、多様な学生の学習履歴から生じる基礎学力の欠如を補完する役割が含まれ ている。本稿では、2012年度から2014年度まで 3 年間行われた入学前教育の実 践と、通学型の入学前教育を修了した受講生アンケート調査から得られた意見 を検証し、入学前教育の意義について論ずる。I.入試の多様化とそれに伴う問題点
学力偏重という単片的な入試方法から幅広い評価方法が大学入試に求められ たのは1990年代である。後に1999年の中央教育審議会の答申以降、受験生の学 習態度や入学意欲、そして際立った技能や能力などを多面的に評価することで 合否を決定する入試方法が、全国的に取り入れられるようになってきた。こう した入試方法の多様化や評価尺度の多元化の流れは、2008年の中央教育審議会 答申「学士課程教育の構築に向けて」の報告では、推薦入試や AO 入試を含め た早期入試合格者は50%近くの割合を占めている。2012年の同審議会報告にお いても、私立大学の入学者における約半数が AO 入試と推薦入試で合格して入 学している。一定の学力を有しているという前提において、学生の主体性や個 性が重要視され、多面的評価で合格した学生が半数近くになるという現実であ る。こうした多様な評価方法の実施は、帰国子女や社会人、さらには文化・芸 術分野、スポーツ分野で秀でた能力を持つ学生に大学入学の門戸を開くことに もつながっている。多様性を持つキャンパスを目指す大学にとって、豊かな才能や個性そして価値観を有するたくさんの学生が集う学習環境を創出する事と なる。 しかしながら、多彩な人材を求める入試方法は、問題が生じていることも指 摘されている。一つ目は、高等教育課程や学習状況の違い、履修選択科目の多 様化が、学生間の学習履歴の差を浮き彫りにし、数学や英語などの基礎科目に おいて学力のばらつきが見られる。山岡(2015)は、推薦入試や AO 入試で入 学する学生たちの入学直後の基礎学力診断テストの結果として、一般入試合格 者の成績と比較した学力差を報告している。多様な入試改善の施策を推奨した 中央教育審議会も、後年には「推薦入試や AO 入試における外形的・客観的な 基準が乏しく、事実上の学力不問となるなど、本来の趣旨と異なった運用がさ れているのではないかとの懸念」(p.30)を示し、推薦入試や AO 入試をめぐ る状況は、大学側も学力担保に課題を感じていることを指摘している。 二つ目は、推薦入試や AO 入試合格者が、卒業までの 3 、 4 ヶ月を残して合 格が決定するという問題である。例年 2 ~ 3 月に行われる一般入試の合否判定 と比べて、 3 ヶ月ほど早い段階で大学合格という最終結果を受け取る学生に とって、その後の学習意欲と学習習慣を維持することは難しい問題である。高 等学校の履修内容や成績評価の在り方が多様化した現在、吉岡(2013)が指摘 するように、学力不問という選抜方法と相まって、進学する目的意識の希薄化 と学習意欲が低下した学生を受け入れることになる。
II.入学前リメディアル教育の必要性
これまで述べてきた大学入試の現状に対して、大学では高等学校での履修状 況を把握するとともに、入学後の学力確保を見据えた取り組みが行われている。 中央教育審議会(2008)が発表した「学士課程教育のあり方」に関する提唱で は、大学教育を受けるに足る学生の能力・適性を見極めて、学生に対して必要 に応じた補習教育等の配慮を適切に行うことを推奨している。その取り組みの 一つが、基礎的な学力を身につけさせることを目標として補習的に行われるリ メディアル教育である(合田 2011)。背景には、大学 1 ・ 2 年生の必修科目で ある英語に関しては、学力試験を受けないで入学する学生の増加がある。さらには、少子化社会を迎えて、「大学全入時代」と謳われる社会情勢の変化や入 試方法の多様化において、英語履修が極めて限定された専門課程から入学する 学生がいることも関係している。 新入生の英語力を調査した杉野(2010)による「英語学力実態」では、入学 時に実施される英語クラス分けテストとその後の学生の学習経過が検証された。 受験者全体の平均点を基準値とした場合、推薦入試や AO 入試などの早期入試 合格者の平均点は下回る傾向であった。そして、入学前と入学後における学力 の経年変化をみると、基礎学力不足というカテゴリーに帰属した早期入試合格 者は、語彙、文法に関する知識が不十分な状態で停滞し、 1 年後もリーディン グとリスニングの理解力につながっていないという結果であった。英語テスト の低得点層の学生たちは、高等学校卒業までに、英語学習の習慣・訓練が不足 していた学習履歴(佐藤他2007)が考えられる。 それでは、リメディアル教育はどのタイミングで実施されるものであるのか。 穗屋下他(2012)による大学へのアンケートによると、AO 入試や推薦入試で 入学してくる学生を対象としたリメディアル教育は、合格発表から大学入学ま での数ヶ月間に実施される場合が多いことが報告されている。入学直後には、 新しい大学生活に慣れていくことや一般教養科目といった授業が始まり、高等 学校の授業とは違う学習スタイルが要求される。そして、大学入学後の新生活 において、新たな人間関係を構築し、高校生までとは違った課外活動を経験し ていくことになる。新入生オリエンテーションなども含めたスケジュールにお いては、基礎学力の補習時間を確保するなどのリメディアル教育の実施が難し くなるのは明らかである。 こうした入学前に実施されるリメディアル教育の目的として、ベネッセ教育 総合研究所が行った「高大接続に関する調査」(2014)によると、「入学までの 学習習慣の維持」が入学前教育の狙いとして最上位となっている。次に「高校 までの基礎学力の補強・向上」、そして「大学での学びへの動機づけ」という 結果である。また、入学までの時間を利用する入学前教育では、山田(2013) は学習者の学習の質を高める教育を行うこともその役割があると検証している。 牧野(2016)は、英語リメディアル教育を受ける学生には、学習意欲を高めな がら、英語学習に対する学生自身の自信を持たせることの重要性を主張し、さ らに入学前教育の基礎力補強という面では、奥羽(2013)が示唆するように、
大学教育を受ける準備だけでなく、大学レベルまでに到達していない基礎的な 学力を確保することが大切である。
III. 3 年間のリメディアル英語教育の実践
関西圏にある私立大学での新入生を対象とした入学前のリメディアル英語教 育の実践概要を述べていく。下記の表 1 は、2013年度に開講された入学前教育 の英語講座一覧である。入学前の英語講座は、基礎学力の定着を目指す講座や 高等学校までの総復習といった内容構成となっている。講座の受講形式は、通 信講座、e- ラーニング、通学型講座となっており、すべて有料である。その ため、受講希望の早期入試合格者は、講座を任意選択し、受講申し込みを行う。 表 1 2013年度 入学前学習講座 英語科目例 講座名 授業形態 ブリッジ英語 通学型 基礎英語講座 (旧課程「英語Ⅰ」新課程 「コミュニケーション英語Ⅰ」) 通信添削 基礎英語講座 (英語Ⅱ) 通信添削 Practical English 6 e- ラ-ニング (山岡憲史(2015) 「接続教育支援センターにおける入学前教育の到達点」よ り英語科目を抜粋) 3.1 通学型ブリッジ講座について 本稿でのブリッジ英語(講座名称)は、中学レベルの英文法や語彙から始め る英語学習講座として設置された。受講生一人ひとりの学力把握ときめ細やか な丁寧な指導を目指し、大学入学前の春休みを利用して、中学から高校までの 英語基礎を学び、学習意欲を喚起することが目標であった。 受講生となる早期入試合格者は、所要時間30分程の基礎学力診断テスト(英 語)を各自で行い、自己採点結果から判断して受講する講座である。診断テス トに関しては、高校 1 ・ 2 年生レベルの文法・語彙・リーディング力の到達度を測る試験ではあったが、明確な得点基準が設けられて、本講座を受講するわ けではなかった。当然ながら、受講生は低得点層の学生が半数以上であったが、 大学授業への強い不安感から受講した学生も見受けられた。 3.2 ブリッジ講座のクラス概要 ( 1 ) 時期:2012・2013・2014年 2 月後半~ 3 月前半の合計 5 日間 入学前ブリッジ講座は、早期入試合格者が、残りの高校生活を無為に過ごす のではなく、入学前の段階で基礎学習を仲間と共に通学して学ぶことに意義を 持たせた。こうした入学前の貴重な時間を活用することは、通学型である点か ら、卒業式などの学校行事を考慮に入れる必要がある。そこで、 3 年間の取り 組みでは、 2 月最終週の通学可能となる週末と卒業式後の平日を利用して、合 計 5 日間の授業を受ける体制が取られた。 ( 2 ) 時間割: 1 - 3 限・ 1 時限 60分授業構成 授業時間に関しては、高等学校を終了する段階であり、また苦手科目である 英語学習に対する受講生の情意面が考慮された。つまり、早期入試合格者の学 習習慣の定着の手段として、一方では早期合格を手にした学生の集中力の持続 と学習意欲を阻害しない時間として、一時限を60分に設定された。(表 2 参照) 表 2 1 日のスケジュール(2012-2014) 1 限(60分) 11:00 ~ 12:00 昼食 12:00 ~ 13:00 2 限(60分) 13:00 ~ 14:00 休憩(10分) 14:00 ~ 14:20 3 限(60分) 14:20 ~ 15:20 質問タイム(予備) 15:20 ~ 15:40 ( 3 )ブリッジ講座の使用教科書: これまでに述べてきたように、中学英語の総復習から始め、大学入学までに 身につけておきたい文法力を系統的に学習することが目標であった。また、英 文法を中心としながらも、大学授業への橋渡しの役割として、リスニング力や
スピーキング力の必要性に触れさせる狙いもあった。家庭学習の自学自習や音 読練習なども検討され、副読書を取り入れた下記①、②、③の教材が活用された。
①「ユアーズ演習ノート英語Ⅰ」(三友社)(文法学習用) ②「In search of the Miracle Sound」(三友社)(音読学習用) ③リスニング:授業時に配布するプリントを使用 3.3ブリッジ英語-カリキュラム 中学校レベルを含めた基礎学力の定着という観点から、英文法の復習を中心 にしたカリキュラムが考えられた。(表 3 参照)その中には、リーディング教 材を利用した音読練習や英検 2 ・ 3 級レベルのリスニング教材を利用して平易 な会話文やナレーションを的確に聞き取る練習時間も取り入れられた。 表 3 2012年度~2014年度 授業計画例(合計15コマ) 1 日目 1 限 学力診断テストの文法部分の解説(30分) オリエンテーション、自己紹介 2 限 時制(説明、問題演習) 3 限 to 不定詞 2 日目 4 限 宿題のチェック、解説(20分)、動名詞(40分) 5 限 受動態 6 限 Reading( 1 ) 3 日目
7 限 Reading( 2 ) Slash Reading
8 限 現在完了( 1 )
9 限 現在完了( 2 )
4 日目
10限 Listening( 1 )英検 3 級程度 11限 Listening( 2 )英検準 2 級程度、他
12限 Speaking( 1 )(基本的な単語の発音練習) (Reading の教科書を使って) 5 日目 13限 Speaking( 2 ) 音読練習 14限 分詞の用法(50分)動名詞の確認(10分) 15限 大学教員独自の講座(40分)、感想、まとめなど 3.4 ブリッジ英語:授業実施 三つのキャンパス拠点に分散する私立大学で開講されたブリッジ英語は、各 キャンパスで同時開講された。この同時開講では、学生たちは三つのキャンパ スから、通学場所を選択することが可能であり、受講生にとっては、自宅から 一番近い場所を第一条件に挙げる学生もいた。大半の学生たちは、所属予定の 学部があるキャンパスを一足先に体験したいという希望から、各々のキャンパ スで授業を受けることとなった。 3.5 クラス構成と指導体制 各キャンパスでは、 1 クラスずつ設けられ、受講生は25~30名であった。講 座の特筆すべきクラス構成は、全学部を対象とした通学型講座であり、各クラ スには様々な学部入学予定者が集まったことである。理系学部と文系学部が混 在するキャンパスでは、色々な学部の顔触れがあり、高校までの学習履歴も多 様であった。そうした 1 クラス毎には、英語教員1名と TA 2 名(大学院生も しくは、学部 3 ・ 4 年生)が担当することとなった。三つのキャンパスにおい て、同時に合計 6 名の TA に協力してもらう指導体制となったが、学習習慣が 確立されていない受講生を対象とした本講座では、TA の影響が大変大きかっ た。この点は後に詳述することとする。
IV.ブリッジ英語講座-入学前講座-からとらえる課題と成果
過去 3 年間の実施時期において、三つのキャンパスで毎年50~70名の学生が 参加した入学前教育「ブリッジ英語」講座であった。そこでは、基礎的な英語力の補強を必要とする学生が、大学入学前に通学して授業を受けるスクーリン グ形式の講座である。大学入学後の英語学習へスムーズに移行させるという入 学前教育の特性を踏まえ、受講生アンケート結果をもとに、受講学生のニーズ、 通学型英語講座の成果、そして課題を検討していく。 4.1 ブリッジ英語講座の受講学生ニーズ 基礎学力診断テストの結果を参考にして、受講を決めた学生の多くは、英語 に対する強い苦手意識を持っていた。受講生へのアンケートには、受講目的と して「英語が苦手なので、大学入学後のためしっかり基礎からやりたいです」、 「英語に苦手意識があるため、少しでも底上げをしておきたい」という英語に 対する不安を書く学生が多数見られた。これは、英語科目は全学部・全学科に おいて必修科目の一つであると認識されており、早期入試合格者たちが、一般 入試合格者に混じり、大学の勉強についていけるかという不安感にも通じるの ではないだろうか。そうした苦手意識や不安感を払拭し、これまでに取り掛か ることができなかった基礎学力の定着や高校までの学習履歴の違いを補う補完 型教育という要求が強い講座である。 4.2 大学の学びに対する不安の解消と期待 受講生の多くが抱えていた英語に対する苦手意識と不安感を解消することが 入学前講座の目標とされた以上、学生一人ひとりに対するきめ細かな配慮や 様々な工夫が必要となっていた。各キャンパスに所属する先輩が、TA として 参加する指導体制が整備されたことは、学生の学習意欲や学習理解度を観察し ながら、丁寧に指導していく基本方針に大きな貢献となった。 5 日間の集中講義の中で、教員と TA は、休憩時間も学生たちと共に過ごす 時間が多かった。とりわけ、昼食時間や授業後には、学生は英語に関する質問 だけでなく、学習方法や専門科目の授業についてアドバイスを求め、サークル や部活動に関する相談などもあわせて、コミュニケーションは日ごとに増えて いった。アンケート結果には、「少人数制で先生との距離も近いのでとても良 かったです」、「先生が 3 人いらっしゃったので答えにつまった時にすぐ教えて 頂けたのでなんとか授業についていくことができました」といったコメントが 見られ、TA と英語教員がアクセスできる範囲に存在し、疑問や質問があれば
即座に対応できる環境は、学ぶことへの安心感と満足感を高める要因となった と考えられる。 さらに、TA や教員とのカジュアルな交流の拡がりを受けて、「大学に入って からも英語をちゃんと勉強し、TA さんみたいにペラペラとしゃべれるように なりたいです!!」(原文ママ)という意見が見られた。受講した学生の中に は、ロールモデルとして英語を学んだ将来像を TA に重ねている学生の存在も 考えられる。奥羽(2013)が指摘したように、リメディアル教育のあるべき姿 には、学生が目標を持てるような動機付けを果たすという役割が入学前英語教 育の一つであるとも言えるのではないだろうか。 4.3 学習意欲の向上 入学前に不安感と苦手意識を取り除き、少しでも英語学習の習慣・学習方法 を確立させることは大切である。牧野(2016)は、英語習熟度の低い学生は、 英語に苦手意識を持つ傾向が強いため、指導順序などは学習意欲を減退させな いように注意して取り組む必要性を例示している。受講生の自由記述アンケー トには、「高校の授業が全くわからなかったので、この講座の授業も全くわか る気がしなかったので不安だったんですが、ほんとに基礎からわかりやすく教 えて下さってよかったです。今のままのペースでやっていきたいです」という 意見があった。また、「基礎だから簡単だししなくていいや、ではなくて、基 礎だからこそするべきだな、とこの講座を受けて強く思った。自分のあやふや な理解をしている部分も明確になったので、これをきっかけに毎日毎日コツコ ツ英語をしよう!という気持ちにもなれた」という学生のアンケート結果も あった。 これらは、限定された意見ではあるが、分からなかった内容を理解できたと いう点に着目すると、短期間の学習の積み重ねにおいても、学習と成長を学生 自身が実感することは、英語学習の意欲を刺激することが考えられる。つまり、 一つひとつの小さな学習成果が、次の学習意欲を湧き立てていくことである。 「英語は苦手ですが、いつか海外に自力で行ってみたいです!」と答えた学生 の意見は、奥羽(2013)が示唆する「学生の意欲、意識を変える視点をもった 教育」の最初の一歩である。推薦入試や AO 入試の早期入試合格者たちにとっ て、高等学校までに確立できなかった学習方法を見直し、「わかる」という変
化を起こすきっかけ作りでもある。学習意欲を喚起するプロセスの一つとして、 大学入学後の英語学習や、その先へとつなげる意義と役割が、入学前英語講座 にはあると考えられる。 4.4 共同学習及び学びのコミュニティ形成 入学前教育のプログラムは多岐にわたり、コンピューターを使用した e- ラー ニングなどの自宅学習を選択する学生も多い。それは、遠方から入学する学生 にとって、通学型は経済的負担となり、e- ラーニングのメリットや効率性も 当然考えられる。しかしながら、e- ラーニングや自宅学習とは違うスタイル のブリッジ英語講座のアンケート結果を検証すると、教室でクラスメートと共 に受ける入学前教育の教育的効果があった点に注目したい。 本稿の入学前英語講座は、強制参加ではなく、入学後の履修単位につながる ものでもなかった。一方、大学入試やセンター試験という学習動機が取り外さ れた学生たちには、学習習慣の維持は難しく、自主的に学習時間を確保して、 それを継続することが容易ではなかったと考えられる。中村他(2007)の調査 でも、早い段階で進路が決定した学生は、継続的に学習意欲を持ち続け、十分 な準備をして入学を迎えているわけではない点が報告されている。 こうした環境においては、基礎英語力向上という同じベクトルへ向かう学生 が教室に集まり、少人数で学ぶことの成果は大きかったと考えられる。この学 習集団は、早期入試合格者のみが参加する学習者たちであり、同じ境遇にいる 学生同士の交流の場として、共に学び合おうという環境作りに寄与したのでは ないだろうか。学生たちは、初日の自己紹介から始まり、教科書の音読練習や 授業内グループワーク、ペアワークを行いながら、学生双方でコミュニケー ションを積み重ねていく。こうした個々の学習活動とそれに費やした時間が、 5 日間を支え合うクラスメートへと変容させていったのではないかと考えられ る。 「友だちがたくさんできてよかったです。苦手だった発音に少し自信が持て ました!」、「良い友達にも出会えたし、先生も優しくて、楽しく勉強できまし た」というコメントのように、同じキャンパスで学ぶ新しい友人たちと、大学 生活への不安や悩みを共有できたことは、連帯感を育み、安心感を与えたよう である。さらに、入学予定者たちの不安には、友人関係、勉強、アルバイトな
ど生活全般となり、佐藤他 (2008)による入学前教育の実践例でも、そうした 不安の解消に入学前の交流の成果を挙げている。自律的に勉強に向かうことが 難しかった学生にとって、クラスメートと共に学びの成果を実感していくプロ セスは、英語学習という枠を越えて、入学後の協同学習などにつなげられる経 験になることも考えられる。
V.まとめ
大学入試の形態が多様化した現在、学力試験を受けない推薦入試や AO 入試 などで入学する学生の割合は、私立大学などで半数近くを占める。そのような 入学生たちは、学力試験だけでは測れない個性豊かな学生として、多面的・総 合的に評価されたのである。しかしながら、学ぶ意欲や進学理由が明確な合格 者であっても、学力の担保が確実であるとは限らない事例も多く報告されてき た。これは、比較的早い段階で実施される推薦入試や AO 入試による入試方法 が、学生たちの学習意欲の低下や学習習慣の断絶へ招く一因ともされている。 本稿では、こうした早期入試合格者たちが、入学前の段階で受講希望をした 基礎英語力を補完する英語学習支援について論じてきた。同じ境遇の学生が教 室に集まり、他早期入試合格者たちと共にグループ活動を通じて、入学前の学 習機会の確保をするリメディアル教育の一つである。入学前の限られた受講期 間ではあったが、英語に対する苦手意識を持つ学生にとって、大学の英語授業 への不安感を解消する役目を果たしていることがわかった。また、基礎学力を 補うだけでなく、学生自らが学習過程で実感する理解する喜びとその達成感が、 学習意欲を刺激することが受講後のコメントから見られた。他方、同じような 不安を抱えている学生たちにとって、入学後まで見据えた学びの場、つまり学 生同士のコミュニケーションの場になったことも考えられる。 しかしながら、カリキュラムを評価していく際には、学生個々がどの分野に おいて、どれだけ成長したのかという点で評価、事後検証する必要がある。そ の点では、ブリッジ英語の終了時に到達テスト等が行われなかったことは講座 の正当性や効果を検証するには不十分であると言える。こうした実践検証を踏 まえ、通信講座や e -ラーニングとは異なる入学前の通学型リメディアル授業の学習効果と学力の伸長を継続して検証していく必要がある。そして入学準備 として、大学 4 年間の学びへスムーズな移行を後押しする入学前教育について、 基礎学力の定着度を図る質的な評価を加えた取り組みが今後の課題となる。 本論文は2014年 8 月21日に行われた日本リメディアル教育学会第10回全国大会 での発表に、加筆・修正したものである。
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