目 次 Ⅰ はじめに Ⅱ 事例分析 制度と運用実態 Ⅲ 要約と含意
Ⅰ
は じ め に
1 本稿の課題 本稿の目的は, 自動車メーカー A 社において 1990 年以降に実施された一連の賃金制度改革の 事例から, 成果主義導入の過程で生じた問題と対 応を明らかにし, その意味を考察することである。 過去数年ほどの間に, 日本企業では成果主義の人 事管理が急速に浸透し, その影響や問題のあり方 が社会的な関心を集めてきた。 しかし, 近年の論 調は, 成果主義を促すというよりもその問題点を 批判的に取り扱うものが増えている。 このことは, 成果主義の浸透にともなって, 企業の現場でさま ざまな困難が生じ始めていることを示唆するもの といえる。 しかし, 年功主義ないしは能力主義か ら成果主義への転換は, 日本企業が経営環境の変 化に適応するために行った不可避的な選択と見る べきであり, 現状批判的な論調から必ずしも有意 義な示唆が得られるとは思われない。 むしろ現段 階で必要とされているのは, 成果主義の導入にと もなう問題と対応策について検討し, 成果主義の 定着に向けた筋道をつけることにあるものと考え られる。 先行研究は, すでに成果主義にともなうさまざ まな問題を指摘し, 適切な制度改定を推進してゆ く 上 で の 方 法 を 示 唆 し て き た 。 例 え ば 藤 村 [1998] は, 評価制度の運用に評価結果の中心化 傾向や評価者の違いによる評価結果のブレ等の問 本稿では, 自動車メーカー A 社における賃金制度の設計と運用実態についての時系列的 な制度分析を通じて, 成果主義の導入プロセスで生じた問題に対する経営側の判断とその 制度的対応を明らかにする。 近年の日本企業は, 定期昇給を抑制する一方で, 成果に応じ て賃金を変動的に決定する方向に向かっている。 こうした方向性は, 定期昇給をもたらす 積上げ方式の賃金項目の縮小と, 年俸制に代表される洗替え方式の賃金項目の拡大という 傾向をもたらしている。 本稿では, まず, 1) 洗替え方式の設計が, 降給の決定を行う際 の評価者の心理的な負担を高め, 制度の意図に反した運用をもたらしうること, 2 ) それ に対して人事担当者には, 従業員の労働意欲, 人材育成, 人件費等のバランスを考慮しな がら制度の見直しを検討する必要が生じること, を指摘する。 また, こうした過程の分析 から, 1) 能力の開発フェーズにある一般社員では, 人材育成と労働意欲に配慮した積上 げ方式の賃金制度を主体とすること, 2) 能力の活用フェーズにある管理職では, 労働意 欲に配慮しつつも人材育成より人件費への配慮を優先し, 変動幅を抑制した洗替え方式の 設計を行うことで制度の意図に即した運用を実現すること, という選択に妥当性がありう ることを示唆する。 ●投稿論文特集 2006成果主義の導入プロセスにおけ
る問題と対応
自動車メーカー A 社における賃金制度改革からの示唆
樋口 純平
(同志社大学技術・企業・国際競争力研究センター COE 特別研究員)がこうした問題への有効な対策となりうることを 指摘した。 また, 守島 [1999] は, 成果主義を推 進する際には, 単に成果を反映する賃金項目のウェ イトを高めたり賃金格差を拡大させたりするだけ ではなく, 目標面接を始めとする補完的な制度を 整備することが従業員のモラール維持に有効であ ることを計量的に明らかにしている。 さらに, 佐 藤 [2003] のように, 裁量労働制との関係から目 標管理制度の運用実態を明らかにし, 目標設定プ ロセスでは仕事量や時間の長さを規制する機能が 働きにくいことから働き過ぎをチェックする措置 が別途必要になることを指摘しているものもある。 しかし, 成果主義の導入によって生じた問題に対 して, 企業が現実にどのような対応を行っている のかを分析した研究は少ない。 制度の調整局面が, 管理者の適切な問題認識と意思決定の下で円滑に 進められることは, 企業のパフォーマンスにも重 要な影響をもたらすものと考えられる。 この点に ついて, 佐藤・佐野 [2005] は, 成果主義を先進 的に推進してきた電機メーカーの事例から, そこ で生じた問題と対応を検討している数少ない研究 といえる。 同論文では, 評価の基準が業績目標の 達成度にもとづいたものからプロセスを加味した ものへと改定される論理を業務管理との関係から 明らかにしており, 成果主義の下での適正な評価 のあり方に関する経験的事実にもとづいた有力な 説明を提出している。 こうした視点をふまえて, 本稿では特に賃金制度の設計と運用に注目し, 成 果主義導入の過程で生じた問題と対応について考 察する1)。 2 分析視角 成果主義が, 成果を重視した評価・処遇のあり 方を意味するものであることは明らかであるが, これまでのところ必ずしもその特徴についての定 まった見解が存在しているわけではない。 これに 加え, 個別的な事例から成果主義の問題と対応に ついて論じる際には, あらかじめその理論的条件 について検討しておく必要があろう。 以下に, こ れらの点を簡潔に整理しておきたい。 まず, 本稿 では, 成果主義を端的に次のような評価・処遇制 毎期の目標面接において設定された個々人の業績 目標の達成度や目標を達成するためのプロセスと して評価されている。 したがって, 評価制度との 関係から言えば, 成果主義の展開には目標管理制 度の導入が随伴しているものと見なすことができ る。 目標管理制度が成果主義の推進された 1990 年代以降に普及していることはすでに周知の事実 であり, 先行研究も成果主義の問題を同制度との 関係から指摘するものが少なくない2)。 一方, 本稿で注目する賃金制度については, 成 果を反映する業績給等の賃金項目を導入・拡大し, 年齢・勤続等を反映する他の賃金項目を縮小する という方向性として特徴づけられるものと考えら れる。 ただし, ここで留意する必要があるのは, 賃金項目の名称やそこに反映される評価の内容に 加えて, その設計方式である。 近年の賃金制度改 革には, 制度の設計方式に影響を与える二つの方 針が存在しているものと考えられる。 一つは年功 的な昇給をもたらす定期昇給を抑制することであ り, いま一つは成果に応じて賃金を変動的に決定 することである3)。 こうした方針は, 賃金制度の 設計において, 次のような傾向をもたらしている ものと考えられる。 まず, 定期昇給を発生させる 賃金項目には, 年令給に限らず, 従来支配的であっ た職能給のように評価結果に応じて格差のある昇 給額を積上げてゆくようなすべての賃金項目が含 まれる。 本稿では, このように毎年の昇給をもた らすような賃金項目を, その個別的な名称にかか わらず積上げ方式の賃金項目と呼ぶことにする。 すなわち, 定期昇給の抑制という方針は, 賃金制 度の設計において積上げ方式の賃金項目の縮小と いう傾向をもたらすものと考えられる。 次に, 後 者の方針について, 評価結果に応じて金額が上下 に変動する賃金項目には, 年俸制のようなラディ カルな方式に限らず, マイナスのある昇給表にも とづいて決定されるようなすべての賃金項目が含 まれる。 本稿では, こうした賃金項目を, その個 別的な名称にかかわらず洗替え方式の賃金項目と 呼ぶことにする。 すなわち, 成果主義の賃金制度 においては, 積上げ方式の賃金項目の縮小と洗替 え方式の賃金項目の拡大という傾向が同時に生じ
るものと考えられる。 一方, 賞与では, 賃金に一 律の値を乗じて決定する配分項目を縮小し, 個人 の評価結果を直接反映する配分項目を拡大すると いう傾向が見られる4)。 賞与にはもともと企業の 業績に応じて変動する一時金という位置づけが与 えられているが, こうした動きは半期ごとの成果 を反映させることで配分額の変動性を一層高めて いるものと見なすことができる。 本稿では, 賃金 に一律の値を乗じて決定されるような賞与の配分 項目を月例給比例分, 評価結果を直接反映する項 目を考課反映分と呼ぶことにする。 評価・処遇制度には, 制度改定が一体的になさ れる側面とおのおのの制度に固有の理由からなさ れる側面とがある。 成果主義の導入のように制度 の全社的な方針転換がはかられる場合には, 評価・ 処遇制度の一体的な見直しが行われる可能性が高 いであろう。 また, 制度の急激な変化によって従 業員が不適応を起こすリスクを避けるために, こ れを段階的に行う場合も考えられる。 しかし, 制 度の構造的な転換がなされた後に生じる調整局面 においては, 個々の制度に固有の意図や運用問題 から制度設計の見直しがなされることが少なくな い。 例えば, 目標管理にもとづいた目標達成度重 視の業績評価が結果主義やチームワークの軽視と いう問題をもたらしていたと判断されれば, コン ピテンシーによる業務プロセスの評価が補完的に 行われるようになる。 このような場合には, 評価 制度の見直しが行われても, 賃金制度の見直しを ともなうとは限らない。 評価と賃金が逆の場合に も, これと同じことが生じうる。 ただし, 留意す る必要があるのは, いずれかの制度に起因する問 題が, 片方の制度に影響を与える場合もありうる ということだ。 その際の因果関係は, 問題に対す る管理者の認識から対応までを分析することで把 握することができるであろう。 成果主義を以上のような制度導入プロセスとし て把握するとき, 本稿で主な分析の対象とするの は, 賃金の変動性がもたらす問題とそれに対する 企業の対応である。 従来の日本企業において支配 的であった積上げ方式の賃金制度には, 大きく分 けて次のような二つの意図とメリットが存在した。 一つは, 年令とともに昇給する側面が労働意欲の 安定性を高めることであり, いま一つは, 能力の 向上とともに昇給する側面が能力開発へのインセ ンティブとしての役割を果たすという点である。 これに対して積上げ方式のデメリットは, 毎年必 ず昇給するという特徴が人件費の自動的な増大を 帰結する点であり, 1980 年代以降の円高の進展 や労務構成の高齢化によりこの問題が焦点化され たことは周知である。 そして, 近年, 移行が進め られている洗替え方式の賃金制度には, これと半 ば表裏の関係において次のようなメリットとデメ リットを指摘することができる。 すなわち, その メリットの一つは, 人件費を安定的に管理するこ とができるという点にある。 より端的に言えば, 降給を制度化することで人件費の抑制が容易にな る。 また, 年々伸張することが期待される能力開 発のインセンティブとしては適さないが, 短期的 に変動する傾向がある業績を賃金と連動させるこ とで生産性とコストの均衡をはかることが容易に なる。 しかし, 業績が低下した場合に賃金が下が るという点には, 労働意欲の安定性を損なうとい うデメリットが存在するものと考えられる。 それ は, 業績の低い従業員に限らず高業績をあげるこ との多い従業員についても該当する。 なぜなら, ある年に最高の業績をあげた従業員が翌年には平 均的な業績しかあげられなかったというケースが 想定されうるからである。 この場合, 堅実な業績 ではあっても賃金自体は低下することから, その 従業員に対して否定的なメッセージを与えること になる。 また, これにともなって生じうるのは, 従業員に対して降給の決定を行う際のライン管理 者の心理的負担にかかわる問題である。 すなわち, この問題は賃金制度の設計に起因して, 評価者負 担の問題を帰結する。 そこで想定される評価者の 行動は, 賃金の変動性を緩和するように評価制度 の運用を行うことである。 こうした状況が生じた とき, 次の段階では人事担当者の判断にもとづい て制度の見直しが検討されることになるだろう。 したがって, 積上げ方式から洗替え方式への移行 という方向性の中でも, 人事担当者は, 労働意欲, 人材育成, 人件費等のバランスに配慮した適切な 制度設計を行ってゆくことが必要になるものと考 えられる。 論 文 成果主義の導入プロセスにおける問題と対応
つかの研究に言及しておかなければならない。 一 つは, 中嶋・松繁・梅崎 [2004] により先見的に なされた成果主義導入の 「意図せざる結果」 に関 する指摘である。 同論文は, 賃金と査定の企業内 マイクロデータを用いて, 成果主義的な評価・処 遇制度の導入が管理職を中心にかえって賃金に対 する年令の影響を高め, 査定による格差を縮小さ せる結果をもたらした, とする興味深い事実発見 を提出している。 本稿では主に制度の定性的な分 析を行うことから賃金格差については直接的な分 析の対象としないが, 「意図せざる結果」 を賃金 格差と評価者負担の関係に求める同論文の指摘は, 賃金の変動性という視点から再検討しうるものと 考えられる。 しかし一方で, 同様に企業内マイク ロデータを用いて日本企業 3 社の評価・処遇制度 の変化をトレースしている阿部 [2005] では, 制 度改定とともに総じて年令・勤続の影響が小さく なり, 査定の効果が大きくなっていることが明ら かにされている。 したがって, 成果主義的評価・ 処遇制度の導入が, 必ずしも 「意図せざる結果」 をもたらすのではないことは容易に推測できる。 こうした相違の背景には, 一つの可能性として制 度の意図に即した運用を可能にする適切な設計と いうものを想定することができる。 さらに, 日本 企業 1214 社を対象として 2004 年に実施された労 働政策研究・研修機構の調査は, 1999 年以前と 以降に成果主義を導入した企業で賃金制度の設計 と運用に見られる賃金格差が異なることを指摘し ている。 すなわち, 2000 年以降の導入企業では 賃金格差が相対的に小さく, これを 「新しい成果 主義のスタイル」 ともいうべき 「マイルドな成果 主義」 と特徴づけているのである (労働政策研究・ 研修機構 [2005])。 また, その理由として同報告 書では, 2000 年以降の導入企業が成果主義を先 進的に進めてきた企業に生じた問題に学んだ可能 性があることを示唆している。 こうした成果主義 的賃金制度の経年的変化に関する特徴と論理は, 制度の導入, 運用, 見直しの過程とそれにかかわ る人事担当者の判断を検証することでより具体的 に把握することが可能になるものと考えられる。 しかし, この点に注目した分析を行っている研究 performance) の研究にもほとんど見られない5)。 以上の点をふまえて, 本稿で分析の中心に据える のは, 賃金の変動性に関する問題が成果主義導入 の過程でどのように生じるのか, それに対してい かなる経営判断と制度的対応がありうるのかとい う視角である。
Ⅱ
事例分析
制度と運用実態 1 方 法 本稿では, A 社の人事関連各部署と労働組合 に対して実施されたヒアリング調査と, そこで得 られた各種の社内資料をもとに制度の実態分析を 行う。 分析の対象とするのは, 同社において成果 主義的な評価・処遇体系が導入されたと考えられ る 1990 年以降の, 管理職とホワイトカラー系組 合員における評価・処遇制度である。 ヒアリング 調査は, 2001 年から 2003 年にかけて計 5 回 (各 2 時間程度) 実施したものであり, 2004 年末には 同社人事担当者から整理された事柄に関する直近 の状況説明を受けている。 図 1 は, A 社で事技 職と呼ばれるホワイトカラー系組合員と管理職に おける賃金・賞与の推移を示したものである。 A 社では, 1990 年から現在までの間に, 全社 的な評価・処遇制度の改定が 2 度行われている。 一つは 1990 年に実施された制度改定であり, 以 下の分析で説明するように, ここで成果主義的な 評価・処遇体系が導入されたものと見ることがで きる。 また, その 3 年後の 1993 年には, 事技職 の賃金のみを対象とした制度改定が行われている。 二つ目の全社的な制度改定は, 成果主義の推進と 調整を合わせて 1996 年と 1999 年に実施された一 連の評価・処遇制度改定である。 さらに, 2002 年と 2004 年には, この改革以降に生じた問題へ の対応として, 制度の基本的な枠組みを維持しな がらも再度の修正が加えられている。 1990 年以 降に実施された以上のような制度改定について, 本稿では, 便宜的に成果主義が導入された 1990 年の制度改定から 1996 年と 1999 年までの時期を 成果主義の第 1 フェーズ, また, ここから再度の制度調整がなされた現在までを成果主義の第 2 フェー ズと位置づける。 そして, 制度の段階的な変化か ら賃金制度改革の基本的な方向性を確認するとと もに, 各フェーズにおける 「制度設計→運用→改 定」 というサイクルの内実を明らかにすることで 本稿の課題にアプローチする6)。 2 成果主義の第 1 フェーズ 1990 年∼1996 年・ 1999 年 はじめに, 1990 年の制度改定が行われる以前 の A 社における評価・処遇制度の概要を説明す る (図 1 「∼1990 年」 参照)。 1990 年以前の同社の 評価制度は, 年令, 能力, 業績を総合的に評価し た評価結果を賃金・賞与の全てに反映させる仕組 みをとっており, 賃金制度については, 管理職と 組合員の別に, 以下のようなかたちで設計されて いた。 まず, 管理職の賃金は, 資格別・考課別に 昇給額を積上げてゆく単一の賃金項目で決定され ており, 賞与については, 月例給比例分と考課反 映分の二項目で決定されていた。 一方, 組合員の 賃金については, 資格別・考課別に昇給額を積上 げる積上げ方式 A と, 製造部門の生産能率を反 映する集団能率給的な積上げ方式 B という二つ の賃金項目によって構成されていた。 また, 賞与 は管理職と同じように月例給比例分と考課反映分 で構成されていたが, 配分比率の上では月例給比 例分を主体としたものであった。 このように, 1990 年以前の A 社の評価・処遇制度は, 管理職 と組合員のいずれについても総合考課とその評価 結果を反映する 100%積上げ方式の賃金, そして 月例給反映分と考課反映分から成る賞与によって 構成されていた。 上記のような制度体系は, 1990 年の制度改定 によって大きく変化した。 その概要は, 以下のと おりである (図 1 「1990 年∼」 および 「1993 年∼」 参照)。 第一に, ここでは, 同社の目標管理に相 当する 「テーマ管理」 が導入され, これと連動し た評価・処遇体系の整備がなされた。 テーマ管理 論 文 成果主義の導入プロセスにおける問題と対応 図1 賃金制度の推移(上:管理職,下:事技職) (∼1990年) (1990年∼) (1996年∼) 積上げ方式 (100%) 【資格+年令・能力・業績】 (∼1990年) 積上げ方式A (40%) 【資格+年令・能力・業績】 月例給比例分 (75%) 【月例給+比例係数】 積上げ方式B (60%) 【積上げ方式A+ 製造部門生産性】 積上げ方式B (60%) 【積上げ方式A+ 製造部門生産性】 月例給比例分 (60%) 【月例給+比例係数】 月例給比例分 (60%) 【月例給+比例係数】 考課反映分(40%) 【資格+成果】 考課反映分(40%) 【資格+成果】 積上げ方式C(10%) 洗替え方式(10%) (1990年∼) 積上げ方式A (40%) 【資格+能力】 (1993年∼) (1999年∼) 積上げ方式A (40%) 【資格+能力】 積上げ方式D (50%) 【資格+成果】 定額 (50%) 【賃金等級】 洗替え方式 (40%) 【資格+成果】 積上げ方式C(20%) 【年令】 月例給比例分 月例給比例分 (30%) 考課反映分 (70%) 【資格+成果】 考課反映分 【資格+年令・能力・業績】 考課反映分(25%) 【資格+年令・能力・業績】 【月例給+比例係数】 積上げ方式 (40%) 【資格+能力】 定額 (40%) 【資格】 洗替え方式 (60%) 【賃金等級+成果】 考課反映分 (100%) 【賃金等級+成果】 洗替え方式 (60%) 【資格+成果】 ︵ 賃 金 ︶ ︵ 賞 与 ︶ ︵ 賃 金 ︶ ︵ 賞 与 ︶ 出所:A社人事部資料。賞与部分は,ヒアリング記録にもとづいて筆者が作成。 注:斜線部は,積上げ方式の賃金項目と月例給比例分の賞与配分の縮小を示している。また,1990年以 前の管理職の賞与における点線部と双方向矢印は,資格が高いほど考課反映分の構成比が大きいこ とを示している。
最小の組織単位であるグループの編成を行い, さ らに各グループの目標を個々のメンバーの業務目 標としてブレークダウンするものである。 これら の目標は 「重点テーマ」 と呼ばれており, グルー プのメンバーは, 上司との目標面接を通じて毎期 の重点テーマを設定し, その達成度と取組み姿勢 にもとづいて成果を評価されることになる。 この 評価結果は, 賃金と賞与の双方に反映される仕組 みとなった。 管理職では, 成果を反映する洗替え 方式の賃金項目が 60%の構成比で新設され, 賞 与についても 70%を占める考課反映分が成果に もとづいて決定されることとなった。 これらの項 目は, 6 段階の評価ランクに応じた定額で決定さ れ, その結果は積上げられることなく毎期にリセッ トされる。 これに対して, 組合員では, 成果主義 的な制度の導入は比較的穏当なかたちで行われた。 というのも, 賃金については, 成果を反映する洗 替え方式の賃金項目が新設されたものの, その構 成比は 10%に過ぎなかったからである。 さらに, 制度の 「安定感・安心感」 を補完するために, 年 令別定額の積上げ方式 C の賃金項目がこれと抱 き合わせで新設されている。 しかし, 賞与では考 課反映分が 25%から 40%に拡大され, ここには 成果が反映される仕組みとなった。 また, こうし た成果主義的評価・処遇制度の導入が行われた一 方で, 従来の賃金における積上げ部分と月例給比 例分は縮小されながらも維持されており, ここに は保有能力の評価結果が反映されることとなった。 以上のように, A 社では, 成果主義的評価・ 処遇制度の導入が管理職に対してはドラスティッ クなかたちで, また, 組合員に対しては比較的穏 当なかたちで行われた。 しかし, 3 年後の 1993 年には, 組合員についても成果主義をいっそう推 し進めるかたちで, 賃金のみを対象とした制度改 定が行われている (図 1 「1993 年∼」 参照)。 ここ では, 積上げ方式 B の賃金項目を廃止する一方 で, 成果を反映する洗替え方式の賃金項目の構成 比を 10%から 40%へと大きく拡大した。 ただし, その際には, 1990 年の制度改定と同じように, 「安定感・安心感」 を補完する積上げ方式 C の賃 金項目も 10%から 20%へと拡大しており, 保有 している。 1990 年改革において整備された成果主義の第 1 フェーズにおける評価・処遇制度は, 管理職では 1996 年まで維持された後, 成果主義をいっそう 推し進めるかたちでの制度改定がなされている。 しかし, 組合員については, 1993 年に成果主義 化がいっそう推し進められた後, 1999 年の制度 改定において洗替え方式の賃金項目が廃止される こととなった。 こうした制度改定がなされた背景 には, 「考課を下げると昇給時に職能給 (洗替え 方式の賃金項目の実名:筆者) が減額されることも あるため, 本人の意欲に悪影響を及ぼすことが懸 念される」 こと, そして, 「基本的に能力の開発 過程にある組合員については, 賃金の額を毎年大 きく上下させることはなじみにくい」 という経営 判断があった7)。 そして, こうした判断は, 次の ような二つの問題を受けてなされたものであった。 一つは, 制度の運用によって評価ランクが年功的 に分布する傾向が生じていたことから, 制度改定 の効果が十分にあがらなかったことである。 もう 一つの理由は, 評価が年功的に運用されるという 傾向は生じたものの, 評価ランクが下がったこと で降給される従業員も確実に存在しており, 一部 でそうした従業員からのクレームが生じたことで ある。 そして, クレーム自体は一部に過ぎなかっ たとはいえ, そのことは次のように労使双方にとっ て看過できない問題として認識された。 「要はこれ, 賃金が下がる制度だったんですよ。 賃下げのある制度だったんですよ。」 (それで, 実際にも下がっていたんですね) 「そうですよ。 だから画期的だったんですよ, そ の当時としては。 期間考課 [成果の考課の実名: 筆者] ですから, ある時がんばってまた普通に戻 りましたと。 こんなのはいくらでもある話で, 下 がるわけですよ, そうすると。 賃下げになるわけ ですよ。 それを見て, 何だそれはと。 平均をもらっ ているのにもかかわらず, 下がったというところ しか見ない。」 成果の評価は毎年の重点テーマの達成度と取組 み姿勢にもとづいて行われるものであるから, あ る年の評価が平均であっても前年に最高の評価を
得ていれば, その年は降給することになる。 そし て, 上の発言が示しているように, 洗替え方式の 賃金項目は賃金の一項目に過ぎなかったとはいえ, 一項目でも降給するということが従業員に対して 与えるインパクトは少なくなかったのである。 以 上のような経緯から, この制度に対する問題意識 は労使に共有され, 1999 年の制度改定では組合 員の洗替え方式の賃金項目が廃止されることとなっ た。 しかし, すでに言及したように, 管理職では 1996 年に成果主義をいっそう推進するかたちで の制度改定がなされている。 3 成果主義の第 2 フェーズ 1996 年・1999 年 ∼現在 1996 年と 1999 年になされた一連の制度改定の 概要は, 以下のようである (図 1 「1996 年∼」 「1999 年∼」 参照)。 まず, 管理職では, 積上げ方 式の賃金項目が廃止され, 資格別定額の賃金項目 と洗替え方式の賃金項目から構成される制度となっ た。 したがって, 賃金の定期昇給的性格は完全に 払拭された。 また, 賞与では月例給比例分が廃止 され, 考課反映分のみで決定される仕組みとなっ た。 なお, 図中の賃金等級とは, 資格別に, 部長 クラス=1 等級, 次長クラス=2 等級, 課長クラ ス=3∼4 等級というかたちで新設されたもので ある。 一方, 組合員については, 洗替え方式の賃 金項目が廃止され, 管理職と同様に資格と一定の 対応関係を持って設定された賃金等級別定額の賃 金項目と積上げ方式 D の賃金項目から構成され る制度となった。 ただし, この改革以前の積上げ 方式の構成比が合計 60%であったのに対して, 積上げ方式 D の構成比は 50%になっている。 賞 与については, 基本的な仕組みは変化していない。 評価制度は, 管理職と組合員のいずれについても, 保有能力と成果の 2 本立てになっていた制度を成 果の評価に統一した。 さらに, 管理職については, 従来 6 段階であった成果の評価ランクを 4 段階に 改め, 評価結果が従来よりもメリハリをもって賃 金・賞与に反映される仕組みとなっている。 1996 年と 1999 年の制度改定において整備され た成果主義の第 2 フェーズにおける評価・処遇制 度は, 図に示したような基本的枠組みを維持しな がらも 2000 年以降に段階的な修正が行われるこ ととなった。 ここで主な見直しの対象となったの は, 管理職の賃金・賞与である。 管理職の制度で は, 成果が S, A, B, C の 4 段階で評価されて おり, その結果で賃金・賞与の大部分が変動的に 決定されることから, 人事担当者の言葉を引けば 「限りなく年俸制に近い制度」 となっている。 こ うして, 定期昇給的な性格が払拭され変動的な性 格が強められた新制度は, 制度の運用過程におい て次のような問題を生じた。 まず, 従業員の労働 意欲の維持という見地から, 「物価上昇がなけれ ば賃金水準は変わらないということでもつのか」 という問題意識が生じた。 そして, 管理職では昇 進・昇格機会が相対的に限定される傾向にあるこ とから, この点は人事担当者に一層重要な問題と して認識された。 A 社では, 昇格のスピードに 差はあっても, 最終的には 40 代で同一入社年次 社員の約 9 割が課長クラスまで昇格する。 しかし, 次の資格に昇格できる従業員は, これ以降急激に 絞り込まれる。 このため, 多数の従業員が長期的 に課長クラスとして処遇されることになる。 そし て, これらの従業員の多くは, 賃金 4 等級から 3 等級に昇等級すると, それ以降は成果をあげない 限り昇給する余地がなくなるのである。 こうした 点に加えて, 現場で生じたのは次のような運用上 の問題であった。 管理職の評価ランクは, S, A, B, C の 4 段階であるが, この内 C 評価は例外規 定となっていることから, 事実上 S, A, B の 3 段階評価となっている。 そして, 最高評価の S は, 課長クラス以降も昇格する約 1 割の 「かぎり なく上を目指している人」 に与えられる評価であ るため, 課長クラスに該当する多数の従業員にとっ ての評価は事実上 A と B しかありえないという ことになる。 そして, 「A と B を行ったり来たり するかというと, なかなかそうはならなくてです ね, 一度 A をつけると B をつけるっていうのは 大幅な年収ダウンにつながりますので, それはな かなかむずかしいというところでございますね。」 という状況が現れる。 こうした運用は, 課長クラ スの多数の従業員に対して, 賃金・賞与が長期的 にほとんど一定の金額で支給され続けるという事 態を帰結する。 A 社の賃金は業界でも高い水準 論 文 成果主義の導入プロセスにおける問題と対応
にあるが, 賃金がインセンティブとしての役割を ほとんど果たさないということになれば, 従業員 の労働意欲を維持するのにも限界がある。 「実際 20 年くらいですね, 基幹職 3 級 (課長クラスの資 格の実名:筆者) でずっと続くとゆうことでござ いますので, 一生懸命がんばってもそれはしょう がないのかなと……」 というマインドをもたらす 可能性が生じるためである。 このように, 1996 年の制度改定以降, 40 代という働き盛りにある 課長クラスの従業員の労働意欲を成果主義の下で いかにして維持してゆくのかという点が, A 社 の賃金管理における最重要課題の一つとして浮上 することとなった。 こうした問題状況を受けて, 2002 年と 2004 年 には, 次のような二つの対応策が講じられた。 一 つは, 2002 年に評価のランクを S, A, B, C の 4 段階から, S, A, B1, B2, C, D, の 6 段階に改 め, これに対応した 6 段階の賃金・賞与テーブル を新たに作成したことである (図 2 参照)。 評価ランクを細分化し賃金・賞与の変動幅を抑 制することで, 評価の下方変更が従業員に与える インパクトを緩和し, 同時にその評価者負担を軽 減したのである。 そして, 2004 年には, 運用問 題が集中した課長クラスの賃金 3 等級に 4 段階の ステップを設け, 前年から評価が変わった場合に はステップ 1 の金額を支給し, 同じ評価を得た場 合には 1 ステップ分昇給できるようにした。 した がって, 最大 4 年間までは, 同じ評価結果が連続 しても賃金は昇給する。 さらに, 例えば B1が数 年続いた後に A 評価が数年続くという場合には, 理論上, 最大 8 年の定期昇給が発生することにな る。 こうした修正は, 長期的に課長クラスとして 処遇される従業員に対して, 運用によるきめ細か な昇給の余地を与えたものであった。
Ⅲ
要約と含意
本稿では, 成果主義導入の過程で生じた問題と 対応に注目しながら, 自動車メーカー A 社にお ける賃金制度の設計と運用実態をトレースしてき た。 その要点は, 以下のように整理することがで きる。 (1)A 社では, 1990 年以降, 成果主義の賃金制 度改革を推進してきた。 その基本的な方向性は, 積上げ方式の賃金項目と賞与における月例給比例 分の段階的縮小, そして洗替え方式の賃金項目と 賞与における考課反映分の段階的拡大として特徴 づけることができる。 (2)1990 年に始まる成果主義の第 1 フェーズで は, 賞与の考課反映分が拡大されるとともに, 管 理職のみならず組合員についても洗替え方式の賃 金項目を導入・拡大するというラディカルなかた ちで賃金制度の改定が進められた。 しかし, ここ では組合員の賃金において, 一方で制度が年功的 資格 部長クラス 次長クラス 課長クラス 賃金等級 S A B C 評価ランク 1等級 2等級 3等級 4等級 資格 部長クラス 次長クラス 課長クラス 賃金等級 S A B1 B2 C D 評価ランク 1等級 2等級 3等級 4等級 Step4 Step3 Step2 Step1 出所:ヒアリング記録にもとづいて作成。 注:実際の賃金表では,空欄には昇給額ではなく実額が記載されている。に運用されたことから制度改定の効果が十分に上 がらず, 他方では実際に基本給が降給した従業員 からのクレームが生じた。 ここから, 洗替え方式 の設計が労働意欲や人材育成に対してもたらす負 の影響が再考され, 組合員における洗替え方式の 賃金項目は廃止される方向に向かうこととなった。 (3)1990 年代後半に始まる成果主義の第 2 フェー ズでは, 組合員において洗替え方式の賃金項目が 廃止され, 積上げ部分を維持・縮小した賃金項目 を資格別定額の賃金項目と組み合わせるというか たちで制度の改定がなされた。 一方, 管理職では 賃金・賞与から積上げ方式の賃金項目と月例給比 例分が全廃され, 成果の評価で処遇のほとんどが 変動的に決定される 「限りなく年俸制に近い制度」 となった。 しかし, ここでは, 管理職の大部分を 占める課長クラスの従業員の評価と処遇が固定化 されてしまうという運用上の問題が生じることと なった。 このため, 評価ランクを細分化して変動 幅を抑制し, 課長クラスの賃金についてはきめ細 かな運用による昇給の余地を与えるかたちで制度 の修正がなされている。 A 社の賃金制度改革において確認された以上 のような事実は, 成果主義の賃金制度の設計に次 のような示唆を与えるものと考えられる。 第 1 に, 成果主義を指向した賃金制度改革では, 積上げ方 式の賃金項目の縮小と洗替え方式の賃金項目の拡 大という傾向が生じうる。 しかし, 成果を低く評 価された場合に降給が生じるという設計は, 積上 げ方式において昇給額が低くなるということより も従業員に対して否定的な印象を与えるものと考 えられる。 このことは, 一方で評価の下がった従 業員の労働意欲の低下をもたらし, 他方ではそれ に対する評価者負担の増加から制度の意図に反し た運用を帰結しうる8)。 それに対して人事担当者 には, 従業員の労働意欲, 人材育成, 人件費等の バランスを考慮しながら制度の見直しを検討する 必要が生じることになる。 第 2 に, こうした問題 に対しては, 一般社員で人材育成と労働意欲に配 慮した積上げ方式主体の制度とし, 管理職では変 動幅を抑制した洗替え方式の設計を行うことが一 つの対応策となりうる。 ここには, 能力の開発フェー ズにある一般社員において, 人材育成や労働意欲 の安定性を損ねてまでも洗替え方式の設計を行う ことの妥当性は低いという経営側の判断がある。 しかし, 賃金水準が相対的に高いことに加えて生 産性が向上してゆく見込みの低い能力の活用フェー ズにある管理職では, 積上げ方式の賃金項目を維 持してゆくことの妥当性は低い。 したがって, 管 理職の賃金制度では洗替え方式を採用し, 労働意 欲に配慮したきめ細かな設計を行うことで制度の 意図に即した運用を促すことが必要になるものと 考えられる9)。 *本稿の作成にあたっては, A 社人事担当者および労働組合 役員の方々より貴重な情報を御提供いただくとともに, それ を学術論文として公開することを御承諾いただいた。 また, 論文のベースとなった調査報告書の作成過程では, 東京大学 中村圭介教授より貴重な御指導をいただいた。 匿名のレフェ リーからは, 論文を推敲する上で欠くことのできない有益な コメントをいただいた。 記して謝意を表したい。 なお, 本稿 の文責は, すべて筆者にある。 1) 成果主義の分析では, 評価や賃金といった個々の制度的要 素にとどまらず, 特にその相互的な関連性が重要な問題とな る。 例えば, 賃金格差の拡大にともない評価の公平性をいか にして確保するのかという問題は, その端的な例である。 し かし, 本稿では紙面の制約から特に賃金制度の設計に起因す る問題にフォーカスし, 評価を始めとするその他の制度につ いてはこれとの関係から必要に応じて分析を加えるかたちを とる。 なお, A 社における等級制度, 賃金制度, 評価制度 の設計と運用に関する体系的な分析をこころみたものとして は, 樋口 [2005] を参照されたい。 2) 目標管理制度導入の経緯と現状については, 富士ゼロック ス総合教育研究所 [1997] や都留・阿部・久保 [2005] 等を 参照。 3) 2004 年に行われた労働政策研究・研修機構の調査によれ ば, 「定期昇給の縮小・廃止」 を過去に実施したと回答して いる企業は 1214 社のサンプル中, 半数以上の 51.7%にのぼっ ており, 21.7%の企業が今後実施する予定であると回答して いる。 また, 同調査では変動的な賃金制度を代表する 「年俸 制の導入」 状況についても尋ねている。 それによれば, 22.9 %の企業が同制度の導入を過去に実施しており, 12.5%が今 後実施する予定であると回答している (労働政策研究・研修 機構 [2005])。 なお, 後者の点については, 同制度の導入率 が 1996 年の 9.8%から 2002 年の 40.9%にまで急増している ことを報告しているものもある (社会経済生産性本部 [2003])。 4) 中央労働委員会が毎年実施している 賃金事情調査 では, 従業員 1000 人以上の企業を対象に一時金の配分状況を尋ね ている。 それによれば, 1994 年から 2003 年までの 10 年間 で, 基本給や所定内賃金等に一律の値を乗じて決定される 「リンク分」 は 80.4% (夏)・79.2% (年末) から 69.8% (夏)・71.4% (年末) に縮小しているのに対して, 評価結果 を直接反映する 「考課査定分」 は 14.2% (夏)・13.3% (年 末) から 20.0% (夏)・20.0% (年末) へと増加している。 5) 同様の問題意識から, 制度の事例調査を通じて, 米国の成 果給における導入, 運用, 見直しのプロセスと管理者の意思 論 文 成果主義の導入プロセスにおける問題と対応
を参照。 6) 以下の文中の 「 」 部分は, A 社人事関連部署および労 働組合へのインタビュー記録と社内資料からの引用である。 なお引用部分において ( ) はインタビュアーの発言, [ ] は筆者による注。 7) この引用部分については, 畑 [1999] を参照した。 8) この点について, 本稿では評価のプロセスを直接分析して いるわけではないことから, 評価者負担にかかわる他の要因 や, 評価方法の修正により評価者負担を軽減する措置につい て十分に検討されていないことは否定できない。 この論点に ついては, すでに梅崎・中嶋・松繁 [2003] および梅崎・中 嶋 [2005] が先鞭をつけている。 9) 具体的には, A 社のような完全洗替え方式の制度に限ら ず年功的な号俸と評価別の洗替えを組み合わせた複数賃率表 の設定, あるいは近年の電機メーカー等に散見されるゾーン 別の昇給方式を想定することができよう。 なお, 一般社員の 中でも係長クラスの制度については管理職に準じた設計を行 う可能性がありうることから議論の余地が残されている。 参考文献 阿部正浩 [2005] 「3 社の賃金構造とその変化 人事データ による資格, 査定, 賃金の実証分析」 都留康・阿部正浩・久 保克行 日本企業の人事改革 人事データによる成果主義 の検証 (東洋経済新報社), pp. 61-104. 梅崎修・中嶋哲夫・松繁寿和 [2003] 「人事評価の決定過程 企業内マイクロデータによる分析」 日本労務学会誌 第 5 巻 1 号, pp. 33-42. 梅崎修・中嶋哲夫 [2005] 「評価者負担が評価行動に与える影 響 「人事マイクロデータ」 と 「アンケート調査」 の統計 分析」 日本労働研究雑誌 No. 545, pp. 40-50. 佐藤厚 [2003] 「人事管理の変化と裁量労働制」 日本労働研究 雑誌 No. 519, pp. 34-46. 佐藤厚・佐野嘉秀 [2005] 「 「成果主義」 先進企業の変革 事と成果 人事管理のフロンティア (東洋経済新報社), pp. 77-130. 社会経済生産性本部 [2003] 日本的人事制度の現状と課題 第 6 回日本的人事制度の変容に関する調査結果 . 中央労働委員会 [1994] [2003] 賃金事情調査 . 中嶋哲夫・松繁寿和・梅崎修 [2004] 「賃金と査定に見られる 成果主義導入の効果 企業内マイクロデータによる分析」 日本経済研究 No. 48, pp. 18-33. 畑隆 [1999] 「B 自動車の事技員の人材育成と人事・賃金制度 改定」 東亜経済研究 (山口大学), 第 59 巻 2 号, pp. 95-136. 樋口純平 [2005] 「人事管理と業績管理の関係 A 自動車に おける制度と実態」 評論・社会科学 (同志社大学), 第 75 号, pp. 95-166. 富士ゼロックス総合教育研究所 [1997] 人材開発白書 . 藤村博之 [1998] 「管理職による評価制度の運用 「差をつけ る人事制度」 は可能か」 日本労働研究雑誌 No. 460, pp. 17-27. 守島基博 [1999] 「成果主義の浸透が職場に与える影響」 日本 労働研究雑誌 No. 474, pp. 2-14. 労働政策研究・研修機構 [2005] 変貌する人材マネジメント とガバナンス・人材戦略 (労働政策研究報告書, No. 33). Beer, M. and M. Cannon [2004] Promise and Peril in
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2005 年 4 月 25 日投稿受付, 2006 年 8 月 6 日採択決定 ひぐち・じゅんぺい 同志社大学技術・企業・国際競争力 研究センター COE 特別研究員。 最近の主な著作に 「人事管 理と業績管理の関係 A 自動車における制度と実態」 評 論・社会科学 (第 75 号, 2005 年)。 人的資源管理論専攻。