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『職場類型と女性のキャリア形成(増補版)』 脇坂 明 著

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《書 評》

職場類型 と女性 のキャ リア形成 (

増補版)』

脇坂

明 著

由 紀 子

(大阪市立大学)

1

今なぜ職場類型か

本書は,女性がその能力を生か し労働市場で活躍す るための課題は何か , それを可能にす るには どうすれば よいか とい う視点で貫かれている。女性の 進 出が言われ る中で,なお残 る結婚 ・出産退職に よるキ ャリアの中断や ,そ の後 の正規労働者 としての復活の困難 さ,あるいはガラスの天井 といわれ る 女性 の昇進 の難 しさが ,厳然 として存在す る今 日,本書は これ らの問題に正 面か ら取 り阻んだ時宜を得た書物 である。 またそれを単なる理論的な考察に 留 まらず ,徹底 した フィール ドワークとアンケー ト調査 で事実の裏付け と体 系化を試みているのが本書の方法論的な特徴である。 脇坂氏 (著者)は女性の職場での技能の向上をキ ャリアの拡大に求めてい る。そのキ ャリアの拡大 (あるいは中断) とい うものが職場類型に よ り大 き く影響 され るのか否か ,とい う問いが著者の視点である。その職場類型を男 性だけの職場 (男性独 占型

)

,女性だけの職場 (女性独 占型),男女が共に働 いている職場を男女同等型 ,男女分業型 ,そ の中間型 の5つ に区分 してい る。確かに,は じめか ら女性を補助職 としかみていない職場において,女性 が志を得 ることは困難であろ う。逆に性差 (ジ ェンダー ・ギ ャップ)を意識

(2)

しないで,個 々人の能力のみで評価を行 う職場であれば,女性 も自らの能力 に応 じてキ ャリアを拡大す ることができるであろ うoその意味で著者が職場 頬型をキーワー ドとしていることは うなづけるものがある. また ,女性 も就職先 (企業や職種)の選択に当た っては,自らの人生設計 を踏 まえて職場類型に注 目す るであろ う。例 えば公務員や教師は,少な くと も建前 としては,性差に よるキ ャリア形成 の違 いを否定 してい る世界 であ る。そのためにキ ャリアを形成 したい と望む女性が,この世界に多 く進 出 し た ことは一般的に よく知 られているところである.中央官庁で,政治的任命 に よらずにキ ャリア間の競争を勝 ち抜いて ,女性 の次官 (例えば労働省事務 次官 松原亘子氏)が登場 した ことはその象徴 であろ う。他方 ,名の知れた 大銀行や伝統ある製造業では一人 として女性 の代表取締役はいない。すなわ ち仕事の関係におけ る職場類型 と女性 のキ ャ リア形成 は相互 に深 く影響 し あっているのである。 これが職場類型を切 り口として分析す る今 日的意義で あろ う。 本書は題名が示唆す るように,職場類型 と雇用管理 ,キ ャリア形成 に注 目 した部分 と,その延長 ともい うべ き家庭生活 とキ ャリア形成に関す る部分に 大別 され る. ここでは各章 のタイ トルを掲げて全体の概要を解介す る。 序 章 課題 と分析方法 第

1

章 職場類型別 アンケー ト分析 第2章 職場類型の変化 第3章 コース別雇用管理制度について 第

4

章 事例調査 第5章 結婚 ・出産退職慣行 と女性のキ ャリア形成 第6章 パー トタイマーのキ ャリア形成 第7章 仕事 と家庭 の両立-向けての展望 と課題

(3)

序章で分析の視点 と方法論が提示 され る。第

1,2

章で男女の仕事 内容に 関す る職場類型について詳細な紹介が行われ る。第3,4章で総合職 ・一般 職な どの コース別雇用管理 ,人事制度についてアンケー'トや事例研究に よる 現状の紹介 と問題点について詳紳 な分析 が行 われ てい る。第

5

章 は女性 の キ ャリア形成 (あるいは企業の女性に対す る雇用管理)に大 き く影響す る結 婚 ・出産退職行動が職場類型 との関係に重点を置 きなが ら取 り上げ られてい る。第6章ではキ ャリアの中断 と密接に関係す るパー ト タイムについて, 不本意パ ー トと自発的パ ー ト,疑似パー トと典型パ ー ト,補完型パー トと基 幹型パー トの三つの視点か ら分析 されている。最後に,第7章では家庭生活 と労働市場を円滑に結びつけ ,女性 のキ ャ リア形成をスムーズに進めるため に コース別人事制度の解消や育児休業制度の活用が取 り上げ られている。以 下では,各章 ごとにその内容の簡単な紹介を行 いたい。

2 各章の概要

まず ,第1章では,電機労連に よる女性観合点意識調査 (1985年,1990 午)と㈲中部産業 ・労働研究会に よる調査 (中部産政研調査)(1991年)の二 つのアンケー ト調査か ら,各職場類型の割合 と職場類型 と就労意識の関係を みている。前者 の調査か ら,「総計で約半分が男女分業型 で ,男女 同等型 が 16.7%」 (pp.8- 9),また 「職種に よって職場類型の割合が大 き く異なる」 (p.9)ことが示 されている。職場類型 と意識 の関係については,男女同等 型になるほ ど強い昇進意識を持 っていることが示 されている。他方 ,後者の 調査か らは,「販売職 (店員)で男女同等型が図抜けて多 く,男女分業型が極 めて少な

」 (p.ll),「事務職は男女同等型 の割合が他に比べて格段に低 く, 男女分業型が極めて多い」 (p.ll),技術職において女性は男性 と同 じ仕事を していると答えているにもかかわ らず ,男性は女性 と同等の仕事を している 意識はない とい う,男女の認識ギ ャップが大 きいことを指摘 している。 さら

(4)

に,「ホ ワイ トカラ-では,仕事 内容を男女同等に していけばおおむね女性 従業員の満足が高 まる」 (p.17)が ,他方 「現業職の場合は,む しろ男女同等 の方が不満が大 きい」 (p.17)とい うように,「職場類型が女性の意識を規程 す るところは大 きい」 (p.18) ことが指摘 されている。 第2章では,異なる職場類型が存在す る理 由と職場類型が どの ように変化 してい くかについての仮説を提示 している。著者は,男女分業型職場が形成 され る理 由として,「統計的差別の考え方」を支持 している。すなわち,企業 は 「[潜在能力 ×定着率]で労働力の質を判断」 (p.41)す るが ,他方で企業 の採用担当者は誰が何年働 くかわか らない (あるいは,これを知 るためには コス トが掛か りす ぎる)。 しか し,統計的にみれば平均的 には男性 よ りも女 性の方が,結婚 ・出産等の理 由で途中でやめる確率が高い ことが知 られてい る。平均すれば女性の方が定着率が低い とい う容易に手に入れ ることのでき る情報を用い,女性 の労働力の質が落ちると採用担当者は判断す ることにな る。その場合には,キ ャリアを要す る仕事に男性を,キ ャ リアを余 り必要 と しない仕事には女性をつける事が企業に とって最適 となるため,男女分業型 職場が形成 され るとい うものであるo次に男女分業型職場か ら,男女同等型 職場-の移行については,仕事 と労働者 につ いてそれ ぞれ ランク付 け を行 い,それに従 って労働者行列 と仕事行列を作 り,それ らを対応 させ るとい う レスター ・サ ローの 「仕事競争モデル」で とらえている。そ こでは 「性以外 の重要な要素」 (p.50)に注 目した経営者 (イノベーター)が労働者行列のラ ンク付けに変化を もた らし,それが普及す るとい う仮説を著者は提示 してい る。 第3章では,仕事 内容を 「総合職」 と 「一般職」に分けて雇用管理を行 う 「コース別雇用管理制度」 について,その制度が女性労働者の就労意識に与 える影響 とい う観点か ら考察を行 っているO コース別雇用管理制度が うま く 機能す るためには,採用時点での生渡を見据 えての就労意識がその後 も変わ らない ことが必要である。 しか し,「平成2年度女子雇用管理基本調査 一女

(5)

子労働者労働実態調査」か ら,採用時点においてその企業で定年 ,あるいは 厚生年金受給開始年齢 まで働 こうと考 えていた女性 の少 な くとも4分 の 1 が ,働 きは じめてか らその意思がかわ った事を示 している。他方 ,結婚退職 の予定で働 きは じめた女性 でも, 1割以上の割合で定年 あるいは厚生年金受 給 まで働 きたい とい う意思に変化 している。 また ,既に管理敬になっている 女性について も採用時に結婚 ・出産退職を予定 していた割合が一般労働者 と 変わ らないこと,学歴に よって就労意識の変化 の度合いに差がない とい うこ と等に より,採用時点での就労意欲 で仕事内容を固定す ると,労働意欲の減 少につながる恐れがあるため,コース転換制度の整備が不可欠であることを 提唱 している。その上で,コース別人事制度を 「女性の意識 ,意欲 ,仕事能 力を向上 させ るために とられ うる-つの戦略で ,将来的廃iEをみ こんだ一時 期の通過点である」 (p.70)と位置づけている。 第4章では,男女分業型 ,男女同等型 ,女性独 占型の3つの職場類型につ いて,事例分析を行い ,それぞれの職 場類型 で どの よ うな技能形成 がな さ れ ,そ こで女性が どの ように位置づけ られ活用 されているかを見 ることで, 今後それぞれの職場類型で求め られ る課題について明らかに している。男女 分業型職場については,自動車 メーカー人事部の事務職 と自動車部品製造会 社 の生産部門の現業職の事例を取 り上 げてい る。 男女 同等型職場 につ いて は,自動車デ ィ-ラーの営業職 と

,2

つの ソフ ト開発会社の事例 ,そ して電 気 メーカー研究所 と建設会社の研究者の事例を取 り上げている。女性独 占型 職場についてはアパ レル販売職の事例を取 り上げている。 さらに,男女分業 型職場で取 り上げたの とは異な る建設会社の事例をあげ ,男女が別 々に処遇 され る分業の段階では,コ-ス別人事制度 の導入が必要 であ るが,「一般職 の レベルがあが った段階では,廃止すべ き もの」 (p.102)で あ る と してい る。 また,「育児休業制度その他の女性のサボ- ト制度の意味 も,当該企業 (あるいは職場)の女性活用の段階に よって,まった く異なる」 (p.102)と 述べている。

(6)

第5章では,事業所調査 と個人調査を用いて,女性の就業継続にとってボ トル ・ネ ックである結婚 ・出産退職慣行に焦点を当てている。 まず ,事業所 調査によって,男女雇用機会均等法が施行 され ,結姫 ・出産退職制度が法的 に禁止された後の

1

9

8

7

年に実施 された 「女子労働者 の雇用管理 に関す る調 査」において

,9

2.

7

%

の事業所が法施行前か らそのような制度はなか った と 回答 していることが示 される。 しか し,同 じ調査で定着度をみると,出産 ま でに辞める女性の多い企業が6割以上,また男女別離職率をみると,企業規 模が大 きくなるほ ど離職率は低下するが 「大企業で とりわけ女子の離職率が 多いわけではな く,男性 との差が大き

」(

p

.

1

1

2

)

ことがわかる。次に,い くつかの個人調査 で も結解 ・出産退職慣行 の有無 をみてお り

,

「ある」 と 3- 5割の女性が答えている。 さらに,結婚 ・出産慣行があるところほ ど転 職意思が高 く,反対に充実度,満足度は低いことが示 されている。 第6章では,パー トタイムの類型化に関 して論 じている。高度成長期以降 増加 しているパー トタイマーについて,理論的政策的な意味づけ,位置づけ を行 う上で最 も重要な分類法は,仕事内容で分類する

,

「基幹塑 パ ー ト」 と 「補完型パー ト」の類型化であるとしているoそ して

,

「とくに 『基幹型パー ト』は人事労務管理のめざすべ き対象であ り,基幹型パー トの育成を射程に 入れた人事処遇制度は,コース別人事制度の発展的解消 とあわ きって,女性 活用の重要な鍵を握 る」 (p.220)と主張 している。 第7章では,第 3章 ,第 4章のフルタイム労働者に関する議論 と第 6章の パー トタイマーの議論に基づいて,女性の能力を有効に活用するための大企 業に求められる人事処遇制度についての ビジ ョンを捷示 している。 と りわ け,女性がキャリア形成上において,最大のネ ックとなる結婚 ・出産退職慣 行を克服するために,最 も有力な施策であ り,企業にとっても女性の活用 と い う意味で重要な人事施策である,育児休業制度について取 り上げている。 育児休業で発生す る問題は,技能の陳腐化 と代替要点であるとし,ふだんか ら様 々な仕事のあいだに 「キャリアパス」を作 ってお くことがその解決につ

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なが るとしている。最後に職場類型 ごとの課題に言及 し,育児休業制度が と りわけ男女同等型職場で大切であると述べ られている。

3

以上 ,本書の構成に従 って内容の簡単な紹介を行 った。本書は,女性の仕 事での能力向上をキ ャ リアの拡大に求め,その阻害要因 と解決策を豊富な事 例 とアンケー ト調査をもとにまとめた優 れ た研究書 で あ る。最後 に三点 ほ ど,本書の全体を通 しての評言を試みて評者の努めを果た したい。 第-は,女性が最 も進 出 した (あるいは Lやすか った)公務員 ,教師の世 界が取 り上げ らていないことである。確かに公務員はその生産性を計測す る ことは非常に困難 ,あるいはできないとい う点 ,教師は専門職の要素が強い とい う点で,利潤を追求す る一般企業での女性の活用 ,キ ャリア形成 と比較 す る上で不適切な面 もある。 しか しなが ら,この分野での女性活用の蓄積は 他に類をみないため,これを男女分業型 と比較すれば,女性の活用やキ ャリ ア拡大のための問題点や解決策が よ り分か りやすか った のではな いだ ろ う か。 第二は,女性 のキ ャリア形成には今後何が必要か ,についてであるC著者 が繰 り替え し指摘す るように,キ ャリア形成 には不可欠な就業継続において 結姫 ,出産 ,育児は女性に とって最大の難関であるo これを乗 り越 えるため の方策 として,育児休業制度があげ られている。育児休業 ではその期間中の 技能の陳腐化が問題 となる。キ ャリアの形成を中断 ,もしくは退化 させない ためには最長 でも1年間の休業が限界であろ う。 さらに復職後の子供 の面倒 を どうす るかが ,よ り一層重要ではないだろ うか。早朝 ,夜間,軽い病気の ときも預か って くれ る保育所が もっと普及すれば,就業継続が よ り容易にな るであろ う。 また ,その ような保育所が利用 しやすければ,仕事 内容の変化 が激 しく技能の陳腐化が よ り短 い期間で進む ような職場に勤めている場合に

(8)

,1

年間の休業を とらずに例えば半年で職場復帰す るようになるだろ う. そ うす ると,企業に とって もそれ までに行 って きた人的投資を無駄にせずに すむので,育児休業制度の負担は軽 くなる。 この ような保育政策 と女性の就 莱 ,キ ャリアパスの形成が結びつけて取 り上げ られたな らば,女性労働の総 合的な研究書 として,本書の価値は より高 まった ように思われ る。 またその際 ,育児休業制度や育児休業期間の延長を法で規定 した り,その 費用を企業に対す る補助金等で補填す る政策 と,保育所 の措置制度を完全撤 廃 し,申 し込みや保育料の自由化な どに より保育に市場原理を持ち込み ,他 方で現在は認可 されていない保育所やベ ビーホテルに も補助金を手厚 くす る ような政策 との比較が行われれば,結婿 ・出産 ・育児の女性の就業に与える 問題点 とよ り効果的な解決策が明らかにな るであろ う。 第三に,フィール ドワークや アンケー ト調査な どの事例分析であるか ら, 超越的な批判になるが ,統計学的な裏付けや計量分析が よ り多 くあれば,著 者の主張はなお一層説得力を持 ったのではないか と思われ る。た とえば第

1

章で技術職におけ る男女間の認識 ギ ャップが指摘 されているが ,それが どの ような要因に よるかの検証が示 されていれば ,より興味深い分析が得 られた であろ う。第

4

章で示 されている女性の採用時点 とその後の意識変化につい て も同様 のことが言えるだろ う。 ただ しこれ らは望苛の感のある評者の望みであ り,本書の価値を何 ら損な うものではない。本書は女性のキ ャリア形成に関 る重要な研究 として,大 き な貢献を している。著者は本書を 「女性研究の一つの区切 り」 とされている が ,さらにアンケー ト調査や フ ィール ドワークと計量分析 な どを総合 された 実証分析で女性研究に さらに大 きな一歩を占め られ ることを期待 して,書評 にかえたい。

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