持続可能な共創型観光体験を通じたホスト意識の醸成
~ 北 海 道 黒 松 内 町 を 例 と し て
山本 芳華、毛利 憲一、大類 幸子
キーワード 持続可能性、地域資源マネジメント、共創、観光資源、総合計画 概要 北海道の南西部に位置する黒松内町は、酪農と福祉が主な産業となっている。天然記念物である北 限のブナをシンボルとした総合計画を策定しており、深刻な少子高齢化の解決のために「稼げる観光 業」を新たな柱として持続可能なまちづくりを精力的に進めようとしている。平安女学院大学国際観 光学部のフィールドワークに参加した学生は、将来の地域観光資源を活用したツアー提案のための共 創的観光活動体験を黒松内町の地域住民とともに行った。参加学生に実施した事前事後のアンケート 調査からは、事前の期待度に比較し、事後の満足度が高いことが分かった。また、事後の自由記載のテ キスト分析結果からは、黒松内町が重要視している「人」と「自然」という言葉が導き出され、第四次 黒松内町総合計画基本構想のシンボルテーマである「人と自然が彩る なんか居心地のいいまち くろ まつない」のキーワードとも合致する結果となった。はじめに
北海道寿都郡黒松内町1は、東西に 29.3 ㎞、南北 19.7 ㎞、総面積は 345.65 ㎞の町であり、札幌市と 函館市のほぼ中間に位置する。人口は、2,739 人(2020 年 4 月末現在)である。北海道南西部、後志管 内の南端にあり、北は寿都町を経て日本海を臨み、南は長万部町を経て太平洋を臨む場所となってい るが、いずれもわずかな距離で直接海岸に接することがない(図 1 参照)。日本海と太平洋の双方から の影響を受けるため、春から夏にかけて南南東の風が噴火湾で発生する濃霧を運んで低温になり、冬 は日本海からの北北西の風が吹き大量の雪をもたらす道南における多雪地帯となっている。主要な産 業は畜産業であり、ジャガイモなどの畑作も盛んである。こうした田園風景に合わせて、町内の約 80 %を森林が占めており、天然記念物でもある「自生北限の歌才ブナ林」がまちのシンボルとなってい る。黒松内町では、豊かな生態系を観光資源とし、エコツーリズムを取り入れた地域づくりをめざし て、自治体主導で積極的に外部の力を活用してきた。高木(2008)で言及される黒松内ぶなの森自然学 校の設立はその一例である。本論文では、まず黒松内町総合計画策定過程をたどることで、町が直面す る課題を整理するとともに、どのような観光業が必要とされているかを明らかにする。その上で、平安 女学院大学国際観光学部フィールドワークプログラムで実施した共創的観光活動の体験によって、参 加学生の黒松内町への意識がどのように変化したのかについてプログラムの前後で実施したアンケー ト調査結果の分析から明らかにする。さらに、自由記載欄のテキスト分析から、このフィールドワーク で学生が何を学び取ったのかについて明確にし、黒松内町第四次総合計画とのかかわりについても言 及する。 4-持続可能な共創型観光体験を通じたホスト意識の醸成
~ 北 海 道 黒 松 内 町 を 例 と し て
山本 芳華、毛利 憲一、大類 幸子
キーワード 持続可能性、地域資源マネジメント、共創、観光資源、総合計画 概要 北海道の南西部に位置する黒松内町は、酪農と福祉が主な産業となっている。天然記念物である北 限のブナをシンボルとした総合計画を策定しており、深刻な少子高齢化の解決のために「稼げる観光 業」を新たな柱として持続可能なまちづくりを精力的に進めようとしている。平安女学院大学国際観 光学部のフィールドワークに参加した学生は、将来の地域観光資源を活用したツアー提案のための共 創的観光活動体験を黒松内町の地域住民とともに行った。参加学生に実施した事前事後のアンケート 調査からは、事前の期待度に比較し、事後の満足度が高いことが分かった。また、事後の自由記載のテ キスト分析結果からは、黒松内町が重要視している「人」と「自然」という言葉が導き出され、第四次 黒松内町総合計画基本構想のシンボルテーマである「人と自然が彩る なんか居心地のいいまち くろ まつない」のキーワードとも合致する結果となった。はじめに
北海道寿都郡黒松内町1は、東西に 29.3 ㎞、南北 19.7 ㎞、総面積は 345.65 ㎞の町であり、札幌市と 函館市のほぼ中間に位置する。人口は、2,739 人(2020 年 4 月末現在)である。北海道南西部、後志管 内の南端にあり、北は寿都町を経て日本海を臨み、南は長万部町を経て太平洋を臨む場所となってい るが、いずれもわずかな距離で直接海岸に接することがない(図 1 参照)。日本海と太平洋の双方から の影響を受けるため、春から夏にかけて南南東の風が噴火湾で発生する濃霧を運んで低温になり、冬 は日本海からの北北西の風が吹き大量の雪をもたらす道南における多雪地帯となっている。主要な産 業は畜産業であり、ジャガイモなどの畑作も盛んである。こうした田園風景に合わせて、町内の約 80 %を森林が占めており、天然記念物でもある「自生北限の歌才ブナ林」がまちのシンボルとなってい る。黒松内町では、豊かな生態系を観光資源とし、エコツーリズムを取り入れた地域づくりをめざし て、自治体主導で積極的に外部の力を活用してきた。高木(2008)で言及される黒松内ぶなの森自然学 校の設立はその一例である。本論文では、まず黒松内町総合計画策定過程をたどることで、町が直面す る課題を整理するとともに、どのような観光業が必要とされているかを明らかにする。その上で、平安 女学院大学国際観光学部フィールドワークプログラムで実施した共創的観光活動の体験によって、参 加学生の黒松内町への意識がどのように変化したのかについてプログラムの前後で実施したアンケー ト調査結果の分析から明らかにする。さらに、自由記載欄のテキスト分析から、このフィールドワーク で学生が何を学び取ったのかについて明確にし、黒松内町第四次総合計画とのかかわりについても言 及する。 図 1 北海道黒松内町の場所第 1 章 共創型観光体験の先行研究
本論文では、地域における共創型観光体験を取り上げている。そもそも「共創」という言葉は新し く、大塚(2019)によると、「みんなでともにつくる」というビジネスの市場から使われはじめ、消費 者との間での新しい価値の創出することで市場競争力を高めること、さらには持続的社会を創るため の他者との共働を含んだ広い意味も持つように変化したとされる。観光の領域においては、住民と観 光客との間の価値が衝突する局面、特に過剰な観光客数の増加による交通渋滞やごみ問題など「オー バーツーリズム」の問題解決のために「共創」の議論がなされてきた。持続可能な観光地である続ける ためにいかに双方向型の価値共有ができるかという点が重視されている。地域住民と観光客の利害や 価値観が衝突する観光の側面として注目される交通問題に着目した柏木(2018)では、持続可能な観光 地として成り立つ前提としての交通需要マネジメントの最終ステップとして地域や観光客などによる 価値創造(双方向性)を行うことの重要性があげられている。本研究で取り上げる共創型観光の内容 は、町外からの観光客でもある平安女学院大学の学生があらたな観光プログラムを作り上げる目的の もと、黒松内町の地域住民を含む多くの地域関連機関とともに地域の観光資源を生かした観光を体験 することで双方向性の価値創造が行われたかどうかを事前事後のアンケート調査から明らかにしたい と考えている。特に、従来型の物見遊山型の観光に加えて、地域観光資源であるブナに着目したエコツ ーリズムを推進してきた黒松内町は、外部の力をうまく取り入れ地域に根付いた地域資源を生かした 着地型観光を実行してきた歴史がある(森重,2014)。このような着地型観光について、越智(2019ab) では、非観光業者である地域住民が提供する教育旅行民泊の価値について言及しているが、そこでは 間を取り持つ第三者がリーダーシップをとり共通する価値観を作り上げる必要性が述べられている。 本論文で扱うプログラムは、第三者として地域 NPO や大学機関がリーダーシップをとり、共創的価値 観構築の手助けを行っている事例と考えられる。菅沼(2015)では、民間教育旅行機関による水俣の体 験プログラム開発活動を事例として取り上げ、地域住民が参加することによって地域住民の意識変容 が起こり、コミュニティにおける役割意識の形成、コミュニティの一員としての意識や誇りをもたらすという効果があったと述べられている。本論文では、地域住民を対象とするのではなく、将来観光業 に従事する可能性のある観光を学ぶ学生における意識変容の効果検証を行う。調査対象となる学生は、 ゲストとしての観光客の側面と、将来ホストになりうる観光業の担い手としての両側面を持っている2。 そのため、本論文では、新たな側面として、観光を学ぶ学生がこの共創的観光活動を地域とともに行う ことでどのような効果があったのかについて意識変容を中心として検証を行う。
第 2 章 黒松内町の総合基本計画と課題
((11)) 黒松内町の総合基本計画の歩み 黒松内町は地域づくりの一環としてエコツーリズムに積極的に取り組んできた。黒松内町(2020) に記載されるように、第一次総合計画策定以来、町の顔として「ブナ」に着目した「ブナ北限の里づく り構想」が主軸になっていることがわかる。第一次総合計画(1985 年)では、道路や学校などの生活基 盤整備に取り組むことだけではなく、まちづくりの理念である「ブナ北限の里づくり」という取り組み を開始している。さらに第二次総合計画(1995 年)では、「自然にやさしく・人に安らぎの田舎 みん なで歩むブナ北限の里づくり」をテーマに掲げ、質の高い住民サービスと都市との交流に磨きをかけ てきた。第三次総合計画(2010 年)では、「自然にやさしく・人にやすらぎの田舎 みんなで歩むブ ナ北限の里づくり」をテーマに、黒松内町独自のまちづくりを町民・コミュニティ・団体・事業者、町 が互いに協力しながら進めてきた。以上の経緯を踏まえたうえで、2020 年から施行される第四次総合 基本計画をどのように策定していくのかが黒松内町の大きな課題となっていた。 ((22)) 「ブナ北限の里づくり」とまちづくり推進委員会 黒松内町は 1955 年以降「酪農と福祉の町」として積極的なまちづくりをおこなってきた。第一次総 合計画策定をきっかけに、「地場産業の振興を図るため農業生産物の付加価値を高めながら 1.5 次産業 を育成する」「自然資源を生かした観光クリェーション拠点の整備を図りながら都市住民との交流を 深める」という目標が設定された。計画の策定に際し、議会や総合計画策定審議会から「観光開発など 具体化した問題を検討するための専門機関を作る必要がある」との付帯意見があり、町は町長の諮問 機関として「まちづくり推進委員会」を設置した。 まちづくり推進委員会の目的は、黒松内町(2012)によると、黒松内町総合計画に基づき実施される 「まちづくり施策」を住民参加と協力によって推進するため、各種調査検討を行い、総合的見地から判 断し、町長に提供することとなっている。このまちづくり推進委員会は第四次基本構想においても継 続的に機能している3。組織構成については、商工会、農業協同組合、民間企業、体育協会、文化人、 各種サークル・団体等、行政機関職員、その他町長が必要と認める者とされており、多様な母体から構 成されている。ここからも、黒松内町はまちづくりに対して外部からの意見を広く取り入れてきたこ とがわかる。 ((33)) ブナと観光産業とのかかわり 第一次総合計画策定を契機として、酪農と福祉以外の新たな産業に町の発展を見出せないかという 検討が継続してなされてきた。さらに、「定住人口の増加」から「交流人口の増加」という視点を導入 するにあたって、黒松内町らしく自然と共生した持続可能なまちづくりを進めながら、都会からの交 流人口をいかに増やすかが課題となった。そこで、まちづくり推進委員会は、地域の観光資源としての 6-すという効果があったと述べられている。本論文では、地域住民を対象とするのではなく、将来観光業 に従事する可能性のある観光を学ぶ学生における意識変容の効果検証を行う。調査対象となる学生は、 ゲストとしての観光客の側面と、将来ホストになりうる観光業の担い手としての両側面を持っている2。 そのため、本論文では、新たな側面として、観光を学ぶ学生がこの共創的観光活動を地域とともに行う ことでどのような効果があったのかについて意識変容を中心として検証を行う。
第 2 章 黒松内町の総合基本計画と課題
((11)) 黒松内町の総合基本計画の歩み 黒松内町は地域づくりの一環としてエコツーリズムに積極的に取り組んできた。黒松内町(2020) に記載されるように、第一次総合計画策定以来、町の顔として「ブナ」に着目した「ブナ北限の里づく り構想」が主軸になっていることがわかる。第一次総合計画(1985 年)では、道路や学校などの生活基 盤整備に取り組むことだけではなく、まちづくりの理念である「ブナ北限の里づくり」という取り組み を開始している。さらに第二次総合計画(1995 年)では、「自然にやさしく・人に安らぎの田舎 みん なで歩むブナ北限の里づくり」をテーマに掲げ、質の高い住民サービスと都市との交流に磨きをかけ てきた。第三次総合計画(2010 年)では、「自然にやさしく・人にやすらぎの田舎 みんなで歩むブ ナ北限の里づくり」をテーマに、黒松内町独自のまちづくりを町民・コミュニティ・団体・事業者、町 が互いに協力しながら進めてきた。以上の経緯を踏まえたうえで、2020 年から施行される第四次総合 基本計画をどのように策定していくのかが黒松内町の大きな課題となっていた。 ((22)) 「ブナ北限の里づくり」とまちづくり推進委員会 黒松内町は 1955 年以降「酪農と福祉の町」として積極的なまちづくりをおこなってきた。第一次総 合計画策定をきっかけに、「地場産業の振興を図るため農業生産物の付加価値を高めながら 1.5 次産業 を育成する」「自然資源を生かした観光クリェーション拠点の整備を図りながら都市住民との交流を 深める」という目標が設定された。計画の策定に際し、議会や総合計画策定審議会から「観光開発など 具体化した問題を検討するための専門機関を作る必要がある」との付帯意見があり、町は町長の諮問 機関として「まちづくり推進委員会」を設置した。 まちづくり推進委員会の目的は、黒松内町(2012)によると、黒松内町総合計画に基づき実施される 「まちづくり施策」を住民参加と協力によって推進するため、各種調査検討を行い、総合的見地から判 断し、町長に提供することとなっている。このまちづくり推進委員会は第四次基本構想においても継 続的に機能している3。組織構成については、商工会、農業協同組合、民間企業、体育協会、文化人、 各種サークル・団体等、行政機関職員、その他町長が必要と認める者とされており、多様な母体から構 成されている。ここからも、黒松内町はまちづくりに対して外部からの意見を広く取り入れてきたこ とがわかる。 ((33)) ブナと観光産業とのかかわり 第一次総合計画策定を契機として、酪農と福祉以外の新たな産業に町の発展を見出せないかという 検討が継続してなされてきた。さらに、「定住人口の増加」から「交流人口の増加」という視点を導入 するにあたって、黒松内町らしく自然と共生した持続可能なまちづくりを進めながら、都会からの交 流人口をいかに増やすかが課題となった。そこで、まちづくり推進委員会は、地域の観光資源としての 「ブナ」に着目し、「ブナ北限の里づくり構想」がまちづくり推進委員会から提唱された。この構想を 受けて、町は「ブナフォーラム in 歌才」を開催し、ブナを中心とした新たな観光資源開発活動を開始 した。その後、この構想から、数多くの構想実施事業がなされた(表 1 参照)。ハード事業の主なもの は、オートキャンプ場や歌才自然の家、ミニビジターセンターといった宿泊滞在施設、さらには、情報 拠点・環境学習拠点としてのブナセンター、地域の食を担うトワ・ヴェール、アンジュ・ド・フロマジ ュ、都会からの人が地域の食にふれられるトワ・ヴェールⅡ(道の駅)、憩いの場としての温泉施設 (黒松内温泉)の設置などである。このような設備を有効活用するべく、地域の強みである農から食に つなげるハム・チーズ・パンの開発・提供、安らぎの空間としてのブナ林、生態系が保全された豊かな 朱太川のプロデュース、様々なイベントの実施や、ぶなの森自然学校における体験学習や人材育成、さ らには、積極的な景観保全といったソフト事業が実施されてきた。黒松内町では、地域の資源に付加価 値を加えることによって、地域の観光資源としての成熟度を高める取り組みを行い、「ブナ」をキーワ ードに新たな産業の創出を目指してきたといえる。 表 1 ブナ北限の里づくり構想実施事業年表 出典 黒松内町(2012)「ブナ北限の里づくりを目指して」5 頁「ブナ北限の里づくり構想実施事業」((44)) 黒松内町の課題~結婚適齢期の女性の定住と新たな産業としての観光 ここでは、黒松内町が総合計画の長期ビジョンに従った積極的な対応を行ってきた背景となる町の 課題について考えてみたい。黒松内町が直面する深刻な課題は高齢化と人口減少である。この状況を 深刻に受け止め、町では「黒松内町人口ビジョン」が 2016 年に策定されている。この資料によると、 町内人口が 7438 人であった 1955 年頃から、人口は減少し続けており、2040 年には 2000 人程度になる と予測されている。とくに年少人口の減少による少子高齢化が進展しており、2010 年には高齢化率は 35%となっている。まさに 3 人に 1 人が老年(65 歳以上)である。人口減少の主な原因は、1990 年ま では転出による社会減、近年は自然減となっている。2006 年に創設した移住窓口の取り組みが功を奏 し、移住者の増加によって、2009 年以降は社会増となっている。この点において、外部からの人口流 入のための積極的な移住政策の効果が表れている。一方で、出産数は減少傾向となっており、出産適齢 女性(15 歳から 49 歳)の人口減少が続いている。町内に高校がないことにより、高校大学進学による 若年層の転出がある一方で、75 歳以上の後期高齢者の転入が多い。これは、黒松内町が福祉のまちと して積極的に福祉施設を誘致し、町の経済発展のカギとしようと努力してきた成果でもある。転入に 関しては、福祉施設に入居する高齢者の割合が高く、全体として高齢化率を引き上げることとなって いる。地域を担う力になれるような若い年代の移住を推進していくことが課題となっている。 また、町内で生まれ育った若者が町外の高校・大学を卒業し、町内の福祉施設で就職するケースも少 なくない。この点で福祉施設を誘致したことは効果的ではあったといえるが、町内に戻って数年働き、 そののち都会へと転出してしまう傾向は、20 代女性に強いこともわかっている。結婚出産適齢期とな る 20 代女性の定住率が低いことで、出産を含めた人口増に結びついてないという問題が起こってい る。黒松内町は、農業と福祉が町の主要な産業となっているが、第一次産業である農業従事率は減少を 続けており、1975 年以降は福祉を中心とする第三次産業が町の雇用の中心となっている。近年は全就 業人口の約 70%がこの第三次産業に従事しており、特に女性は福祉施設での就労割合が高い。高校や 大学進学において町外へ転出し、卒業後町内に就労のために戻ってきた若者が、そのまま定住し続け たいと思うようなまちづくりや、家庭を持って生活を支えることのできる産業の確保が黒松内町に求 められている。以上が、従来主力となってきた農と福祉以外の新たな稼げる産業として、観光が着目さ れている背景である。 ((55)) 黒松内町第四次黒松内総合計画における観光 2020 年 4 月に施行した第四次黒松内総合計画は、従来からの「ブナ北限の里づくり」基本構想を継 承しつつも、前述した黒松内町が直面する課題にどう対処した新しいビジョンを打ち出せるのかが新 たな課題となった。第四次黒松内町総合計画の基本構想では、今後 10 年間のまちの目指す姿として「人 と自然が彩る なんか居心地のいいまち くろまつない」がシンボルテーマとなった。黒松内の観光に ついて言及されている基本方針 1 では、「豊かな自然と資源を活かし、稼ぐ産業で幸せをつくる」がテ ーマとして取り上げられた。今まで設定されてきた交流人口増加という目標は、年間約 15 万人が黒松 内町へ一定の目的をもって訪れるようになったことで、十分な成果をあげたとも考えられる。そこで、 次は働き盛りの若い世代の生活を支えるだけの収入を得られる「生業」としての「観光」の実現、つま りは、観光業が従来の黒松内町の主要産業である農業や福祉産業を補完することができるのかが課題 となっている。前述の 20 代の女性を含めた若者がやりがいのある職を観光業の中で見つけ、黒松内町 のなかで家庭をもって定住し、少子高齢化に歯止めをかけることが期待されているのである。このよ うな新たな視点で観光をとらえなおす必要があった第四次黒松内総合計画の内容検討時期である 2019 8
-((44)) 黒松内町の課題~結婚適齢期の女性の定住と新たな産業としての観光 ここでは、黒松内町が総合計画の長期ビジョンに従った積極的な対応を行ってきた背景となる町の 課題について考えてみたい。黒松内町が直面する深刻な課題は高齢化と人口減少である。この状況を 深刻に受け止め、町では「黒松内町人口ビジョン」が 2016 年に策定されている。この資料によると、 町内人口が 7438 人であった 1955 年頃から、人口は減少し続けており、2040 年には 2000 人程度になる と予測されている。とくに年少人口の減少による少子高齢化が進展しており、2010 年には高齢化率は 35%となっている。まさに 3 人に 1 人が老年(65 歳以上)である。人口減少の主な原因は、1990 年ま では転出による社会減、近年は自然減となっている。2006 年に創設した移住窓口の取り組みが功を奏 し、移住者の増加によって、2009 年以降は社会増となっている。この点において、外部からの人口流 入のための積極的な移住政策の効果が表れている。一方で、出産数は減少傾向となっており、出産適齢 女性(15 歳から 49 歳)の人口減少が続いている。町内に高校がないことにより、高校大学進学による 若年層の転出がある一方で、75 歳以上の後期高齢者の転入が多い。これは、黒松内町が福祉のまちと して積極的に福祉施設を誘致し、町の経済発展のカギとしようと努力してきた成果でもある。転入に 関しては、福祉施設に入居する高齢者の割合が高く、全体として高齢化率を引き上げることとなって いる。地域を担う力になれるような若い年代の移住を推進していくことが課題となっている。 また、町内で生まれ育った若者が町外の高校・大学を卒業し、町内の福祉施設で就職するケースも少 なくない。この点で福祉施設を誘致したことは効果的ではあったといえるが、町内に戻って数年働き、 そののち都会へと転出してしまう傾向は、20 代女性に強いこともわかっている。結婚出産適齢期とな る 20 代女性の定住率が低いことで、出産を含めた人口増に結びついてないという問題が起こってい る。黒松内町は、農業と福祉が町の主要な産業となっているが、第一次産業である農業従事率は減少を 続けており、1975 年以降は福祉を中心とする第三次産業が町の雇用の中心となっている。近年は全就 業人口の約 70%がこの第三次産業に従事しており、特に女性は福祉施設での就労割合が高い。高校や 大学進学において町外へ転出し、卒業後町内に就労のために戻ってきた若者が、そのまま定住し続け たいと思うようなまちづくりや、家庭を持って生活を支えることのできる産業の確保が黒松内町に求 められている。以上が、従来主力となってきた農と福祉以外の新たな稼げる産業として、観光が着目さ れている背景である。 ((55)) 黒松内町第四次黒松内総合計画における観光 2020 年 4 月に施行した第四次黒松内総合計画は、従来からの「ブナ北限の里づくり」基本構想を継 承しつつも、前述した黒松内町が直面する課題にどう対処した新しいビジョンを打ち出せるのかが新 たな課題となった。第四次黒松内町総合計画の基本構想では、今後 10 年間のまちの目指す姿として「人 と自然が彩る なんか居心地のいいまち くろまつない」がシンボルテーマとなった。黒松内の観光に ついて言及されている基本方針 1 では、「豊かな自然と資源を活かし、稼ぐ産業で幸せをつくる」がテ ーマとして取り上げられた。今まで設定されてきた交流人口増加という目標は、年間約 15 万人が黒松 内町へ一定の目的をもって訪れるようになったことで、十分な成果をあげたとも考えられる。そこで、 次は働き盛りの若い世代の生活を支えるだけの収入を得られる「生業」としての「観光」の実現、つま りは、観光業が従来の黒松内町の主要産業である農業や福祉産業を補完することができるのかが課題 となっている。前述の 20 代の女性を含めた若者がやりがいのある職を観光業の中で見つけ、黒松内町 のなかで家庭をもって定住し、少子高齢化に歯止めをかけることが期待されているのである。このよ うな新たな視点で観光をとらえなおす必要があった第四次黒松内総合計画の内容検討時期である 2019 年 9 月に、後述の平安女学院大学国際観光学部の観光フィールドワークが黒松内町にて実施された。 参加学生は将来の地域観光資源を活用したツアー提案のための共創的観光活動体験を黒松内町の地域 住民とともに行った。この結果は、黒松内ぶなの森自然学校(2020a)にてまとめられ、第四次総合計 画策定段階の黒松内町にも参考資料として提出されている。次章では、このフィールドワークの概要 について述べる。
第 3 章 平安女学院大学フィールドワークの概要
((11)) 研修の行程 平安女学院大学国際観光学部では、正課内の実習科目として 2019 年 9 月 2 日(月)から 9 月 8 日 (日)まで 6 泊 7 日で北海道札幌市・小樽市及び黒松内町にて「観光フィールドワーク(国内)」を実 施した。大学 2~4 年生(20 歳前後の女性)28 名が参加した。9 月 2 日に関西空港より千歳空港へ移動 し、3 日間、札幌市内のホテルに宿泊した。札幌市内の研修を 9 月 3 日まで行い、9 月 4 日には小樽市 内研修、9 月 5 日朝から 3 日間黒松内町に宿泊し、黒松内町にて研修を行い、9 月 8 日の朝に黒松内町 を出発し、洞爺湖有珠山ジオパークを経由した後、千歳空港から関空へ移動した。このフィールドワー クでは、北海道地域の特性を生かした観光資源への理解を深める」こと、さらには、「エコツーリズム の方法と課題についての理解を深める」ことをテーマとし、「持続可能型観光」の実践を体験すること で観光学・観光産業のこれからを考える能力を身につけることを大きな課題とした4。 ((22)) 黒松内での研修内容 黒松内町で行われた研修は、黒松内ぶなの森自然学校のメンバーによるプログラムにそって実施さ れた。宿泊は、ホテル宿泊タイプの歌才自然の家、寝袋での宿泊となったぶなの森自然学校の両タイプ を経験した。プログラムでは、地域の有識者による講話(写真 1)、地域観光資源を活用した新たなツ アー提案を目指した共創型観光体験が盛り込まれた。具体的なスケジュールは、以下のとおりである。 9 月 5 日 午前 バスで移動 午後 トワ・ヴェールⅡ(道の駅)ピザやパンなどの昼食、地域の有識者による講話 9 月 6 日 午前 料理体験/そば打ち体験 午後 ジャガイモ堀体験(共創型観光体験)、チーズ工房で講話 9 月 7 日 午前 歌才ブナの森トレッキング 午後 マウンテンバイク、釣り、ブナ木工(共創的観光体験) 自然資源とエコツーリズムについて(ブナセンター) ふりかえりワークショップ(ブナセンター) 9 月 8 日 午前 バスで移動写真 1 地域の有識者による講話(2020 年 9 月 5 日筆者撮影)
第 4 章 研修前後におけるアンケート調査比較
((11)) 調査目的と方法 黒松内での研修(2019 年 9 月 5 日~8 日)を実施するにあたり、その研修の効果を確認するととも に、今後の黒松内町における新たな観光ツアーを開発するための参考資料として活用することを目的 として、研修参加者全員に、研修前(初日地域の有識者による講話終了後)と研修後(最終日黒松内町 出発後)に Web アンケートを実施した。そこでは、参加者全員の 28 名の有効回答を得た。研修前のア ンケートでは、北海道来訪歴を含めた属性に加え、初日講話を聴いた段階で黒松内について気になる 内容や、この研修そのものの期待度、それぞれのアクティビティの期待度などをたずねた。研修後のア ンケートでは、研修での講話、観光体験、食事、宿泊などの全体的な満足度(5 点評価)に加えて、そ の理由、黒松内の魅力、研修での一番の学び、全体を通じた感想について回答を求めた。 ((22)) 北海道来訪歴と期待度と満足度の分析結果 研修前アンケートでは、北海道訪問歴、さらには今後のアクティビティに関する期待度(5 点評価) について回答を求めた。北海道訪問に関しては、訪問歴があるとの回答が 15 名(札幌が 10 名、小樽 8 名、函館 3 名、ニセコ、富良野が 2 名、礼文、利尻、ルスツ、登別が各 1 名)、黒松内町を訪れたこと がある人はいなかった。そのため、すべての回答者が黒松内町での観光経験は初めてであることが確 認された。前後アンケート調査で比較が可能である項目を抜き出し、期待度と満足度の 5 段階評価平 均とその差異について記したものが表 2 である。すべての観光体験において満足度が期待度の評価を 上回る結果となった。 10-写真 1 地域の有識者による講話(2020 年 9 月 5 日筆者撮影)
第 4 章 研修前後におけるアンケート調査比較
((11)) 調査目的と方法 黒松内での研修(2019 年 9 月 5 日~8 日)を実施するにあたり、その研修の効果を確認するととも に、今後の黒松内町における新たな観光ツアーを開発するための参考資料として活用することを目的 として、研修参加者全員に、研修前(初日地域の有識者による講話終了後)と研修後(最終日黒松内町 出発後)に Web アンケートを実施した。そこでは、参加者全員の 28 名の有効回答を得た。研修前のア ンケートでは、北海道来訪歴を含めた属性に加え、初日講話を聴いた段階で黒松内について気になる 内容や、この研修そのものの期待度、それぞれのアクティビティの期待度などをたずねた。研修後のア ンケートでは、研修での講話、観光体験、食事、宿泊などの全体的な満足度(5 点評価)に加えて、そ の理由、黒松内の魅力、研修での一番の学び、全体を通じた感想について回答を求めた。 ((22)) 北海道来訪歴と期待度と満足度の分析結果 研修前アンケートでは、北海道訪問歴、さらには今後のアクティビティに関する期待度(5 点評価) について回答を求めた。北海道訪問に関しては、訪問歴があるとの回答が 15 名(札幌が 10 名、小樽 8 名、函館 3 名、ニセコ、富良野が 2 名、礼文、利尻、ルスツ、登別が各 1 名)、黒松内町を訪れたこと がある人はいなかった。そのため、すべての回答者が黒松内町での観光経験は初めてであることが確 認された。前後アンケート調査で比較が可能である項目を抜き出し、期待度と満足度の 5 段階評価平 均とその差異について記したものが表 2 である。すべての観光体験において満足度が期待度の評価を 上回る結果となった。 表 2 参加型観光体験における期待度と満足度比較 写真 2 歌才ブナ林ガイド(2020 年 9 月 7 日筆者撮影) ((33)) 自由記述の分析からみた学生の学び~意識変化 事前アンケートにおける「講話を聴いた中で、今一番黒松内について気になることはなんですか?」 という設問の自由記述分析を行った。この分析において、樋口(2020)で開発されたソフトウェアであ る KH Coder 3 を使用し、頻出語を解析した。上位 3 位は観光(8)、客(5)ブナ、プログラム、お話、 交流、黒松内、体験(3)となった(文書単純集計結果は、文 27、段落 27、総抽出語数は 258、異なり 語数は 125)。また、事後アンケートにおける「今現在、黒松内のなにが魅力だと感じていますか?」 という設問にも同様の処理を行った。頻出語の上位 3 位は、自然(16)、魅力(10)、人(8)であっ た(文書単純集計結果は、文 42、段落 28、総抽出語数は 530、異なり語数は 177)。これらの言葉のつ ながりを分析するため、自由記述の共起ネットワークを調べた。事前アンケート分析では、図 2 にみ られるように「観光」を中心に多くの言葉が緩やかにつながっていたのに比べ、事後においては、図 3に示されるように「人」と「自然」を中心として語がつながっていることが確認できた。このことか ら、参加者は研修を受ける前は、自らが客(ゲスト)として客観的に観光する対象として黒松内町をと らえている傾向がみられる。一方で、研修を受けた後は、「人」「人々」「住民」「気持ち」「温かい」 などといった地域の「人」に重きを置いた語が頻出しており、地域の人とともに地域観光資源を活用し た新たなツアーを生み出すための共創型観光体験研修をうけ、同じ行動をすることによって単なるゲ ストという立場からホストである地域の人のことを同じ目線で考えられるようになったのではないか と推測される。また、共起ネットワーク分析を見てみると、従来から黒松内町が総合計画で主軸として きた「自然」「ブナ」「空気の良さ」といった豊かな自然の魅力も感じ取っていることが読み取れ、地 域資源の的確な理解がなされていることがわかる。食にも大きな関心があることが「食べ物」「美味し い」という語から理解できる。黒松内町が新たな産業として事業として生み出してきた「チーズ」も頻 出語として出てきており、若い世代の女性が魅力を感じるような「食」のプロデュースの効果がでてい ると推測される。 図 2 興味対象の自由記述共起ネットワーク(事前) 12
-に示されるように「人」と「自然」を中心として語がつながっていることが確認できた。このことか ら、参加者は研修を受ける前は、自らが客(ゲスト)として客観的に観光する対象として黒松内町をと らえている傾向がみられる。一方で、研修を受けた後は、「人」「人々」「住民」「気持ち」「温かい」 などといった地域の「人」に重きを置いた語が頻出しており、地域の人とともに地域観光資源を活用し た新たなツアーを生み出すための共創型観光体験研修をうけ、同じ行動をすることによって単なるゲ ストという立場からホストである地域の人のことを同じ目線で考えられるようになったのではないか と推測される。また、共起ネットワーク分析を見てみると、従来から黒松内町が総合計画で主軸として きた「自然」「ブナ」「空気の良さ」といった豊かな自然の魅力も感じ取っていることが読み取れ、地 域資源の的確な理解がなされていることがわかる。食にも大きな関心があることが「食べ物」「美味し い」という語から理解できる。黒松内町が新たな産業として事業として生み出してきた「チーズ」も頻 出語として出てきており、若い世代の女性が魅力を感じるような「食」のプロデュースの効果がでてい ると推測される。 図 2 興味対象の自由記述共起ネットワーク(事前) 図 3 魅力対象の自由記述共起ネットワーク(事後) ((44)) 意識変容の要因~ふりかえりワークショップでの学び 以上の分析結果から、研修参加者の意識が変化したことはわかったが、その変容の要因についても 検討してみたい。要因の一つに考えられるのが、プログラム最終日に実施された「ふりかえりワークシ ョップ」である(写真 3)。ここでは、研修で行った各観光体験について「自分にとってプラスだった こと」「自分にとってマイナスだったこと」について KJ 法を用い各参加者から意見を集め、最終的に は参加者視点(ゲストの視点)と受入側視点(ホストの視点)の両方の立場からの分類を行った。図 4 のそれぞれの場所に参加者の意見を書いたポストイットを貼り付け、自分の意見が参加者視点(ゲス トとしての視点)なのか受入側視 点(ホストとしての視点)なのか を明確にすることを行った。その ことによって、研修参加者は、研 修そのものの体験をゲストとし ての目線で見ていたかホストと しての目線でみていたかの振り 返りができ、さらにほかの人の意 見を学ぶことで自らの視点につ いて理解が深まったものと思わ れる。 図 4 振り返りワークショップで使用した分類表 (黒松内ブナの森自然学校(2020b)を参考に筆者作成)
((55)) 小括 全体的な期待度と満足度での調査結果では、より高い満足度が示されていることが分かった。さら に、研修当初に町の有識者から町の概要や現状を伝え聞いた段階では、漠然としていた地域の魅力に ついても、地域のホストとともに同じ目線で共創型観光研修を行うことで、地域のホストと同じよう な目線で地域を見られるようになってきたのではないかと思われる。さらにこれらの観光研修の最終 段階にて、振り返りワークショップで自分の意見を客観的に分類することによって、参加者はゲスト 側の視点に加え、ホスト側の視点も備える学びを得たのだと思われる。 写真 3 振り返りワークショップの様子(2019 年 9 月 7 日筆者撮影)
第 5 章 まとめ
平安女学院大学国内フィールドワークは、黒松内町第四次総合計画策定検討期間中に実施された。 今回の共創的観光活動は、黒松内町の総合計画における未来の観光の方向性を築くうえで重要なもの であったといえる。一方、参加者である学生の学びの側面からの意識変容が見られたこともわかった。 研修前には外部の一観光客としてのゲストとしての意識が主であったのが、研修後には地域における 「人」に着目するようになり、ホストである地域の「人」の立場を理解し、寄りそう意識へと変容して いったことが前後実施のアンケート分析からも読み取れた。これは、将来観光を生業とする可能性の ある観光学を学ぶ学生にとって必要不可欠となる有益な学びにつながるものである。また、研修後の 自由記載における共起ネットワーク分析結果から、「人」と「自然」が多くの言葉とつながるキーワー ドとして導き出されており、第四次黒松内町総合計画基本構想のシンボルテーマ「人と自然が彩る な んか居心地のいいまち くろまつない」に使われているキーワードとも一致する。 14-((55)) 小括 全体的な期待度と満足度での調査結果では、より高い満足度が示されていることが分かった。さら に、研修当初に町の有識者から町の概要や現状を伝え聞いた段階では、漠然としていた地域の魅力に ついても、地域のホストとともに同じ目線で共創型観光研修を行うことで、地域のホストと同じよう な目線で地域を見られるようになってきたのではないかと思われる。さらにこれらの観光研修の最終 段階にて、振り返りワークショップで自分の意見を客観的に分類することによって、参加者はゲスト 側の視点に加え、ホスト側の視点も備える学びを得たのだと思われる。 写真 3 振り返りワークショップの様子(2019 年 9 月 7 日筆者撮影)
第 5 章 まとめ
平安女学院大学国内フィールドワークは、黒松内町第四次総合計画策定検討期間中に実施された。 今回の共創的観光活動は、黒松内町の総合計画における未来の観光の方向性を築くうえで重要なもの であったといえる。一方、参加者である学生の学びの側面からの意識変容が見られたこともわかった。 研修前には外部の一観光客としてのゲストとしての意識が主であったのが、研修後には地域における 「人」に着目するようになり、ホストである地域の「人」の立場を理解し、寄りそう意識へと変容して いったことが前後実施のアンケート分析からも読み取れた。これは、将来観光を生業とする可能性の ある観光学を学ぶ学生にとって必要不可欠となる有益な学びにつながるものである。また、研修後の 自由記載における共起ネットワーク分析結果から、「人」と「自然」が多くの言葉とつながるキーワー ドとして導き出されており、第四次黒松内町総合計画基本構想のシンボルテーマ「人と自然が彩る な んか居心地のいいまち くろまつない」に使われているキーワードとも一致する。おわりに
黒松内町では、少子高齢化が近年の深刻な課題となっており、若い世代が住み続けたくなるような 地域づくりが求められている。喫緊の課題となっているのは、結婚出産適齢期となる 20 代女性の定住 率が低いということである。今回の黒松内町で共創的観光活動に参加した学生は、20 歳前後の女性で あり、黒松内町が強く定住を希望するターゲット層と一致する。学生たちは、通常は京都という都会で 学び、都会での生活の利便性を知っている。これは、黒松内で生まれ育ち、就学によって都会の生活の 良さを知った 20 代女子とも通ずるところがある。今後観光業を酪農、福祉に続く産業の柱としようと している黒松内町にとって、観光を志す学生が黒松内町の何に魅力を感じたのかを知ることは、黒松 内町が課題とする結婚出産適齢期となる 20 代女性の将来の定住率が改善するヒントにもなったのでは ないかと思われる。また、彼女たちとともに観光活動を行ったホスト側の地域の方々への事後の聞き 取り調査結果から、今回の共創的観光活動によって、自らの住む地域にある豊かな観光資源の新たな 活用価値を見出すきっかけになったとの声もあった。今回の共創的観光活動が、黒松内町の持続可能 な観光と地域発展のために、役立ったのであれば甚幸である。謝辞
本研究調査に協力してくださった黒松内町内の多くの関連機関の皆様、プログラム参加者、黒松内 ぶなの森自然学校の皆様に深く感謝いたします。 【註】 1. 黒松内町(2020)「町の基本情報」http://www.kuromatsunai.com/towninfo/ 2020/08/25 アクセス 2. 本論文で使用するホスト、ゲストの定義については、ヴァレン・L ・スミス編(2018)『ホスト・ア ンド・ゲスト 観光人類学とはなにか』(市野澤潤平・東賢太郎・橋本和也監訳、ミネルヴァ書房) を参考にしている。 3. 黒松内町まちづくり推進委員会の委員募集が第四次総合計画のもとでも継続実施されている。令和 2 年 4 月 1 日~令和 5 年 3 月 31 日まで(3 年間)の任期となっている。 http://kuromatsunai-news.sblo.jp/article/187301483.html 2020/09/25 アクセス 4. このフィールドワーク研修に先駆けて事前指導として昼休みを利用した 11 回の事前指導が行われ、 さらに事後指導が実施されたのち、課題としてのレポート報告もなされている。 【参考文献】 大塚 正行(2019)「「共創」とは何か」『共創学』第 1 巻 1 号,pp61-66. 越智 正樹(2019a)「解題:観光の社会的効果というテーマ」『西日本社会学会年報』第 17 巻, pp1-6. 越智 正樹(2019b)「教育旅行民泊における平準化と個性維持:観光アクター間での価値規範の共創につ いて」『西日本社会学会年報』第 17 巻,pp33-46. 黒松内町(2016)「黒松内町人口ビジョン」(2016 年 3 月) http://www.kuromatsunai.com/town/osirase/pdf/jinkouvision.pdf 2020/09/25 アクセス 黒松内町(2020)「人と自然が彩るなんか居心地のいいまち くろまつない 第四次 黒松内町総合計画基本構想」(2020 年 3 月)http://www.kuromatsunai.com/masterplan4/kuromasterplan4.pdf 2020/09/25 アクセス 黒松内ぶなの森自然学校(2020a)「京都平安女学院大学 国際観光学部 フィールドワーク研修 2019 ・9/5-8 事前・事後アンケートまとめ」(2020 年 1 月)(未公刊) 黒松内ぶなの森自然学校(2020b)「京都平安女学院大学 国際観光学部 フィールドワーク研修 2019 ・9/5-8 ふりかえりワークショップまとめ」(2020 年 1 月)(未公刊) 菅沼明正(2015)「着地型観光への取り組みが持つコミュニティ構築機能の社会学的考察―熊本県水俣 市の民間教育旅行機関による体験プログラム開発活動を事例として―」『観光研究』第 26 号第 2 巻,pp.95-105. 高木晴光(2008)「黒松内ぶなの森自然学校の役割」敷田麻実編著『地域からのエコツーリズム』学芸 出版社 樋口耕一(2020)『社会調査のための計量テキスト分析』(第 2 版)、ナカニシヤ出版 北海道黒松内町(2012)「自然にやさしく人にやすらぎの田舎 ブナ北限の里づくりをめざして」2012 年 7 月 http://www.kuromatsunai.com/town/bunanosato/pdf/bunasato20120702.pdf 2020/09/25 アクセス 森重昌行(2014)『観光による地域社会の再生-オープン・プラットフォームの形成に向けて』現代図書 (やまもと よしか 平安女学院大学国際観光学部) (もうり けんいち 平安女学院大学国際観光学部) (おおるい さちこ 黒松内ぶなの森自然学校) 16