1 . はじめに
「生活科」 は 1989 年の学校教育法施行規則により, 初 めて設置された 「教科」 である. しかし, 設置頭初から, それまでの 「理科」 と 「社会」 を廃止してまで置く意義 の不明確さや, 規範意識や適応主義を子ども達に身に付 けさせる 「第 2 道徳」 ではないのかといった懸念, ある いは教師の指導を抑制し, 子ども達に活動や体験をもっ ぱら重視するのみなどといった批判があった. 今現在も, 教育現場ではカリキュラムに則って子ども 達を活動させることに重点が置かれていて, この活動や 体験から何を子ども達に学ばせようとするのか明確では ない. 要するに, 活動や体験をすることに目標が置かれ ていて, そこから見える, 地域の人々の暮らしや自分の 暮らし, あるいは自然界の現象や社会のこと, もの等に 対して深める学びは放棄されている. 概して今日までの生活科教育は 「生活上必要な習慣や 技能」 を身に付けさせ, 自立へと導く 「教科」 として謳 われてはいるが, 生活における科学の視点を欠如させた まま, 生活科自体が極めて軽視され, 現場に混乱をもた らしてきたといっても過言ではない. こうした状況に対して, 小学校学習指導要領解説 生活編 においても, 「指定校の調査などによると, 学 習活動が体験だけで終わっていることや, 活動や体験を 通して得られた気付きを質的に高める指導が十分に行わ れていないこと」, 「表現の出来映えのみを目指す学習活 動が行われる傾向があり, 表現によって活動や体験を振 り返り考えるといった, 思考と表現の一体化という低学 年の特質を生かした指導が行われていないこと」, 「児童 の知的好奇心を高め, 科学的な見方・考え方の基礎を養 うための指導の充実を図る必要があること」 が生活科教「生活を科学する」 生活科実践の検討
今
井
理
恵
日本福祉大学 子ども発達学部澤
田
好
江
公立小学校教員A Study of Life Enviroment Studies Class Practice
which Scientific Approach to Life
Rie IMAI
Faculty of Child Development, Nihon Fukushi University
Yoshie SAWADA
Teacher of Primary School
Keywords: 生 活 科 教 育 , 教 科 指 導 , 科 学 的 認 識 , 探 求 的 学 び , 自 立
実践報告
育の改善の基本方針として明確に指摘されている1. これらの指摘から鑑みても, 生活科が真に生活を科学 する教科として位置づくために, 科学的認識の視点をもっ て生活科の指導にあたることは喫緊の課題である. 戦後, 教育の民主化の歴史的展開において教育におけ る科学と生活の結合の問題が指摘されてきたことは周知 のとおりである. 今日の我が国における貧困問題, 格差 社会, 雇用不安等をはじめとした私たちの生活を取り巻 くさまざまな社会的問題が, 子どもの成長発達に著しい 影響を及ぼしていることは間違いない. それゆえに, 生活科教育を体験主義・活動主義的な実 践に終わらせることや, 科学を重視する 「系統主義」 あ るいは子どもの生活を重視する 「経験主義」 そのどちら かに傾斜するのではなく, 子どもの発達にとって, あら ためて科学と生活とを互いに往還させ, その統一的把握 において生活科教育を再構築していくことが不可欠であ る. 本報告では, 子どもの身近な生活を学習の対象世界と し, 科学的認識を持って 「自然認識」 「社会認識」 「人間 認識」 を子ども達に身に付けさせる生活科として構想す ることがその回答になるのではないかと考え, 実際に指 導した生活科実践を以下に述べるものである. (今井・澤田)
2 . 澤田好江氏の生活科教育を捉える実践枠組
み
生活科教育は, 「自分と身近な人々, 社会及び自然と のかかわりに関心をもち, 自分自身や自分の生活につい て考えさせる」 ことを目標としている. 本報告で提起 する澤田好江氏の実践 (以下, 澤田実践とする.) では, 生活科教育で掲げられているこの目標を, 「自然認識」 「社会認識」 「人間認識」 と捉える. そのように捉える理 由は, 自然, 社会, 人間に関する問題に対して子ども達 が自分とは関係のない外側の世界にあるものとしてみる のではなく, 自分や自分たちの生活と結びついている切 実な問題として意識的に捉えて生活を問い直していく実 践を志向するからである. さらに, 「はじめに」 でも指摘したように, 科学的認 識の視点をもって教科指導にあたることを生活科の課題 として捉えている澤田氏は以下の 3 点を意識的に実践し ている. 第一には, 気付きの質を高める探究的学び, 第二には, 現代的課題への追求を通して科学的な見方・考え方の基 礎を養う学び, 第三には, 生活を契機に自立への基礎を 養う学びである. ここでは, 澤田実践を読み解く実践枠組みを提示する ことにとどめ, 上記の 3 点について実践に基づく解説は 後に述べることとする. (今井)3 . 生活科教育の指導実践
低学年の子ども達の認識発達のすじみち 低学年の子ども達の認識発達は, 「未分化」 だと今ま で指摘されてきた. この 「未分化」 とは, 「思考」 と 「活動」 とが分化していないこと, 要するに 「主体」 と 「客体」 が分化していないことを意味する. 子ども達は, 「自分の体験したことだけが絶対である」 と捉えたり, 「自分がそう思ったから, 思い通りになる」 と, 捉える ことがよくある. 自分が見聞きしたことだけから, 全体 を判断する傾向である. また, 「未分化」 とは, 子ども 達が目の前にある事物やことがらを分化して捉えること が難しいという意味でもある. 物事の本質は常に 1 つし かないと考えたり, 1 つのことがらが全ての物事に適応 するものと考えたりする傾向である. しかし, これらは 子どもの発達史上, 当たり前のことであって, そこから 「他者」 を媒介に 「未分化」 から 「分化」 へ発達してい く, 発達途上の過程に子ども達がいるのだという認識を, 我々はもつべきであろう. したがって, 「未分化」 を 「分化」 へ発達させていく プロセスとして以下のような指導, 支援が必要である. 1 ) 身の回りの事物 (もの, こと, ひと) や, 現象に 対して問を立てさせる. 2 ) 身の回りの事物に働きかけさせる. 3 ) 五感を使って事物を観察させたり, 特徴, 特性を 記述させたりする. 4 ) 分かったことがらを, 比較, 分類, 系列化, 整理 させる作業を行わせる. 5 ) ことがらについて, 自分の疑問や考えを表明する 機会をつくる. 6 ) 自分の疑問や意見等を他者と共に共同の学びとし て意見交換, 交流する機会を重視する. このような学びを通して, 生活科は自然認識, 社会認 識, 人間認識を養う教科として位置付かせることができ るのではないかと考える.年間指導計画 「たねって何?」 (小学 2 年生対象 6 時間完了) 2014 年 5 月実施 <目標> ① 私たちが食べる野菜や果物, また野山に咲く草花等 には結実した後に必ず種ができ, その種によって 「種 の保存」 が成り立っていることを理解する. ② 野菜や果物, 草花の種は必ずしも全てが発芽するわ けではないことを理解する. (発芽条件の違い, 種のもつ固有性=出来, 不出来に も着目させる) ③ 学校で育てるミニトマトの種や, 家からもってきた 野菜や果物, 野山で採ってきた草花の種を観察させ, 発芽させてみる. ④ 「たねとは何か」 考えを出し合い, 討論する. <方法> ミニトマトはひとり一鉢ずつ, 各自で種まきから発芽 させ, 水やり, 施肥を通して, 結実までを観察させるも のである. この実践は, ミニトマトの種まきの前に, 種 を観察させ, 実際のミニトマトの中身の種との関係を考 えさせることで, 今から播こうとする種は実はミニトマ トの実の中の種と同じものであることに気づかせること をねらいとする. 具体的には, ひとり半粒ずつ, ミニト マトの実をつぶして中の種を洗って取りだし, 乾かした 種と植木鉢に播こうとする種とを比べて観察させ, 実か ら取り出した種は教師が植木鉢に播いて育てていく. ま た, 家からもってきた野菜や果物, 花の種, 校庭で見つ けたタンポポの種等も教室でカップ等を使って発芽させ てみる. 2 年 生 活 科 年 間 指 導 計 画 学期 月 単 元 名 1 学 期 4 まちをたんけん 大はっけん 5 こうえん たんけん 春の草花さがし 木のようす見学 ぐんぐんそだて みんなのやさい めざせ 生きものはかせ 6 ちさん・ちしょうって何? でんとうやさい 「まな (真菜)」 を知 ろう (時間に余裕のない場合は 11 月∼1 2 月でも可) たねって何? のうかの人に, やさいのそだて方を聞 こう ミニトマトをそだてよう 夏やさいをそだてよう サツマイモのなえをうえよう いきものをつかまえよう すみかをつくろう ザリガニ (カマキリ, バッタ) をかっ てみよう 7 夏の草花さがし 木のようす見学 2 学 期 9 店・こうきょうしせつたんけん 紙しばい作り 夏やさいをしゅうかくしよう 10 あそんで ためして くふうして おまつりをしよう お客におもちゃの作り方を教えよう 11 秋の草花・実さがし 木のようす見学 いもほり 12 ほったいもでちょうりをして食べよう 3 学 期 1 冬の草花さがし 木のようす見学 ひろがれ わたし こんなことができるようになったよ 2 あかちゃんはどうしてできるの おなかの中のあかちゃん おへそのやくめ いのちのつながり じょさんぷさんに聞きました 友だちのいいところ 3 どうするほうしゃせん・ほうしゃせい ぶっしつ
<指導の実際> 子ども達は, ミニトマトの教材の種と, 実際に実から 取り出した種とは 「同じ」 と, 「違う」 で意見が分かれ た. 個人の意見交換の後, 班討論をさせて出てきた意見 が下記のものである. ① 教材の種と, ミニトマトの実からとった種は形と色 が同じだから同じものだ. ② 他の食物も食べたあとの種から芽が出たから, この ミニトマトの実の種もきっと芽が出るだろうから同じ. (実際に, 子ども達の持ってきたブドウ, キウイ, メ ロン, オレンジ, リンゴの種や校庭で採ったタンポポ の種から発芽していた) ③ ミニトマトはミニトマトの種しかできないし, ミニ トマトの中から出た種だから同じ. ④ 班の A 君が家で, ミニトマトを育てていて, やっ ぱり実の中から同じ種が出てきたと言っているから同 じ. ⑤ 店で売ってる種 (教材の種) と, ミニトマトの中か ら出てきた種は違う. だって, 絶対播いたら芽が出る とは限らないから. (実際, 発芽しない果物の種があ り, タンポポの種も 3 分の 1 くらい発芽しなかった.) 子ども達の討論は活発で, 「同じだ.」 と意見を言う多 数の子どもの中でも 「違う.」 と反論する子どもが数人 いた. 彼らは, 市販の種には何か加工してあるのではな いかと疑っている?がみられたが, うまく言葉で表現で きないようでもあった. 筆者は両方とも 「正解」 とした. すなわち, ミニトマトの中身の種は, 明らかにミニトマ トの種であることから, 今播こうとしている種は, 「同 じ種」 である. しかし, 市販の種は必ず発芽するように 加工され, 商品としての種であるから純粋に 「同じ」 と は言えない面もある. しかし, 「種とは何か」 の問には 「次のミニトマトをつくるもと」 とか 「埋めたら芽がで るもの」 「植物にはみんな種があって, 埋めれば芽が出 て花が咲きまた同じ実ができる.」 と, 詳しく説明する 子どももいた. また, 教室内でカップを使って, 家で食 べた後, 出てきた野菜や果物の種や校庭のタンポポのわ た毛を埋めて発芽するか, わくわくしながら毎日見守る 子ども達の姿が見られた. 発芽したそれらの植物の芽は, 種類ごとにプランターや鉢に植えかえて育てていくこと にし, 発芽しなかった種はどうしてなのか, カップの中 身を取りだして調べてみた. 水のやりすぎによりくさっ てしまった種や, どこにあるか分からない状態の種など の様子に, 子ども達は全ての種が発芽するとは限らない ことも学んだ. 「山田さんから聞きました」 (小学 2 年生対象 3 時 間完了) 2014 年 5 月実施 <目標> ① 学校の裏の畑で野菜を育てている農家の 「山田さん (仮名)」 から, 野菜作りについて, 大切なことを聞き, 農業の大変さや楽しさを知る. ② 自分たちが, 野菜の苗を植える前に, 特に注意しな ければならないことを聞く. <方法> 山田さんは, 孫が本校に通っているということもあっ て, 農業, 特に畑での野菜作りの苦労する点や, 楽しさ などを子ども達に語ることを快く承諾した. 山田さんが 夏野菜の苗を植える日に, 30 分ほど作業風景を見させ, 質問に答えてもらう時間を設けた. 質問はあらかじめ, 子ども達と相談しておいた. 「生活科コーナー」 「家で食べた果物等の種の発芽実験」 「タンポポのわた毛から発芽したよ」
<指導の実際> 当日は, キュウリ, オクラ, ナスの苗を植え, それぞ れ苗の回りをビニル袋で囲っている場面を見学すること ができた. 子ども達からの質問は以下のようなことであっ た. ① 今, 植えている苗は何か?→キュウリ, オクラ, ナ ス ② 野菜作りでいちばん苦労することは何か→草取りと, 虫がつかないように注意することと病気にかからない ようにすること. うちはあまり, 農薬を使わないよう にしている. 苦労もあるが収穫できたときは, とても うれしい. ③ 枝豆は育てにくいか→枝豆は虫がつきやすく, あま りとれない. けれど枝豆はそのままにしておくと大豆 という豆腐や醤油の原料になる豆になる. ④ なぜ, 苗をビニル袋で囲むのか→せっかく植えた苗 が風で折れるのを防ぎ, うまく根付くまで守ってやる ため ⑤ 野菜の苗を植えるときに注意することは何か→土を よく耕し, 肥料や苦土石灰を先に入れておくとよい. 苗を植える土にたっぷり水をやっておいてから植えて やり, その後もたっぷり水をやる. 質問以外にも, 子ども達は 「ぼくの家でもきゅうりを 作っている.」 とか, 「冬は何を作るの?」 とか 「花が咲 かないと実ができないんでしょ.」 などと話しかけてい た. 教室に帰ってから 「みつけたよカード」 に, 働く山 田さんの姿と質問や話から分かったことを書かせた. そ の後, 自分たちで, 草取りをし, 畝作りをしてから, 自 分たちの育ててみたい夏野菜の苗植えをした. 子ども達 は山田さんの言った通り, 苗を植える前と後, たっぷり 水をやり, 風で倒れないように添え木をタブロープで結 んだ. 夏野菜はオクラ以外はほぼ豊作であった. 「店探検」 (小学 2 年生対象 15 時間+授業後再探 検) 1998 年 9 月実施 <目標> ① 自分たちの住んでいる地域の店屋を探検し, 店屋の 仕事や工夫, 労働することの大変さや喜びを知ること ができる. ② 調べてきたことを, グループでまとめたり, 検討し たりして, 分担して 「店屋さんの 1 日」 という紙芝居 を作成する. ③ 紙芝居をグループで発表し合い, 店屋さんに共通す る客への接待や収入を得る工夫等について理解し合う. <方法> 地域にある店屋へ探検依頼をあらかじめ, 教師側の方 からお願いをしておく. 事前に, 子ども達がそこで買い 物をした体験や, 店の様子など, 知っていることを発表 させ, 共通理解をはかった上で, 子ども達が探検したい 店屋ごとのグループを組む. 子ども達には, 「店屋さん の 1 日」 という題で紙芝居を作成することを課題とし, 店屋さんにインタビューし, 質問したいこと, 知りたい こと, 見たいことなどを, 明確に目的化させ, あいさつ の仕方, お礼の言い方等の練習もさせておいた. 探検当 日は, 子ども達の安全を守るために, 保護者の協力を得 て, 各グループに付き添ってもらった. 子ども達は, 授 業で探検してきた内容からだけでは紙芝居ができないと いうことが分かり, 筆者付き添いのもと, 再探検を授業 後行った. 「花がさかないときゅうりができない. きゅうりには ちくちくがあるのとないのとがある. きゅうりは大き くなりすぎると中が白くなる. オクラは中にたねがあ る. うえるまえにたっぷり水をあげる. えだまめは, 虫がつくからあまりとれない.」
<指導の実際> 子どもの紙芝居 「魚やさんの 1 日」 ① わたしたち 1 ぱんは, 「魚○」 という魚やの店に行 きました. 魚やなので, おじさんは朝4 時半におきて, 5 時からのせりのじゅんびをします. トラックで半田 の魚市場に行って, しんせんな魚などをし入れてトラッ クにつんで, お店にむかってはしってきます. ② 半田市場から帰ってきました. トラックからいろい ろな魚をおろしました. そうして, 店に入ってさっそ くしごとです. はじめに, かに, たこなどをなべに入 れてゆでます. それがおわったら, つぎは魚をきれい にならべます. ③ 昼になりました. やっときゅうけいになりました. 昼ごはんをたべてから, すぐにまたしごとがあります. さしみを切ったり, いそがしいしごとのはじまりです. ④ 夕方には, のこり物を出さないようにします. どう してものこった時は, レストランの人がのこった魚を もらってりょうりします. ⑤ きょうは, 魚がぜんぶ売れました. おじさんは, に こにこしておばさんといっしょにトラックで半田の方 へ帰って行きました. 魚屋のおじさん, おばさん, ご くろうさま.
「ちさんちしょうってなに?でんとうやさい まな を知ろう」 (小学 2 年生対象 24 時間完了) 2009 年 6∼7 月実施 <目標> ① 身近な食材の栄養, 体に与える効果, おいしい食べ 方などを調べることによって, 「食」 に対する関心, 探求しようとする意欲を養う. ② 身近な食材の生産地や流通経路などを調べることに よって, 私たちの食べる食材が外国産にたよっている 現状や, 生産地から市場や農協, さらにはメーカーか らメーカーに売られ, いくつもの過程を経て食卓にの ぼる現状を理解する. ③ ファーストフードのハンバーガーやコンビニ弁当が ほとんど外国産の食材で作られている現実を知り, こ れからの私たちの 「食」 のあり方を考えるきっかけと する. ④ 地域において, 「地産地消」 を推奨している事業や, 地域特産物 「真菜 (まな)」 を作り続けている農家が あることを理解し, 地産地消事業を進めているあぐり ん村の方や役場の田園バレー課の方, 「真菜」 の生産 者の方々との交流を進める. また, 流通経路を調べる 中で, 身近な店屋の方との交流も深める. <方法> 「食」 に関する指導は 「各教科等の指導内容・方法を 生かしつつ教科横断的な指導として関連付け, 体系的に 理解させることが重要」 であると, 「食に関する指導の 手引き」 (2007 年 文部科学省) に書かれている. した がって本実践は, 各家庭で購入されている食材に着目さ せつつ, ふだんの生活における食糧自給率低下の問題と 地域で取り組まれている地産地消, 伝統野菜を栽培し続 けている農家の人々の営み, またファーストフード等の 食材の原産国に着目させた授業展開を模索した. 自分た ちが毎日食べている食材の中から 1 品を選び, 栄養や, おいしい食べ方, 食材を買うときの注意などを保護者の 協力を得ながら, 調べさせる. その時に, その食材が家 庭に届くまでの流通経路も同時に店屋や保護者の協力を 得ながら, 調べさせておく. 地域の食品店には筆者の方 から事前に授業の趣旨と, 保護者同伴で, あるいは子ど も達のグループで質問をしに伺うことの了承をとってお く. また, 保護者には家で食べている食材の生産地を示 す箱やラベル等をしばらく集めさせておいていただく. 次に, その食材の生産地を, パッケージや商品について いる生産地を表示したラベル等を活用して, 日本地図 (ふりがな付き) や, 世界地図に貼り出す. 低学年で, 漢字がまだ読めない部分は, 保護者の協力を得る. そう することによって, 私たちが毎日食べている食材が日本 国内はもちろんだが, 遠く外国産の物が多いということ に気づかせ, 農民新聞 (2000 年 12 月号・号外) の記事 からコンビニ弁当やハンバーガーの食材がほとんど外国 産の物であることに気づかせる. また, 地域で地産地消 に取り組んでいる田園バレー課の人々や地産地消の店を 経営している人, 伝統野菜 「真菜」 を 400 年以上代々受 け継いで生産している農家の方々から直接話を聞くこと で, 地産地消への取り組みとその意義について理解させ る. <指導の実際> この学びを通した子どもの感想 ① ぼくはハンバ―ガ―のざいりょうについてしらべま した. ぼくは, ハンバ―ガ―を買いに行ったことはいっ ぱいあるけど, まさか, ぜんぶ外国のものとは知りま せんでした. あじはおいしいけど, なんか, 食べたく ない気がしました. あと, はっぴょうはきんちょうし たけど, うまく話せたり, ちゃんとできたりしたと思 います. あと, まなはおいしいと思ったし, 「ちさん ちしょう」 っていみがはじめてわかりました. あと, ぼくは生活科はすきだし, だから生活科がつまらなかっ たことはないです. まだ, これからもいろいろと生活 科をいっぱい楽しくべんきょうしたいです. まなが, ちさんちしょうってことはわかったけど, さいしょは ちさんちしょうのいみはわかりませんでした. でも, きょう, そこのとちでとれたものをそこでたべるとい ういみがわかりました. 生活科のべんきょうをがんば りたいです. ② わたしはふだんたべるものは, 外国さんのものが少 ないと思っていました. でも, みんなが家からもって きたたべもののパッケージをしらべたら, 外国さんの ものばかりで, 「そんなにあるんだ」 と, 思ったらた べたくないと思いました. だから, お父さんもお母さ んもハンバ―ガ―とかたべないことがわかりました. ハンバ―ガ―の店のざいりょうは何日もかかって日本 にはこばれているとは知りませんでした. 「まな」 に ついてもいろいろべんきょうになって, 外国さんいが
いのやさいをいっぱいたべたいと思います. ちさんち しょうで, 元気にすごしたいと思います. ③ 外国さんのにくややさいは安いことがわかりました. ハンバ―ガ―とコンビニべんとうのざいりょうは, ぜ んぶ外国からくることがはじめてわかりました. あぐ りん村へ見学に行くのはつかれたけど, 行ってみたら すごいところでした. 「まな」 が売られてなくてざん ねんでした. (冬しか売られていません.) 実際の授業の資料と様子 「ひろがれ, わたし」 (小学 2 年生対象 14 時間完 了) 2014 年 1∼2 月実施 <目標> ① 赤ちゃんがどのようにしてでき, お母さんのお腹の 中でどのように大きくなっていくのか理解する. ② 赤ちゃんの頃から今までの生活の中で, できるよう になったこと, 成長したと思われることに気づかせ, 皆の共通理解のもとで, その子どもの良い面を皆で承 認し合うことによって, 自己肯定感をもたせる. <方法> 人体図を使って, 男女の体の違い=子宮や卵巣, 睾丸 やペニス等の違い, 赤ちゃんがどうやって生命を宿すの か, 卵子と精子の受精について理解させる. 次いで, お 母さんのお腹の中でおよそ 10 ヶ月の間, 赤ちゃんがど のように大きくなり, おへそや胎盤, 羊水などの役割に ついて, 写真の説明や身近な助産婦さんの話を聞かせて 理解させる. さらに, 自分がここまで大きく成長したこ とを実感させるために, 今現在の手形, 足形と赤ちゃん 時代のそれとを比較させたり, できるようになったこと を皆で話し合ったりして, お互いの成長を確かめさせ, 子どもひとりひとりの体の形をB紙にとり合い, その人 型にその子の良い面をみんなで書き込ませる. <指導の実際> この学びを通した子どもの感想 ① らんしとせいしが, 合体して赤ちゃんが生まれるこ とがはじめてわかった. らんしは 0・ 2 ㎜, せいし は 0・ 06 ㎜だったこともわかった. らんしの中にせ いしが入ったしゅんかん, パッとバリアをしてほかの せいしがはいらないようにしたことがびっくりした. せいしはおたまじゃくしのような形だった. 赤ちゃん がおなかの中にいるとき, 心ぞうが赤っぽい色だった んだね. 目玉は見えなかったけど, まゆ毛は白かった よ. ② わたしたちが生まれてきたのがきせきてきなので, この 1 つの人生をだいじにすごしていきたいと思いま す. ③ お母さんに 「赤ちゃんが生まれるのって, どれくら いいたいの?」 と, 聞いたら 「スイカをはなのあなに つっこむぐらいだよ.」 と, 教えてくれました. ぼく は男の子なので, 子どもはうめません. いのちのつな ① 生産地調べ (日本地図にシールをはっていった) ② 子どもの集めた食材の生産地表示 (外国産が多い) ③ 「真菜を知る会」 生産者の話 ① ② ③
がりはすごいと思いました. これまで生きてきた人に かんしゃしたいです. ④ ひいばあちゃんや, ひいじいちゃんたちが生きてい てくれたので, ぼくたちは生まれました. 生きていて くれてとてもかんしゃします. ⑤ ぼくがいちばん元気なせいしだったから, ぼくがこ のせかいにうまれました. ⑥ いのちはとてもたいせつなんだなと, 思いました. お母さん, お父さんがとってもしんぱいして, そだて てくれたおかげでわたしは今いるんだな. もし, ちが うせいしがらんしに入っていたら, わたしとぜんぜん, せいかくも顔もちがう子が生まれたんだな. 学習資料と子どもの足形・人型 「どうする ほうしゃせん・ほうしゃせいぶっしつ」 (小学 2 年生対象 8 時間完了) 2014 年 2∼3 月実施 <目標> ① 福島第 1 原発事故で, 住めなくなった人やおいてき ぼりにされた犬などがいることを知る. ② 放射線と放射性物質について理解し, 自分の身を守 る方法を理解する. <方法> 東日本大震災の記録写真から震災の被害や避難せざる をえない人々の生活実態を子ども達に聞かせる. 福島第 1 原発事故についてもおおよその被害や被災者たちの生 活おいてきぼりにされた犬等の話をビデオ 「21 頭の犬 ふるさとの旅」 (NHK岐阜 2013 年 3 月放映), 「N HKニュースウォッチ 厳冬の飯舘村 飼い主を待ち続 けて」 (2014 年 1 月放映) を視聴させ理解させる. 次に 「どうするどうするほうしゃせん」 (山田ふしぎ著 大月 出版 2012 年) を, 読み聞かせながら, 考えたことを 討論させ, 放射線や放射性物質から身を守る方法を理解 する. <指導の実際> 東日本大震災の津波や原発事故の様子を写真等で知ら せて行く途中で, 子ども達の中から 「(津波で流されて いく家の写真を見て) わあ, 屋根がすべり台みたいだ.」 と言って一瞬, みんなが笑う場面があった. その時, す かさず 「これは笑い事じゃないぞ.」 と叫んだ子どもが いて, 教室中がしんとなった. この震災, 原発事故を学 ぶことは子ども達にはショッキングな内容である. しか し, 事実をきちんと伝えること, 原発については様々な 考え方がある中で, 低学年にとってはまず, 放射線や放 射性物質から身を守る知識を会得させることを主眼にビ デオ視聴を中心に授業を進めていった. しかし, ビデオ の中身が, 事実であるが故に子ども達には悲しい内容と なっていたため, 子ども達のほとんどは, 「犬をおいて きぼりにして避難した人間が悪い」 「いや, 俺たちだっ て, 私達だって人間. 俺らは悪くないから, 発電所が爆 発したのが悪い」 「発電所がなければよかった」 「やっぱ り原発が悪い」 「原発を造った人が悪い」 「でも, 造った 人もいやいや造ったかもしれないので, 原発を造らせた 人が悪い」 「原発を外国に売ったら, そこの国で爆発し たらその国の人が怒って, 戦争にならない?」 「原発を 造らせた人が金儲けしたいんじゃないの?」 等々, 活発 な意見交換が続いた. 筆者は, 「誰が, 何が悪いのか」 を討論させるつもりではなかったのだが, 子ども達の怒 りがその方向へ向いてしまったことで, 討論が活発化し てしまった. しかし, 原発の事故による人々の避難が優
先され, 動物たちは後回しにされた実態や, なぜ, 人々 が避難せざるをえなかったのかについては, 絵本 「どう するどうするほうしゃせん」 を読み聞かせながら, 放射 線や放射性物質の危険性について, 科学的に学ぶことが できたのではないかと考える. また, 犬を置いてきぼり にせざるを得なかった福島の被災地の人々の痛恨の思い や, ボランティアとして犬を引き取り, 育てている人々 の思いも十分伝わった授業であったと考える. しかし, 原発に関しては, 稼働すべきではないという意見と, 再 稼働してまた電力供給に生かすべきといった意見とがあ ることも子ども達には伝えた. 低学年にとっては, まだ 難しい問題ではあるが, 現状を知らせることで今後の学 びに繋げていってほしいと考える. また, 敦賀原発で事 故が起きた場合, 愛知県にも被害が想定されることを理 解させた上で, 今までの学びの蓄積から 「放射線や放射 性物質から身を守る方法は?」 の問を考えさせた. それ に対して以下の 12 点の意見が出された. この学びを通した子どもの感想 ① わたしはげんしりょくはつでんしょがないといいと 思います. なぜかというと, ほうしゃせんが体によく ないし, ひなんしたりひっこしたりしなければならな いからです. 犬やねこ, ペットもかわいそう. でんき はかぜや太ようでつくればいいのに, なんでわざわざ ウランという石をつかってほうしゃせいぶっしつをつ くるの?やめてほしい! ② ほうしゃせいぶっしつは目に見えないけれど, すご くきけんだと分かりました. ほうしゃせいぶっしつか らほうしゃせんがでてくることがわかりました. ほう しゃせいぶっしつにはしゅるいがあることがわかりま した. ほうしゃせいぶっしつはいらないです. (澤田)
4 . 生活を科学する生活科教育 −澤田好江氏
の生活科実践における特質−
以下では, 澤田実践を具体的事例として取りあげなが ら, その特質を解説することで, 今日の生活科教育が抱 える課題に解の方向を示したい. 気付きの質を高める探究的学び 生活科においては, 1989 年の設置当初より授業にお ける子ども達の気付きが重視されてきた. 生活科はこの 間, 二回の学習指導要領改訂が行われたが, その都度, 「知的な気付きを大切にする指導」 (平成 10 年改訂), さ らに, 「気付きの質を高めること」 (平成 20 年改訂) が 改善の基本方針として位置づけられた. その背景には, 「学習活動が体験だけで終わっている ことや, 活動や体験を通して得られた気付きを質的に高 める指導が十分に行われていない」3 生活科教育が少な くないからである. すなわち, 生活科教育の体験主義・ 活動主義的な授業構想をいかにして気付きの質を高める 授業へと構想し直していくのかという問題は急務の課題 である. 澤田実践では, 子ども達の気付きの質を高めるための 学習活動として, 生活を科学することを志向する 「問い」 と 「討論」 が明確に位置づけられている点に特質がある. 澤田実践 「たねって何?」 では, 「私たちが食べる野 菜や果物, また野山に咲く草花等には結実した後に必ず 種ができ, その種によって 種の保存 が成り立ってい ることを理解する.」 ことや 「野菜や果物, 草花の種は 必ずしもすべてが発芽するわけではないことを理解する.」 といった生活を科学する視点を学習目標に置き, 子ども たちの気付きの質を高めるための 「たねとは何か」 とい う問いを提示したうえで, 討論を組織している. 実際の討論では, 「班の A 君が家で, ミニトマトを育 てていて, やっぱり実の中から同じ種が出てきたと言っ ているから同じ」 という意見にみられるように, 学級の 友だちの生活体験と結びつけることを根拠として 「同じ」 だと考える子どもや, 「他の食物も食べたあとの種から 芽が出たから, このミニトマトの実の種もきっと芽が出 るだろうから同じ」 と他の食物との比較を根拠として 「同じ」 と考える子どもの意見が出ている. 他方, 少数ながらも 「違う」 と主張する子どもは, 「店で売っている種 (教材の種) と, ミニトマトの中か ら出てきた種は違う. だって, 絶対播いたら芽が出ると ①マスクをして放射性物質を吸わない. ②森や林にあ る食べ物を食べない. ③原子力発電所の上にでっかい かべを作って (放射性物質が) 飛ばないようにする. ④雨が降ったらかさをさす. ⑤長そで, 長ズボンを着 る. ⑥風の吹くところでは遊ばない. ⑦手洗い, うが いをする. ⑧ほこりを払って家に入る. ⑨くつの土を はらう. ⑩ねこや犬が家に入ると時, 髪の毛などをシャ ンプーして洗う. ⑪海や川で遊ばない. ⑫砂場で遊ば ない.は限らないから」 という意見や, 「市販の種には何か加 工してあるのではないかと疑っている」 姿から明らかな ように, 種に対してより広い視野からの考察を加えよう としている. さらに, ミニトマトの栽培・観察を通して 実際に発芽しなかった種についてはその理由を探究的に 学んでいくことで, 自分たちが確かめ合った種について の気付きを, 確かな自然認識へと高めている. このように, 学習活動の重要な力点として問いと討論 を明確に位置づけるからこそ, 子ども達は学習対象への 気付きを深めると同時に, 学習対象の捉え方 (科学的な ものの見方・考え方) を学級の友だちと共に学んでいく のである. 現代的課題への追求を通して科学的な見方・考え方 の基礎を養う 生活科では, 「身近な人々, 社会及び自然」 に関心を 持つこと, 関わりを深めることが目標とされているが, 子どもたちの身近な人や社会, 自然であれば何でもよい というわけではない. 当然, 子どもたちが出会い, 学ぶ に値する価値ある教材を選択する必要がある. この点に 関して澤田氏は, 教材として現代的課題を取り上げてい る. 現代的課題を媒介とした 「自然認識」, 「社会認識」, 「人間認識」 の追求を通して子ども達に科学的な見方・ 考え方の基礎を養う学びを志向している点に特質がある. そのことが象徴的に表れているのが, ファーストフー ドのハンバーガーやコンビニ弁当に使われる外国産食材 と地域の伝統野菜 「真菜 (まな)」 を教材として子ども 達の食のあり方を考える授業 (実践記録 「ちさんちしょ うってなに?でんとうやさい まな を知ろう」), なら びに, 福島第 1 原発事故を教材として放射線と放射性物 質から身を守る方法を学ぶ授業 (実践記録 「どうする ほうしゃせん・ほうしゃせいぶっしつ」) である. 子ども達の食のあり方を考える授業で注目すべきは, 第一に, ファーストフードのハンバーガーやコンビニ弁 当から見えてくる食の問題を科学的な視野で捉える学び を展開している点, 第二は, 「地産地消」 と地域特産物 である伝統野菜 「真菜」 に関わる地域の人々との出会い とつながりをつくりだすことを通して, 「地産地消」 の 意味と伝統野菜 「真菜」 の意義を子ども達に理解させよ うとしている点である. つまり, 澤田実践は, 私たちの食生活を構成する食材 の多くは外国産に頼っていること=日本の食糧自給率の 低さに気づかせる学びに加えて, 具体的なモノや地域の 人々と出会わせることを通して, より積極的に子どもの 食と生活を科学する学びを構想しているのである. 実践では, 資料 農民 を用いて子どもの生活と結び つきが強いと思われるファーストフードのハンバーガー が輸入食材の塊であること, コンビニ弁当の食材は輸入 食材のはけ口であり, さらにその製造工程で消毒剤と添 加物漬けとなっていることに着目させている. 子どもの生活における食の安全が脅かされている状況 であることに着目させ, 理解させている点が, 子どもの 社会認識をより科学的に深める契機となっている. 子ども達は, 食の安全について自分たちの問題として 引き受け, 理解するからこそ, 地域で 「真菜」 に関わる 人との出会いを通じて 「地産地消」 の意味や伝統野菜 「真菜」 を生産し続けていくことの意義に気付き, より 豊かな社会認識を形成していくのだと思われる. また, 福島第 1 原発をもとに放射線・放射性物質を取 り扱った授業は, 澤田氏が指摘するように 「子ども達に とってはショッキングな内容」 であること, 「事実であ るが故に子ども達には悲しい内容」 であることは間違い ない. 原発への賛否両論はあるとしても, 現実の問題として 原発事故が起こり, 深刻な問題状況を引き起こしている 今日において, 子ども達の生活と切り離された 「見えな い世界」 のままにしておいてよいはずはないであろう. 小学校低学年の子ども達においても原発事故を科学的な 視野から学ぶ権利があるのであり, それゆえに生活科に おいても今日の現代的課題を追求する学びとして原発に 関する授業を構想していく必要があると思われる. しかしながら, 低学年という認識発達の段階であるこ とを踏まえるならば, 原発そのもののあり方を是非まで 含めて科学的に追求する学びを構想することは現実的で はない. この点に関しては, 東日本大震災による福島第 1 原発事故後に, 事故に関わる事実と反対派・賛成派な ど複数の知見を総合的, 批判的に検討しながら原子力発 電と放射能に関する授業プランを開発している子安潤氏 の指摘にも確認することができる. 子安氏は, 原子力発 電と放射能に関する授業プランを構想する際に, 基本的 には中学生以上を想定している. 子安氏自身, 「小学生 は, 放射能から身を守る方法, 被爆体験, 避難生活など を具体的に聞いたり調べたりする学びが適切なのではな いかと考えている」4 とも述べている.
澤田実践においても, 「福島第 1 原発事故で, 住めな くなった人やおいてきぼりにされた犬などがいることを 知る」 ことと 「放射線と放射性物質について理解し, 自 分の身を守る方法を理解する」 という 2 点を学習目標と した学びが構想されている. この 2 点の学習目標は, 子 安氏の指摘ならびに低学年の子どもの認識発達の段階に 即してみても適切な学習目標と言えるだろう. 実際の授業展開では, 「 誰が, 何が悪いのか を討論 させるつもりではなかったのだが, 子ども達の怒りがそ の方向へ向いてしまったことで, 討論が活発化してしまっ た」 と澤田氏が指摘しているように, 子ども達の発言に は 「誰が, 何が悪いのか」 に関するものが多くみられる. 「誰が, 何が悪いのか」 という点のみで原発の問題を 認識することは適切ではないことは言うまでもないだろ う. 澤田氏が報告しているように, 本実践における学習 目標に照らし合わせながら, 「犬を置いてきぼりにせざ るを得なかった福島の被災地の人々の痛恨の思いや, ボ ランティアとして犬を引き取り, 育てている人々の思い」 につても触れ, 理解していくことが不可欠である. そのうえで, 「放射線や放射性物質から身を守る知識」 について会得させることを学習目標にしている点は, 原 発事故は決して他人事ではなく, 福島から離れた場所に 暮らす子ども達にとっても実は自分たちの生活に関わる 身近で切実な問題であることを認識させる意義を持って いる. つまり, 小学校低学年の段階において原発問題が自分 や自分たちの生活にとってのっぴきならない問題である と意識化することが重要なのは, 小学校高学年, さらに は中学校以降での原発に関する学びにおける科学的な見 方・考え方をより確かなものとする礎となると思われる からである. 澤田実践は, 今日の生活科教育において現代的課題に 着目することで, 子どもの生活の何をこそ追求し, 科学 するに値するのかについて問題提起した実践であると言 えよう. 生活を契機に自立への基礎を養う 生活科の究極の目標は自立への基礎を養うことだとさ れている. ここでいう自立とは以下の 3 点を指す5. 第 1 は, 自分にとって興味・関心があり, 価値がある と感じられる学習活動を自ら進んで行うことができると いうことであり, 自分の思いや考えなどを適切な方法で 表現できるという学習上の自立である. 第 2 は, 生活上必要な習慣や技能を身に付けて, 身近 な人々, 社会及び自然と適切にかかわることができるよ うになり, 自らよりよい生活を創り出していくことがで きるという生活上の自立である. 第 3 は, 自分のよさや可能性に気付き, 意欲や自信を もつことによって, 現在及び将来における自分自身の在 り方に夢や希望をもち, 前向きに生活していくことがで きるという精神的な自立である. 上記 3 点の自立は, 低学年の子どもの発達と照らし合 わせて確かに大切な自立観であると思われる. 澤田実践においても, 実践記録の子どもの言葉に見ら れるように, 子ども達が生活科での学びを通して 「これ からも, もっと日本やせかいのことを知りたい」, 「生活 科のべんきょうをがんばりたい」, 「ちさんちしょうで, 元気にすごしたい」, 「わたしたちが生まれてきたのがき せきてきなので, この 1 つの人生をだいじにすごしてい きたい」 という思いや願いが表現されており, 上記 3 点 の自立の基礎が学習を通して子どもの中に形成されつつ あることが読み取れる. そのことを踏まえた上で, 自立への基礎を養うという 点において澤田実践の特質を示すとするならば, 生活を 契機に 「身近な人々, 社会及び自然」 と出会い, つなが る学びを通して, 子ども達が自分達の生き方そのものに ついて理解し, 人間認識を深めようとしている点にある. つまり, 自分達はどう生きていくのかについて問い, 考え, 選択・決定しようとしている点に生活科教育にお ける澤田実践の積極的意義があると言えよう. (今井)
4 . おわりに
生活科が新設されてから 25 年経ち, 生活科教育の理 論も発展的に構築されつつあるが, 学校教育現場の実践 としては課題が多いことも事実である. こうした状況を打開していくために, 澤田氏は生活を 通して子ども達に生活を科学する生活科実践, すなわち, 社会認識, 自然認識, 人間認識を身につけさせる生活科 教育のあり方を実践提起している. 澤田氏の生活科実践は, 今日の生活科実践が抱える課 題に対して応答しようとするものであり, その意味でも, 今後, 澤田実践の意義が発展的に捉えなおされていく必 要があるだろう.さらに, 生活科での学びを生活科の中だけで完結させ るのではなく, とりわけ澤田氏が問題提起した現代的課 題を追求することを通して科学的な見方・考え方を養う 学びに関しては, 他教科, ならびに, 小学校 3 年生以降 の総合的な学習の時間などと有機的に関連づけ, さらな る批判的な考察へと学びを発展させていく視点を持つこ とが不可欠であろう. (今井) 注 1 文部科学省 小学校学習指導要領解説 生活編 , 2008 年, 3 頁. 2 文部科学省 小学校学習指導要領 , 2008 年, 60 頁. 3 文部科学省 前掲書<1>, 3 頁. 4 子安潤 「授業プラン 原子力発電と放射能の危険性」, 愛 知教育大学教育創造開発機構紀要 vol.2, 2012 年, 142 頁. 5 文部科学省 前掲書<1>, 15 頁.