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文科省検定済英語教科書における題材の練習問題に関する研究 : 中学校英語教育を中心に

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文科省検定済英語教科書における題材の練習問題に関する研究

―中学校英語教育を中心に―

大澤美穂子

キーワード

題材,練習問題,中学校,検定済英語教科書

はじめに

中学校の検定済英語教科書(以下,教科書)は,一般に,言語材料・言語活動・題材で構成 されている。教科書には文法や語彙に関する練習問題の扱いが見られる。また,実際に言語を 使って対話を行う課題の扱いも見られる。それに比べて教科書の題材は「内容理解」程度で済 まされているのではないだろうか。 本稿では,教科書の題材の扱い方を検証するものである。具体的には,題材を多少なりとも 本格的に取り上げる方法として,あえて「題材の練習問題(1)」のありかたについて考えたい。 中村・森住(1979:78)や森住(1992c:42–43)は,扱われている題材について自分の考えを明 らかにする,自分の立場を考えさせる,深めさせる問題が必要であると述べている。なぜなら 題材は生徒の気づきや思考を促す「精神活動」に影響を及ぼすからである。つまり,題材の扱 いは英語教育の究極の目的である人格形成や恒久平和に関わる。にもかかわらず,教科書では 題材に関する「課題」や「練習問題」が皆無に近いほど少ない点を森住(1992a:38)は指摘して いる。 以上のことから,本研究の目的は以下の2点とする。 (1)英語教科書における題材の練習問題の必要性について検証する。 (2)中学校の英語教科書の題材の練習問題について調査・分析・考察する。

1.題材の練習問題の必要性

第1節では題材を扱う意義と課題を論じる。第2節では先行研究における出題例から題材の 練習問題を扱う必要性について述べる。 1.1 題材を扱う意義と課題 (1)意義 教科書の題材に関してはすでに多くの先達が述べている。例えば谷口(1998:158)は,「英語 の教科書においても人間がどう生きるかについて扱われていなければならない」と述べてい る。英語の授業でも感性や価値観を比較させ,自分と他人の同じ部分,そして自分と他人の違 う部分を感じとらせることが大切である(北川・平田2008:92 –93)。 しかし,最近の教科書は対話文の占める割合が高い(2)。教科書の中に対話文が多くなると暗

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記的な英語学習につながりやすい(山田2005:119 –120)。そのため,「聞くこと」「話すこと」を 中心とした授業では,学習者に“考える”ことを求める題材が極端に少なくなりがちである(中 村2004:113)。それは過去20年間の全国英語教育研究団体連合会の公開授業の多くが,技能の 習得を授業の目標としていることからもうなずける(3) 中学校英語教育では実践的な能力の基礎の育成が求められている。一方,森住(2006:2)は 「言語教育で,知識・技能・観点のうち,観点すなわち言語観の育成にもっと力点をおくべき である」と述べている。続けて森住(1992b:30–31)は,「聞く・話す・読む・書く」の4技能に 対して「考える(thinking)」が加わり,はじめて真の言語活動になるとも述べている。森住 (1993:46–47)が言う真の言語活動とは,個人の判断や感じ方を取り上げることである。 森住が述べる言語活動は,新学習指導要領(4)(2008年告示,2012年度実施,以下,学習指導 要領)が目指す学力観に類似している。具体的には,生徒の思考力・判断力・表現力等を育む 観点から言語に対する関心や理解を深め,言語活動を充実させる。そして,言語活動が各教科 において行われるように,様々な工夫が求められている。理科を例に述べると,実験の予想や 実験結果について話し合い,それをレポートにまとめ,発表するなどの言語活動である。この ような言語活動は英語教育においても例外ではない。 中学校英語教育において言語活動を行うためには,教科書の題材が不可欠である。題材を通 して生徒個々の判断や感じ方を取り上げることができる。村野井(2006:17)は教科書における 題材の扱いについて,以下のように述べている。  教科書には,人権,平和,環境,福祉などの地球規模の課題(global issues)が多く含まれ,中 学生,高校生に知的な内容についての理解活動,表現活動を行う機会を与えることができる。 そして,題材を通して深く考える,幅広い知識を身につける,価値観や世界観に支えられた 生き方を考えさせたい点にも村野井(2006:155–156)は触れている。 中学校では様々な教科で地球規模の課題は取り上げられ,難解な語彙が扱われている。一方, 英語の教科書ではそのような難解な語彙の扱いには制限がある。しかし,扱われる語彙や文構 造が簡単でも,教科書は価値観や世界観に関わる題材の宝庫でなければならない。 なぜなら,生徒のものの見方や考え方に影響を与えるのは題材のなすところである。題材は 人間教育(5)の側面を担っている。そのため,題材の扱いを抜きにして英語教育の果たすべき役 割を論ずることはできない。 (2)課題 英語の授業において,題材を扱う場合の課題を4点述べる。 1点目は,英語の授業は英語で行うことを基本とした場合,題材について日本語による説明 が中心になることの懸念である。その点に関して松畑(1984:76)は,「基本的で取り出しにく い問題であるので,単に『雑談』的に流れてしまいやすいので注意を要する」と述べている。雑 談で終わらないためには,教える側が題材に対する視点を明らかにして提示する必要がある。

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例えば,題材に関係する語彙や表現を提示して生徒の語彙力を増やすなどの工夫ができるであ ろう。 2点目は,題材には編著者の思想が意識的に入っている場合である(森住 2008)。題材の扱い に指導が入ってくるのは偏向教育であるという考えから,題材の扱いを避けてきた(森住 1992a:38–39)。題材には著者の意図があるからこそ,現場の教師は個々の物の見方や考え方を 扱うべきである。学校教育では,いろいろな考えや物の見方があることを生徒に示す必要があ る。その一方で,教師が「教えないこと,無関心であること」も偏向教育とみなされる点に留 意したい。 3点目は,戦争や紛争などの題材が身近でない場合である。取り上げる価値はあっても,「遠 い」話なので我が身に迫らない。そのため,生徒は英語の学習がつまらないと感じる。遠い話 を身近な話題に置き換え,身近なところに潜む問題に気づかせることが大切である(森住 1992d:44–45)。それは,教師の役割であり責任である。 4点目は,題材が見つけにくい内容の場合である。そのようなときには語彙に着目すること で問題は解決する。語彙は文化を背負っており,題材を決定する要素だからである(森住 ibid.)。 1.2  題材の練習問題の必要性 (1)授業における題材の練習問題 1.1(1)で述べたように,英語の授業において題材を扱う意義は大きい。授業で扱う題材に ついて田中・田中(2009:17–18)は,「教材が扱う多様なトピックについて考えさせ,自分自身 の考え・意見・感情に気づかせる」と述べている。そして,教師の発問を授業構成の中心に置 くことを提案している。 しかし,中学校の英語の授業は週3時間である。授業は1時間1ページ,1セクションという 進度で行われることが多い。そのため,言語活動や言語材料に重点が置かれがちである。この ような場合,題材の扱いにまでは至らないこともある。また,発問中心の授業は生徒の実態に より実践が困難な状況が生じるかもしれない。 そのため,中学校の英語の授業では題材の扱いに工夫が必要である。石井(1980:27 –29)は 自己表現学習として良い教材を読んだあとは日本語または英語で感想文を書かせることを提案 している。大浦(1980:10–12)も日本語的思考を有効に使って英語学習を行い,言語生活を豊 かにする時間を数分程度でも設定することの大切さに触れている。 具体的には,授業終了前の最後の5分,あるいは単元のまとめの段階で題材について考えさ せる練習問題を出題する(森住 1992c:42–43)。そして,授業で扱う場合には,誰にでも取り組 める題材の練習問題であることが不可欠であろう。 (2)先行研究 ①出題例 題材の練習問題に関する先行研究は,森住(2008)と高梨(2003:13 –14)の2例のみを見出 した。以下は,その出題例である。

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ⅰ) 森住の出題例  ・自分で一番感銘を受けたところを書き出させる。  ・内容に関して一番重要な文や段落を抜き出させる。  ・内容上のキーセンテンスを本文から探させる。  ・キーセンテンスに気づかせ,書き取りの活動を入れる。 ⅱ) 高梨の出題例  ・音読を通して題材に対する自分の解釈を表現させる。  ・ 文章の中で,自分が音読するときに重要だと思う語句に波線を付け,自分の経験に関連 づけさせる。  ・意見を入れて創造的に対話をさせる。 ②出題例の分類 前述の出題例からわかるように,各出題例には「考える(thinking)」という目的が含まれて いる。そこで,出題例を目的別に分類を試みた。下の表1は,その目的別の分類である。 表 1 目的別の分類 目 的 出題例 ① 自分の考えを明ら かにさせる ・自分で一番感銘を受けたところを書き出させる。・内容に関して一番重要な文や段落を抜き出させる。 ・音読を通して題材に対する自分の解釈を表現させる。 ・ 文章の中で,自分が音読するときに重要だと思う語句に波線を付け,自分の 経験に関連づけさせる。 ② 題材の知識を身に つけさせる ・ 内容上のキーセンテンスを本文から探させる。・キーセンテンスに気づかせ,書き取りの活動を入れる。 ③ 発信する技能を向 上させる ・意見を入れて創造的に対話をさせる。 ③練習問題の必要性 上の表1における分類について分析・考察を行い,題材の練習問題の必要性について述べる。 ①の目的を満たす出題例にはいろいろな正解が期待できる。特に,「自分で一番感銘を受け たところを書き出させる」は,誰もが取り組むことが可能な練習問題であると言えよう。また, 授業の中で短時間に行うことができる良さもある。そして,日本語(母語)による言語活動に 高めることもできるであろう。 ②の目的を満たす出題例では正解が1つになる。そのため,キーセンテンスを素早く見つけ ることができない生徒がいるかもしれない。しかし, 題材に関する知識を得ることができる長 所がある。また,教師にとっても正解についての解説がしやすい点は長所であろう。 ③の目的を満たす出題例では生徒個々の自由な表現が期待できる。単なる暗記による対話で はない。自分の考えを英語で表現する言語活動が期待される。そのため,英語が苦手な中学生 にとっては高度な活動であるかもしれない。

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以上のことから,①から③における練習問題を通して,自分の考えを述べる,題材について 知識を深めることができると思われる。その点では中学校英語にふさわしい練習問題であると 言えよう。その中でも特に正解のない練習問題を扱いたい。なぜなら,自分の考えと他人の考 えの同じ部分と違う部分を確かめることができるからである。自分と他人との共通点や相違点 を確かめることも,言語の学習には必要な要素のひとつであると筆者は考える。

2.教科書で扱われる練習問題の調査・分析・考察

第1節では教科書における題材の練習問題の調査・結果について述べる。第2節では出題の 目的別に分類した練習問題について分析・考察する。 2.1 調査・結果 (1)調査対象・調査方法 調査対象は現行(2006年度)版の中学校英語教科書6種類(各1・2・3年生)全18冊である。 題材の練習問題の抽出では,下の①と②を基本とする。そして,練習問題の分類の基準は 1.2(2)表1を参考にする。 ①題材の練習問題は単元のまとめの段階で出題しているものとする。

② 本文の内容に関して理解を問う問題(True or FalseやQuestions& Answersなど)は,そ の対象にしない。

(2)調査結果

下の表2は,18冊の教科書から抽出した題材の練習問題の数である。 表 2 教科書における題材の練習問題の個数

教科書名 Book 1 Book 2 Book 3 合計

Columbus 21 3(12) 6(9) 7(7) 16(28) New Crown 6( 9) 8(8) 8(8) 22(25) New Horizon 0(11) 〈7〉(7) 〈6〉(6) 0 〈13〉(24) One World 0( 9) 1(8) 2(7) 3(24) Sunshine 0(10) 0(8) 0(7) 0(25) Total English 0( 9) 0(8) 0(7) 0(24) 合計 9(60) 15〈7〉(48) 17〈6〉(42) 41〈13〉(150) (注)( )は本課の数,〈 〉はoption 本課本文では53個の練習問題(ただし,13個はoptionとして提示されている)を抽出した。18 冊の総単元数の合計150に対して,題材の練習問題は多いとは言えない。 また,題材の練習問題の扱いは教科書により異なることもわかった。1年生から3年生までの 教科書において,題材に関する練習問題を全く掲載していない教科書は2種類である。練習問 題をoptionとして提示している教科書は1種類見られた。

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2.2 分析 (1)目的別の分類 1.2(2)における分類の枠組みを利用して,抽出した練習問題の分類を試みる。 教科書で扱われている題材の練習問題は,先行研究の出題例よりもやや複雑であった。例え ば,出題の目的が複数含まれている練習問題が扱われていた。また,各目的のいずれにも属さ ない練習問題があることもわかった。つまり,3種類の分類では不十分な点が明らかになった。 そこで,目的別の判定が困難な練習問題の特徴を比較した。その練習問題の特徴から,課題 に対して調べる・発表するという一連の学習の流れがあることを見出した。これは総合的な学 習で取り上げられる課題であることがわかった。そのような練習問題の目的は,「課題解決能 力を身につけさせる」ことである。 以上のことから,下の表3において,教科書の主な練習問題を①から④の目的別に筆者なり に分類しまとめた(具体的な事例についてはpp.52 ~ 53の資料参照)。 表 3 目的別の分類 目 的 練習問題の特徴 ① 自分の考えを明らか にさせる ・印象に残った語句や英文を抜き出させる,下線を引かせる。・自分の考えや理由を英語,日本語のいずれかで書かせる。 ② 題材の知識を身につ けさせる ・与えられた指示に従って英語で長く書かせる。・他の資料を読ませる。 ③ 発信する技能を向上 させる ・(  )内に語句を入れて英文を完成させる。・本文を時系列や出来事の順にまとめさせる。 ④ 課題解決能力を身に つけさせる ・題材をもとに,テーマを設定し,時間をかけて発展的に調べさせる。 (2)学年別の傾向 「自分の考えを明らかにさせる練習問題」は,学年が上がるにつれてその数が増えている。次 に,「題材の知識を問う練習問題」の扱いが多い。特に1・2年生では「自分の考えを明らかにさ せる練習問題」と並んで,「題材の知識」に関する問題の数が多いという特徴がみられる。 「発信する技能を向上させる練習問題」と「課題解決能力を身につけさせる問題」は主に3年 生で扱われている。optionとして掲載されており,その数は非常に少ない。 2.3.考察 (1)自分の考えを明らかにさせる練習問題 この種の練習問題には,「 印象に残った単語を3つ書きましょう」「印象に残った文に線を引 きましょう」「登場人物のそれぞれの気持ちを日本語で言いましょう」「主人公の経験の中で, 興味を持ったこととその理由を書きましょう」などがある。 練習問題の特徴は正解となる答を求めていない点である。また,生徒同士が自分の考えを述 べ,お互いの考えを知ることを意図している。特に,「単語を選ぶ,線を引く」などは英語が苦

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手な生徒にも取り組みやすい。中学校の英語の授業で題材を扱う場合,この種の練習問題が適 切であると考える。 ただし,解答方法を英語に限定した場合,英語が得意な生徒でも自分の考えをうまく表現で きないという事態も起きる。日本語(母語)による解答の指示を提示することが必要であろう。 留意点として,教師の考えを押しつけないことも大切であろう。 (2)題材の知識を身につけさせる練習問題 この種の練習問題には,「ナショナルトラストがどのように始まり,どんな活動をしている かについて簡単にまとめなさい。」「キング牧師に関することについて本文を参考に,年代を追 ってまとめよう」「俳句とEnglish haikuを比較し,表を完成させよう」などがある。  練習問題の特徴は正解がほぼ1つに絞られる。本文の内容理解にやや近い側面もある。教師 が解答を黒板に書くなどして提示できる。短時間で問題の処理を行う良さもある。 一方,知識に関する暗記の強要にならないための工夫も必要であろう。口頭による発表を割 愛することもできる。レポートとして提出させることも可能であろう。 (3)発信する技能を向上させる問題 この種の練習問題には,「英語劇を発表しよう」「紹介したいイベントについて,お知らせを 英語で書こう」「資料編に掲載の英文を読もう」「新聞記事や雑誌からあなたが説明したい絵や 図を切り抜き,英語で説明しよう」などがある。 練習問題の特徴は「英語を話すこと,書くこと」の技能を高めることを目的としている。英 語が得意な生徒に適している練習問題である。ある程度の時間を要するため,英語の授業だけ では扱いきれない。そのため,練習問題の多くはoptionとして設定されている。選択授業や長 期の休みの課題としての扱いが考えられる。 「発信する技能を向上させる問題」を通して4技能を用いた「統合的な活動」にまで高めるこ とができるであろう。しかし,週3時間の授業ではその扱いが困難である。また,生徒の理解 度に応じてこの種の練習問題を扱う必要があると考える。 (4)課題解決能力を身につけさせる問題 この種の練習問題には,「英語で聞ける落語について調べよう」「『私たちのくらしと水』とい うテーマで意見をまとめよう」「国によってルールやマナーが異なることを調べて比べてみよ う」などがある。 練習問題の特徴は課題解決能力を育むねらいがある。課題を設定する・調べる・発表すると いう学習サイクルを通して,英語の授業での課題を他の教科と関連付けて横断的に調べる。総 合的な学習の時間の利用などが考えられる。

おわりに

本研究の目的は2点であった。1点目は,中学校の英語教科書における題材の練習問題の必要 性について検証することである。英語教育において,題材を扱うことは人間教育に資する側面 を担うことができる。4技能に加えて,「考える(thinking)」を加えた言語活動は,学習指導要

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領が提示している学力観,「思考力,判断力,表現力」と「言語活動」に合い通じる点を指摘し た。そして,中学校の英語の授業の進め方の特徴から,題材の扱いには練習問題が重要である 点を述べた。 題材の練習問題に関する先行研究では2例のみの抽出となった。その練習問題を出題の目的 別に3つに分類した。具体的には,「自分の考えを明らかにさせる」「題材の知識を身につけさ せる」「発信する技能を向上させる」の3つである。これを調査する際の分類基準とした。 研究の目的の2点目は,2006年度版の英語教科書6種類(各1・2・3年)18冊を対象に,題 材の練習問題を調査・分析・考察することであった。実際には,53個の練習問題を抽出した。 そして,抽出した練習問題を出題の目的別に分類した。結果,出題の目的が複数含まれる練習 問題もあった。加えて,分類の基準からはずれる練習問題も出現した。そのため,再度,出題 の目的を精査した。その結果として,「自分の考えを明らかにさせる」「題材の知識を身につけ させる」「発信する技能を向上させる」に,4つ目として「課題解決能力を身につけさせる」が加 わった。 考察として,「自分の考えを明らかにさせる練習問題」には「印象に残った英文や語に線を引 きなさい」など正解がない。そのため,誰にでも取り組める練習問題であり,中学校の授業に おいて扱う題材の練習問題として適切である点を述べた。「題材の知識を身につけさせる練習 問題」では,正解が1つに絞られる。そのため,本文の内容理解に近い側面がある。「英語の技 能を高める練習問題」は,英語を得意とする生徒に適している。「課題解決力を身につけさせる 練習問題」は横断的な学習に適している。 最後に,中学校英語教育では,正解のない題材の練習問題を扱いたい。正解のない練習問題 にこそ,人それぞれの生き方や価値観が映し出される。正解のない題材の練習問題の扱いは, 学習指導要領の 「学力観」 に対応できるものであり,本研究の応用性と言えよう。 今後の課題は,題材の練習問題に関するワークシートの作成・授業案の作成とその授業実践 にある。

(1) 「題材の練習問題」という表現は,森住(1992a)が使い始めたと考える。具体的には「印象に残っ た単語や英文に下線を引いてみよう」などを挙げていた。 (2)山田(2005:119)は,7社の現行中学校英語教科書の全教材における会話教材の割合を調べ,その 平均を算出した。1年生では90%,2年生では59%,3年生では45%であった。そして,3年間で扱 われる会話教材は65%になると述べている。 (3)全国英語教育研究団体連合会の公開授業(1989年~ 2008年)における授業案において,題材に関 する指導目標は3つだけであった。具体的な目標は,「アメリカの中学生の家庭での生活を理解さ せる」「佐古氏の体験を通して外国の風習や生活様式を理解することの大切さを知らせる」「世界の スポーツに親しませる」であった。 (4) 新学習指導要領(2008年告示,2012年度実施)がめざす学力観のキーワードは,「思考力・判断 力・表現力」である。そして,「思考力・判断力・表現力」を鍛えるために,母語を用いて自分の 考えを伝え合う「言語活動」の必要性を言及している。

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(5)森住(1993:46–47)は英語教育で扱う人間教育として,異文化理解教育・ことばの教育・人間教育 があると述べている。そして,人間教育をさらに細分化し以下のようにまとめている。 ①自然界や化学技術など広義の「科学」に関係するもの ②愛,友情,勇気,努力に関係するもの ③文学,心理,情緒に関係するもの ④社会性に関係するもの(ボランティア活動,生涯教育,公 害,環境,性差別,身体障害者,職業選択,広告の読み方など )⑤人権,人種・民族差別に関す るもの

引用文献

平田和人(2008)『平成20年改訂 中学校教育課程講座 外国語』ぎょうせい. 石井清(1980)「人間形成と外国語教育の問う位置を目指して」『英語教育』6月号,pp.27 –29大修館書 店. 北川達夫・平田オリザ(2008)『ニッポンには対話がない―学びとコミュニケーションの再生』三省堂. 松畑熙一(1984)『生徒と共に歩む英語教育』大修館書店. 文部科学省(2008)『中学校学習指導要領 平成20年3月告示』文部科学省. 森住衛(1992a)「英語教育題材論」『現代英語教育』4月号,pp.38 –39,研究社. ―――(1992b)「英語教育題材論」『現代英語教育』5月号,pp.30 –31,研究社. ―――(1992c)「英語教育題材論」『現代英語教育』6月号,pp.42 –43,研究社. ―――(1992d)「英語教育題材論」『現代英語教育』12月号,pp.44 –45,研究社. ―――(1993)「英語教育題材論」『現代英語教育』1月号,pp.46 –47,研究社.

―――(2006)‘What are the Ultimate Purposes of English Education? — Three Kinds of Education Imposed on TEFL in Japan—’ ミニ講演報告,TALCE Newsletter No.11.東京言語文化教育研究 会.

―――(2008)「断想―教科書の題材への思い3つ」TALCE Newsletter No.23.東京言語文化教育研究 会. 村野井仁(2006)『第二言語習得研究から見た効果的な英語学習法・指導法』大修館書店. 中村敬(2004)『なぜ,「英語」が問題なのか?― 英語の政治・社会論』 三元社. 中村敬・森住衛(1979)「教室における『文化』の扱い」『英語教育と文化 三省堂英語教育ライブラリー. 大浦暁生(1980)「真実の探求で広がる言語の世界―考えさせる英語教育」『英語教育』11月号,pp.10 – 12,大修館書店.

高梨庸雄(2003)「音読からStory Tellingヘ」Teaching English Now Vol.3,pp.13–14, 三省堂. 田中武夫・田中知聡(2009)『英語教師のための発問テクニック』大修館書店.

谷口賢一郎(1998)『英語教育改善へのフィロソフィー』大修館書店 山田雄一郎(2005)『日本の英語教育』岩波書店.

2006 年度版中学校検定済教科書

堀口俊一ほか19名(2006)Total English 1・2・3 学校図書.

笠島純一・浅野博・下村勇三郎・牧野勤・池田正雄ほか49名(2006)New Horizon English Course 1・

2・3 東京書籍.

松本茂・伊藤治己・高橋一幸ほか24名(2006)One World English Course 1・2・3 教育出版. 佐野正之・山岡俊比古・松本青也・佐藤寧ほか33名(2006)Sunshine English Course 1・2・3開隆堂. 高橋貞雄ほか34名(2006)New Crown English Series 1・2・3 三省堂.

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資料 題材の練習問題の分類一覧

 以下は, 教科書から抽出した題材の練習問題を筆者なりに分類しまとめたものである。 (注) 題材: 考えさせる 知識:知識を身につけさせる 技能:発信の技能を向上させる

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表 2 教科書における題材の練習問題の個数

参照

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(1)  研究課題に関して、 資料を収集し、 実験、 測定、 調査、 実践を行い、 分析する能力を身につけて いる.

・ 研究室における指導をカリキュラムの核とする。特別実験及び演習 12