研究開発型の中小製造企業における
イノベーション活動とその連関
鈴 木 勝 博
要 旨 本稿では、日本の先端的なものづくりをささえる研究開発型の中小製造企業について、 各種のイノベーション活動の状況を俯瞰するとともに、その相互の関係性に関する試行的 な実証分析を試みる。具体的には、プロセス・イノベーション、販売・マーケティングに関 するイノベーションが、市場をリードする画期的なプロダクト・イノベーションに対して どのように結びついているのかを、アンケートデータをもとに検証する。その際、それぞ れのイノベーション活動が、一社単独で行われているのか、あるいは、外部機関の力を借 りているのか、そのオープンさについてもあわせて着目する。 他社に先駆けた画期的なプロダクト・イノベーションの実現のためには、一社単独での 製造・生産方法に関するプロセス・イノベーションや、価格付けに関するイノベーション が有意に寄与することを示す。また、それらを下支えする開発能力のあらわれとして、単 独出願や共同出願、とくに前者の有無が、市場をリードするイノベーションに大きな寄与 を持っていることを示す。最後に、本モデルのさらなる改良方針について検討する。 キーワード: イノベーション、中小企業、R&D 1.背景と目的 かつて、世界をリードしていた日本のものづくりは、バブル経済の崩壊以降失速し、製 造業をとりまく世界地図は大きく書き換えられた。さまざまな識者によって、第2次産業 における日本の凋落の要因が議論され、(i)顧客の目線を無視した過度な機能重視主義、(ii) モジュール化によって実現したグローバルな分業構造への対応の遅れ、(iii)かつては存在 していたイノベーション創出能力の後退など、さまざまな原因が挙げられている(藤本, 2004; 後藤 2006; 宮崎,2008; 西村,2014)。 このような背景のもと、イノベーション創出能力の強化に向けた取り組みは、官民を問 わず活発化してきている。内閣府は「総合科学技術・イノベーション会議」を立ち上げ、トッ プダウン型のイノベーション支援策を打ち出している(内閣府,2015)。一方、民間企業でも「デザイン思考」などの体系化されたメソッドを導入し、イノベーション創出を試みる 取り組みが本格化しつつある(日経BP,2014)。加えて、文部科学省のEDGEプロジェク ト等、教育機関においても「イノベーション教育」・「起業家教育」への取り組みの強化がは じまっている(文部科学省,2014)。 このような流れの中、国内の第二次産業を支えてきた、いわゆるサポーティング・イン ダストリーとしての中小企業群においても、イノベーションの重要性は旧来より高まって きているものと推察される。本稿では、国内の研究開発型の中小製造企業を対象に、種々 のイノベーション活動の実態を把握し、また、それらの間の関連性を検討する。特に、中小 企業が成長する上で重要なキーとなりうる「市場をリードするプロダクト・イノベーショ ン(=競合他社に先駆けた新製品・新サービスの開発・販売)」を実現するにあたって、外 部機関との連携や、他のさまざまなイノベーション活動がどのように連関しているのかに 関する分析を行い、高度化と成長を試みる中小企業の経営や支援に関するヒントを得るこ とを目的とする。 2.先行研究 中小企業において技術の高度化や新製品の開発を試みる際、外部機関との連携は有効で ある。その原義からして、中小企業の経営資源は限定的である。他の企業や大学等との連 携により、自社に足りない技術やナレッジを補完することは、合理的な行動だと考えられ る。なお、このような行動の有効性は、技術や研究開発の側面のみに限られない。系列化さ れた企業群においてみられるように、洗練された管理手法、あるいは、より高度な経営手 法を、他社から取り入れていくこともまた有効であろう。グローバル化が進展し、事業環 境の変化が速くなってきている現在、これに対応していくためのダイナミック・ケイパビ リティのひとつとしても、外部連携の重要性が増してきているものと推察される。 一方、我が国における中小企業の外部連携が、どの程度有効にイノベーションに結びつ いているのか、その実証を試みた調査研究はそれほど多くは無い。中小企業における産学 連携は、特許の出願件数や保有件数によって測定された「研究開発生産性」に対し、有意に 寄与することが元橋(2002)で指摘されている。一方、岡室(2009)では、企業や大学との 共同での研究開発が、中小企業の「知財の増加」に対して有意に寄与することが確認され ている。しかしながら、いずれの研究においても成果指標は「特許」であり、「イノベーショ ンそのもの」ではない。そのため、「イノベーションへの寄与の検証」と言う意味では、や や間接的である。 ここで注意すべきは、「イノベーション」と「発明」は、同等な概念ではないことである。 統一的、かつ、継続的なイノベーション調査を行うため、欧州Eurostat とOECDが定めたオ スロ・マニュアルでは、プロダクト・イノベーションの定義として、「新製品あるいは新サー ビスの市場への投入…」と記述されている(OECD,2005; 文部科学省,2010)。ここで着 目すべきは「市場への投入」という語句である。プロダクト・イノベーションは、あくまで
も製品やサービスとして市場化されたケースを指しており、発明のみではイノベーション とは言えないのである。後述するように、本調査のアンケートでは「新製品の投入」につい て明示的な設問を設け、その回答をもってプロダクト・イノベーションの有無を判定して いる点が特長である。 児玉(2010)では、研究開発の成果を最終製品に結実させ、市場化する能力をもった「製 品開発型中小企業」が、地域の産業クラスターの中核となりうる可能性が指摘されている。 このような中小企業群は、研究開発能力と製品の企画・設計能力の双方に秀でており、下 請け型の中小企業をうまく活用しながら、大企業と活発な取引を行っている。大学や研究 機関との産学連携にも積極的であり、地域経済を支えるプラットホーム的な存在となって いることが指摘されている。本稿の分析においては「市場をリードするプロダクト・イノ ベーション」の創出のために、他のイノベーション活動(プロセス・イノベーション、販売 面でのイノベーション、キャッチアップ型のプロダクト・イノベーション)がどのように 寄与しているのかを分析する。その際、自社内のみのエフォトによって実現したイノベー ションと、外部機関と共同して起こしたそれとを区分し、それらの間の関連性をあわせて 探る方針とする。 3.調査対象とアンケートの概要 3.1.調査対象 本調査では、国内の基盤技術を支え、なおかつ、高い技術力を誇る中小製造企業群として、 「戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業:経済産業省)」における補助金制度に採 択された企業群を対象にアンケートを行った。サポイン事業は国から中小企業への研究開 発委託制度であり、(i)研究開発費の全額補助が行われる点1、ならびに、(ii)その額が大き いこと、が特徴である。最大で約9,000万円(3年間)の費用が補助され、国内を代表する優 秀な研究開発型の中小企業が採択されている(経済産業省,2012)。2006年から2012年ま でに採択された企業のリストを公開情報にもとづいて構築し、今回のアンケートの対象と した。アンケートの実施時期は2012年11月で、調査票を配布した783社中、416社より回 答を得た。 さて、製造業にたずさわる中小企業群の中には、高度な加工技術を有しながらも、研究 開発 や企画・設計に関するケイパビリティを持たない企業も少なくは無い。そのため、平 均的なものづくり中小企業群と比べると、本調査には、ハイレベルな方向にセレクション・ バイアスがかかっていることになる。しかしながら、我が国を代表する優れたものづくり 中小企業群におけるイノベーション活動の分析は、今後、このような高みを目指す他の中 小企業者や支援者に対して、有益な情報を与えるであろう事が推察される。
3.2.各種イノベーションの把握: 本アンケートでは、各種のイノベーション活動の創出状態について、オスロ・マニュア ルに準拠した設問を設けた。オスロ・マニュアルでは、過去3年程度の期間について、具体 的なイノベーション活動を行ったかどうかを問う、自己申告型の設問が基本となっている。 イノベーションの種類としては、(1)プロダクト・イノベーションについては2種類、(2) プロセス・イノベーションについては3種類、(3)マーケティングや販売に関するイノベー ションについては3種類、となっている。 より具体的には、プロダクト・イノベーションに関しては、(i)「市場をリードする(本義 の)プロダクト・イノベーション」、ならびに、(ii)先行他社にキャッチアップするための「自 社にとってのプロダクト・イノベーション」に関する設問を設けた。前者に関しては、『2009 年以降、競合他社に先駆けた、画期的な新製品・新サービス(または、大きく改善された新 製品や新サービス)を販売されましたか?』という設問であり、また、後者に関しては『競 合他社はすでに取り扱っていたが、自社にとっては画期的な新製品や新サービス、(または、 大きく改善された新製品や新サービス)を販売されましたか?』という内容である。あわせ て、それぞれのイノベーションについて、その創出主体が誰であったか、付随的な設問を 設けている。すなわち、「自社単独」で創出したのか、あるいは、「外部機関との共同開発」 なのか、もしくは、「外部機関が主導した」のか、それぞれ補足的な回答を分析に利用した。 一方、プロセス・イノベーションについては三種類の設問を設けた:(i)『製造方法や生 産方法』,(ii)『物流や配送の方法』、(iii)『業務支援』(「購買/調達」・「会計」・「人事管理」) のそれぞれについて、「新しい方法」や「大きく改良された方法」が導入されたかどうか、 その有無を問うた。また、プロダクト・イノベーションの場合と同様に、イノベーション活 動の主体(「自社単独」・「共同開発」・「他機関の主導」)に関する設問を設けている。 また、販売・マーケティングに関しては、(i)『デザインやパッケージの変更』,(ii)『新し い販促方法の導入』,(iii)『新たな価格付けの導入』に関する設問を設けた。 4.分析モデルと被説明変数 先述の通り、本稿では、プロダクト・イノベーションの創出のために、その他のイノベーショ ン活動がどのように連関しているのかを分析する。基本的なモデルは下記の通りである。 プロダクト・イノベーションの創出 = f(各種イノベーション活動、企業属性、技術分野、R&D活動 ) このモデルは、中小企業における「プロダクト・イノベーション」の創出の有無が、「そ の他のイノベーション活動(プロセス・イノベーション、販売・マーケティングに関するイ ノベーション)」,「企業属性」、「技術属性」、「R&D活動」によって決まる事をあらわしてい る。回帰モデルとしてはプロビット回帰を用いた。
本モデルの被説明変数は、2009年以降、市場に投入された「市場をリードする画期的な 新製品・新サービスの有無」(Innov_Pd1)である。地域経済の中核となりうる「製品開発型 中小企業」へと進化するためには、競合企業に先行する画期的な製品・サービスの市場化 能力が、まずは必要だと考えられるからである。 なお、同イノベーションの創出に際し、自社単独でこれを実現したケースについては、 別途、サフックスとして 「_inhouse」をつけた変数「Innov_Pd1_inhouse」を導入した。同様 に、外部機関と共同で実現した場合には「_jnt」をつけて「Innov_Pd1_jnt」という変数を用い、 また、外部機関が主導的な役割を果たした場合については「_ext」を付与した「Innov_Pd1_ ext」を利用した。これらのサフックスは、他のイノベーション変数に関しても、同様なルー ルとした。 また、もう一種のプロダクト・イノベーション、すなわち、「キャッチアップ型のプロ ダクト・イノベーション」(Innov_Pd2)についても、これを被説明変数とする同様な分析 を試みる方針とした。こちらは、先行する競合他社に追随するための「模倣」と「学習」に もとづく新製品の開発に該当する。本義のプロダクト・イノベーションとはいえないか もしれないが、しかしながら、優れたイノベーションは往々にして模倣に端を発してお り、迅速な追随者(Fast Second)のほうが経済的な成功をおさめやすいことも指摘されて いる(Shenkar,2013)。また、このような企業は、技術やナレッジに関する高い吸収能力 (absorptive capacity)を有することが予想され、いずれ、市場をリードするイノベーション の創出に結びつく可能性が考えられる。 一方、説明変数は、以下の通りとなる。 4.1.イノベーション活動に関する説明変数 「各種イノベーション活動」に関しては、前述のとおり、「プロセス・イノベーション」(3 種)、「販売やマーケティングに関するイノベーション」(3種)の有無について、それぞれ 変数を設定した。期間は、2009年以降、調査時点までである。 プロセス・イノベーション活動に関しては、2009年以降の、(1)「生産技術・製造技術 の新規導入/大きな改良」(Innov_Proc1)、(2)「物流・配送方法の新規導入/大きな改良」 (Innov_Proc2)、(3)「業務支援に関する新しい方法の導入/大きな改良」(Innov_Proc3)、の 三つである。これらは、画期的な新製品や新サービスを生み出すためのベースとなる、基 盤的な活動を意味している。 なお、これらのイノベーション変数に関しても、被説明変数と同様、サフィックス (「_inhouse」、「_jnt」、「_ext」)によって、主体的な活動者を表現する方針とした。 また、販売・マーケティングに関するイノベーションに関しては、2009年以降の、(1) 「デザインやパッケージの変更」(Innov_Mk1)、(2)「新しい物流・配送方法の導入」(Innov_ Mk2)、(3)「新しい価格付けの導入」(Innov_Mk3)を問うた。これらの変数に関しては、本 アンケートでは「導入の主体者」を問うていないため、そのまま用いる方針とした。
4.2.その他の変数 企業の基本属性としては、「従業員数」(Empl)、ならびに,当該企業がもつ「コア技術」 (Tech)を採用した。前者は、アンケートの前年にあたる2011年度の従業員数を用いた。ま た、コア技術に関しては、国内のサポーティング・インダストリーの発展の契機となった「金 属加工」に関する技術分野(「金型」・「プレス加工」・「切削加工」・「鍛造」・「鋳造」・「めっき」) と、それ以外の分野(「組み込みソフトウェア」・「電機部品・デバイスの実装」・「繊維加工」・ 「プラスチック成型」等)を大きく二分する方針とした2。 また、知財に関しては、過去5年間における「企業単独での出願の有無」(Pat_Sgl)、なら びに、「他の機関との共同出願の有無」(Pat_Jnt)を用いた。前者は、企業単独での R&D 活 動の有無を示すのに対し、後者は、外部機関との共同でのR&D活動の有無に該当する。 5.分析の結果 5.1.基本統計の概要 今回用いた諸変数の基本統計は、表1の通りである。今回の調査対象の平均人数は 86人 であり、比較的小規模な企業がドミナントとなっている。しかしながら、イノベーション の創出活動は活発である。実際、市場をリードするプロダクト・イノベーション(Innov_ Pd1)は、全体の44%の企業が「創出した」と答えている。一方、キャッチアップ型のイノベー ション(Innov_Pd2)の創出率は30%であり、やや低い値となっている。サポイン事業への 採択企業は、模倣型のプロダクト・イノベーションよりも、むしろ、他社に先んじたプロダ クト・イノベーションの創出の方がむしろ得意だということになり、改めてその優秀さが 浮き彫りになる結果だといえよう。 また、プロセス・イノベーションに関しては、新しい製造方法の導入(Innov_Proc1)の比 率は56%に達し、上記のプロダクト・イノベーションを支える活動も、非常に活発に行わ れている様相が明らかになった。これに対し、業務支援に関する新しい方法の導入(Innov_ Proc3)は27%、物流や配送のそれ(Innov_Proc2)は10%にとどまっている。 販売・マーケティングに関するイノベーションについては、デザインやパッケージの 変更(Innov_mk1)をおこなった企業は全体の15%にすぎないが、新たな販促手法を導入 (Innov_mk2)した企業は37%に達し、全体の三分の一を超えている。また、新しい価格付 けをおこなった(Innov_mk3)企業も30%存在しており、ものづくり企業においても、販売 やマーケティングの重要性が高まっていることが示唆される結果となった。
表1: 基本統計の概要 変数 サンプル数 平均値 標準偏差 Min Max 備考 従業員数 (Empl) 413 85.847 117.473 0 864 技術 (Tech) 416 0.423 0.495 0 1 金属加工その他:0:1 研究開発比率 (RD_r) 364 0.193 0.813 0 11.63 市場をリードするプロダクト・イノベーション (Innov_Pd1) 416 0.438 0.497 0 1 非創出創出:1:0 キャッチアップ型のプロダクト・イノベーション (Innov_Pd2) 416 0.300 0.459 0 1 同上 プロセス・イノベーション1: 新しい製造方法や生産方法の導入(Innov_Proc1) 416 0.559 0.497 0 1 同上 プロセス・イノベーション2: 新しい物流・配送方法の導入(Innov_Proc2) 416 0.097 0.296 0 1 同上 プロセス・イノベーション 3: 新しい業務支援方法の導入 (Innov_Proc3) 416 0.269 0.444 0 1 同上 販売・マーケティングに関するイノベーション1: デザインやパッケージの変更(Innov_Mk1) 414 0.150 0.357 0 1 同上 販売・マーケティングに関するイノベーション2: 新たな販売手法の導入 (Innov_Mk2) 414 0.379 0.486 0 1 同上 販売・マーケティングに関するイノベーション3: 新しい価格付けの導入 (Innov_Mk3) 413 0.300 0.459 0 1 同上 単独出願の有無 (Pat_Sgl) 416 0.351 0.478 0 1 同上 共同出願の有無 (Pat_Jnt) 416 0.334 0.472 0 1 同上 5.2.外部機関との連携状況 次に、各イノベーションの創出・実現に対する、外部機関との連携状況を示す。図1は、 それぞれ該当するイノベーションを実現した企業群を母集団とした場合、(a)イノベーショ ン活動が自社単独で行われたのか、(b) あるいは、外部機関と共同で行われたのか、(c)あ るいは、外部機関が主導して実現したのか、その内訳を記したものである。 2種のプロダクト・イノベーション(Innov_Pd1,Innov_Pd2)に関しては、いずれも自社 単独で行われたケースが57%となっている。一方、外部機関と共同での実現は、市場をリー ドするプロダクト・イノベーション(Innov_Pd1)の場合は40%、キャッチアップ型のプロ ダクト・イノベーション(Innov_Pd2)の場合は36%であった。先述のように、今回の調査 対象は日本を代表するハイテク中小企業群であり、自社単独でのイノベーション創出能力 が高いことがうかがえる。しかしながら、外部リソースも積極的に活用しており、自社に ないケイパビリティを適宜上手に補いながら、プロダクト・イノベーションを創出してい る。
図1: 各種イノベーション活動に対する外部機関との連携状況 一方、プロセス・イノベーション(Innov_Proc1∼ Innov_Proc3)に関しては、各種各様と なっている。全企業の半数以上(56%)で実績がある製造・生産方法の改良(Innov_Proc1) に関しては、自社単独での実現が53%、外部機関との共同での実現が41%であり、プロダ クト・イノベーションと似たような傾向となっている。一方、全体の一割(10%)の企業で おこなわれた新しい物流・配送の方法の実現(Innov_Proc2)に関しては、外部機関と共同 したケースが45%、外部機関が主導したケースが22%となっており、自社単独での実現は 32%に過ぎない。一つの可能性としては、B2B型のビジネスを行っている中小製造企業 の場合、外部のサプライチェーンとの調整を行いながら新しい物流・配送方法が導入され たケースが推察される。あるいは、今回の調査対象は比較的小規模な企業が多いため、も のづくりに直接関わらない組織能力は、まだ発展途上である可能性もあわせて考えられ る。これに対し、全体の約四分の一の企業(27%)がおこなった新しい業務支援方法の導入 (Innov_Proc3)に関しては、自社単独での実現が49%、外部機関が主導したケースが34%、 外部機関との共同導入が 16%となっており、他のイノベーションのいずれとも異なる分布 となっている。もともと業務支援業務はバックヤードにて行われるべきものであるため、 自社単独での導入が多いであろうことは容易に推測される。一方、外部機関の主導が全体 の三分の一近くあるのは、自社に存在しない業務支援能力を外部から取り入れたケースに 対応するのではないかと推察される。小規模企業の場合、各種支援業務を完全にアウトソー スしてしまうようなケースも多いのではないかと推察されるが、事業がある程度拡大し、 これを内製化するようなケースは、これに相当するのではないかと考えられる。 いずれにせよ、今回の調査対象企業群においては、非常に活発なプロダクト・イノベー
ションの創出がおこなわれており、その際、外部機関とうまく連携している企業がすくな くとも40%近く存在している。 5.3.回帰分析の結果 次に、回帰分析の結果を表2と表3に示す。いずれも、企業の基本属性や研究開発・知財 に関する設問に加え、各種イノベーション(プロセス・イノベーション、販売・マーケティ ングに関するイノベーション)を、それぞれ、活動主体によって分類した説明変数を用いた。 表2:プロビット回帰の結果(市場をリードする画期的なプロダクト・イノベーション) 被説明変数 Innov_Pd1 係数 z 従業員数 (Empl) -0.0002872 0.679 研究開発比率 (rd_r) -0.0281 0.33 技術ダミー (tech_2) -0.2325 0.116 プロセス・イノベーション1:新しい製造・生産方法 【自社単独】 (Innov_Proc1_inhouse) 0.5026 *** 0.004 プロセス・イノベーション1:新しい製造・生産方法 【外部機関と共同】 (Innov_Proc1_jnt) -0.0508 0.792 プロセス・イノベーション1:製造・生産方法 【外部機関が主導】 (Innov_Proc1_ext) 0.0626 0.887 プロセス・イノベーション2:新しい物流・配送方法 【自社単独】 (Innov_Proc2_inhouse) 0.3711 0.394 プロセス・イノベーション2:新しい物流・配送方法 【外部機関と共同】 (Innov_Proc2_jnt) -0.4161 0.308 プロセス・イノベーション2:新しい物流・配送方法 【外部機関が主導】 (Innov_Proc2_ext) -0.6411 0.31 プロセス・イノベーション 3:新しい業務支援方法 【自社単独】 (Innov_Proc3_inhouse) -0.1065 0.629 プロセス・イノベーション 3:新しい業務支援方法 【外部機関が主導】 (Innov_Proc3_jnt) 0.0115 0.968 プロセス・イノベーション 3:新しい業務支援方法 【外部機関が主導】 (Innov_Proc3_jnt) 0.0851 0.82 販売に関するイノベーション1: デザインやパッケージの変更(Innov_Mk1) 0.3055 0.174 販売に関するイノベーション2: 新たな販売手法の導入 (Innov_Mk2) 0.2356 0.136 販売に関するイノベーション3: 新しい価格付けの導入 (Innov_Mk3) 0.4875 *** 0.005 単独出願の有無 (Pat_Sgl) 0.6571 *** 0 共同出願の有無 (Pat_Jnt) 0.4072 ** 0.011 定数項 -0.7921 *** 0 対数尤度 -208.606 疑似決定係数 0.1635 観測数 364 有意水準 *** 1%, ** 5%, * 10%
また、被説明変数に関しては、表2が「市場をリードするプロダクト・イノベーション (Innov_Pd1)」、表3が「キャッチアップ型のプロダクト・イノベーション」である。 表2においては、「市場をリードするプロダクト・イノベーション」(Innov_Pd1)の創出 に対し、「自社単独での、新しい製造・生産方法に関するプロセス・イノベーション(Innov_ Proc1_inhouse)」、ならびに、「新しい価格付けの導入」(Innv_MK3)が、ともに1%水準で 有意になっていることが分かる。いずれも回帰係数は0.5に近く、また、(本表には記して はいないが)限界効果は0.2程度になっており、市場をリードするプロダクト・イノベーショ ンの創出率に大きく影響しうることがわかる。また、他に有意となっているのは「単独出 願(1%水準)」と「共同出願(5%水準)」であり、特に前者は、前述の2つのプロセス・イノベー ションよりもさらに大きな効果をもっている。この結果から示唆されるのは、やはり、本 義のプロダクト・イノベーションの創出に影響を及ぼすのは、自社内のケイパビリティだ ということである。 特に、自社単独での研究開発能力に関連する「単独出願」(Pat_Sgl)、自社単独での製造 プロセスの革新に関するプロセス・イノベーション(Innov_Proc1_inhouse)、そして、「価格 付け」(Innv_MK3)がすべて寄与していることは、大変に興味深く、直感とも整合的だとい えよう。また、他社との連携の効果は、「共同出願」(Pat_jnt)においてのみ、有意にあらわ れている。 次に、キャッチアップ型プロダクト・イノベーションを被説明変数に選んだ場合の分析 結果(表3)だが、説明変数中、有意となったイノベーションは、「新しい価格付けの導入」 (Innov_Mk3)のみ(1%水準)であった。回帰係数や限界効果の大きさは、表2とほぼ同等 である。また、10%水準ながら、「新たな販売手法の導入」が有意となっている。本モデル では、プロセス・イノベーションは、いずれも有意に寄与していない。その他、「従業員数」 (Empl)と「単独出願」(Pat_Sgl)が有意となっているが、後者の寄与は、表2とは異なり「新 しい価格付けの導入」よりも弱くなっている。「共同出願」(Pat_Jnt)も有意では無くなって おり、他社との連携の寄与は、本モデルではあまり見られない形となった。キャッチアッ プ型のプロダクト・イノベーションは、先述の通り、「模倣」と「学習」のプロセスがまず該 当するものと考えられ、その際、従業員数が多く、リソースが豊富な企業のほうがこれを 実現しやすいことが示唆される結果となっている。また、価格付けが有意に働いている点 も、後発のため、コスト面での競争をせざるをえないような状況とは整合的である。ただ し、ハイテク分野であるため、自社の開発能力(Pat_Sgl)の有効性が、あわせて示唆される 結果となった。
表3:プロビット回帰の結果(キャッチアップ型プロダクト・イノベーション) 被説明変数 Innov_Pd2 係数 z 従業員数 (Empl) 0.0022093 *** 0.002 研究開発比率 (rd_r) -0.1489 0.433 技術ダミー (tech_2) -0.1415 0.358 プロセス・イノベーション1:新しい製造・生産方法 【自社単独】 (Innov_Proc1_inhouse) 0.0825 0.65 プロセス・イノベーション1:新しい製造・生産方法 【外部機関と共同】 (Innov_Proc1_jnt) 0.0238 0.904 プロセス・イノベーション1:製造・生産方法 【外部機関が主導】 (Innov_Proc1_ext) -0.1502 0.785 プロセス・イノベーション2:新しい物流・配送方法 【自社単独】 (Innov_Proc2_inhouse) 0.3174 0.438 プロセス・イノベーション2:新しい物流・配送方法 【外部機関と共同】 (Innov_Proc2_jnt) -0.6929 0.123 プロセス・イノベーション2:新しい物流・配送方法 【外部機関が主導】 (Innov_Proc2_ext) 0.1773 0.775 プロセス・イノベーション 3:新しい業務支援方法 【自社単独】 (Innov_Proc3_inhouse) -0.2970 0.2 プロセス・イノベーション 3:新しい業務支援方法 【外部機関が主導】 (Innov_Proc3_jnt) 0.3551 0.213 プロセス・イノベーション 3:新しい業務支援方法 【外部機関が主導】 (Innov_Proc3_jnt) -0.1469 0.682 販売に関するイノベーション1: デザインやパッケージの変更(Innov_Mk1) -0.0534 0.811 販売に関するイノベーション2: 新たな販売手法の導入 (Innov_Mk2) 0.2839 * 0.083 販売に関するイノベーション3: 新しい価格付けの導入 (Innov_Mk3) 0.4915 *** 0.004 単独出願の有無 (Pat_Sgl) 0.3987 ** 0.015 共同出願の有無 (Pat_Jnt) 0.1186 0.462 定数項 -1.1184 *** 0 対数尤度 -194.61871 疑似決定係数 0.1207 観測数 364 有意水準 *** 1%, ** 5%, * 10% 6.まとめ 上記の2つのモデルは、一見すると、図1と相反する側面を含んでいるようにも見受け られる。実際、図1では、各種の「プロダクト・イノベーション」を実現した企業の四割程 度は、外部機関の力を借りていたにも関わらず、表2や表3では外部機関の効果があまりみ
られていないからである。その理由は、表2・表3のモデルの説明変数の多くが、「イノベー ションを実現した」ことを示す成果指標だからだと考えられる。換言すれば、「まだ結実し ていない状況での、プロセス・イノベーションへ向けた努力」などは、今回のモデルにおけ る説明変数(各種イノベーション)では表現されていない。そのため、「イノベーションを 創出したか」ではなく、「創出しようと努力しているか」という取り組みに関する指標を入 れることにより、両者は整合的になるものと考えられる。 このようないささか目に見えにくい取り組みの中には、自社内の現行プロセスを分析し てブラッシュアップを試みるケースや、外部機関(企業、大学等)の先進的な取り組み・技 術等を吸収するケースが考えられる。後者の取り組みにおいては学習や模倣のプロセスが 含まれるため、一例として、Shenkar が指摘している6つのプロセス、すなわち、(i)「模倣 への準備」、(ii)「模倣対象の特定」、(iii)「情報の探索・選定・選択」、(iv)「コンテクストの 理解と自社への適用」、(v)「対象に深く潜り込んで因果関係を把握すること」、(vi)「模倣 の実践」、は指標作成時にも有効に活用できると考えられる。 本稿では、高度な開発能力と製品化能力をもつ中小企業における各種のイノベーション の創出状況を探り、また、その相互の連関性を示した点においては、一定の意義があるも のと推察される。一般の中小企業のビジネスにおいては、特許はあまり重要視されないこ とも多い。しかしながら、ハイテク製造業分野において他社が実現していない画期的なプ ロダクト・イノベーションを創出するためには、知財、とくに単独特許が重要な意味をも つことが、改めて定量的に確認された。また、ある意味、定説どおりではあるが、「製造・生 産に関するプロセス・イノベーション」の重要性や、「価格付け」の重要性が定量的に再確 認できたことも、本手法の有効性を下支えする結果だと考えられる。今後は、イノベーショ ンとしては捉え切れない種々の改善活動等についても、設問を工夫することによって半定 量化し、より実態に即したモデリングを試みる予定である。 注 1 2014年度より、2/3補助に変更となった。 2 実際のアンケートでは、平成24年度の「ものづくり基盤技術」22分野から該当する分野を回答し てもらっている。さらに細分化した技術ダミー変数を用いることは可能であるが、その場合、個々 の技術分野に該当するサンプル数がかなり少なくなってしまうため、本稿では大きく二分した。 参考文献 岡室博之(2009),「技術連携の経済分析∼中小企業の企業間共同研究開発と産学官連携」,同友館. 経済産業省(2012),『戦略的基盤技術高度化支援事業 制度評価(中間)報告書』,経済産業省産業構 造審議会産業技術分科会評価小委員会(平成, 24年3 月), www.meti.go.jp/committee/chuki/keieishien/gijutsu/001_s02_00.pdf,〔2014年2月22日確認〕. 児玉俊洋(2010),「製品開発型中小企業を中心とする産業クラスター形成の可能性を示す実証研究」,
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