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大学と産業社会の相関システム 7

<本特集の趣旨>

国立教育政策研究所の高等教育研究部は、平成 13(2001)年1月の改組によって誕生した新しい研 究部である。その最初の大型研究が、調査研究等特別推進経費による「新しい時代における大学と 産業社会との相関システムの構築に関する調査研究」であった。平成 13 年度から5年計画で着手さ れ、本年度がその最終年度にあたる。この5年間に生み出された研究成果のなかから、代表的な論 考を抽出して特集を構成した。

1.研究の目的と経緯

この研究課題のねらいは、知識基盤社会への移行という新しい局面における、大学と産業社会の 新しい相関関係のあり方を総合的に探求することにある。高度化・複雑化する今日の産業社会のな かで、大学がはたすべき新たな役割と機能が問われている。近年、産学連携やインターンシップの 推進、起業家養成教育の導入や PFI(Private Financing Initiative)の構想など、新しい試みが 次々と立ち上げられている。しかし、現実の急速な展開のなかで、それらの個別的な動向は、理念 的にも制度的にもいまだ整理されているとはいえない。 この研究プロジェクトの目的は、現在の大学がおかれている全く未知の環境が持つ意味と、大学 自身による対応や取り組みの実態を調査分析し、新しい大学像を構築するための基本的な知見の集 約と総括的な検討を行うことにある。本研究では、大学と産業社会が交差する「場」として、教育、 研究、経営の3つの領域を設定した。それぞれの領域において、文献研究、理論研究、事例研究、 質問紙調査などを適宜に組み合わせ、国際比較を盛り込みながら5年間にわたる研究を行った。 研究組織は、小松郁夫高等教育研究部長を研究代表者とし、高等教育研究部の研究職員5名と教 育政策・評価研究部の1名、そして所外の研究協力者 12 名の計 18 名によって発足した。その後、 小松が教育政策・評価研究部長に転じたため、平成 16(2004)年 10 月から筆者が研究代表者となっ てとりまとめにあたった。これまでの調査研究の成果はすでに8冊の中間報告書(文献表を参照) として刊行され、まもなく最終報告書を刊行するはこびとなっている。

2.本特集の構成

この特集は、5つの論文から構成されている。第1論文である塚原の論考は全体の総論にあたる。 すなわち、本プロジェクトの主題である「大学と産業社会の相関システム」をまず特定し、歴史的 な比較検討を行うことによって、新しい時代における相関システムの特色を古い時代のそれと対比 して明らかにした。 第2論文である飯吉の論考では、産学連携に関する経済団体の提言を分析した。この研究プロジ

【特 集】

国立教育政策研究所紀要 第 135 集

(2)

8 ェクトとほぼ同じ時期に、戦後期の主要な経済団体の提言をほぼ網羅したデータベースを著者は独 自に構築している。これを活用した分析の結果によれば、研究面での産学連携に関する提言は 1950 年代から散発的に行われていた。90 年代に産学連携の制度が整備されると、そうした制度をいかに 活用するかに提言の重点がうつり、産学連携を推進する人材の養成がまず求められた。ついで、そ れに限定されない幅広いすぐれた人材を人材育成面での産学交流によっていかに養成するかが論じ られた。 次の2つの論文は、教育面での産学連携をあつかっている。第3論文である川島の論考は日本の 事例をとりあげたもので、日本における高等教育(ないしより広い若者問題)の主要課題が、ポス ト青年期におけるライフコースの選択的自立を支援する活動にあることを指摘し、その手段として インターンシップが注目されてきたことを示した。しかし、本研究の一環として行われた調査の結 果によれば、大学(学校)教育において欠落している要素を体験型学習で補うという認識だけでは 不充分な状況にたちいたっている。 第4論文である井口の論考は米国の事例を対象とし、コミュニティ・カレッジにおける産業界・ 大学・地域社会の協同教育プログラムをとりあげた。協同教育プログラムは 1920 年代に開始され、 60 年代には連邦政府の財政支援を受けて、今日まで着実に成長をとげてきた。学内での学習と学外 での就業は在学期間を通じてほぼ並行して行われるが、両者を1日単位で交代する方式と学期ごと に交代して行う方式がみられた。報酬をともなう長期にわたるものであるため、学生を受け入れる 産業界や地域社会の深い理解が不可欠である。このプログラムは、学生、大学、雇用者、地域社会 のいずれにも貢献するが、雇用者や学生がその教育的意義を理解せずに行う場合には問題が生じる ことを指摘した。 第5論文は、研究面の産学連携に関する鎌谷の論考である。日本における研究面での産学連携は、 非公式な活動として行われることが少なくなかった。そのため、とくに戦後期については、実証的 な歴史研究を行うにたりる史料が蓄積されているとは言いがたい。こうした事情は本質的には戦前 も同じであるが、戦前期については利用可能な史料がいくらか存在する。本稿は、明治期から第二 次大戦期までの産学連携に関する通史であり、史料の制約から旧帝国大学の大学附置研究所を対象 としている。それにより、産業界、官界、軍部などと大学の協力関係が、明治の初期から継続され ていたことを跡づけている。

3.さしあたりの結論

この研究プロジェクト全体の、さしあたりの結論は第1論文の末尾にまとめておいた。先に述べ たように、本研究では、大学と産業界が交差する場として、教育、研究、経営という3つの領域を 設定した。大学と産業社会の「新しい時代の相関」関係を古い時代のそれとを対比すれば、教育に おいては、大学教育に効果があることを批判的に前提とした学歴社会論から、大学教育の有効性を 社会に説得する立場への移行である。教育面の産学連携については、自立した大学生に実習経験を 付与するものから、ポスト青年期におけるライフコースの選択的自立を支援する活動への移行であ る。研究面の産学連携については、非公式な活動から制度的に明確に位置づけられた活動への移行 である。大学のガバナンスについては、管理から経営への重点の移行である。いずれについても、 古い相関システムと新しい相関システムには大きなちがいがあるが、後者に関する研究の蓄積は乏 しい。それとともに、現時点では、大学と産業社会の双方が新しい相関システムに不慣れである。

(3)

大学と産業社会の相関システム 9 したがって、地道な交流を積み重ねていくことが新しい相関システムの構築にもっとも寄与するよ うに思われる。 文 献 小松郁夫(研究代表者) 2002『新しい時代における大学と産業社会との相関システムの構築に関する調査研究─ ─中間報告書1』国立教育政策研究所。 ──── 2003a『大学・短期大学における資格取得の実態に関する全国調査──新しい時代における大学と産業社 会との相関システムの構築に関する調査研究 中間報告書2』国立教育政策研究所。 ──── 2003b『新しい時代における大学と産業社会との相関システムの構築に関する調査研究──中間報告書3 (講演集)』国立教育政策研究所。 ──── 2005a『ギャップイヤーに関する基礎的研究──新しい時代における大学と産業社会との相関システムの 構築に関する調査研究 中間報告書4』国立教育政策研究所。 ──── 2005b『学校インターンシップの可能性と課題──新しい時代における大学と産業社会との相関システム の構築に関する調査研究 中間報告書5』国立教育政策研究所。 塚原修一(研究代表者) 2005a『新しい時代における大学と産業社会との相関システムの構築に関する調査研究─ ─中間報告書6』国立教育政策研究所。 ──── 2005b『大学教育における獲得能力と初期キャリア~ドイツの場合──新しい時代における大学と産業社 会との相関システムの構築に関する調査研究 中間報告書7』国立教育政策研究所。 ──── 2006『地域における経済団体等の人材育成事業及び大学等との連携に関する調査──新しい時代におけ る大学と産業社会との相関システムの構築に関する調査研究 中間報告書8』国立教育政策研究所。 (塚原 修一)

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