Kobe Shoin Women’s University Repository
Title 謡曲「雲林院」考 : 改作をめぐる詞章の変遷と主題の転化
Author(s) 伊藤 正義(Ito Masayoshi)
Citation 文林(BUNRIN),No.1:111-141
Issue Date 1966
Resource Type Bulletin Paper / 紀要論文
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謡
曲
﹁
雲
林
院
﹂
考
ー 改 作 を め ぐ る 詞 章 の 変 遷 と 主 題 の 転 化 i伊
藤
正
義
謡 曲 ﹁ 雲 林 院 ﹂ は 、 そ の 成 立 が 世 阿 弥 以 前 に 遡 る 、 い わ ゆ る 古 作 の 能 で あ る 。 現 在 、 応 永 揖 四 年 二 月 の 日 付 け を も つ 世 阿 弥 自 筆 の 本 が 遺 っ て い る が 、 そ の テ キ ス ト は 、 現 行 形 態 に 異 り 、 と り わ け そ の 後 半 は 、 全 く ち が っ た か た ち と な っ て い て 、 自 筆 本 が 写 さ れ た 応 永 光 四 年 以 後 の 、 い つ の 時 期 か に 大 改 作 が 行 な わ れ た こ と を 物 語 っ て い る 。 と こ ろ で 、 そ の 改 作 か ら 、 今 の か た ち に 落 ち 着 く ま で の ユ レ は 、 か な り の 振 幅 を 持 っ て お り 、 改 作 、 す な わ ち 現 行 形 態 と い う わ け で は な さ そ う で あ る 。 し か も 、 落 ち 着 い た と み る べ き 現 行 諸 流 の 間 に お い て も 、 こ の よ う な 歴 史 的 推 移 を 示 す 異 同 を み せ て い る 。 加 う る に 、 改 作 -現 行 形 態 に お け る 筋 立 て は 、 何 か す っ き り し な い も の を 感 じ さ せ て 、 ﹁ 雲 林 院 ﹂ は 、 問 題 あ る 曲 と 云 え る で あ ろ う 。 小 稿 で は 、 ま ず テ キ ス ト の ユ レ を 辿 っ て み た い と 思 う 。 少 く と も 、 ひ と つ の 流 動 過 程 を 確 か め る こ と は 出 来 よ う 。 そ の 上 で 、 一 曲 の 構 想 を た し か め 、 原 型 と 改 作 の 変 化 に 伴 う 、 テ キ ス ト と 構 想 上 の 関 連 に つ い て 検 討 し て み よ う と 思 う 。 こ れ は 、 謡 曲 の 個 別 研 究 の ひ と つ の 試 み の つ も り で あ る 。 111一一 本 文 に つ い て の 考 察 現 存 す る テ キ ス ト の う ち 、 最 も 古 い も の が 前 記 、 ﹁ 世 阿 弥 自 筆 本 ﹂ ︹宝 山 寺 蔵 ) で あ る こ と は 云 う ま で も な い か 、 の 他 、資料 と し て こ こ に 用 い 得 た も の を 略 記 す れ ば 、 次 の 通 り で あ る 。 ( ) 内 は 準 稿 に お け る 略 称 を 示 す 。 1 2 3 54 『 6 呂 13 1£ ユ1109 某 氏 蔵 堀 池 宋 活 章 旬 本 (寮 活 本 ) 天 理 図 缶 館 蔵 無 署 名 古 写 本 (天 理 本 ) 松 井 家 蔵 妙 佐 本 転 写 本 (松 井 甲 本 ) 松 井 家 蔵 無 署 名 古 写 本 (松 井 乙 本 ) 鴻 山 文 庫 蔵 菊 屋 寡 旧 蔵 本 凸菊 屋 本 ) 鴻 山 文 庫 蔵 伝 松 平 伊 葺 守 旧 蔵 本 (伝 松 平 本 ) 能 楽 研 究 所 蔵 尚 川 豊 前 守 旧 蔵 下 村 識 語 末 (下 村 本 ) 島 漂 松 平 文 庫 蔵 畑 署 名 古 写 本 (島 凍 本 ) ・能 楽 研 究 所 蔵 伝 光 焼 自 蛋 本 (伝 光 悦 本 ) 能 楽 研 究 所 蔵 右 田 少 左 衛 門 節 付 本 (石 田 本 ) 鴻 山 文 庫 蔵 大 又 尭 衛 本 ( 大 又 兵 衛 本 } 龍 門 文 庫 蔵 藤 木 敦 直 乎 写 本 (藤 木 本 ) 能 楽 研 究 所 簾 下 間 少 逸 手 澤 車 屋 謡 本 (下 間 本 ) そ ・-1端 一
14 能 楽 研 究 所 蔵 菊 屋 家 旧 蔵 二 番 綴 本 ( 菊 屋 二 番 本 ) 15 能 楽 研 究 所 蔵 菊 屋 家 旧 蔵 五 番 綴 本 ( 菊 屋 五 番 本 ) 16 能 楽 研 究 所 蔵 廻 神 甚 五 郎 筆 喜 多 流 謡 本 ( 廻 神 本 ) 茸 能 楽 研 究 所 蔵 上 杉 家 旧 蔵 下 懸 謡 本 ( 上 杉 本 ) 18 鴻 山 文 庫 蔵 了 随 三 百 番 本 ( 了 随 本 ) 19 天 理 図 書 館 蔵 下 懸 謡 本 ( 天 理 下 懸 本 ) 以 上 の う ち ー か ら 12 ま で は 上 懸 謡 本 、 12 が 宝 生 流 の 他 は 観 世 流 で あ る 。 室 町 末 期 乃 至 江 戸 初 期 の 書 写 、 ま た は そ の 頃 の 章 句 を 写 す も の と み ら れ る 。 13 以 下 は 、 16 を 除 き 金 春 流 と み ら れ る 。 ま た 13 は 、 本 文 の み で 節 付 け は な い 。 ﹁ 雲 林 院 ﹂ の 場 合 は 、 上 懸 系 の み で 本 稿 の 目 的 に 適 う と 思 わ れ る が 、 参 考 の た め 、 一 往 右 七 本 を も 掲 出 し た 。 な お 江 戸 時 代 の 流 動 を 示 す も の に 、 鴻 山 文 庫 蔵 ﹁ 動 塵 録 ﹂ 、 同 ﹁ 万 延 元 年 金 春 錠 次 郎 筆 流 外 物 謡 本 ﹂ 、 能 楽 研 究 所 蔵 ﹁ 六 徳 本 系 写 本 ﹂ 、 同 ﹁ 江 戸 中 期 写 下 懸 謡 本 ﹂ 同 ﹁ 内 外 二 百 番 謡 本 ﹂ 、 等 が あ る 。 こ れ は 版 本 と と も に 検 討 の 必 要 が あ る が 、 本 稿 の 目 的 と 直 接 結 び つ く も の で は な く 、 と り あ え ず ︿ 第 三 表 ﹀ に ま と め る に 止 め る 。 そ の 他 に 、 刊 本 と し て 、 光 悦 本 、 古 活 字 玉 屋 本 、 黒 雪 章 句 仮 名 印 本 、 元 和 卯 月 本 、 現 行 四 流 本 ( 観 世 、 宝 生 、 金 剛 、 喜 多 ) を 参 考 に 加 え た 。 諸 本 の 詳 細 に つ い て は 、 一 部 を 除 き 、 表 章 氏 の ﹁ 鴻 山 文 庫 本 の 研 究 ﹂ 及 び ﹁ 能 楽 研 究 所 蔵 書 目 録 解 題 ﹂ が 詳 し く 、 こ こ で は 省 略 に 従 う 。 一113一
切 稿 を 進 め る に あ たり 、 ま ず順序 と L て 、 周 知 の こ と な が ら 、 ﹁ 雲 林 院 ﹂ の自筆本 形 態 と 現 行 形 態 の構成 を 、日本 古 典 文 学 大 系謡 曲集 上 に 従 っ て 、 対 照 し て 示 す と 、 お お む ね 次 の 通 り で あ る 。 自 篇 本 現 行 本 ・① 次 第 ① 次 第 ( 名 ノ リ ) (名 ノ リ ) サ シ 下 薯 下 研 上 薪 上 吾 ③ ⑤ ④ ③ ② 問 一h問 」二 研 周 口 口 答 留 答 研 答
⑥
⑤
④ ③ ② 問 上 間 上 可 問 ロ ロ 答 毎 答 寄 答 一 ユu一, ⑦ 上 幕 ⑧ 下 ノ 詠 ⑨ 掛 ケ 合 ⑨ 掛 ケ 合 ⑩ ク リ ⑩ ク リ ( サ シ ) ( サ シ ) ク 七 ⑪ 詠 ⑳ ノ リ 地 下 寄 上 ノ 諏 ⑬ サ シ 一 セ イ 下 ノ 詠 ⑭ 掛 ヶ 合 注 ( ) は 詞 章 に 大 き な 異 同 の あ る こ と を 示 す 。 ⑮ 舜 ン ギ 右 の う ち 、 ⑥ 以 下 、 圃 ち 、 中 入 以 穣 は 金 く 異 う た 部 分 で あ り 、 比 較 対 照 の 対 象 外 と し て 、 し ば ら く 問 題 の 外 に 置 く 。 一115一
も ち ろ ん 、 ① か ら ⑤ ま で に し て も 、 自 筆 本 形 態 と 現 行 形 態 と で は 、 語 句 の 異 同 対 照 は 簡 単 で な く 、 そ の ち が い は 極 め て 大 き い の で あ る が 、 構 成 そ の も の に お い て は 、 殆 ん ど ↓ 致 す る こ と 、 右 に み ら れ る 通 り で あ る 。 た 雪 一 ヶ 所 、 ワ キ の 公 光 が 、 夢 に 、 高 貴 の 男 女 が 伊 勢 物 語 を 持 ち 、 か つ 、 都 紫 野 の 雲 林 院 を 尋 ね る べ く 示 さ れ た 話 を 語 る 部 分 が 、 自 筆 本 で は ① 名 ノ リ の 中 で 語 ら れ る の に 、 現 行 形 態 は ⑤ 問 答 の 部 分 に 転 置 さ れ て い る こ と が 注 目 さ れ る 。 具 体 的 に こ れ を 示 せ ば 、 自 筆 本 ① 名 ノ リ は 、 こ れ は 津 の 国 芦 屋 の 里 に 公 光 と 申 す 者 な り わ れ 若 年 の い に し へ 、 さ る お ん 方 よ り 伊 勢 物 語 を 相 伝 し 明 け 暮 れ 玩 び 候 あ る 夜 の 夢 に と あ る 花 の も と に 束 帯 給 へ る 男 紅 の 袴 召 さ れ た る 女 性 か の 伊 勢 物 語 の 冊 子 を ご 覧 じ て 木 蔭 に 立 ち 給 ふ を あ た り に あ り し 翁 に 問 へ ば 、 こ れ こ そ 伊 勢 物 語 の 根 本 在 中 将 業 平 女 性 は 二 条 の 后 所 は 都 紫 野 の 雲 の 林 と 語 る と 思 ひ て 夢 覚 め ぬ あ ま り に あ ら た な り つ る 夢 な れ ば 急 ぎ 都 に 上 り か の 所 を も 尋 ね ば や と 思 ひ つ つ と あ っ て 、 次 の 下 嵜 に つ づ い て い る 。 こ れ に 対 し 現 行 形 態 は 、 観 世 流 の 場 合 で 云 え ば 、 こ の 部 分 が こ れ は 津 の 国 芦 屋 の 里 に 公 光 と 申 す 者 に て 候 わ れ い と け な か り し 頃 よ り も 伊 勢 物 語 を 手 馴 れ 候 所 に あ る 夜 不 思 議 な る 霊 夢 を 漿 り て 候 程 に 唯 今 都 に 上 ら ば や と 存 じ 候 と あ っ て サ シ に つ 望 き 、 ⑤ 問 答 に い た っ て 、 こ の 名 ノ リ 前 半 と 同 文 、 但 し 点 線 の 部 分 以 下 が 、 ﹁ 或 夜 の 夢 に と あ る 花 の 蔭 よ り も ⋮ ⋮ ﹂ と 、 夢 の 有 様 を 物 語 る 構 成 を と っ て い る 。 と こ ろ で 、 こ こ に 極 め て 注 目 さ れ る の は 、 現 行 形 態 を と る 前 記 諸 本 の う ち 、 1 宗 活 本 、 2 天 理 本 、 3 松 井 甲 本 、 4 松 井 乙 本 の 四 本 は 、 こ の 夢 の 話 が 、 ① 名 ノ リ と 、 ⑤ 問 答 の 両 方 の 部 分 に 重 複 し て 語 ら れ る と い う 特 徴 を 持 っ て い る こ と で あ る 。 即 ち 、 ① 名 ノ リ に お い て は 、 前 記 点 線 部 分 が 、 ﹁ 或 夜 の 夢 に と あ る 花 の 蔭 よ り ﹂ と な っ て 夢 の 話 と な り 、 そ の 終 り が ﹁ 鯨 り に あ ら た に 候 程 に た だ 今 都 に 上 り 候 ﹂ と あ っ て サ シ に つ , く 。 一116一
ま た ⑤ 問 答 で は 、 現 行 テ キ ス ト に 殆 ん ど 一 致 す る 。 こ の こ と か ら 、 夢 の 話 の 有 無 が 、 も し 、 ︹ ① ア リ ⑤ ナ シ ︺ 1 ← ︹ ① ア リ ⑤ ア リ ︺ 1 ← ︹ ① ナ シ ⑤ ア リ ︺ へ の 推 移 を 物 語 る も の と す れ ば 、 か ・ る 中 間 的 性 格 を 持 つ 右 の 四 本 は 、 自 筆 本 形 態 か ら 現 行 形 態 へ の 過 渡 的 段 階 を 示 す も の と し て 、 極 め て 注 意 さ れ る も の で あ ろ う 。 果 し て こ の 四 本 は 、 そ の 他 の 古 本 写 本 間 に お い て い か な る 位 置 を 占 め る の か 、 ま た 、 そ の 他 の 古 写 本 は 、 こ の 四 本 と ど う 関 係 ザ る の か 。 こ れ を 検 討 す る に つ い て 、 ま ず 、 さ き に 掲 げ た 諸 本 の 主 た る 異 同 を 対 照 し て あ ら わ せ ば 、 ほ 窄 次 の 表 の 如 く で あ る 。 ︿ 第 一 表 V 構 成 小 段 ① イ 異同部分 口 321 4 占 1 32 わ れ い と け な か り し 頃 よ り も わ れ よ り と き よ り も あ る 夜 不 思 議 な 石 霊 蔓 を 醍 り て 候 程 に の の 夢 を 見 て 候 糎 に
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1 且 a 4 5 6 7 8 9 10 11 』L 13 14 15 16 17 1日 ⊥ A B C ユ E F G H ノ、 321 唯 今 都 に 上 ら ば や と 存 じ 候 ⋮ ⋮ ⋮ へ 上 り 候 此 度 思 ひ 立 ち 都 に 上 り 候 酬 ○ ○ ○ く O O O O o O O 由 く O O O O O O O 1 O O (注 ロ) ○ ノへ 一注 り注 都 ロ 候 イ ㍉_ノL㌔ ノ 企 コ コ と都 先 な に 々 るL都゜が に 上 ② 二 21 一一 れ れ遙 ば ばに と人 家 を 見 て : ■ 即 ち 入 入 る る な な 0 (注) 0 0 0 0 ○ ○ 0 O 0 ○ Io 0 ○ (⊃ ○ ○ O ○ ○ ○ ○一 ○ ○ ○ ○ A 注 口 ヨ と L 補 o ③ ホ 1 誰 そ や う 花 折 る は 2 花 を 折 る は 0 (注) 0 0 0 ○ O O ○ ○ O O O O O O O 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0跳 と
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﹁ 誰 ④ へ 12 枝 な が ら 手 折 れば ○ ○ 0 0 0 0 000000 0 0 0 濁 o O O く ○ 0 0 0 0 0 0 0 ( 注) ﹁ 御身 は 折れ ば ﹂ とあ り 、 脱か 。 折 れ ば ト ー 123 千金 に か へ じ と は 一 千金に も 一 千金 に か へ ず と は 一 一・
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( 注 二 ) ﹁ 色 な れ ど﹂(注ホ)﹁色ながら﹂ こ れ も それ も 一118一H旨 1 oooo ooo ooooo ooooooooo oooo ・・ …{ン ♪ 諮c・ … ・ ・ 臼3蒔 か ♪ 器 翻 始 N 暑 oooo oooo o oooooo ooooo ooo oooooooo 鴫 叫f 肉 卜 瀞{}齢 勘 伴 ゴ噛q oo ooooooo ooo oo ooooooooo 打 塒 購 … … … 恥 π 竪 魯 鼎 爵NΨ 。 く 斗 「 司 〔 群 群)ooo
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●ヨ タ レ 321 2ヱ121 ソ 21 伊 勢 物 語 の 草 紙 を 持 ち 狩 み 給 ふ を 御 覧 じ ・・ ⋮ ・ 御 覧 じ て ⋮ 余 り に あ ら た な る 事 に て 候 程 に に 候 程 に 今 癖 は こ ∼ に 臥 し 給 ひ 別 れ し 嬰 を ⋮ ⋮ ⋮ 木 蔭 に D 6 ○ ○ ○ ○ ○ ラ 注 O O O O O く 嬉 し や さ ら ば ⋮ ⋮ ⋮ さ て は ○ O O O O 0 0 0 ○ O O q O O O O O O ○ 。 一 (注 ) ﹁ 持 ち 御 覧 じ ﹂ O O O O O O G O O O O O O 凸 ,0 0 P -O O O O O
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よ う な 素 性 を 語 る も の は な い が 、 第 一 表 に よ っ て わ か る 通 り 、 松 井 甲 本 と 殆 ん ど 一 致 す る 。 さ て 、 右 四 本 に つ い て 、 そ の 性 格 を 主 と し て 外 部 徴 証 に 求 め る と き 、 以 上 の よ う に 、 宗 節 系 と 元 頼 系 と い う 、 室 町 末 期 観 世 流 テ キ ス ト の 二 系 統 を 含 む も の で あ っ た が 、 そ の こ と の 確 認 、 お よ び そ の 特 徴 を 明 ら か な ら し め る 意 味 で 、 四 本 に 関 す る 対 照 を 示 せ ば 、 お お む ね 第 二 表 の 通 り で あ る 。 八 第 二 表 V hgfedcba 第 一表 との 関 連 イ 異同部分 3 松 井 甲 本 わ れ い と け な か り し 頃 よ り と あ る 花 の 蔭 よ り 束 帯 し 給 へ る お の こ 伊 勢 物 語 の 草 喋 御 覧 じ 茸 給 ふ を [ あ た り に あ り つ る 御 中 将 紫 野 雲 の 林 見 え て 夢 は 覚 め ぬ よ り 賦 在 原 在 " " 4 松 井 乙 本 本 理 2 天 ナ シ 本 活 1 宗 よ り も お と こ ナ シ け る 在 原 の 見 て 参 考
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7 下 村 本 5 よ り も ﹁ 時 よ り も 一 22 エ 一Xwvutsrqpoロmlkji ホ ニ へ 卜 ヌ リ チ ヨ レ 即 ち 入 る な れ ば 花 を 折 る は 花 を 散 ら す は 鶯 の
一
松 の ひ ・ き か 人 か 花 な 惜 し み 給 ひ 候 ぞ 枝 な が ら 折 れ ば 春 風 剛 千 金 に か へ ず と は 折 ら せ 申 す 事 候 ま じ こ れ も 御 理 こ ひ 衣 の い と け な か り し 頃 よ り も 召 さ れ た る 紹 持 ち 御 覧 じ た た ず み 給 ふ あ た り に あ り つ る 今 宥 は 木 蔭 に ふ し 給 ひ ナ シ ナ シ ︼ 人 か 一 ﹁ 、、そ コ ナ シ ナ 、、ハ ナ シ シ に そ コ ナ シ な れ ば と を 補 ハ 補 人 か 補 す し ナ 女 ナ シ 房 シ な れ ば と ナ シ ナ シ 手 折 れ ば 事 し は ナ シ 女 腸 こ け こ る な れ ば と ナ シ し 事 は こ れ は 時 よ り も ナ ナ シ シ ナ シ ナ シ 第 一 表 ・ 第 二 表 で わ か る よ う に 、 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4 本 に 個 有 の ー あ る い は 、 5 ・ 6 ・ 7 ・ 8 あ た り と も 共 通 の か た ち を 、 一 往 古 形 と 考 え る と 、 1 宗 活 本 は 、 原 則 的 に は 古 形 な が ら 、 異 同 部 分 に か な り 乱 れ の あ る 点 ( c e 且 s t W x な ど ) が 目 立 つ 。 し か し な が ら 、 一 方 、 1 宗 活 本 と 2 天 理 本 に の み 持 つ 特 徴 ( d i k l p r u ) も ま た 顕 著 で あ り 、 し か も そ れ が 、 一123一7 下 村 輩 と も共通 す る 特 微 で あ る 点 ( i k P ) を 含 ん で 、 両 木 を 同 系 の テ キ ス ト で あ る と み て よ い の で は な か ろ う か . と す れ ば 、 さ き に み た よ う に 、 宗 活 が 元 頼 の 弟 子 で あ る こ と 、 天 理 本 の う ち に 元 頼 系 の 木 に 甚 つ く も の が 比 較 的 多 い こ と 、 な と か ら 、 こ の 系 統 を 元 頼 系 と 考 え て よ い わ け で あ 為 。 そ れ と と も に 、 1 2 松 井 本 が 宗 節 系 で あ 乃 と す れ ば 、 こ れ ら に 極 め て 近 い 5 菊 屋 本 も ま た 、 同 じ 系 統 の テ キ ス ト と 認 め て よ か ろ う 。 こ の こ と を 、 詞 章 の 上 の 異 同 と は 挽 に 、 役 の 分 担 と 、 モ の 節 と 詞 の 交 替 の 而 忙 っ い て 、 特 に 顕 署 な 部 分 を 、 四 本 を 中 心 に 整 理 す る と 、ほぼ 次 の 通 り で あ る 。 凶 ① モ れ 花 は 乞 ふ も 盗 琶 も 心 あ り ㊧ と て も 散 る べ き 花 な 楷 し み 給 ひ 噌' ﹂ ㊦ コ ト バ ② コ ト パ ー ・ 2 ・ 5 ・ 7 ・ 9 ・ ⑳ ・ 11 ・ 15 ・ N ・ 版 ・ 上 ・ 剛 ① フ シ ② コ ト バ 呂 ; 4 ; 5 ・ 呂 ・ 14 ・ 15 ・ 毒 個 ① 何 と て 素 性 法 師 は 見 て の み や 人 に 語 ら ん 桜 花 ㊥ ・手 毎 に 折 り て ⑨ 寡 苞 に せ ん と は 詠 み け る ぞ ① コ ト バ ② ③ フ シ 3 ・ 4 ・ 5 ・ 8 ; 14 ・ 15 ・ 蛉 ・ P ・ 宝 ・ 剛 ① ② コ ト パ ③ フ シ ・-1糾 一一一
頓.坤 口〕} 臼 ロ 10 11 ● 版 ● 観 り 喜 ① ②③1 コ ぴ ㌧2 ノ ヘ ロ 畦 ● γ ① 糧 漂 激 し て 影 唇 を 融 せ ば ② わ れ は 申 さ ず と も ③ 花 も 惜 し き と ① シ テ コ ト パ ⑨ シ テ フ シ ③ ワ キ フ シ ④ シ テ フ 解 11 ・ 14 ・ 卯 ・ 上 ・ 下 ① シ デ コ ト バ ② シ テ フ シ ③ ④ ワ キ フ レ ー ⊥ 畳 7 ● 6 0 ① シ テ コ ト バ ② ワ キ フ シ ⑨ ④ シ テ フ シ ヨ ・ 4 ・ 5 ・ 6 ・ 9 ・ 15 ・ 光 ・ 玉 ① シ テ コ ト バ ② ③ ワ キ フ シ ④ シ テ フ シ 弼 ・ 19 ・ 黒 ① シ チ フ シ ② ワ キ フ シ ③ ④ シ テ ブ シ 曾 ・ 10 " ① い や ② 我 が 名 を 何 と 夕 映 の ③ く ④ 云 つ ぺ し 一1距 一
鋤 u・1 0 ② シ テ ③ 地 1 ・ 臥 ・ 3 ・ 4 ・ E 。 7 ・ 8 ・ 臼 ・ 14 ・ 15 ・ B ・ 19 ・ 光 ・ 玉 ・ 下 勘 シ テ ② ③ 地 3 朱 ・ 6 ・ 10 ・ 11 ・ 卯 ・ 黒 ・ 上 ① そ も く こ の 物 諾 は 如 何 な る 人 の 何 事 に よ ウ て 渤 思 ひ の 欝 を ⋮ ・; O ② 地 ⊥ ・ 2 ・ a ' 4 ・ 5 ・ 日 ・ 7 ・ 呂 ・ 9 ・ 14 ・ 15 ・ 19 ・ 光 ・ 玉 ・ 下 鋤 シ テ ② 地 10 ・ 11 ・ 16 ・ 卯 ・ 黒 ・ 上 仰 ま つ は 弘 徽 殿 の 細 殿 に ⑫ 人 目 を 深 く 忍 び ③ 心 の 下 廉 の ⋮ ⋮ ① ② シ テ ③ 地 1 ・ 11 ・ 15 ・ 19 ・ 卯 ・ 黒 ・ 上 ① シ テ ⑱ ③ 地 君 噸 ゜呂 ゜ 4 ° 5 ° q り . 4 ° 5 † 上 ﹁ i ・ ⊥ ① ② ③ 地 一1呂U-一
6 ・ 7 ・ 8 ・ 光 ・ 玉 以 上 、 因 ∼ 働 の 六 箇 所 に つ い て み る と き 、 宗 節 系 と 推 定 す る 3 ・ 4 ・ 5 三 本 は 、 と も に 同 形 態 を 示 し て い る 。 こ れ に 対 し 、 元 頼 系 の ー ・ 2 ・ 7 三 本 間 に 共 通 す る の は 、 凶 圃 働 画 の み で あ っ て 、 ◎ と 倒 に つ い て 、 い ず れ か の 本 の ユ レ を 想 定 せ ざ る を 得 な い の で あ る 。 し か し 、 ◎ ⑭ を 除 い て も 、 こ の 両 系 に 比 較 的 に 一 線 を 画 し 得 る 点 で 、 右 の 推 定 を ︼ 往 裏 付 け る こ と が 出 来 る で あ ろ う 。 か く て 以 上 の 推 論 か ら 、 上 記 四 本 を 以 て 、 自 筆 本 形 態 か ら 現 行 形 態 へ 移 る 、 室 町 中 期 か ら 末 期 に か け て の 過 渡 的 形 態 を 示 す 二 系 統 の テ キ ス ト と し て 位 置 づ け る こ と が 出 来 る と す れ ば 、 次 に 、 そ の 過 渡 形 態 か ら 現 行 形 態 へ 落 着 く 時 期 を 絞 る こ と は 出 来 る で あ ろ う か 。 そ の 場 合 、 3 松 井 甲 本 の 識 語 に 慶 長 三 年 の 年 記 を 持 つ こ と は 、 ひ と つ の 目 安 と な ろ う 。 さ ら に 11 大 又 兵 衛 本 は 、 末 に ﹁ 慶 長 十 六 年 正 月 日 ﹂ の 日 付 け を 持 ち 、 そ れ が 本 文 と は 異 筆 で 、 書 写 の 日 付 け を 示 す も の で は な い ら し い が 、 し か し 、 そ の 時 以 前 に 現 行 形 態 へ 移 っ て い た こ と を 示 す 日 付 け と し て の 意 味 を も つ も の で は あ る 。 と す れ ば 、 慶 長 三 年 か ら 十 六 年 ま で の 間 が 、 い ま 問 題 と す る 時 期 と し て 考 え て よ い で あ ろ う か 。 厳 密 に 云 え ば 、 わ ず か な 資 料 、 そ れ も 観 世 流 テ キ ス ト に つ い て の み の 推 論 で あ り 、 こ の こ と を 、 他 の す べ て の テ キ ス ト に 及 ぼ し 得 る か ど う か 、 ま た 、 観 世 の 場 合 に し て も 、 宗 節 系 、 元 頼 系 と も に 、 こ の 時 期 と 断 定 し 得 る か ど う か に 、 な お 問 題 は 残 ろ う 。 た と え ば 、 金 春 系 テ キ ス ト の 場 合 に つ い て み る と き 、 13 下 間 本 以 前 に 遡 る テ キ ス ト を 持 た ぬ 現 在 、 こ の よ う 一127一
な 過 渡 的 形 態 の 存 在 の 有 無 は 不 明 で あ り 、 ﹁ 井 筒 ﹂ の 場 合 の よ う に 、 室 町 期 金 春 古 写 本 が 、 部 分 的 に 個 有 の 詞 章 を 持 っ て い ろ よ う な 可 能 性 を 、 な い と 断 定 し が た い 事 情 も か ら ん で 来 よ う 。 し か し 、 ﹁ 雲 林 院 ﹂ は 、 下 懸 系 に お い て は 極 め て 遠 い も の の よ う で あ る 。 古 写 本 の 皆 無 で あ る こ と 、 車 屋 本 は 版 本 系 に な く 、 写 本 も わ ず か に 下 間 本 の み が 収 め る も の の 、 そ れ も 節 付 け 等 を 欠 く こ と 、 ( 但 し 、 謡 抄 に は 入 っ て い る ) 、 江 戸 時 代 に な っ て も 、 寛 文 書 上 は す べ て に 欠 き 、 元 文 、 天 保 の 書 上 に も 金 春 流 は こ れ を 欠 く こ と 、 ま た 現 行 曲 に も 金 春 流 は 欠 い て い る こ と な ど が 、 こ の こ と を 物 語 っ て い る 。 し た が っ て 、 下 懸 系 テ キ ス ト と し て は 、 ﹁ 雲 林 院 ﹂ の 場 合 、 最 も 古 い 資 料 と し て の 下 間 本 が 、 道 晰 自 筆 と 認 め ら れ な が ら 、 第 一 表 に み ら れ る よ う に 、 異 同 の 型 と し て 、 観 世 系 の 型 を 出 る も の の な い こ と な ど を も 支 え と し て 、 現 段 階 と し て は 、 現 行 形 態 へ の 移 行 の 時 期 を 、 お お よ そ 右 の よ う に 見 当 づ け て よ い の で は な い か と 思 わ れ る 。 ㈲ 以 上 、 詞 章 の 変 遷 を 、 仮 り に 過 渡 形 態 と 名 付 け る 前 記 四 本 を 中 心 に 検 討 し た わ け で あ る が 、 そ れ で は 現 行 形 態 を と っ て か ら の 場 合 は ど う か 。 異 同 の 語 句 、 お よ び そ の 異 同 の 出 入 り の 型 を 追 求 し て 行 け ば 、 原 理 的 に は 変 遷 を 跡 づ け ら れ そ う で あ る が 、 実 情 は 必 ず し も そ の よ う に 簡 単 で は な い 。 そ れ ぞ れ の テ キ ス ト の 権 威 を ど う 認 定 す る か 、 と い う こ と ・ 併 行 し て 処 理 し な け れ ば な ら な い か ら で あ る 。 ま し て 江 戸 時 代 に は 、 基 礎 資 料 と し て の 版 本 が チ ェ ッ ク さ れ な け れ ば な ら な い 。 ま た 写 本 群 に お い て も 、 さ き に 掲 出 し た い く つ か の 表 に 関 連 し て 、 た と え ば 江 戸 期 下 懸 諸 本 の ユ レ 、 そ れ ら と 現 行 下 懸 流 儀 と の 関 係 、 伝 光 悦 本 と 光 悦 本 、 石 田 本 と 元 和 卯 月 本 、 あ る い は 古 刊 本 、 さ ら に そ れ ら と 現 行 観 世 流 と の 関 係 、 松 平 本 、 島 原 本 、 藤 木 本 な ど の 性 格 な ど 、 単 に 一 曲 の み の 分 折 で な く 、 そ れ を 含 ん だ 総 合 的 立 場 で の 検 討 が 要 求 さ れ る で あ ろ う 。 も 一128一
ち う ん 小 稿 に お い て は 、 ま だ 十 分 の 用 意 も な い し 、 ま た そ の こ と を 目 的 と す る つ も り も な か っ た 。 て 、 前 表 に と ら な か っ た 異 同 を 、 さ し あ た り 関 連 資 料 と し て 参 考 に 付 す に 止 め た い 。 ︿ 第 三 表 ﹀ た 官 前 記 資 料 に つ い 構 成 小 段 異 同 部 分 ④ ③ ① ⑤ fedcba , ihg わ れ い と け な か り し 頃 よ り も ← ナ シ 花 を 散 ら す は 鶯 の 羽 風 に 落 つ る か ← ﹁ か ﹂ ナ シ お こ と は ← 御 身 は 風 よ り も な ほ 憂 き 人 よ ← や 折 ら せ 申 す 事 は 候 ま じ ← ﹁ は ﹂ な し げ に げ に こ れ は 御 理 花 も の 云 は ぬ 色 な れ ば ← ど 理 也 色 な が ら 御 身 は 何 方 よ り 来 り 給 ふ ぞ ← ⋮ ⋮ い つ く ⋮ ⋮ こ れ は 津 の 国 ← さ ん 候 こ れ は ⋮ ⋮ あ た り に あ り つ る 翁 に 問 へ ば ← け る こ れ ま で 参 り て 候 ← は る ぐ こ れ 毛 - ・-本 本 本 本 本 本 本 本 本 本 本 木 木 本 本 噛 懸 流 流 流 流 皿
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一宗 天 松 松 島 伝 大 下 菊 菊 狙 了 藤 六 江 流 天 観 宝 金 喜 1 2 3 ⊥ 幽ヨ 9 11 E 14 15 16 17 12 19 一 0 O 0 0 0 0 0 考 備 O O O ooo OO ○ ○ ○ 0 0 0 0 0 ユ 注 0 0 0 リ ム リ リ リ む 注 注 0 0 0 注 0 0 0 注 ○ ( 注 1 ) 廻 ﹁ 共 ﹂ ( 注 2 ) ﹁ い つ く よ り 何 方 . へ 御 通 り 候 ぞ ﹂ ( 注 5 ) ﹁ い つ く よ り 来 れ る 人 ぞ ﹂ ( 注 4 ) ﹁ 籾 是 ま で ﹂ 一129一1 ⑬ k ml 今 脊 は こ こ に 臥 し 給 ひ 別 れ し 夢 を ← ⋮ ⋮ 休 み 給 ひ ⋮ ⋮ ← ⋮ ⋮ 旅 居 し て ⋮ : ・ ← ⋮ ⋮ 木 蔭 に 休 み 給 ひ ⋮ ⋮ ← ⋮ ⋮ こ こ に 臥 し 給 ひ て 見 馴 れ し 夢 を ⋮ ⋮ 夕 べ の 空 の 一 か す み ← ⋮ ⋮ 雲 の ⋮ ⋮ い で く さ ら ば 語 ら ん と ← ⋮ ⋮ と て σ 一 O ○ 0 ○ O ○ ○ ﹁ 雲 林 院 ﹂ が 、 働 自 筆 本 形 態 i ⑥ 過 渡 形 態 1 ㈹ 現 行 形 態 と 推 移 す る 段 階 で 、 最 も 大 き な 変 化 は 、 云 う ま で も な く 働 か ら ⑥ で あ る 。 こ の 時 、 ① に サ シ が 加 わ り 、 ⑦ ⑧ が 加 わ り 、 ⑨ が 改 作 さ れ 、 ⑩ の サ シ 以 下 が 新 た に 作 り 加 え ら れ て 、 後 半 が 全 く 別 の 曲 に な っ た の で あ る 。 そ の 時 期 に つ い て は 、 推 定 の 手 掛 り も な い が 、 世 阿 弥 以 後 の 、 し か も さ ほ ど へ だ た ら ぬ 時 期 に 成 立 し た の で は な い か と 考 え ら れ る ふ し が 、 改 作 の 態 度 か ら う か が え る よ う に 思 わ れ る 。 か く て 、 テ キ ス ト の 変 遷 の 経 過 に 関 連 し て 、 そ の 変 化 が 内 容 の 面 で ど う か ・ わ る の か 、 云 い 換 え る と 、 ﹁ 雲 林 院 ﹂ 一 曲 の 内 容 か ら み た 構 想 と 構 成 は 、 自 筆 本 形 態 と 現 行 形 態 に お い て ど の よ う に 確 か め ら れ る か 、 ま た 、 そ の こ と に よ っ て こ の 二 形 態 は ど う 関 連 す る か 、 を 次 章 で 検 討 し た い と 思 う 。 一130一 二 構 想 に つ い て の 考 察
e ﹁ 雲 林 院 ﹂ の 構 想 を 考 え る 上 で 、 重 要 な 手 掛 り が い く つ か あ る よ う に 思 わ れ る 。 そ の う ち の 主 柱 を な す も の は 、 い う ま で も な く 、 素 材 ー 本 説 と し て の 伊 勢 物 語 で あ ろ う が 、 そ れ を 後 に 譲 っ て 、 は じ め に そ の 他 の 二 二 二 の 問 題 点 に つ い て 触 れ て お き た い 。 ま ず 、 ワ キ が 芦 屋 に 住 む 公 光 な る 人 物 で あ る こ と 。 公 光 を 仮 託 の 人 物 と す る の は ほ ず 定 説 の 観 が あ る が 、 果 し て 如 何 で あ ろ う 。 文 献 中 に も 末 だ そ の 名 を 見 出 さ な い し 、 郷 土 史 家 の 云 う 、 公 光 屋 敷 の 趾 と か 、 子 孫 に 山 村 姓 の あ る こ と ( 芦 屋 史 談 会 発 行 、 芦 屋 郷 土 誌 ) な ど は 、 も ち ろ ん そ の 実 在 を 示 す こ と に は な ら な い が 、 一 般 的 に 云 っ て 、 ワ キ が 個 有 名 詞 で あ る こ と の 意 味 を 、 等 閑 に 付 し て は な ら な い の で は な い か と 考 え て い る 。 そ れ は と も か く と し て 、 住 所 が 芦 屋 で あ る こ と は 、 あ る い は 業 平 と 芦 屋 の 里 と の 関 係 ( た と え ば 伊 勢 物 語 八 十 七 段 ) を ふ ま え て の こ と と も 考 え ら れ よ う 。 そ し て 、 公 光 が 業 平 と 二 条 后 を 夢 み 、 ﹁ 所 は 都 紫 の 雲 の 林 ﹂ と 示 さ れ る に っ い て は 、 自 筆 本 が 一, 雲 の 林 と は 雲 林 院 候 。 こ れ こ そ 二 条 の 后 の 御 山 荘 の 跡 に て 候 へ ﹂ と シ テ に 語 ら せ て い る こ と に よ っ て 脈 絡 が つ な が る 。 作 者 は 雲 林 院 と 二 条 后 と の 関 係 を こ の よ う に 把 え て い た の で あ る 。 た サ こ の こ と が い か な る 根 拠 に 基 づ く の か 、 今 は ま だ 詳 ら か な ら ぬ こ と の ひ と つ と し て 残 さ ざ る を 得 な い 。 伊 勢 物 語 関 係 の 諸 文 献 に も 、 こ れ に つ い て 触 れ る と こ ろ は な い が 、 あ る い は 末 流 の 注 の 俗 解 を 想 定 す る 可 能 性 は あ ろ う 。 こ れ を も 作 者 の 仮 構 と す る の は い か が で あ ろ う か 。 い っ た い 、 神 仏 に 祈 請 を 籠 め 、 あ る い は 夢 中 に 示 現 さ れ る 秘 伝 相 承 の か た ち は 、 中 世 に お け る 一 つ の 類 型 で さ え あ り 、 そ れ を ふ ま え て 、 芦 屋 か ら 雲 林 院 に 上 っ た 公 光 が 、 二 条 の 后 ・ 業 平 を 通 じ て 伊 勢 物 語 の 昔 を 見 聞 く こ と と な れ ば 、 ﹁ 魂 云 林 院 ﹂ ] 曲 の 構 想 の 骨 子 は 、 も は や そ れ だ け で 殆 ん ど が 成 っ た と 云 え よ う 。 と こ ろ で 、 雲 林 院 が そ の 場 所 と し て 設 定 一131一
さ れ れ ば ・ 骨 組 み に 肉 付 け す る 段 階 -世 阿 弥 の こ と ば を 借 り れ ば 、 能 を 書 く に あ た っ て 、 縁 に よ る べ き 詩 歌 の 言 葉 を 取 り あ て が い て 書 く た め に 、 素 性 法 師 の 歌 が 用 い ら れ た の は 極 め て 当 然 で あ っ た 。 い う ま で も な く 、 大 和 石 上 の 良 因 院 に 移 る 以 前 ・ 雲 林 院 に 住 ん で い た こ と の 縁 に よ る わ け で あ る が 、 し か も 、 こ こ に 用 い ら れ た 素 性 法 師 の 歌 ば 、 単 な ろ 引 歌 に 止 ま ら ぬ 重 さ を 持 つ の で あ る 。 試 み に ﹁ 雲 林 院 ﹂ 前 半 の う ち の 引 歌 を 示 せ ば 、 次 の 通 り で あ る 。 ω 難 波 津 に 咲 く や こ の 花 冬 ご も り 今 は 春 べ と 咲 く や こ の 花 司 木 伝 へ ば お の が 羽 風 に 散 る 花 を 誰 に お ほ せ て こ 、 ら 鳴 く ら ん 困 見 て の み や 人 に 語 ら ん 桜 花 手 ご と に 折 り て 家 苞 に せ ん 同 春 風 は 花 の あ た り を よ ぎ て 吹 け 心 づ か ら や う つ ろ ふ と み ん 困 見 渡 せ ば 柳 桜 を こ き ま ぜ て 都 ぞ 春 の 錦 な り け る 囚 ほ の ぼ の と 明 石 の 浦 の 朝 霧 に 島 が く れ ゆ く 舟 を し そ 思 ふ 以 上 六 首 の う ち 、 ω は 、 ① 上 歌 の ﹁ あ た り を 問 へ ば 難 波 津 に 咲 く や 木 の 花 冬 ご も り 今 は 現 に 都 路 の ﹂ と 、 道 行 き に 難 波 一一132一 昌
の 縁 で 引 か れ た も の で あ る 。 ま た 困 は 、 中 入 直 前 ⑤ 上 歌 ﹁ わ が 名 を 何 と 夕 映 え の ノ \ 花 を し 思 ふ 心 ゆ へ ﹂ に つ い て 、 自 筆 本 が ﹁ 何 と 夕 映 え の ﹂ で は な く 、 ﹁ 今 は 明 石 潟 ﹂ で あ る と こ ろ か ら 、 古 今 集 が 収 め る 困 に つ い て ﹁ 明 石 ⋮ ⋮ 舟 を し そ 思 ふ ﹂ か ら 、 舟 を 花 に も ち っ た も の と 、 日 本 古 典 文 学 大 系 謡 曲 集 上 に お い て 指 摘 さ れ た も の で あ る 。 以 上 の 二 例 は 、 そ の 他 の 例 と か な り 性 格 を 異 に し て お り 、 い ま こ れ を 考 慮 の 外 に お く と す れ ば 、 花 争 い に つ い て 、 ㈲ の 歌 に 対 す る 反 証 と し て 挙 げ ら れ た 倒 の 藤 原 好 風 の 歌 以 外 は 、 す べ て 素 性 の 歌 が 関 与 し て い る こ と に な る 。 た と え ば 、 ③ 問 答 の ﹁ 花 を 散 ら す は 鶯 の 羽 風 に 落 つ る か 松 の 響 か そ れ か あ ら ぬ か ﹂ は 、 ﹁ 謡 曲 拾 葉 抄 ㎝ 以 来 諸 家 の 注 に 、 す べ て 、 千 載 集 、 六 条 顕 輔 の ﹁ 梅 が 枝 に ふ り っ む 雪 は 鶯 の 羽 風 に 散 る も 花 か と そ 見 る ﹂ を 引 歌 と す る よ う に 説 明 さ れ て い た が 、 自 筆 本 が ﹁ 枝 を 不 伝 ふ 鶯 の 羽 風 か 松 の 響 か 人 か ﹂ と あ る に よ っ て 、 前 記 謡 曲 集 上 に 、 古 今 集 、 素 性 の 伺 を 示 さ れ た の は 、 表 章 氏 の 適 確 な 指 摘 で あ っ た 。 こ の よ う に 、 雲 林 院 と 花 の 縁 に よ っ て 、 素 性 の 歌 が 生 か さ れ て い る こ と は 、 単 な る 修 辞 上 の 方 法 と い う よ り は 、 む し ろ 花 争 い の 主 題 そ の も の を 構 成 す る 要 素 と な っ て い る と い う べ き で あ ろ う 。 事 実 、 自 筆 本 ﹁ 雲 林 院 ﹂ で は 、 本 来 の 主 題 た る べ き 後 半 へ の 導 入 と い う 意 味 合 い だ け で は な く 、 前 半 の こ の 花 争 い が 、 全 体 と し て 副 主 題 と し て の 重 さ を 持 つ と 云 え る で あ ろ う 。 そ し て 、 こ の こ と が ま た 、 改 作 ー 現 行 形 態 へ の 移 行 に 際 し て 、 後 述 す る よ う に 、 現 行 形 態 以 外 の か た ち を と ら な か っ た こ と に つ な が る の で は な い か と も み ら れ る の で あ る 。 な お 、 改 作 に よ っ て 附 け 加 え ら れ た 部 分 の う ち 、 ⑦ 上 歌 に お い て ﹁ い ざ さ ら ば 、 木 蔭 の 月 に 臥 し て 見 ん く 暮 れ な ば な げ の 花 衣 ﹂ と い う と こ ろ 、 や は り 素 性 の ﹁ い ざ さ ら ば 木 蔭 の 月 に 臥 し て 見 ん 暮 れ な ば な げ の 花 の か げ か は ﹂ に よ る こ と は 明 ら か で あ り 、 改 作 部 分 が 、 前 段 に 構 想 上 の つ な が り を も つ 唯 一 の も の で あ る 点 、 改 作 問 題 を 考 え る 点 で 極 め て 注 目 さ れ る と こ ろ で あ る 。 ● 一133一
● 口 雲 林 院 の 構 想 を み る 上 で 、 最 も 重 要 な 問 題 点 は 、 と り わ け 自 筆 本 に お い て 顕 著 な 、 伊 勢 物 語 と の 関 連 で あ る 。 か っ て 私 は 、 ﹁ 謡 曲 と 伊 勢 物 語 の 秘 伝 ﹂ ( 金 剛 六 四 号 、 昭 和 四 〇 年 五 月 ) と い う 小 稿 に お い て 、 謡 曲 に 引 用 さ れ て い る 伊 勢 物 語 の 各 段 は 、 決 し て 任 意 な も の で は な く 、 ﹁ 井 筒 ﹂ の 場 合 で い え ば 、 そ れ ら 各 段 が 、 業 平 と 紀 有 常 の 娘 の 話 と し て 理 解 し て い た 古 注 の 説 に 基 づ い て 構 想 さ れ た も の で あ る こ と を 検 証 し た 。 ﹁ 雲 林 院 ﹂ の 場 合 も ま た 同 様 で あ る と 云 い 得 る 。 ⑤ 問 答 に お い て 、 ﹁ さ て は 志 し を 感 じ 、 二 条 后 の こ の 花 の も と に 現 は れ 、 伊 勢 物 語 を な ほ な ほ お こ と に 授 け ん と の お ん こ と に て ぞ 候 ふ ら ん ﹂ と い う ワ キ の こ と ば 通 り 、 後 段 に 到 っ て の 伊 勢 物 語 伝 授 が 焦 点 で あ ろ こ と は い う ま で も な い 。 が 、 し か も そ れ が 、 業 平 を め ぐ ろ 多 く の 女 性 の 中 で も 、 特 に 二 条 后 に 焦 点 が 合 わ さ れ て い る 点 を あ ら か じ め 注 意 し つ ・ 、 以 下 、 自 筆 本 ﹁ 雲 林 院 ﹂ 後 段 に お け る 伊 勢 物 語 関 連 部 分 を 、 さ き に 掲 げ た 段 構 成 に 対 応 さ せ て 示 し 、 出 来 る だ け 簡 単 に そ の 拠 り 所 と す べ き も の に つ い て 確 か め て お こ う 。 一134一 構 成 小 段 自 筆 本 ﹁ 雲 林 院 ﹂ イ ノ、 口 ⑩ ク リ サ シ 下 寄 そ も そ も こ の 物 語 り は 、 い か な る 人 の な に ご と に よ っ て 、 思 ひ の 露 を 添 へ け る ぞ と 、 言 ひ け ん こ と も 理 か な ま つ は 武 蔵 野 と 詠 じ 、 ま た は 春 日 野 の 草 葉 の 色 も 若 緑 ⋮ ⋮ げ に げ に 伊 勢 や 日 向 の こ と は 、 た れ か は 定 め あ り ぬ べ き 武 蔵 塚 と 申 す は 、 げ に 春 日 野 の う ち な れ や ⋮ ⋮ 伊 関
雛
謝
段 る 備 考 現 行 本 に もヘ ホ ワ ヲ ル ヌ リ チ ト ⑬ ⑮ ⑭ 上 ノ 詠 サ シ 下 ノ 詠 掛 ケ 合 ロ ン ギ 武 蔵 野 は け ふ は な 焼 き そ 若 草 の 夫 も 籠 も れ り わ れ も 籠 も れ り 夫 と は 業 平 ご 詠 は 后 を 、 取 り 返 し し は わ れ 基 経 が 、 鬼 ひ と 口 の 肇 見 せ ん と ・ 形 は 悪 鬼 身 は 基 経 か 一 白 玉 か 何 ぞ と 問 ひ し い に し へ を 、 思 ひ 出 つ や の 夜 半 の 暁 海 人 の 刈 る 藻 に 住 む 虫 の わ れ か ら と 思 へ ば 世 を も 恨 み ぬ も の を 一 年 を 経 て 住 み 来 し 里 を 出 で て 往 な ば 、 く い と ㌢ 深 草 野 と や り な ん ・, ⋮ , , 野 と な ら ば 鶉 と な り て 泣 き 居 ら ん く 仮 だ に や は 君 が 来 ざ ら ん ⋮ ・・ げ に 心 か ら 唐 衣 着 つ つ 馴 れ に し 妻 し あ れ ば 遙 々 来 ぬ る 恋 路 の 坂 行 く は 苦 し や 宇 津 の 山 現 か 夢 か 行 き 行 き て 隅 田 川 原 の 都 鳥 い ざ 言 問 は ん 十 二 段 六 段 六 五 段 = 一 三 段 〃 九 段 〃 〃 一 一P 掛 ケ 合 に も ⑬ サ シ に も
﹁
1 イ 三 条 西 家 本 系 、 書 陵 部 本 ﹁ 智 顕 集 ﹂ の 表 現 が 最 も 近 い 。 但 し 、 そ れ が 直 接 の 典 拠 と な っ た か ど う か は 、 な お 詳 ら か で な い 。 (前 記 拙 稿 参 照 ) ロ ニ ホ 伊 勢 物 語 十 二 段 、 ホ の 歌 を め ぐ る 冷 泉 家 流 古 註 の 説 に 基 づ く と み ら れ る 。 広 島 大 学 蔵 ﹁ 千 金 莫 伝 ﹄ は 、 ﹁ 人 の 娘 を 盗 て 武 蔵 野 へ 行 と 云 ハ 、 長 良 中 納 言 大 和 守 に て 奈 良 に 住 け る 時 、 二 条 后 の い ま だ 内 裏 へ も 参 り 給 わ で 、 春 日 の 野 中 、 武 蔵 塚 へ 行 を 云 な り 。 其 を 武 蔵 野 と 云 。 此 武 蔵 野 の 故 事 、 日 本 紀 に 出 た り ﹂ と し て 、 小 野 美 佐 吾 の 武 蔵 塚 説 話 を 記 す 。 ﹁ 伊 勢 物 語 塗 籠 抄 ﹂ ( 片 桐 洋 一 氏 ﹁ 伊 勢 物 語 古 註 考 ﹂ 国 語 国 文 昭 和 三 九 年 四 月 参 照 ) や 、 ﹁ 毘 沙 門 堂 本 古 今 集 註 ﹂ な ど も 同 様 。 ち な み に 、 ﹁ 智 顕 集 ﹂ は 続 類 従 本 系 に こ れ を 欠 き 、 書 陵 部 本 は 、 女 を 二 条 后 、 国 司 を 堀 川 大 納 言 国 経 と し て 、 武 蔵 塚 一135一に つ い て は 触 れ る と こ ろ が な い 。 ハ 冷 泉 家 流 の 註 、 智 顕 集 と も に こ れ を 載 せ る 。 へ ト 伊 勢 物 語 六 段 を 、 業 平 と 二 条 后 の こ と と す る こ と 、 本 文 の 通 り 。 チ 伊 勢 物 語 六 五 段 の こ の 歌 を 、 冷 泉 家 流 の 註 は 二 条 后 の 歌 と す る 。 こ れ は い う ま で も な く 古 今 、 恋 五 、 典 侍 藤 原 直 子 朝 臣 の 歌 で あ る が 、 直 子 と 二 条 后 を 同 ︼ 人 と 考 え る の で あ る 。 ( 前 記 片 桐 氏 論 文 参 照 ) 。 と り わ け 、 二 条 后 が 業 平 と 逢 う 事 が 顕 わ れ て 、 兄 の 昭 宣 公 に 預 け ら れ た 時 の 歌 と す る ﹁ 毘 沙 門 堂 本 ﹂ な ど の 説 は 注 目 さ れ る 。 な お 、 ﹁ 智 顕 集 ﹂ は 書 陵 部 本 に 触 れ る と こ ろ な く 、 続 類 従 本 は 、 二 条 后 が 直 子 の 歌 を 借 用 し た と い う ふ う に 説 く 。 リ ヌ 伊 勢 物 語 = 三 段 に 基 づ く の は 云 う ま で も な い が 、 ﹃ 毘 沙 門 堂 本 ﹄ が 二 条 后 の 女 御 に な ら ぬ 以 前 の 歌 と す る の に 対 し 、 閏 書 陵 部 本 抄 ﹃ 神 宮 文 庫 本 註 本 ﹂ な ど が 、 二 条 后 が 、 清 和 天 皇 の 没 後 、 東 山 深 草 に 御 所 を 作 っ て 住 ん で い た 時 の こ と と す る の が 注 目 さ れ る 。 な お 、 こ の 段 は 冷 泉 家 流 の 註 と い っ て も 、 異 説 極 め て 多 く 、 五 条 后 ( 内 閣 文 庫 本 古 今 集 註 、 彰 考 館 本 伊 勢 物 語 抄 ) 、 伏 見 大 納 言 の 娘 ( 難 義 抄 ) 、 仲 平 娘 ( 神 風 智 顕 集 ) 、 有 常 娘 ( 慶 大 本 伊 勢 物 語 註 i 平 安 文 学 研 究 と 資 料 醗 刻 本 ) な ど が あ り 、 ﹁ 智 顕 集 ﹂ 系 は こ れ を 欠 い て い る 。 ル 以 下 、 い わ ゆ る 束 下 り の 段 に つ い て は 、 そ の 原 因 を 二 条 后 と 蓬 う こ と あ り し ゆ え と す る の が 冷 泉 家 流 の 註 で あ る 。 以 上 、 ご く 概 略 の み を 記 し た わ け で あ る が 、 こ れ に よ っ て も 明 ら か な よ う に 、 ﹁ 雲 林 院 ﹂ の 場 合 も ま た 、 伊 勢 物 語 本 文 そ の も の の 点 綴 な の で は な く 、 中 世 の 伊 勢 物 語 註 に み ら れ る 如 き 理 解 の 上 に 成 り 立 っ て い る と 云 え る 。 具 体 的 に 云 え ば 、 そ れ は 伊 勢 物 語 に あ ら わ れ た 業 平 と 二 条 后 の エ ピ ソ ー ド の 集 約 で あ り 、 と り わ け 、 六 段 、 一 二 段 、 六 五 段 、 一 二 三 段 を 年 次 的 に 順 を 追 っ て 物 語 る 、 い わ ば 二 条 后 物 語 を あ ら わ す の で あ る 。 一136一
国 自 筆 本 ﹁ 雲 林 院 ﹂ の 後 半 が 、 右 に み て き た よ う に 、 二 条 后 物 語 に よ っ て 一 貫 す る 構 想 に 基 づ く も の で あ ろ こ と が 明 ら か に な っ た と す れ ば 、 加 え て 、 そ れ に 対 応 す る 前 半 と の 関 連 の 一 そ う 繋 密 で あ る こ と が 確 認 出 来 る で あ ろ う 。 業 平 と 二 ・条 后 が 公 光 の 夢 に 現 わ れ る こ と ( ① 名 ノ リ ) 、 雲 林 院 が 二 条 后 の 山 荘 跡 で あ る と す る こ と (⑤ 問 答 ) 、 前 シ テ が 、 二 条 后 が 現 わ れ て 伊 勢 物 語 を 授 け る で あ ろ う と 予 言 す る こ と ( ⑤ 問 答 ) な ど に 密 着 す る か ら で あ る 。 伊 勢 物 語 本 文 が 素 姓 を 隠 す 各 段 の 物 語 の 、 何 時 ﹁ い か な る 人 の 、 何 事 に よ っ て ﹂ を あ ら わ す こ と が 、 冷 泉 家 流 の 註 な り 、 智 顕 集 な り の 、 い わ ゆ る 古 註 の 態 度 で あ り 、 方 法 で あ っ て 、 二 条 后 が 伊 勢 物 語 を 授 け る こ と で あ ら わ そ う と す る ﹁ 雲 林 院 ー の 意 味 は 、 も ち ろ ん そ れ ら に 基 づ い た 二 条 后 物 語 の 劇 化 に 外 な ら な い 。 こ の 場 合 、 作 者 の 理 解 、 つ ま り 作 者 が 基 づ い た 直 接 の 典 拠 が 何 で あ っ た か は 明 ら か で な い が 、 前 記 拙 稿 で ﹁ 井 筒 ﹂ の 場 合 を 検 討 し た よ う に 、 恐 ら く は も っ と 末 流 俗 流 の 註 を 予 想 し 得 よ う し 、 そ れ は 、 あ る い は 雲 林 院 を 二 条 后 の 山 荘 跡 な ど と 記 し た か も 知 れ な い 。 そ れ は と も あ れ 、 前 述 し た 諸 註 に お い て 確 認 し え た 通 り 、 自 筆 本 形 態 に お け る ﹁ 雲 林 院 ﹂ は 、 構 想 上 極 め て は っ き り し た 主 題 の 一 貫 性 を 持 っ て お り 、 そ こ に 構 成 的 矛 盾 は 認 め 難 い と 云 っ イ、 よ い の で は な か ろ う か 。 た ㌢ ひ と つ 、 ⑤ 問 答 の 末 か ら 上 歌 に か け て 、 ﹁ そ の 様 年 の 古 び や う 、 昔 男 と な ど 知 ら ぬ 、 さ て は 業 平 に て ま し ま す か 、 い や 、 わ が 名 を 今 は 明 石 潟 ﹂ と つ ㌢ く 部 分 か ら 、 前 シ テ は 業 平 の 化 身 と 見 え る の に 、 後 場 に は 姿 を 見 せ な い こ と に よ っ て 、 自 筆 本 形 態 さ え 改 作 か と も 、 ま た 、 そ の 前 後 は 現 行 形 態 の 方 が 原 型 に 近 い か と も 疑 わ れ た の は 、 日 本 古 典 文 学 大 系 謡 曲 集 上 で あ っ た 。 た し か に ﹁ 昔 男 ﹂ と い う 以 上 、 そ れ は 業 平 以 外 の 何 物 で も な い こ と 、 当 時 の 伊 勢 物 語 理 解 の 約 束 事 で あ る か ら 、 そ れ を 、 単 に 昔 の 男 の 意 味 で 解 す る こ と は あ り 得 な い こ と で あ り 、 そ れ だ け に 、 後 半 に お い て 業 平 の 姿 の 見 え ぬ こ と は 、 一137一
改 作 か と の 疑 い を 抱 か せ る も の で は あ る 。 し か し 、 す で に み て き た 如 く 、 自 筆 本 形 態 全 体 に お け る 構 想 上 の 一 貫 性 は 明 ら か で あ っ て 、 そ の こ と か ら 、 か り に 自 筆 本 形 態 以 前 の 、 原 型 の 存 在 を あ え て 想 定 す る と な ら ば 、 そ れ は 後 半 部 に お け る 業 平 役 の 存 在 を 仮 定 す る こ と に 止 ま る の で は な か ろ う か 。 自 筆 本 形 態 に お け る 後 シ テ が 、 基 経 で あ る こ と は 明 ら か で あ る が 、 ⑬ サ シ 、 ⑭ 歌 に お け る シ テ 役 を 除 い て は 、 そ の ま ・ で も 業 平 役 で あ っ て 差 支 え な い と は 云 え よ う 。 つ ま り 、 原 型 が 、 基 経 ・ 二 条 后 ・ 業 平 の 三 人 を 登 場 さ せ て い た も の を 、 手 を 加 え 整 理 し て 業 平 を 除 い た の が 自 筆 本 形 態 で あ る と も み ら れ る わ け で あ る 。 も ち ろ ん 、 こ れ は か り に 原 型 が 存 在 す る な ら ば と の 仮 定 で あ っ て 、 何 等 根 拠 の あ る こ と で は な い 。 ﹁ 申 楽 談 義 ﹂ が 金 剛 所 演 の さ ま を 、 ﹁ 雲 林 院 の 能 に ﹁ 基 常 の 常 無 き 姿 に 業 平 の ﹂ と て 、 松 明 振 り 上 げ 、 き と い な り し 様 、 南 大 門 に も う て ざ り し 也 ﹂ と 記 し て い る の に よ れ ば 、 自 筆 本 形 態 に 一 致 し て 、 基 経 が シ テ で あ る こ と は 明 ら か で あ る 。 ﹁ 昔 男 ﹂ の 用 法 を 超 え て 、 筋 立 て の 一 貫 性 の ゆ え に 、 大 幅 に 変 ろ 原 型 の 存 在 は 予 想 し 難 い よ う に 思 わ れ る の で あ る 。 一 ・138一 さ て 、 自 筆 本 形 態 か ら の 改 作 に あ た っ て 、 右 に み て 来 た 諸 点 と の 関 連 で 、 最 も 目 立 つ の は 、 二 条 后 に あ て ら れ て い た 焦 点 が 全 く 後 退 し た こ と で あ る 。 後 段 は 云 う ま で も な い と し て 、 前 段 に お い て も 、 ⑤ 問 答 に お い て ﹁ こ れ こ そ 二 条 后 の 御 山 荘 の 跡 に て 候 へ 、 さ て は 志 し を 感 じ 、 二 条 后 の こ の 花 の も と に 現 は れ 、 伊 勢 物 語 を な ほ な ほ お こ と に 授 け ん と の お ん こ と に て ぞ 候 ら ん -と い う か た ち か ら 、 ﹁ さ て は 御 身 の 心 を 感 じ つ つ 、 伊 勢 物 語 を 授 け ん と な り ﹂ と い う か た ち に 改 め ら れ た の は 、 単 に 、 簡 略 化 、 類 型 化 へ 進 ん だ と い う こ と で は な い 。 雲 林 院 と 二 条 后 と の 由 縁 を あ ら わ さ ず 、 二 条 后 に よ る 伝 授 の 予 言 を 除 い た こ と は 、 つ ま り 、 後 段 へ の 伏 線 と し て 重 要 な 意 味 を 持 つ 部 分 す べ て を 削 除 し た こ と は 、 後 段 が 二 条 后 物 語 を
あ ら わ さ ぬ 以 上 は 当 然 と も 云 え よ う が 、 同 時 に 、 そ れ に よ っ て ﹁ 雲 林 院 ﹂ 一 曲 の 主 題 が 全 く 異 な る も の と な っ て し ま っ た わ け で 、 そ の 意 味 で は 別 作 と さ え 云 い 得 る も の と な っ て し ま っ た 。 た ず そ れ が か ろ う じ て 改 作 の 名 に つ な が る の は 、 極 端 に 云 え ば 、 さ き に 副 主 題 と 呼 ん だ 花 争 い と 、 そ れ を め ぐ る 素 性 法 師 の 和 歌 が 、 す で に 述 べ た よ う に 後 半 へ の わ ず か な 紐 帯 と な っ て い る か ら で あ る 。 も ち ろ ん 、 ワ キ 公 光 が 、 雲 林 院 に 上 っ て 伊 勢 の 伝 授 を 受 け る 基 本 の 型 ま で 変 更 し て い る わ け で は な い 。 し か し 現 行 形 態 に お け る 後 段 に お い て 、 前 段 を 受 け る べ き 伊 勢 の 伝 授 の 内 容 が 全 く な い 。 つ ま り 、 後 シ テ を 業 平 と す る こ と を 除 い て ば 、 伊 勢 物 語 に 関 連 す る と こ ろ が 、 あ る い は 第 六 段 の 註 に 基 づ く か と も み ら れ る ⑩ ク セ の ﹁ そ も そ も 日 の 本 の う ち に 名 所 と い ふ こ と は 、 わ が 大 内 に あ り 、 か の 遍 照 が 連 ら ね し 、 花 の 散 り 積 も る 、 芥 川 を う ち 渡 り 、 思 ひ 知 ら ず も 迷 ひ 行 く ﹂ に 限 ら れ て お り 、 し か も こ れ が 依 り 力 の 不 完 全 さ の ゆ え に 、 果 し て 何 か に 基 づ い た の か ど う か 、 ま た 、 基 づ く も の が あ っ た と し た ら 何 か 、 を 明 ら か に し 得 な い の で あ る 。 ま し て 、 ⑩ サ シ ﹁ ま ず は 弘 徽 殿 の 細 殿 に ﹂ と す る 場 面 設 定 は 、 ﹁ 如 月 や ま だ 宥 な が ら 月 は 入 り ﹂ ﹁ 忍 び 出 つ る や 如 月 の ﹂ な ど 、 二 月 の 強 調 と と も に 、 そ れ を 二 月 廿 日 あ ま り の こ と と す る 源 氏 物 語 花 宴 の 光 源 氏 と 朧 月 夜 の 内 侍 と の 話 に 入 り 交 っ て 、 業 平 と 光 源 氏 と の 重 り 合 っ た 人 物 が 、 桜 花 の 縁 で 現 わ れ る に 過 ぎ ず 、 キ リ に ﹁ か く 現 は せ る い に し へ の 伊 勢 物 語 ﹂ と は 云 う も の の 、 そ の 実 は 、 本 説 を 全 く 欠 い て し ま っ て い る の で あ る 。 云 い か え れ ば 、 伊 勢 の 伝 授 で あ る 筈 の も の が 、 主 人 公 と し て の 業 平 の 昔 の 姿 を あ ら わ す こ と に す り 変 っ た と 云 っ て よ い 。 だ か ら 、 筋 立 て と し て の 焦 点 は 、 必 然 的 に 前 段 の 花 争 い に か ・ り 、 花 に ひ か れ た 後 シ テ ー す で に 幽 玄 な 人 体 な れ ば 誰 に て も 良 い 某 が 、 類 型 的 に 序 の 舞 を 舞 え ば 、 能 と し て の 体 裁 は 整 う か わ り に 、 筋 立 て の 一 貫 性 は 失 な わ れ て 、 中 途 半 端 な 構 成 と な ら ざ る を 得 な く な っ た の で あ ろ う が 、 し か し そ れ が 改 作 に 伴 う 必 然 的 結 果 で は 決 し て な い 。 た と え ば 、 鬼 の 能 か ら 幽 玄 一]39一
能 へ の 改 作 の 例 と し て の ﹁ 融 ﹂ が あ る 。 ﹁ 雲 林 院 ﹂ が 、 改 作 な る が 故 に 不 統 ↓ 性 を 露 出 し た の で は な く 、 や は り 改 作 者 の 問 題 に 帰 す る も の で あ ろ う 。 い わ ゆ る 業 平 物 の う ち 、 ﹁ 雲 林 院 ﹂ と 共 通 の 基 盤 を 持 つ も の に ﹁ 小 塩 ﹂ が あ り 、 ﹁ 右 近 ﹂ も こ れ に 加 え え よ う か 。 単 に 桜 花 を 背 景 と す る と い う こ と で は な く 、 そ の よ う な か た ち で あ ら わ さ れ る 幽 玄 性 と い う こ と で あ ろ う 。 い か に も 粗 雑 な 云 い 方 で あ る が 、 世 阿 弥 流 の 幽 玄 性 志 向 の 原 則 が 、 ﹁ 雲 林 院 ﹂ 改 作 に あ た っ て も 大 き く 働 い て い る と 考 え ら れ る の で あ る 。 自 筆 本 形 態 の や ま 場 の う ち 、 前 半 の ④ が 生 か さ れ て 、 あ る い は そ れ を 生 か す た め に 、 後 半 の ⑬ ⑭ が そ れ と 異 質 の も の で あ る が ゆ え に 切 り 捨 て ら れ 、 作 り 変 え ら れ た と す れ ば 、 そ の 改 作 は 、 幽 玄 能 を 確 立 し た 世 阿 弥 以 後 で あ っ て 、 し か も 、 世 阿 弥 そ の 人 で は な い 。 例 え ば ﹁ 井 筒 ﹂ な ど と は 、 そ の 方 法 以 前 の 問 題 と し て 、 態 度 の 次 元 を 異 に す る か ら で あ る ( 前 記 拙 稿 参 照 ) 。 但 し 、 そ の 改 作 が 、 幽 玄 能 へ の 統 一 を 志 向 し た 結 果 の 所 産 で あ る と い う 意 味 で 、 い わ ゆ る 世 阿 弥 グ ル ー プ に つ な が る 者 と だ け は 云 え る の で は な か ろ う か 。 い ま 、 右 の 結 論 以 上 に 出 る も の は な い わ け で あ る が 、 た Ψ ひ と つ 付 け 加 え る な ら ば 、 ﹁ 雲 林 院 ﹂ の 改 作 に 関 連 し て 、 自 然 想 起 さ れ る ﹁ 小 塩 ﹂ に つ い て で あ る 。 ﹁ 小 塩 ﹂ の 後 シ テ が ﹁ 月 や あ ら ぬ ﹂ の 詠 に よ っ て 登 場 す る 業 平 物 の 類 型 的 一 致 も さ る こ と な が ら 、 二 条 后 を は じ め と し て 、 あ り し 代 に 契 り し 人 の 様 々 を 物 語 り 、 序 の 舞 を 舞 う 構 成 は 、 そ の 背 景 に や は り 桜 を 負 っ て 、 ﹁ 雲 林 院 ﹂ 後 段 に 応 用 す る こ と も 可 能 で あ る し 、 伊 勢 物 語 を 授 け る 意 味 あ い か ら は 、 現 行 形 態 が 二 条 后 に か か る 重 さ の 殆 ん ど な く な っ た か た ち で あ る こ と を 考 え る と き 、 む し ろ そ の 場 合 の 方 に 一 貫 性 を 認 め た い 程 で あ る 。 ﹁ 小 塩 ﹂ が 成 立 し て い た か ら ﹁ 雲 林 院 ﹂ が こ の よ う な か た ち を と っ た と も 、 ﹁ 雲 林 院 ﹂ に よ っ て ﹁ 小 塩 ﹂ が 成 っ た と も 、 い ま 云 え る こ と で は な い が 、 作 者 が 同 じ と い う 意 昧 で は な く と も 、 改 作 に つ い て の 、 ひ と つ の 鍵 が ひ そ む の で は あ る ま い か と 一140一
思 わ れ る 。 資 料 閲 覧 に つ い て は 、 多 く の 図 書 館 ・ 文 庫 の お 世 話 に な っ た 。 ま た 資 料 の 閲 覧 、 写 真 等 に つ い て 、 能 楽 研 究 所 の 表 章 氏 、 片 桐 登 氏 を わ ず ら わ せ る こ と 度 々 で あ り 、 伊 勢 物 語 関 係 文 献 に つ い て は 、 片 桐 洋 一 氏 よ り 多 く の 教 示 を 得 た 。 記 し て 御 礼 申 し 上 け る 。 ■ 14⊥