「マイノリティ女性に対する複合差別」をめぐる論点整理
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(2) 人権問題研究資料. 第17号. あ の救 済 措 置 も提 供 で きな い。 こ う した 問題 意 識 か ら、 あ らゆ る形 態 の差 別 撤 廃 に 向 け た取 り組 み に ジ ェ ン ダー の視 点 を盛 り込 む こ と、 人 種 差 別 を含 む あ らゆ る形 態 の差 別 を撤 廃 す るた め の取 り組 み と、 ジ ェ ン ダー に基 づ く差 別 に対 す るそ れ とが相 互 に連 携 を して い く こ との必 要 性 が認 識 され るよ うに な って きた1。 な お、 本 稿 中 で用 い る 「人 種 差 別」 は、 人 種 差 別 撤 廃 条 約 第1条. に示 され る 「人. 種 差 別 」 定 義 に従 い、 人 種 、 皮 膚 の色 、 世 系 又 は民 族 的若 し く は種 族 的 出身 に基 づ くあ らゆ る区別 、 排 除、 制 限 又 は優 先 の こ とを指 す言 葉 と して用 い る。 先 住 民 族 や民 族 的 ・種 族 的 ・宗教 的 ・言 語 的 マ イ ノ リテ ィに属 す る女 性 た ち(以 下 、 「マ イ ノ リテ ィ女 性 」 と略 す)は 、 複 数 の 差 別 、 と りわ け、 性 差 別 と そ の他 の 形 態 の差 別 が複 合 的 ・流 動 的 ・重 層 的 に交 差 して い る部 分 に そ の身 を 置 い て い る。 自 らの属 す る社 会 的 ア イ デ ンテ ィ テ ィ(人 種 、 皮 膚 の色 、 世 系 ま た は民 族 的 も し く は種 族 的 出身 な ど)に よ って 被 る差別 や性 に基 づ く差 別 な ど、 彼 女 た ち の被 る差 別 は単 独 に起 きて い るわ けで はな く、 そ れ らを切 り離 す こ と も、 固定 化 す る こ と も決 して で きな い。 た とえ ば、 東 ヨー ロ ッパ で 暮 らす ロマ女 性 は、 ロマ と して排 斥 の対 象 とな る と同 時 に、 自 らの属 す る家 族 や共 同 体 内部 にお い て は、 女 性 と して周 縁 化 され る。 同様 の こ とは、 オ ー ス トラ リアの ア ボ リジニ女 性 、 イ ン ドの ダ リッ ト女 性 、 英 国 の難 民 申請 者 の女 性 た ち に も言 え る。 こ う した女 性 た ち は、 人 種 差 別 と ジ ェ ン ダー に基 づ く差 別 が交 差 した位 置 に常 に立 た され て生 きて い る。 UNIFEMは. 、 依 然 と して 、 多 くの 分 野 にお いて 男 女 格 差 が 見 られ る と発 表 して. い る。 女 性 の識 字 率 は、 男 性 の83.7%に. 比 べ 、71.4%に. しか 満 た な い。9億6千. 万. の非 識 字 成 人 の3分 の2が 女性 で あ る。産 業 ・サ ー ビス業 に従 事 す る女 性 は、 通 常 、 同 じセ ク ター の 男性 に比 して 、78%の 収 入 しか得 られ な い。 意 思 決 定 過 程 に お け る 女 性 の参 画 が30%に. 達 した の は、90年 代 をみ て も、 わ ず か28力. 現在 、13億 の 人 々 が 貧 困 の中 に生 きて お り、 そ の70%が. 国 の み で あ った。. 女 性 で あ る。. こ う した女 性 差 別 と同 時 に、 人 種 差 別 とい う要 因 が彼 女 た ち の生 活 に影 響 を及 ぼ 一40一.
(3) ::. 「マイノ リテ ィ女性 に対 す る複 合差 別」 をめ ぐる論点整理 せ ば、 労 働 市 場 に お け る不 利 益 、 人 身 売 買 、 人 種 主 義 に基 づ い た女 性 に対 す る暴 力 、 な ど、 何 重 もの重 荷 が マ イ ノ リテ ィ女 性 た ち に の しか か る こ と は想 像 に難 くな い。 1995年 に ブ ラ ジル を 訪 れ 、 労 働 市 場 に お け るマ イ ノ リテ ィ女 性 の状 況 を 調 査 し た 、 国 連 人 権 委 員 会 の 現 代 奴 隷 制 に 関 す る 特 別 調 査 官 のMauriceGlegleAhanhanzoは. 、 「ブ ラ ジル の 黒 人 女 性 は 、 最 も不 健 康 な 条 件 の も とで 、 白 人 男 性. の3倍 働 か され て い る に もか か わ らず 、 彼 らの4分 の1の 賃 金 しか得 て い な い」 と 報 告 し て い る 。 女 性 に 対 す る 暴 力 に 関 す る 特 別 報 告 者 のRadhika Coomaraswamyは. 、 移 民 排 斥 政 策 の も とで 、 法 の も とで保 護 され な い、 も し くは. 周 縁 化 され る外 国 人 女 性 た ちが 、 あ らゆ る形 態 の暴 力 に苦 しめ られ 、 権 利 が 侵 害 さ れ て い る こ と を国 連 人 権 委 員 会 に報 告 して い る。 人 種 主 義 に基 づ いた 女 性 に対 す る暴 力 は、 ボ ス ニ ア、 コ ロ ン ビア、 東 テ ィモ ー ル、 ス リ ラ ンカ、 コ ソ ボ、 ブル ンジ、 ル ワ ンダ な ど にお け る性 暴 力 と して 顕 在 化 した。 ま た、 民 族 紛 争 は、 大 多 数 の 女 性 難 民 を 生 み 出 し、 彼 女 た ちを 性 暴 力 に さ ら して い る。 民 族 的 も し くは宗 教 的 マ イ ノ リテ ィに属 す る女 性 た ち に対 す る レイ プ は、 国 際 裁 判 所 の ロ ー マ規 程 で も、 ル ワ ンダ国 際 刑 事 法 廷 で も、 ジ ェ ンダ ー と人 種 差 別 の っ なが りと して 認 識 され て い る2。 しか し、 人 権 に関 す るあ らゆ る分 野 の あ らゆ る レベ ル にお け る取 り組 み で は これ まで 、 マ イ ノ リテ ィ女 性 た ち の 被 る複 合 的 差 別 に関 して は、 ほ とん ど関 心 が 払 わ れ ず に きた 。 さ ら に、 さま ざ ま な 形 態 の 差 別 を 分 離 固定 して きた が ゆ え に、 た とえ ば、 「同 じ女 性 だか ら」 「同 じ民 族 だ か ら」 と一 括 され 、彼 女 た ち が抱 え る一 人 ひ と りに 個 別 的 で 具 体 的 な経 験 や課 題 は無 視 、 も し くは、 あ とま わ しに され て きた。 結 果、 立 法 ・司 法 ・行 政 と い っ た分 野 の み な らず 、 教 育 やNGOな. ど、 差 別 撤 廃 に 向 けた. あ らゆ る取 り組 み に お い て も、 人権 とい うア プ ロー チ か ら も、 ジ ェ ン ダー とい うア プ ロ ーチ か ら も十 分 な権 利 保 障 を受 け られ ず、 マ イ ノ リテ ィ女 性 の人 権 は制 限 な い し否 定 され て きた。 こ こ に は、NGOも. 行 政 も縦 割 り的 な取 り組 み や 救 済 措 置 しか行 って い な い と い 一41一.
(4) 人権 問題研究 資料. 第17号. う弊 害 が あ る。 国連 レベ ル に お い て も、 女 性 差 別 撤 廃 委 員 会(CEDAW)と 別 撤 廃 委 員 会(CERD)は はCERDで. 、 長 い間 、 女 性 差 別 問 題 はCEDAWで. 人種 差. 、 人 種 差 別 問題. 、 と い った よ う に、 悪 い意 味 で の 絶 対 化 ・固 定 化 した 役 割 分 担 に よ っ. て、 そ の活 動 や思 考 を制 限 して きた。 そ の結 果 、 や は り、 女 性 差 別 と人 種 差 別 が交 差 ・重 層 した と ころ に身 を置 くマ イ ノ リテ ィ女 性 の複 合 差 別 に十 分 な 関心 を払 って こ な か っ た 。 こ う し た 課 題 を 国 連 は よ うや く認 識 す る よ う に な り 、CERDと CEDAW相 NGOや. 互 の 活 動 ・作 業 を 連 携 さ せ よ う と い う方 向 に 向 か って い る。 日本 の 行 政 に も、 こ う した 横 断 的 な連 携 が求 め られ て い る。. 本 稿 で は、 国連 、NGO、. お よ び 研 究 者 が 、 現 在 に至 る まで 、 この複 合 的 差 別 に. っ い て、 ど の よ うな概 念 整 理 や主 張 を行 って き た のか 、 ま た、 当事 者 で あ る マ イ ノ リテ ィ女 性 た ちが 何 を問 題 に して きた のか 、 論 点 を整 理 しなが ら紹 介 して い く。. 2「. 複 合 差 別 」(mu】tipleformsofdiscrimination)/「 (intersectionality)と. 交 差」. い う概 念. (ア)「 ジ ェ ンダ ー と 人種 差 別」 専 門家 会 議 に お け る論 点 整 理 上 述 した 「反 人 種 主 義 ・差 別 撤 廃 世 界 会 議 」 に向 けた 準 備 会 議 と して 、 各 地 域 別 準 備 会 議 の ほか 、 「移 住 労 働 者 、 と りわ け女 性 と子 ど もに関 す る人 身 売 買 」(タ イ)、 「人 種 主 義 と闘 うため の、 経 済 的、 政治 的 な らび に法 的措 置 」(チ リ)、「マイ ノ リテ ィ と民 族 紛 争 」(エ チ オ ピ ア)な ど、 さま ざ ま な テ ー マ の も とで の 専 門 家 会 議 も開 催 され た。 そ の 中 の一 っ 、 「複 合 差 別 」 あ る い は 「ジ ェ ンダ ー と人 種 差 別 の 交 差 」 に っ い て の議 論 が 、2000年11月. に、 ク ロ アチ ア の ザ グ レブで 開 催 され た専 門 家 会 議 に お い. て 行 わ れ た(以 下 、 「クロ ア チ ア会 議 」)3。こ こで は、 これ ま で対 置 して 考 え られ て きた 、 ジ ェ ンダ ー に基 づ く差 別 と、 人種 差別 な ど他 の形 態 の差 別 の 「交差 性 」 に っ いて 、 一 定 の 整 理 が 行 わ れ た 。 そ れ は、 女性 が被 る複 数 の差 別 や従 属 制 度 が い か な る相 互 作 用 を もた ら して い るか 、 また そ れ が、 い か な る構 造 的 か っ動 的 な結 果 を及 一42一.
(5) 「マイノ リテ ィ女性 に対す る複合差別」 をめ ぐる論点整理 ぼ して い るか 、 を と らえ よ うとす る もの で あ っ た。 た とえ ば 、 人 身 売 買 や ドメ ス テ ィ ック ・バ イ オ レ ンス、 強 制 不 妊 手 術 な ど の問 題 を考 え る と き、 ジ ェ ンダ ー に 基 づ く差 別 が絡 む と、 「女 性 の 問 題 」 とい う枠 組 み で 見 られ て しま い、 人 種 差 別 が 及 ぼす 影 響 が 見 え な くな って しま う問 題 が 考 え られ る。 も し くは、 こ う した問 題 が 、 「あ る民 族 集 団 内 で の 問題 」 と して 無 視 され て き た こ と にっ いて も考 え る必 要 が あ る。 ク ロ ア チ ア会 議 で は、 こ う した問 題 に、 人 種 主 義 、 階 級 、 家父 長 制 、 経 済 的 不 利 益 、 他 の差 別 的 構 造 な どの 要 因 を 交 差 させ る こ とで 、 マ イ ノ リテ ィ女 性 が 置 か れ て い る状 況 、 救 済 措 置 の 制 限 を 分 析 しよ う と した。 会 議 で は、 「ジェ ンダ ー と人 種 差 別 」 にっ いて 、3つ. の種 類 に分 類 して議 論 され. た。 一 っ に は、 特 定 の エ ス ニ ッ ク ・グル ープ の女 性 が 「標 的 と され る差 別」 で あ る。 た とえ ば、 ジ ェ ノサ イ ドの手 段 と して 行 わ れ る レイ プ や性 暴 力 、 「貧 しい マ イ ノ リ テ ィ女 性 は性 的 自制 心 が欠 如 して い る」 とい うよ うな、 人 種 や ジ ェ ン ダー に対 す る ス テ レオ タイ プ化 され た イ メー ジを流 布 す る こ と によ る性 的虐 待 の正 当化 、 意 図 的 な妊 娠 に よ る屈 辱 、 性 器 切 除 に よ る生 殖 能 力 の 略奪 、 強制 不 妊 や 強制 的 な 出産 抑 制 政 策 な ど にみ られ る リプ ロ ダ ク テ ィ ブ ・ライ ツ/ヘ ル ス の侵 害 な どが あ げ られ て い る。 日本 で 考 え て み れ ば 、1994年 の 北 朝 鮮 に よ る核 開発 疑 惑 、98年 の ミサ イ ル発 射 事 件 、 そ して2002年. の拉 致 疑 惑 の際 に、朝 鮮 学 校 に通 う、民 族 衣 装 のチ マ ・チ ョ. ゴ リを来 た女 子 生 徒 ・学 生 に対 す る暴 行 事 件 が 起 きて い る こ とが あ げ られ よ う9。 二 っ 目 と して 、 女 性 は、 そ の ジ ェ ン ダー役 割 の た め に、 さ らに は あ る人 種 や民 族 に属 して い る と い う理 由 で 、 「複 合 的 差 別 」 を受 け る、 と い う もの で あ る。 た と え ば、 マ イ ノ リテ ィ女 性 た ち は、 女 性 を主 に雇 用 して い る事 務 職 に は そ の民 族 的 出身 の た め に採 用 され ず 、 同 じ民 族 グ ル ー プ の男 性 が 多 く就 いて い る肉 体 労 働 職 に は女 性 で あ る と い う理 由で 採 用 さ れ な い。 日本 の状 況 に即 して み れ ば、 被 差 別 部 落 の母 子 家 庭 にっ いて の実 態 調 査 か ら、 部 落 の女 性 た ちが 生 活 上 の困 難 さや 健 康 上 の問 題 を よ り抱 え て い る こ と、 ま た、 部 落 の実 態 調 査 か ら、 未 就 学 の 割 合 が 全 国 に比 べ て 一43一.
(6) 人権問題研究資料. 第17号. 部 落 の ほ うが 高 く、 女 性 は さ らに 男 性 よ り高 い こ とが 明 らか に な って い る。 「女 性 で あ る こ と」 お よ び 「被 差 別 部 落 出 身 者 で あ る こ と」 が 「複 合 的 差 別 」 を もた ら し て い る と いえ よ う5。 三 っ 目が 、 あ る政 策 や 慣 行 、 行 為 が 、社 会 の 根 底 にあ る人 種 差 別 や 特 定 の 民 族 に 対 す る偏 見 や ジェ ンダー に基 づ く差 別 な どの 不 平等 な構造 と交 差 して、 マ イ ノ リテ ィ 女 性 に対 して 特 定 の 影 響 を 及 ぼ して し ま う 「構 造 的 差 別 」 で あ る。 こ こで は、 司 法 の運 用 と行 政 にお け る排 外 主 義 や 人種 差 別 ・民 族 差別 と性 差 別 とが 重 な りあ って 、 特 定 の 民 族 グル ー プ に属 す る女 性 に対 して、 不 公 正 な扱 い 、 た とえ ば 、 入 管 施 設 内 で の性 暴 力 な どが 例 と して あ げ られ て い る。 日本 で言 え ば 、 日本 人 男性 と結 婚 した 外 国 人 女 性 は、 夫 との 関係 に依 存 した在 留 資格 しか持 た な い た め 、在 留 資格 を恐 れ て離 婚 もで きず 、 夫 の暴 力 や 、悪 意 の遺 棄 、 「ヒモ」 夫 の 搾 取 に耐 え て い る ケ ー ス、 あ るい は、 非正 規就 労 者 の女 性 が 日本 人 男 性 の婚 外 子 を 出産 した後 、 男性 と連 絡 が 取 れ な い 、胎 児認 知 を され な い、 な ど の理 由 に よ り、 教 育 、 医療 、 生 活 保 護 な どの 人 権 保 障 の枠 外 に置 か れ る、 な ど、 外 国人 に対 す る差 別 的 な法 制 度 が、 さ らに 日本 社 会 の根 底 にあ る ジ ェ ン ダー に基 づ く差 別 と交 差 して、 外 国 人 男 性 と は違 う形 で外 国人 女 性 に影 響 を及 ぼ す 、 な どが 考 え られ る6。 ク ロア チ ア会 議 で は そ の 他 に も、 構 造 調 整 プ ロ グ ラムが 、 社 会 的 に周 縁 化 され た特 定 の民 族 グ ル ー プ の女 性 に、 と り わ け深 刻 な影 響 を与 え て い る こ とな どが あ げ られ て い る。 これ ま で、 単 独 な もの と して考 え られ て き た差 別 問 題 の捉 え方 を豊 富 化 させ よ う と した ク ロア チ ア会 議 の議 論 に は一 定 の評 価 を した いが 、 そ こに家 父 長 制 な ど の要 因 が ど う影 響 して い る のか 、 な ど の分 析 まで に は至 らなか った。. (イ)上 野 千 鶴 子 に よ る 「複 合 差 別 論 」 次 に、 「複 合 差 別」 と い う言 葉 を 日本 で 最 初 に使 用 して い る も の と して、 上 野 千 鶴 子 の概 念 を手 が か り に考 え て み た い。 上 野 は、96年 に 発 刊 した 論 文 の中 で、 「複 合 汚 染 」 を参 考 に して 自身 が 造 語 した とす る 「複 合 差 別 」 の 概 念 にっ いて 論 じて い ,..
(7) 「マイノ リティ女性 に対す る複合差別」をめ ぐる論点整理 る。 上 野 は、 複 合 差 別 を 、 〈た ん に複 数 の 差 別 が 蓄 積 的 に 重 な った 状 態 を さす の で は な い。 複 数 の 差 別 が 、 そ れ を 成 り立 た せ る複 数 の 文 脈 の 中 で ね じれ た り、 葛 藤 した り、 ひ とっ の差 別 が 他 の差 別 を 強 化 した り、 補 償 した り、 とい う複 雑 な 関 係 に あ る。〉 と指 摘 して い る[上 野1996:204]。 ま た、 女 性 で あ り 「障 害者 」 で あ る安 積遊 歩 の ケ ー ス や、 人 種 間通 婚 の デ ー タを 取 り上 げ る と と もに、 階 級 ・性 別 ・民 族 ・障 害 の4つ の要 素 か らな る12通. りの 因. 果 関 係 か ら複 合 差 別 の現 れ方 を分 析 して い る。 た とえ ば 、 「性 別 → 障 害 」 の組 み 合 わ せ で は、 女 性 の 「生 殖 の 自由 」 が 障 害 者 の 「生 き る権 利 」 を 侵 す 、 と い う議 論 を 採 用 し、 「障 害 → 性 別 」 の組 み合 わ せ で は、 女 性 健 常 者 が 「世 話 労 働 」 を担 う こ とに抵 抗 がす くな い た め、 男 性 障 害 者 と女 性 健 常 者 の カ ップ ル の方 が 、 女 性 障害 者 と男 性 健 常 者 の カ ップ ル よ り多 い、 とい う こ とに つ いて 触 れ て い る[同 上:221-222]。 ま た、 「民 族 → 性 別 」 と い う組 み合 わ せ の例 と して、 ア リス ・ウ ォー カ ーが 『紫 のふ る え 』 に お い て、 黒 人 社 会 の な か で の 女 性 差 別 の実 態 を 暴 い た こ と に よ っ て 「階 級 の裏 切 り者 」 扱 い を され た こ と、 「性 別 → 民 族 」 と い う組 み 合 わ せ で は、 同 じ くウ ォ ー カ ーが 『喜 びの 秘 密 』 にお いて 、 自国 内部 の 南 北 問題 に は敏 感 で も、 国 際 社 会 の なか で の南 北 問 題 と な る と先 進 国 女 性 の 限 界 を 露呈 した とい う例 を あ げて い る[同 上:222]。. (ウ)複 合 差 別 の概 念 の 整理 上 野 の 「複 合差 別 論 」 は、 国 際 的 な 潮 流 と は異 に して お り、 ジ ェ ン ダー に基 づ く 差 別 と人 種 差 別 の交 差 にの み焦 点 を 当 て た もの で は な い。 一 方 、 国 際 的 に は、 ジ ェ ン ダー に基 づ く差 別 とそ の他 の形 態 の差 別 、 も し くは、 人 種 差 別 とそ の他 の形 態 の 差 別 とい うよ うに、 柱 立 て が ジ ェ ン ダー も し くは人 種 差 別 とい うよ うに 明確 で あ る。 しか し、 た とえ ば、 被差 別 部 落 出身 の障 害 を もっ 男性 や被差 別 部 落 出 身 と在 日韓 国 ・ 一45一.
(8) 人権問題研究資料. 第17号. 朝 鮮 人 の両 親 を もっ 男性 た ち が抱 え る 「複合 的差 別 」 や 「複 合 的 ア イ デ ンテ ィ テ ィ」 にっ い て は ま だ 議 論 の 途 に もつ い て い な い。 これ は、 「複 合 差 別 」 とい う理 論 や 運 動 が 女 性 運 動 か ら生 み 出 され て きた こ と に も大 い に影 響 を受 け て い るで あ ろ う。 上野 はま た、階 級 ・性 別 ・民族 ・障 害 の他 に も重要 な変 数 と して、年 齢 や セ ク シュ ア リテ ィを挙 げ る こ との 可 能 性 につ いて もふ れ 、 これ らの カ テ ゴ リー の く重 要 度 も ま た歴 史 的 文 脈 に応 じて変 化 す る 〉 と説 明 して い る[同 上:225-226]。. さ らに、 複. 合 差 別 と は、 〈 たん に複 数 の 差 別 が 蓄 積 的 に重 な っ た状 態 を さす の で は な い。 複 数 の差 別 が 、 それ を成 り立 たせ る複 数 の 文 脈 の 中 で ね じれ た り、 葛 藤 した り、 ひ とっ の差 別 が他 の 差 別 を 強 化 した り、 補 償 した り、 と い う複 雑 な 関係 にあ る。〉 と指 摘 して い る こ と は非 常 に 興 味 深 い 。 こ う した 差 別 の 複 合 性 を見 て い か な け れ ば 、 <「 す べ て の被 差 別 者 の 連 帯 」 を強 調 す る理 想 主 義 は、 か え って そ こに あ る差 別 を 隠 蔽 す る効 果 が あ る。〉 と上 野 は指 摘 す る[同 上:208]。 複 合 差 別 と い う視 点 を も って 、 差 別 の 交 差 性 ・複 合 性 を もた ら して い る もの に は 何 の要 因が あ るのか 、 そ れが どの よ うな形 で、 交 差 ・重 層 して お り、 また、 ど うい っ た影響 ・結 果 を マ イ ノ リテ ィ女性 に もた ら して い るの か。 こ う した複合 差 別 の原 因 ・ 現 象 ・結 果 を解 明 して い く視 点 を 持 っ た理 論 と運 動 が 進 あ ば、 個 別 的 な理 論 構 成 や 反 差 別 運 動 のみ な らず 、 差 別 や 人 権 に関 す る横 断 的 な理 論 構 成 と運 動 が 展 開 で き る と期 待 して い る。 しか し一 方 で 、 現 状 に行 わ れ て い る複 合 差 別 の概 念 議 論 が マ イ ノ リテ ィ女 性 の 実 態 を捉 え き れ て い るか 、 と い う こ と にっ いて も課 題 は多 い。 詳 し くは後 述 す るが 、 「南 」 の女 性 と 「北 」 の女 性 が 自 らの 被 る女 性 差 別 を い か に認 識 し、 ま た そ の実 態 は ど うか、 と い うこ と を見 て い け ば、 そ う した認 識 や実 態 は 「北 」 と 「南 」 の 女 性 た ち の 間 で ます ます 乖 離 して い る。 そ の よ うな 現 実 に鑑 み れ ば、 「北 」 の女 性 た ち だ け で、 複 合 差 別 の概 念 を展 開 して いて も、 マ イ ノ リテ ィ女 性 た ち の被 る複 合 差 別 の概 念 と実 態 を さ らに乖 離 させ て い くこ と に な り、 実 態 把 握 や 人 権 侵 害 か らの救 済 に 向 け た ア プ ロ ー チ を彼 女 た ち に提 供 す る こ と は困 難 に な るだ ろ う。 .,.
(9) 「マイノ リテ ィ女性 に対 する複合差 別」 をめ ぐる論点整 理 上 述 の ク ロア チ ア会 議 にっ い て、 本 稿 で は、 複 合 差 別 撤 廃 に関 す る関心 や認 識 が 一 定 程 度 高 ま っ た と して積 極 的 な評 価 を した が 、 藤 岡美 恵 子 は、 「取 り上 げ られ方 や取 り上 げ て い る イ シュ ーが 北 の国 の女 性 の視 点 で、 政 治 経 済 的分 析 の視 点 や歴 史 認 識 、 南 北 問 題 を あ ぐ る議 論 が 反 映 さ れ て い な い」 と指 摘 して い る7。 こ う した視 点 を持 って、 ク ロア チ ア会 議 報 告 を再 検 討 し、 国 際 的 に ど の よ うな議 論 や取 り組 み を今 後 展 開 して い くか 、 さ らな る議 論 が 必 要 で あ る。 次 項 で は、 複 合 差 別 を あ ぐ って 、 概 念 と実 態 に ど の よ うな乖 離 が見 られ て きて い る のか 、 考 え て み た い。. 3「. 複 合 差 別 」 概 念 と マ イ ノ リ テ ィ女 性 の 実 態. (ア)人 種 差 別 撤 廃 に向 けた 取 り組 み と ジ ェンダ ー と の関 係 性 女 性 差 別 撤 廃 に向 け た国 連 レベ ルで の取 り組 み に お い て、 複 合 差 別 の重 要 性 が認 識 さ れ る よ うに な った 潮 流 に比 べ る とず いぶ ん遅 れ て、 よ うや く、2000年. に入 り、. 人 種 差 別 撤 廃 に向 け た国 連 レベ ル で の 取 り組 み にお いて も、 「ブ ラ ッ ク ホ ール 」 の 部 分 だ った人 種 差 別 と ジェ ンダ ー との 関 係 性 にっ いて 、 そ の重 要 性 が 認 識 さ れ る よ うに な った。 2000年3月. 、 そ の 第56会 期 に お い て、 国 連 ・人 種 差 別 撤 廃 委 員 会(以 下 、 委 員. 会)は 、 「人 種 差 別 の ジ ェ ンダ ー に 関 連 す る側 面 に 関 す る一 般 的 な性 格 を 有 す る勧 告25」8を 採 択 した。 そ こで は、 「人 種 差 別 は女 性 と男性 に等 し く、 あ る い は同 じよ うに影 響 す るわ けで は必 ず し もな い こ と、 人 種 差 別 が 女 性 に の み、 あ る い は主 と し て 女 性 に影 響 す る状 況 が あ る こ と」、 「ジ ェ ンダ ー に関 連 した障 壁 の故 に人 種 差 別 に 対 す る救 済 措 置 や 苦 情 処 理 手 続 を 利 用 で き な い こ と に よ って 、 一 層 の障 害 に遭 遇 す る可 能 性 が あ る こと」 が 認 め られ て い る。 こ う した認 識 の もと、 委 員 会 は、 ジェ ン ダ ー に関 連 す る人 種 差 別 の側 面 を 十 分 に考 慮 に入 れ る た めの 方 法 論 の一 部 と して 、 特 に、 次 の4点 に考 慮 して 、 ジ ェ ンダ ー と人 種 差 別 の 関 連 に関 す る分 析 を そ の作 業 方 法 の中 に含 め る と して い る。 一47一.
(10) 人権問題研究資料. 第17号. a人 種 差 別 の形 態 及 び発 現 の 態様 b人 種 差 別 が発 生 す る諸 状 況 c人 種 差 別 の諸 結 果 、 及 び d人 種 差 別 の救 済 措 置及 び 苦 情 処 理 手 続 きの利 用可 能 性 さ らに、 委 員 会 は、 人 種 差 別 撤 廃 条 約 の締 結 国 に対 し、 締 結 国 が 定 期 的 に委 員 会 に提 出す る政 府 報 告 書 に、 マ イ ノ リテ ィ女 性 が 経 験 して い る困 難 な諸 問 題 にっ い て、 質 ・量 共 にで き る限 り記 述 す る よ う要 請 して い る。 こ う した潮 流 を受 け て開 催 さ れ た 「反 人 種 主 義 ・差 別 撤 廃 世 界 会 議 」 に お いて も、 そ の準 備 段 階 で は、 「複 合 差 別 」 問 題 は会 議 の議 論 の主 要 な 柱 と の呼 び声 が 高 か っ た。 しか し、 実 際 に開 催 され た 政 府 間 会 議 に お い て は、 「誰 を 複 合 差 別 の犠 牲 者 と す るか 」、 「何 を もって 複 合 差 別 とす るか 」 と い っ た 「リス ト」 づ くり に議 論 は終 始 し、 複 合 差 別 を生 み 出 し、 温 存 して い る制 度 や 慣 習(家 父 長 制 、 宗 教 的 不 寛 容 、 人 身 売 買 、 カ ー ス ト制 度 、 人 種 差 別 的 ・性 差 別 的 な法 制 度 や 文 化 、 同 性 愛 者 嫌 悪 、 植 民 地 主 義 、 奴 隷 制 度 や 奴 隷 貿 易 、 南 北 間 の経 済 格 差 、 グ ロ ーバ リゼ ー シ ョ ン、 武 力 紛 争 、 当 事 者 の女 性 が 廃 絶 を求 め て い る伝 統 的 ・日常 的 慣 習 な ど)の 分 析 まで に は 議 論 が い た らなか っ た。 世 界 会 議 に集 ま った女 性NGOも. ま た、 世 界 会 議 の公 式 文 書 とな る宣 言 や 行 動 計. 画 に、 「ジェ ンダ ー の 視 点 」 とい った 文 言 を 盛 り込 む こ との 重 要 性 の み を強 調 し、 そ の た め に東 奔 西 走 した。 そ の結 果 、 複 合 差 別 を 生 み 出 し支 え る根 本 問 題 や そ の た め に 引 き起 こ され て い る現 状 に っ い て は、NGO間. に お い て もほ とん ど議 論 も分 析. も さ れ ず、 「複 合 差 別 」 や 「ジ ェ ン ダ ー の視 点 」 な ど の 言 葉 ば か りが 頭 上 を飛 び 交 う こ と と な った。 しか も、 ジ ェ ン ダ ーを 「女 の 問 題 」 とす る働 きか けがNGOの. 中. で 目立 ち、 ジェ ンダ ー の視 点 を含 ま な い人 種 差 別 撤 廃 に向 け た ア プ ロ ーチ と、 「南 」 の女 性 た ちが 指 摘 した人 種 差 別 の視 点 を含 ま な い ジェ ンダ ー差 別 撤廃 に向 けた アプ ロ ー チ、 と い う よ う に、 双 方 の一 面 的 ア プ ロ ー チか らの 議 論 にな って しま った。 最 終 的 に、 ジ ェ ンダ ー と人 種 差 別 の 「交 差 性 」 が 議 論 され る こ と はな く、 そ れ ど ころ 一48一.
(11) 「マイ ノ リティ女性 に対す る複合差別」 をめ ぐる論点整理 か 、 「北 」 の 女 性 と 「南 」 の 女 性 の溝 は深 ま り、 「男 」 と 「女 」 の 協 働 、 「北 」 の女 性 と 「南」 の女 性 の協 働 と呼 ぶ に は ほ ど遠 い 結 果 と な って しま っ た9。 この 会議 で は、 マ イ ノ リテ ィ女 性 た ち、特 に ア ジ ァの 女 性 た ち は、 自分 た ちが 抱 え る複 合 差 別 の 問題 と して、 武 力紛 争 、 カ ー ス ト差 別 、 種 族 的 ・民 族 的 ・宗 教 的 マ イ ノ リテ ィ、 グ ロー バ ル化 、 先 住 民 族 、 移 住 者 、 難 民 ・難 民 申請 者 、 国 内 避 難 民 、 人 身売 買 を あ げ た が、 こ う した課 題 の背 景 にあ る諸要 素 の 「交 差 性 」 や 「複 合 性 」 にっ い て も、政 府 間 にお いて もNGO間. にお いて も十 分 に議 論 され る こ と はな か っ. た10。. (イ)「 北 」 の 女 性 へ の 「南 」 の 女 性 か らの 痛 烈 な 批 判 で は、 複 合 差 別 の概 念 を生 み 出 して きた女 性 運 動 の流 れ を見 て み た い。 1967年 に女 性 差 別 撤 廃 宣 言 が 採 択 さ れ、72年 に は、 国 連 ・女 性 の 地 位 委 員 会 が 設 立25周 年 を迎 え た。 「平等 ・開発 ・平 和 」 を テー マ に、 国 連 総 会 が 「国 際女 性 年 」 と宣 言 した75年 に は、 メ キ シ コで 第1回 世 界 女 性 会 議 が 開 催 され た。 翌 年 の76年 か ら85年 まで を、 「国 連 女 性 の10年. 」 と し、 女 性 の 地 位 と権 利 を 検 討 して 、 あ ら. ゆ る レベ ル の意 思 決 定 に女 性 を参 加 させ よ う とす る世 界 的 な取 り組 み が進 め られ た。 この間 、79年 に は、 女 性 差 別 撤 廃 条 約 が 国連 総 会 で採 択 さ れ、81年 に発 効 。 「国連 女 性 の10年 」 の最 終 年 で あ る85年. に は、 ナ イ ロ ビで 第3回 世 界 女 性 会 議 が 開 催 さ. れ 、 「女 性 の地 位 向上 の た あ の ナ イ ロ ビ将 来 戦 略 」 が採 択 され た。 こ う して 、 女 性 と男 性 の平 等 の達 成 に向 けて 、 国 際 機 関 を は じめ、 あ らゆ る レベ ル に お い て、 女 性 の地 位 と役 割 に よ りい っそ う大 きな注 意 を払 い、社 会 のす べ て の領 域 にお い て 「ジェ ンダ ー の視 点 」 を確 実 に主 流 に置 くよ う、 国 際 社 会 の場 で 確 認 を しあ って きた。 女 性 の権 利 保 護 ・促 進 に向 けた 取 り組 み は、 国 際 的 に大 き な進 展 を見 せ た。 しか し、 この 間 、 女 性 の権 利 進 展 に向 け た 国 際 的 な 取 り組 み に 呼応 して 、 「北 」 の女 性 へ の 「南 」 の 女 性 か らの 痛 烈 な批 判 が 繰 り返 され た。 メ キ シコ会 議 で は、< 資 本 主 義 経 済 シス テ ム に よ る 「南 」 の 人 民 の 搾 取 ・抑 圧 の 問 題 を 、 世 界 の 女 た ちが .・.
(12) 人権問題研究資料. 第17号. 抱 え る問 題 と して共 有 しよ う とす る ボ リビア の ド ミテ ィー ラ ・バ リオ ス と、 彼 女 を 「男 に操 られ て い る」 と して 非 難 す る ベ テ ィ ・フ リー ダ ンの 対 立>11が あ り、10年 後 の ナ イ ロ ビ会 議 で は、 「北 」 の女 性 た ち に対 し、 パ レス チ ナ女 性 が 「同 じ女 」 と して共 有 で き な い、 と批 判 した。 さ らに、10年 が 過 ぎ た1995年. に、 中 国 ・北 京 で開 催 され た世 界 女 性 会 議 に は、. 世 界 各 地 か ら数 万 人 と も言 わ れ る女 性 た ちが集 ま り、 「エ ンパ ワメ ン ト ・パ ー トナ ー シ ップ ・コ ミッ トメ ン ト」 を テ ー マ に熱 い議 論 が 交 され 、 貧 困 、 教 育 、 政 治 参 加 、 女 性 に対 す る暴 力 な ど、12項 目に わ た る 「北 京 行 動 綱 領 」 が採 択 さ れ た。 複 合 差 別 に 関 して も、 行 動 綱 領 に は以 下 の よ う な文 言 が具 体 的 に盛 り込 ま れ た12。 多 くの女 性 は、 自 らの ジ ェ ンダ ー(性)に. 加 え 、 さ ま ざ ま に異 な る要. 因 に よ って 、 特 別 な障 害 に直 面 して い る。 しば しば 、 これ らの 多 様 な 要 因 は そ の よ う な女 性 を孤 立 させ た り疎 外 した りす る。 彼 ら は、 なか ん ず く人 権 を 拒 否 され 、 教 育 及 び職 業 訓 練 、 雇 用 、 住 宅 及 び経 済 的 自立 へ の ア ク セ スを 欠 き、 又 は拒 否 され 、 また 、意 思 決 定過 程 か ら締 め 出 され て い る。 この よ う な女 性 た ち は、 自 らの地 域 社 会 に対 して主 流 の一 員 と し て 寄与 す る機 会 を 拒 まれ る こ とが 多 い(パ. ラ グ ラ フ31)。. 行 動 綱 領 は、 女 性 が 人種 、 年 齢 、 言 語 、 民 族 、 文 化 、 宗 教 又 は障害 と い った要 因 の た め に、 先住 民 女 性 で あ るが た あ に、 又 はそ の他 の事 情 の た め に、 完 全 な平 等 及 び地 位 向上 を阻 む 障害 に 直面 して い る こ とを認 識 す る。 多 くの女 性 が、 特 に ひ と り親 な どの よ うな家 庭 状 況 、 ま た、 農 村 地 域 、 孤 立 した地 域 も し く は貧 困 地 域 に お け る生 活 状 態 を含 む 自 らの社 会 経 済 的地 位 に 関連 した特 別 の 障害 に遭 遇 して い る。 難 民 女 性 、 国 内避 難 民 女 性 を含 む そ の他 の避 難 民 女 性 、 並 び に移 民 女 性 及 び移 住 労 働 者 を 含 む移 住 女 性 に対 して は、 更 な る障 害 が 加 わ る。 多 くの女 性 は ま た、 環 境 災 害 、 重 病 及 び感 染 性 疾 患 、 並 び に女 性 に対 す る さ ま ざ ま な形 の暴 力 に よ って特 別 に影 響 を被 って い る(パ 一50一. ラグ ラフ46)。.
(13) 「マイ ノ リテ ィ女性に対す る複合差別」をめ ぐる論点整理 こ う して、 女 性 の権 利 向上 に 向 けて、 大 きな 前 進 を 示 したか に見 え た北 京 行 動 綱 領 だ が、 これ を痛 烈 に批 判 した の は、 先 住 民 族 女 性 た ちだ った。 フ ィ リ ピ ンの先 住 民 族 女 性 ビク ト リア ・コル パ ス13、お よ び、 北 京 女 性 会 議 に集 ま った先 住 民 族 女 性 た ち14は、 北 京 女 性 会 議 に対 す る次 の よ うな辛 辣 な批 判 を行 った。 ○. 「男 女 平 等 とい う前 提 」 は単 に先 進 工 業 国 の今 の 権 力 構 造 を 長 続 き させ る の に役 立 っ だ けで、 人種 主 義 ・経 済格 差 ・環 境 差 別 な どが あ る こ とを 認 あ な い し、 そ れ ら に対 し異 議 申立 て も して い な い。. ○. い わ ゆ る 「第 一 世 界 」 が享 受 す る平 等 賃 金 と平 等 地 位 は、 持 続 不 可 能 で あ る ば か りか そ れ以 外 の地 域 にお け る女 性 、 先 住 民 族 、 国 民 の 人 権 侵 害 状 態 を 悪 化 させ て い る開発 モ デ ル を 温 存 す る こ と に よ って 可 能 と な って い る。. ○. 「支配 的 文化 」 に属 す る女 性 の み が 自分 の 取 り分 の 権 力 と富 を 手 に入 れ た ら 「男 女 平 等 」 の 目標 が 達 成 さ れ る と決 あ て か か って い る。. ○. 先住 民 族 女性 の 文 化 ・社 会 と貧 窮 化 した そ の他 の 貧 困 に あえ いで い る国 々 を 犠 牲 と して 得 た 「支 配 的 文 化 」 に よ る 「男 女 平 等 」 を 求 あ る闘 い は、 先 住 民 族女 性 た ちの 真 の 解 放 を 妨 げ る性 質 を も って い る。. ○. 真 の 男 女 平 等 は反 人 種 主 義 ・反 植 民 地 ・反 帝 国 主 義 の枠 組 み の 中 で のみ 獲 得 で き る。. ○. 綱 領 案 が 提 案 す る 「戦 略 的 目的 」 お よ び行 動 は、 国 家 、 人 種 、 階 級 、 ジ ェ ン ダ ー間 の差 別 問 題 と同 時 に取 り組 ま な い限 り、 空 虚 か っ 無 意 味 で あ る。. 先 住 民 族 女 性 は、 ジ ェ ンダ ー差 別 、 ジ ェ ンダ ー の 平 等 ば か りを過 度 に強 調 す る 「北 」 の女 性 た ち に よ って 閑 却 さ れ て しま っ た く先 住 民 族 女 性 が 直 面 す る問 題 の 政 治 性 〉 にっ いて 訴 え た。 しか し、 こ う した先 住 民 族 女 性 た ち の声 は 、 北 京 会 議 か ら5年 後 の2000年 国 で 開催 さ れ た、 国 連 特 別 総 会 「女 性2000年:21世 平 和 」、 い わ ゆ る、 「北 京+5」. に米. 紀 に 向 けた男 女 平 等 、 発 展 、. を 経 て もな お 、 「北 」 の女 性 た ち に届 くこ と は なか っ. た。 実 際 は、 北 京 会 議 か ら大 き く後 退 した た め、 「北 京 一5」 と椰 楡 され た こ の会 議 一51一.
(14) 人権問題研究資料. 第17号. で 採 択 さ れ た成 果 文書15で は 、 複 合 差 別 に関 す る項 目や 記 述 は全 体 と して 増 え た。 しか し、 「国 際 先 住 民 族 女 性 フ ォー ラム宣 言 」16の中 で 、 先 住 民 族 女 性 は、 次 の よ う に述 べ て い る。 北 京 会 議 か ら5年 た ち ま した が 、 先 住 民 族 女 性 は引 き続 き、 極 度 の厳 しい貧 困 の 中 で 生 きて い ます。 そ して 、 健 康 、 教 育 、 社 会 的 ・経 済 的 ・ 文 化 的 条件 に お い て 後 退 局 面 に 立 た され て い ます 。 これ は人 種 差 別 、 植 民 地 主 義 、 新植 民 地 主 義 、 貿 易 と金 融 自由化 を す す め るマ ク ロ経 済 政 策 、 民 営 化 、 規制 緩 和 、 な らび に住 む土 地 か らの 強制 移 住 とい った こ とが 要 因 とな って い ま す。 こ う した 「南」 の女 性 た ち か らの 問題 提 起 を 「北 」 の女 性 が 自 らの 問 題 と して 受 け止 め て、 解 決 に 向 け て模 索 して い か な い 限 り、 女 性 の権 利 は前 進 しな い ど ころ か、 ま す ま す 「南 」 の女 性 た ち を抑 圧 し続 け る こと に な る。 ま ず、 そ の こ とに 「北 」 の 女 性 た ち が気 づ くべ きで あ る。 女 性 差 別 に対 す る闘 い を進 め る女 性 自身 が、 ま た抑 圧 す る側 に身 を置 く もの と して告 発 を受 け て い る ので あ る。 経 済 の 「南 北 問題 」 が、 そ の 構 造 の 中 で 権 力 を 持 っ も の に よ っ て不 問 にふ され た ま ま で、 女 性NGO間. の. 「南北 」 格 差 が ます ま す広 が りっ っ あ る。 「北 」 の女 性 と して こ う した告 発 を受 け て い る 日本 の フ ェ ミニ ズ ムが 、 こ の こ と を 自 らの 課 題 と して ど う受 け止 めて 、 世 界 の 女 性 た ち と の連 帯 を 模 索 して い くのか が 、 今 後 の 大 きな 課 題 で あ る。. 4日. 本 の マ イ ノ リテ ィ女 性 の 状 況. (ア)マ イ ノ リテ ィ女性 た ち は何 を 問 題 に して き た か で は、 複 合 的 差 別 を現 実 に被 って い る 日本 の マ イ ノ リテ ィ女 性 た ち は、 複 合 差別 の視 点 か ら何 を 問題 に して きた の だ ろ うか。 鈴 木 裕 子 や 湯 浅 孝 子 らに よ る部 落 女 性 史 の掘 り起 しが 行 わ れ て お り、1922年. に. 全 国 水平 社 が設 立 され るに あ た って、 一 部 の経 済 的 に恵 ま れ た教 育 を受 けた女 性 た ち によ る個 人 的取 り組 み で は あ った が、 部 落 女 性 た ちが 、 現 在 に も通 じる示 唆 に飛 一52一.
(15) 「マイ ノ リティ女性 に対す る複合差別」をめ ぐる論点整理 ん だ 問題 提起 を して いた こ とが 分 か って い る。 坂 本一 枝 、 岡 部 よ し子 、 松 下 實 子 、 正 田嘉 枝 、 高橋 くら子 、 糸 若 柳 子 、 竹 内 政 子 、 中 西 千代 子 な ど、 当 時、 水 平社 に結 集 した部 落 女 性 た ち は、 当 時 の 欧 米 の婦 人 選 挙 権 に関心 を 寄 せ 、 米 国 にお け る移 民 に対 す る人 種 的差 別 や 資 本主 義 制 度 の 欠 陥 を分 析 す る。 女 性 に対 す る暴 力 や 差 別 、 男女 間 の 不 平 等 の原 因 を追 究 し、 男 性 に反 省 を の. の. . . の. . の. 促 す と と も に、 〈社 会 の しくみ 〉や く悪 い現 在 の 社 会 の 眼 に見 え ぬ か ら くりを 根 本 の. . くみ たて. か ら打 ち壊 しそ して 今度 は よ り善 く組織 るた め に働 く〉 こ とが 大 切 だ と訴 え る。< 人 間礼 讃 、 人類 愛 の運 動 〉を して い る部 落 解放 運 動 の 中 にお け る部 落 の 男 性 か らの 女 性 差 別 や 、 男性 中心 の教 育 や 法制 度 の 問 題点 を指 摘 す る と同 時 に、 そ う した く境 遇 に順 応 して ゐ た 〉女 性 の 自覚 と団結 、 そ して、 〈男 女 間 に お け る水 平 運 動 〉を 呼 び か け る。 彼 女 た ち は、 自 らの被 る部 落差 別 や女 性 差 別 の 問題 を常 に社 会 と世 界 の 関係 性 の も と に論 じ、 家制 度 な どの社 会 の仕 組 み を指 弾 す る と と もに、 組 織 の あ り方 や 女性 の主 体 形 成 に論 及 す るよ うな、 鋭 い視 点 を持 ち得 て い る[鈴 木1987、 湯 浅1993:8 .,]。 彼 女 た ちの く思 想 ・情 念 〉を掘 り起 こ して い く と と もに、 部 落 解 放 運 動 史 にお い て、 そ れ らを見 え な く して きた男 性 中心 の運 動 と組 織 に お け る ジ ェ ン ダー の 仕 組 み と意 識 の 改革 が今 後 必 要 で あ る。 鄭 暎恵 な ど、 在 日 コ リア ンの女 性 た ち もま た、 在 日 コ リア ンの コ ミュニ テ ィ内 に お け る女 性 差 別 を す る ど く告 発 して い る。 しか し鄭 は同 時 に、<「 日本 人 」 が もっ 特 権 構 造 そ の もの を正 面 か ら打 破 しよ う とす る動 き〉が 見 られ な い 「日本 人 」 フ ェ ミニ ズ ム を も厳 し く指 摘 して い る[鄭1997:96]。 鄭 は、<自 分 が受 ける性 差 別 と闘 い なが ら、 自分 の コ ミュ ニ テ ィ/国 家 が 「他 者 」 を抑 圧 して い る構 造 を解 体 す る こ と。 ひ と りひ と りが、 そ れ ぞ れ の く位 置 〉に お い て、 解 放 され る/す る主 体 に な る こ と 〉に よ って、 は じあ て く女 同士 の連 帯 〉が な り う るの で あ り[同 上:108]、<女. 同士 の 中 に もあ る権 力 関 係 、 階 級 、 支 配 一 被 支. 配 関 係 を ど う克 服 して い くの か 、 そ の視 点 を 明 確 に もて な い フ ェ ミニ ズ ム は、 「他 一53一.
(16) 人権問題研究資料. 第17号. 者 」 を 抑 圧 し続 け て い く だ ろ う。 も し く は、 よ り周 縁 化 さ れ た 女 た ち に よ って 、 フ ェ ミ ニ ズ ム は 絶 え ず 脱 構 築 さ れ な け れ ば い け な い だ ろ う 。〉[同 上:111]と. 、性差別. と 闘 っ て い る フ ェ ミニ ズ ム 自 身 が マ イ ノ リ テ ィ を 抑 圧 して い る と して 、 そ の 「フ ェ ミ ニ ズ ム 」 そ の も の に も異 議 申 し立 て を 行 っ て い る 。 鄭 は 、 日 本 の フ ェ ミニ ズ ム を 「マ イ ノ リ テ ィ ・フ ェ ミニ ズ ム 」 の 視 点 か ら、 次 の よ う に 告 発 して い る。. 平 等 とい う概 念 の欺 隔性 と 自分 た ち の 特 権 性 ・差 別 性 に鈍 感 な ゆ え 、 性 差 別(の. み)を 批 判 し、 ア イ デ ンテ ィテ ィを 追 及 す るマ ジ ョ リテ ィ女. 性 の フ ェ ミニ ズ ム を超 越 して い るた め、 マ ジ ョ リテ ィか ら は フ ェ ミニ ズ ム とは見 な さ れ に くい。. 一 略一. 日本 の フ ェ ミニ ズ ム はマ イ ノ リテ ィ. の 視 点 を 周 縁 化 して い る と批 判 され て きた。1990年. 代 に入 り マ イ ノ リ. テ ィ ・フェ ミニ ズ ム が主 題 化 さ れ る に至 った もの の、 結 局 マ ジ ョ リテ ィ が誰 か を他 者 化 し、 自 らを普 遍 化 す る もの で しか な い との批 判 が再 三 な さ れ て い る17。 マ イ ノ リテ ィ女 性 か らの問 題 提 起 は今 に始 ま った こ とで は な く、 複 合 差 別 とい う 視 点 も新 しい視 点 で は な い。 国際 的 に見 れ ば さ らに遡 り、1830年 代 以 降、 マ リア ・スチ ュ アー トや ソ ジ ャナ ー ・ トル ー ス ら 「黒 人 」 女 性 た ちが 、 「黒 人 」 の奴 隷 制 廃 止 運 動 と女 性 の 問 題 の2っ. の. 問題 を提 起 し、 「黒 人 」 女 性 た ち が お か れ た現 実 を訴 え て い た。 彼 女 た ち は、 奴 隷 制 廃 止 を訴 え る 「黒 人 」 社 会 の 中で の女 性 差 別 や 、 女 性 参 政 権 運 動 を進 あ る フ ェ ミ ニ ズ ム の 中 で の 「黒 人 」 差 別 を問 題 に した[鄭1997:97-111]。 ここで 大 切 な の は、 マ イ ノ リテ ィ女 性 が 被 る複 合 差 別 の視 点 や 彼 女 た ち の問 題提 起 を埋 没 させ て き た、 女 性 た ち の中 に あ る、 マ イ ノ リテ ィ に対 す る差 別 や 、 マ イ ノ リテ ィ男 性 の中 に あ る女 性 差 別 が 、 いか に 「犯 罪 的 」 で あ るか を 、 自身 に問 う こ と で は な い だ ろ うか 。 一54一.
(17) 「マイノ リティ女性 に対す る複合差別」 をめ ぐる論点整理 (イ)日 本 の マイ ノ リテ ィ女 性 の 状 況 筆 者 もか か わ っ て い る 、 「反 差 別 国 際 運 動 日本 委 員 会(IMADR-JC)」 NGOで. とい う. は、 「マ イ ノ リテ ィ女 性 に対 す る複 合 差 別 プ ロ ジ ェ ク ト」 を実 施 して い る。. プ ロ ジェ ク トの一 環 と して 、1999年 末 か ら2000年 末 に か け て 開 催 した 「マ イ ノ リテ ィ女 性 に対 す る複 合 差 別 研 究 会 」 で 訴 え られ た 日本 の マ イ ノ リテ ィ女 性 た ち が 被 る複 合 差 別 の実 態 か ら、 以 下 の よ うな共 通 点 が 確 認 され た。 ○. マ イ ノ リテ ィ女 性 が そ の受 け る女 性 差 別 を内 面 化 し、 女 性 と して の ア イ デ ン テ ィテ ィを認 識 しに くい、 ま た主 張 しに くい と い った複 雑 な状 況 が あ る こ と. ○. 日本 の マ ジ ョ リテ ィ社 会 の中 に お いて は、 マ イ ノ リテ ィ女 性 が 「個 人 」 と し て 生 きが た い状 況 が あ る こ と、 彼 女 た ちが 被 る、 マ イ ノ リテ ィの 中 で の女 性 差 別 と、 日本 社 会 か らの民 族 差 別 や 部 落 差 別 、 さ らに/も. し くは、 女 性 差 別. とい う幾 重 に も重 な った差 別:構造 の背 景 に は、 日本 社 会 に根 強 く存 在 す る家 父 長 主義 ・排外 主 義 ・同化 主 義 が あ り、 そ の こ とが 弊 害 とな って マ イ ノ リテ ィ 女 性 を よ り強 く縛 って い る こと ○. 日本 社 会 の差 別 構 造 ゆ え に、 お お いか ぶ さ る厳 しい差 別 か ら身 を守 るた め の 互 助 組 織 ・互 助 機 能 と して家 族 や 共 同 体 が あ り、 そ の共 同 体 や家 族 が女 性 に 抑 圧 的 に働 いて きた こ と. この よ うに、 マ イ ノ リテ ィ女 性 の個 人 と して の 自立 、 複 合 差 別 の認 識 、 ア イ デ ン テ ィテ ィの 自覚 を 阻ん で い る背 景 に は、 日本 社 会 に存 在 す る家 父 長 主 義 ・排 外 主義 ・ 同化 主 義 が あ る こ とが 指 摘 され 、 複 合 差 別 を認 識 し、 な く して い くた め に は、 社 会 の根 底 に あ る こ う した差 別 構 造 の仕 組 み や意 識 の根 絶 が 不 可 欠 で あ る こ とが理 解 で き る。 朴 和 美 は、 「在 日の 中 に も女 性 差 別 が あ る で は な い か 」 と在 日 コ ミュ ニ テ ィ内 に お け る性 差 別 を外 部 か ら批 判 す るだ け で は不 十 分 で 、 なぜ 在 日が 性 差 別 的 な家 族 や 共 同体 を批 判 で きず に い た のか 、 なぜ 性 差 別 的 な朝 鮮 文 化 ・伝 統 ・慣 習 を無 批 判 に 踏 襲 せ ざ るを え な か った の か、 そ れ は、 在 日を そ こに追 い や って い く 日本 社 会 の差 一55一.
(18) 人権問題研究資料. 第17号. 別 構 造 と い う力 学 が 働 いて い るか らで は な い か、 とい う こ とを認 識 す る こ とが必 要 だ と指 摘 して い る18。 ま た、 ア イ ヌ民 族 の 女 性 に対 す る暴 力 につ いて の聞 き取 りを した長 谷 川 由希 も、 「日本 社 会 の 構 造 の 中 で 、 雇 用 差 別 を 受 け た り、 社 会 的 な承 認 を奪 わ れ た り して 、 ア イ ヌ民 族 と して の存 在 を 否 定 され た ア イ ヌ民 族 男 性 の怒 りが 、 自 己破 壊 的 な行 動 や 家 庭 内 で の 暴 力 と い っ たか た ちで 表 面 化 して い た」 と述 べ て い る19。 ア イ ヌ民 族 や 沖 縄 社 会 にお け る家 父 長 制 にっ いて は、 そ の共 同 体 の中 で 内 面 化 し、 維 持 され て きた 家 父 長 制 と、 大 和 に よ る侵 略 や 植 民 地 支 配 の 結 果 持 ち込 まれ た 家 父 長 制 とい う二 重 の 家 父 長制 が アイ ヌ民 族 女 性 や 沖 縄 女 性 に及 ぼ した 影 響 に つ い て 、 今 後 さ らに 研 究 を して い く必 要 性 が 指 摘 され た 。 これ は、 先 住 民 族 コ ミュニ テ ィに お け る植 民 地 支配 と複 合 差 別 の 関係 性 を 見 て い くうえ で 、重 要 な指 摘 で あ ろ う2° 。 ク ロァ チ ア会 議 報 告 書 で も、共 同体 内 の 家父 長 制 に っ い て は、以 下 の よ うに記 述 され て い る。 マ ジ ョ リテ ィの文 化 に人 種 主 義 の要 素 が あ る と、 女 性 移 住 者 が共 同体 内 の ジェ ンダ ー差 別 に立 ち 向 か うの は も っと難 しい。 移 住 者 の共 同 体 は 多 くの場 合 、 女 性 を抑 圧 して共 同体 の伝 統 的 な役 割 を維 持 し、 人 種 主 義 に対 して共 同 体 を 「結 束 さ せ る」 家 父 長 的 規 範 を守 ろ う とす るか らだ 。 さ らに、 人 種 主 義 が 存 在 す る ゆ え に共 同 体 と して の ア イ デ ンテ ィ テ ィ確 立 と連 帯 が い っ そ う必 要 に な るか も しれ な い。 ま た、 共 同 体 内 で 虐 待 さ れ て い るか 、 そ の文 化 に特 有 の形 態 で 権 利 を 侵 害 され て い る特定 の人 種 グル ー プの 女 性 は、 共 同 体 か ら排 除 され る こ とを 恐 れ て 、 あ る い は人 種 主 義 の 支 持 者 と見 られ た くな い たあ に、 沈 黙 しっ づ け るか も しれ な い。 上 野 は、 被 差 別 者 の 社 会 的 集 団 の 中 で 性 差 別 を 問題 化 す る こ とが な ぜ 困難 を と も な うの か、 そ の理 由 と して 、 以 下 の よ うな 指摘 を して い る[上 野1996:208]。 ○. 集 団 内 の相 対 的 強者 の立 場 か ら 「さ まざ ま な差 別 」 の あ い だ に政 治 的 な優 先 順 位 が っ け られ 、 「よ り深 刻 な 差 別 」 の前 に 「と る に足 りな い差 別 」 が 沈 黙 一56一.
(19) 「マイノ リテ ィ女性 に対す る複合差別」 をめ ぐる論点 整理 を強 い られ る。 ○. 社 会 的 弱 者 が 抵 抗 運 動 をお こ な って い る とき に、 集 団 内 の差 別 を言 い立 て る こ とは、 運 動 の 力 を分 裂 さ せ 足 並 み を乱 す 「分 派 主 義 」 「利 敵 行 為 」 とみ な さ れ る。. ○. 最 優 先 課 題 が 設 定 され た以 上 、 運 動 内 の担 い手 た ち に そ の 目標 達 成 の た め の 自己犠 牲 と献 身 が 要 求 され る。. 沖 縄 の女 性 が、 沖 縄 で 女 性 た ち を苦 しめ続 け て い る沖 縄 男 性 に よ る女 性 差 別 や、 米 軍 に よ る暴 行 にっ い て 声 を あ げ た と き、 「基 地 問題 を 女 性 問 題 に 媛 小 化 す る な」 とい う声 が沖 縄 男 性 か らあが った と聞 い た こ とが あ る。 ま た、 部 落 の女 性 た ち が、 部 落 内 の 女 性 差 別 に っ い て 問 題 提 起 した と き に、 「部 落 全 体 の解 放 が 優 先 さ れ るべ きで個 々 の 問題 を持 ち込 む な」 と、 部 落 男 性 か ら批 判 され た と も聞 い た こ とが あ る。 日本 の フ ェ ミニ ス トた ち に、 マ イ ノ リテ ィ女 性 の現 状 に っ い て訴 え、 日本 の フ ェ ミニ ス トは マ イ ノ リテ ィ女 性 に対 す る視 点 を も っ と持 つ べ きだ と訴 え る と、 「私 に はで きな い か ら、 あ な た た ち の と ころ で や って よ」 とい う こ とを、 筆 者 自身言 わ れ た こ とが あ る。 自 らが受 け る差 別 に は敏 感 で あ って も、 他 の差 別 、 あ るい は 自 らの 内 に 内面 化 し て い る差 別 に関 して は、 無 知 で あ り、 無 関心 で あ り、 「そ れ は あ な た た ち の問 題 」 と タ ブー視 を して きた の で は な い か。 た とえ ば 、部 落男 性 は、 自 らが受 け る部 落 差 別 に は敏 感 で あ り、 抵 抗 運 動 を 続 け て きた が 、 部 落解 放 を標 榜 す る コ ミュニ テ ィ内部 、 あ るい は、 一 人 の 個 人 の 内 に内 包 して い る女性 差別 を含 む他 の差 別 に 関 して は、 抑 圧 者 で あ る こ と に対 して 、 自分 の 「位 置 」 や 差 別性 を 問 う こ と も、 気 づ く こ と もな か った の で はな い か 。 あ る い は 気 づ いて も、 「そ れ は女 の問 題 」 だ と責 任 転 嫁 して き た ので は な いか 。 齋 藤 直 子 は、 部 落 内 にお け る女 性 差 別 の 問 題 を 〈 「共 闘 」 の対 象 と して 、 微 妙 な 「ず ら し」〉を 行 うの で な く、<「 〈 自 己 〉の 内 な る異 質 」 を 見 っ めて い く こ と 〉が 重 要 だ と部 落 解 放 運 動 に提起 して い る[齋 藤2000:93]。 一57一.
(20) 人 権 問 題研 究 資料. 第17号. こ れ は 、 日 本 に 限 っ た こ と で は な い 。 ジ ョ ア ン ナ ・ リ ドル と 、 ラ ー マ ・ジ ョ ー シ は 、 イ ン ドの ジ ェ ン ダ ー と カ ー ス トと 階 級 の 諸 関 係 に っ い て 、 〈 カ ー ス トと 階 級 と ジ ェ ン ダ ー の 諸 関 係 に 内 包 さ れ る 不 正 を 犠 牲 に して 、 解 放 の 闘 い の 名 の も と に民 族 を 糾 合 し 〉[リ ドル&ジ. ョ ー シ1986=1996:68]、<家. 庭 の 領 域 で の 男 女 平 等 の原. 則 を 実 施 に移 そ う と す る と 、 多 くの 民 族 主 義 者 の 男 性 は 、 民 族 的 従 属 に は抵 抗 す る け れ ど 、 そ の 一 方 で 女 性 に 対 す る 優 位 性 は 手 放 した くな い と い う こ と を 認 あ ざ る を 得 な か っ た 〉[同 上:75]と. 指 摘 す る 。 結 果 、<ジ. ェ ン ダ ー 格 差 は カ ー ス ト格 差 を. 補 強 し、 ジ ェ ン ダ ー の イ デ オ ロ ギ ー は 父 権 制 を 正 当 化 した の み で な く、 カ ー ス ト制 度 を も正 当 化 した の で あ る 〉[同 上:135]と. 。 上 野 の 「複 合 差 別 論 」 の 指 摘 と共 通. す る。. (ウ)コ. ミ ュニ テ ィ内部 の差 別 を 乗 り越 え る. 社 会 か らの差 別 ・排 外 主 義 ・同 化 主義 ・家父 長 主 義 が あ るか ら とい って、 あ る い は、 被 差 別 の立 場 に あ るか ら とい って、 そ の コ ミュニ テ ィ内部 に あ る女 性 差 別 が 正 当化 され る こ とで は決 して な い。 マ イ ノ リテ ィ内部 で の ジ ェ ン ダー ・バ イ ア ス を乗 り越 え る こ と。 権 力構 造 に組 み込 ま れ な いた あ に、 「世 聞 」 が 内包 して い る 「差 別 の論 理 」 を被 差 別 者 側 が受 け入 れ な い た め に、 社 会 が作 る 「差 別 の論 理 」 に抗 して い くた あ に、 ま ず、 マ イ ノ リテ ィ内部 の あ らゆ る関 係 性 を ジェ ン ダー の視 点 か ら分 析 して い く こ とが必 要 で あ る。 社 会 に対 して、 抵 抗 運 動 を進 あ て い るマ イ ノ リテ ィの運 動 の内 部 にお いて も、 前 線 に立 って運 動 を主 導 して い く男 性 と、 運 動 家 の男 性 を支 え る女 性 と い う性 別 分 業 、 あ るい は、 活 動 の方 針 を決 め るの は役 員 に就 い て い る男 性 だが 、 保 育 、 教 育 、 生 活 、 福 祉 、 介 護 と い った分 野 にお いて は、 「世 話 を す る」 役 割 と して 、 実 際 に 運 動 を 担 うよ う求 あ られ る女 性 部 、 とい った よ うな、 運 動 内 に あ る性 別 役 割 分 担 の 意 識 や 、 「母 性 イ デ オ ロギ ー」 を求 め る家 族 、 共 同 体 、 運 動 の 内 に潜 む ジェ ンダ ー や権 力 構 造 も克 服 して い くべ きで あ る。 一58一.
(21) 「マイノ リティ女性 に対す る複合差別」 をめ ぐる論点整理 被 差 別 部 落 にお いて も、 部 落 差 別 や 社 会 と の関 係 の中 で 、 実 は家 族 とい う もの の 持 っ 意 味 や それ が 及 ぼす 影 響 な ど にっ いて の分 析 が あ ま り行 わ れ て こな か った。 ど こか に家 父 長 制 的 な家 の 論 理 に根 っ こを 持 っ よ う な家 族 観 に引 きず られ て い る面 が あ って 、 そ こ に家 族 や 共 同 体 の 温 も りを 感 じて い る面 が 多 々 あ る。 女 性 運 動 は、 「個 人 的 な こ と は政 治 的 な こ と」 と い った ス ロ ー ガ ンを掲 げ、 数 々 の問 題 提 起 を 個 人 と社 会 に打 ち出 して き た。 た とえ ば 、 彼 女 た ち は、 性 別 役 割 分 担 意 識 や 家 父 長 制 的権 力構 造 、 ジ ェ ンダ ー意 識 を 内 包 し、 女 性 と して の個 人 の ア イ デ ンテ ィ テ ィを 無視 して きた 「家族 」 の シ ス テ ムや 幻 想 を 打 破 し、 個 人 の 自立 と社 会 変 革 を 呼 びか けて きた。 部 落 にお い て も、 個 人 の 自立 と家 族 の結 び合 い方 を両 立 させ る よ う な透 徹 した整 理 が で きな い と、 家 の論 理 に基 づ く家 族 観 は、 超 克 で きな い。 今 後 、 家 の 論 理 や 家 父 長 的 規範 を乗 り越 え た、 新 しい 「共 同体 」 や 「家 族 」 づ く りが部 落解 放 運 動 に求 め られ る。. 5複. 合差 別問 題が 提起 す る もの. (ア)「 マイ ノ リテ ィ女性 」 と は誰 を さす か 一実 態 調 査 の 必 要 性 と困 難 性 で は、 これ まで に述 べ て きた 「マ イ ノ リテ ィ女 性 」 とは い った い誰 を指 す の か。 そ れ ぞ れ の マ イ ノ リテ ィ ・グ ル ー プ の 中 で も階 層 分 化 が あ り、 か な らず し も 「マ イ ノ リテ ィ女 性 」 と、 ひ と く く りにで きな い こ と、 それ ぞ れ の抱 え る課 題 の多 様 性 を も認 識 しな けれ ば な らな い こ とが 、 上 述 した 「複 合 差 別 研 究 会 」 で も共 有 され た。 しか し この こと は一 方 で 、 複 合 差 別 の正 確 で 全 体 的 な実 態 把 握 が 困 難 な作 業 で あ る こ とを意 味 して お り、 そ こに複 合 差 別 の特 徴 が あ る。 これ ま で紹 介 して きた マ イ ノ リテ ィ女 性 の声 も、1人 ひ と りの 女 性 の証 言 で あ って、 そ の 証 言 が 必 ず し も彼 女 の属 す る マ イ ノ リテ ィ ・グ ル ープ の状 態 を包 括 して い る わ けで はな い。 マ イ ノ リテ ィ 女 性 の実 態 は、 部 分 的 にあ る い は実 感 的 に しか 分 か って い な い のが 現 状 で あ る。 ま た、 実 際 、 マ イ ノ リテ ィ ・グル ー プ ご と に同 量 、 同 質 の 調 査 が 行 わ れ て お らず 、 マ 一59.
(22) 人権問題研究資料. 第17号. イ ノ リテ ィ ・グ ル ー プ に よ って、 実 態 の把 握 にか な りば らっ きが あ る。 それ と同 時 に、 マ イ ノ リテ ィ ・グ ル ー プ に よ って取 り組 むべ き重 要 課 題 が 違 い、 取 り組 み方 の 方 法 と進 度 もま っ た く違 う。 これが 複 合 差 別 の調 査 設 計 の作 成 と実 施 を難 し くさせ て い る こ と も、 「複 合 差 別 研 究 会 」 で共 有 され た課 題 で あ る。 ク ロ ア チ ア会 議 で は、"Womenofcolor"21「. エ ス ニ ック女 性 」 「マ イ ノ リテ ィ女. 性 」 「特 定 の人 種 グル ー プ に属 す る女 性 」 「周 縁 化 され た女 性 」 と い っ た呼 称 を 用 い て い るが 、 女 性 が 属 す る集 団 が 違 え ば 、 抱 え る 問題 も さ ま ざ ま に違 うた め 、 そ の 「違 い」 に対 処 しな けれ ば 、 す べ て の 女 性 に対 す る人 権 の保 護 が 曖 昧 に な るか 否 定 され か ね な い と い う認 識 が 高 ま りっ つ あ る こ とを 指摘 して い る。 井 上 輝 子 は、<た. しか に"女 性"カ. テ ゴ リーを 無反 省 に使 用 す る こ と に は問題 が. あ る。 だ が 、 少 な くと も現 在 まで の と こ ろ、 どの民 族 で あ れ、 どの 階級 で あ れ、 女 性 と男性 で は社 会 的 位 置 づ け も経 験 も異 な って い る こ と は事 実 で あ る。 民 族 、 階級 、 年 齢 、性 的 指 向 、 身 体 的能 力 な どの 違 いを無 視 す るの で はな く、 む しろ"女 性"カ テ ゴ リーを手 が か り と して 、 女 性 間 の 差異 と共 通 性 とを と もに検 証 して い く こ とが 必 要 で あ ろ う。〉 と、 「女性 」 カ テ ゴ リーを手 が か りに実 態 を把 握 す る こ とを提 起 し て い る22。 一・ 方 、 被 差 別 部 落 にお い て は、 実 態 調 査 が す で に実 施 さ れ て お り、 大 阪 府 に お け る被 差 別 部 落 の実 態 調 査 の 一 連 の過 程 に か か わ って き た奥 田均 は、 「部 落 」 を ベ ー ス に、 二 次 属 性 を女 性 とす る こ とを提 案 して い る。 まず 、 部 落 の 中で の男 女 差 別 か ら検 証 を し、 そ こか ら見 え て きた もの で マ イ ノ リテ ィ女 性 全 体 か ら言 え る こと、 あ る い は、 部 落 だ か ら言 え る こ と、 を議 論 しなが ら、 共 通 項 目 を作 成 して い く、 と い う作 業 を提 案 して い る。 伊 藤 セ ッは、 「マイ ノ リテ ィ ・ジェ ンダー統 計 は可能 か」 とい う問題 提 起 の 中 で、 マ イ ノ リテ ィ と ジ ェ ン ダー を結 ん だ統 計 の 日本 にお け る可 能 性 と して 、 示 唆 に富 ん だ提 案 を行 って い る23。 ま ず、 た とえ ば、 「部 落 差 別 の 上 に家 庭 ・組 織 の 中 で も女 性 は女 性 差 別 の被 害 者 .!.
(23) 「マイノ リテ ィ女性 に対 する複合差別」 をめ ぐる論点整理 と な る」 と い っ た部 落 の 女 性 が 抱 え る 「ジェ ンダ ー課 題 ・関 心 事 」 を設 定 し、 そ の 「基 礎 に あ る原 因」(生 活 の厳 しさ、 部 落 差 別 被 害 者 の男 性 の不 満 が 弱 い立 場 の女 性 に向 け られ る、 部 落 解 放 運 動 の 中 で も女 性 差 別 が あ る、 な ど)と 、 「結 果 ・影 響 」 (よ り貧 困 な人 や 障害 を もっ 人 な ど さ ら に弱 い立 場 の 人 に抑 圧 を向 け る、 家 庭 の 中 で も運 動 の 中 で も女性 差 別 の声 を あ げ られ な い ま ま で き た、 解 放 運 動 の 中 で若 い人 や 女 性 が 育 ち に くい、 な ど)の 関 係 性 を さ ぐ り、 「必 要 と され る統 計 」(部 落 出身 者 の生 活 の厳 しさ を測 定 す る統 計 ・生 活 水 準/貧 困 統 計、 同 上 の教 育 機 会 ・訓 練機 会 ・ 職 業 分 離 に関 す る統 計 、 同 上 の運 動 へ の女 性 の参 画 を計 る統 計 、 な ど)を 明 確 に す る。 こ う した問 題 が 明 確 に な っ た あ と で、 上 記 に関 す る、 政 府 ・自治 体 ・民 間 に よ る 統 計 ・調 査 の 存 在 を 調 べ た り、 政 府 や 自治 体 に必 要 な統 計 を用 意 させ た り、 自前 の 統 計 調 査 ・社 会 調 査 を す る、 こ と を提 案 して い る。 こ こで 伊 藤 は、 ど う い う統 計 が 必 要 と され るか 、 ど うい う項 目 を何 の た め に立 て るか を 明 確 に した うえ で 、 統 計 調 査 や イ ンタ ビュ ー調 査 を行 って い くこ とが 必 要 だ と して い る。 しか し、 この 場 合 の 困 難 さ と して 、 政 府 や 自治 体 に よ る マ イ ノ リテ ィに関 す る統 計 が 、 マ イ ノ リテ ィの 権 利 向 上 の チ ャ ンスか 危 険 な悪 用 か 、 と い う問 題 を は らん で い る こ と、 マ イ ノ リテ ィ 自身 が 必 ず しも分 離 した統 計 を と る こ と を望 ま な い こ と、 そ もそ も全体 的 に統 計 が な い こ と、 その 中 で の ジ ェ ンダ ー統計 と言 う場 合 の 「課 題 ・ 関 心 事 」 の 組 み 立 て 方 が 難 しい こ と、 な どを あ げて い る。 いず れ に して も、 北 京 行 動 綱 領 の12の 項 目(貧 困 、 教 育 、 健 康 、 暴 力 、 経 済 、 政 策 決 定 な ど)に 沿 って 、 デ ー タ に基 づ く実 態 と提 言 を ま と め た ア フ リカ系 ア メ リ カ人 女 性 のNGOの. 場 合 鍛や、 香 港 の 外 国 籍 家 内労 働 者 が 抱 え て い る実 態 に関 す る. デ ー タ を発 表 したNGOの. 場 合25の よ う に、 自分 た ち の 問 題 意 識 や 経 験 、 現 実 を 説. 得 力 あ る提 言 に結 び付 け、 そ れ を 形 に して い くた あ に も、 複 合 差 別 の視 点 に立 ち、 当 事 者 の 協 力 を 得 た、 マ イ ノ リテ ィ と ジ ェ ンダ ーを 結 ん だ 実.L`A調 査 と デ ー タ収 集 ・ 一61一.
(24) 人権問題研究資料. 第17号. 分 析 の実 施 が 、 今 後 不 可 欠 で あ る。 国 連 ・人 種 差 別 撤 廃 委 員 会 が 採 択 した上 述 の勧 告 で も述 べ られ て い る よ うに、 複 合 差 別 の形 態 、 発 現 の態 様 、 発 生 の状 況 、 背 景 の正 しい認 識 が な けれ ば、 一 面 的 ア プ ロ ー チ に よ って 、 複 合 差 別 が 見 落 と され た り、 取 り上 げ られ なか った り、 も し く は、 不 適 当 か っ 効 果 を もた らさ な い可 能 性 が あ っ た り、 強 化 す る こと さえ あ る。 現 実 が 認 識 で き な けれ ば、 監 視 ・防 止 ・軽 減 ・救 済 ・撤 廃 の た め の包 括 的 な措 置 を と る こ と もで き な い。 今 後 さ らに複 合 差 別 に関 す る仮 説 理 論 にっ いて の 議 論 を 進 あて い くこ と と、 関 係 者 の協 力 を 得 て 、 具 体 的 な 調 査 か ら理 論 を 裏 付 け る事 実 を 把 握 し て い くこ とが 必 要 で あ る。. (イ)「 差 別 」 「被 差 別 」 の 関 係 性 の と らえ な お し 複 合 差 別 の 視 点 は、 差 別 の 関 係 性 の と らえ な お しも提 起 して い る。 福 岡 と もみ は、 複 合 差 別 とい う視 点 で は、<「 差 別 す る側 一 加 害 者 の側 」 に あ る 問 題 を ぼ や か し、 あ い ま い に しか ね な い の で はな いか 〉[福 岡2002:6]と. 批判 す. る。 当事 者 運 動 と は、 当事 者 が 受 けた 差別 や抑 圧 に耳 を傾 け、 そ の 「足 を踏 ま れ た」 痛 み と声 を 持 って 、 加 害 者 を 糾 弾 して い くこ とで あ り、 差 別 の 複 合性 とい う問題 提 起 で は、 この く ス タ ンスが 揺 ら ぐ〉の で はな い か と問題 提 起 を す る[同 上:8]。 しか し、 筆 者 が 複 合 差 別 とい う視 点 か ら問題 提 起 を して い る こ とは、 被 差 別 者 の 声 や 痛 み を 無 視 した り、加 害 者 を 糾 弾 しな い とい う こ とで は もち ろ ん な い。 む しろ、 被 差 別 者 が 意 識 化 し、 「足 を 踏 ま れ た もの の痛 み は足 を 踏 ま れ た もの に しか 分 か ら な い 」 と告 発 を す る段 階 の み に と どま るの で は な く、 他 者 の経 験 へ思 い を馳 せ、 共 感 を し、 また 、 自 らが 誰 か の 足 を 踏 ん で い る こ とに も気 づ き、 人 間 と して の誇 りに まで 高 め て い くこ とが 大 切 な の で はな い か、 とい う こ とで あ る。 これ まで は よ く、 部 落 女 性 が 「被 差 別 部 落 出 身 者 と して」 「女 性 と して」、 「二 重 差 別 」 を被 って い る、 あ る い は、 階 級 差 別 な どを あ わせ て、 「三 重 差 別 」 を 被 っ て い る とい う と らえ 方 が され て きた。 しか し、 この と らえ方 で は、 被 差 別 の側 が 同 心 一62一.
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