随伴モデル法を適用した話しことばの形成
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(2) 210. 藤金倫徳・渡辺健郎・鈴村健治. 1979)がある。これは,発語は獲得しているがその自発的使用が困難な場合,強化を遅延. させることにより<そゐ困難性を解決させようとするものであるoこれを土とばのない重度 の子どもに適用するためには,その適用に先立って一対一訓練場面で言語モデルなどの付. 加的な弁別刺激に統制される富農反応を形成する必要がある(出口・山本,. 1985)o. しかし,本訓練の対象児の場合,モデルを提示すると一定の音は自発できるが,モデル 音を正しく模倣することは困難である。モデル音を正しく模倣させようとしてモデルを提 示していくと逃避行動が生じてくる。このような事例の場合,モデル提示によって反応に. 対する刺激統制を強めていくことが一つに考えられる。しかし,モデルを含めたプロンプ ト刺激を用いる場合,そのフェードアウトが問題となってくる。フェードアウト開始がは や過ぎると標的行動の獲得を妨げるような不適切な行動への固執が生じるし,一方,おそ 過ぎるとプロンプト刺激-,選択的注意という形で依存性を育てることにもなり,結果的 にフェ∴ドアウトが困難になってしまう(Touchette. and. Howard,. 1984)ことになり,. モデルで強く反応を統制することは,多大な危険性を含んでいると考えられよう。. そこで,、本研究では,訓練者が子どもの発声を模倣し,それを子どもの発声に随伴させ ことばを形成することを試みた。. ここで,訓錬暑が子どもの発声を模倣し,それを子どもの発声に随伴させると,発声頻 度が上昇すること(Haug?n 1972;大野, 1984;佐久間, and Mclntire, 1982),訓練者 によるー模倣は,効果的な強化子であること(日augan. and. Mclntire,・1972)が報告された.. ここで着目したいのは,大野(1984)が訓練者による模倣を随伴させることによって, 発声レパートリーをも増大させることができると報告していることである。この要田は明 らかではないが,発声頻度が高くなり,また発声レパートリ-に偏りがある事例では,随 伴音とそれに続く子どもの反応の時間的な関係が接近しており,また音声が類似している 場合が多いと考えられ,あたかも訓練者の発声と子どもの発声が模倣関係にあるように見 ることができよう.この模倣関係に訓練者による模倣やその他の強化子が随伴されれば,I 子どもの模倣反応を強化することにもなり,結果的に訓練者の模倣自体が強化横能とモデ ル機能との二つの機能を果たすようになるのではないかと考えられる。このように,本研 究では,訓練者の模倣がモデルとしての機能まで帯びると考えているので,以下「随伴モ デル法+と記述する。. 本事例は,強化遅延対応とモデ′レ提示の使用によって音声の良寛的使用がみられるよう になったのでほあるが,これは他者にはことばとして聞き取ることが困難なものであっ. た.そこで,明瞭な発声によることばを獲得させるために,随伴モデル法の適用を試み た.この場合,随伴モデル法は,子どもの自発的な発声に対する捜作として適用されるの で,獲得した行動の自発性の欠如という問題は,生じないのではないかと考えられる。 一方,ト模倣が困難である原因の一つとして,語音弁別の問題が考えられようo例えば, モデル音の音の有無は弁別できるが,語音の弁別が困難であるということである。言い換 えると,語音の次元に適切に注意(attention)が向けられないということである。訓練者 が示すモデル音は,表情,ロ形,音の抑揚,語音などの複合刺激であると考えられるが,■. 複合刺激の刺激統制に関しては,その刺激要素すべてが反応を統制するわけでは-ない.
(3) 随伴モデル法を適用した話しことばの形成. (Reynolds, 1961)という報告もある。 それではいかにして適切次元,つまり語音-注意を向けさせるか,語音を刺激選択させ るかという問題が生じてくる。刺激選択については,複合刺激の各要素の相対的明瞭度, Cumming, 1984; Johnson and 強度(intensity)などが一つの変数となる(e.g.,石井, 1968)。つまり,明瞭度の異なる2つの刺激を複合提示して条件づけを行うと,明瞭魔の 低い次元についての学習が減弱する隠蔽(overshadowing)の現象が見られる。隠蔽のよ うに相対的明瞭度の高い刺激一つにのみ反応が統制されるか否かは不明であるが,随伴モ デルの語音の明瞭度を,他の刺激要素の明瞭度と比べて相対的に高くすれば,語音の次元. に注意を向ける確率が高まり,模倣が容易になるのではないかと考えた。 以上のことから,訓練は, (1)子どもの発声にそれと類似した随伴モデルを適用し, 随伴モデルと子どもの発声を模倣関係におく.つぎに(2)随伴モデルを五十音に即し, (1)や随伴モデルの他の刺激要素と比べて 一昔一昔を明瞭に発声したものに変化させ, 語音の明瞭度を高め,語音に注意を向けさせることにした。. 法. 方 1.対象児. 対象児は,昭和57年7月17日生の男子である.胎生期にむま目立った異常はなかった。生 下時の体重は,. 2375gと未熟状態であった。また,生下時に,泣きが弱かったことが報. 告された。一人遊びや固執行動が多く,. 3歳2カ月時に自閉症と診断された.. 3歳4カ月時に川崎病で入院したが,この頃より音声の意味的使用が出現し始めた. 津守・稲毛式乳幼児発達質問紙(1-3歳まで)によると,訓練開始当時DAl:4, DQ35.2. (運動67,探索・操作52.5,社会16.5,食事・排港・生活習慣21.5,理解・言. 語9.5)であったo 2.方. 法. 訓練は,プレイルームで,原則とし2週間に1回の割合で行ったo自由反応場面で,千. どもが滑り台を滑り降りる時や,訓練者に滑り降りて欲しい時に自発された「バイJ:イ+ のような発声について以下の訓練計画で行った.. (1)子どもの発声と輯似した随伴モデル期(1-、3セッショソ);子どもが発声した音 声と類似した音声を訓練者が随伴させる。. (2)明瞭な発音による随伴モデル期(4-8セッシ'ヨソ);子どもが発声した音声を日 本語の五十音に当てはめたものを,訓練者が一昔一昔を正確に発声して随伴させるo この行動の強化随伴性は,行動の先行事象が滑り台や訓練者の存在であり,強化事象は, 訓練者の随伴モデルおよび訓練者または子ども自身が滑り台を滑り降りたことである。. 3.評. 定. 訓練は毎回ビデオに録画されているので,そこから1セッショソあたり10反応(7It=-ッ. 211.
(4) 212. 藤金倫徳・渡辺健郎・鈴村健治. ショソは8反応)をランダムに抽出しカセットテープに録音したoそれを5名の評定者に, 「今から聞いて頂くテープは,子どもの発声を録音したものです。それぞれ意味があるこ とばですが,聞き取りにくいものです。子どもが何と言っているかを書き取って下さい。+. という教示のもとに評定させた。尚,評定老は,本訓練についての知識は全く与えられて いない。. ■評定反応率は, (評定老が「バイバイ+と評定できた数)÷(1セッションあたりの絵評 定反応数) ×100で算出した。 また,. 「パ+の評定率と「イ+の評定率を算出したが,これは評定者の評定した反応の. 中より2音節から5音節の反応を対象に,(1セッションで「バ+または「イ+と評定した 数)÷(1セッションで「バ+または「イ+と評定できる最大数,つまり2×10反応(7セ ッションは2×8))×100で算出した。. 緒. 果. 80. 40. ㌔. 杜 *. /●\●ノ. 60. !. /. 40. 30. 20. /. 10. 20. /・-・ノ 1. ●. セ. Fig.. 8. 了. 2. ウ. シ. 9. I. 1平均評定反応率の推移. rパJa). D. rイJの. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 2. 評定著聞の評定率の標準偏差の推移. #%*. ・ミ:. //:. ;*(?i. i:I: 1. 2. セッション. Fig・. ●. .ノ\●\./. Ll. 3. 4. 5. 6. 7. 8. セ.I)ション. Fig.3. 評定審問の評定反応率の平均は,. 「パ+と「イ+の評定率の推移. Fig.. 1に示すとおりである。評定反応率の平均ほ訓. 練が進行するに従って増加しているが,手続きを明瞭な発声による随伴ゼデルに移行させ た4セッションより急激に増加している。 また,評定反応率の標準偏差(Fig・2)紘, で最大となり,以後減少している。. 1セッションでは小さいが,. 4セッション. 8.
(5) 随伴モデル法を適用した話しことばの形成. 213. 次に「バ+と「イ+の評定率は,子どもの発声と類似した随伴モデル期では「バ+の評 定率が「イ+の評定率を上回っているが,明瞭な発声による随伴モデルに移行させた4セ 3)0. ッション以降「イ+の評定率の方が「バ+の評定率を上回っている(Fig.. 考. 察. 平均評定反応率は,訓練が進行するのに従って増加しているo特に,手続きを明瞭な発 声による随伴モデルに移行させた4セッション以降急激に増加している。 また,評定著聞の評定反応率の標準偏差の変化はFig.. 2に示すようになっている.訓. 練初期の標準偏差は小さくなっておりiこのことは,どの評定者にも等しく「バイバイ+ と聞き取ることができなかった音声であったことを示している。以後4セッションまで, 標準偏差が上がってきているが,これは訓練手続きの導入により,子どもの反応に変化が あらわれ,ある評定老には聞き取りやすい反応に変容したが,ある評定老には依然聞き取 り難い反応であったことを示している。また5セッション以降は,標準偏差は減少してお り,子どもの反応が次第に聞き取りやすい反応に変容していったことを示している。 以上のことから,一定の自発的な発声行動がある子どもには,随伴モデル法を適用して, ことばを形成することが可能であるといえる。 ここで,評定老の記録した反応の中の「バ+および「イ+の出現率の推移はFig. ようになっているo. 1セッションから3セッションまでは,. 3の. 「パ+の評定率の方が「イ+. の評定率よりも上回っているが,手続きを明瞭な発音紅よる随伴モデル-移行させた4セ 「パ+より「イ+の方が学 ッション以降は「イ+の評定率の方が上回っている。つまり, 習率が高かったといえる。その要田としてほ次のことが考えられる。まず子どもの発声と 類似した随伴モデル期では,訓練者がいくら子どもの不明瞭な発声に類似させて「バ+を 発声しても,ある程度明瞭な発声に近くなってしまう.一方,. 「イ+の場合は,子どもの. 発声とかなり類似した発声が可能である.そして,手続きを明瞭な発声による随伴モデル に移行させた場合, 生じないが, の違いで,. 「バ+については手続きが変化しても,音の明瞭度にはあまり変化が. 「イ+に・ついては,その変化が大きくなると考えられる.この変化の大きさ 「パ+に比べ,. 「イ+の方が学習率が高くなi,たものであると考えられるo言い. 換えると,反応に随伴する結果事象の変化,つまり随伴モデルの音次元の変化や他の刺激 要素との比較における相対的な明瞭化がこのような行動変容をもたらしたと考えられ,辛 続きの妥当性が裏付けられよう。 従来の行動論的な言語訓練の結果,行動の自発性の欠如が問題となり(藤原・大野・加 藤・園山・武蔵,. 1982;大野・砂山・谷・武蔵・中矢・固山・福井,. 1985;谷・岩佐・中. 野, 1983),それを解決する手段として,プロンプト刺激から適切な刺激への刺激統制の. 転移についての試み(加藤・小林,. 1987;. Halle,. Marshall. and. Spradlin,. 1979)が行わ. れてきたo. しかし本訓練では,反応に先行させるかたちでのプロンプトは行わず,子どもが自発す る音声反応に対しての結果操作として随伴モデル法を適用し,自発的な言語行動を形成し.
(6) 藤金倫徳・渡辺健郎・鈴村健治. 214. た。この場合,訓練を通じて反応を統制しているのは,滑り台,他者の存在などの適切な 環境の刺激事象であるので,自発性の欠如,般化の困難性などといった問題は起こらない と考えられ,時間遅延法などとともに機能的・自発的な言語行動の形成法として効果的で. あると考えられる。また,従来から試みられている刺激統制の転移を図る必要はなく,比 較的適用が容易な方法であると考えられる。 また時間遅延法の適用の対象は要求言語行動に限られている。これは要求言語行動は, 反応の統制要因が明確であり,しかもその訓練操作が比較的容易にできるからである。し. かし,随伴モデル法の場合,訓練操作は反応に対する結果のみを操作するので,要求言語 行動のみではなく,タクト行動にまで適用範囲を拡大できる可能性がある。. 結. 論. 本研究では,自閉症児にことばを形成する手段として随伴モデル法の適用を試みた。そ の結果,聞き手に聞き取り易い,自発的な行動を形成することができた。 この裏困として,手続きを子どもの発声と類似した随伴モデルから五十音に即した明瞭. な随伴モデルへと移行させたこと,つまり反応の結果事象を変化させ,語音次元に注意を 向けることを促したこと,および,随伴モデルが,自発行動に対する結果操作として導入 されたことが考えられる。. 引用文献 出口. 光・山本淳一(1985) :機会利用型指導法とその汎用性の拡大 -機能的言語の教授法に関 する考察-.教育J亡♪理学研究, 33, 350-360. 藤原義博・jc野裕史・加藤哲文・園山繋樹・武蔵博文(1982) :行動静的言語訓練における新たな 方向性 -自発的・磯能的な言語の習得をめざ㌧て-・自閉児教育研究, 5, 358-371・ language to increase A. and Spradl血J. delay : a technique Halle, ∫., Marsball, (1979): Time use. and. Analysis,. facilitate. generalization. in. retarded. childoen.. Journal. of. Applied. imitation, R. Ⅵ「. (1972): Comparisons G. 班. and Mclntire, of vocal infant food as for Developmental and reinforcers ̄ vocalizations. 6 (2),20ト209.. Ⅲaugan,. 1ation,. 澄(1984) : C57BL/6J系マウスの同時弁別学習に●ぉける刺激選択 効性の効果について一 心理学研究, 54 (6), 371-377. determiners Cumming, W. W:(196白) : Some of Johnson, D.F. and 石井. the. Behavior. 12, 431-439.. Experimental. Analysュs. Of. Behavior,. tactile. stimu・. Psychology,. -刺激の明瞭度と有 attention・. Journal. of. ll, 157-166・. 加藤暫文・小林重雄(1987) :自閉症児の磯能的言語行動の形成のための訓練パッケージの開発 (1)一事求言語行動形成のための時間遅延法の適用-.日本特殊教育学会第25回大会発表論文 集, 452-453.. 大野裕史(1984) :精神遅滞児の言語訓練における音声フィード・パックの効果 -モデル提示条 52-53. 件との比較-,日本行動療法学会第10回大会発表論文集, 晋二・武蔵博文・中矢邦雄・園山繋樹・福井ふみ子(1985):いわゆる 大野裕史・杉山雅彦・谷 「フ1) 9(2), 91-103. -オペラント+法の定式化 一行動形成法の再検討-.心身障害学研究, Analysis G. S. (1961) : Attention in the pigion. Journal of the Experimental Reynolds, of Behavior,. 4, 203-208..
(7) 随伴モデル法を適用した話しことばの形成. 215. 佐久間 徹(1982) :オペラント法による自閉児の発語促進 日本特殊教育学会第20回大会発表論 文集, 264-265. : 谷 晋ニ・岩佐美奈子・中野香代子(1983) FreeOperant事態での言語指導(I)日本特殊教. 育学会第21回大会発表論文集, 418-419. J. (1984): Errorless P. and Howard,. Touchette,. control stimulns 17, 175-188.. transfer. in delayed. prompting.. learning. :. reinforcement Journal of Applied. contingencies. Behavior. and Analysis,.
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