キンク損傷及び紫外線照射がPBO繊維の引張強度に及ぼす影響に関する研究
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(2) り、使用環境も年々厳しくなっている。そのため、紫外線遮蔽材が劣化した場合を想定し、紫外線劣化に よる強度低下について明らかにする必要があるが、紫外線劣化のみの強度評価についての報告例はあるも のの、上述のキンクバンドと紫外線照射が複合した場合の強度評価については報告例が殆ど無い。キンク バンドと引張強度との関係、キンクバンドと紫外線照射の複合した引張強度は、PBO 繊維の使用にあたっ て、信頼性の高い設計を行う上で極めて重要であり、これらを明らかにすることが工業界、産業界で切望 されている。本論文はそれらに応えるもので、PBO 繊維のキンクバンドが引張強度に与える影響、キンク バンドと紫外線照射が PBO 繊維の引張強度に与える影響を明らかにすることを目的としている。 本論文は 6 つの章で構成されており、第 1 章では研究背景と目的、第 2 章では PBO 繊維におけるキン ク損傷発生、第 3 章ではキンク損傷が PBO 繊維の引張強度に及ぼす影響、第 4 章ではキンク損傷を導入 した PBO 繊維の引張強度のワイブル統計解析、第 5 章では紫外線照射が PBO 繊維の引張強度に及ぼす 影響、第 6 章では結論がまとめられている。 第 2 章では PBO 繊維のキンクバンドがどのように発生するかについて、実験と TEM 観察を行ってい る。従来の研究では PBO 繊維のキンクバンドの発生は、曲げによる圧縮負荷や繊維を樹脂に埋め込み圧 縮することで捉えられていたが、 PBO 繊維内の応力分布が均一でないことから厳密な意味でキンクバンド の発生は把握されていなかった。これは、高分子繊維は直径が約 10μm と非常に細く繊維長さ方向に直 接圧縮負荷を与えることが困難であったからであるが、本論文ではフォトリソグラフィ技術を用いて単繊 維の圧縮試験片を作製する方法を考案し、それにより繊維を軸方向に直接圧縮することのできる圧縮試験 法を開発した。その結果、圧縮試験中にその場観察を行うことで PBO 繊維に直接圧縮荷重を加えながら キンクバンドの発生を確認し、一様応力場でのキンクバンドの発生を捉えることが出来た。また、圧縮試 験から得られる荷重-変位曲線が非線形になる点とキンク損傷の発生が一致することを明らかにした。さ らに、キンクバンドの生じた PBO 繊維の TEM 観察と圧縮試験の結果を総合して、キンク損傷がミクロ フィブリルの座屈であることを示唆する結果を得た。 第 3 章では、キンクバンドが損傷として引張強度に影響を与えるかについて検討を行った。実験では、 異なる直径の鋼棒に PBO 繊維を巻き付け、繊維表面の圧縮ひずみとキンクバンド密度の関係を明らかに した。さらに、キンクバンド密度の異なる PBO 繊維に対して単繊維引張試験を行うことでキンク損傷と 引張強度の関係について明らかにした。その結果、キンク密度の増加と共に引張強度の低下を確認し、キ ンクバンドが引張強度に対して損傷として作用することを明らかにした。この結果を持って、以下、キン クバンドをキンク損傷と記述する。さらに、キンク損傷の形状が引張強度に及ぼす影響を調査するため、 キンク損傷の形状を I 型、V 型、X 型に分類し引張強度の関係についても調査を行った。その結果、2 つ のキンク損傷が交差しているように見えるV型及びX型が引張強度の低下に大きく影響を及ぼしているこ とを明らかにした。さらに、これらを総合してキンク損傷を有する PBO 繊維の強度の下限界値を明らか にし、PBO 繊維の強度設計に不可欠な値を得た。 第 4 章ではキンク損傷密度の異なる PBO 繊維の引張強度に対して、ワイブル解析を行いキンク損傷部 分の強度変化について明らかにした。PBO 繊維の引張強度は直径方向に寸法効果を持つため、本論文では 寸法効果を考慮した強度パラメータとして残存強度比を定義し解析を行った。その結果、キンク損傷を有 する PBO 繊維の引張強度は、キンク場損傷を欠陥とした場合、有効体積の概念で説明できることを明ら かにした。このことは、鋼棒に PBO 繊維を巻き付け、キンク損傷を生じさせた場合、キンク損傷密度が 増加(繊維表面の圧縮ひずみが高くなる)してもキンク損傷部分の強度に変化は無く、引張強度はキンク 損傷の数に支配されることを意味しており、PBO 繊維の強度を評価する上で有益な結果を得た。.
(3) 第 5 章ではキンク損傷と紫外線照射による複合損傷が PBO 繊維の引張強度に与える影響について評価 した。実験では、PBO 繊維に異なる条件でキンク損傷を発生させた後、紫外線を照射し単繊維引張試験を 行うとともに、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)を用いて紫外線照射を受けたキンク損傷部分の 化学分析を行った。その結果、キンク損傷密度が高くなるほど紫外線照射による強度低下が大きく、紫外 線照射の影響を受けやすいことを示した。また、窒素雰囲気中で紫外線を照射した繊維では引張強度の低 下率が紫外線未照射のものと変わらず、紫外線による強度低下には酸素が影響していることを明らかにし た。また、EPMA 分析の結果から、紫外線照射を行った PBO 繊維のキンク損傷部分では酸素の偏析が確 認され、キンク損傷部分が他の部分に比べて優先的に自動酸化を起こすことを発見した。以上のことを総 合して、キンク損傷を有する PBO 繊維が紫外線照射を受けた場合、キンク損傷部分が優先的に自動酸化 を起こし、切欠き効果により引張強度は紫外線未照射の場合より大きく低下することを明らかにした。 第 6 章では、第 1~5 章の結果をふまえてキンク損傷が PBO 繊維の引張強度に及ぼす影響、キンク損傷 と紫外線照射が PBO 繊維の引張強度に及ぼす影響について明らかにし、 本論文の結果が PBO 繊維のキン ク損傷を考慮した強度設計に有益であり、信頼性の高い設計に役立つことを示すとともに PBO 繊維の用 途拡大につながることを示した。.
(4) 審査の 結果の 要旨 本論文は実用化されている高分子繊維の中で最も高い引張強度、引張弾性率を有する繊維である PBO(Poly-p-Phenylene Benzobisoxazole)繊維について、その引張強度に及ぼすキンク損傷と紫外線照射 の影響、さらに両者の複合損傷の影響について統計学的に論じたものであり、全 6 章で構成されている。 第 1 章では研究背景と目的を述べている。PBO 繊維は従来から使用されているアラミド繊維よりも引 張強度は約 2 倍,引張弾性率は約 2.5 倍と非常に高く、炭素繊維やガラス繊維といった他の種類の繊維材 料よりも優れた力学的特性を有している。しかしながら実用化されてからの歴史が浅く、産業的あるいは 工業的観点から重要と考えられるにもかかわらず未だ明らかにされていない特性があり、これが PBO 繊 維を材料として使用した場合の強度の信頼性確保と用途拡大への弊害になっていると述べている。未知の 特性として繊維を屈曲させた場合に生じるキンクバンドが強度に及ぼす影響とキンクバンドを生じた繊維 の引張強度に対する紫外線劣化を取り上げ、これらを明らかにすることで上記の弊害が解決でき、工業材 料として産業の発展に寄与できることを述べている。 第 2 章ではキンクバンドがどのように発生するのかを実験で確認している。その際、一様圧縮応力下で キンクバンドを生じさせるために、フォトリソグラフィ法を用いて単繊維圧縮試験片を開発するとともに それを用いた単繊維の軸方向圧縮試験法を開発している。実験の結果、一様応力下においてキンクバンド を生じさせその場観察することに成功し、その場観察により荷重―変位曲線の非線形点でキンクバンドが 発生することを明らかにしている。また、TEM 観察によりキンク損傷がミクロフィブリルの座屈である ことを示唆する結果を得ている。 第 3 章では PBO 繊維を直径の異なる鋼棒に巻き付け、発生したキンクバンドと繊維表面の圧縮ひずみ の関係を明らかにするとともに、キンクバンドを生じさせた PBO 繊維の引張試験を行いキンクバンドが PBO 繊維の引張強度に対して欠陥として作用することを突き止めている。これ以降、キンクバンドをキン ク損傷と記述する。また、キンク損傷の生じた PBO 繊維の引張強度の下限界値を明らかにするとともに キンク損傷の形状と引張強度の関係についても検討を行い、工業材料として必要な PBO 繊維の設計強度 を得ている。 第 4 章ではキンク損傷密度の異なる PBO 繊維の引張強度に対してワイブル解析を行い、キンク損傷を 有する PBO 繊維の引張強度は、キンク場損傷を欠陥とした場合、有効体積の概念で説明できることを明 らかにしている。この結果はキンク損傷密度が増加してもキンク損傷部分の強度に変化は無く、引張強度 はキンク損傷の数に支配されることを示しており、設計上極めて有益な知見を得ている。 第 5 章ではキンク損傷と紫外線照射による複合損傷が PBO 繊維の引張強度に与える影響について評価 している。ここではキンク損傷密度が高くなるほど紫外線照射による強度低下が大きく、紫外線照射の影 響を受けやすいことを示している。また、窒素雰囲気中で紫外線を照射した繊維では引張強度の低下率が 紫外線未照射のものと変わらず、 紫外線による強度低下には酸素が影響していることを明らかにしている。 さらにキンク損傷を有するPBO繊維が紫外線照射を受けた場合、 キンク損傷部分が優先的に自動酸化し、 切欠き効果により引張強度は紫外線未照射の場合より大きく低下することを明らかにしている。 第 6 章では第 5 章までを総括し結論を述べるとともに今後の展望を述べている。 以上、本論文は、研究の方法論・研究手法、得られた結果とその解釈が適切であり、的確な文章表現が 与えられている。その研究の手法・結果には独創性が認められ、その成果は機械工学の設計分野における 工学的な価値が認められ、工業の発展に貢献できると評価される。本論文に関連する発表論文は2編であ.
(5) る。 平成 27 年 7 月 29 日に博士論文の審査及び最終試験を行った結果、申請者は学術研究にふさわしい討 論が出来ていることから、博士(工学)の学位を受けるに十分な学識と能力を有するものと判定し、学位 論文として合格であると認められた。.
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