非小細胞肺癌pN2長期生存症例の検討
山梨医科大学第2外科 高橋渉 奥脇英人 喜納五月 鈴木章司
保坂茂 吉井新平 多田祐輔 要旨:教室におけるpN2非小細胞肺癌症例53例について検討した。 pN2非小細 胞肺癌の予後は不良で、一般に30%以下の5年生存率であるが、教室では、 3生率46%・5生率34%と比較的良好な結果が得られた。3年以上生存した 24症例を長期生存群とし、3年以内死亡29症例を非生存群として両群間で 背景因子・進展様式・進展度等の10項目各々で比較すると差がなかったが、 任意の組み合わせによる有意差検定では、右上葉発生の扁平上皮癌でかつ pT因子の低い症例が、有意に予後良好であった(p〈0.05)。 pN2症例には、 cNo 28例53%・cN16例11%を含み、 N2に関する術前 cr検査での陽性正診率は36%と決して満足できるものではなかったが、 系統的縦隔郭清を伴う根治的肺癌手術術式をおこなってきたことが、 術後成績の向上に寄与したものと推察された。 Key words:非小細胞肺癌、長期生存、生存率、予後、系統的縦隔郭清 胸部(汀診断 はじめに リンパ節転移は、肺癌の重要な予後因子とされ、 縦隔リンパ節転移を有する非小細胞肺癌の予後は 不良である。Cahanらi)が系統的縦隔郭清を伴う 根治的肺癌手術術式を発表して以来、組織学的 N2(pN2)症例の術後成績として多数の報告があ る2)∼5)が、いずれも30%以下の5年生存率しか得ら れていない。 一方、胸部㏄検査は、肺癌のN因子診断に不 可欠で、広く用いられているものの、縦隔リンパ 節の診断においては、未だ満足できるものではな く、sensitiVityは49∼55%6)にすぎないが、他に 有力な手段に乏しく、(rr検査に頼らざるを得な いのが現状である。 こうした縦隔のN因子診断が不確実な中で、手 術治療を施行し得たpN2症例を追跡してみると、 全体の予後は不良だが、生存期間は多彩であり、 背景因子によって予後が大きく左右されることが 報告されている7卜ω。 当院で、pN2と診断された非小細胞肺癌を対象 に、術前CT検査結果をre trospe ctiveに検討する 対象と方法 1983年10月の開院以来1997年5月までに当院 でpN2と診断された非小細胞肺癌53例を対象とし た。 対象症例の内訳は、男性32例、女性21例、平 均年齢65歳(48∼78歳、男性平均64.2・女性平均 66.3)であった。組織型は、扁平上皮癌18例、 腺癌34例、大細胞癌1例で、発生部位別では、 右上葉12例、右中葉1例、右下葉13例、左上葉 21例、左下葉6例であった。根治度別には、相対 的治癒切除45例、相対的非治癒切除5例、絶対 的非治癒切除3例であった。術後化学療法は全例 に行われ、手術死亡および入院死亡例はなかった。 以上のpN2症例のうち、3年以上生存を長期生 存例(生存例群)とし、3年以内死亡例(非生存 例群)と、術前の㏄検査による縦隔リンパ節転 移の判定をretrospectiveに調べ、その正診率を 比較検討する。さらに両群で、組織型・T因子・ 転移リンパ節レベルとその形態・p因子・根治性 評価の10項目について比較検討する。 生存率の算定にはKaplan−Meier法を、各因子平成10年4月1日
組み合わせによる有意差検定と多変量解析も併用 した。 結 果 1.背景因子 長期生存例(生存例群)と3年以内死亡例 (非生存例群)における背景因子として、年齢 性別・組織型・発生葉につきTable 1に示した。 Table 1:生存例・非生存例における背景 因子年齢
性別
組織型
発生葉
{me8nl (男:女) U 5 生存例 m;24 48−78 o64.6116:8
Sq.`d.14
k. 91 ・・(Ml L 5 E・(:11 U 7 非生存例 m=29 51−76 o66.0) 17:12Sq.10
`d.19
・ばM・ L 8 ・・(:: Sq:扁平上皮癌 Ad:腺癌 L:大細胞癌 2.pT因子、 pN2正診率、リンパ節転移形式 生存例群および非生存例群におけるpT因子・ pN2正診率・リンパ節(N)転移形式をTable 2に 示した。当院では、cN因子に対し、(丁写真上 の大きさ・形状に、2°iT1シンチグラムの集積を 加味し内科・放射線科・外科で合議のうえ決定 している。生存例では、正診率が29%と非生存 例の41%に比しかなり低く、過小評価したこと となる。手術時の郭清操作の際得た所見でも、 転移を疑えず、retrospectiveに㏄写真を検討 しても、この正診率をぬりかえるものは見いだ せなかった。非生存例の正診率が向上するのは、 bulkyN2の割合が増加したことによる。 (参考:正診率=cN2かつpN2の割合) skip転移とは、一般に肺内・肺門リンパ節を 飛び越し、縦隔リンパ節に転移を来すものとさ れるが、最近では1群リンパ節に加え#7までを 飛び越したものをskip転移と定義する12}傾向に あるが・今回の我々の検討では、従来の方法に 従い群単位で比較し・各station毎の転移状況 や転移個数は検討に加えなかった。 Table 2:両群におけるpT因子・pN2正診 率・リンパ節(N)転移形式PT因子
pN2正診率
N転移形式 T1 12cNO
15例 生存例T2
8cM
2例 連続 11例 N=24T3
4cN2
7例 sklp 13例 正診率 29% 刊 6cNO
13例 非生存例T2
16cN1
4例 連統 19例 N=29T3
5cN2
12例 skip 10例T4
2 正診率 4196 背景およびTable 2に示す因子の、任意の組 み合わせによる有意差検定では、右上葉発生の 扁平上皮癌で、かつpT因子の低い組み合わせ の症例が、有意に予後良好であった(p<0.05)。 3.術後病理病期、p因子、根治度 生存例群および非生存群における術後病期 分類(p−Stage)・胸膜因子(p因子)・根治度につ いてTab】e 3に示した。絶対的非治癒切除症例 の長期生存例は1例もなく、相対的治癒切除症 例と相対的非治癒切除症例の組み合わせが、絶 対的非治癒切除症例より予後良好であった(p< 0.05)。非生存例pStage III Bの2例は、いずれも T4症例であった。生存例に比し、非生存例に pO症例が多いのは、中心型肺癌が多いことに起 因する。脈管・リンパ管侵襲については、不明 例が多かったため、検討から除外した。 一11一Table 3:両群におけるp−Stage・p因子・ および根治度
P−Stage
P因子
根治度
PO
7例 相対治癒 21例 生存例 m=24田A24例
Pl o2 o3 9例 T例 R例相対非治癒3例
竭ホ非治癒 0
非生存例 m・29皿A27例
MB 2例
PO ol o2 o3 13例 V例 Q例 V例 相対治癒 24例椛ホ非治癒2例
竭ホ非治癒3例
4.生存率 以上の検討と追跡調査から、3年生存率 45.3%・5年生存率33.9%が得られた。 我々が経過観察をしている症例で、集学的治 療が奏効したかと思われる興味ある症例を提示 する。 症 例症例:61歳、男性
診断:左肺癌Bl†2b低分化腺癌
cTIN2MO Stage皿A(Fig.1および2) 治療経過:1987.6 左肺全摘除 R2a郭清 pTIN2Mo Stage皿A p2 相対的治癒切除 術後MMC+VDS lコース 1988.3 右顎下部に腫瘤自覚 1989.6顎下・頚部腫瘤摘除し 再発の確定診断とTIL採取 8 CPA一しAK−IL22コー一ス 10 VIP 1コF−一ス 11 LAK−IL21コース 以後外来にてOK−・432投与 1997.12現在 術後10年6か月 非担癌生存中 Fig.LChest X−ray film in l987 showing amass lesion on the left hilus. Fig.2.Chest CT shoWing a mass near the left main pulmonary artery and #5,#6 lymph nOdes swelling. 本例では、左肺全摘除術後2年に、顎下・頚部 での再発を認め、摘出術を施行した。その際採取平成10年4月1日
したリンパ球より誘導した免疫療法(LAK−IL2)や、 化学療法等により、術後10年6か月の現在、再発 徴候なく健在である。一般に非小細胞肺癌の再発 例は治療抵抗性で、長期生存を望むべくもなく、 本症例は非常に稀な症例であると心得たい。 考 察 肺癌の診療において、胸部㏄検査は必要不可 欠で、広く用いられているが、縦隔リンパ節の診 断においては、未だ満足できるものではなく、 sensitiVityは49∼55%6)にすぎず、今回の検討で は、手術時の郭清操作の際得た所見と病理組織学 的検査所見から、retrospectiveにCr写真を検討 しても、この正診率をぬりかえるものは見い出せ なかった。最近では、リンパ節レベル別のsize、 転移レベル数、腫大リンパ節の分布状況なども考 慮した判定基準も設けられつつある13)が、まだ一 定のコンセンサスは得られていない。特に慎重で あるべきは、(丁検査のみでN因子を決定し、cN2 症例を手術対象からはずすことである。㏄検査 でfalse positiveは、本来手術の対象となるべき患 者から手術治療を奪うことになり、極力回避しな ければならない。 当院で得られた㎝検査の正診率は36%で、言 い換えれば、残る64%の症例には、術前転移が予 想されないリンパ節に対しても、確実な系統的郭 清を行い、術後組織学的に陽性が判明して改めて 系統的リンパ節郭清の有用性に気付かされたこと になる。 pN2症例全体の予後は不良だが、生存期間は多 彩であり、背景因子によって予後の大きく左右さ れることが報告されており7)一’11)、各施設とも生存 率の向上を狙い、術前診断をより正確化する侵襲 的な縦隔鏡検査や、手術前後の化学療法を中心と した集学的治療の導入などが行われているが、前 者は術中直視下でも判明しない転移陽性リンパ節 が、縦隔鏡や胸腔鏡などの鏡視下で把握しきれるのか、後者にはinduction・a(加vant
chemotherapyいずれも生存率向上に本当に寄与 し得るのか疑問もある。さらには手術法にも様々 なtria1が行われるなど、まさに混沌としている。 今回の当院でのpN2症例全体数は少ないが、生 存率はこれまでの報告に比し良好であり、診断・ 治療方針決定・治療・経過観察も含め、今後も同 様の姿勢で治療に取り組んでいきたいと考える。 まとめ 当院における非小細胞肺癌pN2長期生存症例に ついて検討した。 1)pN2症例の3年生存率46%・5年生存率34%で、 系統的縦隔郭清を伴う根治的肺癌手術術式を採っ てきたことが比較的良好な結果に寄与したものと 思われた。 2)3年以上生存した24症例を長期生存群とすると、 転移リンパ節レベル・p因子では差がなかったが、 右上葉発生の扁平上皮癌でpT因子の低い症例が、 有意に予後良好であった(p〈0.05)。 一13一文 献 1)Cahan WG, Watson WL, Pool JL:Radical pneumonectomy. J Thorac Surg,22:449− 473,1951. 2)Ralnsey HE, Cahan WG, Beatie EJ, et a1. :The importance of radical lobectomy in lung cancer. J Thorac Cardiovasc Surg, 58:225−230,1969. 3)Naruke T, Suernasu K, Ishikawa S: Lymphnode mapping and curability at various levels of lnetastasis in resected lung cancer. J Thorac Cardiovasc Surg, 76:832−839,1978. 4)Watanabe Y, ShiInizu J, Oda M, et al.: Agressive surgical intervention in N2 non−small cell lung cancer of the lung. Ann Thorac Surg,51:253−261,1991. 5)Martini N, Kris Mg, Flehinger BJ, et al.: Preoperative chemotherapy for stage皿a (N2)lung cancer:The Sban Kettering experience with 136 patients. Ann Thorac Surg 55:1361−1364,1993. 6)森 雅樹,森 裕二,山岸雅彦,他:CTによ る肺癌の縦隔リンパ節腫大・転移の診断.肺 癌28:457−464,1988. 7)Martini N, Flehinger BJ, Zaman MB, et al:Results of resection i n non−small cell carcinoma of the with mediastinal lymph node matastases. Arln Surg 198:386−397, 1983. 8)沖津 宏,高橋英介,田口雅彦,他:pN2肺非 小細胞肺癌相対的治癒切除例の遠隔成績.日 呼外会誌4:444−453,1990. 9)栗原泰之,中島康雄,新美 浩,他:Stage皿 症例の縦隔リンパ節の㏄像と予後.肺癌31: 215−219,1991. 10)Martini N, Flehinger BJ:The Role of Surgery in N2 Lung Cancer. Surgical Clinics of North America 67:1037−1049, 1987. 11)飯岡壮吾,早乙女一男,三瓶善康,他:pN2 非小細胞肺癌の手術成績一縦隔リンパ節部位 転移頻度と予後一.肺癌27:1−10,1987. 12)坪田紀明,吉村雅裕,室谷陽裕,他:原発性 肺癌におけるリンパ節の転移様式一合理的な 縦隔郭清一.日呼外会誌9:122−128,1995. 13)松原敏樹,木下 厳,中川 健,他:大きさ からみた肺癌上縦隔リンパ節転移の㏄診断一 特に適切な診断の閾値について一.肺癌26: 769−777,1988.