理科の知識を活用できる教員の養成
著者
長友 大幸
雑誌名
埼玉学園大学紀要. 人間学部篇
巻
20
ページ
215-224
発行年
2020-12-01
URL
http://id.nii.ac.jp/1354/00001337/
える。 本研究では、教員志望の学生に求められる 資質能力として、教科間の境界領域に係わる 実践的指導力の育成に着目し、理科の知識が 正しく他教科に活用されるための条件や問題 点を探り、理科の知識を他教科の指導に活用 できる教員養成のあり方を探るための基礎資 料を得ることを目的とした。 2.研究方法 本研究では、既往の研究6)の調査手法及び 成果の上に、新たな手法及び知見を加えて再 解析を試みることとした。調査手法は以下に 示すとおりである。 (1)教科および学習内容の選定 本研究では既往の研究6)での調査方法に従 い、理科の知識が求められる他教科の学習と して、国語の俳句の学習で取り上げる与謝蕪 村の「菜の花や 月は東に 日は西に」を事 例として選定した。本俳句は、教育出版や光 村図書の小学校3年生の教科書7、8)に掲載さ れている。俳句の授業の導入時に用いられる ことが多く、比較的児童が取り組みやすい平 易な作品と言える。その内容は、一面に広が 1.はじめに 教科間の境界領域を取り上げた既往研究と して、小川・佐藤(2015)は、国語の知識・ 技能を活用し、他教科のつながりを意識した 授業づくりをする上での要点を述べている1)。 また、藤岡・中村(2010)は、理科における 数学の活用方法を検証している2)。さらに、 岡田(2010)は、「ペーパーブーメラン」作り について、理科教材の開発と技術や図工、社 会といった他教科との関わりについて論じて いる3)。これらの既往研究ように、教科間の 関わりについて様々な視点から研究がなされ てきている。 平成20年告示の小学校学習指導要領では、 理科の目標に記された「実感を伴った理解」 の1つとして、理科の知識が日常生活の中で 役立っていることを児童に実感させることが 示されている4)。また、現行小学校学習指導 要領5)では、「生きてはたらく知識・技能」の 重要性が示されており、学習したことが日常 生活の中で使えることを児童に示していく上 で、教師が日常生活での経験や他教科の学習 と理科の知識との関わりを理解し、それを児 童に対して示していくことが重要であると考 キーワード : 学際的研究、知識の活用、教員養成
Key words : interdisciplinary study, utilize knowledge, training of teachers
A Study on the Training of Teachers who can Utilize Knowledge of Science
長 友 大 幸
NAGATOMO, Hiroyuki(3)調査内容 本研究では、既往の研究6)での研究手法と 同様に、アンケート調査、知識調査、描画調 査により行った。B大学での調査は平成24年 7月上旬から下旬に6)、C大学での調査は平 成25年5月上旬から6月上旬に、それぞれ10 分程度の時間をとって実施した。以下に各調 査の概要を示す。 1)アンケート調査 理科全般に対する意識、月・太陽・地球の 位置関係を取り扱う「宇宙」に係わる単元に 対する意識および知識の活用に対する意識等 をアンケートにより調査した。 2)知識調査 月・太陽・地球の位置関係と月の満ち欠け (形)等に関する知識を明らかにするため、 図1に示した既往研究6)で用いた4題のテス ト問題9)を作成し、解答させた。 る菜の花が、西に沈んでいく夕日と、東の空 から登ってくる満月の双方から光を浴びて光 り輝いている趣き深い様子を歌ったものである。 本作品において必要な理科の知識は、月・ 太陽・地球の位置関係と月の満ち欠け(形) との関係である。「月は東に 日は西に」を 月の満ち欠けで考えた場合、先述のように月 は満月である。この知識を学生が身につけて いるかを調べるとともに、国語の授業場面に おける知識の活用の可能性を探った。 (2)調査対象学生の選定 小学校教員を目指す大学生の理科に対する 意識や知識、他教科への活用力等を把握する。 そこで、既往の研究6)で取り上げた小学校教 員を目指して教職科目「小学校理科」(科目 名は仮名)を受講するB大学の小学校課程履 修学生3年生30名(非理科教育系)に加え、 将来中学校の理科教員を目指すC大学理科専 修の3年生13名を対象として比較することと した。 図1 知識調査用問題
3)描画調査 理科の知識とて、月・太陽・地球の位置関 係と月の満ち欠け(形)についての知識が意 識的に他教科に活用されているかを調べるた め、「菜の花や 月は東に 日は西に」のイ メージ画を紙面上に描かせた。 3.結果および考察 (1)アンケート調査 1)理科全般に対する意識 既往の研究10)では、小学校において担任と して理科を教える教師の理科に対する技能及 び知識不足等の対策の重要性を指摘した。こ の傾向が小学校教師を目指す大学生及び中学 校の理科教師を目指す大学生においても見ら れるかを探り、比較することとした。そこで、 本研究ではまず「理科が好き」、「実験観察が 好き」、「理科は得意」との問いに対して、「思 う」、「やや思う」、「あまり思わない」、「思わな い」の4段階で答えさせた。そして、「思う」、 「やや思う」を合わせて「思う」とし、「あま り思わない」、「思わない」を合わせて「思わ ない」として、それぞれの属性の差異による 値をフィッシャーの正確確率検定(Fisher’s exact test)によりその有意性を見た(表1)。 ①理科に対する好感度 B大学小学校課程の学生(以降、小学校課 程)では、「理科が好き」と「思う」12名 (41.4%)、「やや思う」13名(44.8%)で、合 わせて25名(83.3%)の学生が理科を好きな 教科としていた。一方、C大学理科専修の学 生(以降、理科専修)は、「理科が好き」だと 「 思 う 」11名(84.6 %)、「 や や 思 う 」 2 名 (15.4%)で、合わせて13名(100%)の学生 が理科を好きだと考えていることがわかった。 このことから、理科が好きだと「思う」学生 の割合は僅かに理科専修の方が多いものの有 意な差は見られず(表1)、概ね多くの学生 が理科に対して好意的な考えを持っていた。 ②実験観察に対する好感度 「実験観察が好き」については、小学校課 程では「思う」16名(53.4%)、「やや思う」 13名(43.3 %) で、 合 わ せ て29名(96.7 %) となり、実験観察が好きという学生が多かっ た。一方、理科専修では「思う」11名(84.6%)、 「やや思う」2名(15.4%)で、教科として の理科が好きだと「思う」学生と同様に合わ せて13名(100%)が実験観察を好きだと考 えていた。このことから、実験観察が好きだ と「思う」学生の割合は、理科が好きだと「思 う」学生と同様に僅かに理科専修の方が多い ものの有意な差は見られず、大部分の学生が 実験観察に対して好意的であることがわかっ た。したがって、教科として「理科が好き」 であり、さらに「実験観察が好き」であるこ とから、調査対象校におけるいずれの大学生 にも、近年耳にする「理科嫌い」を感じるこ とができなかった。 表1 理科全般に対する意識 質問項目 回答者属性 思う回答数(%)思わない 有意差検定d 理科好き 小学校課程 (n=30) 25(83.3) 5(16.7) -理科専修 (n=13) 13(100.0) 0(0.0) 実験観察好き 小学校課程 (n=30) 29(96.7) 1(3.3) -理科専修 (n=13) 13(100.0) 0(0.0) 理科得意 小学校課程 (n=30) 15(50.0) 15(50.0) * 理科専修 (n=13) 12(92.3) 1(7.7)
d:属性の差異による Fisher’s exact test の結果 **:p<.01 *:p<.05 -:有意差なし
いくことが重要と考えられる。 (2)「宇宙」に係わる単元に対する意識 理科の単元の中で月や太陽などを扱う「宇 宙」に関する単元について「宇宙は好きな単 元だ」、「宇宙は得意な単元だ」、「月の満ち欠け を理解している」との問いに対して、「思う」、 「やや思う」、「あまり思わない」、「思わない」 の4段階で答えさせた。そして、理科全般の 意識と同様に、「思う」、「思わない」として、 それぞれの属性の差異による値をフィッ シャーの正確確率検定(Fisher’s exact test) によりその有意性を見た(表2)。 ①宇宙の単元に対する好感度 小学校課程では「宇宙は好きな単元だ」に ついては、「思う」4名(13.3%)、「やや思う」 14名(46.7%)で、合わせて60%の学生が好 きな単元としていたが、「理科が好きだ」との 回答では約83%が「思う」との回答であった ことに比べると、その割合は低かった。一方、 理科専修は、「宇宙は好きな単元だ」と「思う」 6名(46.2%)、「やや思う」4名(30.8%)で、 合わせて10名(76.9%)の学生が宇宙の単元 を好きだと考えていることがわかった。しか し、小学校課程と理科専修との間に有意な差 は認められず、概ね全体的には宇宙の単元に 好意的な考えを持つ学生が多いと考えられる。 ②宇宙の単元の得意・不得意 「宇宙は得意な単元だ」については、小学 校課程では「「思う」2名(6.9%)、「やや思う」 2名(6.9%)で、合わせても14%未満であ り,80%以上の学生が苦手意識を持っている ことがわかった。一方、理科専修は、「思う」 0名で、「やや思う」4名(30.8%)であり、 ③理科の得意・不得意 「理科は得意」との問いに対する回答を見 ると、小学校課程では「思う」2名(6.7%)、「や や思う」13名(44.3%)であり、合わせて15 名(50.0%)と、「得意」という学生は「好き」 と答えた学生に比べ少なかった。一方、理科 専修では「思う」5名(38.5%)、「やや思う」 7名(53.8%)で、合わせて12名(92.3%) が理科は得意だと考えており、小学校課程と の間に有意な差が見られた(表1)。このこ とから、理科は得意だと「思う」学生の割合 は理科を大学で専門としている理科専修の方 が高くなっていることがわかった。 以上のことから、教科としての理科、実験 観察などの実技に対して多くの学生は「理科 嫌い」とはなっておらず、好意的であること がわかった。しかし、理科専修に対して小学 校課程では理科を得意とする学生は著しく少 ない。これは知識を身につけるために必要な 覚え込み、暗記等が敬遠されたためであり、 その結果として知識不足から学習内容が理解 できずに苦手となっているものと考えられる。 したがって、将来教師を目指す学生が知識を 身につける上で興味関心を失わない方策を学 校現場及び教員養成の場においても検討して 表2 「宇宙」に係わる単元に対する意識 質問項目 回答者属性 思う回答数(%)思わない 有意差検定d 宇宙は好きな 単元 小学校課程 (n=30) 18(60.0) 12(40.0) -理科専修 (n=13) 10(76.9) 3(23.1) 宇宙は得意単 元 小学校課程 (n=30) 4(13.3) 26(86.7) -理科専修 (n=13) 4(30.8) 9(69.2) 満ち欠け位置 関係を理解 小学校課程 (n=30) 8(26.7) 22(73.3) -理科専修 (n=13) 6(46.2) 7(53.8)
d:属性の差異による Fisher’s exact test の結果 **:p<.01 *:p<.05 -:有意差なし
学校課程及び理科専修ともに不足しているこ とが推察される。理科の知識を活かすために は知識を最低限身につけておく必要がある。 学校教育の場面に加え、教員養成の場におい ても知識を再確認して向上させていく方策の 検討が求められる。 (3)知識の活用に対する意識 「日常生活や社会に役立つ」、「他教科の学習 に役立つ」との問いに対して、「思う」、「やや 思う」、「あまり思わない」、「思わない」の4段 階で答えさせた(表3)。そして「思う」、「や や思う」を合わせて「思う」とし、「あまり思 わない」、「思わない」を合わせて「思わない」 として、前述同様にフィッシャーの正確確率 検定(Fisher’s exact test)によりその有意性 を見た。 ①日常生活や社会に役立つ 「日常生活や社会に役立つ」については、 小学校課程の学生は「思う」14名(46.7%)、「や や思う」12名(40.0%)で、合わせて86.7% の学生が役立つと考えていた。一方、理科専 修の学生は「思う」7名(53.8%)、「やや思う」 6名(46.2%)で、合わせて100%であったが、 小学校課程の学生との間に有意な差は見られ なかった。このことから、全体的に多くの学 生は理科の学習は将来的に役に立つと考えて いることがわかった。昨今、メディアで理科 の実験やそれに係わる生活上の知識が取り上 げられているのを目にすることがよくある。 また、平成20年小学校学習指導要領において 「実感を伴った理解」の重要性が示されてい るが、そうした部分を調査対象の学生はそれ ぞれの教職課程において学んできているため に、日常生活や社会に役立つという意識が高 4名(30.8%)の学生が宇宙の単元を得意と 考えているものの、理科専修の約70%の学生 は苦手意識を持っていた。小学校課程と理科 専修との間で、好感度に引き続いてここでも 有意な差は見られなかったことから、宇宙の 単元に対して好きな単元ではあっても苦手意 識を持つ学生が多いものと推察される。 ③月の満ち欠けの理解 具体的な学習内容について「月の満ち欠け を理解している」との問いに対する回答を見 た。その結果、小学校課程では「思う」1名 (3.3%)、「やや思う」7名(23.3%)であり、 理解している学生は僅か26.6%であった。一 方、理科専修では「思う」2名(15.4%)、「や や思う」4名(30.8%)であり、合わせて6 名(45.4%)が月の満ち欠けを理解している と考えていたが、小学校課程との間に有意な 差は認められなかった。全体的に宇宙の単元 に対して苦手意識を持っており、実際の学習 内容に対する理解も不十分であることがうか がえた。理科専修の学生の半数以上が月の満 ち欠けを理解できていないと回答しているこ とからも、学習内容や学習時期など、本単元 の学習のあり方を改善する必要があると推察 される。 以上のことから、本単元における知識が小 表3 知識の活用に対する意識 質問項目 回答者属性 思う回答数(%)思わない 有意差検定d 他教科に役立 つ 小学校課程 (n=30) 19(63.3) 11(36.7) -理科専修 (n=13) 10(76.9) 3(23.1) 日常生活や社 会に役立つ 小学校課程 (n=30) 26(86.7) 4(13.3) -理科専修 (n=13) 13(100.0) 0(0.0)
d:属性の差異による Fisher’s exact test の結果 **:p<.01 *:p<.05 -:有意差なし
の形との関係13名(43.3%)、月・太陽・地 球の位置関係に関する問題11名(36.7%)と 正答率50%に満たなかった。また、下弦の月 を正しい名称で答えることができたのが16名 (53.3%)であり、約半数の学生が下弦の月 と上弦の月とを区別できない結果となった。 さらに、金環日食(日食)が起こる場合の月 を満月と答えた割合が70%を超え、正確に新 月と答えることができた学生は7名(23.3%) にすぎなかった。一方、理科専修では、方角 と見える月の形との関係9名(69.2%)、月・ 太陽・地球の位置関係に関する問題9名 (69.2%)と、小学校課程との間に有意さは 見られなかったが正答率70%弱あった。また、 下弦の月を正しい名称で答えることができた のは7名(53.3%)であり、小学校課程同様 に約半数の学生が下弦の月と上弦の月とを区 別することができなかった。しかし、金環日 食(日食)が起こる場合の月については11名 (84.6%)が正確に新月と答え、小学校課程 との間に有意な差が見られた。 以上のことから、理科専修の学生の方が小 学校課程の学生に比べて理科が得意で、宇宙 まっているものと思われる。 ②他教科の学習に役立つ 「他教科の学習に役立つ」については、小 学校課程で「思う」5名(16.7%)、「やや思う」 14名(46.7%)であり、合わせて63.4%の学 生が、理科の知識が他教科の学習に役立つと 考えていた。一方、理科専修では、「思う」2 名(15.4%)、「やや思う」8名(61.5%)であ り、合わせて76.9%と多くの学生が役立つと 考えていたが、小学校課程との間に有意な差 は見られなかった。したがって、多くの学生 が理科の知識が様々な場面で役立つという認 識は持っているものと思われる。しかし、日 常生活で役立つと「思う」との回答に比べ、 他教科の学習に役立つと「思う」との回答は 少なくなっている。このことは、理科の学習 の中で「実感を伴った理解」という面から、 学習内容を日常生活に結び付けて児童生徒に 指導していくことを大学での教員養成の場面 で学んでいるのに対し、他教科の学習への係 わりについては、触れる機会が少なく、他教 科と結び付けて理科の学習内容を捉えている 学生が少ないためと推察される。 2)知識調査 「見える方角と月の形」、「月・太陽・地球の 位置関係」、「月の名称」および「金環日食の 際の月」についての設問に対して、10分程度 の時間を設けて回答させた。そして、「月の満 ち欠け」に係わる学生の知識を把握し、小学 校課程と理科専修の間で、各問に対する正答 者数を比較し、それぞれの属性の差異による 値をフィッシャーの正確確率検定(Fisher’s exact test)により有意性を調べた(表4)。 その結果、小学校課程では、方角と見える月 表4 知識調査の結果 質問項目 回答者属性 思う回答数(%)思わない 有意差検定d 方角と見える 月 小学校課程 (n=30) 13(43.3) 17(56.7) -理科専修 (n=13) 9(69.2) 4(30.8) 太陽・月・地 球の位置関係 小学校課程 (n=30) 11(36.7) 19(63.3) -理科専修 (n=13) 9(69.2) 4(30.8) 下弦の月 小学校課程 (n=30) 16(53.3) 14(46.7) -理科専修 (n=13) 7(53.8) 6(46.2) 金環日食の際 の月 小学校課程 (n=30) 7(23.3) 23(76.7) ** 理科専修 (n=13) 11(84.6) 2(15.4)
d:属性の差異による Fisher’s exact test の結果 **:p<.01 *:p<.05 -:有意差なし
の単元(月の満ち欠け)の知識が身について いるものと思われる。しかし、全体的な学生 の知識不足が見られ、前述した学生の本単元 に対する苦手意識を裏付けており、確かな知 識が身についていないために苦手意識につな がっていると考えられる。 3)描画調査 (1)絵の構成について 筆者らは、与謝蕪村の句、「菜の花や 月は 東に 日は西に」を題材とした授業を参観し た際、授業者がイメージ画を板書するにあた り、満月ではなく三日月を描いてしまう場面 を目にしたことがある。そこで、調査対象の 学生に対して、この俳句の内容をイメージす る絵を描かせてみた。描かせた絵の評価ポイ ントとして、「月の形」と「菜の花の数」に着 目し、俳句の内容について正しく理科の知識 を用いて描かれているのかを見た(表5)。 ①菜の花の数 菜の花の数については小学校課程で21名 (70.0%)の学生に正答が見られ、本俳句で 出てくる菜の花が畑一面に広がっている様子 を多くの学生は理解できていることが窺えた。 一方、理科専修の学生は5名(38.5%)であり、 小学校課程との間に有意差は見られなかった ものの、その数は少なく感じた。このことは、 理科専修が理科に特化した学習を行っている のに対し、小学校課程ではこの俳句を含めて 国語の学習に触れる機会が多いためと推察さ れる。 ②月の形 月の形を正しく描くことができているのは 小学校課程で4名(13.3%)であり、26名 (86.7%)の学生が誤った描き方をしていた。 これは、月の満ち欠けを理解していると答え た割合よりも低くなっており、知識の欠如に 加え、理科の知識が他教科の指導場面におい て活用すべきであることを意識できていない 結果が表れたものと考えられる。一方、理科 専修では6名(46.2%)が正しく書くことが できており、小学校課程との間に有意な差が 見られた。このことから、理科の知識を他教 科への活用できるかは、知識がいかに身につ いているかが重要であると推察される。しか し、本研究においては、理科専修でも誤答が 7名(53.8%)あり、正しく書くことができ た学生よりも多い。松森・一瀬(2015)では、 月の見かけの位置と観測時刻に関する認識に ついて科学的に認識できていた小学校教員志 望学生は、 満月において約5%であり、 他の 形においては皆無であったと指摘している。 知識不足から来る認識の欠如であり、活用で きるための確かな知識を教員養成の場におい て身につけることができるよう工夫をしてい く必要があると考えられる。なお、既往の研 究6)でも指摘しているように、「月の形」に着 目して描かれた絵を見ると、「月の形が正しい もの」(図26))、「月の形が欠けており、誤っ ているもの」(図36))、 「月の形が欠けてお り、太陽に対して欠けている向きも誤ってい 表5 描画調査における絵の構成 質問項目 回答者属性 思う回答数(%)思わない 有意差検定d 月の形 小学校課程 (n=30) 4(13.3) 26(86.7) * 理科専修 (n=13) 6(46.2) 7(53.8) 菜の花の数 小学校課程 (n=30) 21(70.0) 9(30.0) -理科専修 (n=13) 5(38.5) 8(61.5)
d:属性の差異による Fisher’s exact test の結果 **:p<.01 *:p<.05 -:有意差なし
るもの」(図46))を代表例として示すこと ができる。誤った絵を描いた学生の多くがこ のうち図4の描き方をしていた。 小川・佐藤(2015)によれば、国語の知識・ 技能の他教科への活用を促す場合、学習者自 身が知識・技能を自覚的に習得・活用してい くことが重要であり、国語科で身に付けた知 識・技能を他教科に活用する場合、一段高次 図2 学生が描いた絵(月の形が正しいもの) 図3 学生が描いた絵(月の形が誤っているもの) 図4 学生が描いた絵(月の形と向きが誤っているもの)
な学習課題を設定することで、その習得と活 用が図れることを指摘している1)。したがっ て、こうしたことを考慮に入れながら、正し い知識を教師となる学生に身につけさせると ともに、単に問題を解く際に正答するための 知識ではなく、他の場面で活用できる、「生き て働く知識」となるよう意識づけをしていく ことが重要であると思われる。 (2)理科の知識の活用 「俳句の内容を描画する際に月の満ち欠け を考えた」との問いに対して、「思う」、「やや 思う」、「あまり思わない」、「思わない」の4段 階で答えさせた。そして「思う」、「やや思う」 を合わせて「思う」とし、「あまり思わない」、 「思わない」を合わせて「思わない」として、 前 述 同 様 に フィ ッシャ ーの 正 確 確 率 検 定 (Fisher’s exact test)によりその有意性を見 た(表6)。その結果、小学校課程では「思う」 2名(6.7%)、「やや思う」2名(6.7%)であ り、実際に満ち欠けを考えて描いたという学 生は4名(13.3%)にすぎなかった。一方、 理科専修では「思う」5名(38.5%)、「少し 思う」3名(23.1%)で、合わせて8名(61.5%) が実際に満ち欠けを考えており、小学校課程 との間に有意な差が見られた。このことから、 他教科の指導場面で理科の知識の活用を考え るには、確かな理科の知識を身につけている ことが重要であると推察される。したがって、 将来、教育現場での多くの指導場面で教科を 横断的に捉えて考えることができる理科の確 かな力を育成していくことが重要であると考 えられる。そのためにも、大学等の教員養成 の場で学生が学んだ知識を定着できるような 教材の開発、興味関心を持って学習に取り組 むことができるような指導方法の工夫等が必 要であると考えられる。 Ⅴ おわりに 本研究では、理科の知識を活用できる教員 養成のあり方を探るために、小学校での理科 の時間以外に理科の知識が求められる国語の 俳句を題材とした指導場面を取り上げた。そ して、小学校課程の学生と中学校理科専修の 学生への比較調査を通じて、将来、教師を目 指す学生が理科の知識をツールとして授業を 行う上での現状と問題点を示し、今後の指導 のあり方を探った。そして、調査結果から、 成果として次のことが見出された。 まず、「理科離れ」、「理科嫌い」という言葉 を耳にすることがよくあるが、小学校教師を 目指す小学校課程の学生や理科専修の学生と もに、多くの学生が理科を好きだと考えてお り、「理科離れ」、「理科嫌い」をいずれの学生 からも感じることはできなかった。また、実 験や観察を行うことについても学生の大部分 が好んでいた。しかし、得意だと感じている 学生は理科専修の学生と小学校課程の学生と で差が見られ、小学校課程では半数にとど まっていた。このことからも、「理科離れ」と いう考えは、知識を身につけるための覚え込 み、暗記等が敬遠された結果、知識不足とな り学習内容が理解できずに、教科としての理 科が苦手になったことから生じていると考え られた。したがって、学生に対して理科に興 表6 描画調査における絵の構成 質問項目 回答者属性 思う回答数(%)思わない 有意差検定d 俳句で満ち欠 けを考えた 小学校課程 (n=30) 4(13.3) 26(86.7) ** 理科専修 (n=13) 8(61.5) 5(38.5)
d:属性の差異による Fisher’s exact test の結果 **:p<.01 *:p<.05 -:有意差なし
味関心が持てるよう、実験・観察の技能を習 得させとともに、自然に慣れ親しむことが可 能な実感を伴った活動を通じて必要な知識を 確実に身につけさせることが重要であると考 えられた。 次に、本研究に係わる「宇宙」に関する単 元については苦手意識を持っている学生が多 く、小学校課程のみならず理科専修の学生に おいても知識不足が特に感じられた。与謝蕪 村の句を絵に描く際、理科の知識を活かそう とする意識も低く、誤った月の形が描かれた ものが多かった。そうした中にあっても、「満 ち欠けを考えた」学生が理科専修の方が小学 校課程に比べて有意に多かったことから、他 教科の学習に理科の知識を活かすには、最低 限の知識を身につけておく必要性があると考 えられた。したがって、教員養成の場におい て、理科の確かな知識を教師となる学生が身 につけることができるよう指導する必要があ る。そして、身につけた理科の知識を学生が 意識を持って他に活用できるよう、大学の授 業の中で用いることができる教科を横断的に 捉えた教材を数多く開発していく必要がある と考えられた。 補注・引用・参考文献 1)小川高広・佐藤多佳子(2015):他教科への知識・ 技能の活用を促す読み書き関連単元の在り方: 1年「どうぶつの赤ちゃん」の対比構造を生か して、臨床教科教育学会誌 15(3)、pp.9-18 2)藤岡郁子・中村元彦(2010):理科教育の中の 数学的リテラシーの分析―中・高理科教育の視 点から、奈良教育大学教育実践総合センター研 究紀要(19)、pp.75-79 3)岡田努(2010):ペーパーブーメラン作りに見 る理科と他教科の関わりについて、福島大学総 合教育研究センター紀要 (8)、pp.55-63 4)村山哲哉(2010):理数教育充実時代に求めら れる理科学習指導の在り方、理科の教育02、 pp.10-13 5)文部科学省(2017):小学校学習指導要領(平 成29年告示)第4節理科、<https://www.mext. go.jp/component/a_menu/education/micro_ detail/__icsFiles/afieldfile/2018/09/05/1384661_ 4_3_2.pdf>、pp.94-111 6)長友大幸・中込雄治(2012):教職実践演習で 扱う学際的領域における実践的指導力の育成に 関する研究、埼玉学園大学紀要人間学部篇第12 号、pp.93-100 7)田近洵一・北原保雄・三木 卓 他(2010):文 部科学省検定済教科書 ひろがる言葉 小学国語 3上、教育出版、東京、p.61 8)樺島忠夫・宮地 裕・渡辺 実 他(2010): 文 部科学省検定済教科書 国語3上 わかば、光村 図書、東京、p.49 9)本研究の知識調査で用いた問題は、「村井 勇 (1997):教師用指導書 新版中学校理科2分野 上、大日本図書、東京、p.172」の図を用いて 作成した。 10)長友大幸・中込雄治・生野金三(2010):教職 実践演習の実証的研究、埼玉学園大学紀要人間 学部篇第10号、pp.179-190