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社会福祉理論の性格に関しての考察

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Academic year: 2021

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(1)社会福祉理論 の性格に 関 しての考 察 An. Essay. on. the. of Social. Specific Welfare. Characteristics Theories 吉 村 公 夫 Kimio. YOSHIMURA. は じめ に 本 稿 で は 、社 会 福 祉(社 会 事 業)理 論 の特 徴 的性 格 に 関 して考 察 す る。 こ こで の考 察 の対 象 と して、 大 河 内一 男 、孝 橋 正 一 、一 番 ヶ瀬 康 子 の そ れ ぞ れ の社 会 事 業 、社 会 福 祉 につ い て の見 解 を 取 り上 げ る。 社 会 事業 、社 会 福祉 の性 格 づ け に 関 して 、継 承 され て き て い る もの を 中心 とす る 。. 1大. 河内一男. 大河 内 の論 考 は 、 中 央 社 会 事 業 協 会 の 機 関 紙 『社 会 事 業 』 の1938年(昭. 和13年)8月. され た 、 「 我 国 に於 け る社 会 事 業 の現 在 及 び将 来 」(以 下 、 「13年論 文 」 と略 記 す る)を. 号に掲載 取 り上 げ. る。 そ の 理 由は 、 この 論 文 が そ の 後 の 、 社 会 事 業 の理 論 研 究 に 大 きな 影 響 を 与 え た か らで あ る。 後 述 す る、 孝 橋 正 一 は 、 この論 文 で の、 大 河 内の 考 えを 継 承 して 、 自 らの 社 会 事 業 理 論 を 作 り上 げ た 。 大 河 内 は、 この 「13年論 文 」 で、 初 め て、 社 会 事 業 を 科 学(社 会 科 学)の 立 場 か ら位 置 づ け た と評 され て き て い る。 大 河 内 は 、わ が 国 で初 め て 、社 会 政 策 の概 念 を 、 科 学(社 会 科 学)的 に 位 置 づ け た と言 われ て い る 、社 会 政 策 の研 究 者 で あ る。 当 時 の ドイ ツ で の、 そ してそ の影 響 下 に あ っ た 日本 の社 会政 策 概 念 を 、資 本 制 経 済 との 関 係 で 、 「資 本 主 義 社 会 そ の もの の 本 質 」 か ら、 位 置 づ け た。 そ して 、 この13年 論 文 に お い て 、社 会 事 業 を 、資 本 制 経 済 との 関 係 で性 格 づ け た 。 正 確 に は 、社 会 政 策 を資 本 主 義社 会 そ の もの の 本 質 か ら位 置 づ け 、社 会政 策 との 関 係 か ら、社 会 事 業 を性 格 づ け た 。 この13年 論 文 は 、戦 後 、 社 会 政 策 に 関 して 、「大 河 内理 論 」を 打 ち 出 した と言 わ れ る、昭和15年 発 行 の 『社 会 政 策 の基 本 問 題 』 に も収 め られ てい る。 な お、 こ こで は 、 便 宜 上 、 青 林 書 院新 社 発 行 の 大 河 内一 男 著 作 集 第5巻. 『社 会 政 策 の基 本 問 題 』(1969年)を. 使 用 す る。. 大 河 内が 社 会 事 業 に 関わ る よ うな っ た の は、 こ の論 文 を 契 機 とす る よ うで あ る。『社 会 事業 』に 発 表 した こ とが 、「縁 で 急 に 社 会 事 業 関 係 者 と親 し くな り、私 に と って も新 し い研 究 分 野 、これ ま で見 お と して き た 分 野 が拓 け る よ うに な りま した 。」 と述 べ て い る。 13年 論 文 の執 筆 意 図 と して は 、 「これ は伝 統 的 な 社 会 事 業 理 論 を か な り細 か く検 討 し新 し く方 向 づ け て み よ うとい う、 私 と して は 多 少 野 心 的 な もの で した 。」2).

(2) 「 私 自身 と して は 、 そ れ 以 前 に 自分 で ず っ とや って きて い た 社 会 政 策 論 の1つ. の ア プ リケー. シ ョン と して 、社 会事 業 の本 質 論 と もい うべ き も の に な ん とか締 め く く りを つ け て み た い と い う 気 持 ち で、 い ろい ろ 同好 の諸 君 と議 論 し なが ら書 い て み た も の です 。 そ の 当 時 ま で の社 会 事 業 論 は 、 全 く社 会 政 策 と無 関 係 の もの 、 慈 恵 的 な もの 、 個 人 的な も の、 と考 え られ て お り、 理 論 的 に も社 会 政 策 とは 断絶 が あ りま した」 と。3) 13年 論 文 で 、 大河 内 は 、社 会 政 策 論 の ア プ リケ ー シ ョン と して 、 社 会 政 策 と社 会 事 業 の 両者 の 関 係 を 見 て ゆ く。 問題 は 、 「 社 会 政 策 と社 会 事 業 の 両 者 の差 異 を何 処 に 求 む べ きか 」、ま た、 「 二つ の もの は相 互 に如 何 に 係 わ り合 っ て い る か を 吟味 す る」 と し、4)検討 に 取 りか か っ て い る。 社 会 事 業 も社 会 政 策 も、 社 会 の、 資 本 制 的 な経 済 社 会 の 、所 謂 「 庶 民 」 階級 を そ の対 象 と して い る点 で は共 通 で あ ろ う。 社 会 政 策 が 社 会 事 業 と根 本 的 に異 な る点 は、 社 会 政 策 が 、 「庶 民 」 の 福 祉 を 、 労 働 者 と して、 厳 密 に 言 え ば 、 生 産 者 と して 捉 え よ う とす る点 に あ る。5) また 、社 会 政 策 が 、 国 民経 済 に お け る生 産 者 と して の資 格 にお け る要 救 護 性 にそ の課 題 を 見 い 出す の に対 して、 社 会事 業 は 、 「 社 会 政 策 の対 象 と して の 生産 者 た る資 格 を 永 久 的 に な り一 時 的 な り喪 失 し、 斯 く して 国 民経 済 的 連 繋 か ら切 断 され て 在 る こ とが 同 時 に 社 会 事 業 の 対 象 と して の 要 救 護 性 を創 り出す とい う関 係 で あ る」6)。換 言す れ ば 、 「一 般 消 費 者 と して の 資 格 」。 さ ら に 、 「社 会 事 業 の場 合 に お け る要 救 護 性 は 、 資 本 制 経 済 との 優 れ た 意 味 で の 連 繋 を 断 た れ 、 社 会 的 分 業 の一 貫 た る こ とを止 め た場 合 に お け る 経 済 的 、保 健 的 、 道 徳 的 、 教 育 的 等 の 要 救 護 性 で あ り、 こ の意 味 で そ れ は 、資 本 制 経 済 の再 生産 の機 構 か ら一応 脱 落 した 、 謂 わ ば経 済 秩序 外 的存 在 だ と 言 うこ とが 出 来 る で あ ろ う」 と。7) 社 会 政 策 と社 会 事業 は 、上 記 の よ うに 、要 救 護性 が 異 な る の で 、相 並 行 して進 み得 る もの で あ る。8)相並 行 して進 み 得 る もの との 指 摘 で 、 社 会 事 業 は 、 「…他 方 に於 い て は 、一 般 に保 健 ・衛 生 、 教 育 等 の 領 域 に於 い て、 積 極 的 な 改善 を 図 っ て そ の要 救 護 性 の発 生 を予 防 し よ う とす る も ので あ る 。 従 って社 会 事 業 は 、 一 方 で は 救 貧 事 業 的 ま た は慈 善 事 業 的活 動 と して既 に生 じた 事 態 に 対 し て 救恤 的 に 関 係 し、 他 方 では 福 利 事 業 的 に要 救 護 性 の増 大 を 防 ぎ予 防 的 活 動 をす る と と もに 、 積 極 的に 「 庶 民 」 な い し無 産者 の 経 済 的 或 い は一 般 文 化 的 生 活 の指 導 更 生 を図 る も ので あ る。社 会 事 業 は社 会 政 策 の周 囲 に 働 き、 社 会 政 策 の以 前 と以 後 と にそ の場 所 を 持 つ も の と言 うこ とが 出来 る 。」9) この二 つ の並 行 的 発展 や進 ん で の そ の 相 互 補 強 的 関 連 は 、 資 本制 経 済発 展 の 異 な れ る段 階 に於 い て は異 なれ る組 合 せ を 以 っ て 現 わ れ る。 な ぜ な ら、社 会政 策 に は資 本 制 社 会 に於 い て特 定 の 限 界 が潜 ん で い るの に対 して、 社 会 事 業 に は社 会 政策 に 見 られ る ご と き限界 が存 在 しな い か ら。 そ して 、 この社 会 政 策 の 限 界 は 、費 用 、つ ま り、 「産 業 負 担 」 な い し国庫 の負 担 、二 つ 目は 、労 働 者 の一 定 限 度 以 上 の急 進 化 を促 進 す る が如 き政 策 た る を許 容 し得 な い とい う こ と。 資 本 制 経 済 が長 期 的な 不 況 期 に 入 る か 、一 般 的 「 危 機 」 の時 期 に 陥 ち込 む 時 、 社 会 政 策 に お け る 「 限 界」 が急 速 度 に表 面 化 す る。 この よ うに 、社 会 政 策 の停 滞 ・後 退 と相 並 んで 、 厳 密 に 言 え ば そ れ らの 事態 を究 極 の 原 因 と して、 社 会 事 業 の必 要 が 増 大 す る。 つ ま り、 社 会 事 業 に よ る社 会.

(3) 政 策 の 補 充 は 、 或 いは 進 ん で そ の 「 代 位 」 は 、益 々不 可 避 の一 般 的 傾 向で な け れ ば な らな い 。 さ らに 、 日本 で は、 後 進 資 本 制 経済 で あ る こ とで の 日本 経 済 の後 進 性 が 、 社 会 政 策 と社 会 事 業 の関 係 に も 日本 的 形 態 を もた ら した 。社 会事 業 は 、生 産 的任 務 を尽 くす ことに よ って 、 社 会 政 策 的諸方策 を 「 補 完 」(補 充)す るが 、社 会 政策 的施 設 が欠 如 して い るか 乃 至 は 歪 め られ た 形 態 に 於 い て のみ 存 在 す る場 合 に は 社 会 事 業 は社 会政 策 に 「 代 位 」(代 置)せ. しめ られ る。. 補 完 の例 と して は、 婦 人 の職 場 へ の進 出 は 、託 児所 施設(社 会 事 業)の 拡 張 を 不 可 避 の も の と す る。 か く して託 児 所(社 会 事 業)は 、 そ れ が従 来持 って い た救 済 的 ・教 育 的 任 務 の ほ か に 、 経 済 的 或 い は生 産 的 職 能 を 営 み 始 め る こ とに な る。 つ ま り、社 会 事 業 は社 会 政 策 的 性 質 を 持 つ に 至 る。 代 位 の例 と して は、 失 業 問 題 は、 失 業 保 険制 度(社 (社会 事 業)に. 会政 策)の. 欠如 に よって、土 木救 済 事業. よっ て処 理 され て きた 。 また 、結 核 女工 に対 して 、労 働 者 保 護(社 会 政 策)の 欠. 如 か ら 、「帰郷 」 を通 して農 村 全 般 に結 核 菌 を散 布 し、や が て 農 村 一般 の体 位 低 下 、慢 性 的 栄 養 不 足 を結 果 した。 そ こで農 村 社 会 事 業 の提 唱 が 台 頭 し始 め た。】2) 大 河 内 は 、 当 時 の 日本 の状 況 を踏 ま え て、 資 本 制 経 済社 会 で は 、社 会 政 策 に は限 界 が あ り、 そ の た め 、社 会 事 業 が社 会 政 策 を補 完 した り、 代 位 した りす る働 きをす る と分 析 した 。 2)風. 早 八十 二. こ こで 、大 河 内 の 同時 代 で 、 当時 、 社 会 政 策 を 研 究 して い て 、社 会 政 策 と社 会 事 業 につ い て も 論 究 して い る 、風 早八 十 二 の論 考 を取 り上 げ る。 風 早 八 十 二 の社 会 事 業 論 は 、雑 誌 『社 会 事 業 』1938年10月 号 に 、「社 会 事 業 と社 会政 策 」 と して 発 表 さ れ て い る。 こ こで は 、便 宜 上 、1949年 に 時 潮 社 か ら刊 行 され た 『日本 社 会 政 策 の理 論 』 に 所収 されている 「 社 会 事 業 と社 会 政 策 」 を使 用 す る。 風 早 に よれ ば 、 社会 政 策 も社 会 事 業 も 、 「資 本 の 運 動 行程 に お い て 必然 的 に 発 生 した 無 産 的 乃 至貧 窮 的 人 口を 対 象 と し、 これ に対 して資 本 がそ の運 行 を 順 当 に 継 続 せ んが為 に行 ふ と ころ の 、 合 目的 的 な 施 設 で あ り、 そ れ 自体 資 本 の運 動 法 則 に従 属 した も ので あ る点 に お い て 、本 質 を 同 じ くす る」、 た だ 、 「社 会政 策 の 対 象 とす る と ころ は 、直 接 生 産 担 当 者 及 び 極 め て 間近 か な距 離 に お い て 、 生 産 担 当 を 待機 せ る失 業 人 口で あ り、社 会 事 業 の対 象 は、 将 来 的 潜 在 的 労 働 力 、 も し くは 労 働 能 力 欠 如 者 た る こ と」 で あ る。13) この 「将 来 労 働 能 力 者 た り うるべ き人 口」 も し くは 「 資 本 の直 接 生 産 行 程 及 び そ の近 い 周 辺 か ら脱 落 せ る人 口」 の た め 、 社 会 事 業 は 「 半 」 生産 的 、若 し くは 「 不 」 生 産 的 で あ る と。 具体 的 に は、「 労 働 諸 条 件 の 改善(最 低 労働 賃 銀 制 ・労 働 時 間 制 限 ・健 康 保 険 制 等)と 共 に 相 対 的過 剰 人 口 の 一 部 を 構 成 す る失 業 者 の た め の 失業 保 険制 の実 施 こそ は 『社 会 政 策 』 と称 せ られ る る方 策 で あ り、 これ に 対 して 、 遂 に 永 久 ・半 永 久 に 職場 を 失 へ る 窮貧 者 に対 す る救 護 施 設 こそ は 、 社 会 事 業 の 内容 た る も ので あ る。 即 ち 、 育 児 院 ・母 子 ホ ー ム ・託 児所 ・産 院 な ど、 孤 児 そ の他 の窮 貧 児 童 を 労 働 能 力 者 た り うべ く、そ の 最 低 限 の成 長 を保 証 せ ん とす る、 「 半 」生 産 的施 設 と、免 囚 保 護 事 業 の如 く、 再 犯 防 止 の消 極 的 目的 と同 時 に 好 況 期 に お け る 万一 の 予備 労 働 力 を培 養 して おか ん と.

(4) す る 「半 」 生産 的 意義 とを兼 ね 含 む施 設 、傷 兵 院 乃 至 再 教 育補 導 の如 く勇 士 に 対 す る 国家 の敬 意 と同 時 に 労 働 能 力 の復 活 を 目指 す 施 設 、 社 会 的 危 険 防 止 の た め の隔 離 を 主 目的 とす る長 期 患 者 に 対 す る収 容 ・慰 安 施 設 ・助 葬 事 業 ・扶 養 者 な き老 齢 者 に対 す る養 老 院 な どが あ る」 。14) これ ら の具 体 例 は、 マル クス の 述 べ る、 相 対 的 過 剰 人 口の最 下 層 で あ る 、被 救恤 的 窮 民 を 形 作 る と ころ の、1)労. 働 能 力 者 、2)産. 業 予 備 軍 候 補 者 で あ る孤 児 また は 貧 困 児 、3)没. 落 者 ・老. 齢 者 ・不 具 者 ・病 弱者 ・寡 婦 な どの 労 働 不 能 者 た ちを 、 当時 成 立 した 社会 事 業 法 の 対 象 を 勘 案 し て 列 記 し た も の で あ る。 大 河 内 は、13年 論 文 では 、 産 業 予 備 軍 との 指 摘 は あ るが 、 具 体 的 に 、被 救 甑 的窮 民 とは述 べ て い な い 。 頭 の 中 で は あ った と思 わ れ る。 前 出 の 「… 救恤 的 に 関 係 し…」 とあ る よ うに 。 大 河 内 が 、 社 会事 業 の対 象 を は っ き りと 「 被 救 値 的窮 民 」 と規 定す る の は 、戦 後 に 著 わ した 、『社 会 政策. 各. 論 』 に お いて で あ る。15) 風早 は、「 将 来 的潜 在 的 労 働 力 」、 「労 働 能 力 欠 如 者 」、「将 来 労 働 能力 た り うべ き 人 口」、 「 永久 ・ 半 永久 に 職 場 を 失 へ る貧 窮 者」、 「予備 労 働 力」、 「労 働 能 力 の 復 活」 とい う表 現 か ら分 か る よ うに 、 労 働能 力 の点 か ら、 大 河 内 よ りも、 明確 に 、社 会 事 業 の 対 象 を 性格 づけ て い る。 社 会 事 業 と社 会 政 策 との 関 係 に つ い て は 、社 会 政 策 の 欠 如 あ るい は不 充 分 が 、 社 会 事 業 に よ っ て 代替 され た と述 べ て お り、大 河 内 の指 摘 と同 じで あ る 。. 2孝. 橋正一. 大 河 内 の社 会 事 業 に つ い て の理 論構 成 の 矛 盾 、 論 理 を 整 理 した の が 、孝 橋 正 一 で あ る。 孝 橋 は 大 河 内 だ け を 扱 った 訳 で は な い が 、継 承 して い るの は 大 河 内 の 社 会 事業 論 で あ り、 大 河 内 の社 会 事 業 論 が 先 行 研 究 と言 え る。 孝 橋 は 、 大 河 内 の、 資 本制 経 済 社 会. →. 社会政策. →. 社 会 事業 とい う関 係 性 を追 求せ ず 、. 資 本 制 社 会 の 中 で の、 社 会政 策 と社 会 事 業 の 関 係 を 並 列 的 に 論 じる。16) 孝 橋 は 、一 般 に 社 会 問 題 とい わ れ る もの を 、 社 会 的 諸 問 題 とい い 、 これ は 、 資 本 主 義 制 度 を貫 徹 す る社 会=経 済 法 則 の作 用 の結 果 と して 生 まれ る もの と考 え 、 この社 会 的 諸 問 題 は 、社 会 問題 と社 会 的 問題 に分 け られ る。 前 者 が 、社 会 の 基 礎 的 ・本 質 的 課 題 で あ り、 後 者 が 社 会 に お け る 関 係 的 ・派 生 的課 題 とされ る。 そ して 、 この 社 会 問 題 へ の 社 会 的 対応 が 、社 会 政 策 で あ り、社 会 的 問 題 へ の対 応 が 、社 会 事 業 と。17) 資 本 主 義 社 会 が 、基 礎 的 ・本 質 的 に 社 会 問 題 を よび さ ます と ころ か ら、 そ れ に 重 ね て 、 あ る い はそ れ に 関連 して 、 また そ の こ との結 果 と して 、 関 係 的 に 派 生 して き て、 労 働 者=国 民 大衆 に そ の担 い 手 を見 い 出す と ころの 、 第 二 次 的 な 社 会 的 困 難 が 社 会 的 問題 。 社 会 問 題 は 、換 言 す れ ば、賃金 問題 で あ り、労働 問題 で あ る。 「労働 賃 金 の僅 少 性 とい う社 会 制 度 的 規 定 は 、一 方 に お い て労 働 条 件 の 基 本 問 題 と して の 意 義 と性 格 を担 いつ つ 、他 方 に お い て そ れ がそ の まま 労働 老 の社 会 生 活 を 規 定 し、 社 会 的 必 要 の 欠 乏(社 会 的 障害)状 態 の存 在 を特 徴 づ.

(5) け て い る」、 「… 一 定 の歴 史 的 ・社 会 的 な生 活 水 準 に て ら して 労 働 者 の 生 活 が 社 会 的 必 要 の 欠 乏 (社 会 的 障 害)状 態 に お か れ て い る」 と。18) い さ さか 、分 か りづ らい の で 、具 体 的 に は、 どの よ うな 人 々が 対 象 とな るか を 見 て み る と、 「… な ん らか の 事 情 の た め に 、 労 働 の 能 力 や機 会 を 失 い 、 そ の行 きつ く と ころ そ の意 志 さ え失 っ て し ま った 労 働 者(と そ の 家 族)… 、 傷病 や 身心 障害 の た め に 、 は じめ か ら労 働 能 力 を 欠 いて い る者 、 生 計 支 持 者 を 失 って 独 力 で 収 入 を 確保 しな け れ ば な らな くな っ た未 亡 人(母 子)、 ま だ 身 心 が 未 熟 な 状 態 の ま ま扶 養 者 を 失 うか 貧 困 の た め に放 置 され て い る 児 童 、す で に労 働 能 力 を退 化 ・喪 失 しな が ら扶 養 者 の な い 老 人 な どは 、 多 くの場 合 そ の社 会 的必 要 を み たす た め に必 要 な購 買 力 獲 得 の た め の 前 提 条 件 を 欠 い て い るの で 、 そ の ま まで は どん な種 類 の社 会 的必 要 を もみ たす こ とが で きな い 社 会 的 障 害 の担 い 手 と して た た され て る」 。19) 「… 社 会 事 業 の対 象 と して の 社 会 的 人 間(労 働 者=国 民 大 衆)は 、豊 富 で多 様 な相 貌 を も っ て、 私 達 の ま え に あ らわ れ て い る。 … 労 働 の 能 力 と機 会 に め ぐまれ て い る 労 働 者 とそ の家 族 で 、 生活 上 の社 会 的 必 要 を 充 分 に み た す こ との で きな い もの を は じめ と して 、 … 労働 の機 会 か ら見 放 され て い る失 業 者 、 疾 病 ・傷 害 ・廃 疾 や 身 心 障 害 の た め に 労 働 能 力 を 欠 くか また は 充 分 に それ を働 か す こ との で きな い者 、 す で に生 理 的 に 労 働 能 力 を 失 って し ま った 老 人 や 、 まだ 身 心 の発 育 が未 熟 な 児童 で 、扶 養 者 が な くて生 活 が な りた た な い 者 、 生 計 支 持 者 を 失 った 未 亡 人(母 子)で 労働 の 能 力 が不 充 分 で あ るか 、 よい労 働 機 会 を見 出す こ とので きな い 者 、 犯 罪 を お か す か また は そ の お そ れ が あ り、 あ るい は釈 放 され た がそ の事 情 や 経 歴 のた め 労 働 機 会 にめ ぐまれ な い 者 、 つ い に は 労働 の 意 思 さえ 失 って し ま った者 、天 災 そ の他 災 害 の ため に 一 時 的 に生 活 の 困 難 を きた した 者 、 そ の他 な ん らか の 事情 で 生 活 が な りた た な くな った者 な どで あ る」 。2°) 孝橋 は 、 「 大 河 内一 男氏 の い う…被 救恤 的 窮 民 とは 、 この 救 貧 法 的 概 念 を そ の ま ま の 意 味 と 内 容 で 、 社 会 事 業 の対 象 認 識 一 般 に(そ. して不 等 に)拡 大解 釈 した誤 謬 を お かす ものに ほ か な らな. い」2')と、 大 河 内が 、 社 会 事 業 の 対 象 を 、救 貧 法 時代 の被 救恤 的 窮 民 と した こ との誤 りを 指 摘 し て い るが 、 前 出 の、 マル ク ス の被 救恤 的 窮 民 、 風 早 の 相 対 的過 剰 人 口に よ った 列記 と見 て くる と、 孝 橋 の社 会 事 業 の対 象 も 、 同 じ く、 相 対 的 過 剰 人 口の 被 救恤 的 窮 民 を ふ くら ま した もの と受 け取 られ る。 た だ 、大 き く違 う と ころは 、そ れ ぞ れ に 、「労 働 能 力 」 と い う言 葉 が は さ まれ て い る こ と で あ る。 この 点 、風 早 と共 通 して い る。 「労働 能 力」 が 働 くこ とで 、 これ が基 本 的 ・本 質 的 で 、 そ こか ら外 れ て い る(関. 係 的 ・派 生. 的)状 態 を 表 現 して い る と も言 え る。 「… 窮 民 の 現 代 的 形 態 を そ の な か に ふ くん で い る 相対 的過 剰 人 口の各 種 の形 態 に ま でそ のひ ろ が りを も って い る こ と」22)、「 相 対 的過 剰 人 口 の最 後 の形 態 で あ る窮 民 の 現 代 的 形 態 が ど ん な 生 活 状 態 に あ るか 」、 「い まや そ の被 救恤 的 窮 民 が 窮 乏 化 法 則 の も とに 、 質 的変 化 を経 験 しつ つ拡 大 再 生 産 せ られ 、 それ が あ る種 の社 会 的 障 害 を 形 成 す る こ とに よ って 、"社 会 的 問 題"の 担 い 手 と してた って い る」23)、「産 業 労 働 者 とい わ ゆ る被 救恤 的 窮 民 な い し窮 民 の現 代 的 形 態 な ど の 対 象 の種 別 を 問 わず 、 … これ らの 人 々のす べ て が、 そ の社 会 生 活 の条 件 で あ る所 得=購 買 力 を 絶 対 的.

(6) ・相 対 的 に 欠 い て い るた め に 、社 会 的 必 要 の欠 乏(社 会 的障 害)状 態 に おか れ て い る 」24)との記 述 か ら分 か る よ うに 、孝 橋 に お い ては 、 被 救恤 的 窮 民 の現 代 的形 態 が、 社 会 事 業 の 対 象 と理 解 さ れ る。 大 河 内を 批 判 して い る が。 大 河 内は 、 社 会 政 策 が 生産 者 、 社 会 事 業 が 消 費 者 、 前 者 が経 済 秩 序 内の 存 在 、 後者 が 経 済 秩 序 外 的 存 在 と対 象 を 人 で 区別 したが 、 孝 橋 は、 同 じ社 会 的人 間(労 働 者)で 、 この 労働 者 が 担 って い る課 題 の 性 質 の違 い に よ って、 社 会 政 策 と社 会 事 業 を 区分 した 。 故 に、 大 河 内 と違 って 、 同 一 の人 間 に 、 同 時 に 働 きか け る こ とが で きる し、働 きか け て い る。例 えば 、「・ ・ 最 低 賃金 、健 康 ・失 業 ・老 令 な どを ふ くむ社 会 政 策 と して の社 会 保 険 の各 制 度 に 重 ね て 、社 会 事 業 と して の 社 会 保 険 ・国家 扶 助 や 公 ・私 主 体 に よる各 種 の 社 会 的 サ ー ビス が よび さ ま され 、 そ こに社 会 生 活 の 広 汎 な 領 域 に わ た っ て豊 か な 内容 を もった 社 会 事 業 の分 野 が ひ らか れ て い くの で あ る」 と。25) この指 摘 は、 仲 村 優 一 の述 べ る 「社 会 福 祉 の3つ の補 充 性 」 の1つ に 引 き継 がれ て い る と思 わ れ る。 仲 村 の場 合 は 、社 会 政 策 では な く、 一 般 対 策 とされ て い る が。 例 と して 、老 齢 者 に 対 して 、 社 会 保 険 に よっ て所 得 保 障 が一 律 ・普 遍 的 に 行 わ れ る。 他 方 社 会 福 祉 で 、 老 人家 庭 奉 仕 員 に よ る サ ー ビスが 、 個 別 的 ・対 人 的 に提 供 され る。26). 3一. 番 ヶ瀬 康 子. 孝 橋 正 一 の社 会 事業 理 論 を批 判 的 に 継 承 し よ う とす る研 究 者 は い く人 も見 られ るが 、 そ の 中 で も、孝 橋 の次 の世 代 と して は、 真 田是 、 一 番 ヶ瀬 康 子 、 高 島 進 らが い る。 こ こで は、 一 番 ヶ瀬 康 子 の社 会 事 業 理 論 、彼 女 の場 合 は、 当 初 、 社 会 福 祉 事 業 とい い 、 現 在 は 、社 会 福 祉 と い って い る の で、 以 下 、 社 会 福 祉 で統 一 して使 用 す る。 一 番 ヶ瀬 は、 社 会 福 祉 の対 象 を 生 活 問 題 と把 握 す る。 「 社 会 問題 の うち、 資 本 主 義 社 会 の 矛 盾 が、 労 働 力 の消 費 過 程 す なわ ち職 場 で 、 また 、 労 働 条 件 、 労 資 関 係 に お い て 明確 化 す る こ とを通 常 労 働 問題 とい い 、 生活 の営 み 、 す な わ ち 労 働 力 の 再 生 産 部 面 で 問 題 に な る こ とを 生 活 問題 とい い う」。27)よ り基 本 的 な 問題 は、「生活 が 労働 条 件 と くに 賃金 に よ って規 制 され 、また さ さ え られ るわ け で あ るか ら、労働 問題 に あ る とい え よ う」 。28)しか し、「生 活 は 、それ ぞ れ の世 帯 の 中 で私 的 に個 別 に 営 まれ て い る もの で あ り、 私 有 財 産 制 度 を 基 盤 と した 資 本 主義 社 会 に お い て、 そ の性 格 は い っそ う強 調 され る。 そ のた め 、 生 活 を さ さえ る雇 用 や 賃 金 が 、社 会 経 済 的 な 事 情 や 法 則 に よって 定 ま るに もか か わ らず 、 生 活 自体 は 、 労 働 者 個 人 個 人 の 責 任 に お い て 、 『自助(Self-He1p)』 す る こ とが 原 則 と され て い る。 した が って 、生 活 問題 は 、 労 働 問 題 に 比 し て よ り個 別 性 が 強 」 い 。29) 一 番 ヶ瀬 は 、 孝 橋 の 、社 会 問 題(労 働 問 題)と 社 会 的 問題 とい う、抽 象 的 で 分 か りづ らい 区 分 を 、 は っ き り と、労 働 問題 と生 活 問題 とに 名 づ け 分 け た 。 ま た 、孝 橋 の、 社 会 問題(労. 働 問 題). と社 会 的 問 題 の関 係 が 、前 者 が 基礎 的 ・本 質 的 課 題 で 、後 者 が 関 係 的 ・派 生 的 課 題 と した も のを 、 明確 に 、 労 働 力 を キ ー概 念 に 、 労 働 問題 が 労 働 力 の 消 費過 程 で の 問題 で、 換 言 す れ ば 、 労 働 条 件 、.

(7) 労資 関 係 に よ り問題 が発 生す る。 そ して 、労 働 力 の消 費 過 程 、 職 場 に 対 して 、 労働 力 の再 生 産 部 面 、世 帯 で 問題 に な る こ と。 ま た 、孝 橋 の 「 社 会 的問 題 」 や 一 般 に 社 会 問題 と名づ け られ て い た 事 象 を 、 「生活 問題 」 と定 義 した こ と。そ して 、 この 生活 問題 が、労 働 問 題 に 較 べ て 、個 別 性 が強 い こ とを 明 らか に した こ とで あ る。 こ こか ら、 労 働 問題 へ の対 応 が 、比 較 的普 遍 的 な施 策 で在 る のに 対 して 、 生 活 問題 へ の対 応 、 社 会 福 祉 が 、 個 別 的 、 具 体 的 で あ る こ とが必 然 とされ る。 生 活 問題 の把 握 が 、 微視 的 な もの に な る こ とが 求 め られ て くる こ と も導 か れ る 。 こ こか らさ らに、 社 会 福 祉 の技 術 へ の繋 が りが導 きだ せ るの で は な い か と も考 え られ る。 一 番 ヶ瀬 は 、 また 、「対 象 の も って い る労 働 力 の状 態 に よっ て問 題 の形 態 が こ とな る ゆ え、… 生 活 問 題 の な か の分 野 を よ り具 体 的 に た とえ ば 児 童 問題 、婦 人 問題 、老 人 問題 な ど とい うよ うに 、 考 察 し把 握 す る」 。3 まず 、 問 題 を 、 原 初 的 な 問 題 、 分 化 した 問 題 、 一 時 的 な 問題 に 分 け 、原 初 的 な問 題 に は 、 貧 窮 者 問 題 が あ り、 労働 力 の 状態 と して は 、 「 労 働 力 再 生 産 の破 壊 」 と把 握 す る 。そ して、貧 窮 者 問 題 を 、 生 活 困 窮 者 問題 と低 所 得 者 問 題 に 分 け る。 この 生 活 困 窮 者 へ の対 応 が 、生 活 保 護 事 業 と位 置 づ け られ る。 次 に 、分 化 し問題 の1つ は、 児 童 問 題 で、 労 働 力 の 状 態 と して は 、 「 未 来 の労 働 力 」。2つ に は 婦 人 問題 で 、 「 市 場 価 格 の安 い労 働 力 」。老 人 問題 は 「 衰 退 した労 働 力 」 の状 態 。疾 病 問 題 は 、 「 一 時 的 な欠 損 労働 力」。身 体 障 害 者 問 題 は 、 「 永 続 的 な 欠 損 労 働 力 」。精 神 薄 弱 者 問 題 も 「 永 続 的 な欠 損 労働 力」。 非 行 問 題 は、 「 社 会 的 不適 応 労働 力」 と把 握 され る。 一 時 的 な 問 題 に は 、 労 働 力 の 状 態 に よ る性 格 づ け は な く、 戦 争 被 害 問 題 と災 害 問 題 が あ げ られ て い る。32) この 労 働 力 の状 態 に よ る生 活 問 題 の 分 野 の 分 類 、社 会 福祉 の体 系 の整 理 は画 期 的 と言 え る もの で あ る。 戦 前 か ら事 業 の分 類 は 存 在 した が 、 そ れ は 実 際 に あ る事 業 を列 記 した だ け で あ り、 な ぜ そ の事 業 が あ る のか 、 また 、 な ぜ そ うした 分 類 な のか の 意 味 が 、説 得 的 に説 明 され て こな か った 。 こ の一 番 ヶ瀬 試 案 と名 づ け られ た 、 社 会 福 祉 事 業 体 系 は 、 現 行 の 事 業 を存 在 や 必 要 性 を 説 明 す る だ け で な く、 新 しい事 業 を、 そ の必 要 性 を根 拠 づ け る体 系 に もな る。 さ らに 、新 しい法 制 の 必 要 性 も。 「 永 続 的 な欠 損 労 働 力」 の 状 態 は 、身体 障 害者 問題 と精 神 薄 弱 者 問 題 に 共 通 す る。故 に、障 害 者 問題 と して い い とい うこ とが 明 らか に な る。 そ して 、障 害 者 福 祉 法 とい った法 制 の必 要 性 も。 こ こで 、 も う少 し、 労働 力 の 状 態 に よる性 格 づ け を見 てみ る。 孝 橋 の 性 格 づ け と対 照 して見 る と、障害 に 関 して 、孝 橋 は 、「 疾 病 ・傷 害 ・廃 疾 や 身心 障害 の た め に労 働 能 力 を 欠 くか また は充 分 に そ れ を 働 か す こ との で きな い 者 」 と述 べ 、特 に 、後 段 の 「 充 分 に労 働 能 力 を 働 か す こ とが で き な い 者 」 に つ い て は 、 一 番 ヶ瀬 の もの よ り、 適 切 で は な い か。 つ ま り、働 か す こ とが で きな い と い うの は 、 働 く意 思 が あ るの に 労 働 機 会 が な い とか 、 安 い賃 金 の職 場 しか な い とか 。 この性 格 づ け の 方 が 、 法 制 と して 、 雇 用 促 進 法 の 必 要 性 が 理 解 され る。 また 、母 子 の 「よい労 働 機 会 を 見 出 す こ とので き な い者 」 とい うの も、 妥 当 で は な い か 。 法 制 と して 、 男 女 雇用 機 会 均 等 法 の必 要 性.

(8) が よ り理解 され る。 孝 橋 の理 論 構 成 が1950年 代 で、 そ の時 代 、 生 活 保 護 法 、 児 童 福 祉 法 、 身体 障害 者 福 祉 法 の3法 しか な か った こ との制 約 が あ る。 一 番 ヶ瀬 の 理 論 構 成 は1960年 代 後 半 で 、福 祉6法. と言 わ れ る、. 主 な法律 が そ ろ っ て い た 時代 で あ った 。 いづ れ に して も、一 番 ヶ瀬 の事 業体 系 に は、 「 労働市場で の労 働 力 の売 買 の結 果 に よる 、労 働 力 の状 態 に よる」 とい う注 釈 を つ け るべ き では な い だ ろ うか 。 も う1つ だ け、 一 番 ヶ瀬 の貢 献 を ここ で取 り上 げ る。 そ れ は 、 社 会 福祉 が対 応 す る生 活 問 題 が 、 「他 人 ご とで は な い」 とい うキ ー概 念 を 持 ち 込 ん で説 明 した こ とで あ る。労 働 者 、 賃 労 働 者 は 、 生 産 手段 を もっ て い な い 。 そ のた め、 他 人 に 雇 わ れ て 、 自 らの 体 内に ひ そむ 労 働 力 を 賃 金 に か え 、 そ の賃 金 を も って生 活 資 料 を 買 い、 日々に 生 活 を 送 って い る 。 そ の 生活 と くに 衣 食 住 な ど、 世 帯 単 位 に お こなわ れ て い る 営 み をつ う じて 、 ふ た た び 労 働 力 を 回 復 し職場 に 出 てい く。 売 るべ き充 分 な労 働 力 が な けれ ば 、 労働 力が 買 わ れ なけ れ ば 、 世 帯 内で 再 生 産 され るだ け の 賃 金 で 交 換 され な け れ ば 、 そ の労 働 者 の世 帯 で の生 活 は 支 障 を きた し、 労働 力 の 再 生産 は不 十 分 、 不 完 全 とな っ て くる。い い か えれ ば 、「労 働 者 お よび そ の世 帯 員 の生 活 、 さ らに 生 命 は 、そ の労 働 力 の 状 態 お よ び そ の 労働 力交 換 の状 態 に規 制 され て い る」 。33)この こ とを 、 一 番 ヶ瀬 が、 「 他 人 ご とで は な い」 と い う言 葉 で 、感 性 的 に 訴 え た。34)自分 や 自分 を 含 め た 世 帯 が 、 貧 窮 問題 、 児 童 問 題 、 婦 人 問 題 、 障 害 者 問題 、老 人 問題 の 対 象 に な る と。 労 働 力 とそ の 売 買 の 状 況 に よ って生 活 が 規 定 され て い る こ と。 そ れ は 、言 葉 を換 え れ ば 、可 能 性 とい う意 味 で 、 私 達 が 障 害 者 に な る とい う可 能 性 、 子 ど も に障 害 児 が 生 まれ る可 能性 、偏 見 や 差 別 か ら労 働 の場 を 奪 わ れ る可能 性 等 で あ る。 一 番 ヶ瀬 康 子 の社 会 福 祉理 論 を どの よ うに 批 判 的継 承 を して 、 今 日の社 会 福 祉 理 論 を 創 って 行 くかは 、 今 後 の課 題 で あ る。35). 大河内一男著. 『暗 い 谷 間 の 自伝 一追 憶 と 意 見 一』、 中 央 公 論 社 、1979年. 大河内一男著. 『社 会 政 策 四 十 年 』、 東 京 大 学 出 版 会 、1970年. 、p.188。. 、p.145。. 同 書 、pp.151∼2。 大 河 内一 男 著. 『社 会 政 策 の 基 本 問 題 』、 青 林 書 院 新 社 、1969年. 、p.310。. 同書。 同 書 、p.313。 同書。 同 書 、p.313。 同 書 、p.314。 同 書 、p.326。 同 書 、pp.322∼3。 同 書 、pp。317∼8。 風 早入 十 二 著. 『日本 社 会 政 策 の 理 論 』、 時 潮 社 、1949年. 、p.54。. 同 書 、p.54。 大 河 内一 男著. 『社 会 政 策(各. 論)』 、 有 斐 閣 、1950年. 大 河 内 に よ る 、 社 会 政 策 と 社 会 事 業 の 間 の 、 代 位(代. 、p.27。 置)と. 補 完(補. 充)の. 関 係 は 、孝 橋 に よって 、代.

(9) 替 性 、 補 充 性 と い う概 念 に 受 け 継 が れ て い る が 、 本 論 で は 扱 わ ず 、 別 に 論 じ る予 定 。 孝 橋 の 社 会 事 業 理 論 は 、1950年. に 出 さ れ た 、 『社 会 事 業 の 基 礎 理 論 』 が 初 出 だ が 、 そ の 後 大 き く変 わ っ. て い な い の で 、 こ こで は 、 便 宜 上 、 孝 橋 正 一 著. 『全 訂. 社 会 事 業 の 基 本 問 題 』、 ミネ ル ヴ ァ 書 房 、1962. 年 、pp.31∼47。 同 書 、p.42。 同 書 、pp.42∼3。 同 書 、pp.142∼3。 同 書 、p.145。 同 書 、p.147。 同 書 、p.149。 同 書 、p.150。 同 書 、p.149。 仲村優一著. 「社 会 福 祉 の 原 理 」、 仲 村 、 三 浦 、 阿 部 編 著. 一 番 ヶ瀬 康 子 著. 『社 会 福 祉 教 室 』、 有 斐 閣 、1977年. 『社 会 福 祉 事 業 概 論 』、 誠 信 書 房 、1964年. 、p.15。. 、p.21。. 同書。 同 書 、P。22。 この 点 の 展 開 は別 の論 考 で 果 た した い と考 えて い る。 同 書 、p.130。 同 書 、pp.114∼7。 同 書 、p.20。 一 番 ヶ瀬 康 子 著. 『社 会 福 祉 の 道 』、 風 媒 社 、1972年. 、pp.10∼36。. そ の試 み の 一 部 は 、 古 川 孝 順 に よ る一 連 の 論 考 に 伺 え る。 この 検 討 も今 後 の 課題 と した い。. 参考 文献 孝 橋 正一 著 『続. 社 会 事 業 の 基 本 問 題 』、 ミネル ヴ ァ書 房 、1973年 。. 真 田 是著 『戦 後 日本 社 会 福 祉 論 争 』、 法 律 文 化 社 、1979年 。 一番 ヶ瀬 康 子 著 『一 番 ヶ瀬 康 子. 社会福祉著作集. 第1巻. 社 会 福 祉 とは な にか 』、労 働 旬 報 社 、1994. 年 古川 孝 順 著 『社 会 福 祉 学 序 説 』、 有 斐 閣 、1994年 。 吉 田 久一 著 『日本 社 会 福 祉 理 論 史 』、 勤 草 書 房 、1995年 。 宮 田和 明 著 『現 代 日本社 会 福 祉 政 策 論 』、 ミネ ル ヴ ァ書 房 、1996年 。.

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