現代におけるへき地教育の特性とパラダイム転換の可能性
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(2) 現代におけるへき地教育の特性とパラダイム転換の可能性. 現代におけるへき地教育の特性とパラダイム転換の可能性 玉. 井. 康. 之. (北海道教育大学釧路校). る。日本は,急速な経済発展の中で地域間格差をもたら. はじめに. したが,この中で形成されたへき地の語義や定義の転換. 本稿は,へき地小規模校の積極面が発揮できる学校経. を図る。第二に,へき地教育が見直される背景となって. 営改善の方策を明らかにする研究の一環として,へき地. いる,現代の子どもをめぐる生活環境の変化とその中で. 教育のパラダイム(支配的な物の見方)の転換を図り,. のへき地教育の可能性をとらえる。とりわけ,都市的生. へき地教育の積極面を打ち出す可能性をとらえることを. 活環境とへき地に残る環境とを対比的にとらえながら,. 課題としている。. へき地の生活環境の可能性をとらえる。第三に,これら の用語の含意するものは,都. の子どもの環境変化の中で生じる問題発生を踏まえて,. 市部に比して遅れた側面それ自体や遅れた側面を引き上. 現代の教育政策の転換の方向と,へき地教育の可能性を. げる取り組みという意味で用いる傾向が強かった。しか. とらえる。すなわち現代の教育政策は,へき地の持つ積. し経済的・物質的に豊かであるということと,教育的に. 極面を生かすような方向性に転換していることをとらえ. 豊かであるということは別物である。それと同様に,経. る。. これまで. へき地教育. 済的・物質的に豊かではないということが,すなわち教. 以上の. つの分析を含めて,へき地のマイナス的なイ. 育的にマイナスであることを意味するものではない。へ. メージをとらえなおし,パラダイムの転換を図ることを. き地・小規模校の場合は,その学校環境・地域環境を,. 課題とする。. 都市部よりも遅れたものととらえるのではなく,それを 積極面としてとらえつつ,へき地の特性を生かした教育 をしていかなければならない。 本稿では,このような問題意識から,へき地の地域環. へき地教育の語義とパラダイム転換の必要 性. 境や学校環境を積極的に生かしたへき地小規模校が持つ. .へき地教育の語源とイメージ転換の必要性. 可能性をとらえ,またそのためのへき地のパラダイム (支. 元々へき地は,漢字で. 配的な物の見方)の転換をどのように図るかを検討する。. 僻 の字は,中央に対して, 片隅. ここでは,へき地教育の積極面をとらえるが,しかし それは,今後へき地教育振興法が無意味であるとか,へ. 僻地. と書かれていた。この 片田舎. という. 意味を含んでいる。 また面的位置を示す意味だけでなく, ひがむ. かたよる. という意味を含んでおり,内容. き地級指定校の制度が必要ないことを意味するものでは. 的に普通ではないというマイナスの意味を含んでいる。. ない。日本全体の地域発展と教育の機会均等を考えたと. このような意味がへき地教育に付与された背景は,戦. き,へき地に予算を重点的に配分することは,国全体の. 後の経済発展の中での地域格差の拡大がある。都会を中. 経済発展・教育発展にとっても長期的に重要な課題とな. 心に近代的な重化学工業が展開し富の集積( 社会資本. る。これまでと同様に,へき地教育に物的な支援を施す. 蓄積と基盤投資の拡大)が進んだのに対して,農村での. ための制度的保障を継続・発展させることは不可欠であ. 産業構造は変わらず,その結果都市と農村の地域間の経. る。. 済格差が拡大していったのである。すなわち,へき地地. へき地教育の積極的な側面をとらえるために, 第一に, へき地教育の語義とパラダイム転換の必要性をとらえ. 域は,中央から遠いという立地的特徴のみならず,地域 産業構造の変化の中で,経済発展から取り残された地域.
(3) 玉 井 康 之. という意味を含むようになる。したがって,僻地に立地. 律・忍耐力の育成に活用できるようにすることができ. するへき地教育は,取り残された経済的・文化的構造に. る。すなわちへき地は,自然を豊かに活用した,生きる. 規定された,取り残された教育がへき地教育の意味する. 力の基礎を培う教育を行うことができるということであ. ところとなった。. る。. しかし,高度経済成長後の. 年代後半には,全国的. 第二の. )僻遠性とは,都市・中央から遠いことを意. な交通網と通信機器の発達によって,物流および情報網. 味するが,幼少期の精神的自立の過程においては,都会. は急速に拡張され,地域概念も閉ざされた世界から,他. の俗悪性の影響を受けずに,一定の固定した人間関係の. 地域との関連性を持った地域に展開していった。その結. 中で,密接な人間関係を基礎にした教育を行うことがで. 果へき地性も大きく変化していった。 現在では, テレビ・. きる。. 新聞などのマスメディアによる情報だけでなく,イン. 第三の )文化的停滞性とは,都市的な文化が流入し. ターネットによる情報網の整備によって,同時にしかも. ていないことを意味するが,農村の伝統的な文化の由来. 瞬時に,都市も地方も同じ情報を享受したり,また地方. や意味をとらえる調べ活動と組み合わせれば,伝統的な. から都市に情報を発信することもできるようになった。. 日本の生産・生活様式から由来する農村文化も重要な文. また一定以上の施設・設備が整えば,必ずしも都市地. 化として位置づけることができる。. 域の物流・情報の豊富さが教育環境のプラス面となる訳. 第四の )教育的低調性とは,いわゆる進学競争等の. ではなくなった。逆にへき地地域の矛盾がへき地教育の. 条件がないことを意味するが,通塾率の低さとともに狭. 矛盾につながるという訳でもない。都市化する環境の中. い意味での学力競争の雰囲気がないために,純粋な意味. には,子どもにとって有害な情報や環境となる要素も多. での公教育の役割が大きくなる。その結果,生きる力の. く,豊富な情報・物の中で,子ども達が翻弄される場合. 育成や心の教育など,現代的な課題に対応した教育や個. もある。そのような中では,一定程度自立的な忍耐力や. に応じた教育を展開しやすいということである。. 価値判断ができるようになるまでは,逆に社会の悪影響. 第五の )社会的封鎖性とは,都市と隔絶した独自の 生活文化圏があることを意味するが,逆にそれをコミュ. を受けない方がいい場合も多い。 一方都市部に比して物の少ないへき地においては,そ. ニティとして位置づければ,地域教育力を発揮する条件. れをマイナス面としてとらえるだけでなく,それを教育. として位置づけることができる。すなわちコミュニティ. 上のプラス面としてとらえなおし,へき地の環境を生か. の中で,誰もが子どもの行動に関心を持ち,子どもに関. していくことが求められている。へき地地域の矛盾は必. わることができるような地域の教育力として,良い方向. ずしもへき地教育の矛盾ではないということを明確にし. に転化できる条件があるということである。 第六の )経済的貧困性は,第一次産業の所得性の低. ておかなければならない。. さを意味するが,第一次産業の重要性を学び第一次産業 .へき地教育の定義の転換の必要性と可能性. への従事活動を教育条件に意義づけすることができれ. へき地の教育環境を逆手にとって,有利な面としてと. ば,家事労働や勤労の重要性を伝えられる教育活動とし. らえ直すためには,へき地のマイナス特性として一般的 に指摘されてきた点の評価を転換していく必要がある。 へき地の特性は,. 年代に北海道教育大学僻地教育研. 究施設が,以下の つ, )自然的悪条件, )僻遠性, )文化的停滞性,. 以上の. つのへき地の特性もその位置づけを変えれ. ば, 積極面を伸ばす教育として位置づけることができる。 これらをつなげてみると,へき地教育とは,都市の俗悪. )社会的封鎖. 性の影響を受けず,豊富な自然や農村の伝統的な文化を. 性, )経済的貧困性,をその特性として規定した。い. 生かしながら,公教育の本来的な機能である生きる力や. ずれもマイナスの特性を,へき地の特徴として示すもの. 心の教育を重視した教育であり,学校教育のみならず地. である。その後全国へき地教育研究連盟のへき地特性の. 域の教育力や家庭の教育と連携しながら教育活動を展開. 規定も,この. )教育的低調性,. て位置づけることができる。. つの規定を長らく使用している。しかし,. 現段階においては,改めてその特性の評価を再検討しな. できる教育環境や教育活動の総体であると定義づけるこ とができる。. ければならないが,そのためには,へき地の特性が別の 角度から見てどのような教育効果をもたらすのかをとら えていかなければならない。 第一の )自然的悪条件とは,都市的ではないことを. 現代日本の子どもをめぐる生活環境の変化 とへき地教育の可能性. 意味するが,現在自然体験を通じた生きる力の育成が強. このようなへき地の特性の意義を転換しなければなら. 調される中では,自然的悪条件であることを積極的に自. ない背景は,子どもの生活環境が都市化する中で,子ど.
(4) 現代におけるへき地教育の特性とパラダイム転換の可能性. もの発達や人間関係のゆがみが生じ,都市のプラス面よ りもマイナス面が大きな課題となってきたことによる。 したがって,これまで相対的にマイナス面と見られたへ. 現代の教育政策の転換の方向とへき地教育 の可能性. き地の環境は,都市化していないという意味で相対的に. .現代の教育政策答申の展開と転換. プラス面として見直されるようになった。. 近年の教育改革は,急速に展開しているが,その根拠. 以下,現代の子どもの生活環境の一般的な特性と,そ. としている政策答申をとらえておきたい。この近年の政. れに比したへき地の生活環境の特性を対照表的にとらえ. 策答申の基本方向の転換がへき地教育の可能性を高める. ておきたい。. 内容を含んでいるのである。教育政策答申の方向性が具. 現代の子どもの生活環境の特性とへき地の生活環境の可能性. 体的に転換しはじめたのは, の答申を受けたあとの. 年の 臨時教育審議会. 年代後半からである。. 一般的な現代の子どもの生 活環境の特性. 相対的に見たへき地の生活 環境の可能性. 子ども同士のふれあいの機 会の減少. 子どもどうしのふれあいの 存在. 議会答申の抽象的な目標や制度をとらえる内容と異な. 子どもの生活がバーチャル 自然体験等の五感を使った 化 遊びが可能. キュラムの内容まで踏み込んだ提案を行った。具体的な. 同年齢集団による仲間関係. 選,地方の素材を活用した教科の応用性,発見学習,自. 地域の異年齢集団の残存. 年の中央教育審議会答申. 世紀を展望した我が. 国の教育の在り方について は,それまでの中央教育審 り,中教審答申の中ではめずらしく具体的な学校カリ 目指すべき教育課程の事例としては,カリキュラムの厳. 社会体験・ボランティア体 日常的な地区の共同作業・. 然体験学習,農漁業体験の重視,横断的・総合的学習(環. 験の喪失. 奉仕活動が存在. 境学習など),地域奉仕活動・ボランティア,いじめの. 家業手伝いの希少さ. 家業手伝いの残存. 問題に対する地域と連携した対応, 高齢化社会への対応,. 生活を通じた高齢者との日 常的なふれあい. 異年齢の教育集団,等の必要性を提起している。. 高齢者との交流の欠如 親同士の人間関係の孤立化. 親同士の人間関係の残存. およびへき地教育の特性を示すものであり,へき地教育. 少子化・核家族化. 複数兄弟姉妹・多世代家族. の特性を積極的に生かせば,現代の改革方針を先取りで. 過保護・過干渉. 適度な保護と干渉. 塾等の過度の受験競争. ゆとりある教育. 言語のみによる教育. 体験をともなった教育. 系統学習・一斉授業の展開. 統合型カリキュラムの残存. (現文部科学省)だけの対応では,間に合わない項目が. 学校行事の削減. 豊富な学校行事. 多いために,政府全体の答申として教育改革の方向性が. これらの項目は,いずれも先に見たようなへき地環境. きる可能性を有している。この. 年の中央教育審議会. 答申を補完する答申等がその後連続的に提起されたが, 以下それをとらえておきたい。 年の政府の. 教育改革プログラム. では,文部省. 提案された。この中で強調されている項目は,学校外体 以上の表を見て分かるように,生活の都市化・近代化. 験活動の推進であるが,この項目は,体験学習の内容に. の中で,子どもが自然や遊びを通した体験的な活動を展. よっては,文部省の所轄施設では十分対応できない。例. 開するというよりも,バーチャルな世界に入り込んで. えば,農林漁業体験や環境保全体験や福祉体験などは,. いったことが大きな環境変化となっている。その結果,. それぞれの所轄官庁の専門施設があり,その所轄官庁の. 子どもどうしの人間関係が希薄化するとともに, 一方で,. 協力を得なければ推進できないのである。 年の中央教育審議会答申. 親との関係だけが濃密的になり,過保護・過干渉が展開. 新しい時代を拓く心を. するようなっている。またこれまで,模倣学習の存在で. 育てるために では,正義感・倫理観・思いやりを育て. あった親同士の関係や地域での人間関係が希薄化し,そ. る教育の重要性を指摘した。そのために,地域社会の力. のことが子ども同士の多様な人間関係も縮小および希薄. を教育に生かすとともに,家庭の役割を強調している。. 化させる結果となっている。. また異年齢集団や自然体験活動も重視し,その事例とし. このような中で,教育政策の課題も,あらためて,子 どもの都市的な生活環境で失われた,かつての農村的な 環境を取り戻そうとしている。政策の転換方向について は,次にとらえておきたい。. て山村留学や長期自然体験活動の重要性も答申されてい る。 また同じく. 年の中央教育審議会答申. 今後の地方. 教育行政の在り方について では,地域コミュニティの 育成と,開かれた学校づくりを提起している。すなわち 地域と学校が相互に協力しあいながら,相互に持つ力を.
(5) 玉 井 康 之. 補い合い,特色ある地域づくり・学校づくりを進めるこ. 流や植林など生態系の維持と生命の育成に関わる活動を. とを目指すものである。また地域性にあったカリキュラ. 環境教育の一環として実施することが重要になってい. ムを作るためにも,地方教育行政の権限を重視し,地域. る。環境教育の活動は自然と関係するものが多いため,. にあった独自の教育施策を勧めている。. これまで, へき地の学校等で実施されている活動が多い。. 年の生涯学習審議会. 生活体験・自然体験が日本. 第四に,生活体験学習・自然体験学習の推進である。. の子どもの心を育む 青少年の生きる力を育む地域社会. 生活体験や自然体験は,自律精神・忍耐力・行動力・社. では,自然体験活動やお手伝いが. 会性等を育成する上で重要な活動であるが,そのため異. 多い子どもの方が,他人への奉仕的精神や忍耐力やいじ. 年齢集団による生活体験や自然体験を伴ったキャンプ活. めを止めるなどの正義感が強いこと等を統計的な数字を. 動等が勧められている。これらの体験活動もこれまでへ. 用いて明らかにした。したがって生きる力を培うために. き地の学校で実施されている学校が多い。. の充実方策について. も,自然体験や生活体験を行うことが重要だということ である。. 労体験学習は,働くことの重要性を実感的に認識し,社 年に教育課. 会的な厳しさ等の視野を広げていくものである。このた. や体験的な活動を. めに,田植え・収穫等の農作業体験や,前浜漁・採卵等. これらの一連の答申が伏線となって, 程審議会によって, 総合的な学習. 月に完全実施さ. の漁業体験や,中小企業等での勤労体験などが実施され. 月以降は,学校教育も地域社会・体験活. ているが,これらも農村等で地域産業を生かして実施し. 含んだ新教育課程が提起され, れた。. 第五に,農作業などの勤労体験学習の推進である。勤. 年. 年. 動・自然環境等を重視する新しい段階に入っているので ある。. ている学校が多い。 第六に,高齢者とのふれ合いやボランティア活動の推 進である。地域の公共奉仕活動や介護等のボランティア. .現代の教育政策の基本的方策とへき地教育の可能性. も,社会性を育成する上で重要な活動である。へき地で. 地域社会・体験活動・自然環境等を重視する現代の教. は,ボランティア活動と称さなくとも,日常的に高齢者. 育政策の具体化は,政策答申だけでなく,文部科学省の. と交流したり,地域の共同作業等で協力しており,すで. 教育改革レインボープラン や 全国子どもプラン(新. に実施しているこれらの活動を教育活動の中に位置づけ. 生子どもプラン) などの事業を通じて次々と具体的な 施策が提起されているが,これらの項目の柱として重要 になる政策課題は,次の つの項目である。. ることができる。 第七に,密接な人間関係の育成と心の教育の推進であ る。密接な人間関係の育成は,子ども同士はむろんのこ. 第一に,地域に根ざした学校づくりや学校開放の推進. と,親と子の関係や,地域住民と子どもとの関係や,教. である。これは,教科・特別活動・道徳教育・総合的な. 師と子どもとの関係を総合的に含んでいる。へき地の学. 学習・行事などあらゆる学校の教育課程や行事を通じ. 校は,人数が少ないために,一般的に校則が少なく,画. て,地域と結びつこうとするものである。したがって,. 一的な生徒指導や生徒管理よりも個々の子どもに応じた. 以前の学校で多く展開した体育館などの施設開放に留ま. 指導が展開している。また地域の行事・体験活動等を通. るものではない。このような学校と地域の結びつきも,. じて人と人との結びつきも深く,そのような人間関係を. へき地校の方が市街地の学校よりも結びつける条件があ. いっそう強めていける条件がある。. るし,また実際に多方面にわたって結びついている。. 以上の. つの項目が,現代の政策の具体的な重点政策. 第二に,地域素材・地域資源を生かしたカリキュラム. となる。いずれも新しい政策課題であるが,かつてはど. づくりの推進である。これまでもへき地では,お祭りや. この地域においても存在していた内容である。しかし,. 収穫祭・農林漁業祭等の地域産業と関わる地域行事や体. 経済成長を経て都市的な生活様式になっていく中で,子. 験学習行事が多い。これらは,地域を生かした教育課程. どもの生活環境にゆがみが生じてきて,改めてこれらの. として,学校のカリキュラムに組み込むことができる。. 環境づくりが政策の課題となってきたのである。これら. またへき地では,ふるさと学習をはじめ,地域の素材を. の教育政策の基本的方策は,現時点でも,へき地の中に. 体験学習や地域調べ学習として活用してきた伝統があ. 残存している点であり,またそれを実際に生かして展開. り,これらの活動に総合的な学習の方法を含めていけば,. することができる可能性を有していると言える。した. 新たな教育課程の創造に対応していくことができる。. がって,へき地は,現代の教育改革政策の中での先進的. 第三に,地球環境危機に起因した地域環境教育の推進 である。この環境教育は,地球環境問題を視野に入れな がらも,足下の地域で何かしらの環境保全に関する行動 を起こすことが課題となっている。そのため,稚魚の放. な実践事例になりうる可能性を有している。.
(6) 現代におけるへき地教育の特性とパラダイム転換の可能性. 第三に,すでに見たように,現代の教育政策もへき地. おわりにーへき地教育のパラダイム転換の 可能性と課題. の良さを展開する内容に変化しているため,教育政策課. 以上見てきたように,へき地の語義の由来からくるマ. 的な提案の中には,市街地よりもへき地の方で取り入れ. イナスイメージの転換の必要性をとらえてきた。現代の. やすいものが多い。またすでにへき地の学校・地域で実. 子どもの生活環境からすれば,都市のマイナス環境の側. 施しているものも多い。そのような政策課題の内容をへ. 面が大きくなり,その結果へき地教育の積極的な可能性. き地の改革の積極面として意識化していくことである。. が存在していることをとらえた。また近年の政策の大き. このように,へき地ですでに実施していたり取り入れら. な課題もまたへき地の特性を再度復活するような方向性. れる教育活動を認識し,また実行していくことで,へき. を有していることをとらえてきた。このように,へき地. 地教育は日本の教育改革の先進地として位置づけること. の環境は,都会に比して物質的な側面での格差があった. ができる。. としても,逆にそれを教育条件として生かしていく可能 性を有している。. 題の先取りを行っていくことである。現代の政策の具体. 第四に,これからの教育課程は,地域性に応じたカリ キュラムや教育活動を創造していくことが重要になる. しかし,へき地の環境の良さはあくまでも可能性で. が,地域を生かした特色あるカリキュラムの創造を積極. あって,自然発生的にそれが発展するものではない。そ. 的に追求していくことである。地域が学校に協力的であ. れを生かすことができる教育の条件は,あくまでも学. るのがへき地の特性であり,心の教育を含めた全人格的. 校・教師の主体的な取り組み如何によるものが大きいこ. な教育活動を地域で実践する条件がへき地には存在して. とも否定できない。その意味では,へき地の環境を積極. いる。へき地の教育では,単に都会の教育内容をへき地. 面として生かす学校・教師の取り組みが不可欠であり,. に持ち込むことが子どもの認識を深めるのではなく,へ. それによってへき地の良さがいっそう顕在化するのであ. き地を深く見つめることで,日本や世界が見えるという. る。. 逆転的な発想で,へき地の地域を生かした特色あるカリ. へき地の環境を積極的な側面として生かしていく条件 は,第一に,教師自身がへき地の積極面を議論し,それ. キュラムを追求していくことが重要である。 これらの. つの姿勢の転換があって,へき地環境の良. を認識していくことである。へき地の学校には,新卒の. さをへき地教育の積極面としていっそう展開していくこ. 教師が多いが,都市部との比較もなく,へき地の学校に. とができる。すでに持っているへき地の良さを生かすこ. 直面すると,へき地教育のマイナス面ばかりが意識され. とができるかどうかは,へき地の学校・教師達の主体的. るようになる。一般的に人間は,プラス面は当たり前と. な取り組みによるのである。これらの意識的な転換を踏. なって意識されないが,マイナス面は,不快感によって. まえたへき地教育の学校運営の課題については,次稿の. 意識されやすい。したがって,教職員がまず意識的に,. 課題とする。. へき地教育のプラス面を議論し,へき地教育のイメージ を意識的に転換していくことが不可欠なのである。 第二に,教師のみならず,子どもに対してもへき地教 育環境の積極面を語り,へき地の良さを認識させていく ことである。その上で,へき地教育の積極面を子ども達 自らが生かしていけるような自信と活動内容を生み出し ていくことである。へき地の積極面を子ども達が認識し ていれば,マイナス面はマイナス面として克服しようと 努力することができる。 一般的にへき地の教師は,へき地の良さを自分で認識 していても,それを子ども達に語ることは少ない。その 一方で,無意識のうちに,へき地のマイナス面を子ども 達に伝え,子どもを都会に出すことがいいことだという メッセージを無意識のうちに伝えている場合が少なくな い。その結果,子ども達は,へき地の学校での良さに自 信を持てないとともに,潜在的に持つ都会へのあこがれ の意識を強くしていき,へき地での学校の活動や地域活 動をだんだん消極的なものにしていくのである。. 参考文献 全国へき地教育研究連盟編. へき地複式教育ハンドブッ. ク ,全国へき地教育研究連盟,. 年.
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