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配偶者等暴力被害におけるカウンセリングの意義

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Academic year: 2021

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(1)Title. 配偶者等暴力被害におけるカウンセリングの意義. Author(s). 佐藤, 由佳利. Citation. 学校臨床心理学研究 : 北海道教育大学大学院教育学研究科学校臨床心理 学専攻研究紀要, 17: 3-10. Issue Date. 2020-03. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/11299. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 配偶者等暴力被害におけるカウンセリングの意義 佐 藤 由佳利*. Significance of Counseling for Victims of Domestic Violence. 要 約 2001年に「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」が制定されて以来,配偶者等 からの暴力(以下DV)は社会的な認知度を高めた.しかし支援については社会的支援が主であり,心 理支援の方法については,未だ途上である. 本論では,A市の配偶者等暴力相談センターにおける3年間のカウンセリング実績を基に,DV被害 者へのカウンセリングがどの段階でどのように必要なのかを考察した.DV被害者は,自分がDVを受け ていると認識してから,別離を考え,離婚へと至るが,その過程でパートナーからの支配を受け続ける. 本当の意味でのDVからの離脱は,クライエントが自分の中の支配の構造から脱却することにある.DV 被害者へのカウンセリングは,その過程を支えることが目標となり,それを達成するには,各段階に必 要な心理支援を認識しながらカウンセラーがクライエントに寄り添っていくことが必要だと論じた.. 1.はじめに. ない状態にあったことが考慮され,執行猶予がつ けられた.これ以前にも児童相談所に母親からの. 2004年の児童虐待防止法改正において,子ども. 虐待相談があったが,その背景にDVがあり,連. の前で配偶者間等の暴力(以下DV)が行われる. 絡が取れないまま母親が殺されて埋められていた. ことは心理的虐待であるとされるようになった.. という事件もあった.. これにより心理的虐待件数はさらに上昇すること. このようにDVと児童虐待の間には密接な関係. となるのと同時に,DVそのものも警察等に通報. がある.父親の暴力は配偶者である母親にも子ど. されることが多くなった.2018年に東京都で5才. もにも及び,どちらが命を落としてもおかしくな. の子どもが父親に殺される事件が起き,これに母. い現状がある.しかしながら,児童虐待は福祉の. 親も加担したとして両親共に起訴された.その後, 立場から厚労省の管轄にあり,DV防止はフェミ 父親からのDVのために母親は心理的に支配され, ニズムの運動によって法案が成立し,内閣府の管 子どもへの暴力を止めたり,児童相談所に相談す. 轄にあるということもあり,その連携は必ずしも. ることが出来なかったことが明らかにされた.. 容易ではない.また子どもの虐待は児童相談所の. 2019年には千葉県で小学校4年生の子どもが,父. 関与があり,社会的認知も高いが,DVは被害者. 親に殺された.母親は傷害ほう助罪で懲役刑と. である女性が自ら助けを求めない限り,第3者が. なっている.この件も子どもへの虐待の前には父. 介入することが難しい.そのため,被害にあって. 親からのDVがあり,心理的に逆らうことが出来. いる女性が助けを求め,暴力の状況から逃げ,被. *. Yukari SATO:北海道教育大学大学院学校臨床心理専攻. キーワード:配偶者等暴力,カウンセリング,被害者支援. 3.

(3) 学校臨床心理学研究 第17号(2019年度). 害女性及び他の家族の安全が守られることが必要. 貶め,自尊心を傷つけるものなど,さまざまであ. である.. る.これもまた児童虐待であれば,親から子ども. 従来,配偶者暴力被害者への支援は身柄の安全. への一方的なものが虐待とされるが,夫婦間では,. を確保することが先決であるため,ケースワーク. 互いに言い合いになる場合も多く,双方が「言葉. が中心であった.しかし物理的な支援だけでは十. の暴力があった」と言い立てることもある.. 分ではないことが分かってきている.本論文では, 配偶者暴力相談センターでは,被害者の緊急時 A市における配偶者暴力相談センターでのカウン. における安全の確保及び一時保護をおこない,場. セリングの実績を通し,別居や離婚によって被害. 合によっては保護命令制度の利用について,ある. を免れることが出来るにも関わらず,家庭内に留. いはその後,自立して生活するために就業の促進,. まり,被害を受け続ける女性に対してカウンセリ. 住宅の確保等について,情報提供,助言,関係機. ングがどのように寄与できるのかを考察した.. 関との連絡調整を行う.その活動は幅広く,途切 れなく自立に向かうことが出来るように支援をし. 1-1.配偶者暴力被害者への支援. ていく.. 2001年に「配偶者からの暴力の防止及び被害者. しかし警察庁のまとめによれば,全国の警察に. の保護等に関する法律」 (以下DV防止法)が制定. 2017年のDV事案に関連する刑法犯等の検挙数は. され,それに基づき配偶者暴力相談センターが各. 8342件で過去最高である.児童虐待の通報のよう. 地に設置され始めた.2019年4月時点では,全国. に,社会に周知されてきたから増加しているとい. に287カ所が設置されている.その後,何度かDV. う面もあるが,実際に配偶者間の殺人も殺人未遂. 防止法は改正され,2014年の改正により婚姻によ. も増えていることをみれば,実数そのものが増え. る共同生活を営んでいないものにも本法が適用さ. ていると考えられる.DV防止法制定により,支. れることとなった.ここでは 「配偶者からの暴力」. 援体制は整ってきているのに,被害者数は減少し. とは,身体的暴力又はこれに準ずる心身に有害な. ていない.この背景に,被害者が相談機関につな. 影響を及ぼすものと定義されている.これは児童. がっていないことがある.内閣府の調査(2018). 虐待の防止等に関する法律においての定義が身体. によれば,なんらかのDVを受けながら,だれに. 的暴力,性的暴力,ネグレクト,心理的暴力と明. も相談していない人が48.9%と半数近い.相談し. 文化されているのとは異なり,身体的暴力に重点. た被害者も,その多くは家族・親戚,友人・知人. が置かれている.内閣府男女共同参画局はホーム. であり,専門家や警察,配偶者暴力相談センター. ページ上で「暴力の形態」として,身体的なもの, への相談はわずかである. 精神的なもの,性的なものと区分してその実態を. 内閣府も,各地方行政機関も相談機関を案内す. 説明しているが,法文化されないところにDVの. るリーフレットやカードを配布し,相談しやすい. 難しさと特徴が現れているともいえよう.. 環境を提供しており,相談は増えてはいるものの,. すなわち,対象が児童であれば,性的行為はそ. 未だ深刻な被害者に届いていない実態がある.. れ自体が虐待であるが,配偶者間の性的暴力では, 強制性行罪にあたるかどうかという判断となり,. 1-2.DV被害者支援の課題. 一般の性被害以上の難しさがある.精神的暴力の. 様々な暴力を受けている被害者を加害者の手か. 中には経済面での暴力も含まれる.生活費を渡さ. ら守ることが,DV支援の基本である.そのため,. ない,仕事を強要する,あるいは逆に仕事に行か. 支援のためには,まず相談機関等の外部機関につ. せないというものであるが,こうした経済面は,. ながること,次に被害者(クライエント)自身が. 健全な夫婦関係であれば話し合いで解決すべきと. 自分の判断で自分の人生を構築できるようになる. ころであり,それがなされない問題がどこにある. ことが次のステップである.. のかの判断も難しいところである.精神的暴力の. 増井(2019)は,DV被害者支援には知識と技. 範囲は広く,行動をチェックして拘束するもの,. 術が必要であり,その知識と技術を心理的支援と. 交友関係を禁止するもの,あるいはまた侮辱して. ケースワーク(ケースマネージメント)が両輪で 4.

(4) 配偶者等暴力被害におけるカウンセリングの意義. 支えているとする.ケースワークによる物理的ス. ウンセリングを希望した女性であった.希望者が. テージと心理支援による心理ステージに分け,心. あった場合には,センターで面談をし,その後,. 理ステージⅠは離別の決意がない,もしくは迷っ. カウンセラーを交えてケース会議を行う.スタッ. ていたり揺れている状況としている.ステージⅡ. フ間の合意を得て,カウンセリングの予約を入れ. は離別の決意がある状況で「現状や加害者との生. る.面接回数は5回までとしている.. 活を続ける自分自身に対し限界の限界を超えたと. X年4月からX+2年4月までに52件のカウン. いう被害者の強い内的感覚」である「決定的底打. セリングを受理している.内,一件は加害者であっ. ち実感」により導かれる(増井 2011)としてい. たため,統計からははずしている.4件はデート. る.. DVであり,DV防止法の定義からははずれるが,. 土岐・藤森(2013)は,DV(土岐等はIPVと. 心理規制としては同じところが多いため,統計か. いう言葉を使用しているが,本論ではDVに統一. らははずしていない.. した)被害率が減らないと同時に,一時保護施設. 表1にはA市配偶者等暴力防止センターにてX. における保護期間終了後,DV関係に戻ってしま. 年よりX+2年の3年間にカウンセリングを行っ. う女性が多くいることを指摘している.日本では. た件数を示した.また面接回数別の中断率を現し. 公的な保護施設やNPO等が運営しているシェル. た.面接回数別でみると1回のみで中断した人が. ターからDV関係に戻る例がどのくらいいるかは. 最も多い.逆に5回まで継続した人はほとんどが. 調査されていないが,アメリカの研究では,支援. 終結にいたっている.なお,面接回数が5回と決. を求めてきた女性の50%が支援を受けたのちに虐. まっているので,4回まで継続した後,残った1. 待したパートナーの元に戻るという.. 回を取っておく人も多く,4回が終了した時点で. なぜ,せっかくDV関係のパートナーから逃げ. 「5回目は改めて連絡します」という人もいるこ. ながら,再び同じ関係に戻るのか.また明らかな. とから,4回面接の人が必ずしも中断であるかど. 虐待関係にありながら,なぜその関係を止めよう. うかは不明である.. としないのか.これについては諸説あり,土岐・ 藤森(2013)がIPV関係終結・継続の決定プロセ. 表1 A市配偶者等暴力防止センターにおけるカウ ンセリング総数. スに関する説明モデルとして「学習性無力感」 「ト ラウマティック・ボンディング」 「理由ある行為」. 面接回数. 「心理的罠」 「インベストメント・モデル」 「2段. 1. 21. 13. 8. 61.9%. 階意志決定モデル」の6つの理論を提示し,比較. 2. 9. 7. 2. 77.8%. 検討している.土岐等(2013)は,多くの理論は. 3. 6. 2. 4. 33.3%. 4. 4. 2. 2. 50.0%. 5. 11. 1. 10. 9.1%. 51. 25. 26. 暴力により被害女性が合理的な判断が出来ない特 殊な認知的反応をすることが前提となっているの. 計. に対し,インベストメント・モデルはIPV被害者. 件数. 中断. 終結. 中断率. もそれぞれの状況に応じて合理的判断が出来るも のと考え,より主体的な存在としてエンパワーし. DV相談の場合,特にDVのパートナーと同居し. ていけるとして,インベストメント・モデルの実. ていると,無断キャンセルの際にも,こちらから. 証的研究を続けている(2016,2017) .. 連絡することが出来ない.またカウンセリングの 日が平日なので,就職が決まると物理的に来談が. 2.A市における配偶者等暴力相談センター におけるカウンセリング. 困難になり,中断しやすい.これらの事情が中断 率を高くしている理由と思われる.従って物理的 な自立が進むことが,逆にカウンセリングの中断 を招く可能性もある.. A市では,X年度より週1回2コマのカウンセ. リング体制を始めた.対象となるクライエントは, 表2にはどのような暴力であったかの種類を示 している.DV防止法では,身体的暴力に限定し. A市配偶者等暴力防止センターに相談をした,カ 5.

(5) 学校臨床心理学研究 第17号(2019年度). ており,内閣府は,身体的なもの,精神的なもの, いない,既に別居しており離婚の用意をしている 等が,考慮中に含まれ,11名である.. 性的なものに分類しており,経済的暴力は心理的 暴力に含んでいるが,本統計では経済的暴力の比 重が高いと考え,心理的暴力から分けて4分類と. 表3 初回時に示されたクライエントとパートナー との関係. した.身体的暴力は,物理的に力を行使するもの で,殴る,ける,ものを投げる,首をしめる,髪. 現在の状態. 人数. を引っ張る,刃物などの凶器を突きつける等であ. 考慮中. る.心理的暴力は何らかのいわゆる言葉の暴力 「お. 調停中・裁判中. 前は無能だ」 「だれにも好かれない」 「子育てもろ. 非. 17. くに出来ないのか」というような人格否定や被害. 離婚. 10. 者の自尊心を傷つけるような発言をしている場合,. 11. デートDV. 5 計. 人の前で恥をかかせる,実家に行かせない,友人. 8. 51. との付き合いをさせない,大切なものを壊す,子 どもに危害を加えると脅す,言葉で暴力を振るう. 初回時であるので,継続中に別居したり調停を. と脅すなど多岐にわたる.経済的暴力は,生活費. 始めた人もいる.デートDVを含めたのは,結婚. を渡さない,妻が働くことを禁じる,妻に働くこ. 前にデートDVがあり,連続性のある人がいるこ. とを強要する,自分の収入を明かさない,貯金通. と,同棲をしていたり,同棲と別居を繰り返して. 帳やカード等の家の資産を妻に明かさない等を含. いたり,パートナーがクライエントの家に居つい. む.性的暴力は合意のない性行為をする,ポルノ. てしまったりして,厳密に事実婚と区別すること. 等を無理に見せる,避妊に協力しない,中絶を強. が難しかったことによる.かなりのデートDVに. 要する等である.. 監禁されたという訴えがあり,婚姻していないが 故に拘束がきつくなる傾向もあったので,DVの 本質は婚姻に限らないと考え,ここに含めた.. 表2 カウンセリングで語られた暴力の種類 暴力の種類 身 体 心 理 経 済 性 的. 離婚を考えていない人については,夫婦関係の. 人数. 修復可能性がある状態の人から,既に相当のDV. 20 45 24 6. があり,警察の関与などもありながら離婚を考慮 しない人,高齢であるため,今更離婚をする必要 性を考えていない人など,さまざまである.. カウンセリングの中で語られた種類であるので, 3.考 察 実際とはずれている可能性もある.DVがある以 上,心理的暴力は必須であると考えられるが,そ. 3-1.段階ごとにみるカウンセリングの必要性. れを語らない人もいた.また性的な暴力は自発的. 増井(2011)は心理支援による心理ステージを. に語る人が少ないので,暗数がかなりあるとも推. 二つに分け,ステージⅠは離別の決意がない,も. 測される.より正確に把握するには,あらかじめ. しくは迷っていたり揺れている状況,ステージⅡ. アセスメントシートを用意してチェックしてもら. は離別の決意がある状況としている.しかし,カ. う必要があるが,その事自体が侵襲的であること. ウンセリングにおいてはステージⅠの時期が長く,. も考慮しなくてはならない.. むしろステージⅡに至ることがカウンセリングの. 表3には,面接初回時のクライエントとパート. 目的ともいえる.従ってステージⅠとⅡの間には,. ナーとの関係を示した.既に離婚している人が10. より詳しい分別が必要であり,それぞれの段階で. 名,離婚を考えていない人が17名,調停や裁判を. 必要な心理支援も異なると考えられる.. している人が8名,離婚を考えているが踏み切れ. 図にカウンセリングに結びついてからの流れに. ない,調停に出そうとしているが未だ申請をして. ついて示した.この流れは必ずしも, 「DVである 6.

(6) 配偶者等暴力被害におけるカウンセリングの意義. と認識する」ところから始まるわけではない.自. れは,相手に何か要求をしても無駄だという学習. 分がDVを受けていると最初から認識している人. のために,自分が変わる方が楽だという結論に. もいれば,周囲から言われて認識する人も,イン. なっているためもある.そのため,現パートナー. ターネット等のチェック項目で認識する人もいる. と出会う前とは,クライエントの人格は相当,変 この段階ではカウンセリングで「これはDVです. 化している場合が多い.カウンセリングで,クラ. か」と質問してくる人も多い.これに対しては,. イエントが元々,どのような人であったのか,ど. パートナーとの関係で何が起きているのか,どの. のような生活をしていて,どのような対人関係を. ような関係であるのかを明確にしていくと, 「や. もっていたのかを聞いていくと,自分がDVの関. はりこれはDVですね」とクライエント自らが答. 係によりどんな影響を受けて変質してきたのかに. えることが多い.周囲との関係が切れている場合. 気づくようになる.自ら, 「こんな私ではなかった」. も多く,比較する対象すらない人もいるが,両親. と語り,DVにより歪められた自分の在り方に気. の夫婦関係,兄弟姉妹の夫婦関係なども参考にし. づくようになる.. ながら,自分のパートナーとの関係を見直しても. 長年のDVの影響により,クライエントは自己. らう.. 評価が著しく下がっている.この歪んだ認知を,今, 出来ていること,過去に出来ていたことを聞きな がら,修正していくと,行きつ戻りつではあるが, 次第に自己像が変わっていき, 「自己認識の変化」 に至る.DV被害者は解離している場合も多いの で,一旦,「私は出来る」という認識をもっても, 次の瞬間に「私は出来ない」に変わることもある. クライエントの無力感に飲み込まれないように, カウンセラーは,出来るクライエントを信頼して 寄り添っていくことが必要である.この時期は長 く続くことも多く, 「私が悪いからこうなった」 という罪悪感に逃げ込みがちである.自ら変化を 起こすよりも,「私が悪いから私が耐える」「私が 変われば何とかなる」を選択しがちである. クライエントは長年,パートナーに変わってほ しい,明るい家庭を築きたいと我慢と努力を重ね てきている.離別への決意は,これらの努力が無 駄であったことを意味し,喪失感を伴う.「今ま で何をしてきたのか」 「もっと早くになぜしなかっ たのか,いくらでも機会はあったのに」という後. 図 DVからの離脱へのプロセス. 悔の念を述べることも多い.パートナーの意向に 次に, 「DVの影響について認識する」段階であ. 添うことだけを考えてきたクライエントには,離. る.多くのDV被害者は,パートナーとの関係を. 別という自分の意志を通すことは困難である. 「お. よしとはしていないが,それを変えるためには,. 前の決断は間違えている」 「お前には何も出来な. 自分が何らかの努力をしなくてはならないと考え. い」 「一人でなんか暮らせない」等の心理的暴力. ている.ほとんどのエネルギーが相手を怒らせな. に洗脳されてきたクライエントにとって,離別と. い,快適に過ごさせるために使っており,自分が. は一人で歩きだすことであり,強い不安を抱える. 何を考え,何を感じているのかが分からなくなっ. ことは当然である.カウンセラーは,さまざまな. ている.また関係が悪い原因が自分にあると考え, 社会資源との連携や,人とのつながりを作ること をグローバルに考えながら,クライエントを支え. 自分が変わらなくてはならないと考えている.こ 7.

(7) 学校臨床心理学研究 第17号(2019年度). ていく時期である.. なのにも関わらず,これらに忙殺されることは,. こうした時期に,クライエントが周囲の人たち. クライエントにとって実際につらいことである.. とどのような関係をもっているかは重要になる.. 「帰りたい」という嘆きは,サポートしてくれて. 特に原家族との関係は重要である.幼少期より両. いる友人や家族をうんざりさせることもあり,離. 親との関係が悪いクライエントもいるし,パート. れてしまうこともある.まして何度も別居と同居. ナーによって実家との関係を分断されたクライエ. を繰り返している場合には,周囲から見捨てられ. ントもいる.自分が受けた被害を詳しく話せてい. ていることもある.この時期,カウンセラーは一. ない人は多い.この時期には,実家との再統合も. 人で大人としての責任を負い,自律していくクラ. 視野に入れながら進めていく.幼少期から母子関. イエントを支え,励まし,二律背反の考えを受け. 係が悪かったにも関わらず,受けている暴力を全. 入れ,批判せずに受け入れていくことが必要であ. て話したら,母親がサポートしてくれて別離に進. る.. んだ場合もある.結婚生活が長いクライエントほ. 調停や裁判が始まると,この時点で諦めるパー. ど,レジリエンスが高いことが多い. 「私だから. トナーもいるが,執着がひどくなるパートナーも. 耐えられた」ことに誇りを持っている場合もある. いて,電話やメールが頻繁に来ては,なんとか家 に帰そうとする.これに負けないようにクライエ. 「別離を考える」ことは,努力と忍耐で過ごして. きた家庭を捨てることは,大きな価値変換であり, ントを励ましていくことがカウンセラーの役割と 相当な決心がいる.. なる.カウンセリングは週1回なので,いつでも. 人は,今いる環境が嫌だから環境を変えること. 電話出来るところを用意しておくことも必要であ. に踏み切るわけではなく,環境を変えたら,より. る.クライエントは人に頼らない生活をしてきて. 良い変化があると思えるから環境を変える.住居. いるので,相談することが苦手である.いつでも. のこと,金銭的なこと,人とのつながり等,準備. 相談していい,場合によっては夜中でも電話出来. が必要である.特に子どもがいる場合には,転校. る先があるかどうか等の確認をしておく.. をさせるかどうか,学校の先生に実情を伝えて協. 本当は元の家庭にいた方が良かったのではない. 力を要請するかどうか.多くの人に実情を伝え,. か,矢も楯もたまらず帰りたくなるという訴えは,. 味方を増やし,心理的にも物理的にも守ってもら. 離婚後も続く.これが終わるのは,DV支配から. うことが必要なのだが,そう考えるかどうかも別. の離脱が行われた時であり,これが本当のカウン. 離を決心するかどうかに影響する.. セリングの終結となる.別離を考え出した時に,. 同居しながらの離婚手続きは難しいので,まず. これが起こる人もいれば,離婚後長く,まだ離脱. 「別居」となる.多くのDV被害者は,一旦,別. 出来ない人もいる.一つ一つの言動が,今はいな. 居あるいは離婚しても,元の家庭に戻ってしまう. いパートナーの影によって動かされている人もい. ことが知られている.別居を何度も繰り返してい. る.今はいないパートナーの姿を,職場の上司や. る人も多い.別居を維持していけるように支える. 友人に重ねて脅える人もいる.これらを指摘して. ことは,カウンセリングの大きな役目となる.別. 「もう,あなたの夫はいないんですよ」 「それは,. 居は安全性の確保になるはずだが,クライエント. 相手に元夫を見ていませんか」と言うと,我に返. は後悔の念を語ることも多い.別居後の空虚感,. るようになる.現実のDVが終わっても,クライ. 無力感,後悔の念を聞いていき, 「こんなはずで. エントの中で被害が繰り返されるのである.この. はなかった」 「こんなことなら, 前の方がましだっ. 幻の支配から離脱することが,DV被害者の心理. た」という訴えに寄り添っていく.全てを支配的. 的援助としては大事なことだと考える.. はパートナーが決めていた状況から,一転して自 分が全てをやらなくてはならない,自分で考えな. 3-2.カウンセリング終結後の支援. くてはならない状況は,クライエントにとってつ. 本調査では5回のカウンセリングの調査結果を. らいものである.また転居や離婚に伴う社会的な. まとめている.しかし本当にDV被害者が回復す. 手続きは煩雑を極め,抑うつ的になっている状態. るためには,より長期の心理支援が必要であるこ 8.

(8) 配偶者等暴力被害におけるカウンセリングの意義. とは言うまでもない.. 今後,一般社会においても,精神医療,福祉分. ト ラ ウ マ 治 療 と し て は,EMDR, ト ラ ウ マ. 野においても,DVへの正しい理解が進むことが. フォーカスCBT,持続的エクスプロージャー等. DV被害者を早期に発見,救助し,PTSDを予防. がエビデンスがあるものとして知られている.こ. することへとつながると考えられる.. うした治療法があることを紹介することはあるが,. 文 献. 実際にクライエントが求めたことはない.初期の 段階では,自分のトラウマと向かい合う段階には. 至っていないこと,生活の立て直しが急務であり, Bancroft. L. (2002). Why dose he do that? Inside 治療に時間を割けない人が多い事,金銭的な困難. the minds of angry and controlling men. 高橋. を伴っていることが多いことなどが理由と思われ. 睦子・中島幸子・山口のり子(訳) (2008) .. る.. DV・虐待加害者の実態を知る.明石書店.. 不眠や抑うつを訴える人も多いことから,精神. 土岐祥子・藤森和美(2013).親密なパートナー. 科や心療内科に通院している場合もある.しかし. からの暴力(IPV)関係を終結するか継続する. クリニックに臨床心理士や公認心理師がいる場合. かの決定に関する研究の概観.学校危機とメン. が少ないため,心理療法へのリファーが難しい.. タルケア,5,50-68.. 主治医にさえDV被害について述べることが出来. 土岐祥子・藤森和美(2016) .日本語版Investment. ていない場合もあり,このような場合には,主治. Model Scaleの信頼性と妥当性の検討:伸逸な. 医への話し方等についても,アドバイスしていく. パートーナーからの暴力関係を終結するか継続. ことが必要となる.. するかの意志決定の側面から.武蔵野大学人間. DV法の中で,配偶者暴力相談支援センター等. 科学研究所年俸年報,5,167-182.. での業務内容として,以下のものがあげられてい. 土岐祥子・藤森和美(2018).親密なパートナー. る.. かあの暴力(IPV)被害者を対象としたインベ. ① 相談(または相談機関の紹介). ストメント・モデルの検証―IPV関係を終結す. ② カウンセリング. るか継続するかの意思決定の側面から―.トラ. ③ 被害者とその同伴者の一時保護. ウマティック・ストレス.16(2).57-67.. ④ 被害者の自立支援のための情報提供と援助. 樋口明子(2017) .配偶者暴力相談支援センター. ⑤ 保護命令制度についての情報提供と援助. での支援.保健の科学,59(7),475-476.. ⑥ 保護施設についての情報提供と援助. 増井香名子(2011).DV被害者は,いかにして暴. ③から⑥が社会的援助であり,①②が心理支援. 力関係からの「脱却」を決意するのか―「決定. となる.本来,①②があって初めて③以降が成り. 的底打ち実感」に至るプロセスと「生き続けて. 立つ.しかし,過去の研究をみても,③以降が中. いる自己」―.社会福祉学,52(2),94-106.. 心になっており,相談やカウンセリングの目的や. 増井香名子(2019).DV被害者の支援の視点―. 方法については述べられていない.一方で臨床心. 「ステージモデル」から理解を深める―.社会. 理学や精神医学では,いくつかのエビデンスのあ. 問題研究.68,117-125.. るトラウマ治療法が知られているが,配偶者暴力. Walker, L, E,. (1979). The battered woman.. 相談支援センターの活動と,これらのトラウマ治. Harper&Row Publisheres. 齋藤学・穂積由利子. 療の間に解離があるように思われる.. (訳)(1997).バタード・ウーマン.金剛出版.. 宮地によれば,トラウマの内,PTSDにまで至 るのは約10%である.そしてPTSDを発症するか どうかは,クライエントの状況,レジリエンス, 周囲のサポート等による.配偶者暴力相談セン ターでのカウンセリングはトラウマ治療の前段階 であるPTSDの予防にあると考える. 9.

(9) 学校臨床心理学研究 第17号(2019年度). SUMMARY Significance of Counseling for Victims of Domestic Violence Yukari SATO (Graduate School of Education, Hokkaido University of Education) Domestic violence (DV) is highly recognized in Japanese society after the “Act on the Prevention of Spousal Violence, and the Protection of Victims” was enacted in 2011. However, methods of providing psychological support have not been examined sufficiently, and in most cases, only social support is currently provided to victims. This study discusses the types of counseling that should be provided to DV victims in different stages, based on the counseling records accumulated at the Spousal Violence Prevention Center. When victims recognize that they are exposed to DV, they start thinking of separation, leading to divorce. However, they continue to be controlled by their partner during the process. They must free themselves from the structure of control to truly recover from DV. Counseling for DV victims should support this process, and counselors must be considerate of their clients and recognize the psychological support that is necessary at each stage.. Key words : Domestic violence, Counseling, Support for victim. 10.

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