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読書への関心を高める実践的指導力の育成-ゲーム感覚で行う手法としての「ビブリオバトル」-

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読書への関心を高める実践的指導力の育成

― ゲーム感覚で行う手法としての「ビブリオバトル」 ―

1.本論の目的と背景  本論では,大学での養成課程における「ビブリオバトル」の演習を用いて,読書 への関心を高める実践的指導力(①選書する力②読みを発信する力③読みを共有し て深める力)の育成について,考察を行う。  学校教育法(昭和22年法律第26号)には,義務教育として行われる普通教育の目 標の一つとして「読書に親しませ,生活に必要な国語を正しく理解し,使用する基 礎的な能力を養うこと」(第21条第5号)が規定されている1)。平成29年版小学校 学習指導要領においても,「主体的・対話的で深い学び」の実現のために,学校図 書館の機能を計画的に利活用し,児童の自主的・自発的な学習活動や読書活動を充 実することが求められている2)。子どもの自主的・自発的な読書を充実させるため には,読書への関心を高め,親しませ,読書を日常化する工夫が大切である。  「読書指導の充実」について,中央教育審議会「教育課程部会国語ワーキンググルー プの審議の取りまとめ」には,次のように記されている。(引用中の下線は論者が 添えた。以下同様)3) 読書は,多くの語彙や多様な表現を通して様々な世界に触れ,これを擬似的に 体験したり知識を獲得したりして,新たなものの見方や考え方に出会うことを 可能にする。このため,読書は,国語科で育成を目指す資質・能力をより高め る重要な活動の一つである。自ら進んで読書をし,読書を通して人生を豊かに しようとする態度を養うために,国語科の学習が読書活動に結び付くよう小・ 中・高等学校を通じて読書指導を改善・充実するとともに,教育課程外の時間 においても,全校一斉の読書活動など子供たちに読書をする習慣が身に付くよ うな取組を推進する必要がある。  「自ら進んで読書をし」「読書をする習慣が身に付くような取組を推進する必要が ある」と記述されているように,児童が自ら読書に親しみ,読書の習慣を身につけ るようにすることが大切である。自ら進んで読書をし,読書を通して様々な世界に 触れ,新しい考えに出会い,人生を豊かにしようとする態度を育てる。読書は,学 習者の自発的で主体的な学習であるべきであろう。  そのためには,教員養成課程段階において,読書への関心を高める実践的指導力 を備えた人材を養成しておくことが重要になる。

德 永 加 代

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2.読書への関心を高める取組  子どもの読書への関心を高める取組について,第四次「子どもの読書活動の推進 に関する基本的な計画」(文部科学省 2018)には,次のように記されている4) 特に高校生の時期の子供の読書への関心を高めるためには,友人等の同世代の 者とのつながりを生かし,子供同士で本を紹介したり話合いや批評したりする 活動が行われることが有効と考えられる。その際,ゲーム感覚で行う手法を取 り入れることも有効である。こうした取組を通じ,「心に残る一冊の本」と出 会う読書のきっかけになるとともに,本の理解を深めることにつなげていくこ とが重要である。本についての話合いや批評をすることは,読む本の幅を広げ るきっかけとなったり,他者の異なる考えを知り,それを受容したり改めて自 分自身の考えを見つめ直す経験ができたりするといった点でも重要なものであ る。  第四次「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」には,このように読書 への関心を高める取組として「子供同士で本を紹介したり話合いや批評したりする 活動」が重視され,「ゲーム感覚で行う手法」が有効であると述べられている。本 について伝え合うことを通して,他者の考えを知り,自分自身の考えを見つめ直す ことにより,読書への関心を高めることが求められている。  稲井(2017)は,本に親しむ習慣をつけるための読書活動について,「読書は個 の営みのため,閉じたままの活動になりがちだが,本の内容を伝え合ったり,感想 を交流したりする対話的な読書活動を取り入れることにより読書の楽しさが相互に 共有できるようになる。」と,述べている5)  これまでも,本の内容を伝え合ったり,感想を交流したりする対話的な読書活動 は行われている。それらをまとめたものが【表1】である。  対話的な読書活動は,読者の感想の交流に重点を置いた活動(読書会,ペア読書, アニマシオン)と,本を紹介することに重点を置いた活動(ブックトーク,ビブリ オバトル)に分けることができる。  読者の感想に重点を置いた活動では,一つの作品に対する多様な読み方,価値観 を知ることができ,作品の新たな魅力を発見するであろう。しかし,自ら本を探す 楽しさや友達同士によるおもしろさや知識を共有することには必ずしもつながらな い。  そこで,自ら選書した本のよさをゲーム感覚で相互に紹介し批評し合う読書活動 であるビブリオバトルに注目したい。

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3.「ビブリオバトル」とは 3.1 「ビブリオバトル」の定義  「ビブリオバトル」とは,おすすめの本一冊を持ち寄り,その本の魅力を紹介し 合う知的書評ゲームである。2007年,京都大学大学院の大学院生だった谷口忠大 (現立命館大学情報理工学部教授)が,輪読会で読む本は自分たちで決めようと考 案した。「人を通して本を知る,本を通して人を知る」のキャッチフレーズの通り, 思いがけない本に出会うことができると同時に,参加者についても知ることができ る。  公式ルールは,次のとおりである6)   1.発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まる。   2.順番に一人5分間で本を紹介する。   3. それぞれの発表の後に参加者全員でその発表に関するディスカッションを 2~3分行う。   4. 全ての発表が終了した後に「どの本が一番読みたくなったか?」を基準と した投票を参加者全員で行い,最多票を集めたものを『チャンプ本』とす る。 【表1】対話的な読書活動 *表の作成にさいして,第四次「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」(文部科学省 2018),日本図 書館情報学会用語辞典編集委員会編『図書館情報学用語事典4版』(丸善 2013)を参照した。 読書活動 内容(特徴) 期待される効果 読書会 数人で集まり,本の感想を話し合う活動である。 その場で同じ本を読む,事前に読んでくる,一冊 の本を順番に読む等,様々な方法がある。 本の新たな魅力に気付き, より深い読書につなげるこ とができる。 ペア読書 二人で読書を行うものであり,家族や他の学年, クラス等様々な単位で一冊の本を読み,感想や意 見を交わす活動である。 読む力の差がある場合も相 手を意識し,本を共有する ことにつなげることができ る。 アニマシオン 子どもたちの参加により行われる読書指導のこ と。物語に意図的に間違いを入れて,あらすじに 関するクイズを行うなど多種多様なプログラムが ある。 読書の楽しさを伝え自主的 に読む力を引き出すことが できる。 ブックトーク 相手に本への興味が湧くような工夫を凝らしなが ら,あるテーマに沿って関連付けて,複数の本を 紹介すること。 テーマから様々なジャンル の本に触れることができ る。 ビブリオバトル 発表者が読んで面白いと思った本を一人5分程度 で紹介し,その発表に関する意見交換を2~3分 程度行う。全ての発表が終了した後に,どの本が 読みたくなったかを参加者の多数決で選ぶ活動で ある。 ゲーム感覚で楽しみながら 本に関心を持つことができ る。

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 「ビブリオバトル普及委員会事務局調べ」によると,2019年4月現在,公立図書 館 296館,大学 265大学,47都道府県における「ビブリオバトル」の開催が確認され, 学校や地域などにも広がりを見せている7)  谷口(2013)は,「ビブリオバトル」には,次の4つの機能があると述べている8)   1.「参加者で本の内容を共有できる」(書誌情報共有機能)   2.「スピーチの訓練になる」(スピーチ能力向上機能)   3.「いい本が見つかる」(良書探索機能)   4.「お互いの理解が深まる」(コミュニティ開発機能)  この4つの機能のうち,「書誌情報共有機能」に注目したい。「書誌情報共有機能」 と言ったとき,書名,筆者,出版社などの書誌情報の共有をさすのが一般的であろ う。「ビブリオバトル」においては,そうした一般的書誌情報に加え,発表者(バ トラー)の読みが加わる。発表者の読みがあってこその書誌情報ということである。  本を紹介するために読み返しながら自分の中の言葉を引き出して行く。言葉を組 み立てながら,どういう気持ちでページをめくっていったのか,自分でも気が付か なかったことに気づくこともできるであろう。好きな本のよさを言葉にすることを 通して,読みを深めるのである。  さらに,他の発表者の言葉や参加者のディスカッションを通して,新たな本の魅 力に触れ,読書の幅を広げることができる。既読本であっても,自分とは違う観点 を知り,改めてその本のよさを再認識することにつながるといえよう。  つまり,本を紹介し合い批評し合うことを通して,様々な本に出会い,本の内容 を共有することができ,読書への意欲を高めることができるのである。 3.2 読書活動における「ビブリオバトル」の有効性  吉野(2013)は,「ビブリオバトル」の特徴について,次のようにまとめている9) ビブリオバトルは,従来は一人で完結していた「読書」という行為を,複数の 人で気軽に楽しめるように発展させている点と,理解力,コミュニケーション 能力,プレゼンテーション能力を高められる点において,従来の書評会より工 夫された本の楽しみ方であるといえます。(中略)読書のアウトプットとして, 文章を書くより気軽なプレゼンテーションを用い,かつそこにゲーム性を与え ることで,従来は読書に縁遠かった,あるいは本を読む習慣がなかった人達を, 気軽に読書の世界へと誘うことができます。プレゼンテーション能力やコミュ ニケーション能力を育み,読書意欲を高める形で読解力を高められることから, 教育プログラムとしても幅広い展開が期待されています。  一般的に読書は個人的な営みであると考えられているが,「ビブリオバトル」は, それを複数の人をつなぐ形で気軽に楽しめるように発展させている。個人の読みを 他者の読みと重ね合わせたり,対峙したりすることを通して,読み方を学び,読書

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への関心を高めることができるであろう。読書活動にゲーム性を与えることにより, このことが,身構えることなく自然に行われていく。  岡野(2016)は,「ビブリオバトル」における読書について,次のように述べて いる10) ビブリオバトルというゲームは,読書という行為を自分一人だけで完結させて しまうのではなく,複数の人で気軽に楽しめるように公式ルールが設計されて おり,みんなで分かち合えることを楽しむことができる仕組みになっている。 (中略)本の内容についての感想や解釈はもとより,本との出会い方や著者へ の思いなど,発表参加者の個人的な物語が,分かち合おうとするなかで言語化 され,参加者同士で共有されていく。  「ビブリオバトル」はゲーム感覚で,自分が選書した本の面白さ,本の中に広が る豊かな世界を自分の言葉にして語り合う。「みんなで分かち合えることを楽しむ ことができる仕組み」と述べているように,参加者がその本について読みを共有し て深めていくことができる。「ビブリオバトル」では,発表者として本の魅力を語 ることにより,本に対する自分自身の理解を深めていく。同時に,発表を聞いた人 は,発表者の紹介した本を読みたくなるという効果がある。  これらのことを読書への関心を高めるために必要な指導力としてまとめると次の 3点になる。①選書する力②読みを発信する力③読みを共有して深める力 4.「ビブリオバトル」演習を用いた実践的指導力の考察  以下,論者が,学校図書館司書教諭資格科目「読書と豊かな人間性」において, こども学科の大学2回生(45名)を対象に行った「ビブリオバトル」演習を用いた 読書への関心を高める実践的指導力について考察を行っていく。 4.1 「ビブリオバトル」演習の概要 〔活動名〕「絵本ミニ・ビブリオバトル」をしよう 〔活動目標〕 「ビブリオバトル」演習を通して,読書への関心を高める実践的指導力 を身につける。 〔演習過程〕具体的な演習過程は,【表2】のとおりである。  「ビブリオバトル」を知っている学生は45人中22名,経験したことのある学生は, 11名であった。約半数の学生が知っており,3分の1の学生が経験している。授業 においてだけでなく,公共図書館主催の「ビブリオバトル」に参加した経験のある 学生もいた。一方,全く知らない学生が3分の2であった。  そこで,「ビブリオバトル」について理解するために,実際の様子を撮影した動 画を見せたり,経験者にビブリオバトルについて自らの経験を語る機会を設けたり した。

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4.2 「ビブリオバトル」の展開  「ビブリオバトル」の公式ルールでは,「一人5分間で本を紹介する。発表の後に 参加者全員でその発表に関するディスカッションを2~3分行う。」であるが,今 回は,「一人3分間で本を紹介する。その後のディスカッション時間を2分間」(「ミ ニ・ビブリオバトル」)とした11)  はじめに,グループ(6人)になって行い,それぞれのグループのチャンプ本(小 学生に一番読ませたい本)を決める。次に,各グループのチャンプ本に選ばれた受 講者が,その本の魅力を語る。そして,決選投票を行い,全体のチャンプ本を決め る。  【表3】は,全体のチャンプ本に選ばれた受講生の発表メモである。  この受講生は,高校生のときにこの絵本に出会っている。すすめられて読んでみ ると子ども向けだと思っていた絵本に,「自分もこの絵本に励まされた」と,高校 生の自分が励まされたという。そのことが選書のポイントになっている。「小学生 に読ませたいおすすめの絵本」というテーマであったが,みんなにも読んでもらい たいとの思いが伝わってくる。  絵本を見せながらあらすじを紹介し,「これを読んで少しでもみんなよりも○○ だからこれができるという考えになって,何かこれをやってみたいというものをぜ ひ見つけてもらいたいと思います。」と,自分がどのような観点からこの絵本を読 んだのかという,自分の本の読み方を語っている。この絵本を読み深め,自分なり に受け止めたメッセージを発信し,絵本の魅力を伝えようとしているといえよう。  「ビブリオバトル」のときに工夫したことについては,次のように振り返っている。  「ストーリーの一連の流れを一通り説明し,大まかな話を理解してもらった後に, 面白いと思う内容を話して,この本に興味を持ってもらえるようにした。ここから, 演習過程 活動内容 「ビブリオバトル」を 知る ・ 「ビブリオバトル」について理解する。 ・ 本を通して伝えたいことを考える。 選書する ・ 小学生に読ませたいおすすめの絵本を探す。 ・ 絵本を比較して評価する。 内容を考える ・ 本との出会い,本の内容,感想,おすすめポイントをメモする。 「ビブリオバトル」を 実施する ・ グループ(6人)になって,発表者は一人3分間でそれぞれのおすす めの本の魅力を語る。その発表に関するディスカッションを2分間行 う。チャンプ本(小学生に一番読ませたい本)をグループ内で選ぶ。 ・ 各グループのチャンプ本に選ばれた発表者が,全体の前でその本の魅 力を一人3分間で語る。その発表に関するディスカッションを2分間 行う。全体のチャンプ本を決定する。 「ビブリオバトル」を 振り返る ・ 「ビブリオバトル」を通して学んだこと,身についた力をまとめる。 【表2】「ビブリオバトル」の演習過程における活動内容

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どのようなことを子どもたちに知ってもらいたいかやどれくらいの年齢の方にぜひ 読んでもらいたいと考えるかを説明し,教育に生かしてもらおうとした。」  「この本に興味を持ってもらえるようにした」というのは,読みたくなった本を 選ぶという「ビブリオバトル」のルールを意識しているからであろう。相手意識を もって,「おもしろそうな本」を選書することも大切になる。さらに「どのような ことを子どもたちに知ってもらいたいか」というように,発表者として他のメンバー に考えてほしいことを訴え,読みを共有しようとしている。「教育に生かしてもら おうとした」という言葉から,教師の立場に立って絵本を選書したことがうかがえ る。  【表4】は【表3】の絵本『まめまめくん』に対する学生の評価である。  「人と違ってもいいのだよという肯定的な気持ちをもたらしてくれる本」「みんな と違ってもいい,好きなことをやっていいと前向きになれる絵本」のように強いメッ セージ性を感じている。発表者が,紹介した絵本の内容をどのように読み取ったの かという感想や批評の言葉を共有することができているといえよう。  さらに,「大人にも考えさせる絵本」「大人にも分かってほしいメッセージがある」 のように,それぞれが教師の立場で考えを深めようとしていることが伝わってくる。  このように,聞き手が興味を持ってくれそうなおすすめの本を選ぶ,その本の魅 力を自分の言葉にして語る,本の世界を共有することを通して,読書への関心を高 めることができよう。 書誌情報 書名『まめまめくん』 文:デヴィッド・カリ 絵:セバスチャン・ムーラン 訳:ふしみ みさを  出版社:あすなろ書房 2016年 発表メモ 絵本との出会い 高校時代に幼稚園での職場体験学習において,幼稚園の先生に紹介 してもらった。園児にも人気であったが,自分もこの絵本に励まさ れた。 絵本の内容 まめまめくんはマッチ棒の箱で寝ているくらいの小さい男の子。(表 紙を見せながら)まめまめくんの大人になるまでの話が描かれた, とても心温まる絵本。何をしても小さすぎるから,小学校に入って から困り続けてきたまめまめくん。 でも大きくなったら,まめまめくんは,好きなものを職にすること ができた。まめまめくんの小ささだからなることができた仕事は… さて何だったのでしょう。 絵本からのメッ セージに対する 評価 みんなよりも○○だから無理だと思うのを,これを読んで少しでも みんなよりも○○だからこれができるという考えになって,何かこ れをやってみたいというものをぜひ見つけてもらいたいと思いま す。 【表3】全体のチャンプ本に選ばれた受講生の発表メモ

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4.3 「ビブリオバトル」における発表者の語りの考察  【表5】は,グループで選ばれたチャンプ本と発表者のメモ,選ばれた本に対す る評価の記述の一部である。  F班の発表者は,作家に魅力を感じている。ヨシタケシンスケさんの魅力を「子 どもの視点で書いている。どんなことでもこんな風に色々な方向から考えることが できるというメッセージを感じる。」と語っている。  G班の発表者は,「1歳児に読み聞かせをして大受けした絵本」と保育所実習で の経験を紹介した。そうすると「私の保育所では『うさこちゃん』が流行っていた」 など,実習におけるエピソードの交流も行われた。私ならこのように読み聞かせる といった活用についての話にも発展している。  H班とI班の発表者は, その絵本との出会いについて, 家族や先生から読んでもらっ たことがきっかけとなり, 大切な一冊になっていると語っている。その言葉から, 参加者は,発表者の読み聞かせを楽しんでいた幼いときの様子を想像し, 自分の体 験と重ね合わせ, 大いに共感している。また 「いのち」 「死」 というテーマについて, 子どもたちにどのように伝えることができるのかという話に発展する場面もあった。  このように,本との出会い,エビソード,発表者がどのように読み取ったのかと いう感想や評価も,本の魅力を語るためには重要な要素となる。自分の読みをしっ かり伝えることは,ディスカッションの話題提示につながるであろう。 4.4 「ビブリオバトル」演習を通して学んだこと  演習の最後に,「ビブリオバトル」演習を通して,どのようなことを学んだのか, 発表者・聞き手として身についた力を記述させた。発表者と聞き手という両方の立 場を意識して振り返り,読書への関心を高める実践的指導力について考える活動と いえよう。【表6】は,受講生が考えた「ビブリオバトル」演習を通して身につく力, 【表7】は,受講生が学んだこと(受講生の記述を論者がまとめたもの)の一部で ある。 【表4】【表3】の絵本『まめまめくん』に対する評価 受講生 評価の記述 A ○○だからできないではなく,○○やからこそできると考えられるようになる話。人 と違ってもいいのだよという肯定的な気持ちをもたらしてくれる本だと思います。 B 欠点があるからダメではなくて,そういうところがあるからこそ,人よりもできるこ とがあると思えるようになってほしいと迫ってくるように感じた。 C 絵がかわいらしい。金子みすず「みんなちがってみんないい」に似ていると感じた。 みんなと違ってもいい,好きなことをやっていいと前向きになれる絵本でした。 D 人とちがうからこそできることがある。勇気をだそうというメッセージが伝わってく る。大人にも考えさせる絵本だと思う。 E ○○だからできないではなく,○○だからこそということを教えてくれる本。子ども だけでなく,大人にも分かってほしいメッセージがある。

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班 選ばれた絵本 発表者のメモ 選ばれた本に対する評価の記述 F 『なつみはなんにで もなれる』 作・絵:ヨシタケシ ンスケ 出 版 社:PHP 研 究 所 2016年 ・ ヨシタケシンスケの本が好 き。その中でもおすすめの 本。 ・ クイズ形式で物のマネをす るだけでなく,感情の表現 や自分を探すゲーム,仕草 をあてるゲームもある。 ・ 読み終わった後に,読み手 と聞き手の会話につなが る。 ・ クイズになってるところがおもしろ い。子どもが遊べる。お母さんたち も楽しめる。 ・ クイズに一緒に取り組める。子ども ならではのコロコロ変わるところが 面白い。 ・ 子どもの想像力をかきたてる。読み 手と聞き手のコミュニケーションが 取れる。 ・ いったい何を伝えているのか,想像 力や考える力がつく。 G 『もこもこもこ』 作:谷川俊太郎 絵:元永定正 出版社:文研出版 1977年 ・ 保育所実習のときに1歳児 に読み聞かせをして,大受 けした絵本。この本が忘れ られない。 ・ 擬音語のみだが見ていて面 白い。題名を見てどんな絵 本か気になる。 ・ 絵の色もはっきりしていて きれい。 ・ 「しーん」「もこ」とかだけで話がで きている。色もわかりやすい。音を 楽しむ本。 ・ 擬音だけだからこそ広がる世界。ス トーリーがあるのではないか。 ・ 人によってストーリー性があると いったり,ないといったりと,人に よって変わるなと思った。声を変え るだけで雰囲気が変わったりするた め,とても楽しんで読める。 ・ 鮮やかな色と擬音語だけ。声のトー ンを変えると面白い。 H 『いのちのおはなし』 文:日野原重明 絵:村上康成 出版社:講談社 2007年 ・ 幼い頃に母によく読んでも らった。 ・ 日野原先生の考える「いの ち」について医学的な「い のち」ではない「いのち」 について教えてくれる。 ・ 「こころ」のお話は95歳の 先生が語るからこそずっし りと心に響く。 ・ 日野原先生の「命はきみたちの持っ ている時間だといえますよ」という 言葉が印象に残る。 ・ 筆者の人生が感じられる。作者の生 い立ちを知ることが大切である。 ・ 命の長さ,その間に何ができるかを 考えさせられる絵本。 ・ 実際に心臓の音を聞かせることで 「生きていること」を実感させると ころがすごい。 I 『わすれられない  おくりもの』 作・絵:スーザン・ バーレイ 訳:小川仁央 出版社:評論社 1986年 ・ 小学生のとき先生に読んで もらった絵本。 ・ 死んだから終わりではなく て,死んでからも思い出は ぬくもりとして残る。 ・ 人の生き方を伝えている。 ・ 絵が穏やかできれい。 ・ 私は幼稚園のときに読んでもらっ た。死を終わりと考えるのではなく, その人から学んだことを思い出すこ とで命の大切さを学べる。 ・ 人との接し方や身近な人が死ぬこと はどういうことなのかを考えさせて くれる。 ・ アナグマさんに教えてもらったこと を思い出す場面がすてき。 【表5】グループにおいて選ばれた絵本に対する評価

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3つの力 発表者として身につく力 聞き手として身につく力 選書する ・ 本を探す力(18) ・ 相手を意識して本を選ぶ力(8) ・ 新たな本を読もうとする意欲(15)・ 本に興味関心をもつ力(10) ・ 多くの本を知る力(10) 読みを発信 する ・ プレゼンテーション能力(15)・ 本の内容を深く理解する力(10) ・ 本の魅力を言葉にする力(8) ・ 大事な部分をまとめる要約力(7) ・ 自分の気持ちを表現する力(4) ・ 語り手が話す情報を整理して聞く力 (12) ・ 発表の内容を理解する力(8) ・ 疑問や質問を考える力(5) 読みを共有 して深める ・ コミュニケーション能力(10) ・ いろいろな視点から考える力(6) ・ 質問に答える力(5) ・ 語彙力(5) ・ 本の内容についての想像力(11) ・ 人の気持ちを受け止める力(8) ・ 人の考えを受け入れる力(8) ・ 発表者がどのような人物なのかを推測 する力(7) 3つの力 受講生の記述 選書する ・ いろいろな本を知ることができ,自分のおすすめの本の良さも再確認できること。 ・ 本を探す段階で色々な本を読むので読書力がつく。 ・ どんな経緯で本のことを知り,どう感じたか振り返ること。 ・ 自分が小さい時に読んだ本は,今読んでも面白い。もう一度絵本に向き合うこと で,子どもの頃には気付かなかったことや別の視点から見ることで全く違う絵本 に見える。 ・ 自分の経験などを踏まえて話をしているのを聞いて,本の選び方はその時の心情 によると思った。 読みを発信 する ・ 本の内容をより深く理解し,本のよいところを見極め,メッセージや魅力をわか りやすく伝えること。 ・ 自分が好きだと感覚的に感じることを言葉にし,他者に伝えて共感してもらうた めのプロセスを練ること。 ・ 好きな本を紹介しているからこそ,その気持ちがすごく伝わった。本当にその本 が好きでしっかり読んでいないと伝わらないこと。 ・ 何を伝えたいのかを明確にしたうえで,相手に伝えるということの大事さ。 ・ どのようにしたら相手に興味を持ってもらえるか,内容を伝える方法が人によっ て違っている。教科的な観点や人間関係に重点を置いた様々な話し方があること。 読みを共有 して深める ・ 要約された言葉を聞いて,その本の内容を予想すること。本に書かれていること だけではなく,隠されているメッセージを読み取ること。 ・ 自分が考えていることとは違う視点からの意見で,自分が気づかないことを教え てもらい,視野が広がること。 ・ 人によって感動するところが違う。自分の解釈と他人の解釈を互いに受け入れる ことの面白さ。 ・ 人から人へ読みつなげていく。自分が知らない本がたくさんある。それぞれの話 を聞いて最初から読み進めたいと感じた。 ・ 紹介された本を読みたいと思うことによって実際にその本を手に取るので,本を 読む力も養えること。 【表7】「ビブリオバトル」演習を通して受講生が学んだこと 【表6】受講生が考えた「ビブリオバトル」演習を通して身につく力 ( )内の数字は同意見の数を示す。

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 【表6】【表7】をもとに,今回の「ビブリオバトル」演習での成果と,読書の意 欲を高めるために必要な指導力(①選書する力②読みを発信する力③読みを共有し て深める力)との関係について考察する。 ①「選書する」について  「ビブリオバトル」は,発表者が「おもしろそうなおすすめの本」を探してこな ければならない。45名中26名は発表者として選書する力がついたこと,聞き手とし ても35名が「新たな本を読もうとする意欲」など,選書する力につながることを意 識している。  「本を探す段階で色々な本を読むので読書力がつく」と実感しているように,お すすめの本を選ぶために,多読することにより様々な本に出会うことができる。主 体的な読書活動が行われたと言えよう。  「本の選び方はその時の心情による」と述べているように,その人の経験によっ ても変わってくる。なぜその本を選んだのか,本との出会いについてのエピソード は,本の魅力を語るときに大切な要素となることも実感したようである。 ②「読みを発信する」について  「ビブリオバトル」の楽しさは,発表者がどのような読みをしたのかを気軽に発 信することができるところにある。「本当にその本が好きでしっかり読んでいない と伝わらない」と述べているように,自分の読みを発信するためには,まず,本の 内容を理解し,メッセージを読み取り,自分の読みを確認しておくことが必要にな る。相手意識をもった書評の観点からの読みが求められる。発表者として,45名中 10名は「本の内容を深く理解する力」,8名が「本の魅力を言葉にする力」を意識 している。 ③「読みを共有して深める」について  聞き手として45名中11名は「本の内容についての想像力」,8名は「人の気持ち を受け止める力」,「人の考えを受け入れる力」と考えているように「自分の解釈と 他人の解釈を互いに受け入れることの面白さ」「視野が広がること」に気づいてい る。読みを共有して深めているのである。個人の読書からみんなで読む読書として の価値は大きいといえよう。「人から人へ読みつなげていく」と感じているように, 発表者は,聞き手と本をつないでいく役目も持っている。聞き手としては,発表者 の個性的な読みに出会い,新たな本の魅力を知り,読書意欲を高めることになる。  このように,「ビブリオバトル」演習を通して,①選書する②読みを発信する③ 読みを共有して深めることができることを学んでいる。 5.読書への関心を高める実践的指導力育成についての成果と課題  「ビブリオバトル」は,選んできた本の心に残ったエピソードや言葉,あらすじ などを紹介し,本の魅力を伝え,聞いている人たちに「読みたい」と思わせる書評 合戦である。様々な本との出会いを楽しみ,語り合う楽しさを体感することは,知 的好奇心を育み,主体的な読書への橋渡しとなるといえよう。今後ますます学校に おいても広がっていくであろう。

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 これらの考察の結果,受講生は「ビブリオバトル」演習を通して,次の3つの読 書への関心を高める実践的指導力を身につけたことが明らかになった。①選書する 力②読みを発信する力③読みを共有して深める力  今後の課題として,さらに次の2つの指導力を備えておく必要がある。  ①子どもの本や資料を選書する力  ②様々な読書指導法に精通し,最適な場や機会をとらえて指導する力  様々な読書活動を体験することを通して,受講生たちの読書への関心を高める実 践的指導力をさらに高めていきたい。 注 1)文部科学省「学校教育法 第21条第5号」昭和22年法律第26号 2)文部科学省(2017)「小学校学習指導要領総則編」pp23 3)文部科学省(2016)「教育課程部会 国語ワーキンググループにおける審議の 取りまとめについて(報告)」pp11 4)文部科学省(2018)第四次「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」 pp.28-29 5)稲井達也(2017)「本に親しむ習慣をつける読書活動とは 多様な読書単元を 計画的に導入する」『実践国語研究』No.342 pp.44-45 6)知的書評合戦ビブリオバトル公式ウェブサイト 公式ルール   〈http://www.bibliobattle.jp/koushiki-ruru〉2019年9月7日アクセス 7)知的書評合戦ビブリオバトル公式ウェブサイト 普及状況(データ)   〈http://www.bibliobattle.jp/pu-ji-zhuang-kuang-deta〉2019年9月7日アクセ ス 8)谷口忠大(2013)『ビブリオバトル 本を知り人を知る書評ゲーム』文藝春秋 pp.95-97 9)吉野英知(2013)「1 ビブリオバトルを始めよう」ビブリオバトル普及委員 会編著『ビブリオバトル~本を通して人を知る・人を通して本を知る~』一般 社団法人 情報科学技術協会 pp.3-20 10)岡野裕行(2016)「ビブリオバトルを通して読書について考える」『情報の科学 と技術』66巻10号 pp.513-517 11)知的書評合戦ビブリオバトル公式ウェブサイト ミニ・ビブリオバトル   〈http://www.bibliobattle.jp/mini_bibliobattle〉2019年9月7日アクセス 参考文献 綾牧子(2018)「保育者養成におけるビブリオバトルを取り入れた授業実践」『教育 研究所紀要 』第27号 文教大学教育研究所 pp.147-154 安藤友張(2015)「アクティブ・ラーニングとしてのビブリオバトルの可能性-司 書教諭資格科目「読書と豊かな人間性」における教育実践-」『九州国際大学 教養研究』第22巻第1号 九州国際大学教養学会 pp.97-116 

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岩元カオリ(2018)「ビブリオバトル」『学校図書館』第815号 pp.24-25 城野博志(2018)「相互作用を促進する要因としてのビブリオバトルの可能性」『名 古屋学院大学論集.言語・文化篇』第30巻1号 名古屋学院大学総合研究所 pp.51-56 鈴木貴史(2016)「保育者の絵本選択における言語表現重視の傾向とその課題- 保 育者養成課程における絵本ビブリオバトルの実践から-」『帝京科学大学紀要』 第12巻 pp.147-153 谷口忠大(2015)「ビブリオバトルとは何か」『学校図書館』第775号 pp.14-16 ビブリオバトル普及委員会編著(2015)『ビブリオバトル ハンドブック』子ども の未来社 渡邉尚孝(2016)「子どもの心身の発達を促進する絵本の調べ学習と情報交換によ る学習の過程-絵本ミニ・ビブリオバトル実践の教育心理学的視点-」『宮崎 学園短期大学紀要』第9号 宮崎学園短期大学 pp.165-179 (とくなが かよ・帝塚山大学)

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参照

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