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(1)

舶用燃料油の規格と将来

- 舶用機関の次世代燃料への対応

宮 野 春 雄

**

  中 谷 博 司

***

1. はじめに

原油由来の舶用燃料油はこの先どうなるのであろう か.IMO MEPC 58(2008 年 10 月)において,MARPOL 73/78 Annex VI の改正が採択され(決議 MEPC.176(58))硫黄 分規制の大枠が決定された.遅くとも 2025 年までには, 舶用燃料油の硫黄分は一般海域で0.5 %m/m以下に低減 される.また,硫黄分の段階的低減に加え硫黄分以外 の燃料油性状も規制することが IMO において検討され ている.低硫黄化の影響は既に発生しており,今後の 段階的な硫黄分の低減に伴いその影響も深刻化する懸 念がある.従って,これまで以上の広い視点から技術 的な問題や舶用燃料油を取巻く状況の変化を注視する 必要がある.本報では,舶用燃料油の規格と性状を中 心に,これまでの状況をまとめた.

2. ISO 8217 の改正と MARPOL 73/78 Annex VI

2.1 IMO と ISO での審議 安全や環境保全の観点 から硫黄分以外の燃料油性状を規制すべきとの提案は, IMO BLG 第 1 回中間会合 (2006 年 11 月)において, INTERTANKO(国際独立タンカー船主協会)によりなさ れている.INTERTANKO は SOx および PM の低減を目的 とした燃料油の硫黄分低減のプロセスの一つとして, 2010 年以後は全海域で留出油を使用することを提案 した(BLG-WGAP 1/2/5).また,硫黄分以外の性状につ いても ISO 8217:2005 の DMB とほぼ同等とすべきであ ることを提案した(セタン指数は提案値 40 に対し,DMB は 35).BLG 第 2 回中間会合 (2007 年 10 月)では,燃 料油性状について前述の INTERTANKO の提案や,ISO 8217:2005 の性状規格が検討され,また燃料油性状の 検討を ISO に委託すべきか等が審議されている.2008 年 2 月に開催された BLG 12 において,ドイツとノルウ ェーは Annex VI で,船舶の安全,大気環境,機器の性 能,健康被害等を考慮した燃料油性状を規定すべきと 提案しており,燃料油の各性状と安全および環境影響 との関連を記述すると共に,表 1,2 に示す留出油およ び残渣油性状の制限値を提案している (BLG 12/6/21). 表 1 ドイツとノルウェーの提案値 (残渣油) Quality Specification for Marine Heavy Fuel Oil(BLG 12/6/21)

Heavy Fuel Oil Grades Character

istics Unit RMA

30 RMD 80 RME 180 RMF 180 RMG 380 380 RMH RMH 500 RMK 500 RMH 700 RMK 700 Limit Density 50ºC kg/m3 960.0 980.0 985.0 985.0 985.0 985.0 985 1010.0 985.0 1010.0 Max Kinematic Viscosity at 50ºC mm2/s 22.0 50.0 120.0 120.0 240.0 240.0 380.0 380.0 480.0 480.0 Min Pour Point (winter) ºC 0 30 30 30 30 30 30 30 30 30 Max Pour Point (Summer) ºC 6 30 30 30 30 30 30 30 30 30 Max MCR % m/m 10 14 15 20 18 20 20 20 20 20 Max

舶用燃料油の規格と将来

-舶用機関の次世代燃料への対応

宮野 春雄** 中谷 博司* **

Current Standards and Future Perspectives of Marine Fuel Oil -Response towards Development of Next Generation Marine Fuel Oil

Haruo Miyano, Hiroshi Nakatani

Revision of MARPOL 73/78 Annex VI was adopted (resolution MEPC.176(58)) at the IMO MEPC 58 (October 2008), and the framework for the regulation of future sulphur reduction was decided. By 2025 at the latest, the global maximum sulphur content in marine fuel oil will be reduced to less than or equal to 0.5 %m/m. Aside from the phased reduction of sulphur, IMO is considering whether other fuel properties need to be controlled. The effects of the reduction of sulphur in fuel oil have already been felt, and with future step-by-step sulphur reduction, there is concern that these effects will aggravate. Therefore, it is necessary to pay due attention to the changing circumstances regarding marine fuel oil with a wider perspective.

This report mainly describes the situation to date of fuel oil standards and marine fuel oil properties.

*原稿受付 平成 21 年 8 月 21 日

** 正会員 日本油化工業㈱(横浜市戸塚区上矢部町2148-3) ***正会員 日本郵船㈱(東京都千代田区丸の内2-3-2)

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[表 1 続き]

表 2 ドイツとノルウェーの提案値 (留出油) Quality Specification for Marine Distillate Fuel Oil

また,FOEI(Friends of the Earth International) も,Annex VI で硫黄分以外の燃料性状も規定する必要 があることを提案しており,この中で,安全に影響す る項目として,表 3 に示す成分をあげている(BLG 12/6/12). 表 3 FOEI の提案 (BLG 12/6/12) -抜粋- ● Al and Si oxides;

Iron (from tanks on-board bunker barges and bunker tanks onboard the ship itself);

Calcium (Ca), Magnesium (Mg), Zink (Zn), Phosphorus (P) from (recycled) used lubricant oil that is mixed with bunker fuel;

Calcium (Ca) originating from shale oil;

● Sodium (Na) from salt water that is present in the bunker fuel; ● Nickel (Ni) and Vanadium (V) from original crude oil;

● A chemical combined reaction of Vanadium (V) and Sodium (Na) and; ● Metals from Used Lubricant Oil (ULO) that is blended with bunker fuel on shore

or used on board by the vessel;

Acids, caustics and fatty acids derived from vegetable oils and fats; ● Chemicals: Although a complete list of potential chemicals present in bunker fuels

cannot be given, the following chemicals are known to occur in significant amounts: Polypropylene (C3H6)n and polystyrene (CHC6H5-CH2)n; Styrene

Monomer; (Higher) Naphthalene(s); Phenol and higher phenols; - Chlorinated solvents such as perchloroethylene (Cl2C=CCl2), Chloroform (CHCl3), and

methylenechloride (CH2Cl2); PCB’s or Poly Chlorinated Biphenyls.

これらを受けて MEPC 57 (2008 年 3 月)において,硫 黄分以外の燃料油性状についても IMO での検討を開始 することが合意され,ISO に大気環境,船舶の安全, エンジン性能,乗組員の健康に関係する燃料油性状項 目 の 選 定 お よ び そ れ ら の 制 限 値 に 関 す る 提 言 (Recommendations)を作成するよう依頼した.

ISO は IMO からの依頼を受け,ISO 8217 の規格改定 作業部会である ISO/TC28/SC4/WG6 において舶用燃料

油規格の改定作業に着手した.ISO/TC28/SC4/WG6 へは 我国から筆者(宮野)を含め 3 名が委員登録している.

今回の ISO/TC28/SC4/WG6 の目的は 2 つあり,定期的 に行われる ISO 8217 の改訂と IMO MEPC 57 からの依 頼事項に対する報告である.ISO/TC28/SC4/WG6 は,ま ず ISO 8217 の改訂作業を実施し,ISO 8217 の改訂版 を規格化した後,MEPC に報告することを計画した.ISO での規格化に際して通常は 6 段階を経て規格化される が,本件では IMO からの要請に迅速に対応するため, 迅速手続(Fast-Track procedure)で対応することと した.迅速手続では DIS (国際規格原案;Draft International Standard)の回章・投票に 5 ヶ月,FDIS ( 最 終 国 際 規 格 案 ; Final Draft International Standard)の回章・投票に 2 ヶ月を要す.なお,FDIS の段階では規格内容の修正は認められていない.

ISO は MEPC 58 (2008 年 10 月)で,MEPC 57 からの依 頼事項に対する中間報告(MEPC 58/4/1)を行うと共に, 最終報告を改正 Annex VI の発効(2010 年 7 月1日)ま でに行うことを確約した.更に 2009 年 7 月に開催され た MEPC 59 において ISO は 2 回目の中間報告を行った (MEPC 59/4/3).この中間報告では,表 4 に示すように 大気環境や船舶の安全等に関連する燃料油の性状項目 と共に数値が記載されている. 表 4 IMO の第 2 回中間報告 (MEPC 59/4/3) -抜粋-

Characteristic Unit Limit Characteristics applicable to Residual Fuel

Oil Distillate Fuel Oil Density at 15ºC kg/m3 Max 1010.0 900.0

Kinematic Viscosity at 50ºC

(Dependent on ship capability) mm

2/s Max 1200 -

Kinematic Viscosity at 40ºC mm2/s Max - 1.4 to 11.0

Vanadium mg/kg Max 600 - Aluminium plus Silicon mg/kg Max 80 - Cetane Index - Min - 35 Ignition Quality (CCAI) - Max 880 - Fuel Stability % (m/m) Max 0.10 (TSP) 0.10 (TSE) Flash Point ºC ºC Min 60 60 Pour Point ºC Max +40 +6 Water % (V/V) Max 1.0 0.3 Sodium mg/kg Max 100 30 Acid Number mg

KOH/g Max 3.0 0.5 Lubricity HFRR microns Max - 520 Micro Carbon Residue % (m/m) Max 22.0 0.3 Ash % (m/m) Max 0.15 0.01 Sulphur % (m/m) Max As per Annex VI As per Annex VI

Appearance (for transparent fuels) - - - Clear & Bright Used lubricating oil (ULO) Zinc mg/kg Max 15 15

Phosphorus mg/kg Max 15 15 Calcium mg/kg Max 30 30 Hydrogen Sulphide

(This limit reduces the risk of exposure but may not result in a safe ambient working environment for crew health)

mg/kg in liquid Max 2 2 これらの数値に関する ISO の意図は,現在流通して いる舶用燃料油のおおよその最大値(最小値)を示すこ とであるが,この意図に関する説明が不充分であり, 船舶の安全等を考慮した制限値であるとの誤解を招く 恐れがあることから,日本代表団は MEPC 59/4/3 に関 する以下の不具合点を指摘した.

(3)

・提案値は現行の ISO 8217 の制限値よりも緩和されて いるが,何の根拠も示されていない.緩和する場合 には,その根拠を精査した上で設定すべきである. ・着火性について CCAI 880 を推奨しているが,殆どの 燃料油がこの値以下であることから提案値は不適当 であり,またより着火性との相関の高い ECN(推定セ タン価;Estimated Cetane Number) 等の採用を含め て安全性が担保できる指標にすべきである. ・改正 Annex VI では硫黄分の異なる燃料の段階的使用 が予定されており,提案されている 2 分類のみでは 安全性を担保できるとの根拠が示されていないこと から,各成分の制限値は適切な分類方法により複数 のパターンを作成することも検討すべきである. ISO/TC28/SC4/WG6 は,2008 年 3 月から 2009 年 7 月 までに 11 回の作業部会を開催した.ISO 8217 の規格 案である ISO/DIS 8217 は 2009 年 7 月に公開され,2009 年 12 月 17 日まで承認の賛否およびコメントを受け付 けるための投票に付されている.今回の投票終了後に 承認に関する賛否およびコメントをもとに規格案を修 正し,ISO/FDIS 8217 の承認を経て,2010 年春頃に ISO 8217 が規格化される予定である.ISO は,ISO 8217 の 規格化を待って MEPC に受託事項の最終報告をするこ とになる.ISO/DIS 8217 の Table 1,2 を表 5,6 に示 す.なお表 5,6 は前述のとおり改正案であり決定され た規格ではない.今後加筆,修正等がされる可能性が あることに留意されたい. 表 5 ISO/DIS 8217 Table 1 -留出油- 主な改正点は次の通りである. ・バイオ由来成分の混入を禁止した. ・燃料油の分類基準を動粘度以外の性状項目とした. ・留出油と残渣油に硫化水素(H2S)を追記した. ・留出油と残渣油に強酸価および酸価を追記した. ・将来の極低硫黄化を考慮し,留出油に HFRR (High

Frequency Reciprocating Rig)による潤滑性評価を

追記した(Table 1 の Lubricity). ・残渣油に環境グレードである RME を加えた(180cSt). ・残渣油に CCAI を追記した. ・残渣油にナトリウムを追記した. なお RME は,エンジン性能や船内の燃料油処理装置 に悪影響を及ぼさない性状として「舶用燃料重油の低 質化対策指針」(NK, 2008 年 6 月)で推奨されている補 油限界性状値や邦船社の社内スペックに類似している. 表 6 ISO/DIS 8217 Table 2 –残渣油- RMA RMB RMD RME 10 30 80 180 180 380 500 700 380 500 700 Kinematic viscosity at 50 ℃ mm²/s max.10.00 30.00 80.00 180.0 180.0 380.0 500.0 700.0 380.0 500.0 700.0 Density at 15℃ kg/m³ max.920.0 960.0 975.0 991.0 CCAI max. 850 860 860 860

Sulfur mass % max.

Flash point ℃ min. 60.0 60.0 60.0 60.0

Hydrogen sulfide mg/kg max. 2.0 2.0 2.0 2.0 Strong Acid

Number mg KOH/g max. 0.0 0.0 0.0 0.0

Acid Number mg KOH/g max. 1.5 1.5 1.5 1.5 Total Sediment

Accelerated mass % max. 0.10 0.10 0.10 0.10 Carbon residue

–micro method mass % max. 2.50 10.00 14.00 15.00 Pour point (upper)

- winter quality max. 0 0 30 30

- summer quality max. 6 6 30 30

Water Volume% max. 0.30 0.50 0.50 0.50

Ash mass % max.0.040 0.070 0.070 0.070

Vanadium mg/kg max. 50 150 150 150

Sodium mg/kg max. 50 100 100 50

Aluminium

plus silicon mg/kg max. 25 40 40 50

Used lubricating oils (ULO) Zinc max. Phosphorus max. Calcium max. 991.0 1010.0 870 Statutoryrequirements 60.0 2.0 0.0 1.5 0.100 350 100 0.10 18.00 30 60 870 2.0 60.0 0.0 1.5 0.10 20.00 0.50 30 0.50 0.150 450 Category

ISO-F-Characteristic Unit Limit RMG RMK

mg/kg

30 30

30

The fuel shall be free of ULO. A fuel shall be considered to be free of ULO if Calcium and Zinc or Calcium and Phosphorus are at or below the specified limits. Either of these two groups of elements must exceed the specified limits before a fuel shall be deemed to contain ULO.

100 60 15 15 3. ISO 8217 が抱える問題点 3.1 規格値と実燃料油の性状 ISO 8217 は安全性 の概念が不明確であり,また規格値と実際に供給され る燃料油性状値の乖離が極めて大きいという問題を含 んでいると考える.これは制定当初から指摘されてい た問題であるが,ISO 8217 は舶用燃料油の製造および 供給面に重点をおいて制定された規格であり,残念な がら一部の性状を除き規格値の安全性は保証されてい ない.実際に,特に残渣油については規格を満足する 燃料油においても,燃料油に起因する障害が数多く発 生している.穿った見方-あるいは邪推?-をすれば, 世界のどこかでごく稀に供給されるかもしれない劣悪 な燃料油を規格内とするための規格値ともいえる. DNVPS や FOBAS によれば,現行の ISO 8217:2005 の規 格値を超える燃料油が供給される割合は,単一の性状 項目で見た場合でも概ね 1%以下であり,多くの性状項 目では 0.5%以下である.従って,複数の性状項目が規 格値を超える可能性は極めて低いと考えられる. 一方で実際に船舶に供給された燃料油性状の世界的 な平均値は,「舶用燃料重油の低質化対策指針」の補油 限界性状値や邦船社の社内スペックを満足しており, 殆どの船舶では,平均性状としては比較的良質な燃料 油を使用していることになる(表 7).日本郵船㈱の調 査によれば補油限界性状値や邦船社の社内スペックを DMX DMA DMB max. 5.500 6.000 11.00 min. 1.400 2.000 2.000 kg/m3 max. - 890.0 900.0 min. 45 40 35 mass % max. ℃ min. 43 60 60 mg/kg max. 2.00 2.00 2.00 mg KOH/g max. 0.0 0.0 0.0 mg KOH/g max. 0.5 0.5 0.5 mass % max. - - 0.10 g/m3 max. 25 25 25 mass % max. 0.30 0.30 -mass % max. - - 0.30 ℃ max. -16 -

-winter quality ℃ max. - -6 0

summer quality ℃ max. - 0 6

volume% max. - - 0.30

mass % max. 0.010 0.010 0.010

wear Scar

(μm) max. 520 520 520 Strong Acid Number

Acid Number Total sediment existent

Water Ash

Lubricity, corrected wear scar diameter (wsd 1,4) at 60℃ Stability

Carbon residue – micro method on the 10% (V/V) distillation Carbon residue – micro method Cloud point

Pour point (upper)

Characteristics Unit Limit Category

ISO-F-Statutory requirements

Clear & Bright

mm2/s Kinematic viscosity at 40℃ Appearance Density at 15℃ Cetane Index Sulfur Flash point Hydrogen sulfide

(4)

満足する割合は,個々の項目別では 90%弱,全ての項 目を満足する割合は全体の 30%強である.満足率が低 い性状項目は MCR,バナジウム,Al+Si であるが,それ でも 65~80%の満足率である. 表 7 世界で供給された燃料性状の平均値 (DNVPS) 2007-10~2008‐9 本来規格値は安全性を考慮することが前提となって いるが,ISO 8217 の規格値の多くは前述の通り安全性 の概念が明確ではないかあるいは無い.安全性との関 係を考慮した場合,次の 2 つの概念が考えられる.基 本は継続使用してもトラブルが発生しない性状である (補油限界性状値や邦船社の社内スペック等).この場 合,安全性は担保できるがこれを規格限値とした場合 は,燃料油の入手困難,価格の上昇が予想される.た だし,実情は全世界の平均的な性状値である.これに 相対する性状は,安定かつ継続した運転ではないが, とにかく曲がりなりにもエンジンが回る程度の性状で ある.この場合は前記に比較し規格値はかなり緩くな る.ただし,制限値近辺の性状の燃料油を使用した場 合トラブルの発生が容易に予想される.従来の ISO 8217 の残渣油の制限値は製造および供給面に重点を おいて制定されたものであるが,この概念に近いもの と考えられる. 3.2 規格と規則(ルール) 規格であればその引用 の可否は売買契約時に当事者間で決定すればよく,規 格値に不都合があれば別途性状値を決めればよい.ま た,現実として殆どの場合,規格値よりもかなり良質 の燃料油が供給されていることや,燃料油価格の上昇 を懸念すれば,あえて現行の規格値を修正するという 考えもやや薄らぐ.しかし規則となった場合は,問題 は複雑である.規則の制定者は制限値の安全性を担保 する必要があり,また燃料油の供給不安や,価格の上 昇が予想されるからである.なお,現時点では IMO に おいて大気環境や船舶の安全を考慮した燃料油性状 (硫黄分以外)を規則化するかは決定されていない. 4. 低硫黄化による影響 舶用燃料油性状は 2000 年頃までは年々低質下傾向 にあったが,その後 2004 年頃までは比較的安定してい た.しかし最近になって再度低質化する傾向が認めら れる.原因としては,舶用以外での軽質留分の需要増

加と,IMO による SOx 規制があげられる.特に SOx 規 制については,舶用燃料油の硫黄分が段階的に低減さ れることから今後特にこの影響が強くなるものと考え られる.そして低硫黄化に伴うと考えられるいくつか の問題が表面化してきている. 4.1 燃焼性の低下 燃焼性の低下の原因として は,多くの文献で解説されているように,舶用燃料油 の基材として FCC 装置に由来する LCO(Light Cycle Oil)や CLO(Clarified Oil)が使用されていることによ ると考えられる.これらの基材は硫黄分が低いため低 硫黄燃料油に使用されることが多くなっている.しか し残念ながら燃焼性は劣悪な場合が多く,エンジンで の燃焼障害を発生させやすい基材である.なお,エン ジンでの燃焼障害は型式にもよるが FIACN(FIA セタン 価;定容燃焼試験装置 FIA/100-4 で測定したセタン価 相当値)が 20 以下での発生が殆どである. 図 1 および 2 に日本郵船㈱等が 2001 年から 2009 年 前半までに補油した残渣燃料油の FIACN を示す. 図 1 380 cSt 燃料油の FIACN の推移 図 2 硫黄分と FIACN の関係(380, 500cSt) 0 10 20 30 40 50 0 1 2 3 4 5 500cSt 欧州 500cSt アジア 硫黄分 (%m/m) F I A C N 0 10 20 30 40 50 380cSt 欧州 380cSt アジア F I A C N 密度 動粘度 水分 MCR 硫黄分 灰分 V Na Al+Si TSP CCAI kg/m3 mm2/s %v/v %m/m %m/m %m/m mg/kg mg/kg mg/kg %m/m 101-250 974.2 177.4 0.13 11.38 2.23 0.04 78 20 21 0.02 844 251-400 983.8 347.4 0.13 13.1 2.41 0.04 106 20 24 0.02 846 >400 993.3 466.5 0.14 15 2.69 0.05 123 22 24 0.03 852 >100 982.2 316.4 0.13 12.82 2.38 0.04 101 20 24 0.02 846 粘度範囲 380cSt 0 10 20 30 40 50 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 年 F I A C N

(5)

図 1 は 2001 年以後の 380 cSt 燃料油の FIACN の経時 推移であるが,FIACN は年々低下する傾向がある.図 2 は欧州およびアジア地域で供給された 380 および 500 cSt 油の硫黄分と FIACN との関係を示している.FIACN は硫黄分の減少と共に低下する傾向があり,380 cSt 油ではその傾向が強い.なお,地域別では,北米,南 米,欧州では FIACN が低い燃料油が供給される割合が 大きくなっている. 4.2 燃焼性指標 ISO/DIS 8217 の Table 2 では, 動粘度下限値の間接的な設定および燃焼性指標とする ことを目的に CCAI が追加された.一般的に使用される 残渣油の規格値案は RMA10 を除き 860 または 870 であ るが,エンジンでの燃焼障害は CCAI が 840 以上で発生 することから,CCAI は燃焼性指標としては極めて不充 分であり,かえって誤解を招くことになると考えられ る.また,表 8 に示すように CCAI が 860 または 870 を超えるケースは稀でありこれらの数値に設定する意 味は極めて薄い.このような理由から,MEPC 59 (2009 年 7 月)において,日本代表団は ISO の中間報告に対し て CCAI は燃焼性指標としては不適切であることおよ び ECN 等の定容燃焼試験装置による指標の導入を提言 した.当初 ISO/TC28/SC4/WG6 においても燃焼性指標と して ECN の採用が検討されたが,装置の普及率が低く 規格としては一般的ではないとの理由で見送られた. なお,定容燃焼試験装置による燃焼性指標の導入につ いては,ISO/TC28/SC4/WG6 および CIMAC WG Heavy Fuel で,規格への導入に向けて継続的に検討されている.

表 8 動粘度範囲と CCAI の分布, DNVPS

CIAMC WG Heavy Fuel 資料

4.3 Al+Si の増加 低硫黄燃料油の基材である LCO や CLO は FCC 装置に由来することから,これらを使用 した燃料油の Al+Si が増加するといわれている.図 3 に日本郵船㈱が補油した 180~500 cSt 油の地域別の Al+Si 濃度を示すが,硫黄分の低下に伴い Al+Si が増 加する傾向がある.また,図 4 は低硫黄燃料油を使用 している Scandilines (北欧のフェリー会社)のデータ であり,時系列でみた硫黄分と Al+Si の変化を示して いる.硫黄分はほぼ同一であるが Al+Si は年々増加し ており,LCO や CLO の混入率が増加しているものと推 測されている.また,この会社の経験では,低硫黄燃 料油の一般的な特徴としては,Al+Si の増加(平均 5 mg/kg → 30 mg/kg)と密度の上昇が認められたとして いる.高密度であることも LCO や CLO の特徴である. 0 20 40 60 80 0 1 2 3 4 5 欧 州 北 米 アジア 硫黄分 (%m/m) A l + S i (m g/ kg ) 図 3 硫黄分と Al+Si との関係(地域別) 図 4 硫黄分と Al+Si の関係, Scandilines CIAMC WG Heavy Fuel 資料

4.4 特殊な基材の使用 先に紹介した Scandilines が経験した,バルト海で供給された燃料油によるスラ ッジ異常発生例を紹介する.DNVPS の分析によればエ ストニア産と推定されるシェールオイルが 20%以上混 入されていた.エストニアはシェールオイルの有数な 産地であり,その特徴として低硫黄,低粘度,低価格 であることから低硫黄燃料油の基材として使用された ものと考えられる.フェノール類およびカリウムを多 く含み異臭があり,トラブルは清浄機および燃料ポン プで発生した.性状は通常の燃料油の範囲にあるが, 清浄機の分離板にスラッジが異常堆積して運転不能の 状況になった.また,燃料ポンプの異常摩耗が発生し, 寿命が半減した.全てのシェールオイルがこのような 性質を持つわけではないが,今後これまであまり使用 例のない基材の使用が考えられることから何らかの対 策が必要と考えられる.(DNVPS の報告例, CIMAC WG A l + S i ( m g/ kg ) S (% m /m ) 50 40 30 20 10 0 1.0 0.8 0.6 <101 101-250 251-400 >400 835 844 846 856 <840 66.30% 34.80% 19.90% 13.20% >840 33.70% 65.20% 80.10% 86.80% >850 14.90% 35.60% 27.80% 50.70% >855 11.20% 20.00% 0.50% 39.10% >860 8.20% 2.50% 0.30% 30.60% >870 1.09% 0.06% 0.02% 0.03% 08年平均

(6)

Heavy Fuel 資料) 4.5 コンタミ等の増加 低硫黄化との直接の関係 はないが,最近の特徴としてコンタミの増加がある. 件数に加えその種類も増加しているようである.一例 として米国ガルフおよび西アフリカで発生した,バイ オ燃料残渣を含むと考えられる燃料油によるトラブル 例を示す.FOBAS によれば,約 20 隻に供給された燃料 油のうち 10 件は使用できない状況であった.トラブル は燃料ポンプの不具合,エンジン出力の低下,ブラッ クアウト,起動不能等の深刻なものである.これらの 燃料油は,脂肪酸を多く含む Fatty Fuel と称されるも ので,全酸価が,0.85~3 mgKOH/g の範囲にあり,ナ フテン酸等の極性物質,ヘキサデカン酸,オクタデカ ン酸の存在が確認された. (FOBAS の報告例, CIMAC WG Heavy Fuel 資料) 5. 燃料油グレードと需要予測 IMO による燃料油硫黄分の段階的低減に関連し,将 来の舶用燃料油の需要予測および残渣油から留出油へ の移行予測が公表されているので,2 例を紹介する.

図5 は英国のコンサル会社であるMarine and Energy Consulting LtdとEnergy Market Consultants (UK) Ltd が発行した,「Outlook for Marine Bunkers and Fuel Oil to 2025, Sourcing Lower Sulphur Products, 2008」 からの抜粋である.2025 年までの舶用燃料油の需要予 測とグレードの推移予測が示されている.

図 5 2025 年までの燃料油グレードの推移予測と需要予測

Outlook for Marine Bunkers and Fuel Oil to 2025, Sourcing Lower Sulphur Products http://www.robinmeech.com/Bunker%20and%20Fuel%20Oil%20Study%20JAN%202009%20.doc

また,図 6 は米国に本拠を置くコンサル会社である Purvin & Gertz のプレゼン資料からの抜粋である (Refining and Residual Fuel Markets -Changes on the Horizon, Platts 6th Annual bunker & Residual Fuel Oil Conference, Houston on June 23-24, 2009).米 国東岸の PADD 1 地域の 2030 年までの舶用燃料油の需 要予測とグレード推移予測が示されている. 図 6 米国東岸 PADD 1 地域での燃料油需要予測 (上:燃料油で対応, 下 EGCS-排ガス洗浄装置-で対応) これらのほか OPEC 等でも将来の舶用燃料油予測を 行っているが,今後 2020~2030 年頃までの予測として 以下を挙げている. ・グローバルキャップが 0.5 %m/m になるまでに,7 種 類の燃料油が使用される(残渣油4種,留出油3種). ・精製設備の整備の問題等から,0.5 %m/m への低減は 2025 年になると予想される. ・ECA(排出規制海域)の硫黄分規制が 1.0 %m/m の間 (2010 年 7 月 1 日から 2015 年 1 月 1 日)は,安定性 その他の問題が,特に発生すると考えられる. ・EGCS(排ガス洗浄装置;Exhaust Gas Cleaning System)

の採用の有無と普及率が大きく影響する. 6. おわりに これまでの舶用燃料油性状の変化は,海運業界以外 の外的な要因による連続的な変化(低質化)であったが, 今後は IMO 等の規制による変化であり,従って条約や 規則等に的確に対応しなければならない.しかし,場 合によっては不連続な変化となることが予想されるこ とから,従前の変化からは予想できない問題について もその状況を充分に把握し適切に対応することが必要 である. RM 1.0% RM 4.5% DM 0.5% DM その他 RM 3.5% RM 1.5% DM 1.0%

(1) Includes low-sulfur residual fuels, low quality distillates and other fuels for ship main engines

Marine Gas oil LS/LQ Bunker

Marine Gas oil LS/LQ Bunker

表 2  ドイツとノルウェーの提案値 (留出油)  Quality Specification for Marine Distillate Fuel Oil
表 8 動粘度範囲と CCAI の分布, DNVPS
図 5  2025 年までの燃料油グレードの推移予測と需要予測

参照

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