• 検索結果がありません。

歩行障害のバイオメカニクス

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "歩行障害のバイオメカニクス"

Copied!
2
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)理学療法学 第 634 42 巻第 8 号 634 ∼ 635 頁(2015 年) 理学療法学 第 42 巻第 8 号. 大会記念シンポジウム. 歩行障害のバイオメカニクス* 山 本 澄 子**.  通常歩行の重要な特徴として立脚期中のロッカー機能があ 1). れている AFO のおもな目的は,立脚期の安定性確保と立脚. 。この理論では,立脚期中の下肢は回転中心を徐々に前. 後期から遊脚期にかけてのクリアランスの確保である。これ. 方に移動させながら,ロッキングチェアのように前方に回転. らの目的をロッカー機能に合わせて考えると,片麻痺者で低. していくといわれている。回転中心は踵からはじまって,足関. 下している足関節ロッカーにおける底屈筋の補助が重要とさ. 節,前足部,つま先と移動していき,それぞれ踵ロッカー,足. れる場合が多い. 関節ロッカー,前足部ロッカー,つま先ロッカーといわれてい. 行計測によって,片麻痺者の歩行補助のための AFO の機能. る。3 次元動作分析装置による計測によって得られた歩行中の. として,踵ロッカーにおける背屈筋の遠心性収縮を補助する. 重心の動きをロッカー機能と合わせて考えると,踵ロッカーで. ことが重要であることを明らかにした 5)。この結果に基づい. は前方に進みながら落下してきた重心を受け止めて上方に持ち. て,AFO の足継手に油圧ダンパーを組みこみ,麻痺側接地時. 上げ,足関節ロッカーにつなげる。単脚支持期の足関節ロッ. の足継手の底屈に伴って制動力を発生する AFO(以下,油圧. カーは倒立振り子の動きで近似され,重心をさらに前上方に移. AFO)を開発した 6)。片麻痺者を対象として油圧 AFO を使用. 動させたのちに重力によって落下させる動きである。動作分析. した歩行の変化を計測した結果,歩行速度や歩幅の増加のみで. でこれらの動きをつくりだしている筋活動を調べると,踵ロッ. なく,AFO で補助をしていない足関節ロッカーでの底屈モー. カーでは踵からの接地により床反力ベクトルを足関節と膝関節. メントの増加が認められた 7)。この結果は,踵ロッカーを改善. の後方を通し,下肢前面の筋である足関節背屈筋と膝関節伸展. することによって,足関節ロッカーが変化することを示して. 筋の遠心性収縮によって重心を持ち上げていることが特徴的で. いる。. ある。.  次に,症例検討によって踵ロッカーの補助が足関節ロッカー.  通常歩行と比較した片麻痺者の歩行の特徴は,歩行速度の低. に影響するメカニズムについて述べる。症例は 75 歳男性,脳. 下や対称性の低下などが挙げられる。動作分析によって歩行速. 出血による左片麻痺(下肢 Brunnstrom Stage Ⅳ),屋内外歩. 度低下に関連する要因を調べた研究では,麻痺側立脚後期の足. 行自立,発症から 23 年であるが,計測時まで AFO を含めて. 関節モーメントの低下,下. 歩行補助具は使用していなかった。AFO を使用しない歩行で. る. 三頭筋の筋力低下が歩行速度低下. と大きく関連するとする研究が多い. 2). 4). 。筆者らは多くの片麻痺者を対象とした歩. 。これらの結果をロッ. は立脚中期から後期にかけて顕著な膝の過伸展が見られた。症. カー機能との関係で述べると,足関節ロッカーの機能低下が片. 例は計測時にはじめて油圧 AFO を使用したが,油圧 AFO の. 麻痺者の歩行速度低下のおもな要因と考えられている。筆者ら. 使用により歩行速度が増加し,立脚後期の膝過伸展が軽減し. は,片麻痺者の歩行を詳細に分析した結果,足関節ロッカーに. た。AFO の有無による歩行を比較した結果,麻痺側接地時の. いたる前の踵ロッカーに特徴があることを明らかにした. 3). 。片. 下. 角度と接地時の足関節モーメントに明らかな違いが見られ. 麻痺者では,踵からでなく全足底あるいは前足部で接地するこ. た(図) 。AFO なし歩行では下. とによって下肢前面の筋の遠心性収縮によって重心を持ち上げ. 接地し,床反力ベクトルが足関節前方を通ることから接地直後. ることができず,このために足関節ロッカーの倒立振り子の動. に足関節底屈モーメントが発生していた。油圧 AFO を使用し. きにつながらず結果として立脚後期の足関節底屈モーメントが. た歩行では下. 低下すると考えた。. ることでわずかな背屈モーメントの発生が見られた。どちらの.  この結果から,片麻痺者の歩行改善のためには踵ロッカー. 歩行でも股関節伸展モーメントが持続して発生していた。立脚. に着目した評価と歩行練習が重要であり,歩行練習の際に適. 中期以降の膝過伸展の原因を考察すると,AFO なしの歩行で. 切な短下肢装具(Ankle Foot Orthosis;以下,AFO)を使用. は接地直後の下. することで歩行の改善が可能になると考えた。従来からいわ. さらに股関節伸展筋の活動で大. がほぼ床面に垂直で全足底で. 後傾で踵から接地し,床反力作用点を踵に留め. 三頭筋の活動によって下. が後方に引かれ,. が後方に引かれるため両者の. 働きによって膝過伸展が起きると考えられる。油圧 AFO を使 *. Biomechanics of Gait Impairment ** 国際医療福祉大学大学院 (〒 107‒0062 東京都港区南青山 1‒3‒3) Sumiko Yamamoto, Engineer: Graduate school, International university of health & welfare キーワード:バイオメカニクス,歩行,ロッカー機能. 用した際には,接地時に床反力作用点を踵に留めることによっ て早すぎる底屈筋の活動を抑えることができ,膝過伸展が軽減 したと考えられる。  これらの結果より,片麻痺者の歩行において踵からの接地を.

(2) 歩行障害のバイオメカニクス. 635. 図 症例の歩行中の麻痺側初期接地時の姿勢と床反力ベクトル 左:AFO なし  右:油圧 AFO 使用. 促し,踵ロッカーを意識した歩行練習が重要であると考えた。 そこで,筆者らは踵ロッカーを意識した歩行練習を行うための フィードバック装置を開発した。この装置では AFO 足継手の 底屈時に油圧ダンパーが発生する抗力とともに,足関節角度, 筋電図を計測して,リアルタイムで iPad の画面上に表示する 機能をもつ。油圧ダンパーは粘性抵抗をもつため,油圧抗力は 速い動きを伴う踵の踏みこみの指標となる。先行研究により片 麻痺者では筋の歩行中の同時収縮が多いことが明らかになって いるが. 8). ,本装置を使用して踵接地を意識した歩行練習を行う. ことによって同時収縮の減少と立脚後期の底屈筋の活動の増加 を示すことができた。今後は筋活動を含めた歩行の変化に関す る客観的なデータによって,AFO による立脚初期のアライメ ントの改善が歩行周期全体の改善につながることを示す必要が ある。. 文  献 1) Perry J, Burnfield JM: Basic functions. Chap 3. Gait analysis -Normal and pathological function. 2nd ed, Slack, Thorofare, 2010,. pp. 19‒47. 2) Jonsdottir J, Recalcati M, et al.: Functional resources to increase gait speed in people with stroke: strategies adopted compared to healthy controls. Gait & Posture. 2009; 29: 355‒359. 3) 山本澄子,江原義弘,他:ボディダイナミクス入門 片麻痺者の 歩行と短下肢装具.医歯薬出版,東京,2005,pp. 17‒106. 4) Arch ES, Stanhope SJ: Passive-dynamic ankle-foot orthoses substitute for ankle strength while causing adaptive gait strategies: a feasibility study. Ann Biomed Eng [Internet]. 2015; 43(2): 422‒450. 5) Yamamoto S, Miyazaki S, et al.: Quantification of the effect of the mechanical property of ankle-foot orthoses on hemiplegic gait. Gait & Posture. 1993; 1: 27‒34. 6) 山本澄子,萩原章由,他:油圧を利用した短下肢装具の開発.日 本義肢装具学会誌.2002; 18(4): 301‒308. 7) Yamamoto S, Fuchi M, et al.: Change of rocker function in the gait of stroke patients using an ankle foot orthosis with an oil damper: immediate changes and the short-term effects. Prosthet Orthot Int. 2011; 35: 350‒359. 8) Lamontagne A, Malouin F, et al.: Mechanisms of disturbed motor control in ankle weakness during gait after stroke. Gait & Posture. 2002; 15: 244‒255..

(3)

図 症例の歩行中の麻痺側初期接地時の姿勢と床反力ベクトル 左:AFO なし  右:油圧 AFO 使用

参照

関連したドキュメント

わが国の障害者雇用制度は、1960(昭和 35)年に身体障害者を対象とした「身体障害

日本の伝統文化 (総合学習、 道徳、 図工) … 10件 環境 (総合学習、 家庭科) ……… 8件 昔の道具 (3年生社会科) ……… 5件.

6-4 LIFEの画面がInternet Exproler(IE)で開かれるが、Edgeで利用したい 6-5 Windows 7でLIFEを利用したい..

の改善に加え,歩行効率にも大きな改善が見られた。脳

自由報告(4) 発達障害児の母親の生活困難に関する考察 ―1 年間の調査に基づいて―

運航当時、 GPSはなく、 青函連絡船には、 レーダーを利用した独自開発の位置測定装置 が装備されていた。 しかし、

トン その他 記入欄 案内情報のわかりやすさ ①高齢者 ②肢体不自由者 (車いす使用者) ③肢体不自由者 (車いす使用者以外)

欄は、具体的な書類の名称を記載する。この場合、自己が開発したプログラ