日本産科婦人科学会香川地方部会雑誌 vo1. 3, No. 1, pp.1 - 10, 2001(平13,9月) 一 総 説 ー
卵巣動脈血行動態解析による
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n投与後の排卵予知
金沢医科大学産科婦人科学教室早 稲 田 智 夫
渡 漫之夫
牧野田 知概 要
多くの実験動物において hCGや LH投与による 排卵誘発の際に, hCGや LHの投与直後に急激な 卵巣血流の増加が認められることが報告されてき た。今回我々はこの現象がヒトにおいても認めら れるかどうか,また認められた場合には hCG投与 直後の卵巣血行動態の解析による排卵予知の可能 性について検討した。婦人科手術歴のない同意を 得た不妊症愚者 38名を対象とし, clomifene citrate -hCG療法 (21例),出![G-hCG療法 (17例)にお ける hCG10,000単位筋注後の主席卵胞側卵巣動脈 の血流変化をカラードプラ法で経睦的に測定した。 測定項目は pulsatilityindex (PI), resistance index (RI),最大流速 (Vmax),時間平均流速 (VMT), 最低流速 (Vmin),卵巣動脈断面積(Area),血流 量 (QT) で hCG投与前と投与 15,30, 60, 120, 180分後に測定した。排卵を認めた 34例において は, hCG投与前 36.3士2.0 cm/sec (mean土S.E.,以 下同じ)であった最大流速が 15分後に 44.1土2.5 (pく0.05)となり,以後すべての時間で有意に増加 するなど, PI,悶を除く他の指標で増加が認めら れた。非排卵4症例では,すべての時間および指 標において有意な血流の変化を認めなかった。排 卵症例において hCG投与直後の急激な卵巣血流増 加をカラードプラ法によって確認できた。さらに, 非排卵例との比較から, hCG投与直後の卵巣血行 動態の解析による排卵予知の可能性が示された。 緒 Eコ 排卵周辺期の卵巣の血行動態については, 1970 年から 1980年代中頃にかけて羊(1.2)やラット (3, 4),イヌ (5),家兎 (6,7)などを用いた基礎的研究が 数多く行われ, LHサージから排卵に至るまでの排 卵前期に卵巣血流量が他の臓器に比して相対的に 増加すること (1),黄体化ホノレモン (luteinizinghor困 mone: LH)もしくはヒト紙毛性ゴナドトロピン (human chorionic gonadotropin: hCG)の投与直後に 卵巣血流量が急激に増加すること (3,4, 5, 6, 7)などが 明らかにされた。このような動物実験で認められ た現象がヒトにおいても生じるであろうことは十 分予測されるわけであるが, ヒト排卵期の卵巣血 流量に関しては,測定法の難しさなどから 1990年 代に入るまでほとんど報告されていない。近年の パルスドプラ法やカラードプラ法の普及によって, ようやく認められた卵巣血流に関する報告 (8,9, 10,11,12)も,正常月経周期における卵巣血行動態の 検討がほとんどであり,動物実験における hCG投 与直後の劇的な変化を捕らえるまでには至ってい ない。そこで,今回我々は動物における排卵誘発 時の hCG投与直後に卵巣血流量が急激に増加する 現象に着目し,ヒトにおいても同様な現象がカラー ドプラ法を用いて認められるかどうかを明らかす ることを目的とした。次いで、本現象を臨床的に応 用すべく,排卵・非排卵症例の卵巣血行動態を比 較することによる排卵予知の可能性について検討 した。 対象および方法 1 .研究対象 1998年 3月から 2001年 4月までの聞に金沢医科2 卵巣動脈血行動態解析による humanchorionic gonadotropin投与後の排卵予知 産婦香川会誌3巻 1号 大学病院産科婦人科不妊外来において,婦人科手 術歴がなく排卵障害と診断され治療中の患者 38例 (平均年令 :28.8士0.6歳)を対象とした。なお,検 査前に本研究について十分な説明を行った上,同 意を得られた患者のみを対象とした。 2.排卵誘発法 1) Clomifene citrate-hCG療法 (21症例) 抗エストロゲン作用のあるc10mifenecitrate(ク ロミッド,シオノギ)を月経 5日目より 50~ 150mg/ dayで 5日関連日投与し,経睦超音波による卵胞発 育モニタリングで卵胞径が18mm以上になった時点 で LH作用のある hCG (HCGモチダ,持田)を 10,000単位筋注した。 2)ヒト閉経期尿性ゴナドトロピン (humanmeno-pausal gonadotropin: hMG) -hCG療法 (17症例) 月経 3~5 日目より卵胞刺激ホノレモン (follicular 図1A:卵巣動脈の測定部位(シェーマ) stimulating hormone : FSH)作用のある hMG (ヒュ メゴ、ン,オルガノン/三共 75~ 300 IU/dayを 筋注し,経臨超音波で卵胞発育をモニタリングし て,卵胞径が 18mm以上になるまでhMGを連日筋 注し, 1)と同様に卵胞径が18蜘以上になった時 点で LH作用のある hCG (HCGモチダ,持田)を 10,000単位筋注した。 3. 血流測定方法 1)装置 カラードプラ装置として東芝 SSA-380Aを使用 し,経睦的に東芝 PVK-651VTプロープを用いた。 1回の測定には約 1分を要した。超音波照射量は 10mW/cm'で通常産科医療で用いられている量であ り,人体に対しての安全性は確立されていると考 える。 2) 測定部位 患者を砕石位にして経陸超音波フ。ローブを図 1 A にみられるように挿入し,卵巣動脈の卵巣への流 入部付近を経睦的に測定した(図1B)。 3)測定指標 Pulsati1ity index (PI,最大流速最低流速/平均 流速,末梢血管抵抗を反映する指標), resistance in -dex (RI,最大流速最低流速/最大流速,末梢血 管抵抗を反映する指標),最大流速 (Vmax,収縮 期最大流速),時間平均流速 (VMT,トレースより もとめた平均流速),最低流速 (Vmin,拡張期最低 流速),卵巣動脈断面積 (Area),血流量 (QT,Areax VMTx60/100)を測定した。 図1B : カラードプラ画像(右図),測定部位での血流波形(左図)
2001年9月 早稲岡他 3 4)測定時間 hCG投与前,投与後 15分, 30分, 60分, 120 分, 180分とした。
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排卵の確認 排卵は hCG投与後およそ36時間後に生じるの で,排卵の確認は hCG筋注後48時間以降に経臨 超音波で卵胞の消失を確認して行なった。 5.澗定誤差検定 超音波検査法の場合にはsystemicerrorという問 題が存在する。 systemicerrorには測定者内および 測定者間などの誤差が含まれ,近年これらの再現 性の検定に主として用いられている級内相関係数 (intraclass correlation coefficient: Ri) (13)を用いて 誤差検定を行った。級内相関係数を用いたVmaxの 測定者内におけるRiはO.738であり,測定者間Ri はO.679であった。 QTにおいても測定者内におけ るRiは0.836,測定者間Riは0.852であり,Vmax の測定者間Riがgood,他のすべてがexc巴llentで今 回の測定の信頼性が明らかにされた。 4.5 4 3.5 2.5 2 1.5 畳 骨 島一一一一品 0.5 o hCG投与前 115 30 60 120 180 (min) hCG 10,000単位 図2:排卵伊jにおけるhCG投与後のPI,RIの変化 PI (puIsatIiity index, 最大流速最低流速/平均流 速,末機血管抵抗を反映する指標) RI (resistance index, 最大流速一最低流速/最大流 速,末梢血管抵抗を反映する指標)φ:
PI, l1li:RI 平均値土標準誤差 6.統計学的処理 各測定値は平均土標準誤差として表記した。 Fis -her'sPLSDおよびpairedt-testにより検討し,p(0.05 をもって統計学的に有意差ありと判定した。 結 果 対象とした38症例のうち hCG筋注後に排卵を 確認できた症例は34症例 (28.9土O.7歳)であり, 排卵を認めなかった症例は4症例 (27.0土2.6歳) であった。 1 .排卵症例における卵巣血行動態 1) Pulsatility Index (PI)およびResistanceIndex (RI)(図 2) PIはhCG投与前3.6士O.2であり,hCG投与後15 分で3.5土0.2,180分でも 3.2土O.2を示し, hCG投 与後15分から 180分にいたるまで hCG投与前値 (cm/sec) 60 50 40 30 20. 10。
長 一 一 一 吾 量* *
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←ー吾ー----4 hCG投与前 115 30 60 120 180 hCG 10,000単位 (min) 図3:排卵例におけるhCG投与後のVmax,VMT, Vmin の変化; Vmax (収縮期最大流速), VMT (トレースよりもと めた平均流速) Vmin (拡張期最低流速)φ:
Vmax, l1li: VMT, A : Vmin 平均値士標準誤差. hCG投与前と比べての有意差(女p<
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O. 001)4 卵巣動脈血行動態解析による humanchorionic gonadotropin投与後の排卵予知 産婦香川会誌3巻 1号 (ml/min) 140 (mm2) (cm/sec) 28 120 100 20 80 世116 60 12 40 20 4
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5 hCG10,000単 位 30 60 .120 180 (min) 図4:排卵例におけるhCG投与後のQT,VMT, Area の変化; QT (卵巣動脈断面積×時間平均流速X60/100),VMT (トレースよりもとめた平流速) Area (卵巣動脈断面積) .: QT, 圃 :VMT, Ao.:Area 平均値士標準誤差. hCG投与前と比べての有意差(大t<
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0.0001) と比べて,有意な変化は認められなかった。 RIも hCG投与前は O.93士0.01であり,hCG投与後 15分 でO.93士0.01,180分でも 0.93土0.01であり, PIと 同様我々の測定期間においては全く有意な変化を 示さなかった。 2) 血流速度(図 3) Vmax はhCG投与前には 36.3士2.0cmJsecであっ たが, hCG投 与 15分後にすでに 44.1士2.5と卵巣 血流の有意な増加を示し,その後も 30分, 60分, 120分, 180分のすべての測定時点で hCG投与前 値と比べて,有意な増加を認めた。 VMTもVmax ほどではないにしても,hCG投与前の 10.6土O.8が 30分後には 13.7:1:1.2と有意に増加し,その後 120, 180分においても hCG投与前値と比べて,有意な 増加が認められた。Vminは絶対値が小さいせいか, hCG投与前と比べて,有意差が認められたのはhCG 4.5 4 3.5 3 2.5 2 1.5 陸一---ー 0.5 ハ u q 3 位 5 単 一 h ‘唱 t ハ υ 三 a 勾 t i t -ハ U 一前川 W 一 ﹄ 弓 日 一 同 技 3 一 F u u F L -n L n n v 60 120 ー。
υ n υ ( m n H ) 図 5 非排卵例におけるhCG投与後のPI,RIの変化; PI (pulsatility index,最大流速一最低流速/平均流 速,末梢血管抵抗を反映する指標) RI (resistance index,最大流速一最低流速/最大流速, 末梢血管抵抗を反映する指標) • : PI, 固 :RI 平均値斗票準誤差. 投与後 180分のみであった。 3)卵巣動脈血流量(図 4) 卵巣動脈血流量(
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は上述した VMTと卵巣 動脈断面積(Area)の積で算出される。AreaはhCG 投 与 前 6.3士O.7凹コであったが, 15分 後 に は 8.9土0.8と有意に増加し,その後も靖加を続け,す べての測定時点でhCG投与前値に対し有意な増加 を認めた。 AreaならびにVMTがいずれも hCG投 与後増加を示したので, QTは hCG投与前には 41.8土5.2ml/minであったが, 15分後には 67.0土6.9 と有意な増加を認め,その後のすべての測定時点 でもhCG投与前値と比較して,明らかな有意な増 加を示した。 2.非排卵症例における卵巣血行動態 1) Pulsatility Index (PI)および ResistanceIndex (則) (図5) 非排卵症例においても,PIはhCG投与前3.1土O.3 であり, 15分後で 3.6士O.3, 180分後でも 3.5土O.2 とhCG投与前値に対して,有意な変化を示さな かった。 RIもhCG投与前 0.88土O.03から,投与 152001年9月 早稲田他 5 (cm/sec) 60 50 40 30 20 10
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5 30 60 120 1 BO 倒 的 hCG10,000単位 図6 非排卵例における hCG投与後の Vmax,VMT, Vminの変化; Vmax (収縮期最大流速), VMT (トレースよりもとめた平均流速), Vmin (拡張期最低速) .: Vmax,・:VMT, A: Vmin 平均値士標準誤差. 分後で0.93土0.01,180分でも 0.90土0.01とhCG 投与前値に対して,有意な変化は認められなかった。 2) 血流速度(園 6) 血流速度の指標のうち排卵症例において最も顕 著な変化を示したVmaxは, hCG投与前26.7士4.0 であったのが,hCG投与後も大きな変動を示さず, 180分後でも25.4士3.4であり, hCG投与後180分 にいたるまでhCG投与前値に対して,全く有意な 変化を認めなかった。 VMTなどの他の血流速度に おいても同様にhCG投与前値に対して有意な変化 を認めず,非排卵症例においては hCGの投与に よって血流速度には変動がほとんど認められなかっ た。 3)卵巣動脈血流量(図7) 血流速度と同様AreaもhCGの投与前後でほとん ど変動がなく,結果として QTも hCG投与前の 23.3:1:4.7が投与 180分後でも 20.0土4.1と, hCG 投与後 180分にいたるまでほとんど変化を認めな かった。 (ml/mln) (cm/sec) (mm2) 140 120 100 BO 60 40 20。
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15 30 60 120 1 BO(min) hCG10,000単位 図7:非排卵例におけるhCG投与後のQT,VMT, Areaの 変化; QT (卵巣動脈断面積×時間平均流速X60/100), VMT (トレースよりもとめた平均流速), Area (卵巣 動脈断面積)。
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QT, 圃 :VMT, 企 :Area 平均値士標準誤差. 3.排卵例と非排卵例の比較 1) 最大流速(図 8) 各測定時点における Vmaxの排卵例と非排卵例 を比較すると,排卵例はグラフ上方に,非排卵例 は下方に集積した。 2) 血流量(図9) QTはVmaxよりさらに顕著に排卵例はグラフ上 方に,非排卵例は下方に集積した。 3) cut offpointを非排卵例平均値+1.58. D.に設 定した場合の陽性・陰性的中率,特異度,敏感度 (表1) 陽性的中率はすべての測定時点でVmax.QTと もに90%以上の高い値であったが,陰性的中率に おいてはVmaxではhCG投与前は15.8%であり, 投与後180分でも44.4%で、あった。 QTではhCG 投与前は 20.2%,15分後 36.4%,30分後 50.0(cm/sec) 100 90 80 6 iO 60 50 40
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180 (min)2001年9月 早稲田他 7 表1;排卵予知指標としてのVmax. QTの陽性的中率,陰性的中率,特異度,敏感度; Vmax QT Cut off 35. 3 (cmlsec) 32. 9 (mllmin) Time 的中率陽 性 陰 性的中率 特異度 敏感度 陽 性的中率 陰 性的中率 特異度 敏感度
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min 94. 7 15. 8 75.0 52. 9 100.0 20.0 100. 0 51. 5 15min 100.0 17.4 100. 0 71. 0 100. 0 36. 4 100.0 76.7 30min 95. 5 24.4 75.0 65.6 96.6 50. 0 75. 0 90.3 60min 96.0 37. 5 75. 0 82. 8 100. 0 66.'7 100. 0 93. 1 120min 100.0 40. 0 100.0 79. 3 100.0 66. 7 100.0 93. 1 180min 100. 0 44.4 100. 0 82. 8 100. 0 100. 0 100.0 100. 0 Vmax (収縮期最大流速).QT (卵巣動脈断面積×時間平均流速X60/100). cut off point(非排卵例平均値+1.5SD) %と時聞を経るにつれて上昇し. 180分後には 100 %となり Vmaxよりはよい成績を得た。特異度で はVmaxは常に 75%以上で.QTにおいても 60分 後以降は 100%であった。敏感度も hCG投与 60分 後以降は両指標ともほぼ 80%以上の値を示した。 考 察 性成熟期女性で1ヶ月に 1度母指頭大の卵巣に 直径 20剛ほどの卵胞が形成され破綻する排卵現象 の際に,卵巣への血行動態が大きく変動するであ ろうことは古くから予測されており,数々の動物 実験によって報告されてきた。 1971年にPiacsekと Huth (3)は drop-flowcounter法という卵巣静脈を カットしてそこから流れてくる血流を計るという 単純な方法でラットの卵巣血流がLH投与後に増加 することを報告した。また 1975年にJanson(6)は, 放射性マイクロスフェアを注射して一定時間後に 屠殺し放射能の分布によって血流を測定し,家兎 の卵巣血流がLH投与後 2分で約 30%. 20分後に は約 75%とわずかの時間に急激に増加すると報告 している。 1980年に牧野田(7)は卵巣の中に針金 状の交叉熱電対を挿入して卵巣血流を連続的に測 定し.hCGを投与後 15分で約 20%. 1時間で約 30 %. 2時間で約 50%と血流が急激に増加し,そ の後一定の高値を示した後漸減し,排卵に至るこ とを明らかにした。以上のいずれの報告にも共通 することは.LHもしくは hCGの投与直後に卵巣 血流が急激に増加する現象であり,これと同じ現 象がヒトにおいても認められるであろうことは十 分に予測できることであるが,動物実験で用いら れたdrop-flowcounter法やmicrosphere法,交叉熱 電対法はヒトにおいては侵襲が大きく臨床応用で きない方法であり,ヒトにおける hCG投与直後の 血流の増加に関する報告は筆者らの検索できる範 囲においては全く認められていない。 近年の M E技術の発展は血流測定の分野におい ても急激な進歩をとげ,現在では RIシンチグラ フィーやパルスドプラ法,カラードプラ法,パワー ドプラ法などが臨床の場で可能な血流測定法とし てあげられる。このうちRIシンチグラフィーは放 射線の問題もあり,生殖臓器に用いることは不可 能と考える。結局,産科婦人科領域で非侵襲的に 臨床において使用できる方法としては,パルスド プラ法,カラードプラ法,パワードプラ法などの 超音波診断法ということになる。本研究では現在 最も普及して用いられているカラードプラ法によ りヒト卵巣血流の変化を追求した。 カラードプラ法は外来で短時間に測定すること が可能あり,特別な操作を必要としない点から診 察医自ら測定でき,直ちに結果を愚者に説明でき るというメリッ卜がある。また,我々の日常一般 的な産婦人科・診療にカラードプラ法や超音波診断 法はごく普通に取りこまれており,被験者にとっ ても特別な検査法ではない。かっ測定費用もホル8 卵巣動脈血行動態解析による humanchorionic gonadotropin投与後の排卵予知 産婦香川│会誌3巻1号 モン検査に比較して安価という多くのメリットが ある。ただし我々産科婦人科領域では指標として 主にPIやRIのみを用いて計械を行なって来てお り,これらの指標は容易に測定ができるという利 点はあっても,拡張期の波形に変化がなければ臨 床応用するにあたって情報量が乏しいことがあげ られる。我々の産科婦人科領域ではカラードプラ 法は主に 280日聞におよぶ妊娠中の胎児の発育や 正常月経周期での女性生殖器の評価に用いられて きたが,これらは時間的にも長くかっ拡張期波形 に変化がでる現象で,同一場所で測定することが 難しいということもあり,測定の容易な事からPI, RIによる観察が行なわれてきた。これに対し,今 回の研究の場合は動物実験で明らかにされた hCG 投与後の短時間の変化を確認することが第一の目 標で,卵巣の同一個所を計測するということが容 易であり, Vmax, QTという指標を用いることが 可能であると考えた。 1998年にBrannstrom1(4) ら は卵胞周囲の爽膜層の血管に関して測定を行ない, 排卵時に卵胞血管の数が増加することや,卵胞の 破綻する先端の部分の最大血流速度が減少し,卵 巣の基底の部分の最大血流速度が増加すると報告 した。このような卵胞での報告(14,15)がある以上, これらの血管よりはるかに太い卵巣動脈の排卵時 の血行動態の測定も可能であると考え本研究を行 なった。 今回の研究により, hCG筋注後排卵例において・ はPI,即を除くすべての指標で有意な卵巣動脈血 流の増加が認められた。 PI,聞で変化が認められ ないのは前述したように 1心拍中の波形の変化が 認められないためと思われる。 V m砿, QTという 指標によって hCG筋注後わずか 15分で有意な増 加が認められたことは,先人たちが多くの動物実 験で明らかにしたことをヒトにおいても確認でき たという意味で,大きな価値があると思われる。 hCG投与後の排卵例における血流増加の機序に ついては, hCGの投与直後にアデニル酸シクラ} ぜが上昇し,セカンドメッセンジャーであるサイ クリック AMPを合成させ,プロテインキナーゼが 上昇してシクロオキシゲナーゼ系のプロスタグラ ンジンやリポキシゲナーゼ系のロイコトリエン,ま たはプロゲステロンリダクターゼ告と介してプロゲ ステロンが上昇することによると考えられており, このような排卵過程に伴う各種メディエーターの 変化は炎症に類似な現象と考えられている(16)。 hCGを投与すると,アラキドン酸がホスホリパー ゼの作用により細胞内に遊離し,種々のプロスタ グランジンが産生される。 hCG投与後のフ。ロスタ グランジンの上昇は家兎による報告 (17)があり, 毛細血管の拡張や血管透過性の充進等がおこり,卵 巣の血管の血流変化に関わり,卵巣動脈の血流変 化に大きく関与しているものと思われる。また,ア ラキドン酸は, リポキシゲナーゼにより,ヒドロ キシエイコサテトラエン酸やロイコトリエン B4に 合成され,これらも排卵に関係しているといわれ ている (18,19,20,21)。その証拠として,リポキシゲ ナ}ゼ、の阻害剤を投与すると排卵はおこらないと の報告 (22)もある。また,ラットではロイコトリ エン B4は hCG投与直後から急激に増加するとの 報告(18)があり,卵巣での血管透過性の充進,白 血球の遊走等,炎症類似現象としての排卵に関係 しているものと思われる。ラットにおいてプロゲ ステロンも hCG投与をはさんで前後 6時間以内に 阻害剤を投与すると排卵しないという報告 (23)が あることから,ホノレモン系に炎症類似作用が加わ り,それによって,排卵例では卵巣血流が増加す るものと思われる。 今回経験した 4症例の非排卵群においては,す べての指標で hCG筋注後の卵巣動脈の有意な血流 の増加が認められなかった。非排卵の原因はさま ざまであろうが,上述した機能のどこかに障害が あるため,卵巣血流の増加がみられないと思われ る。少なくとも正常な排卵過程にあれば, hCG筋 注によって直後から卵巣血流の増加が認められる ことが今回はじめて明らかにされ,このことは逆 に卵巣の血流増加が認められない場合,排卵過程 のどこかに障害があると診断することができ,排 卵の予知も可能であると考える。実際Vmax.QT の cutoff point (非排卵例平均値+1.5SD) の設定に より hCG投与後 60分後で特異度 75%以上,敏感 度80%以上で排卵・非排卵を予測することが可能 であった。
2001年9月 早稲田他 QTは事実上の血流量であり Vmaxよりも若干よ い成績を得ているが, QTを求めるために必要な Areaを計測する場合,正しく血管断面積を捕らえ るのは非常に難しい上に,現段階のカラードプラ 技術ではどうしても実際の血管断面積よりも強調 した像が画面表示されてしまうという問題がある。 本研究においては級内相関係数による比較では一 応測定に耐えうるという結果であったが,同一測 定部位における短期間の時間的推移を検討するこ とはできても,他者との検討比較には適さない事 は周知の事実である。今後超音波技術の進歩によっ て血管断面積の測定がより確実になれば,血流量 はより有効な指標になると思われるが,それまで の期間には批判の少ない最大血流速度 (Vmax)の 併用も必要不可欠と考えられる。今後の超音波を はじめとする技術革新によって卵巣血流測定によ るhCG投与後の排卵予知がさらに容易になること を期待する次第である。
文 献
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