保育活動轟
保育活勲1
騨㎏ 騨憾ともなう事故と保育者の安全配慮義務
ともなう事故の判例の分析・検討を中心として
An ana董ysis of the safe consideration duty of the chi董dcare person in the accident with childcare activities −Mainly On analysis and examination oヂthe precedent about the accident with childcare activities一 小 澤 文 雄 Fumio KOZAWA キーワード:保育者,・安全配慮義務,保育活動,事故,判例 Key words:Childcare person, Safe consideration duty, Childcare activities, Accident, Precedent 要約 本稿では,判例の求める保育者の・安全配慮義務の及ぶ範囲,程度,内容:を分析・検討した。そ の結果,保育者の安全配慮義務の及ぶ範囲は,小・中学校の教師の場合よりも広く,その程度も 厳しいことが明らかになった。また,安全配慮義務の内容について判例は,①保育活動の場所, ②保育活動の種類③被害児の月齢・年齢・能力,④被害児の行動特性・性格・健康状態・保育 期間などを考慮して判断していることが明らかになった。判例の判断はおおむね妥当なものであっ たが,保’育者に・過大な・安全配慮義務を課したり,園管理当局の安全配慮義務を保’育者に転嫁して いる判例など問題となる判例がいくつかみられた。 Abstract In this report, I analyzed and examined the range, degree, the contents of the safe consideration duty of the childcare person who demanded it of the precedent、 As a result, it became clear that the range of the childcare person賢s safe consideration duty was wider than the case of the teacher of elementary and junior high schools, and the degree was also severe. In addition, it became clear that the precedent ludged the contents o:f the sa:fe consideration duty in consideration o:f the place o:f childcare activities, the kind of childcare activities, the age of the month/age/ability of the damage child, the action characteristic/character/the state of health/the childcare period of the damage child. The judgment of the precedent was almost proper, but the precedent that imposedexcessive safe consideration duty on the childcare person and the precedent that imputed the safe consideration duty of the kindergarten and the day care center management authorities to the childcare person and some precedents to become a problem were watched。
1 はUめに
近年,幼稚園・保育所のような集団保育施設では,保育事故1)が数多く発生している。それに 伴い,保育事故に関する裁判例も増加している。 こうした保育事故の深刻さは,将来の社会を担う子どもの成長・発達を阻害するだけでなく, 子どもの成長・発達を育成する保育の現場をも破壊するところにある2)。不幸にして保育事故が 発生した場合には,できる限り速やか,かつ円滑に被害救済が図られなければならない。しかし, なによりも大切なことは,そもそも事故を発生させないようにすることである。そして,事故防 止のため最も効果的な方法は,過去の事故事例に学ぶことである3)。筆者は,かかる問題意識の もとに,従来から保育事故に関する判例の分析・検討を通して,事故防止の方法を探求してきた4)。 裁剖所は,子どもの「教育を受ける権利」(憲法26条)の一環としての「安全に保育を受ける権 利」を守り,実現させていく任務を担っている国家機関の一つであり,その判断は公的安全基準 であって,幼稚園・保育所側の安全配慮義務の一般的指針となるとともに,保育事故を防止し, 子どもの「安全に保育を受ける権利」の実現に役立つと考えられるからである5)。 本稿では,従来からの保育事故に関する轡例の分析・検討を基礎に,新たな轡例を加え,裁判 所は,事故防止のためいかなる安全配慮義務を要求しているのかを再検討する。 ところで,保育事故は,①保育活動にともなう事故と,②保育施設・設備の蝦疵(欠陥)によ る事故とに大劉できるが,本稿では,保育活動にともなう事故を中心に考察をする。また,幼稚 園・保育所側の安全配慮義務は,保育者6)の安全配慮義務と,幼稚園・保育所管理当局(設置者 である市町村・学校法人,教育委員会,管理者としての園長など。以下,園管理当局と略称)の安全配慮 義務とに分かれるが,本稿では,保育者の安全配慮義務に焦点を当て考察をする。 したがって本稿では,まず第1に,保育活動にともなう事故の判例において,裁判所は,保育 者にどのような安全配慮義務を求めているか,すなわち,保育者の安全配慮義務の及ぶ範囲,程 度,内容を明らかにする。そして第2に,判例の示す保育者の安全配慮義務をまとめるとともに, その判断基準が妥当なものであるかどうかを検討する。轡例の示した判断基準が常に妥当なもの であるわけではないし,また,不変なものであるわけでもないからである7)。 ll判《列に示された保喬者の安全配慮義務 璽.保育者の安全配慮義務の及ぶ範:囲 保育者の安全配慮義務は,園児のすべての生活関係に及ぶものではなく,一定の範囲に限定される。しかし,その範囲は小・中学校の教師の場合よりも広い。すなわち,小・中学校の教師の 場合,安全配慮義務の及ぶ範囲は「学校における教育活動及びこれと密接不離の関係にある生活 関係8)」に限定されているが,保育者の場合はこれよりも広く,「当該行為を全く予期しえない 等の特別な事情がないかぎり保育園における保育およびこれに随伴する生活関係におよぶもの9)」 とされているi⑪)。 したがって,保育活動終了後であっても,園児が園内にいる間は(あるいは保護者に子どもを引 き渡すまでは)保育に随伴する生活関係の範囲内といえるから,保育者の安全配慮義務が及ぶ11)。 これに対し小・中学生の場合,放課後の事故は,一般児童の帰宅時間前であるとか教師の許諾を 得て残っていたような場合を除き,教師の安全配慮義務の範囲外であるとされているi2)。なお, 園外における事故であっても,例えば,園児が容易に潜り抜けられるような隙間があり,そこか ら抜け出して園庭に沿った用水路に転落死し,しかもその事故が予見できるような場合には,保 育に随伴する生活関係の範囲内の事故であるから,保育者の安全配慮義務が問題となるi3)。 2.保育者の安全配慮義務の程度 安全配慮義務の程度は,被害園児の年齢,能力などとの相関関係において決められる紛。 判例は,安全配慮義務の程度についても,小・中学校の教師の場合より厳しい基準を要求して いる。すなわち,判例は,「集団保育の場所で保母に乳児から片時も眼を離すなというのは難き を強うるものである15)」として一定の限界を設けつつも,保育者は「外部からの危険あるいは 園児自らの不注意に基づく危険から守るのを職務としている。即ち保母は,園児らが負っている 自らを守るべき義務を園児らに代って引き受けている16)」とか,「保育の対象が自らの力で自己 を守ることのできない者であることに鑑みると,…乳幼児を事故の危険から守るための善管注意 義務の程度は自ら重くならざるを得ない17)」とか,「保育には,専門的な知識技術を習得して国 家資格を持った保母が当たるのであるから,・,・幼児の生命身体の安全には,医療専門家のレベル までは要求されないものの,一般の親権者以上の専門的な配慮をすべき義務がある18)」として, 極めて高度なものを要求している。 小・中学校の教師の場合も,判例は,児童・生徒の「生命,身体の安全について万全を期すべ き注意義務19)」として,単なる「善良な管理者の注意義務」より高度なものを要求しているが, 保育者には,それよりもさらに高度なものが要求されているといえよう。 これは,保育者の職務の重要な内容が,乳幼児の生命,健康,安全の維持・増進であること, また,乳幼児は是非の弁識能力,危険判断・回避能力,事故告知能力,適応能力等が小学生に比 べ著しく劣っており2⑪),かつ大人の予測をはるかに超える行動習性を有しているという特性21) によるものと考えられる22)。したがって,例えば,やかんの熱湯による火傷の事故の場合,小 学校低学年の子どもについては,一般に口頭でその危険性を注意すれば安全配慮義務を尽くした
ものといえる23)が,乳幼児の場合には「5歳前後の幼児に対し口頭で右のような注意(やかんに 気をつけるように淫意一引用者濁を与えていただけでは,到底園児の安全を守る義務をはたした とは解することはできない24)」ことになる。
3、保育者の安全配慮義務の内容
保育者の安全配慮義務の内容は,抽象的に決められるものではなく,あくまでも具体的な状況 を基礎として個響町に判断されなければならない。 以下においては,保育活動の場面ごとに,具体的事例に即して,判例がどのような安全配慮義 務を要求しているかをみてみたい。 ω 通園蒔における保育着の安全配慮義務 保育者の安全配慮義務は,通園(登降園)時には原則として及ばない。通園時の安全確保は, 本来,親権者等保護者の責任によるべき問題だからである。しかし,特別の事情のある場合,例 えば保育者が付き添って通園しているとか,園のスクールバスを利用しているような場合は,保 育に随伴する生活関係といえるから保育者の安全配慮義務が及ぶ25)。現代の車社会において通 園時は極めて危険の多い場面であり,しかも一旦事故が発生するとその被害が甚大になることか ら,判例では厳しい安全配慮義務が課されている。 ①付き添い通園における安全配慮義務 ③ 東京高判昭和40年6月17日(学判1396頁)・最下昭和42年6月27日(学判1392頁,最:高裁判 所民事判・例集21巻6号1507頁) 本件は,保育者が引率して登園中の保育園児(女・4歳2ヵ月)がダンプカーに接触して死亡し た事件である。保育者は1人で13名の園児の先頭にたち,被害園児の手を引いて横断歩道を渡っ たとき,ダンプカーを認め危険を感じたので,列の後尾にいる園児らに注意を促すため後を振り 向いたが,その際思わず被害園児の手を放した。被害園児は先行していた別のグループの園児の 列を追い,その際ダンプカーに接触し死亡した。 判決は,保育者は園児らの一団を引率して登園する際には,「園児らを交通事故から護るため, 園児らが隊列を離れ各自の行動にでないよう十分配慮し,監護すべき義務」がある。また,園児 の手を「離すにしても同女に対し列から離れないよう云い聞かせるなどの措置」をとる安全配慮 i義務があるとしている。 ⑤鳥取地判昭和48年10月12日(学判1405・2頁,判時731号76頁) D保育園では,被害児(男・5歳11ヵ月)を含め10数名の園児が路線バスで通園していたが,新 学期から運転系統が変更され,乗り換えが必要になった。そこで保育園では,園児がバス通園に 慣れるまで保育者1名を付き添わせることにした。事故当日,保育者は13名の園児を引率してバ スに乗り,乗り換えのバス停で7名を下車させた。ところが,バス停は乗降客で大混雑していたため,保育者は年少児の手を取って降車させ自分の傍を離れないように言い聞かせただけで,被 害児ら年長児には十分注意を払わなかった。そのすきに被害児は,1人でバスを降り道路を横断 しようとして車に衝突され重傷を負った。 糠央は,園児を下車させ乗り換えさせる際には,1人1人を確認して下車させること,下車さ せたのちは年少,年長を問わず自分の傍を離れないように言い聞かせるなどの措置をとって,園 児が自分の傍を勝手に離れないよう十分監視する義務があると判示し,厳しい安全配慮義務を要 求している。 ②スクールバス通園における安全配慮義務 これについては,水戸地響昭和53年3月27日(学判1405・16・5頁)が参考になる。 本件は,幼稚園児(女・6歳4ヵ月)がスクールバス下車直後,大型ダンプカーがよく往来する 道路をひとりで横断しようとして,車にはねられ負傷した事件である。その時,添乗していた保 育者は,単に父母が出迎えに来るのを待つように注意しただけで漫然と園児を降車させ,バスの ステップに立ったまま園児が降車地点を立ち去るのを見送っていた。 判決は,保育者は,「当時満6歳であり,交通の安全に対する注意能力が乏しく,いかなる危 険な行動に出るかも知れない」被害児に対し,「単に父兄が出迎えに来るまで待つように注意す るだけでなく,降車前に加害車両が接近しており,危険であることを明確に警告し,更に,自ら 先に同バスから降車して,原告らが降車地点で加害車両の通過を待つようにするか,あるいは, 確実に父兄が出迎えに来るまでそこで待っていることを確認してから出発する等の適切な措置」 をとるべき安全配慮義務があるとしている。 ② 保育活動中の保育着の安全配慮義務 保育活動中の保育者の安全配慮義務は,一般に高度なものと考えられている。けだし,保育活 動中の園児らは,保育者の指導に服すべき関係にあるからである26)。もっとも,ひとしく保育 活動といっても,保育活動の場所によってその危険性には差異があるから,保育者の安全配慮義 務もその危険性に対応して判断する必要がある。 ①園外での保育活動中の安全配慮義務 園外での保育活動(園外保育)は危険の多い場面であり,しかも園児に解放感を与え放恣にな りがちな活動であるから,判例では厳しい安全配慮義務が課されている。しかし,⑤の事例のよ うに危険性の低い場合は,それほど厳しい安全配慮義務は求められていない。 ② 京都地際昭和46年12月8日(学判1401頁,判時669号89頁,判夕274号189頁) 本件は,保育者が保育園の年長児22名を引率して帰園の途中,園児(女・6歳3ヵ月)が踏切で 電車に跳ねられ即死した事件である。保育者は踏切を渡る際先頭を制止し全体をまとめるなど の措置をとらず,漫然と園児の先頭に立って渡り始めた。渡り始めて間もなく警報が鳴り始めた ため,保育者はすでに踏切に入っていた園児とともに急いで踏切を横断した。しかし,4,5名
の園児は引き返したので,園児は踏切の両側に2分粘れた。遮断機が下りて上り電車が通過した が,まだ警報は鳴ったままであり,引き続いて電車が通過することを示していた。その時,向こ う側にいた被害児が遮断棒の届かないところがら突然踏切を渡り始め,保育者の制止の合図も及 ばず下り電車に跳ねられ死亡した。 判決は,「上,下線の交叉があるような無人踏切を渡る場合,…渡り終えた者と,渡り終えて いない者とに2分された状態で電車が通過することになると,園児らの一方は保母のつきそいな しに踏切を横断するのと同様の状態におかれ,まだ渡り終えない園児らが阜く渡りたい心理にか られることは見やすい道理で…極めて危険であるから,保母・・は,園児が2分され…ないよう万 全の措置をとるべき義務がある」としている。そして,「踏切の直前でこれ(園児ら一引用者注) をまとめるなど特段の措置をとる」必要があるが,もし「踏切の中央に達した時に警報が鳴り出 したとしても,ただちにひきかえせば,ブザーの鳴り出す前に園児全員を踏切の外に出すことが できた」から,保育者は「警報が鳴り出した時に,ただちに引き返して園児らが2分されること を防止すべき義務」があるとしている。 ⑤東京地判平成21年5月25日(学校事故の法律実務916/22頁) 本件は,近くの児童公園から保育所に帰る途中,自動車の往来のない遊歩道で,保育士と手を つながないまま,しゃがんで船見ていた園児(1歳児)が,突然保育園の方向に走り出して,転 倒し,鼻下と前額部に傷を負った事件である。 判決は,「遊歩道は,自動車の往来のない歩道であって,自動車事故に遭う危険は皆無である」 から,保育士に「原告をサークル車に乗せるべき注意義務があったとまでは認め難い」。また, 保育士が「遊歩道に危険を感じたことはなく,保護者等から危険性を指摘されたこともなかった こと,被告(保育士)が…手を離したのは,原告らが,川沿いの柵をつかんで・停泊中の船を見 ていたためであること,・,・・転倒した地点は柵から数mほど先であること」などから,「保育十に おいて,…停泊中の船を見ていた時点で,原告が走り出して転倒する可能性…を予見することは 困難」であり,保育十に,「原告の手を握ったり,走り出した直後に原告を制止…する」安全配 慮義務があるとは認めがたいとしている。 ②園内での保育活動中の安全配慮義務 園内における保育活動でも,綱引きや水泳のようにそれ自体に危険性を内包した活動や,音楽 や絵本を見るようにほとんど危険性の予想されない活動,両者の中間に位置する自由遊びなどが あり,安全配慮義務も活動の種類による危険性の度合いに応じて判断しなければならない。また, 同じような活動であっても,被害園児の月齢・年齢・能力,行動特性・性格・健康状態などによっ て保育者に要求される安全配慮義務には違いがある27)。 ② 綱引き練習の際の安全配慮義務(大阪地判昭和48年6月27日・野台157頁,糊寺727号65頁) 本件は,綱引き練習中に幼稚園児(男・4歳9ヵ月)が,綱と鉄柱との間に指を挟まれ切断した
事件である。すなわち,綱が長すぎて(全長約32m),渡り廊下の鉄柱付近まで達するので,保育 者はその先端を輪型に巻き取って短くし,鉄柱から3,4mのところに置いた。そして,男子組 と女子組に分け,男子組には先端を輪型に巻き取ったほうを引かせた。開始直後,すぐ男子組が 優勢となったので担任は女子組に加勢した。これに対し年長児が男子組に加勢しようとして,巻 き取ってあった綱の先を伸ばして引っ張り始め,さらに綱の先端を鉄柱に巻き付けて引っ張ろう とした。担任は急いで中止させようとしたが遅く,被害児は綱と鉄柱との間に指を挟まれて切断 した。 判決は,綱の先端部が「園舎や鉄柱に接着するような状態になれば危険であることは当初から 気付いていた」から,綱の「先端部を輪型に巻き取って短くしたのであれば,その上からさらに 紐で縛るなどしてこれが容易に解けないように」する安全配慮義務がある。また,園児は発達段 階からみて「どのような突発事故が生ずるかもしれない…から,女子組がいくらか劣勢であった からといって,これに加勢していっしょに綱を引っ張るようなことをしないで双方の状況をよく 監視し,他の組の園児が勝手にこれに加わって競技を乱すようなことをしょうとすれば,いつで もただちにその場に駈けつけてこれを制止することができる…態勢をとっておくべき」安全配慮 義務があるとしている。判決は,綱引きの危険性に鑑み,厳しい安全配慮義務を要求していると いえよう。 ⑤水泳指導の際の安全配慮義務(大阪地判昭和62年3月9日・学判277瓦判タ651号140頁) 本件は,幼稚園児(男・3歳)が園内の温水プールで,水泳指導中に溺死した事件である。当 日は,年中・少組と年長組に分かれ水泳指導が行われたが,休憩をはさんで自由遊びの時間となっ た数分後,被害児は年中・斗組が使用していたプール内でうつぶせで浮いているのが発見された。 事故当時,年中・肝管の主任・担任4名は,1人は主としてプールサイドで,3名はプールの中 で監視していた。ところが,被害児を監視していた保育者が他の保育者に声をかけずにその場を 離れたため,誰も被害児に注意を払わなかった間に事故が起きた。なお,4名はある程度の距離 を保って監視する旨の申し合わせばしていたが,各自の監視場所・範囲について具体的な協議は せず,思い思いの場所で監視していた。 判決は,「3,4歳児で泳げない園児の場合,たとえ水に慣れ,ビート板につかまって泳いでい たとしても,不意にビート板から手が離れる等不測の事態が発生すると,その殆どが,直ちに立 ちあがることを考える余裕などなく,驚がくの余り慌てふためき,ただ恐怖に駆られて水中でも がき,通常考えられる合理的行動に出ることを期待することは到底できず,このため生命の危険 率が極めて高い」。したがって,保育者は「事故防止のためいささかの気の緩みも許されないと の厳しい心構え,使命感をもってその実行に遺漏のないよう期すべき」として,極めて厳しい安 全配慮義務を要求している。そして,そのためには,保育者各人の監視能力,その能力に応じた 監視可能園児数,監視者の各位置関係及びそこでの具体的監視法,並びに監視者相互の緊密な連
携保持法等について具体的に検討,研究をしておく必要があるとしている。 ◎ 乳幼児を就寝させる場合の安全配慮義務 乳幼児にとって昼寝(午睡)あるいは睡眠は,その成長・発達,健康の維持・増進にとって重 要であり,特に昼寝は,旧「児童福祉:施設最低基準」においても重要な保育内容として規定され ていた。したがって,乳幼児を就寝させる場合においても,保育者には万全の安全配慮義務が求 められる28)。しかし,現実には乳幼児が就寝時(睡眠時)に突然死亡する事故(突然死)が多発し ており,裁判になった事例も数多くある。突然死については,その死因が何であるかについて争 われることが多い。すなわち,窒息死であるか,乳幼児突然死症候群(SIDS)29)であるかである。 そして,SIDSとされた場合には不可抗力の事故として,園の責任や保育者の過失,したがって また保育者の安全配慮義務はほとんど問題とされていない。他方,SIDSでないとされた場合に は保育者の安全配慮義務が問題となる。 以下においては,SIDSでないとされた判例をいくつか取り上げ,裁判所は,保育者にどのよ うな安全配慮義務を求めているかを考察する。 ⑦名古屋皆野昭和59年3月7日頃学判1575頁,判時1123号106頁) 無認可保育所において幼児(男・1歳6ヵ月)がベビーベットで就寝中,食べたものを吐き窒息 死した。ここでは,午後7時40分以降1人の保育者(無資格)が,被害児を含め9人の乳幼児を 保育していたが,被害児は保育者の気付かないうちに死亡していた。なお,母親は被害児が風邪 気味で体調が悪いことを保育者に伝えておらず,保育者はこのことを知りえなかった。 判決は,使用者責任の前提としての保育者の安全配慮義務違反(過失)を否定しているが,一 般論として,乳幼児が風邪気味で体調が悪いときは嘔吐することがあり,その結果,窒息死もあ りうることは保育者として当然認識しておくべきであるとしている。そして,保育者は乳幼児が 風邪気味で体調の悪いことを知りえたならば,食事内容を吟味したり,観察を細かめにするなど の格別の安全配慮義務が生じると述べている。 ⑦ 千葉地松戸支判昭和63年12月2日(学判1529・75頁,等時1302号133頁) 本件は,無認可保育所で,乳児(女・9ヵ月)が昼食後,寝室で鼻口閉塞によって窒息死した 事件である。被害児は,他の乳児3名と共に寝室で伏臥位で寝させられていたが,保育者(無資 格)は付き添っていなかった。ただ,泣いたり,目覚めたりした乳児がいたので保育者は何度か 寝室に入ったが,被害児について異常の有無を確認するなどはしなかった。被害児は,顔面を垂 直に敷き蒲団に押しつけるように伏臥して死んでおり,敷いてあったバスタオルは被害児の顔面 付近に雑然としわ寄せられていた。 判決は,乳児を伏臥位で就寝させる;場合,保育者には,乳児の鼻口部閉塞の危険を防止するた め,頭部・顔面に当たる部分には可動柔軟物を固定しないままに敷いたりしないとともに,乳児 を保育者の観察しやすい場所に寝かせて観察するか,少なくとも定期的に巡視をし,異常の有無
を確認する措置を講ずべき安全配慮義務があるとしている。 ⑰千葉地判平成4年3月23日(学判1217・882頁,半讐タ789号196頁) 無認可保育所において,被害児(男・9ヵ月)を含め6名の乳幼児を大人用のベッドの上に横 向きに寝かせていたところ,他の幼児が寝返りをうち,被害児の頭部および顔面部に覆いかぶさ るように睡眠していたため窒息死した。ここでは,夫婦2人(無資格)で0歳から5歳までの乳 幼児約17人を預かっていた。また,本人たちには4人の子どもがいた。事故が起きたとき,1人 は同じ部屋で寝ており,もう1人は他の部屋で家事に従事していて,約10分ごとに様子を見にいっ たが,常時見ている状態ではなかった。 判決は,0歳から3歳までの乳幼児6人を一つの大人用ベッドに寝かせるという,それ自体き わめて危険な保育を行っていたのであるから,乳幼児の保育に従事するものとしては,寝返りを うった乳幼児が他の乳幼児に覆いかぶさることによって不測の事故が発生しないように,乳幼児 らの動静を常時注視している安全配慮義務があるとしている。 ㊤ 東京地割平成4年5月28日(学判1217・783頁,判時1455号l12頁) 本件は,無認可保育所において,4ヵ月児(男)が午睡中,吐乳吸引による気道閉塞で死亡し た事件である。保育者は被害児を仰向けに寝かせ,その腹部に二つ折りにしたガーゼカバーつき 毛布をかけた。しかし,被害児はその後,脚や体を動かしてこの毛布を頭部へ移動させ,寝返り を繰り返すうちに,腹部以上の上半身にこの毛布を巻き被るようにしたうつ伏せの姿勢となった。 そのうち風邪で気管支炎もあった被害児は,未消化の半凝固状のミルクを相当量吐いた。ミルク は毛布と鼻口部との間に溢れ,被害児はこの吐乳(ミルク)の相当部分を吸い込み,気道閉塞に より窒息死した。なお,担当保育者は,異常を発見するまでの1時間50分の間に一度も乳児室に 入っていなかった。 判決3⑪)は,乳児の事故死の過半は窒息死となっており,その大部分は4ヵ月以内の乳児であ る。そしてその窒息死は,蒲団の掛けずぎなどによる鼻口部の圧迫閉塞や吐乳の気管内吸引によ る気道閉塞が多いとされているから,保育者としては,被害児に対する授乳後も,睡眠中を含め 相当程度頻繁に乳児室を見回って乳児の動静に気を配り,吐乳吸引が生じることのないようにす る安全配慮義務があるとしている。 ㊧ 福岡地判平成15年1月30日(判時1830号l18頁,保育情報318号11頁) 本件は,社会福祉法人立の認可保育所において,4ヵ月児(女)が午睡中に窒息死した事件で ある。担当保育者は,午前9時45分ころに被害児に重湯を与えた後,おむつ換えを済ませ,ぐず り気味の被害児を布団の上にうつぶせに寝かせ足に布団をかけた。その後,被害児のぐずり泣き がやんでいるのに気づいた保育者が近づいてみると,被害児はぐったりとしており,保育所隣の 医院に搬送されたが,そのときにはすでに呼吸及び心音は止まっており,救命措置がとられたが, 蘇生するにいたらず死亡が確認された。
判決は,保育者の安全配慮義務について,保育者は「乳幼児をうつぶせ寝にすることについて の危険性,…泣き続けていた等の即興加(被害児一引用者注)の状況及び・寝かせる布団の状態を 認識しながら,布団の上に愛也加をうつぶせ寝にさせたのであるから,野牛加が窒息等により生 命に危険のある状態に陥らないように,うつぶせ寝にした愛野加の動静を注視する義務がある」 としている。 ⑥ 自由遊びの際の安全配慮義務 自由遊びは,園内での保育活動の重要な場面であるが,子どもの自由な活動を本質とするだけ に事故の発生しやすい場面でもある。以下において,自由遊び中の事故の轡例を取り上げ,裁判 所は,保育者にどのような安全配慮義務を求めているかを考察する。 ⑦松山地判平成9年4月23日(学理1321・36頁,半讐タ967号203頁) 本件は,自由遊び時間中の午前8時50分野ろ,教室内において,幼稚園児(女・4歳4ヶ月)に 同じ組の園児の歯がぶつかり,右目瞼挫創,右目裂傷等の傷害を負い,右目視力が0.05に低下 するなどの後遺障害が残った事件である。当日,担任教員は,8時15分ころから教室内で保育の 準備をしていたが,8時30分ころ被害児を迎えにいき35分野ろ教室に戻った。40分ころには被害 児を含む約15名の園児が教室内におり,着替えや積み木遊びをしていたが,騒いだり暴れたりし ている園児はいなかった。 判決は,まず一般論として,「心身共に未熟な幼稚園児の教育,監護に当たる被告(学校法人一 引用下下)としては,担当教員において,可能な限り園内における園児の行動を見守り,危険な 行動に及ぶ園児に適宜注意を与えるなど,園内での事故発生を未然に防止すべき安全配慮義務を 負っている」としている。ここで判決は,②園管理当局(学校法人)の安全配慮義務は,「心身共 に未熟な幼稚園児の教育,監護に当たる」ことであり,具体的には,履行補助者である保育者 (担当教員)の活動を通じて「園内での事故発生を未然に防止すべき」こととしている。そして, ⑤保育者には,園管理当局の履行補助者として「可能な限り園内における園児の行動を見守り, 危険な行動に及ぶ園児に適宜注意を与える」安全配慮義務があるとしている。 ただし,事実認定において判決は,事故が「偶発的,かつ瞬時に衝突して発生した」ものであ ること,とくに騒いだり,暴れたりしている園児はいなかったことに鑑みると,担任教員におい て,「事故の発生を予見し,これを未然に防止することは無理であったといわざるを得ず,被告 に安全配慮義務違反があったとは認め難い」と剖示している。 ④ 東京地八王子支判平成10年12月7日(学判1321・71頁,判例自治188号73頁) 本件は,保育園児(男子5歳2ヶ月)が,保育時間中に園庭において,クラス全員(4歳児19名) で鬼ごっこをしていた際鬼役の園児に背中を押されて転倒し,玄関前のレンガ製ポーチ(園庭 からの高さが約15c幻の角(直角で丸みがない)に前額部をぶつけ,約3cmの裂傷を負った事件であ る。保育園では,園庭で鬼ごっこをする場合,園舎の玄関内に入らないこと及び園舎の裏側(北
側)に行かないことがルールとされていたが,被害児は,鬼役の子に追われて園庭を走りまわっ ていたが,段々と追いつめられ,玄関の方向へ逃げていって,本件ポーチの縁止と並行して走る かたちとなった。 糠央は,まず一般論として,園児は「いまだ危険状態に対する剖断能力や適応能力が十分では ないため,・,・・保母から…注意を受けていたとしても,そのような指導に従わなかったり,あるい は遊びに夢中になるうちに…注意を失念したり,危険性の認識を欠くなどして,危険な場所に不 用意に近づく児童もいないとは限らない」としている。そして,園管理当局(市)には,「保育所 の設置に当たっては,このような園児の行動様式も考慮して,安全な構造,設備を選択すべき」 物的な条件整備的安全配慮義務がある(実際には,園管理当局はこの義務を怠っていた)としている。 次いで,保育者の安全配慮義務について判決は,「ポーチに近づこうとする園児がいれば遠ざけ る等の措置をし,かつ,鬼ごっこの仕方についてもより細かく注意すべきであったのにそれをし なかったことが安全配慮義務に違反するとは認められ」ないとしている。すなわち,判決は,保 育者の安全配慮義務の内容として,遊ぶ場所の注意だけを求めており,それ以上に遊び方につい ての注意(ポーチに近づこうとする園児がいれば遠ざける等の推置をする,鬼ごっこの仕方についてもよ り細かく注意する)までは要求しておらず,緩やかな基準となっている。 ◎ 浦和地剖平成12年7月25日(学判1335・58頁,判時1733号61頁) 本件は,幼稚園児(女・3歳11ヵ月)が自由遊びの時間に園庭で遊んでいるとき,園庭に設置さ うんてい れたアーチ形の雲梯(高さ1.4m,長さ3.2m,幅L3m)の高さBm付近から端と端を結び,輪の形 (直径80cm)で垂れ下がった縄跳び用の縄(長さLgm)に首を引っかけて窒息死した事件である。 被告学園(幼稚園)は,日ごろ,縄跳び用の縄についてはその本数を確認し,安全な場所に保管 するようにしていたのであるが,事故当日は,幼稚園の行事のために縄が出されており,園児ら は縄を使用して遊んでいた。 判決は,まず,園管理当局(被告学園)には「幼稚園の教:職員らに対する園児らの安全確保及 び事故防止に関する教育,管理」の安全配慮義務があると判示している。そして,保育者(園長 やクラス担任・副担任)には,「縄跳びの縄の管理(園児の手の届かない場所に数を確認して保管する一 引用者注),…うんていの落下防止等に関する運用(頂上部から園児が落下しないように支える一引用 四声)を履践し,(被害園児)の自由遊び時間における行動,本件うんていにおける園児らの遊 戯の状況や縄跳びの縄の使用などについて十分な監視」をする安全配慮義務があるとしている。 また,被害児が3歳児で,「親元を離れて慣れない幼稚園生活を始めた状況であったのであるか ら,自由遊びの時間であっても,その安全確保,事故防止には一層の配慮が求められる」と判示 している。 ㊤ 東京平門平成19年5月10日(学校事故の法律実務902/4/2頁) 本件は,幼稚園児(女・6歳)が,昼食終了後に,幼稚園のホールで鬼ごっこの一・種「たか鬼」
で遊んでいた平他の園児が投げたボールに当たって転び,ホール内に置かれていた移動式舞台 で顔面を強打して,下前歯が4本脱落するなどの怪我を負った事件である。当時,ホール内には 園児達の遊びを見守っている教諭は1人もいなかった。 剖決は,まず,園管理当局(幼稚園設置者)の安全配慮義務に触れ,「園児は3歳から6歳と幼 いことから,幼稚園設置者は,園児の安全確保及び事故防止については,高度の配慮が求められ る」としている。そして,「多数の幼い園児を本件ホールで自出に遊ばせれば,活発に走り廻っ ママたりすることが予想され,その際に転倒や衝突等に園児が怪我をする可能性があること,その際 に,…移動式舞台等の備晶類にぶつかって重大な結果が発生することは容易に予想できる」から, 事故当時に「少なくとも1名以上の教諭等を…ホールに配置して,園児らの遊びを見守らせ,適 切に指導すべき…義務があった」としている。次いで,保育者の安全配慮義務に触れ,保育者ら が,「園児らに常日頃注意していたとしても,園児らの年齢にかんがみると,そのような注意を 与えていたからといって,安全配慮義務を果たしたとは到底認められず」,「園児らが…ホールで 遊ぶ際には,少なくとも1名以上の教諭等を配置し,適時に適切な指導をするべきであった」と している。すなわち,判決は,自由遊びにおける保育者の安全配慮義務として,事前の一般的な 注意喚起・指導だけでは不十分で,常に子どもたちそばにいて,子どもの遊びを見守り,個々に 具体的な注意や指導をする必要があるとしている31)。 ㊧ さいたま地判平成21年12月16日(判タ1324号107頁,判時2081号60頁) 市立保育園児(男・4歳5か月)は,午前10時20分ころ,所属の4歳児クラス(担任保育士2・名) の20名とともに園外散歩から帰園した。その後,4歳児クラスは,10時30分ころから自由遊びの 時間として,保育室,廊下,ホールなどでバラバラに遊び始めたが,被害園児が最後に保育十に 姿を確認されたのは10時30分ころであった。昼近くに2名の担当保育士が,給食の配膳をしたと ころ,1皿が余ったのでおかしいと思い,11時30分ころ,園児を確認して初めて被害園児ら数人が いないことがわかった。その後,園内外の一斉捜索が行われ,約1時間後の午後0時25分ころ, 保育所の通路に設置されていた本図下部の双納本の中で,汗びっしょりで体温が高く,意識のな い状態の被害園児が発見された。大学病院の救急救命センターに搬送されたが,1時50分ころ熱 中症により死亡した。 判決は,まず一般論として,「保育士は,子どもが,どこで,誰と,どんなことをしているの かを常に把握することが必要不可欠であって,少なくとも自分が担当する子ども達の動静を常に 把握する義務を負っている」と判示し,保育者は安全配慮義務の基本として,少なくとも自分が 担当する子どもの動静把握義務を負っているとしている。次いで判決は,自由遊びにおける動静 把握義務に触れ,「自由保育の時間を取り入れ,児童らが保育所内を自由に動き回って遊んでい るような状態の場合,子ども達の動静を把握することは困難であるから,複数担任制であれば, 担任保育士同士で声を掛け合ったり,・,・少なくとも30分に1回は人数確認を行うなどして,子ど
も1人1人の動静に気を配ることが求められている」と判示し,自由遊びの場面においても,厳 しい動静把握義務を要求している。さらに判決は,「担任以外の保育十らにおいても,全ての児 童の名前や顔を把握した上で,保育所全体で児童の動静把握と安全確認に努めることが求められ ている」として,子どもの動静把握は保育所全体で取り組むべき義務でもあるとしている。 ◎ 保育室などの管理に関する安全配慮義務 保育活動における安全配慮は,指導上の安全にとどまらない。保育者は,保育室などの物的施 設の管理についても十分配慮し,安全な保育の環境を保持しなければならない32)。 ⑦名古屋地剖平成19年9月6日(判子2000号87頁,学校事故の法律実務916/6/2頁) 本件は,保育園児(女・3歳)が,昼寝時間の前に異物(植物の種子らしきもの)を耳の中に入れ てしまった事件である。保育園では,直ちに近くの総合病院で診察を受けさせたがうまくいかず, その後いくつかの病院を経て,結局手術で異物を摘出することとなり,結果的に右鼓膜穿孔右 耳小骨難所等の傷害を負うに至った。 判決は,一般論として,「低年齢児の保育を行う保育園においては,園児が木の実,BB弾等 の異物を耳に入れてしまう等の事故が発生する危険があることは予見される…から,…保育士は, 保育室内から異物を除去せしめるための具体的措置,具体的には保育室等保育園内の清掃をする 義務が・・ある」と判示している。ただし,判決は,本件保育園では,朝の保育開始前および昼食 の前後に清掃が行われていたことから異物除去の具体的義務違反はなかったと判断している。 ⑦ 熱湯管理における安全配慮義務 保育室などの安全管理に当たっては,保育室内における熱湯の管理にも十分な配慮が必要であ る。しかし,現実には,熱湯管理不十分のためいくつかの事件が発生している。 (i)東京地判昭和45年5月7日置学判621頁,判時612号66頁) 担任が保育用のポスターカラーを溶くため,熱湯を入れたやかんを保育室の床の上に置いてお いたところ,幼稚園児(男・5歳9ヵ月)がこれにつまずいて転倒し,熱湯を浴び火傷を負った。 その後担任は,あわてて被害児のズボン,ズボン下,パンツを脱がせたため,途中から水で冷や しながらしたことも効果はなく,結局両脚の皮膚がはぎ取られてしまった。 判決は,「5歳前後の幼児のいる保育室の床上に熱湯の入っているやかんを置いたことは,園 児の安全をまもるため充分の注意を尽くすべき立場にあるものとして,重大な過失である」とし て,保育者は,そもそも保育室の床の上に熱湯の入ったやかんを置かないようにする安全配慮義 務があるとしている。そして,「5歳前後の幼児に対し口頭で…注意を与えていただけでは,到 底園児の安全を守る義務をはたした」とはいえないと判示し,r顧注意では足りないとしている。 また,「広範囲の皮膚の熱傷により皮膚が着衣に密着している場合の救急措置として鋏で着衣を 切り裂く等の方法により皮膚がはがれないように万全の注意」をする安全配慮義務があるとして いる。
(慧)札幌地判昭和53年8月31日(学判659頁,今時929号104頁) 園児(男・2歳8ヵ月)が託児所の保育室内にある冷蔵庫の上にあったポットに,冷蔵庫脇の段 ボール箱に登り手を触れたため,ポットもろとも床に倒れ,熱湯を浴び大火傷をした。 剖決は,幼児の行動特性を,「通常3歳前後の幼児にとっては大人の常識では考えられない場 所を遊び場とし,又,異常とも思えるものを遊び道具とする」ものととらえている。そして,保 育者としてはこれらを予想し,「そのために生ずる危険防止のため,熱湯入りのポットを園児の 遊戯室内に持ち込み,園児の手が届く可能性のある場所に置くことなく,又,使用する場合には その都度これを持ち込むなどの方法をとるべき」安全配慮義務があるとして,被害児の行動特性 を特に考慮して安全配慮義務を定めている。 (m)盛岡地一関支判昭和56年11月19日(学判638頁,判タ460号126頁) 保育者が,自分の保育室から掃除用の熱湯の入ったバケツを持って廊下に出ようとしたところ, 隣のクラスの園児(男・4歳11ヵ月)とぶつかり,園児が熱湯をかぶり大火傷をした。保育者は廊 下に出る際担当する5歳児のクラスの園児たちには,熱湯が危険だから座っているように注意 をした。そして,廊下に通ずるドアの前で一度バケツを床に置き,ドアを開けて廊下に園児のい ないことを確認したうえ,再びバケツを取り上げて廊下に一歩出たところで,右回の4歳児の保 育室から廊下に走り出てきた園児とぶつかり事故となった。 判決は,まず一般論として「園内で熱湯を運搬するにあたっては園児の飛び出し等にそなえ充 分に安全を確認したうえ運搬をなすべき注意義務がある」としている。そして,被害児を含む 「4才児以下の園児たちは注意に従わない子が多く,特に原告T(被害児一引用者注)は4才児で ありながら被告保育園の1階の窓から飛び下りたりもしたことのある活発な園児であり(従って, よりその動静を注意する必要があるものと考えられるが)」,かつ保育者の出た「ドアと原告Tの所属 する教室の入り口は隣り合っている」から,熱湯の入ったバケツを持って廊下に出るときは, 「廊下に園児のいないことを確認したのみ」では足りず,さらに「隣りのクラスの園児の動静を 注意していま一度確認」してから廊下に出る必要があると厳しい安全配慮義務を課している。つ まり,判決は,被害児の行動特性・性格などを特に考慮して具体的な安全配慮義務を定めている のである。 ① 事故発生後の事後的措置に関する安全配慮義務 保育者には,事故の発生を未然に防止し,子どもの生命・身体の安全を図る安全配慮義務とと もに,事故が生じた場合には,適切な事後的措置をとり,被害を最小限に食い止めるべき安全配 慮義務もある。具体的には,応急処置をする,受傷の程度によっては医師の診察を仰ぐ等の措置 をとるべき義務,保護者に事故状況を報告する義務が考えられる33)。 岡山地判平成18年4月13日(裁判所HP)は,この問題に触れたものである。本件では,保護者 に子どもの嘔吐,痙攣などの異常を連絡したが,すぐに医療機関に連絡してその指示を仰がなかっ
たことや,医療措置を受けなかったことが問題となった。 判決は,「保育十らにおいて…保育園児の健康状態を観察し,何らかの異常が発見された場合 には,嘱託平等医療専門家に相談してその指示を求め,迅速に,医療機関の医療措置を求めるな どの適切な処置を講ずべき」必要があると判示している。ここでは,保育十が,「健康状態を観 察し,何らかの異常が発見」した場合に限って,医療専門家に相談したり,「医療機関の医療措 置を求める」必要があるとされている。事故があれば,事情を問わず,すべて医療機関の医療措 置を求める義務があるとされているわけではない。 (3)保育活動終了後の保育着の安全配慮義務 前述のように保育活動終了後であっても,園児が園内にいる間は(あるいは保護者に子どもを引 き渡すまでは)保育に随伴する生活関係の範囲内といえるから,保育者の安全配慮義務が及ぶ。 こうした場合,保育者はどのような安全配慮義務を尽くせばよいのだろうか。 ①松山丁令昭和46年8月30日(一二737頁,判時652号69頁) 本件は,保育園児(女・4歳4ヵ月)が保育活動終了後,母親の迎えを待ちながら滑り台で遊ん でいたとき,肩からかけていたカバンの紐を滑り台のまわりに引っ掛け窒息死した事件である。 事故当時,10数名の園児が保護者の迎えを待って砂場や滑り台で遊んでいたが,保育者らは迎え にきた父母に園児を引き渡したり,園内の清掃をしており,滑り台の園児を監視している者はい なかった。また,事件発生前,被害児の担任は,園児がカバンをかけたまま滑り台で遊んでいる のを目撃し危険を感じたが,特に注意をしなかった。 判決34)は,保育活動終了後であっても,園児が園内にいる間は(あるいは保護者に子どもを引き 渡すまでは),保育者は「園児の行動の監視を怠らず,不幸にして園児が右危険行為に出て生命, 身体に対する危険が生じた場合は直ちに救護の措置をとるべき義務がある」とするとともに, 「常に,園児に対し鞄をかけたまま滑り台で遊ぶのは危険であることを教え,右危険行為」をし ないような安全教育を普段から徹底すべき安全配慮義務があるとしている。 ②水戸地’卜浦潜考昭和50年8月11日(学判1405・13頁) 被告幼稚園は,保育活動終了後,園児を2つのグループに分けてマイクロバスで送迎していた。 被害児(女・4歳)は第2グループで,第1グループを送ったバスが戻るまで,幼稚園の玄関か ら約100m離れた園内の所定の場所で待つことになっていた。同幼稚園では玄関から待機場所ま での園児の引率,待機場所における監督者は特に定められておらず,各クラス中最初に園児を待 機場所まで引率した保育者や手のすいている保育者がこれにあたっていた。事故当日,被害児の 担任は,他の園児の世話に気をとられ被害児から目を離し,しかも他の保育者に依頼するなどの 措置をとらなかったため,被害児は1人で歩いて帰ろうとし,その途中事故に遇い死亡した。 剖決は,幼稚園の玄関から約100m離れた場所で,マイクロバスに乗せるまでの問(約25分間) 園児を待機させるような場合,保育者としては「当然園児が無断で帰宅することのないように終
始園児に付添って監督すべきである」。付き添い監督をなすべき保育者を特に定めていない場合 には,保育者「全員がこの義務を負っており,他の保母にその義務遂行を確実に依頼したような 場合にのみ義務を解除されるもの」としている。
lllおわりに一判例の要約と検討一
1、剃例に示された保育者の安全配慮義務の要約 以上において,判例を分析し,保育者の安全配慮義務がどのようなものであるかを明らかにし たが,それらをまとめると以下のようなことが指摘できる。 判例に示された保育者の安全配慮義務の及ぶ範囲は,小・中学校の教師の場合よりも広く,ま た,その程度も厳しいものとされている。そして,具体的な安全配慮義務の内容について轡例は, ①保育活動の場所(保育活動の場所が園外であるか園内であるか),②保育活動の種類(危険性の高い 活動であるかどうか),③被害児の月齢・年齢・能力(是非の弁識能九危険判断・回避能力などの程度), ④被害児の行動特性・性格・健康状態・保育期間(行動特性はどうであったのか,粗暴・乱暴な性格 であったかどうか,病弱であったかどうか,入園後門がないかどうか)などを考慮して判断している。 ①②の基準についていえば,判例では次のような判断が示されている。例えば,通園時や園外 保育のように園外の保育活動は,現代の車社会においては極めて危険の多い場面であり,しかも 園児に解放感を与え放恣になりがちな活動であるから,「園児らが隊列を離れ各自の行動にでな いよう十分配慮し,監護すべき」,「自分の傍を離れないように言い聞かせる」など厳しい安全配 慮義務が求められている。しかし,園外保育でも,危険性の低い場所での活動の場合には,それ ほど厳しい安全配慮義務は求められていない。 園内における活動についても,綱引きや水泳のようにそれ自体に危険性を内包した活動につい ては,「双方の状況をよく監視し,(園児が勝手なことをすれば),いつでもただちにその場に駈 けつけてこれを制止することができるような」十分な監視体制,「いささかの気の緩みも許され ないとの厳しい心構え,使命感」など厳しい安全配慮義務が求められている。就寝中の場合も窒 息の危険性が高いことから,同様な厳しい安全配慮義務が求められている。また,自由遊びの場 合も,子どもは自出かつ活発に動き回り,バラバラになったり,転倒・衝突などの危険性がある ことから,「可能な限り園内における園児の行動を見守り,危険な行動に及ぶ園児に適宜注意を 与える」,「園児らの遊戯の状況や縄跳びの縄の使用などについて十分な監視」をする,「自分が 担当する子ども達の動静を常に把握する」,「児童らが保育所内を自由に動き回って遊んでいるよ うな状態の場合,…複数担任制であれば,担任保育士同十で声を掛け合ったり,…少なくとも30 分に1回は人数確認を行うなどして,子ども1人1人の動静に気を配る」,「保育所全体で児童の 動静把握と安全確認に努める」などのように厳しい安全配慮義務,特にその基本である動静把握 義務が強く求められている。このように判例は,その活動に内在する危険性が高ければ高いほど,事故防止のため高度な安全配慮義務を求めているのである35)。 ③の基準についていえば,判例では次のような判断が示されている。例えば,剖例は,乳幼児 の能力を小学生よりかなり低いものと考えているが,具体的な能力は月齢によっても異なり,そ れに応じて保育者の安全配慮義務の内容にも違いがみられる。乳児を就寝させる場合,判例は, 9ヵ月児の場合には,保育者の観察しやすい場所に寝かせて観察するか,定期的に巡視をして異 常の有無を確認する措置を講ずることで足りるとしている36)が,4ヵ月児の場合には,より厳し く相当程度頻繁に乳児室を見回って乳児の動静に気を配ることや,被害児の動静を注視すること を要求している。 ④の基準について判例は,例えば,3歳前後の幼児は「大人の常識では考えられない場所を遊 び場とし,・,・異常とも思えるものを遊び道具とする」というように,被害児の行動特性を特に考 慮して安全配慮義務を考えている。また,被害児が活発な性格であることを考慮して,熱湯の入っ たバケツを持って廊下に出るときは,廊下に園児がいないことを確認しただけでは足りず,隣の クラスの園児の動静をいま一度確認する必要があると厳しい安全配慮義務を課している。さらに, 被害児の健康状態を考慮し,被害児が風邪気味で体調の悪いことを知りえたならば,食事内容を 吟味したり,観察を細かめにするなどの格劉の安全配慮義務が生じるとしている。そして,保育 期間については,入園後間がなく,幼稚園生活に慣れない場合には,「安全確保,事故防止には 一層の配慮が求められる」として厳しい安全配慮義務を求めている。
2、判例の検討
以上において紹介してきた轡例の判断は,おおむね妥当なものと思われる。しかし,問題とな る判例もいくつかみられる。以下において検討をする。 ω 問題点の指摘一階管理当局と保育春の安全配慮義務の椙関関係 判例のなかには,園管理当局の安全配慮義務37)の履行が不完全であるにもかかわらず,保育 者に過大な安全配慮義務を課し,その過失(安全配慮義務違反)を広く認定しているものや,園管 理当局の安全配慮義務を保育者に転嫁しているとみられるものがある。こうした考え方は,不条 理であるだけでなく,保育者に対する責任や社会的非難に対する外圧となり,その身分的不安定 を招き,結果的に保育者を萎縮させ,危険をともなう活動はなるべく避けるという保育活動の消 極化を招くという問題:がある38)。 そもそも園管理当局の安全配慮義務の履行状況と保育者の安全配慮義務の必要度とは,相関関 係にたっている。したがって,保育者に安全配慮義務違反が問われてよいのは,園管理当局の安 全配慮義務が適正に履行された場合であって,しかも,保育者の安全配慮義務の範囲内で,その 保育者の保育における不注意ないし努力なき専門的水準不十分の場合である。園管理当局の安全 配慮義務が不完全にしか履行されていないために生じた事故についてまで,保育者の責任は問われるべきではない。判例にあらわれた事故事例では,その主因が,保育者の安全配慮義務の範囲 外で,むしろ園管理当局の安全配慮義務の不完全履行にあるとみるべき場合が少なくないのであっ て,このような場合にまで保育者に超人的働きを求めるような過大な安全配慮義務を認定したり, 園管理当局の安全配慮義務を保育者に転嫁したりすることは,条理に叶うものではない39)。 判例のなかにも,同様な考えを示すものがある。例えば,名古屋地下昭和59年3月7日は,保 育者の安全配慮義務違反(過失)を否定した判断のなかで,夜間,1人で9人もの乳幼児の世話 をしながら,体調が悪いことを知らないまま,ベビーベッドで眠っている被害児に絶えず注意を 払うことは期待し得ないところであり,保育者に監視義務違反などの過失を認めることは困難で ある。本件ではもう1人保育者がいたならば,幼児の死を防止しえた蓋然性は低くないとしてい る。ここでは,1人の保育者に9人もの乳幼児の保育をさせるという,園経営者側の人的な条件 整備的安全配慮義務の履行が不完全な場合にまで,保育者に安全配慮義務を認めることはできな いとの考えが示されている。また,東京地八王子支判平成10年12月7日は,安全配慮義務の内容 として,遊ぶ場所の注意だけを求めており,それ以上に遊び方についての注意までは求めておら ず,通常の場合に比べ緩やかな基準となっている。これは,園管理当局の物的な条件整備的安全 配慮義務の履行状況が不十分な場合(実際には,判例の求める安全な構造,設備が採用されてい なかった)にまで,保育者に厳しい安全配慮義務を求めることは不合理であるとの考え方に基づ くものと考えられる。つまり,ここでも,上述の名古屋地判昭和59年3月7日と同様な考え方が 示されているといえよう。 ② 問題となる判例 保育者に過大な安全配慮義務を課したり,園管理当局の安全配慮義務を保育者に転嫁したりし ている問題判例がいくつかみられる。例えば,通園時の事故に関する判例(東京高判昭和40年6月 17日,最判昭和42年6月27日,鳥取地判昭和48年10月12mは,いずれも1人の保育者が13名の幼児を 引率しているケースであるが,1人で13名の幼児全員に十分な注意を払うことは事実上困難では ないだろうか。特に鳥取野竹昭和48年10月12日の事例は,1人で13名の幼児を引率しているだけ でなく,乗り換え場所では7名の幼児を下車させ,しかもその内の4名を到着済みの系統の異な る2台のバスに乗車させる必要があった。そのうえ乗り換え場所は大混雑していた。かかる状況 において幼児1人1人を確認して下車させ,しかも下車した7名全員を十分に監視し,安全に乗 り換えさせることは事実上不可能なことではないだろうか。そうだとすれば,保育者に過大な安 全配慮義務を課し,その過失を追及することは,実際問題として酷にすぎるように思われる。本 件では,付き添いの保育者の数を増員しなかった園管理当局の人的な条件整備的安全配慮義務違 反が問題とされるべきではないだろうか40)。同様のことは,園外保育で22名の幼児を1人の保 育者が引率している事例(京都地判昭和46年12月8日)についてもいえよう。 また,綱引き練習中の事例(人品地判昭和48年6月27日)についても,たかだか全長32mの綱を
一杯に伸ばすことのできない園庭は,園管理当局による施設・設備等の物的な条件整備的安全配 慮として十分なものといえるのであろうか。園庭がこれ以上拡張できないとすれば,園管理当局 はあらかじめ短い綱を用意すべきではないだろうか。これらを考慮するならば,判例の要求する 安全配慮義務はいささか過大ではないだろうか。すなわち,園管理当局による施設・設備等の物 的な条件整備が十分になされていたならば,保育者の安全配慮義務は実質上階減されていたとい えよう。保育者に過大な安全配慮義務を課すことによって物的条件整備の不完全さを補おうとす ることは,正当な考え方とはいえない。 さらに,水泳指導中の事故の事例において大阪地平昭和62年3月9日は,事前に監視について 具体的な検討,研究をせず,安易,杜撰な監視体制・方法をとっていた保育者には過失があると している。しかし,本件で問題とされるべきは,園管理当局の保育活動運営体制の面での管理安 全配慮義務(事前の監視体制整備義務)違反そのものではないだろうか。すなわち,判例の要求す る,保育者各人の監視能力,その能力に応じた監視可能園児数,監視者の各位置関係及びそこで の具体的監視法,並びに監視者相互の緊蜜な連携保持法曽の具体的な検討,研究は,保育者個人 では対応することができず,園管理当局において事前になされなければならないものである。監 視についての具体的な検討,研究が園管理当局によってなされないまま,保育者各自がある程度 の距離は置いていたものの,思い思いの場所で監視していたため,結果的に事故が発生したとし ても,そのことの故,保育者に過失責任を負わせることはいささか酷にすぎるように思われる。 園管理当局の管理安全配慮義務を現場の保育者の安全配慮義務に転嫁することは,妥当な考え方 とはいえない41)。 なお,睡眠中の事故事例の多くは,いわゆる無認可保育所における事例であり,園管理当局の 人的条件整備,物的条件整備等の条件整備的安全配慮義務の履行状況は必ずしも十分野ものとは いえない。したがって,保育者の安全配慮義務を考えるにあたっても,この点の配慮が必要であ ろう。 13)園管理当局の安全配慮義務の重視 保育事故は,保育者や園管理当局の安全配慮義務違反など複合的要因によって発生するもので あり,特に園管理当局の安全配慮義務違反に由来する場合も多いと思われる。それゆえ,保育事 故の真因を探求し,事故を防止するためには,保育者の安全配慮義務だけではなく,園管理当局 の安全配慮義務を明確かつ適正に把握・位置づけることが不可欠である。すなわち,性質の異な る2つの安全配慮義務(園管理当局の安全配慮義務と保育者の安全配慮義務)を明確に区別するとと もに,まずなによりも園管理当局の安全配慮義務に注目し,その具体的内容を明らかにすること が必要になってくる42)。これにより,保育者に過大な安全配慮義務を課したり,園管理当局の 安全配慮義務を保育者に転嫁する危険性を避けることができる。近年の判例には,こうした点を 意識したものがみられるが,まだ十分とはいえない43)。
注 1)本稿では,幼稚園・保育所において,子どもの保育に関連して生じた,子どもを被害者とする人身事故 を保育事故と総称する。 2)伊藤進『学校事:故の法律問題』三省堂,1983,「はしがき」参照。 3)伊藤・前掲「学校事故の法律問題』,「はしがき」参照。 4)こうした問題について筆者は,以下の論文において,様々な角度から考察をしている。 (D「保育者の損害賠債責任と注意義務に関する一考察一損害賠債請求事件の判例を中心として一」「一 宮女子短期大学紀要第22集』1983,43−61頁,(2)「園児事故に関する一考察一損害賠償請求事件の判例 を中心として一」『全国保母養成協議会第29回研究大会発表論文集』1990,30−31頁,(3)「保育者の保 育活動上の安全注意義務一保育事故に関する判例の分析・検討を中心として一」『保母養成研究第13号』 1996,15−26頁,(4)「保育事故と保育者の保育活動しの安全注意義務一保育事故の判例の分析・検討を 中心として一」中久郎編『社会福祉の理念と技法』行路社,2003,43−66頁,(5)「乳幼児の死亡事故と 保育者の安全配慮義務一死亡事故に関する判例の分析・検討を中心として一」「日本保育学会第57回大 会研究論文集』2004,872−873頁,(6)「乳幼児の睡眠時における保育者の安全配慮義務一乳幼児の睡眠 中の死亡事故に関する判例の分析・検討を中心として一」『愛知新城大谷大学研究紀要第1号』2005,27 −39頁,(7)「保育活動中の事故と幼稚園・保育所側の安全配慮義務一最近の保育事:故に関する判例の分 析・検討を中心として一」「日[本保育学会第60回大会研究論文集』2007,1382−1383頁,(8)「保育活動 にともなう事故と幼稚園・保育所側の安全配慮義務一最近の保育活動にともなう事故の判例の分析・検 討を中心として一」『東海学園大学研究紀要第14号』2009,73−95頁。 5)伊藤・前掲「学校事故の法律問題』,22−23頁参照。 6)本稿では,幼稚園教諭,保育所保育士(従前の保母),無認可保育所などで子どもの保育に当たる者を 保育者と総称する。 7)伊藤・前掲「学校事故の法律問題』,22頁参照。 8)東京地判昭和40年9月9日・教育判例研究会編『学校事故・学生処分判例集』ぎょうせい(以下,学判 と略称)723頁,下級裁判所民:事裁判例集16巻9号1408頁,人阪地判昭和50年3月3日・学判1304頁, 「判例時報』(以下,判時と略称)781号93頁など。 9)和歌山地判昭和48年8月10日・学判1294頁。 10)これは,保育者は園児を保育し,その健全な心身の発達を助長するという,いわば社会公益上重要な責 務を負っていること(学校教育法22条,27条,児童福祉法18条の4,39条参照),そして,その故に行為 の責任について弁識能力を欠く園児の監護,教育等に関しては,園ないしこれに準ずる場所での生活関 係において必要な推置をとることが認められている(児童福祉法47条2項参照)ことによるものと解さ れる(和歌山地判昭和48年8月10日参照)。 11)後述・松山地判昭和46年8月30日,水戸地十浦支判昭和50年8月11日参照。なお,伊藤・前掲『学校事 故の法律:問題』,102頁参照。 12)伊藤進・織田博子「解説学校事故』三省堂,1992,373−374頁参照。 13)千葉地判平成20年3月27日・判時2009号116頁参照。 14)伊藤・前掲「学校事故の法律:問題』,117−119頁参照。