香川大学農学部学術報告 努29巻第61号177′}183,1977 177
土砂災害に閲す−る地質学的,土質工学的研究(Ⅱ)
∼−7617号台風被災地の土質特性一
斎藤 実,横瀬 広司,青柳 省吾,山田 宣良
GEOLOGICAL AND GEOTECHNICAL STUDIES ON THE
SAND DISASTER(ⅠⅠ)
−MechanicalProper’ties of Soilof the Stricken Districts at the Typhoon No.7617−
Minoru SAITO,HirojiYoxosE,Shogo AoYANAGI
and NoriyoshiYAMADA
In experiments on the mechanicalproperties(gradation,COnSistency,permeability,PF
value etc.)of the soilof stricken district,itis provedthat there are consideIable amount of
andesitic soil,derived from the cap rock,in addition to the granitic soil(Masa)that has
been considered as the main source of sand disaster. As the andesitic soilhas reversal
mechanicalproperties to Masa,the relative quantity of andesitic soilto Masa may strongly
influence on the form of sand disaster. The andesitic soilchangesits moisture holding
properties with thedegree of weathering.
For the future construction practice to prevent the soildisaster,it must be studied for the
propertiesof andesiticsoilas sufficientlyas that of Masa.
被災地の土砂の土質工学的特性(柵皮紐成,コン1/ステ∴/シー・低,透水係数,pF値など)を測定した結果,従来より 指摘されていた花崗岩風化土(マサ)のはか帽岩の風化物である安山岩風化土が多数の地区に,無視できない塵で存在 することが確認された. 安山岩風化土はマサと正反対の性質であるため,この存在が土砂災害の形態紅強く影響すると考えられる. 安山岩風化土は風化の進行程度によって,含水特性が大きく変動することを確かめた. 今後,この地域の防災工事を行うに当っては,マサと共紅安山岩風化土の特性を十分検討する必要がある. Ⅰ.ま え が き 一・般に,山地・丘陵地帯での大恩降雨によってもたらされる災害は,崩壊,土石流などに.よる大意の土砂の生産と移 動に伴い,急激な侵食と堆積が行われるのが特徴であって,破壊力が大きく,人命の犠牲や財産の壊滅的破壊を受けや すいもので,最近の台風などの豪雨紅・よる災害の中で,このような土砂の移動紅伴う災害が大きな比重を占めてき・てい る. 昭和51年9月8日から13日にかけて来襲した7617号台風ほ四国地方紅豪雨をもたらした.とくに,徳島県の日早で連 続雨塵2,781mm,日雨宜1,114mm,時間雨史90mm(近隣の谷口で非公式に117mm)で平均年雨畳3,200∼3,400mm の7∼8割紅あたる降雨盈が記録された・香川県紅・おいても,小豆島の内海で連続雨盈1,400mm,日雨盈754mm,時間
斎藤 実,械瀬広司,背柳省吾,山田宣良 香川大学農学部学術報告 178 雨塵88mmが記録され,災害の後進県とされていたが,小豆島,束讃部を中心に到る所の山地・丘陵軋土砂災害が発生 し,小豆島だけで大小1,000ケ所以土佐及んだとされている, これらの復旧や防災関連のエ事は,現在,着々と進行しているが,今後の安全な防災対策を考えるために.,この大災 害の実態の調査,解析が重要な課題であると考えられる.文部省の科学研究費紅よる自然災害特別研究(代表者,京大 防災研,中島暢太郎)をはじめ建設省,應林省などの調査研究,香川県でも県土保全対策調査研究会(会長,香川大農 学部長 斎藤 実)を発足させ,本学に.時人文科学系も含めた姶合的な小豆島災零調査研究班(代表者,学長,円藤展 −・)が編成され,究明が続けられている. 筆者ら吼 本台風により発生した土砂災害を地質的,土質的面から考察を行っており,「第1報7617号台風による土砂 災害の特色(1)」払おいて,主として,地形,地質学的視点から土砂災害の要因分析を行い,その危険度を示す級別区 分表を作製し,香川県下の山地・丘陵地帯に適用し,その−・般的傾向を示した.こ.れらは,勿論,岬虜因である地形, 地質学的因子の影響を検討したもので,土砂災害の発生の可能性や確率を示唆するものであり,現実の土砂災害の発生 の時期,形態,規模などについては,降雨,地歴,土砂特性,水系などその地域の環境条件である多くの因子が関係し て決定されるものである すでに報告された小豆島災害調査(2∼¢)に.よると,雨盈が極端に大きかったことがまず指摘され(2・4・5),崩壊は地 区傾斜が20∼300を超えると勾配に.関係なく発生し(2・∂),その規模は集水面硫の大きさ紅関係し(6),土砂災害発生率 は内海で地区の63%である(5)といった特色が示されているこ.とから,大盤の降雨により多くの要因は比重が低下し, 流下させる原動力である雨意と斜面上の土砂特性の対決の様相が強かったことが推定される. 本文では,山地・丘陵の斜面を構成する土砂について,水分の供給などの外力に.よって現在または将来に移動可能な 状態に到達する土砂の種類,分布,盈,厚さなどの数患的把捉が必要であると考え,被災地における土砂の土質特性を 物理的・力学的性状,透水能・吸水能など水分との関連で発現される性状を重点に若干の実験的検討を行った結果を報 告するものである. ⅠⅠ.試料採取地 調査を行った地点は7617号台風によって香川県下紅発生した土砂災害地のうち,小豆島18ケ所,四国本島側21ケ所の 合計39ケ所で地点名ゝ位置などについては前報(1)の図−1,2,表−1把示した・ これらの被災地の実態調査結果から一般的な特色として次のようなことが認められた・ (1)いまだ流路としての機能が発達していない花岡岩風化土(マサ)分布地帯の山腹部に・おいて,大豊の降雨紅抗 し切れなかった結果と思われる無数のひっかき傷的崩壊が生した・ (2)池田町の谷尻,清野,神ノ浦・内海町の岩谷,福田,西村・土庄町の灘山,小う弘 大弘 田井・津田町の北 山.牟礼呵の八乗.詫間町の紫雲出山・観音寺市の伊吹島など,小豆島関係でも30ケ所に及ぶ地区の中の,とくに被啓 の大きかった地区の大多数は,花崗岩の上部紅安山岩などの帽著のある山地・丘陵地域紅発生している・これらを母岩 とする風化土は後述のように.土質的に対照的性質を示すもので,傾斜面は花崗岩風化土(マサ)のみの地域把対し比較 的急峻勾配を保っている・ ⅠⅠⅠ“土 質 特 性 前節で述べたように,大きな土砂災害発生地区に.おいて上部紅安山岩類の存在が特徴的で,それらは風化残硫土,崩 硫土,運積土といった状態で過去の地歴を反映して地表部近辺を形成している. 筆者らは,これらの状態紅よって異なると思われる安山岩風化土の特性を花属嘉風化土(マサ)の特性と対比させな がら検討することにした. 両者ほ図−1に示した谷尻地区土の粒度分析結果で明らかなように粘度組成にかなり相違があるこ.とが認められる. 他地区土に.おいても同様な傾向があり,これらの粒度分析結果から得られる粒皮紐成の割合は図−2に示した.安山岩 風化土と花崗岩風化土(マサ)はグループをなしてプロットされ前者ほ周の右上方を中心紅後者は左下方に分布し;ゼい る.プロットに分散があることは,同種の母岩よりの生成物であっても,鉱物組成や風化の進行程度,堆積環境によっ
罪29巻第61号(1977) 土砂災害に.関する研究(Ⅱ)被災地の.土贋特性 179 谷尻土 花崗 0 0 0 6 00 4 加積通過率︵%︶ 0 0 2 100 50 0 0】 仁0 粒 径(mm) 図−1試料の粗径加積曲線 100 シルト分(%) 図−・2 試料の三角座表による分類(¢=2mm以下)
斎藤 実,横瀬広司,青柳省吾,山田宣良 香川大学農学部学術報告 180 て上の性質が影響されることの結果と考えられる.・−・般に・,風化の進行ほ粗径の細化であるから,粘土分など細粒物の 多いものはど風化度の高い土とされているが,これは安山岩の場合で,花崗岩風化土(マナ)ほ粗粒部を構成するのが 石英粒子であるため細粒化に限界があるとされている. 永分が附加されること紅よる土の性状変化の螢的表現は,内部摩擦角や粘着力の変化といったセン断強度によるもの が実用的である(8).しかし,風化土のような,多くの場合不飽和状憩で存在し,環境に.よって間ゲキ水圧も変動す・るもの で,しかも土組子自体の破壊も心配される試料において,多くの試料のセン断強度を同じ条件で求めて∴比較することほ 不可能に近いことであるので,幾分,間接的であるが細粒部分を用い,試験条件の設定が容易なコンジステ・ン1ン−・偲を 測定することに.よって検討してみた.キヤサグランデェに.よって提案された塑性図上に表示したのが図−3である.こ 塑性指数ト︵%︶ 30 O JO 20 30 40 50 60 70 80 90 100 =O 120 液性限界lγL(%) 図−3 塑性図に表わした花崗岩風化土(マサ)と安山岩風化土 の場合も安山岩風化土と花崗岩風化土(マサ)把ほ性状に・大きな差があるようで,前者ほ塑性申から塑性大,圧縮性も 大きいとされる区分に分布している・幾分,分散し変動の幅が大きいことが示された.後者は圧縮性,塑性とも小さい とされる部分に.集まっているようである. その他,闇ゲキ比,透水係数などの測定も行ったが(表−1)とれらに、ついても両者の性質ほ対照的で,さらに,試 料乾燥やこね返しなどの影響は安山岩風化土に.著しいことが知られた. 粗粗成分が多く塑性の小さい土(花崗岩風化土)は,−・般に,透水性が良好で平常状態の適切な含水状態でほ摩擦抵 抗を主とする大きなセン断抵抗力が期待できるが,粘着力が低いため少畳の水分増加に.よって骨格構造がくずれ破壊し やすい(8).−・方,細緻成分が多く塑性の大きい土(安山岩風化土)は,不透水性で,絶対値は砂質土より低いが粘着 力を主とするセン断抵抗力があり,水分増加に対してかなりの吸収保持能力がある(6).しかし,豪雨などによる過剰 な水分供給で粗子間隔の増大などにより粘着力が低下し流動化すると考えられる.
181 ※3:地表面下−0.30mの試料 ※4:地表面下−3.Omの試料 ※1:湿潤状態で試料を調整 ♯2:風乾後に試料を調整 水分の吸収保持能について調べるため,土試料に・遠心荷重を加えるpF試験を行い,その結果の一部を図・−4紅示し た.自然状態のものとJISに従って風乾し自然間グキ比に合せて締め固めたものについて行った・試料調整紅よる差は 安山岩風化土に戯分表われるようである・また,pF幸4・0以上の吸着水的水分量ほ安山岩風化土の方が数倍であること が示され,両者の含有する粘土分の盈,質に・関係すると考えられる・ 収縮特性の測定結果はこの傾向が更に顕著となり体積変化がマサの数十倍に・もなるものがあることが示された・ (表−・1) ⅠⅤ.7617号台風災害地と土質特性 小豆島を中心とした香川県下の被災地は花崗岩風化土(マナ)地帯特有の土砂災害であると言われているが,詳細催 検討すると,正反対の性質の安山岩風化土が共存すること,しかも,それが災害の形態その他紅大きな役割を果たした と考えられる. 現地の実態調査と土質特性測定結果・で,土質の面から今回の台風による土砂災害をみると,概略,以下のことが推測 できると思う. (1)花崗岩風化土のみの地帯では,流路としての機能の発達していない山腹に蘭差別的に生じたひっかき傷的崩壊
斎藤 実,横瀬広司,青柳省吾,山田宣良 香川大学農学部学術報告 182 30 0 含 水 比 〝 (%) 20 図一−・4 試料土のpF−、含水比曲線(自然含水士と風乾土) 一鵬こいわゆる「侵食的流動式表層崩壊」−−が多く発生した.これは,風化層の厚い場合に顕著で,砂質のため雨水の 供給で土壌骨格構造の破壊が生じ,流路が発達していないため後続の水分供給が少く,透水性も良好なため,短距離, 小規模に留まったと考えられる. 風化屑の薄い地域では表層が仝ぺて流下する場合もあるが,少盈の土砂でありニヒ石流にまで発展することは少ないと 考えられる. (2)花崗岩風化士(マサ)地静で,大規模な土石流的崩壊が生じた事例の多くは,摩擦抵抗があまり期待できない 骨格構造が未発達な土砂が大意に存在するときで,旧崩壊地,道路,丘陵地静でのゴルフ場,果樹園などの開発した場 所がもとの各地形に復原されたような場合があると思われる・ (3)方形節理から発達した未風化の巨大岩塊が点在する花崗岩風化土(マサ)地帯で多く発生した土石流的崩壊ほ 老年期丘陵の地形的安定の問題のはかに,巨塊が安山岩風化土的な役執つまり,水平および鉛恵方向における不連続 性の影響も大きな要素と考えられる・ (4)帽岩をもった山地・丘陵地域に比較的大きな土砂災害が起り,その崩壊の発生源は花樹岩風化土(マナ)の境 界附近に生じていることが示された この場合,傾斜は急唆であることから考えて,帽岩の風化物である安山岩風化土が上部紅存在するとき,塑性領域が 広く,保水能が大(pF曲線),不遜水性,こね返しにより状態変化のある土の特性から,これが,花崗岩風化土(マサ) の弱点である塑性領域の狭さ,保水能の低さを補う作用を果して来たと考えられる・このため,土砂流出が防がれ,急 勾配を維持しているが,限度以上の降雨でほ・それまでの蓄積が一度に流下する大規模なものまで発達したと考えられ る. 図−5ほ米国開拓局の素掘水路設計の基準(78)を図示したもので,一児粘土に富む土は抵抗力が大きいように見え るが,つまり方が琵粘土質土に比較して悪いため,実廃は浸食を受けやすい‖また,この傾向は風化の進行や,吸水紅
第29巻算61号(1977) 土砂災害に.関する研究(Ⅱ)被災地の土質特性 183 Illl 01 05 トロ 5 間ゲキ比 e 図一5 素掘水路の許容掃流カ 4.88×柑 ̄■5 よる間ゲキ比の増大を生じると急激紅顕著になることを示してこいる.これらの特性は,大患の降雨時には性質の異なる こ種の土が共存する地区においても,補い合う効果も消滅させることを示していると考えられる. Ⅴ.あ と が き 限度以上の降雨の場合を考えると,土砂災害は他の因子を呑み込んで降雨盈と斜面上の移動可能な状態に.ある土砂盈 の対応に.なると考えられるから,土砂の盟約把握の優先が要求される.普通に,何年か紅一度発生する程度の降雨の場 合では,土の質的要素,つまり,ニヒの種類,風化の程度,物理的・力学的特性,吸水・透水能などを検討し,土砂災害 の発生時期,場所,形態,範聞などの予測の資料を得る必要があると考えられる・ 本文において,主として土質的面から,7617号台風による土砂災害の特性を考察した.従来,降雨,地形,地質など の視点からの解析は多かったが,移動物自体である土砂の実体紅ついての調査は少なかったようである.とくに今回の ような大望降雨の場合,移動可能な斜面上の風化土砂の実体の究明,とくに,盈的把纏は焦眉の急であると思われる. 未墾ながら,本学の故上原勝樹教授に.気象関係のデー・クーの提供,分析方法についての御教授を仰いだことを付記 し,心からの感謝と先生の御冥福をお祈り申し上げますル 参 考 (1)斎藤 実,横瀬広司,背柳省吾,山田宣良:土砂 災害に関する地質学的,土質工学的研究(り− 7617号台風に.よる土砂災害の特色−,香大農学報, 29(1),167−175(1977). (2)芦田和男,高橋 保,沢田豊明,江頭進拾,沢井 健ニ:小豆島の土砂災害について,昭和51年9月 台風17号濫.よる災害の調査研究総合報告書,109− 115(1977). (3)柴田 徹,清水正賓,田中陽一▲:ある斜面崩壊 (小豆島)の土質工学的考察,昭和51年9月台風 17琶に.よる災害の調査研究総合報告書,116−121 (1977)“ (4)奥田節夫,級訪浩:小豆島における雨放と土石流 文 献 発生の関係,昭和51年9月台風17号に.よる災害の 調査研究総合報告昏,122−123(1977). (5)小橋澄治,武居有恒,仲野公費:穴吹川流域と小 豆島の土石流の特性紅ついて,−地形条件を中 心として叫昭和51年9月台風17号による災害の 調査研究総合報告苔,124−127(1977). (6)斎藤 実,横瀬広司:花崗岩地域における山地崩 壊の土質工学的,地質学的考察,昭和51年9月台 風17号による災害の調査研究総合報告昏,142− 144(1977). (7)土質工学会席:土と基礎,実用数式・図表の解説, 377−381,土質工学会(1973). (8)CHOW V。T.:Open−ChannelHydraulics,164 −175,McGIaW−Hill(1959). (1977年5月31日 受理)