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Table 1 APQ a PBI b PS c PBeI d Kawabata et al. e a Alabama Parenting Questionnaire b PBI Parental Bonding Instrument c Parenting Scale d Pare

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肯定的・否定的養育行動尺度の開発:因子構造および構成概念妥当性の検証

伊藤 大幸

中島 俊思

(浜松医科大学子どものこころの発達研究センター) (浜松医科大学子どものこころの発達研究センター)

望月 直人

高柳 伸哉

(大阪大学キャンパスライフ支援センター) (浜松医科大学子どものこころの発達研究センター 1)

田中 善大

松本 かおり

(奈良佐保短期大学地域子ども学科) (浜松医科大学医学部児童青年期精神医学講座)

大嶽 さと子

原田 新

(名古屋女子大学短期大学部保育学科) (徳島大学大学院ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部)

野田 航

辻井 正次

(浜松医科大学子どものこころの発達研究センター 2) (中京大学現代社会学部)  本研究では,既存の尺度の因子構造やメタ分析の知見に基づき,養育行動を構成する 7 因子(関与, 肯定的応答性,見守り,意思の尊重,過干渉,非一貫性,厳しい叱責・体罰)を同定し,これらを包括 的に評価しうる尺度の開発を試みた。小学 1 年生から中学 3 年生までの 7,208 名の大規模データに基づ く確認的因子分析の結果,7 因子のうち「関与」と「見守り」の 2 因子を統合した 6 因子構造が支持さ れ,当初想定された養育行動の下位概念をおおむね独立に評価しうることが示唆された。また,これら の 6 因子が,子ども中心の養育行動である「肯定的養育」と親中心の養育行動である「否定的養育」の 2つの二次因子によって規定されるという二次因子モデルは,専門家の分類に基づくモデルや二次因子 を想定しない一次因子モデルに比べ,適合度と倹約性の観点で優れていることが示された。子どもの向 社会的行動や内在化・外在化問題との関連を検討した結果,「肯定的養育」やその下位尺度は向社会的 行動や外在化問題と,「否定的養育」やその下位尺度は内在化問題や外在化問題と相対的に強い相関を 示すという,先行研究の知見と一致する結果が得られ,各上位尺度・下位尺度の構成概念妥当性が確認 された。 【キーワード】 養育行動,養育態度,因子構造,向社会的行動,問題行動

問   題

 親の養育行動 3)は子どもの発達や問題行動を規定する 中心的な要因として,古くから注目されてきた。実際, 親の養育行動は,抑うつ,不安などの内在化問題や攻撃 行動,非行などの外在化問題だけでなく(Galambos, Barker, & Almeida, 2003; Morris et al., 2002),共感,援 助行動などの向社会的行動(Krevans & Gibbs, 1996)と も関連することが実証的に示されている。また,近年で は,自閉症スペクトラム障害や注意欠如多動性障害など の発達障害児を持つ親が,子どもの問題行動への対応に 苦慮した結果,厳しいしつけや放任などの不適切な養育 行動を取り,それが子どもの問題行動の持続・悪化や新 た な 問 題 行 動 の 生 起 に つ な が る と い う 悪 循 環 の プロセスの存在が示唆されており(Falk & Lee, 2012; O Leary, Slep, & Reid, 1999),そうした問題に対処する ためのペアレントトレーニングの重要性も指摘されてい る(Briesmeister & Schaefer, 2007)。

 こうした問題を検討していく上で,包括的かつ十分な

1) 現所属:弘前大学大学院医学研究科附属子どものこころの発達研 究センター

2) 現所属:大阪教育大学教育学部

3) 親の養育のあり方を表す用語として,英語圏では parenting be-haviors, parenting practice, parenting style, parental discipline, pa-rental attitudesなど多くの用語が存在するが,必ずしも明確に使 い分けられてはおらず,単に parenting とされることも多い。国 内では「養育態度」という用語が多く用いられるが,国際的には parental attitudesという用語が使用されることは近年比較的少な くなっていることから,ここでは「養育行動」という語を使用す る。ただし,「養育態度」や英語圏の他の用語と明確な定義上の 区別は行わず,全般的な養育のあり方を示す用語として用いる。

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精度で養育行動を評価する尺度が必要となるが,国内で は養育行動に関する尺度の開発が十分に進んでいな い現状が見られる。国内での養育行動に関する研究で は,Parker, Tupling, & Brown(1979)の Parental Bond-ing Instrument(PBI)の邦訳版(北村,1995)が用い られることが多い。PBI は十分な信頼性・妥当性を持 ち,国際的に幅広く利用されているが,子どもが評定を 行う形式の質問紙尺度であるため,小学生や幼児など, 低年齢の子どもには適用が難しい。  保護者評定形式の尺度は,信頼性・妥当性が十分に検 討されているものが少ない。井澗(2010)が邦訳版を開 発 し た Parenting Scale(PS;Arnold, O Leary, Wolff, &

Acker, 1993)は十分な信頼性・妥当性を有するが,不 適切な養育行動(一貫性のなさや厳しいしつけ)の評価 に特化しており,肯定的な側面(褒め,共感,関与な ど)を評価することができない。肯定的な養育行動は, 不適切な養育行動とは独立に,子どもの問題行動の抑制 や向社会的行動の促進に寄与することが示唆されており (Forehand et al., 2012),包括的な評価を行うことが望ま しい。また,松岡ほか(2011)が開発した養育スタイル 尺度も十分な信頼性・妥当性を持つが,ペアレントト レーニングでの利用を目的としたツールであり,介入に おいてターゲットとなる行動や認知を中心とした項目構 成となっているため,一般的な質問紙調査には必ずしも 適さない。このような現状を踏まえ,本研究では,養育 行動の肯定的側面と否定的側面の双方を包括的に評価で き,かつ,一般的な質問紙調査に適した保護者評定形式 の尺度を開発した。 養育行動の構成要素  尺度の開発にあたり,養育行動の構成要素と構造につ いて理論的な検討を行った。国際的に幅広く利用されて いる 4 つの代表的な養育行動尺度の因子構造と尺度間の 概念的な対応関係を Table 1 に示す。対応関係の判断に あたっては,開発者が述べている概念的な定義だけでな く,個々の因子を構成する項目の内容を精査して判断を 行った。

 Alabama Parenting Questionnaire(APQ;Shelton, Frick, & Wootton, 1996)は,子どもの問題行動と特に関 連が深いと考えられる養育行動を中心に構成された尺度 であり,「関与」(会話,遊びや学校行事への参加など, 子どもの活動への関与),「肯定的養育」(褒め,スキン シップ,感謝の表明など,子どもへの共感的配慮と正の 強化),「見守り」(子どもがどこで何をしているか把握 したり,安全に必要な見守りをすること),「非一貫性」 (親の状況や気分によって,子どもへの対応の仕方が異 なること),「体罰」(平手打ちや物で叩くなどの体罰) の 5 因子とダミー項目である「その他のしつけ」から構 成されている。  APQ は広い範囲の養育行動をカバーする構成となっ ているが,前述の PBI(Parker et al., 1979)が含む「自 由の促進」(子どもの自由と意思の尊重)や「自律の否 定」(子どもの自律性を否定する過度の統制)の要素を 含んでいない。PBI は,原版では「配慮」(会話,褒め, 励まし,理解,暖かさなど,愛情に満ちた配慮)と「過 保護」の 2 因子構造が想定されているが,その後の各国 での実証的検討により,「過保護」の因子が「自由の促 進」と「自律の否定」に分かれ,3 因子構造を示すこと が 確 認 さ れ て い る(Murphy, Brewin, & Silka, 1997)。 「配慮」の因子は APQ における「関与」や「肯定的

養育」と内容的に対応する。また,PS(Arnold et al., 1993)や Lovejoy, Weis, O Hare, & Rubin(1999)の Par-ent Behavior InvPar-entory(PBI との区別のため PBeI と記

Table 1 既存の尺度およびメタ分析と本研究における養育行動の概念構造とその対応関係

尺度 メタ分析

本研究 APQ a) PBI b) PS c) PBeI d) Kawabata et al.

関与 配慮 支持・関与 肯定的 関与 肯定的養育 肯定的養育 肯定的応答性 見守り 心理的統制 見守り 自由の促進 意思の尊重 自律の否定 過干渉 否定的養育 非一貫性 緩さ 非関与 非一貫性 e) 体罰 過剰反応 敵対・威圧 否定的・厳しい 厳しい叱責・体罰

a)Alabama Parenting Questionnaireb)PBI:Parental Bonding Instrument。c)Parenting Scaled)Parent Behavior Inventory e)

「非一貫性」と「非関与」や「緩さ」は語義的に異なっているものの,概念の内容を精査した結果,いずれも子どもへ の対応の一貫性の欠如という共通性を有していたため,対応関係にあると判断した。

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述)の各因子は,APQ や PBI の因子と Table 1 に示す ような対応関係にある。

 続いて,養育行動に関するメタ分析の結果について も検討した。Kawabata, Alink, Tseng, van Ijzendoorn, & Crick(2011)は,48 の先行研究から同定された 76 の 養育行動に関する構成概念を 10 個のカテゴリーに分類 するよう,15 人の専門家に依頼した。その分類結果に ついて,多重対応分析および二段階クラスター分析を 行ったところ,「肯定的」(愛情,正の強化,応答性,関 与など),「心理的統制」(見守り,過保護,ルール,行 動の制御など),「非関与」(緩さ,非一貫性,放任な ど),「否定的・厳しい」(敵対的養育,体罰,威圧,叱 責など)の 4 つのクラスターが見出された。これらのク ラスターは APQ や PBI の因子と Table 1 のような対応 関係にある。  以上の知見を総合すると,最も細かい分類では,養育 行動を 7 つの下位概念に分けることができる(Table 1 参照)。研究によって概念のラベルが異なるものの,本 研究では「関与」(子どもとの会話,遊びや活動への積 極的・能動的関与),「肯定的応答性」(子どもの行動や 要求への肯定的・共感的な応答),「見守り」(子どもの 安全のための見守りや監督),「意思の尊重」(子どもの 意思と自律性の尊重),「過干渉」(親自身の不安や高い 要求水準に基づく子どもへの過度な干渉),「非一貫性」 (子どもへの対応の非一貫性),「厳しい叱責・体罰」(激 しい叱責や体罰)というラベルを用いることとする。従 来の質問紙尺度では,これら 7 概念を全てカバーするも のが見られない。本研究では,これらの 7 概念をカバー する包括的な尺度としての「肯定的・否定的養育行動尺 度(Positive and Negative Parenting Scale;PNPS)」 の 開発を目指す。 養育行動の構造  しかし,概念の構造に着目すると,これまでの尺度や メタ分析の中には,7 概念区分よりも広い概念区分を採 用するものも見られる。例えば,PBI や PBeI は「関与」 と「肯定的応答性」を区別しておらず,Kawabata et al.(2011)のメタ分析では,上記の 7 概念の内容をカ バーしつつも,より広い 4 概念構造を採用している。  また,近年の養育行動に関する先行研究を概観する と,「肯定的養育」と「否定的養育」という,さらに広 い 2 概念構造を採用している研究が多く見られる。例え ば,Falk & Lee(2012)は APQ を使用して養育行動を 測定しているが,分析に際しては,「関与」,「肯定的養 育」,「見守り」を統合した「肯定的養育」と「非一貫 性」,「体罰」を統合した「否定的養育」という合成得点 を用いている。また,Forehand et al.(2012)は,観察 による養育行動の評価法を使用しているが,分析の段階 では,暖かさ,子ども中心の行動,正の強化,応答性, 見守りから構成される「肯定的養育」と否定的感情,敵 意,侵入性,放置からなる「否定的養育」という 2 つの 合成得点を用いている。  この 2 概念区分は,発達障害児を持つ親の養育行動に 関する研究やペアレントトレーニングに関する研究の中 で特に多く見られ,上記の 3 つの研究も例外ではない。 実際,これらの研究が示すように,発達障害児を持つ親 が陥りやすいのは,「肯定的養育」が少なく,「否定的養 育」が多いという養育行動のパターンであり,発達障害 だけではなく,子どもの持つ気質的な難しさや親自身の メンタルヘルスの問題によっても,同様のパターンの養 育行動が導かれることが指摘されている(Forehand et al., 2012; Latzman, Elkovitch, & Clark, 2009)。ペアレン トトレーニングにおいても,基本戦略として「肯定的養 育」を促進し,「否定的養育」を抑制するという方法が 取られることが多い(Bjorknes & Manger, 2013)。  しかし,これまでの研究では,概念的根拠にのみ基づ いて複数の下位尺度を統合し,合成得点としての「肯定 的養育」と「否定的養育」を構成しており,実際に養育 行動がこれら 2 概念によって説明されることを示した実 証的検討は見られない。そこで本研究では,一次因子と しての「関与」,「肯定的応答性」,「見守り」,「意思の尊 重」を説明する二次因子として「肯定的養育」(子ども の意思,感情,安全に配慮した子ども中心の養育行動) を想定し,「過干渉」,「非一貫性」,「厳しい叱責・体罰」 を説明する二次因子として「否定的養育」(親自身の都 合や感情に基づく親中心の養育行動)を想定した二次因 子モデルを設定し,確認的因子分析に基づく検証を行う (Figure 1)。その際,対立モデルとして,専門家の分類 に基づく Kawabata et al.(2011)の 4 因子モデルおよび 二次因子を想定しない一次因子モデルを設定する。 肯定的 応答性 肯定的応答性 肯定的応答性 意思の 尊重 意思の尊重 意思の尊重 非一貫  性 非一貫 性 非一貫 性 厳しい叱 責・体罰 厳しい叱責・体罰 厳しい叱責・体罰 関与 見守り 過干渉 関与 見守り 肯定的 過干渉 心理的 統制 一次因子モデル Kawabata et al.(2011) のモデル 関与 見守り 肯定的 養育 否定的 養育 過干渉 本研究のモデル Figure 1 本研究のモデルと対立モデルの因子構造

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子どもの行動との関連  さらに,本研究では,PNPS の構成概念妥当性の検証 として,子どもの問題行動(内在化問題・外在化問題) および向社会的行動との関連を検討する。先行研究の知 見によれば,親の否定的養育は子どもの内在化問題や外 在化問題につながりやすい一方(Galambos et al., 2003; Hipwell et al., 2008; Morris et al., 2002),向社会的行動へ の負の影響は限定的とされる(Krevans & Gibbs, 1996)。 否定的養育の中でも,親の不安に基づく過干渉は内在化 問題につながりやすく(Rapee, 1997),親の怒りに基づ く厳しいしつけは外在化問題に結びつきやすいことが示 されている(Kawabata et al., 2011)。肯定的養育は,子 どもの向社会的行動と関連する一方(Krevans & Gibbs,

1996),問題行動への影響は限定的であることが示され

ている(Galambos et al., 2003; Hipwell et al., 2008)。た だし,外在化問題に対しては,肯定的な養育行動が抑制 的な影響を及ぼすという知見も見られる(Falk & Lee, 2012; Hipwell et al., 2008)。本研究では,これらの知見 との整合性の観点から,PNPS の収束的・弁別的妥当性 を検証する。

方   法

対象者  調査対象市の全ての公立小中学校に在籍する小学 1 年 生から中学 3 年生を対象に調査を実施し,計 7,208 名の 保護者(母親 6,544 名,父親 399 名,祖母 31 名,その 他・無記入 234 名;有効回答率 96.6%)からデータを得 た(後述のいずれかの尺度への回答がなかったデータは 人数に含まない)。対象者の内訳を Table 2 に示す。同 市は大都市への通勤可能圏内であると同時に,工業,農 業が盛んであり,都市で勤務する家庭や,地方型の勤務 家庭など,多様な社会経済的状態の家庭が含まれてい る。 調査内容  PNPS 発達心理学を専門とする 7 名の研究者と 3 名 の臨床心理士によって PNPS の項目の作成および選定 を 行 っ た。APQ(Shelton et al., 1996),PBI(Parker et al., 1979),PS(Arnold et al., 1993),PBeI(Lovejoy et al., 1999)の各尺度を参考に,「関与」,「肯定的応答性」, 「見守り」,「意思の尊重」,「過干渉」,「非一貫性」,「厳 しい叱責・体罰」の 7 因子に対応する項目を作成し,各 因子 6 項目(計 42 項目)を選定した。項目の作成・選 定にあたっては,(1)一般母集団において一定の分散が 見込まれること(極端な虐待などは含めず,一般家庭で 生じやすい養育行動を集めた),(2)社会的望ましさの影 響を受けにくい表現であること(例えば,体罰に関する 項目では「しつけとして」という表現を含めた),(3)で きるだけ項目内容に重なりがなく,幅広い養育行動をカ バーできること,の 3 点に特に配慮した。項目順序はラ ンダマイズし,特定の因子の項目が集中して配置されな いようにした。各項目について,ない・ほとんどない (1),たまにある(2),よくある(3),非常によくある (4)の 4 段階で評定を求める形式とした。質問紙の教示 文は以下の通りであった。「ご家庭での子どもとの接し 方についてお尋ねします。それぞれの項目について,保 護者様自身がどのくらいの頻度でその行動を取るかを, 選択肢の中から選んで,○をつけてお答えください。子 どもとの接し方には,各家庭で様々なスタイルがあり, 絶対的に正しいとか間違っているという基準はありませ んので,ありのままをお答えください。」  外在基準 構成概念妥当性の検証のための外在基準 として,Strengths and Difficulties Questionnaire(SDQ; Goodman, 1997)の保護者評定フォーム日本語版を使用 した。SDQ は,児童青年の不適応行動や向社会的行動 を包括的に評価するための質問紙尺度として国際的に広 く利用されている。本研究では,SDQ の 5 下位尺度の うち向社会的行動を測定する「向社会的行動」(例:誰 かが心を痛めていたり,落ち込んでいたり,嫌な思いを しているときなど,すすんで助ける),内在化問題の指 標となる「情緒的症状」(例:おちこんでしずんでいた り,涙ぐんでいたりすることがよくある),外在化問題 の指標となる「行為問題」(例:よく他の子とけんかを したり,いじめたりする)を使用した。各下位尺度は 5 項目から構成され,各項目について,あてはまらない (0),まああてはまる(1),あてはまる(2)の 3 段階で 評定を求めた。 手続き  本研究は,調査対象市の全公立小中学校で 2007 年度 から実施している,子どもの心の健康に関する縦断コ Table 2 対象者の内訳 学年 男子 女子 計 小 1 419 410 829 小 2 420 382 802 小 3 369 441 810 小 4 449 405 854 小 5 420 418 838 小 6 446 413 859 中 1 372 367 739 中 2 372 406 778 中 3 369 330 699 計 3,636 3,572 7,208

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ホート調査の一環として行われた。この調査は,子ども の心の健康や問題行動のメカニズムに関する研究と,そ の知見に基づく支援を目的として行われており,本研究 で利用する PNPS や SDQ の他に,子どもの精神的健康 やその潜在的なリスク要因に関する心理尺度を同時に実 施している。質問紙全体の項目数は 101 項目であった。 調査の実施にあたっては,小中学校の各学級担任から児 童生徒を通して,保護者に質問紙を配布した。調査への 回答は任意であり,回答しないことによる不利益は生じ ないことを説明文書によって教示した。回答後は,質問 紙を封筒に入れ厳封の上,児童生徒から学級担任を介し て回収を行った。  本研究は,浜松医科大学と調査対象市の間で締結され た研究と支援に関する協定に基づいて実施された。個人 情報については,同市のセキュリティ・ポリシーに則っ て厳重に管理した。本研究の手続きは,浜松医科大学医 の倫理委員会の審査と承認を受けた。  統計解析のうち,確認的因子分析には Mplus Version 7(Muthen & Muthen),その他の分析には PASW Statis-tics 18.0(SPSS)を使用した。

結   果

確認的因子分析  項目の選定 第一段階として,一次因子に対する負荷 量に基づく項目の選定を行うため,二次因子を想定せ ず,7 つの一次因子のみを想定した確認的因子分析(最 尤法)を行った。分析の結果,一次因子に対する負荷量 が .25 を下回った 1 項目を削除した。また,標準化され た期待パラメータ変化指標(特定のパラメータを想定し た場合の期待値を示す)に基づいて,対応する一次因子 とは別の因子からのパスを想定した場合に .25 以上の負 荷量を示すと推定された 6 項目を削除した。  一次因子数の決定 第二段階として,一次因子の因子 数を決定するため,7 因子から開始して,相関が最も高 い因子のペアを統合していくという探索的な手順で,1 因子まで因子数を減らしたときの適合度の変化を検討し た。この段階でも二次因子は想定しなかった。Table 3 に χ2,CFI,PCFI,RMSEA,SRMR,AIC の 6 指 標 に よる適合度を示した。χ2はモデルとデータの乖離に関 する統計的検定のための統計量であるが,本研究のよう な大規模サンプルに基づく検討においては実質的な意味 を持たないため,ここでは参考値として示すに留める。 CFIは増分適合指標(incremental fit index)に分類され る指標で,観測変数間に一切の関係を想定しない独立モ デルからの改善の程度を示しており,一般に .90 以上の 値が望ましいとされる(Bentler & Bonnet, 1980)。ただ し,CFI は観測変数間の相関の程度によって影響を受 け,独立モデルにおける RMSEA(後述)が .158 を下回 る場合には,不当に低い値が得られるため,情報として 有益でないことが知られている(Kenny, 2012)。本研究 のデータでは独立モデルの RMSEA が .127 であり,.90 基準を適用することは適切でないと判断されたため, CFIはモデル間の相対的な比較にのみ用いる。

 RMSEA と SRMR はともに絶対適合指標(absolute fit index)に分類される指標で,母集団におけるモデルの 乖離度を表す。経験的基準として RMSEA は .06 以下, SRMRは .08 以下の数値が望ましいとされる(Hu & Bentler, 1998)。AIC は統計モデルのあてはまりを示す 情報量基準の一種であり,絶対的な数値基準はなく,相 対的に値が低いほど,モデルの適合が良好と判断され Table 3 各モデルの適合度指標

モデル df CFI RMSEA SRMR AIC PCFI 一次因子モデル  7 因子モデル 539 .870 .048 .045 490852 .788  6 因子モデル 545 .866 .049 .046 491065 .793  5 因子モデル 550 .853 .051 .047 491958 .788  4 因子モデル 554 .831 .054 .049 493474 .774  3 因子モデル 557 .819 .056 .050 494313 .767  2 因子モデル 559 .780 .061 .056 497039 .733  1 因子モデル 560 .442 .098 .111 520447 .416 二次因子モデル  Kawabata et al.(2011) 549 .849 .051 .062 492289 .783  本研究のモデル 554 .863 .049 .048 491288 .804

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る。PCFI は倹約性(推定するパラメータの数をどの程 度節約しているか)を調整した CFI であり,絶対的な 数値基準はなく,相対的に値が高いほど,(パラメータ 数の割に)適合がよいと見なされる。一般に,推定する パラメータの数が減少するほど(ここでは因子数が少な くなるほど),適合度は低下する傾向があるため,パラ メータ数の異なるモデルの比較においては,PCFI など の指標を用いて適合度と倹約性のバランスを考慮するこ とが重要となる。  Table 3 を見ると,7 因子から 6 因子にかけては適合 度の顕著な減少が見られず,倹約性を重視した PCFI は 上昇を示している。このことは,適合度と倹約性のバラ ンスの観点では,7 因子モデルより 6 因子モデルが優れ ていることを示唆する。一方,6 因子から 1 因子にかけ ては,CFI や SRMR などの適合度指標だけでなく倹約 性を重視した PCFI も悪化を示しており,特に 2 因子か ら 1 因子にかけての悪化が顕著である。以上の結果か ら,PNPS の一次因子数は 6 が最適と判断された。6 因 子モデルにおける RMSEA は .049,SRMR は .046 であ り,いずれも経験的基準を上回る適合を示している。な お,6 因子モデルでは,当初想定された 7 因子のうち 「関与」と「見守り」の因子が統合された。  二次因子モデルの検証 第三段階として,Figure 1 に 示した二次因子モデルについて検証を行った。ただし, 上述の分析により,6 因子モデルが支持されたため,本 研究のモデルについては一次因子の「関与」と「見守 り 」 を 統 合 し た 上 で 分 析 を 行 っ た。Kawabata et al. (2011)のモデルでは「関与」と「見守り」が異なる二 次因子に負荷するため,統合せずに分析を行った。  その結果,Table 3 に示したように,いずれの適合度 指 標 に お い て も, 本 研 究 の モ デ ル が Kawabata et al. (2011)の 4 因子モデルよりも良好な適合を示した。ま た,一次因子のみを想定した 6 因子モデルと比較して も,適合度はほとんど低下が見られず,倹約性を重視し た PCFI は上昇を示している。このことから,本研究の 二次因子モデルは,一次因子のみを想定する 6 因子モデ ルよりも,適合度と倹約性のバランスに優れていると言 え る。 本 研 究 の 二 次 因 子 モ デ ル に お け る RMSEA は .049,SRMR は .048 と,いずれも経験的基準を上回 る適合を示している。  この最終モデルにおける各項目と一次因子の負荷量お よび因子間相関を Table 4 に示す。各項目の一次因子に 対する負荷量や一次因子の二次因子に対する負荷量は, おおむね十分な値を示している。因子間相関は−.246 と 低く,肯定的養育と否定的養育が相互に独立性の高い因 子であることが確認された。また,このモデルに基づい て各項目の単純合計による尺度を構成した場合の各下位 尺度と上位尺度の α 係数を Table 4 に示している。6 下 位尺度のうち,「意思の尊重」と「過干渉」の α 係数 が .70 を下回っており,下位尺度単位ではやや信頼性が 不十分であることが示された。他の 4 下位尺度は,.70 を上回る十分な α 係数を示している。また,2 つの上位 尺度は,いずれも .84 程度の高い α 係数を示した。 性別・学年段階ごとの記述統計量  Table 5 に各尺度得点の性別・学年段階ごとの記述統 計量を示す。平均値の差の大きさに関する経験的基準 (効果量)として,2 群の平均値の差が 0.2SD 程度であ れば小さい差,0.5SD 程度であれば中程度の差,0.8SD 程度であれば大きい差を示すとされる(Cohen, 1988) 4) この基準を適用すると,男女の平均値の差は,いずれの 学年・尺度においても 0.2SD 前後までに留まっており, 子どもの性別による差は小さいことが示唆される。一 方,学年段階による差は,尺度によって違いが見られ, 下位尺度では「関与・見守り」や「肯定的応答性」で小 1─3 から中 1─3 にかけて 0.7SD 前後のやや大きい低下 が見られる。また,「過干渉」や「厳しい叱責・体罰」 は小 1─3 から中 1─3 にかけて 0.3SD 程度の比較的小さ い低下が見られる。「意思の尊重」や「非一貫性」では 小 1─3 と中 1─3 の差は 0.2SD に満たなかった。上位尺 度では,小 1─3 から中 1─3 にかけて,「肯定的養育」が 0.5∼0.6SD 程 度 の 中 程 度 の 低 下,「 否 定 的 養 育 」 が 0.3SD程度の比較的小さい低下を示した。 子どもの行動との相関  Table 6 に PNPS と SDQ の各尺度得点の相関を示す。 全体的な傾向として,「肯定的養育」とその下位尺度は 「向社会的行動」との相関が比較的強く,「情緒的症状」 との相関は弱く,「行為問題」との相関は中程度であっ た。一方,「否定的養育」とその下位尺度は,「向社会的 行動」との相関は弱く,「情緒的症状」との相関は中程 度,「行為問題」との相関は比較的強かった。  下位尺度ごとの差異に着目すると,「肯定的養育」の 中では「関与・見守り」や「肯定的応答性」が「向社会 的行動」や「行為問題」と比較的明確な相関を示してお り,「意思の尊重」は全体に弱い相関を示した。「否定的 養育」の中では,「厳しい叱責・体罰」が「行為問題」 と特に顕著な相関を示し,「否定的養育」の合計点より も強い相関を示した。「向社会的行動」や「情緒的症状」 との相関では,「否定的養育」の 3 下位尺度間で大きな 差異は見られなかった。

考   察

一次因子の構造  一次因子の構造(因子数)について,適合度と倹約性 4) 統計的検定は,この規模のサンプルでは実質的な意味を持たない ため行わない。

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Table 4 各項目・一次因子の因子負荷量と各尺度のα係数 因子・項目 一次負荷量二次 【肯定的養育】(α = .843) 関与・見守り(α = .765) .843 7 PTA,授業参観,保護者面談など,学校での活動に積極的に参加する .393 .331 13 学校での出来事や友達のことについて話す .598 .504 23 子どもが遊ぶ友達のことをよく知っている .603 .508 24 子どもに,明日は何をする予定か尋ねる .467 .394 28 子どもが出かけるときは,行き先や帰る時間を聞く .532 .448 33 子どもが放課後,何をしているのか把握している .595 .502 34 子どもと一緒に遊んだり,楽しいことをする .645 .544 39 子どもに行き先を告げずに,外に出かける −.278 −.234 41 休日には子どもをレジャー(遊園地,動物園,旅行など)に連れて行く .444 .374 肯定的応答性(α = .801) 1.000 14 子どもが何かをしてくれたときに,ありがとうと言う .690 .690 16 頭をなでる,抱き合う等のスキンシップをする .573 .573 22 子どもが何かうまくできたときには,ほめてあげる .764 .764 31 子どもが喜んでいるときには,一緒になって喜ぶ .678 .678 42 おもしろいことを子どもと一緒に笑う .699 .699 意思の尊重(α = .636) .492 1 子どもの好きなように遊ばせている .470 .231 3 子どもが問題に直面していても,できるだけ本人に解決させる .348 .171 9 できるだけ子ども自身の意思を尊重する .684 .337 19 失敗することがわかっていても,子どものやりたいようにやらせる .503 .247 29 子どもの好きな服を着せている .401 .197 30 自分の都合よりも,子どもの考えを優先する .440 .216 【否定的養育】(α = .844) 過干渉(α = .567) .615 18 テストの成績が少しでも悪くなれば(または良くならなければ)子どもに説教する .459 .282 20 子どもの意思とは関係なく,習い事や塾に行かせている .452 .278 27 自分がいないと,子どもは何もできないと感じる .534 .328 32 どの友達と遊ぶべき(遊ぶべきでない)かを,子どもに言い聞かせている .362 .223 35 自分の目を離れている間,子どものことが心配で仕方ない .414 .255 非一貫性(α = .772) .866 4 子どもを叱ったりほめたりする基準が,その時の気分で左右される .713 .617 15 個人的なイライラを子どもにぶつけてしまうときがある .741 .642 21 子どもへの叱り方が,自分の気分によって変わる .831 .720 38 子どものペースより,自分のペースを優先する .378 .327 厳しい叱責・体罰(α = .844) .926 5 ちょっとしたことでも口やかましくなる .681 .631 6 子どもが言うことを聞かないとき,頭に血が昇り,冷静さを失う .761 .705 11 子どもに対して,乱暴な言葉遣いになる .717 .664 12 子どもが悪いことをしたときには,大声で怒鳴る .713 .660 25 子どもに対して,長時間説教をしたり,文句を言い続ける .637 .590 26 しつけとして,子どもの頭や体を叩くことがある .558 .517 因子間相関 否定的 肯定的 −.246

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の観点から検証した結果,当初想定された 7 因子のう ち,「関与」と「見守り」は,統合した際の適合度の低 下が(倹約性の上昇に比して)小さかったことから,単 一の因子に統合された。「関与」と「見守り」は,いず れも子どもに対する肯定的な関心や積極的な関与を含ん でおり,概念の重なりが大きかったために,このような 結果が得られたと考えられる。  その他の因子については,モデル比較によって相互の 独立性が確認され,おおむね当初の想定と近い 6 因子モ デルが支持された。このことから,PNPS は,既存の尺 度やメタ分析において示されてきた養育行動の下位概念 を包括的にカバーしていることが示唆された。従来の養 育行動に関する質問紙尺度は,いずれもこれらの 6 因子 を網羅しておらず,領域代表性(測定しようとする領域 全体を偏りなく測定しているか)の観点における内容的 妥当性が不十分であった。本研究では,網羅的な理論的 検討に基づく因子モデルの設定とそれに応じた尺度項目 の作成を行うことにより,養育行動を包括的に評価しう る尺度の開発に成功した。 二次因子モデルの妥当性  本研究の想定する二次因子モデルについて,Kawaba-ta et al.(2011)および一次因子モデルとの比較によっ て検証した。その結果,本研究のモデルは Kawabata et al.(2011)のモデルに比べ適合度,倹約性の双方の観点 で良好であることが示された。また,一次因子モデルに 対しても,適合度と倹約性のバランスにおいて優れてい ることが示された。この結果は,子どもの発達障害,気 質的な難しさや親自身のメンタルヘルスによる養育行動 への影響に関する研究や,親の養育行動の改善を目指す ペアレントトレーニングに関する研究の中で近年多く採 用されている「肯定的養育」と「否定的養育」という 2 概念区分(Forehand et al., 2012; Latzman et al., 2009)の 妥当性を明確に示している。「肯定的養育」と「否定的 養育」の相関は−.246 と低く,養育行動を評価する上 で,両者を個別に測定することの重要性が示唆された。  本研究のモデルと Kawabata et al.(2011)のモデルの 主要な違いは,Kawabata et al.(2011)が「過干渉」を 「見守り」や「意思の尊重」とともに「心理的統制」の 下位因子と位置づけているのに対し,本研究のモデルで は「過干渉」を「非一貫性」や「厳しい叱責・体罰」と ともに「否定的養育」の下位因子と位置づけている点に ある。確かに「過干渉」は,統制という点で「見守り」 と類似しており,統制を行わない「意思の尊重」とは同 一の次元の両極の関係にあると考えることもできる。 Kawabata et al.(2011)のモデルが 15 人の専門家の分類 Table 6 養育行動尺度と SDQ の相関 PNPS SDQ 向社会的 行動 情緒的症状 行為問題 肯定的養育  .376 −.043 −.224  関与・見守り  .327 −.043 −.214  肯定的応答性  .339 −.008 a) −.186  意思の尊重  .208 −.050 −.111 否定的養育 −.142 .297  .382  過干渉 −.086 .244  .195  非一貫性 −.112 .234  .269  厳しい叱責・体罰 −.134 .242  .402 a)この係数のみ有意でなく,他は全て 0.1% 水準で有意。 Table 5 性別・学年段階ごとの記述統計量 男子 女子 小 1─3 小 4─6 中 1─3 小 1─3 小 4─6 中 1─3 M SD M SD M SD M SD M SD M SD 肯定的養育 60.72 7.32 59.48 7.53 56.26 7.59 61.56 7.12 61.34 7.30 57.86 7.57  関与・見守り 27.92 3.91 27.20 4.07 24.98 4.27 28.57 3.89 28.18 3.98 26.10 4.06  肯定的応答性 17.05 2.64 16.25 2.80 15.11 2.87 17.01 2.59 16.56 2.68 15.33 2.87  意思の尊重 15.76 2.59 16.03 2.55 16.17 2.47 15.98 2.48 16.60 2.46 16.43 2.63 否定的養育 26.30 5.46 25.56 5.74 24.75 5.44 25.58 5.57 24.89 5.54 23.92 5.37  過干渉 7.39 1.96 7.12 1.96 6.78 1.82 7.36 2.02 7.09 1.97 6.71 1.91  非一貫性 7.48 1.80 7.44 1.97 7.55 1.92 7.25 1.80 7.26 1.86 7.30 1.79  厳しい叱責・体罰 11.43 3.13 11.01 3.12 10.41 3.01 10.98 3.10 10.55 3.03 9.91 2.85

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に基づいて導出されたように,過干渉が見守りの延長線 上にある(量的な違いしかない)という認識は,一般に 広く共有されていると言える。しかし,ひとたび行動の 背後にある心理に目を向けると,「見守り」は子どもの 安全を願うための行動,「意思の尊重」は子どもの自律 性に配慮した行動であり,いずれも子ども中心(child-centered)の行動と言えるが,「過干渉」は,親自身の 不安感情や,子どもを統制下に置きたいという心理に よって生じる親中心の行動であり,そこには質的な違い があると言える。この「親中心」という観点から見れ ば,「過干渉」は,親自身の怒り感情に基づく「厳しい 叱責・体罰」や親の状況や気分の変化に由来する「非一 貫性」と同様の種類の行動パターンと位置づけることが できる。実際に,本研究のデータは,このモデルを明確 に支持している。「過干渉」が表面的な特徴の類似する 「見守り」ではなく,表面的には大きく特徴の異なる 「厳しい叱責・体罰」と共通の高次因子に規定されると いう結果は,注目に値する。この結果から,養育行動の 性質を記述するためには,「統制か放任か」とか「厳し いか甘いか」というような行動の表面的な特徴よりも, 行動の背後にある心理を捉えることが重要であると言え る。  ただし,一次因子を 2 因子とするモデルよりも,一次 因子を 6 因子とし,二次因子として 2 因子を想定するモ デルの方が,適合が良好であったことから(Table 3 の 2因子モデルと本研究のモデルを参照),個々の一次因 子が一定の独自性を有していることも示唆された。実 際,各一次因子の内容を考えると,例えば,「肯定的養 育」の「関与・見守り」は子どもの安全を重視する養育 行動であるが,「意思の尊重」は子どもが失敗すること がわかっていても,あえて子どもの意思を尊重するとい うような側面を含んでおり,やや性質が異なっている。 また,「否定的養育」の「過干渉」は主に親の不安に基 づく行動であるが,「厳しい叱責・体罰」は親の怒りに 基づく行動であり,行動のもとになる感情が異なってい る。問題行動との相関でも,「否定的養育」の合計より 「厳しい叱責・体罰」の方が,「行為問題」と高い相関を 示しており,下位尺度の一定の独自性が示唆されてい る。このような養育行動の微妙な差異が問題になる研究 デザインを設定する場合には,一次因子に対応する 6 下 位尺度を使用することが望ましいと考えられる。また, ペアレントトレーニングなどの介入においても,具体的 な介入の方策を計画するために PNPS を使用する場合 には 6 下位尺度が有用であると考えられる。それに対 し,養育行動の全体的な特徴が把握できれば事足りる研 究デザインを設定する場合や,介入の全体的な効果を把 握したいという場合には,2 上位尺度の利用が適してい ると考えられる。  内的整合性を示す α 係数は,2 上位尺度と 4 下位尺度 では十分な値を示したが,「意思の尊重」と「過干渉」 の 2 下位尺度ではやや不十分な値を示した。したがっ て,これらの下位尺度を量的研究の文脈で使用する場合 には,ランダム誤差による相関の希薄化に注意する必要 があり,介入などの文脈で個人の得点の評価に使用する 場合には,一定の幅を持たせた解釈を行う必要がある。 性別・学年段階による差  性別・学年段階による各尺度得点の差を検討した結 果,いずれの尺度も,性別による平均値の差はわずかで あることが示された。一方,学年段階による平均値の差 は,「肯定的養育」やその下位尺度である「関与・見守 り」や「肯定的応答性」において比較的大きく,小 1─3 から中 1─3 にかけて中程度からやや大きい低下が見ら れた。また,「否定的養育」やその下位尺度である「過 干渉」や「厳しい叱責・体罰」の平均値も,小 1─3 か ら中 1─3 にかけて比較的小さい低下を示した。子ども の年齢の上昇にともなって,子どもとの密接で共感的な コミュニケーションが減少していく一方で,「過干渉」 や「厳しい叱責・体罰」といった親中心の否定的養育も 徐々に減少していくことがうかがえる。 構成概念妥当性  子どもの向社会的行動や内在化・外在化問題との関連 から PNPS の構成概念妥当性を検証した結果,「肯定的 養育」やその下位尺度は向社会的行動や外在化問題と, 「否定的養育」やその下位尺度は内在化問題や外在化問 題と相対的に強い相関を示すという明確なパターンが 確認された。この相関のパターンは,先行研究の知見と 一致しており(Falk & Lee, 2012; Galambos et al., 2003; Hipwell et al., 2008; Krevans & Gibbs, 1996; Morris et al.,

2002),PNPS の収束的・弁別的妥当性を支持している。  下位尺度のうち「厳しい叱責・体罰」は「行為問題」 と特に強い関連を示し,厳しいしつけが外在化問題に結 びつきやすいという Kawabata et al.(2011)の知見が再 現された。親の不安に基づく過干渉が内在化問題につな がりやすいという Rapee(1997)の知見については, 「過干渉」が「情緒的症状」に対して,他の「否定的養 育」の下位尺度と同程度の相関を示したことから,必ず しも明確に再現されなかったが,これには「過干渉」の 信頼性の低さによる相関の希薄化が影響している。スピ アマンの修正公式により α 係数を用いて希薄化を修正 した場合には,「情緒的症状」に対する相関は「過干渉」 が r = .395,「非一貫性」が r = .324,「厳しい叱責・体 罰」が r = .319 となり,Rapee(1997)の知見と整合的 な結果が得られる。以上の結果から,PNPS の構成概念 妥当性が明確に支持された。 今後の展望  これまで,子どもの発達や問題行動の発生における親

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の養育行動の中心的役割は認識されてきたが,国内で利 用できる養育行動の尺度は限られており,実証的研究の 発展が妨げられてきた。今後の実証的研究における最大 の課題は,子どもの発達や問題行動と親の養育行動の間 の双方向的な影響のあり方を明らかにすることである。 これまで,親の養育行動が子どもの発達や問題行動に与 える影響は多く検討されてきたが,子どもの行動が親の 養育に与える影響については十分に検討されておらず, 知見も錯綜している(Hipwell et al., 2008)。しかし,中 島ほか(2012)は,発達障害児の保護者では,定型発達 児の保護者に比べ,肯定的関わりが少なく,叱責が多い という結果を見出している。発達障害の先天要因の強さ を考えると,親の養育によって発達障害の症状が表れた とは考えられないため,発達障害によって生じる問題行 動が親の養育のあり方に影響したと推測される。今後 は,そうした影響によって生じた不適切な養育が,さら に問題行動の悪化を招くという悪循環のプロセスが存在 するのか,また,定型発達児においてもこうした相互的 影響が生じるのかといった問題を,縦断的手法によって 明らかにしていく必要がある。その際,親の養育行動の 諸側面を包括的にカバーする PNPS が有力なツールに なることが期待される。

文   献

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This study identified 7 subordinate concepts of parenting behaviors (involvement, positive responsivity, monitoring, respect for will, overprotection, inconsistency, and harsh discipline) based on factor structures of existing scales and findings from a meta-analysis. It also developed an inclusive scale to evaluate all of these concepts. Confirmatory factor analysis on a large dataset from 7,208 children (grades 1 to 9) supported a 6-factor model where Involvement and Moni-toring were integrated, suggesting that the scale can generally be evaluated, assumed subordinate concepts of parenting. A second-order factor model, wherein these 6 factors were assumed to be explained by 2 second-order factors (Positive Parenting and Negative Parenting), was superior to a model based on expert classifications and the first-order factor model which did not assume second-order factors in terms of fit and parsimony. Consistent with previous findings, Posi-tive Parenting and its subscales correlated with children s prosocial behavior and externalizing problems. NegaPosi-tive Par-enting and its subscales correlated with children s internalizing and externalizing problems. These results substantiated the construct validity of the scale.

【Keywords】 Parenting behaviors, Parental attitudes, Factor structure, Prosocial behaviors, Problem behav-iors

Table 1  既存の尺度およびメタ分析と本研究における養育行動の概念構造とその対応関係
Table 4  各項目・一次因子の因子負荷量と各尺度の α 係数 因子・項目 負荷量 一次 二次 【肯定的養育】(α = .843) 関与・見守り(α = .765) .843 7 PTA,授業参観,保護者面談など,学校での活動に積極的に参加する .393 .331 13 学校での出来事や友達のことについて話す .598 .504 23 子どもが遊ぶ友達のことをよく知っている .603 .508 24 子どもに,明日は何をする予定か尋ねる .467 .394 28 子どもが出かけるときは,行き先や帰る時間

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