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大阪女学院の一年生への実践から ――
郭
修
静
小
林
葉 麻 子
Podcasting for Chinese Education:
Developing Pronunciation Teaching Materials at Osaka Jogakuin College
Hsiuchin Kuo
Hamako Kobayashi
抄
録
科学技術の不断なる発展は、社会の各方面に改革をもたらした。教育の世界もその例 にもれず、教育現場への IT の導入も試行期間を経て、ほぼ安定したといえるであろう。 外国語教育においても CAI や CALL の活用といった利用価値の高いメディア教材が提供さ れてきている。しかし、実際はまだ充分なる活用はされていないというのが現状である。 その中で製作、利用が簡便なポッドキャストが注目されている。本稿では外国語教育のメ ディアの現状と外国語科目の補助教材にポッドキャストを導入し、実践した経緯と今後の 展望を報告する。 キーワード:中国語教育、iPod ポッドキャスト、ピンイン、発音 (2006年9月29日 受理)Abstract
This paper discusses a project from last semester which involved podcasting. The authors found that through the use of podcasting it was possible to supplement the pronunciation curriculum and increasethe number of times students reviewed materials after class. We postulate that because the podcast content was closely related to students’ everyday life, students felt a greater desire to practice. We plan to continue to produce podcast content, and increase its overall quality.
Key words : TCSL, iPod, Podcast, Pinyin, pronunciation
(Received September 29, 2006)
1 .
はじめに
パソコンの普及とインターネット・コンテンツの多様化にともない、コンピューターや インターネットの技術をどのように教育の補助教材として運用していくかという問題は、 すでに多方面から重視されてきている。日本の中国語教育 CAI 研究会1は1996年に正式に 発足して以来、それまで個人がそれぞれ独自に開発してきた力を新たに統合し、協同して 多くの中国語教育の CALL 教材を発表し、日本の中国語教育に新たな地平をきりひらいた (林 2002)。日本国内のコンテンツだけでなく、中国、台湾などの国際的なマルチメディ ア教育組織も Chinese Language e―Learning などの教育コンテンツを積極的に開発してい る。すでにいくつかの大学では CALL 教材と広域・遠隔中国語教育を導入している。上記 の国際的マルチメディア教育組織と教育機構は、新旧の異なるメディアを結合させる試み に尽力し言語教育の中のコミュニケーション能力の向上をはかっている(砂岡 2002)。ま た我々は個人作成の CALL 教材が、続々と新たに作成されるのをまのあたりにし、イン ターネットコンテンツが日を追うごとに充実していることなどをみるにつけ、今後の展望 は明るく、日本の中国語教育も他国と比べて遜色ない発展を遂げていると感じる。近年、 教育機構の IT 環境は相当レベルまで整備されてきており、ソフトと教育コンテンツの開 発が次なる重要課題であるとして、関心のある教育者たちも意欲的に試行をはじめている (林 2002)。しかし教育機構の規模及びコース・カリキュラム、レベルなど各種の要因に より、カリキュラムの中で IT 設備やインターネット・コンテンツを実際に教育現場に導 入するのは、必ずしも簡単なことではない。それは“板書のデジタル化”というコンピュー ター環境を教育現場に導入する(遠藤 2002)程度のことでさえ、困難がともなうのであ る。やはりいまだ多くの教師にとって教育現場は、ビデオ、DVD とテレビ、プロジェク ターといった映像装置、カセットプレイヤー、CD プレイヤーといった音響機器に頼らざ るを得ないことは想像に難くない。 しかし科学技術は日々発展し、教育者たちを新たな境地へと導きだした。携帯型 MP3 プレイヤーとポッドキャストの普及が伝統的な教育のスタイルに大きな影響を与えてい る。たとえば Apple の iTunes U は、何校かのアメリカの大学の教育機関と協力し、学習 をキャンパスから、生活の中にまで延長することを可能にした2。言語教育の領域もポッ ドキャストに大きな期待を寄せ、迅速かつ簡単便利なポッドキャストの特性を生かし、一 二年という短い時間のうちに、すでにインターネット上に各種の言語教育コンテンツが雨 後の筍のように出現し、非常な盛り上がりをみせている(Godwin―Jones)。 ポッドキャストは作成技術が簡単で、作成に要するコストもほとんどかからないため、 これまでの AV 収録機器と環境がそろっていてはじめて製作可能だった放送プログラムや 音声教材と対比すると、音声材料作成のしきいは大きくさがったといえよう。また、教材 内容に関しては相対して自由度が上がっている。ほとんどのポッドキャストが提供するプ ログラムはひとつひとつが独立しており、学習進度にかかわらず、学習者はいつでもダウ ンロードし、いつでも聞くことができるというのも、大きな特徴のひとつである。 ― 80 ―中国語教育の方面では、2005年に上海で成立した ChinesePod3がポッドキャストを運用 して、中国語を学習するカリキュラムで、開始から今にいたるまで、世界各地の中国語学 習者から喜ばれている。日本の中国語教育学会でもこの画期的な学習ツールに注目し、 2006年7月の研究例会は iPod を主題にして開かれ、大阪府立大学の清原文代が“iPod& iTunes―新しい中国語教育のツール”について講演し、関西大学の氷野善寛が“ポッドキ ャストによる中国語教育”の発表を行い、いずれも参加者のこれまでの認識に新風をふき こんだ。しかしインターネット上に現在ある中国語ポッドキャストを仔細に見てみると、 学校教育のカリキュラムでの使用を考えたものではなく、ほとんどすべてが自学自習の中 国語学習者を対象としている。中国語教育学会の研究例会中、参加者はこのように便利な 学習ツールをいったいどのように教育現場に運用したらよいのか?ということに非常に関 心を持った。清原は必ずしも全ての学生が iPod やその他の mp3プレイヤーをもってい るわけではないので、学校側がすでに製作を始めたポッドキャストのコンテンツをイン ターネット上にのせてはいるが、教育現場での使用はいまだ困難があると述べた。 大阪女学院では2004年に iPod を新入生に配った。これは世界初4のことであり、iPod 導 入計画に深く関わった加藤は多くの学生が、通学時の電車の中などでリスニング教材を聴 くようになったと話した。教師たちも学生が iPod を利用して教材を聴くことが、CD 教材 の利用よりも多くなってきていると感じている5。iPod は本学の学生が全員必ず持ってい る学習ツールであるため、筆者は2006年5月より、Chinese1のクラス A、B で「#后" !(授業後ノート)Podcast」を実施し、ヒアリング補助教育としてのポッドキャスト教 材を製作してきた。本稿では春学期に実施した過程と結果を報告し、今後継続してポッド キャストを授業の発音教育の補助として用いる計画を述べていきたい。
2
.授業の形態
大阪女学院短期大学、大阪女学院大学では共通科目として“Chinese”を教養教育科目 の“世界の言語群”のひとつとして位置づけている。いわゆる第二外国語科目の選択科目 であり、中国語以外に選択できる言語はアラビア語、フランス語、ドイツ語、韓国語、ス ペイン語、スワヒリ語の計8言語である。“世界の言語群”の教育目標は“英語以外の外 国語の基本的な言語体系を学び、その学習を通して学習する言語の背景文化に触れ、地域 の理解を深める”ことである。以下、簡単にカリキュラムの概況を述べる。 2. 1 クラスの構成 ● ChineseⅠ:一年生を主とした、A、B、C、D、E の五つのクラス ● ChineseⅡ:Chinese I を既習した学生の A、B、C、D、四つのクラス九つのクラスは三人の非常勤講師が分担して担当し、各自それぞれの教材を選択し、カ リキュラムと期末考査も各自が構成し実施している。学期はセメスター制となっており、 春学期、秋学期に分けられている。毎学期の授業は13∼14回、週一回50分二コマである。
2. 2 学生の特性 大阪女学院短期大学および大阪女学院大学国際英語・学部の学生はみな英語専攻であ る。日常から非常に厳格な英語の学習訓練を受けており、そのことから外国語のオーラル コミュニケーションをとても重視している。中国語のクラスでも多くの学生が繰り返しの 発音練習と会話練習に、意識的にとりくんでいる。学生のこのような特性に鑑みて、 ChineseⅠの五つのクラスのカリキュラムは会話能力をのばすものに設定している。また、 会話練習と同時に、中国語の音節体系に習熟するよう指導し、一年のカリキュラムのなか でピンインを読み、発音することが身につくよう指導している。これは二年生になり ChineseⅡの学習を開始したときに、ピンインをふった文章を読め、更に多くの語彙と文 法を習得するために必要なのである。
3
.中国語発音教育の問題点
3. 1 音節に習熟し、ピンイン6を発音することの重要性と学生の挫折感 「中国語 発音よければ、半ばよし」といわれるように、初級学習者にとって最大の難 関は、教科書でも授業でも最初にとり扱われる音節をすべてマスターしなければ先に進め ないことだろう(田邊鉄 2004)。中国語の学習はまず日本人にはなじみのない音節体系を 絶え間なく訓練するだけでなく、さらに漢字の発音符号であるローマ字でつづられる“ピ ンイン”を理解する挑戦をはじめなければならない。早稲田大学の長谷川良一は「中国語 における発音教育の問題は一口にいえば、いままで日本語の単純な発声にならされていた 口の筋肉の構造を、中国語の発声を容易ならせるような筋肉の構造につくりかえることに ある。」と述べている(長谷川 1995)。普段の日本語での会話であまり口を動かさずにい ることに慣れている学生や、表情を大きく動かさずに会話する学生にとって、中国語の発 音は往々にして大きな困難となる。頭では中国語の発音の規則が理解できていても、今度 は舌がいうことをきかない。そこで、中国語学習のごく初期の段階から中国語発音の発声 を絶え間なく練習し、また見慣れたローマ字綴りが実はまったく別の一つの体系=ピンイ ンの体系であることをしっかりと知識として覚えていくことが必須である。そこで筆者た ちは一年という限られたカリキュラムのなかで、学生に中国語の発音とピンインを読む能 力を訓練し習得させねばならないため、大量の発音の訓練とピンインを読み書きするテス トを行う。しかし多くの学生がしばしば初級段階でつまずいてしまい、挫折する。原因は ほかでもなく、学生が一歩教室を出れば日本語の世界であって、自然なインプットを期待 するのはむずかしい(稲葉 2003)という環境の問題である。 3. 2 発音の難点 中 国 語 で は 漢 字 一 文 字 が 一 音 節 で あ り、音 節 は Initial+Medial+Vowel+Final/Tone (IMVF7/T)という構造で、“I”=声母、“M”=介音、“V”=主母音、“F”=韻尾、また声母 に対して“MVF”をまとめて韻母とも呼ぶ。ピンインは音節の各要素にそれぞれローマ字 が一文字ないし二文字があてられ、21の声母と39の韻母の組み合わせ、それに四つの声調 ― 82 ―のいずれかをつけたものが中国語の総音節となる。 ピンイン表記は音節の各要素にローマ字が対応するが、実際の音声とピンイン表記 (ローマ字綴り)が必ずしも一致するわけではなく、ピンインはいわゆる「発音記号」で はない。中国語の音節を IPA 表記することも可能だが、新たに IPA の知識も学ばなければ ならないため、学習者の負担が更に増えることとなるので、教師は知識として十分に習熟 している必要があるが、教育現場では一般的に用いない。(ただ、本学での授業では、学 生全員が音声学の講義を受け音声学及び IPA の知識を下地として持っているので、発音時 に IPA を使って音声とピンイン表記の差異を示唆することもある。英語を専門として総合 的に学ぶ本学ならではの利点である。) 以下に授業で学生の難点となっている韻母を注記とともに表で示す。 図表 1 注意の必要な韻母 ピンイン表記と音声 注記 1 単母音“e” [ ] 日本語にはない発音なので、口の構え、舌の位 置に注意し喉の奥から発音する。 2 複 合 母 音 に“e”が 含まれる場合8 “―ie、―ei、―üe、―en”[―"] “―eng”[!#] 上段の複合母音では、あえていえば日本語の 「え」に近い音になる。鼻音韻 尾[―ng]の 前 に来た場合は単母音と同じになる点に注意が必 要。また、複合母音を習ったあと、単母音“e” を["]と読み間違えるケースが多々ある。
3 単母音・韻母“u” “wu”“―u”[u] 日本語に近似音「う」[ ]があるため、意識
的に口の構え舌の位置に注意が必要。また単母 音のみの音節では“wu”と表記される。また
“u”が介音になる複合母音9でも声母がゼロな
らば“wu―”とつづる。
4 単母音・韻母“ü” “yu”“―ü”“―u”[y] 日本語にはない発音なので口の構え、舌の位置
に注意が必要。「ユイ」という2つの音になら ないこと。ゼロ声母の時は“yu”と綴られる。 また、声母“j,k,x の後ろではピンインのつ づりが“ju,qu,xu”と ü の ウ ム ラ ウ ト 記 号 をとって表記するので要注意。 5 複合母音10に“ü”が 含まれる場合 声 母“n,l”の 後 ろ は “―ü―”、声 母“j,q,x” の後ろは“―u―”[y] 単母音の時と同じく声母“j,q,x”の後ろで は“ü”のウムラウト記号を取って表記する。 音節数が少なく“―ü―”と表記する音節の方が 少数なので、 単母音のピンイン表記が理解できていれば難し くない。発音での注意点は、“―ün”を日本語 の「ユン、―ュン」とならないようにすること。
6 単母音・韻母“i”① “yi”“―i”[i] 口の構えに注意して発音。日本語の「イ」にな
らない。ゼロ声母の時は“yi”と綴る。 7 韻母“―i”② 声母“zh,ch,sh,r”と の後ろで[ ] “i”①と同じつづりだが発音が異なることに注 意。声母が正確に発音できていれば、無理なく [ ]の音となる。 ― 883 ―3
以上、韻母についてのみ述べてきたが、声母の発音でも日本語話者は意識的に調音し、 定着させるために頻繁な訓練が必要なものがある。声母と韻母の組み合わせで出来ている 中国語の音節は、やはり上述のとおり正しい発音の大量の訓練と練習を経て初めてみにつ くものである。 3. 3 ピンインの問題点 ピンインは国語教育のために中国語話者向けに確立されたもので、外国人学習者のため のものではないため、純然たる発音表記としてはいくつかの問題点をかかえている。この 問題点をピンイン表記の規則としてとらえ、発音と結びつけなければならい。 朱川は初学者の記憶しなければならない項目があまりにも多く、目に見えないプレッシ ャーが増加し相当の負担になっていると考え、初学者には最初の段階ではしばらくピンイ ンの規則を覚えることを要求せず、安定した発音ができるようになってから、正確なピン インの規則を指導することを提唱している14。これはピンイン表記の規則が学生にとって 非常に大きな困難となっていることを示しているが、しかし、筆者たちは学生が将来にも 中国語を学ぶ機会があり、辞書をひく時にまたピンインという困難に直面15するであろう ことを考慮し、朱川の教授法をそのまま受け入れることはできない。やはり中国語の音節 ピンイン表記と音声 注記 8 韻母“―i”③11 声 母“z,c,s”の 後 ろ で[ ] “i”①と同じつづりだが発音が異なることに注 意。口の構えに注意しないと“―u”と混同し てしまうことがある。聞き取り発音ともにきち んとできることが肝要。
9 複合母音“iou” “you”[iou]
“―iu”[i"u]
ゼロ声母のときには“you”と綴るが介音“i―” をしっかり発音すること。声母+韻母の時、主 母音の[o]が弱化し、中間よりの母音[―"―]
となる。ピンイン表記には表されないため12ひ
きずられて[―iu]とは発音しないように注意。 10 複合母音“uei” “wei”[uei]
“―ui”[u"i]
ゼロ声母のときは“wei”とつづるが、声母+ 韻母のときは主母音[e]が弱化して中間より の母音[―"―]となる。上記9と同じくピンイ
ン表記13にひきずられて[―ui]と発音しないよ
うに注意。 11 複合母音“uen” “wen”[u"n]
“―un”[u"n] ゼロ声母のときは“wen”とつづり、声母+韻 母のときは“―un”とつづられるが、主母音の 弱化は多少みられるものの[―"]の音を脱落さ せてはいけない。 12 複合母音 “―ian” “―üan” “―ian”[―i#n] “―üan”[―y#n] 介音と韻尾の影響で主母音の音声が[―#―]と なるが、ピンイン表記は“―a―”なので発音に 注意が必要。“―ian”ではもう一つの鼻音韻尾 “―iang”[―i!$]と混同しないこと。 ゼロ声母の時はそれぞれ“yan””yuan”と表 記する。“yuan”の“―u―”を“―ü―”と発音す ること。 ― 84 ―
体系を繰り返し練習しながら、もう一方でピンインを読むことができるように訓練する教 学方式をとる。
4
.ポッドキャストの実践
稲葉2003で述べられているとおり「週一・二コマのカリキュラムでは自由な発話はもち ろん、正しく文を発声することもままならないが、既知の内容であれば中国語を聞き取る ことができ、また漢字と発音記号で正しく書き出すことができるレベルまでは導くことが できると思うに至った。ここまでの能力があれば、将来何らかの学びの機会があった際に、 着実にそれを吸収していく素地があるといえる。」筆者たちも一年という限られたカリキ ュラムの中で、学生が中国語が嫌いになるのではなく、中国語や中国文化に興味をもって くれるように指導し、期待をしている。本学のカリキュラムのなかでは、発音練習を無味 乾燥な機械的訓練ではなく、意味のある会話を用意している。内容はとりとめのないもの ではなく生活に密着したスキットである。学生に、これまで見慣れていない音節体系を口 に出して発音練習させるために、春学期のカリキュラムはピンイン体系を中心として展開 し、なかでも上述の初学者に難しい発音の聞き取りと発音の練習に力をそそぐ。一年間の 成績評価は春学期では口頭試験と筆記試験を両方行い、学期末の口頭試験の内容は中国語 で自己紹介をおこなわせる。筆記試験ではテキスト本文、単語、文法の学習成果を考査す る。これまでの試験実施の経験から、口答試験は相応の成果をあげていると考える。しか し、やはりなかなか越えられないネックとなっている問題点も存在する。問題点を以下に 簡単にまとめる。 1 .市販教材の不足点とそれを補うことが難しい。 口答試験は学生自身と密接に関わる自己紹介であるため、内容は学生の姓名以外 に、さらに学校、学部、出身地、居住地などの語彙を含んでいる。授業中に多く の時間をさいてこれらの単語の練習をし、発音をただしても、学生は授業後、練 習するツールがないため、練習意欲が低下する。家に持ち帰り練習するために、 学生が小型のテープレコーダー、さらには携帯電話を用いて、個別に教師をたず ね録音をするという状況もみられる。 2 .ピンインを読むことの目的との乖離。 前文でも述べたように、中国語の学習は発音を非常に重視する。口答試験を実施 する目的は、日本人に不慣れな音節構造の訓練であり、ピンイン表記の規則を理 解し読めるようになることが目標である。しかし、結局のところ成績にかかわっ てくるテストであるので、多くの学生はしばしば試験前になってから、課題にか じりつくようにして、無理やりに発音だけを頭につめこもうとし、ピンインの体 系も同時に覚える必要があることを忘れてしまう。 3 .学生の負担の増加感。 各クラスで教師が選択している教科書の学習内容が、春学期の時点で、“自己紹 ― 885 ―5介”で用いることばと適合しているとはかぎらないので、学生は進度に対応した テキスト各課の本文とは別に、口答試験の内容も練習しなければならない。量と しては非常に多いわけではないが、学生は往々にしてテキスト以外にさらに補充 教材があることに負担を感じている。 4. 1 授業後の補充教材―【#后"!(授業後ノート)】の実施方法 4.1.1.(図表2)のような、学習教材サイト:http://jogakuin.nobody.jp をたちあげた。各 週の授業が終わったあと、当日の授業での重点学習項目を作成し、ネット上にのせる。学 生は自分でポッドキャストの更新を行うか、ネット上で聞き取りを行う。 4.1.2.毎回の音声補助教材の内容 A.「学習イラストカード」に当日学習した文章のピンインを含む。 B.mp3の音声データは,毎回20−30秒前後の長さである。 C.ポッドキャストの xml ファイルは16:コンテンツの情報を含む(図表3)このテキ スト情報はモニター付きの iPod であれば、内容を聞きながら、学習内容を対照し てみることができる。ネット上で iTunes でコンテンツの情報を検閲することもで 図表 2 http://jogakuin.nobody.jp ― 86 ―
きる17。 4.1.3.音声教材の内容と実施方法 A.ピンインのつづり方に習熟することに重点をおく。毎回の授業の重要な点に基づい て、短い一対一の会話か、単独の一文を編集する。学生に短い対話を通して、一つ には口の筋肉をきたえ、もう一方で比較的複雑なピンインを覚えさせる。(図表3) B.学期末口頭試験にあわせ、適宜必要な単語をポッドキャストのなかに分散して配置 する。 C.毎週授業後に、当日教室で練習した発音を録音するので、【#后"!】(授業後ノー ト)と名づけた。隔週でポッドキャストの内容の口頭テストを行う。適時に学生の 発音を正すことが目的である。 4. 2 実施しての成果 ChineseⅠを選択する学生の大多数は入学したばかりの新入生であり、また iPod は新 学期が始まってから、学生の手にわたる。そこで、もしカリキュラムの最初からポッドキ ャストを開始するとすれば、学生自らがネットに接続し、直接コンテンツを聴けるような 準備をしておかなければならない。また、一部の学生は自宅にパソコンがない、ネット環 境にないといった状況や、大学入学したばかりで、学内のコンピューター環境や関連する 設備に不慣れであったり、ポッドキャストや iPod の操作もできない場合がある。ポッド キャストの開始から、2,3週間の間は、多くの学生がとまどう様子が明らかにわかる。 幸いなことにコンピューター実習室のサポータスタッフの指導により、短期間で学生はダ 図表 3 podcastのテキスト ― 887 ―7
ウンロードとネット上で聴くことに慣れていった18。 ポッドキャストの計画を始めてから筆者は、学生たちの反応の観察を続け、また折に触 れ学生に、使用状況をたずねた。学生の受け入れは筆者の事前の想像をこえた非常に高い ものであった。ポッドキャスト開始の最初から、学生は iPod から教師の声が聞えてくる のをとても新鮮に感じると言っていた。毎回の発音教材が、次回の授業時の口頭テストの 内容だとしても、あまり苦にならず、そればかりか面白いと感じ、繰り返しの練習を行い、 少しずつ自分の発音を正していった。 音声教材での対話練習は、学生の日常生活に関係する内容なので、学生は喜んでこれら の単語や文章の練習を行った。毎回のコンテンツは、まず重要な練習項目として教室で説 明を行い、ほとんどの学生が各項目について自分で復習をしており、テキストの不足点を 補うことができた。 成果については、今年度の春学期末の口頭試験は、これまでの年度に比べてよくなって きており、ポッドキャストの内容を分散して期末試験の難点として盛り込んだところ、大 多数の学生が、学習の要点と中国語の音節の特性をつかんでいることがわかった。また、 普段から対話方式の口頭テストを行い、慣れているため、期末試験に臨む際の心理的負担 を少なくすることができた。今回ポッドキャストで試行したモデルは、教師が発音教材を
図表 4 2006年 Chinese I―クラス A、B 春学期 Podcast の内容
回 テーマ 内容 練習項目 1 私はコーラを飲みます、あな たは? A:我喝可#,!(? B:我不喝可#,我喝,-。 単母音 a,o,e,i,u 2 私は餃子を10個食べます。 A:我吃十个.子。 B:我吃九个小)包。 そり舌音 shi,chi, ji,xi 3 私は香港に行きたい A:我想去香港,!(? B:我想去北京。 鼻音韻尾 iang,ing,ang 単母音 ü 4 私はスカートがすき。 A:我喜/穿裙子。 B:我喜/穿%子。 ピン音の書き方 ji,qi,xi ―un, 5 大阪に遊びに来てよ。 A:/迎!来大阪玩儿。 B:太''!了。 鼻音韻尾 huan,ban,wan,ying 6 私は大阪女学院大学の学生で す。 A:我是大阪女学院大学的学生。 B:我也是大阪女学院大学的学生。 自己紹介内容 7 私は英語学科の学生です。 我是英"系的,我也学中文。 学科名 8 すみませんが∼ $不起,我听不0。 生活用語 9 バスで学校へ行きます A:我坐公共汽&去学校。 B:我坐地+去学校。 自己紹介内容 交通手段 10 自己紹介をさせていただきま す。 我来自我介1一下。 自己紹介内容 紹介する 11 パンダ百貨店 1979年のアニメ「熊猫百*商店」の 登場人物、単語など 聞き取り補充内容 ― 88 ―
提供し、学生に暗誦させ、さらに口頭テストを行うという形である。練習をとおして、学 生は発音の重要性を認識していった。このモデルは状況と言語をむすびつけたものだが、 漢字表記とはむすびつけておらず、これからさらに改善する余地が大いにあると思われ る19。
5
.今後の課題
筆者は一年生のカリキュラムの到達目標を“正確にピンインを発音できる”という点に 置いている。ポッドキャストを補助教材として使用し、一学期が過ぎ、各クラスの学生に 確実に一定の成果があがっていることを実感している。ピンインの体系は中国語初学時の 大きな障害となっていることは事実である。しかし、上述のように朱川が、初級段階では ピンイン表記の規則に厳格に沿わず、実際の音声に合わせた拡大したものを使用するとい う方法は、中国語教育界の更なる研究が必要であろう。教材や学習ツールなどとの調整が ない限り教育現場での実施は困難である。筆者は第二外国語の入門課程では“単母音、二 重母音、三重母音、鼻韻母”などといった術語を用いた難解な説明は、必ずしも正確な発 音の直接の助けとはならず、これらの用語を用いて発音教育を行うことを再検討する余地 があると考え、逆に多くのミニマルペアを用いた発音練習をすることを提唱する。ポッド キャストの使用はこのような練習に、非常にマッチしたものである。 このほか、第二外国語の選択科目は授業時間が短いという制限がある。一週間に一回の 外国語授業では、学生の授業後の復習が足りなかったり、祝祭日などにあたり授業の間隔 があいてしまうと、多くの学生は授業内容を連続したものと捕らえることがむずかしくな り、再三にわたって問題点を強調して説明したり、結局最初にもどってもう一度全員で復 習することになってしまう。もし授業後の練習を強化して学生にあたえれば、このような 問題の一部分は解決することができる。しかしヒアリングと発音で、ただ「家に帰ってか ら教科書付属の CD を何度も聞くこと」とだけ言い、復習する項目を明示してやるのでな ければ、ただ無責任に宿題をおしつけただけのことになる。教師が自分で録音・作成した 音声教材をポッドキャストにすれば、教師自身の教育の場を広めることにもなる。しかし、 個人の力には限りがあり、多数の力を結集してアイディアを出し合い、共同してコンテン ツの製作を行えば、カリキュラムにも対応し、なおかつ体系的な教材を作ることができる。 iPodは本学学生の必携の学習ツールであり、ポッドキャストの作成も複雑なものでは ないが、学校が設備面での支援を強化してもらえれば、ポッドキャスト以外に、同時にネ ッ ト 上 で 聞 く こ と が で き る 音 声 教 材 を 学 生 に 提 供 す る こ と も で き る。例 え ば audiobloggingの方式であれば、学生が mp3プレイヤーを持っているかどうかにかかわ らず、ネット上で直接ブログを閲覧したり、RSS reader を用いて自宅で音声教材を聞くこ とができる。ポッドキャストは言語教育において、初級のレベルだけでなく、中上級の授 業にも応用できる。教師はカリキュラムの中でポッドキャストを作成するという学習タス クを設定し、学生たち共同で実際にポッドキャストを作成させることにより応用の範囲が 広がるであろう。(Godwin―Jones) ― 889 ―9秋学期の開始以後、筆者たちはポッドキャストの実施対象を Chinese Ⅰの五つのクラス にひろげ、同時に実施することを考えている。A、B クラスと C、D、E クラスでは異なっ たテキストを使用し、担当教師も授業進度も異なっている。しかし、発音指導の目標は同 じである。秋学期の授業内容は発音を定着させ、ピンインを読めることを目標にし、その 一方で、口頭テスト以外のテストモデルを検討する。どのようにして音声材料と文字を、 もっと効果のある形で結合させ、学生に中国語の漢字の“形、音、義(意味)”を、一体 のものとさせることも今後の大きな課題のひとつである。はじめてのポッドキャストの実 施は、いまだ模索段階にあり、皆様からのご意見をぜひ頂戴したいと考えるしだいである。 注 1 日本中国語 CAI 研究会はコンピュータを利用した中国語教育の研究および CAI・CALL 教材の解 発・研究を行う学術団体である。(林2002)
2 School of Dentistry, University of Michigan, Stanford University, University of Wisconsin-Madison http://www.apple.com/education/solutions/itunes_u/に参照
3 http://www.chinesepod.com/
4 藤本京子(編集部)2006/03/07“世界初の iPod 導入校、大阪女学院:教育現場での導入が進む
iPod(1)”ZDNet Japan
http://japan.zdnet.com/news/hardware/story/0,2000056184,20097872,00.htm 5 http://www.apple.com/jp/education/profiles/osakajogakuin/ http://japan.zdnet.com/news/hardware/story/0,2000056184,20097872,00.htm に参照 6 1958年発布「&!"音方案」による。台湾では1918年教育部公布の「注音字母」を用い、人名 には「ウェード式ローマ字」が用いられる。 7 “I”、“M”“F”はそれぞれゼロの場合がある。 8 “―üen”については別項で述べる。 9 “uei”については別項で述べる。 10 音節要素の VF、MV、MVF の韻母 11 以上三つの“i”は相補分布しているため、音声がちがっても一つの“i”で表されるのである。 12 “―iu”と綴ることに関しては朱川1997、趙金銘1997でも非常に問題があるとされている。趙1997 では声調により“―o―”が消失するという説に実験結果を挙げて反論している。現在では主母音 の弱化は見られるものの消失するのではないと考えるのが一般的である。 13 注8と同じく朱1997、 趙1997でこのピンイン表記に関しての問題が取り上げられている。 また、 表11の“―un”も同様である。“―un”については“―uen”とピンイン表記した場合との留学生の 発音実験も行われいる。朱1997“棍,困,婚,”用“guen,kuen,huen”来注音,同$(60名学 生")。#果是")guen,kuen,huen%,81%(49名)的学生)音正',而")gun,kun,hun %,只有20%(12名)的学生)音正',80%的学生)*了。” 14 朱川 p.151―158 15 中国語の辞書は筆画でもひけるが、配列順序はピンインのアルファベット順になっている。親 文字だけでなく、下位分類の熟語の配列もアルファベット順である。
16 iTunes への Podcasting の送信に必要な手順は Apple 公式サイト「Podcasting と iTunes:技術仕 様」を参照。http://www.apple.com/jp/itunes/podcasts/techspecs.html 17 実際の授業では“簡体字”を用いているが、本学では台湾の大学との交流があり、学生によっ ては台湾へ旅行したり、留学したりすることをかんがみて、コンテンツの内容には“簡体字”と “繁体字”を並列し、学生が対照できるようにしている。 18 ポッドキャストを導入した初期、学生は使用方法にまだ慣れておらず、コンピューター実験室 ― 90 ―
の長江氏が、わざわざ分かりやすいポッドキャストのダウンロードについての説明書を作って くださった。深く感謝申し上げる。 19 本年度の終了時にポッドキャストの効果について更に具体的な調査を行う予定である。詳細に ついては次回の総括報告を待たれたい。 引用文献 英語
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