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オペラの風景(29)「トリスタンとイゾルデ《の吊演は?

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Academic year: 2021

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オペラの風景(29)「トリスタンとイゾルデ」の名演は? 本文 日本最高のホープ、フランゲーネの藤村美保子 このオペラは外的劇進行に乏しく、内的劇進行が中心のオペラだと、前回述べました。 どんなところに具体的な特色があるのでしょうか. ワーグナー自身の説明があります。 従来のオペラとは異なる聞き方を要求すると言っているのです。 「従来のオペラ・・・モーッアルト、ヴェルデイ、プッチーニ・・・では、音楽はも っぱらその瞬間に行動している登場人物の表現なのです。しかしこの音楽劇の構想で は、音楽は《全てを知る》作者のメガホン(p27)なのです。」 この言葉はわかりにくいけれど、要は音楽がドラマのように、結論がどうなるか、分 からないのではなく、筋が決まっている、神様のいうとおりになるという、宿命論的 なものだ、ということでしょう。音楽が決まったものに向ってながれていくのです。 「トリスタンとイゾルデ」はワーグナーのオペラの内でも変わっているのは、通説で す。 ワーグナーの言葉として妻コジマは日記に書いています。 「トリスタンでは殆んどの者にはメロデイーが聴こえなかった。-しかし彼らが知性 を通して《メロデイー》捉えるならば、その知性は、《意味も、またメロデイーに従っ て、発展しているのだ》ということを認めてくれるだろうに」。 日本人は知的に音楽を聴くのが下手ですが、ワーグナーは知的に聴く西洋人に対して こう言っているのです。知的音楽を聴いて欲しいといっています。 こういった音楽的方法をワーグナーが使ったのは「トリスタンとイゾルデ」が神話だ ったからであることと関係があるでしょう。神話は、シェクスピアー以降の近代劇と は劇の作り方が違うのです。近代劇は発言とそれへの反論からなる対話でなりたって いて、反論から次の行動への決意が生まれて、劇は進みます。

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ところが神話では登場人物は自分のやることを考えるより、予め決まっている運命に 従うのが普通です。だから最初に述べたように音楽が作者の思うことを拡大するに過 ぎないメガホンという考えで作曲する方法が適しているのでしょう。作者が登場人物 の運命を神のように予め決めておくこと、登場人物の対話で次の展開が起こるなどと は見る者に期待させないことが、神話の音楽化には大事だ、とワーグナーは考えたの ではないかと、私は思います。 ワーグナーは常識的には破廉恥の典型のような人間です。彼の有名な妻コジマは親友 の指揮者ハンス・フォン・ビューロウの妻で、不倫な関係で奪いとりました。その前 にはニンナという妻がいながら、経済的苦境をすくってくれた商人から妻ウェーゼン ドンクと不倫な関係におちいり、最終的には別れます。ウェーゼンドンクとの関係が 最盛のとき、「トリスタンとイゾルデ」の制作も盛りでした。従ってこの作品が作られ る背景を、彼は彼女に説明していて、それが理解への鍵を与えてくれます。 恩人の人妻ベーゼンドンク 彼は彼女に「自分は《移行の技術》というのを発見した」と言っています。第ニ幕 2 場で典型的に現れていますが、媚薬を飲んで愛し合った二人の対話はここでは同じこ とを言い合っているに過ぎません。昼の世界の経験と夜の世界の経験を、お互いに言 い合っているだけです。対話にはなっていませんし、二人は抱き合っているだけです から、ここでは外的劇進行もありません。40分も経過します。しかし内的劇進行は 進んでいます。《移行の技術》が使われているからです。 《移行の技術》はどういうものか、ダールハウスという研究者の説明ですと、A,B,A (動機と呼ぶ)という繰り返しの反復が原則で、3 番目の A を1番目のAと少し変え ておく、更に次の動機A,C,Aの A も 1 番目の動機のAと少しかえる。C についても B とは少し変える、と解析しています。 私は十分には納得できませんが、こういう方法なら、音楽が少しづつ変化していなが

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ら、形が急に変わるようなアンバランスは起きないで、進んでいくのはわかります。 対立する内容の会話で次の会話を引き出す、近代劇の方法と比べれば、神話の表現に は、この《移行の技術》が、神話が神の意図で進むという性質上、適切なのはわかり ます。 内的劇進行とはこう理解したらどうでしょうか。私達は《トリスタン》を聞くとき、 多くのところで、細かくて 2~3 節、長くても10~15節程度を単位(動機)とし て、単位が少しづつ変わりながら延々と繰り返される音楽の流れを感じます。それに 身をまかせるのが最適な態度ではないかと私には思っています。 このことと関係がありますが、独白のようにトリスタンだけの台詞が、イゾルデだけ の台詞が、マルケ王のだけの台詞が数分続くところが、何度かあります。勿論外的に は劇は変化していません。しかし背後のオーケストラは《移行の技術》でどんどん変 化しています。だから総体として劇は進行していることになります。 これが「トリスタンとイゾルデ」の特色だと私は感じます。極端な例を考えると、語 り手が一人いて、神話を話し、オーケストラを話の内容に応じて、《移行の技術》で幾 つかの動機(上のABA)を反復すれば、神様の決めた道筋で神話の音楽劇が成り立 つのではないか、私はそう思います。これが神話をオペラ化する方法とワーグナーは 考えた。あえて言えばこのケルト神話以降、ゲルマン神話を彼は「ニーベルングの指 輪」として4作書いていますが、そこでも基本的には似た方法を使っていると考えて, オペラを聞けば理解が深まりそうだ、と今私は思っています。 こんな劇ですから、視覚的なものの重みは普通のオペラよりは軽く、DVD には字幕を 読む効用程度を期待してもよいくらいでしょう。そのせいか名演がCD、LP、SP と古く遡れるのが、「トリスタンとイゾルデ」の特色です。以下私の聞いた録音の特色 を述べます。 ①イゾルデ②ブランゲーネ③トリスタン④クルヴェナール⑤マルケ王 1)CD、フリッツ・ライナー指揮コヴェントガーデン王立歌劇場 1936 年 ①フラグスタート②カルター③メルヒオール④ヤンセン⑤リスト 二人の主役が全盛期であった録音のせいか、80 年も昔とったものなのに、今も手に入 ります。大変に技術的に難しい場所が多いそうで、1928 年から 81 年までの20に余 る録音を検討したホラントはこのSP と次の2)を優秀な演奏と上げています。 2)CD、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮フィルハーモニアオケ 1952 年 ①フラグスタート②シーボム③ズートハウス④フィッシャー=ディスカウ ⑤グラインドル 評判のいいLP。今はCDになっているが、これも元祖のEMI版のほか、それを再 生し、修正したナクソス版などでている。オーケストラで、内面的な動きが上手く扱 ってあり、外見的に劇的な効果を生むのに貢献している。世紀の大指揮者だから、沢 山の名盤があるが、これは格別。吉田秀和氏は音楽の生む精神性を評価しているが、 私も賛成だ。

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トリスタン第2幕 3 場 3)LP、カルロス・クライバー指揮ドレスデン国立歌劇場 1981 年 ①プライス②ファスベンダー③コロ④フィッシャー=ディスカウ⑤モル 私はLPで持っている。繊細で官能性さえ感じさせる演奏。彼はどの曲からものびの びとした音楽性を引き出す抜群の能力の持ち主だが、この曲では他の指揮者と違う曲 のように思わせるほど、官能性を際立たせている。 4)DVD、バーレンボイム指揮バイロイト音楽祭オケ 1983 年(演出ポネル) ①J.マイヤー②シュバルツ③コロ④べヒト⑤サルミネン ボネルの才能がいやというほど、感じさせる優れた演出で、音楽だけでよいといった 前言を取り消したいくらいだ。ゆっくりしたテンポで、豊満な音の響きに浸り、官能 的満足に溺れそうな演奏を、ボネルの格調高い演出がきりっと引き締めてくれる。こ れは神話なのだと忘れさせない。2幕は普通の演出から予想させるつくりだが、3幕 では孤独感を出す場面に2本の巨木でどうして現せたか、天才としかいいようがない。 5)DVD、ダニエル・バーレンボイム指揮バイロイト音楽祭オケ 1995 年(演出ミュ ラー) ①W・マイヤー②プリエフ③イエルザレム④シュトルクマン⑤ヘレ 同じバーレンボイム、バイロイトでの演奏ではあるが、ポネルのものとは大違いであ る。肩にプラスチックのリングをかぶせて、神を示しているようだが、多くの場面で 動作の意味がわからない。格調は感じられない。音楽もただ遅いだけで惹きつける魔 力はない。神さまになったW・マイヤーには次の普段着のマイヤーほどの魅力はない 6)DVD、ズービン・メーター指揮バイエルン国立歌劇場オケ 1998 年(演出コンビチ ニー)①W・マイヤー②リポヴシェック③ウエスト④ワイクル⑤モル コンビチニーは今売れっ子の演出家で、優れた音楽性と異才の演出で人気を呼ぶ。見 る前はどんな角度でとりあげるかと今回も胸をときめかしたが、本質は0 余り変わっ ていない。神話から普通のラブ・ストーリーになっているだけ。二人の主役は近頃の 若い男女である。アイルランドからコンワルに向う船はヨット、リゾートスタイルで

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二人がもめている。2幕2場での二人だけの会話も森に運び込まれたソファーに座っ て行われる。ただ、バイロイトで使うような官能的なラブシーンではない。あっさり した愛の交換である。 3幕のブルターニュ地方で死を待つトリスタンがいるのは掘っ立て小屋に近い。神話 でなく、日常的な地平の話とすると、音楽の良さが際立って感じられた。不思議でな らない。私の気づかないところで、コンビチニーの魔力が働いているに違いない。 7)DVD、クラウデオ・アバド指揮ルツエルン音楽祭オケ 2004(第2幕の演奏会形式) ①ウルマナ②藤村③トレーヴェン④ブレビュラー⑤ハーペ 2幕全体の演奏会形式(オーケストラの演奏会舞台でそのままオペラの一幕を歌とオ ケだけで行う)でオーケストラ公演の1曲として行うのは珍しい。他の1 曲はリヒア ルト・シュトラウス。この幕が演技なしでも見られることを示してくれた。劇場が舞 台の後ろに観客がいるし、その下で歌手は歌った。更に前にはオーケストラがいて、 指揮者がいる。背後は勿論大観衆。オーケストラが夏の音楽祭用で、顔見知りの名人 が沢山いた。チェロのグートマン、ヴァイオリンのハーゲン、クラのマイヤーなどな ど。立派な音で、オーケストラが大暴れするのはこの曲の特色で、その間を人の声が すり抜けるのはワーグナーならではのスリルであった。指揮は名人クラウデイオ・ア バド。 8)DVD、イルジー・ビエロフラヴェク指揮ロンドン・フィル、グラインドボーン音 楽祭07 (演出レーンホフ) ①シュテンメ②カルネウス③ギャンビル④スコウフス ⑤パーぺ シュテンメはチューリッヒオペラの常連としてテレビに度々でるが、イゾルデは前年 バイロイトで歌い、W・マイヤーを継ぐイゾレルデ・ホープだそうだ。3幕通じて、 渦を暗示する楕円形が全体を包む舞台である。2幕の前半だけが夜の黒、他は適当な 照明。衣装は神話に相応しい。1)のポネルに近いが、こちらは歌手に動きが多い。 シュテンメはいいが、音楽全体は余り冴えない。指揮者のせいではないだろうか。 新発売オーディオDVD(これはDVDオーディオとは違う) 次のCDでは注目すべき事件が起こっている。オマケにオーデオDVDというのがつ いていることである。これは私が2年半前の06年12月27日にこのブログのイタ リアオペラ史(60)で提案した「字幕ダケのDVD」がついているのだ。DVD再 生装置にかけると音声は5.1チャンネルで、画像は変化しない1種だけ、そこにド イツ語の台詞が長文出て、一つの台詞の間に字幕が英文、仏文で3~4回変わる。次 の台詞がでても画は同じ。 オマケだから値段は無いが、CDは並みの値段だから、額面通り無料ととっていいだ ろう。 DVDオーデオというのがDVD-Aという商品として売っている。これはDVD1 枚全部をオーデイオだけに使っているもので、音声の情報量がCDより遥かに多いか ら音はよい。但し、それを5,1チャンネルに分離して鳴らすため、特別な器械がい る。

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初のオーデオDVDのケース 9)CD、オーデオ DVD 付き、アントニオ・パッパーノ指揮コヴェンドガーデンオペ ラ2008 年①ステンメ②藤村③ドミンゴ④ベアー⑤パーぺ このCDは珍しくスタジオで録音されたものだそうで、音はいい。メンバーが揃って いて、好演を楽しめる。このオペラは何度も書いたように、演技など見かけの変化が なくても楽しめるよう作られているから、このような使い方には最適であろう。 2000円以下で売れないだろうか。日本語字幕で!!

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