2009 年度春学期 有澤研究会 term paper
京都市における
LRT の導入計画
慶應義塾大学総合政策学部4 年 小川 雄也 0. 目次 1. 混雑する京都市内 2. 京都における検討への経緯 3. 京都における計画線 4. 計画の現在地 5. 今後の研究方針 6. 参考文献 1. 混雑する京都市内 1-1.観光都市としての側面 京都市は世界的な観光都市であり、ステレオタイプなイメージでは秋葉原と並んで来日 した外国人観光客に人気の観光スポットとなっている。実際、近畿地方に存在している大 阪・神戸・京都という三都の中ではもっとも観光のカラーの強いものである。関東では中 学校・高校の修学旅行の定番でもある(関西以西では東京が多い印象を受ける)。観光名所は 伏見桃山から東山・北山・鞍馬・嵯峨野までそれこそ京都中と言っても過言でもないし、 京都市内の風情自体が一個の観光地となっていて、そこが特に外国人観光客の集客に大き な意味を持っている。こういった特徴を持つ観光都市は国内にはちょっと比肩するものが ない(規模を問わないのであれば高山。金沢もカテゴライズできないこともない)。京都市と しては年間の観光客数5000 万人を目標としており、07 年までは 6 年間は毎年増加し、5000 万人の目標まで70 万人という結果を残したが、08 年度は世界的不況の影響を強く受け、観 光客は尐し減尐した。もっとも、修学旅行を始めとした安定的な需要があるため、観光都 市としては安泰であろうと考えられる。 1-2.大都市としての側面 京都市は旧五大都市に該当する大都市で、現在でも人口は 150 万人近くを数え、日本国内でも第 7 位の都市である。また、京都大学を筆頭に学術都市としても花開いている。人 口は中心部よりも郊外部が増加しており、また中心部では住民の高齢化が深刻な問題とし て存在している(高齢化は京都市全体の問題でもある)。また、大阪への通勤・通学も多いが、 滋賀や奈良、京都府北部(丹波地方)からの流入も相応に多くあり、昼間人口では神戸市を上 回り第6 位となっている。 1-3.蔓延する道路混雑 人口が多く、流入も多い京都市内は、全国的にもトップクラスの道路混雑を引き起こし ている。あまりの幹線道路の混雑振りに、当地でのタクシー運転手の運転の荒さや路地通 行の多さは特筆すべきものとなっている。バスは慢性的に遅延するものであり、定時性は 全く確保されていない。そのことがマイカー需要をさらに喚起し、交通渋滞が悪化すると いう悪循環が引き起こされている。また、市内のほとんどは平坦だが、車道が渋滞してい ることに加え、歩道も狭く歩行者も多いので、中心街で自転車を見かけることは尐ない(た だし裏通りでは普通に見かけることが出来る)ように思う。 この道路渋滞は、京都の風物詩と言えば風物詩だが、実際には道路に自動車が入り乱れ、 クラクションの音は常に鳴り響き、排気ガスで空気が悪い、という惨状を呈している。私 の母方は京都なので、そのつてで10 家族ほどにヒアリングした結果、要するに諦めている ということであった。しかし、どうにかできるものならどうにかしたい、というのが本音 のようだ。 図1:混雑する京都市内 2. 京都における検討の経緯 2-1.背景 1997 年に第 3 回気候変動枠組条約締約国会議(通称:COP3、京都会議)が京都市北部の京 都国際会館で開催され、温室効果ガス排出削減に関する京都議定書が为要国首脳によって 制定された。 その頃、京都市は蔓延する交通渋滞によって、市内公共交通の为役であった市バスの乱 れが深刻化し、公共交通離れが深刻化し、マイカー需要が増加していた(この傾向は全く変
化していない)。また、前述の COP3 の開催に間に合わせる形で京都市営地下鉄烏丸線の国 際会館までの延伸と、京都市営地下鉄東西線の醍醐~二条間の営業を開始した(京都には歴 史的遺構が多く、ぞのための発掘調査費用などがさらに嵩んだ)うえ、バス需要が低迷し、 京都市交通局は大きな赤字に見舞われることとなっていた(京都市の財政赤字は拡大し続け て、財政再建団体へと脱落した。事実上の破綻である)。 2-2.展開 2005 月 9 月に京都市都市計画局は「新しい公共交通システム調査 報告書」を発表した。 京都市は「京都市基本計画」で「環境共生型都市・京都」や「歩くまち・京都」といった 理念を策定し、そのための施策として公共交通システムの再構築を挙げている。京都は公 共交通ネットワークが整備されておらず、TDM(交通需要マネジメント)も全く機能してい ない(あるいは導入されていない)。こうした中で包括的に交通整備を行う、というのが市の スタンスである。 前述の報告書には京都市が新しい公共交通システムとしてLRT を選択した過程が詳細に 書き綴られている。比較対象は、ミニ地下鉄・新交通システム・ガイドレールバス・従来 型バスである。この中から営業コストや社会的影響・景観への適応可能性・地球環境対策 などから総合的にLRT を評価し、選択するに至った。 3. 京都における計画線 京都市では、報告書において 7 つのルートを候補として設定し、そのうち採算性の釣り 合う4 つのルートに関して導入を正式に検討することとした。 以下に列記する。 4つの選択された路線 1. 河原町線 京都駅-三条京阪-東山三条 -四条河原町-祇園 2. 東大路線 京都駅-東大路通-元田中 -銀閣寺 3. 今出川線 北野白梅町-銀閣寺 -出町柳駅 4. 大環状線 金閣寺前-葛野大路九条-東福寺-元田中-金閣寺前 選択から漏れた3路線 1. 中環状線 堀川通-五条通-河原町通-御池通-堀川通 2. 小環状線 烏丸御池-河原町御池-四条河原町-四条烏丸-四条大宮
3. 堀川線 京都駅-堀川今出川 以上を地図上で表すと以下のようになる。(路面電車を考える館より抜粋 http://www.urban.ne.jp/home/yaman/index.htm) ↑ 京都市都市計画局の策定したルート。中心部は採算がまったく合わないことが判明。 ただし、採用路線は全て単線区間を含むものであり、用地買収が必要なケースもある。河 原町線はごく一部の単線区間で済むが、特に深刻なのが東大路線と今出川線である。東大 路線は路線の用地買収が非常に困難で、東山を通るため坂が多い。今出川線はほぼ前線が 単線となる。 また、今出川線は北野白梅町で京福電鉄、出町柳で叡山電鉄との相互運転を念頭におい ている。京都のLRT 構想の初端となったのはこの今出川線区間であり、京福電鉄・今出川 線・叡山電鉄が一体的な運行を行うことで、特に観光面では一度大宮や烏丸に戻ってから
向かわなくてはならなかった上京の観光地から嵐山までが非常に短縮されることになる。 河原町線は京都駅と繁華街の河原町四条を結ぶという意味で非常に大きなポテンシャル を秘めた路線であるように思う。京都市内から多方面に出るには、京阪(三条京阪)や阪急(河 原町・烏丸)が運行する大阪方面を除き、原則的には京都駅(JR・近鉄)に出る必要があり、 市営地下鉄が満たしていなかった需要を喚起する可能性がある。 東大路線は観光と通学がメインになると思われる。東山から上京にかけては、清水寺や 八坂神社に代表される観光地と、京都大学に代表される文教地区を内包している。京都駅 を基点とし、河原町通りを避けていることからもその意図が読み取れる。 大環状線は、LRT の運行に欠かせない環状運行系統であると同時に、鉄道空白地帯の交 通需要を満たすものである。運行本数は日中5 本/h である代わりに、ストラスブール型を 想定した長大車両による中大規模輸送を想定していることから、一般的な市民の足として の側面が予測される。 いずれのルートにしても、車庫用地が確保できないという非常に都市的な問題が懸念さ れている。今出川線に限って言えば、叡山電鉄や京福電鉄の沿線に新たに用地を獲得する という手段も考えられるが、残り 3 ルート、特に河原町線と東大路線に用地を確保するこ とが可能だとはとても思えない。景観の問題で立体的な車両基地は設定できない。JR 京都 駅に隣接するJR 貨物の梅小路駅の一部を借り受けるのが現実的なプランだろうか。あるい は地下に造営するという荒唐無稽なプランぐらいしか思いつかないのだが。 また、もう一つの問題としては、加茂川にかかる橋の架けなおしである。LRT は重量が それなりにあるために、現行の橋梁では危険度が高いため、数箇所で架けなおしする必要 があるという結論が出ている。 4. 計画の現在地 4-1.交通社会実験 2007 年 1 月 24 日に今出川通で LRT を模した交通社会実験が行われた。LRT 同様、中 心部をLRT 軌道と仮定しカラーコーンで遮り、バスを走らせるのである。幅員によって複 線区間と単線区間が存在したが、単線区間の行違システムは交差点を用いるという、LRT 導入時の計画に即したものになっていた。 結論から、LRT そのものの運行は完全にスムーズであったことがわかっている。また、 バス同士の行違に関しては、懸案とされた烏丸今出川交差点での単線区間での行違のダイ ヤを組んでいたが、一方がもう一方を数分間待つという方式が採用されたが、これは失敗 だったと考えられる。わずか4 キロの距離の中で数分間の運転停車を採用すると、LRT の 高速性を著しく損なう上、乗客へのストレスも想定される。結果、LRT の優位性は全く失 われる。
また、モニターや周辺住民へのアンケート調査では、周辺住民の過半数が今出川通での LRT の導入に「反対」「どちらかといえば反対」に投票している。モニターへのアンケート では好意的な意見が過半数だったが、これらの投票結果の差異は純粋にLRT に対する理解 度・関心の違いであろう。なぜならば、反対の意見として列挙されている理由が「荷捌き の場所が無くなる」「LRT が通ると渋滞が悪化する」「そもそも30 年前に廃止した市電をな ぜ今更復活させるのかの必要性がわからない」「売り上げが落ちる(商業的な被害が大きい)」 といった項目である。LRT と従来の路面電車を同じレベルで認識することによる初歩的な 間違いに立脚した残念な反対意見である。LRT は TDM の一環として存在するし、環境に 優しい公共交通への回帰が世界的な潮流である。LRT を通すなら自動車流入量はコントロ ールされるし、パークアンドライドをはじめとする様々な施策によって中心街からマイカ ーを締め出すこと、荷捌き場所は共同化してまとめ、特に設置することを市の報告書は明 記している。市の説明責任が果たされておらず、非常に残念な結果だと言える。市のほう でポスターやリーフレットでの説明は根気強く行われてきたが、本質的な理解には達せず、 市電の現代版としか捉えられていないのは失策である。こういった数値的な結果は後日大 きく影響してくる可能性があるだけに、残念だ。 4-2.現状・展望 この社会実験のあと、2 年が経過したが特に大きな動きは何もない、というのが現状であ り、非常に残念に感じている。09 年 2 月に地元の経済界・大学有志で組織する「今出川通 に LRT の実現を推進する会」(新今電会)が京都市長に要望書を提出したが、早期実現は困 難との回答であった。これは、純粋に京都市のあまりに大きな財政難が原因である。公的 扶助に頼らず公共交通機関が利潤を追求しなくてはならない日本の社会システムでは、大 赤字の京都市交通局を抱えていて財政再建団体に転落した京都市は、新たにLRT を整備す る資金が国家からの補助を合わせても困難であるという見解を示したということである。
もしかしたら、非常に保守的と言われる京都市民の特色が出ているのかもしれないが、こ れは蛇足だろうと思いたい。 とはいえ、日本各地でLRT の導入が促進されている今、本格的 LRT と TDM の採用に よる効果が立証されれば、すぐに導入されるだけの可能性は秘めている。京都市の掲げる 「歩くまち・京都」とトランジットモールの親和性は非常に高い。京都市が基本計画に沿 った都市計画を実践し続けるなら、早晩実現できるものだと思っている。 5. 今後の研究計画 今期は就職活動で忙しく、フィールドワーク・ヒアリングともに不足していて、非常に 不満の残るタームペーパーとなってしまった。その分文献の読解は十分行えたと思うので、 夏休み・秋学期は積極的なフィールドワーク・ヒアリングで実地で質を練り上げ、満足の 行く卒業制作・ORF すべく、最終的には市民生活に影響を与えるような論文に仕上げ、関 係機関へ提示できるレベルを実現することを目標とする。 6. 参考文献 ・ 路面電車‐ライトレールを目指して‐ 著:和久田康雄 成山堂書店 ・ トラムのある街 著:宮田親平 光人社 ・ 路面電車の大逆襲 編:21 世紀都市交通国民会議 水曜社 ・ LRT と持続可能なまちづくり 著:青山吉隆・小谷通泰 学芸出版社 ・ 路面電車とまちづくり 著:RACDA 学芸出版社 ・ 路面電車ルネッサンス 著:宇都宮浄人 新潮新書 ・ 路面電車新時代 LRT への軌跡 著:服部重敬 山海堂 ・ 路面電車‐未来型都市交通への提言 著:今尾恵介 ちくま新書 ・ ポスト・モータリゼーション 著:北村隆一 学芸出版社 ・ 京都の交通 今日と明日 著:土居靖範 つむぎ出版 ・ 交通政策の未来戦略 著:土居靖範 文理閣 ・ 都市と路面公共交通 著:西村幸格・服部重敬 学芸出版社 ・ 新しい公共交通システム調査・報告書 編:京都市都市計画局 ・ 交通社会実験結果概要 編:京都市都市計画局 ・ 今出川通にLRT の実現を推進する会・提言書 編:今出川通に LRT の実現を推進する 会 ・