16.牛ウイルス性下痢ウイルス持続感染牛診断における抗原エライザ法と イムノクロマト法の応用 県北家畜保健衛生所 ○矢口 裕司 赤上 正貴 山下 薫 大谷 芳子 牛ウイルス性下痢ウイルス(以下,BVDV )の持続感染(以下,PI)牛の摘発 は,一般的には血液を用いた2 回の抗原検査及び抗体検査により診断されている 1)。農場の感染源となるPI牛は, 2 回目の検査結果が出るまで隔離が必要となる が,感染拡大を防止するため,畜主及び臨床獣医師等からは早期の診断が望まれ ている。 抗原検出には,血液材料を用いた逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(以下, RT-PC R )または抗原検出 ELISA キット( BVDV Ag エリーザキット,IDEXX:以下, 抗原エライザ)が多く活用されている。また,近年では,福成ら2)が毛根材料を 用いた免疫ペルオキシダーゼ(IPO )法による BVDV 検査手法について報告して いる。 そこで,本県で診断されたPI牛及び急性感染牛の材料を用いて,抗原エライザ 法とイムノクロマト法によるBVDV 検査をしたところ,PI牛の摘発に有用な結果 が得られたため,その概要を報告する。 PI牛と急性感染牛における抗原エライザの S-N 値(判定値) 1 野外のPI牛と急性感染牛の抗原エライザ値の比較 家畜伝染病予防法第5 条検査により,平成26年 4 月から平成28年10月までに採 材した牛の血清 8,209 検体について,当所において抗原エライザを実施した結 果,陽性頭数は38頭で,その内訳はPI牛32頭( 0.39% ), 急性感染牛 6 頭 (0.07% )であった(表 1 )。 PI牛の抗原エライザ値は, 2.532 ~ 3.920 の範囲で中央値は 3.240 であった。 また,急性感染牛の抗原エライザ値は 0.370 ~ 0.960 の範囲で中央値は 0.611 で あり(図1 ), PI牛の抗原エライザ値は,急性感染牛よりも明らかに高い値を示 し,中央値でU 検定をしたところ,有意差が認められた( p<0.01 )。 2 急性感染牛(実験感染牛)の抗原エライザ値の推移 (国研)農研機構 動物衛生研究部門(以下,動衛研)において急性感染のモ デルとしてBVDV を実験的に感染させ,経時的に RT-PCR3)及び中和抗体検査が実 施されていた牛 2 頭( A1 , 2 )について,急性感染牛の抗原・抗体の動態を調 べるため,抗原エライザ及び抗体エライザ(VDPro ○R BVDV AB ELISA , ME
DIAN :以下,抗体エライザ)を使用して,検査を行った。 RT-PCR では, A1 は感染後 4 日目と 8 日目, A2 は 6 日目, 8 日目,12日目 で陽性を示した。また,中和抗体検査では, A1 は感染後12日目以降, A2 は感 染後14日目以降に抗体上昇が確認された。今回の BVDV の急性感染牛は, 4 ~12 日目にウイルス血症を起こし,感染約 2 週間後には抗体上昇に伴って,血中から ウイルスが消失していた。 一方,抗原エライザでは, A1 は,採材された全ての検体が陰性であった。 A2 は, 8 日目のみ陽性(抗原エライザ値 1.192 )が確認された。また,抗体エ ライザでは, A1 は12日目以降, A2 は14日目以降に抗体を確認した。当所で行 った野外検体の結果と同様に,実験感染牛の抗原エライザは,陽性になっても, その値はPI牛の最低値 2.532 よりも低値であった。また,抗体エライザは,中和 抗体に一致して12~14日目に陽性になった。 イムノクロマト法とRT-PCRの比較 イムノクロマト法は,特殊な機材を必要としないため,野外でも実施すること ができ,短時間で結果が得られる非常に簡便な検査手法である。今回,BVDV の イムノクロマト法である IDEXX SNAP BVDV test (以下,簡易キット)の有用性 について, RT-PCR の結果と比較した。 RT-PCR では,PI牛 4 頭,急性感染牛 4 頭及び陰性対照牛 5 頭の皮膚及び毛根 を材料とした。皮膚は約 0.5cm 四方に切り出し,毛根は尾根部及び耳介皮膚から 約30本程度を用いて乳剤を作製した。それらの材料について,抽出キットを用い て RNA を抽出し, RT-PCR3)を実施した(図3 )。 その結果,PI牛 4 頭の皮膚及 び毛根は,全て陽性であった。一方,急性感染牛4 頭と陰性対照牛 5 頭の皮膚及 び毛根は,全て陰性であった。 簡易キットでは,PI牛 6 頭,急性感染牛 4 頭及び陰性対照牛 5 頭の皮膚及び毛 根を材料とした。皮膚は約1cm 四方に切り出し,毛根は尾根部の皮膚からひと摘 み(約30本)したものを材料とした(図 2 )。 材料はそれぞれキット付属のコン ジュゲート液 1.5ml に10分間浸し,得られた抽出液を簡易キットに移して,10分 後に判定した(図3 )。 その結果,PI牛 6 頭の皮膚及び毛根は,全て陽性であっ た。一方,急性感染牛4 頭と陰性対照牛 5 頭の皮膚及び毛根では,全て陰性であ った。 皮膚・毛根の RT-PCR では,PI牛の抗原は検出できたが,急性感染牛の抗原は 検出できなかった。また,簡易キットの結果は, RT-PCR の結果と一致したた め,検出感度も RT-PCR と同等であった。
考察 妊娠牛がBVDV に急性感染し,その際に胎齢 125 日未満の胎子が子宮内感染す ると,胎仔はそのBVDV に対して免疫寛容となりPI牛として生まれてくる4)。PI 牛の多くは発育不良が認められ,二次感染や日和見感染による肺炎などを発症し 死に至ることが多い。また,PI牛は無症状のまま農場内に長期間飼養されること で感染が拡大し,同居牛の死流産を引き起こし,その経済的被害は大きい。ま た,発生予防対策として広く活用されている BVD ワクチンは,本病の発症予防 には有用であるが,PI牛の娩出を完全に抑える事は出来ない。 BVDV の清浄化を達成するためには,PI牛を積極的に摘発することが重要であ る5)。また,農林水産省の「牛ウイルス性下痢・粘膜病対策ガイドライン」で は,PI牛を隔離指導したうえで, 3 週間間隔の 2 回検査で確実な診断を行うこと を推奨している。しかし,PI牛は,その間に大量のウイルスを排泄し,同居牛の 感染源となることから,畜主や臨床獣医師からより早期の診断が望まれている。 当所で摘発したPI牛の抗原エライザの値は,急性感染牛より明らかに高く有意 差が認められたことから,抗原エライザ値が 2.5 以上であれば高い確率でPI牛を 特定できることが示唆された。 実際のPI牛検査は,バルク乳の抗原検査や余剰血清の抗体検査の結果から,農 場内にPI牛が飼養されている可能性が示唆されることが多い。そして,PI牛の特 定は,全頭の血液を使った,抗原エライザ検査が実用的であり,省力的でもあ る。急性感染牛はエライザ値が低く,PI牛では高値を示すため, 1 回目検査時点 で,PI牛と急性感染牛を判別することが可能であった。 また,簡易キットは,海外では耳標を装着する際の耳パンチで生じる耳介皮膚 組織片を材料とし,入牧牛や導入牛のBVDV 検査を行っている。今回,この簡易 キットを当所が代理店を通じて個人輸入し,早期診断の検査手法として実用性を 検討した。 皮膚・毛根を用いた RT-PCR は,PI牛だけが陽性になることが今回の検討でも 明らかになった。過去の報告6)においても急性感染牛の皮膚ではBVDV 抗原は検 出されていない。そのため,皮膚・毛根を材料とした抗原検査は,PI牛の摘発に 有効であることが分かった。また,簡易キットでも, RT-PCR と同様にPI牛のみ 陽性を示す結果が得られたことから,簡易キットは抗原を検出するのに十分な感 度を有していたと判断できる。 また,この簡易検査は,原則,皮膚組織を用いて検査するになっているが,毛 根でも皮膚組織と同等の感度があることが確認できた。簡易キットを実際に農場 で使う場合,皮膚組織を採取するよりも採材が簡便であり,牛の遺伝子病診断や 親子判定でも活用されている毛根で検査できれば,より臨床現場で活用し易い検 査法となる。
PI牛を摘発した農場では,その後の出生子牛や導入牛の BVDV 検査が継続的に 必要となる。簡易検査は非常に簡便であり,採材後,約20分で判定できるため, PI牛を検査当日に特定し,隔離飼育などのウイルス拡散防止対策を取ることが出 来る。また,併せて血液も採取し,抗原エライザ値が 2.5 以上の高値であれば, PI牛を確実に特定することができ,早期に隔離飼養を行うことで, BVDV の拡散 を防ぐことができる。 出生直後の子牛は,初乳からの移行抗体が抗原を捕足するため,抗原エライザ で陰性もしくは低い判定値を示す可能性がある7)。しかし,毛根を用いた簡易検 査では移行抗体の影響を受けにくいため,PI牛を特定する目安になる。今後,簡 易キットが移行抗体を保有するPI初生子牛においても有用かどうか,検討を重ね ていきたい。 稿を終えるにあたり,検査にご尽力及びご助言いただいた(国研)農研機構 動物衛生研究部門 川嶌健司先生,亀山健一郎先生に深謝致します。 参考文献 1) 農林水産省消費・安全局監修,病性鑑定マニュアル第 4 版, 68-70 2) 福成ら,毛根を用いた牛ウイルス性下痢ウイルスの簡易検査法の確立,全国 業績発表会,2015
3) Vilcek S et al., Arch Virol, 136, 309-323, 1994
4) 田島ら,牛ウイルス性下痢ウイルス感染症,日獣会誌,65, 111-117, 2012
5) 斎野ら,牛ウイルス性下痢ウイルス感染症の地域的な対策事例と効果の検証, 日獣会誌,66, 791-796, 2013
6) Brad L. Njaa et al., J Vet Diagn Invest, 12, 393-399, 2000
7) 増田ら,新たに市販された抗原 ELISA を用いた牛ウイルス性下痢ウイルス検 査の検証,日獣会誌,69, 187-191, 2016
表1 県内のBVDV検査におけるPI牛及び急性感染牛の頭数
図1 PI牛と急性感染牛の抗原エライザ判定値の比較
図2 毛根材料の採材の様子
17.細菌性血色素尿症と慢性銅中毒の複合的傷害により発症した血色素尿牛 3 症例
県北家畜保健衛生所
○藤井 勇紀 矢口 裕司 赤上 正貴 大谷 芳子
牛の細菌性血色素尿症(Bacillary Hemoglobinuria:以下 BHU)は偏性嫌気性菌
Clostridium haemolyticum(以下,Ch)の経口摂取後,肝実質損傷による嫌気条件 下での菌増殖により,大量の溶血毒素が放出されることで,発熱・黄疸・血色素 尿を呈し 1~2 日で死亡する疾病である 1,2,3,4) 。一方,慢性銅中毒は,銅の少量長 期摂取で肝臓に銅が蓄積し,銅が急激に血中放出されると,銅の触媒作用(Fenton 反応)で産生される活性酸素種の細胞傷害により,BHU とよく似た症状及び経過 を示す 5,6,7)。 今回,これら 2 疾病の複合的な関与により血色素尿を発症した牛の 3 症例につ いて,病性鑑定を行ったのでその概要を報告する。 発生状況 管内の乳肉複合の一貫経営農場(肉用種:400 頭,乳用種:120 頭)において, 2016 年 1 月~4 月に,約 10 か月齢の肉用肥育牛が可視粘膜黄疸・血色素尿を呈す る事例がP1~P3 の 3 例発生したため病性鑑定を実施した。なお P1,P2 は急性経過 で死亡後の死体解剖,P3 については予後不良のため鑑定殺を実施した(表 1)。 材料と方法 血色素尿発症牛(以下,発症牛)3 頭(P1~P3)と,他疾病で鑑定殺をした同 農場の非発症牛 1 頭(N1)の主要臓器,血液,また同居牛(乳用牛 26 頭,肉用 肥育牛 54 頭)及び他農場牛(乳用牛 30 頭,肉用肥育牛 29 頭)の血液,発生農場 環境の材料を検査に供した。 1 細菌学的検査 (1)培養検査 P1~P3, N1 の主要臓器・血液について,5%めん羊血液寒天培地,DHL 寒天培 地を用いた,37℃48 時間の好気培養及び嫌気培養(ガスパック法)を実施した。 なお,P1~P3, N1 の肝臓,腎臓,血液については,Ch 等の偏性嫌気性菌をタ ーゲットに,脱酸素クックドミート培地での増菌後,ガス噴射法による嫌気培養 を実施した。培養後の生育菌については 16srRNA 解析,または菌種特異的な PCR と増幅産物のシークエンスにより基準株との相同性を比較した。
(2)遺伝子検査
P1~P3, N1 の肝臓,腎臓,血液から,ヨーネピュアスピン(㈱ファスマック) を用いた DNA 抽出を行い,C.Novyi A 型及び B 型,C.septicum,C.chauvoei のマ ルチプレックス PCR,Ch の Nested PCR4),C.boturinum C 型及び D 型の PCR を実 施した。また,腎臓については,レプトスピラ属菌の PCR も併せて実施した。ま た増幅産物のシークエンスにより基準株との相同性比較を実施した。 (3)環境材料の Ch 培養検査 発生農場において,平成 28 年の 2 月と 10 月に採材した同一箇所の環境材料及 び対照として採材した他の肉用牛飼養農場と当所の庭の土の各1g を脱酸素クッ クドミート培地で増菌・DNA 抽出後,Ch の Nested PCR を実施した。 2 生化学的検査 (1)肝臓・血清の銅濃度測定 P1~P3, N1 の肝臓について,銅濃度測定を(国研)農研機構動物衛生研究部門 (以下,動衛研)に依頼した。また,P2(発症時),P3(発症前,発症時),N1 (解剖 1 か月前,解剖時)と同居牛及び他農場牛の血清について,銅測定 LS(㈱ メタロジェニクス)を用いた銅濃度測定を実施した。 (2)血液生化学検査 P2,P3,N1 の血清について,定法に従い血液生化学検査を実施した。 3 病理組織学的検査 P1~P3, N1 の主要臓器について定法に基づき薄切切片を作成後,HE 染色を実 施した。また,肝臓についてはロダニン染色を実施した。 4 ウイルス学的検査 P1~P3, N1 の主要臓器を用いて,定法に従い実施した。 成績 1 細菌学的検査 (1)培養検査 好気培養,ガスパック法による嫌気培養では有意菌は分離されなかった。 ガス噴射法による培養で,P2 の肝臓,血液,P3 の肝臓からグラム陽性の遊走 性大桿菌が生育した。生育菌について Ch の PCR を実施したところ,P2 の血液, P3 の肝臓で Ch の特異遺伝子が検出された(いずれも相同性 99%)。また P2 の 肝臓,血液で C.Novyi A 型が分離された。N1 からは有意菌は分離,検出ともに陰 性であった。 (2)遺伝子検査(表 2) P1,P2 の肝臓・血液から Ch の特異遺伝子を検出した(P2 肝臓で相同性 99%)。 N1 の材料からは特異遺伝子は検出されなかった。
(3)環境材料の Ch 検査(表 3) 2 月検査で P2 飼養区画の飼槽ホコリの増菌液から Ch の特異遺伝子を検出した (相同性 99%)。なお飼槽の消毒実施後,Ch の特異遺伝子は検出されなかった。 2 生化学的検査(表 4,図 1~3) (1)肝臓・血清の銅濃度測定 P1~P3, N1 ともに肝臓では正常値を上回る値(221~340µg/g)を示した。P2, P3 の発症後血清でも正常値を上回る値(969.7µg/dl,909.0µg/dl)を示し,特に P 3 は発症前(120.9µg/dl)と比較し,急激な値の上昇を示した(図 1,2)。N1 に おいては解剖一ヶ月前の血清で正常値であり,解剖時血清でも数値の大きな変動 はなかった。同居牛と他農場牛の血清では,図 3 に示す通り,中央値が同居では 肉用肥育牛で 138.8,乳用牛で 118.7,他農場は肉用肥育牛で 108.1,乳用牛で 11 0.9 であり,同居肉用肥育牛で最も高かった。また同居肉用肥育牛とその他 3 牛 群の分布に有意差がみられた(Steel Dwass 検定:P<0.05)。 (2)血液生化学検査 P2,P3 では黄疸・血色素尿の発症後に T-Bil,GGT の急激な上昇を示した。そ れに対し,N1 については GOT,GPT,LDH の値は正常範囲を超えていたが,T-Bil, GGT に上昇はみられなかった。 3 病理組織学的検査(表 4) P3 では肝臓のび漫性小葉中心性の肝細胞壊死が認められたが,P1,2 では死後変 化により病変は確認できなかった。N1 の主要臓器では,病変は認められなかった。 肝臓のロダニン法では,P1~P3,N1 でロダニン陽性を示す顆粒が認められた。 4 ウイルス学的検査結果 いずれの症例においても,ウイルスは分離されなかった。 考察 細菌学的検査で,発症牛である P1,P2 の血液,P3 の新鮮肝臓において Ch の特 異遺伝子が検出されている事から,発症牛 3 頭は BHU を発症していたものと考 えられた。しかし一般に Ch は正常な肝臓で増殖することはなく,肝蛭,肝生検, Fusobacterium 属菌による肝膿瘍など,何らかのストレッサーによる機械的な肝実 質傷害で嫌気条件が整ったときのみ増殖する偏性嫌気性菌である。このため,本 事例でもCh 増殖を起こす何らかのストレッサーの検索が必要であった。発症牛 3 頭の肝臓の銅濃度は高値であり,ロダニン染色で銅の沈着も確認がされたことか ら,銅に起因する活性酸素種が肝臓の細胞傷害を起こしていたことが推察された。 これが Ch 増殖のストレッサーとなり,BHU の発症に至ったものと考えられた。 一方,発症牛の P2,P3 は血色素尿の発症時に血中銅濃度・肝機能数値が急激 に上昇しており,これは肝臓に蓄積された銅が急激に血中放出されることで発症
に至る慢性銅中毒の病態と一致しており,BHU との併発している可能性が示唆さ れた。一般的に,牛は成牛になるにつれて,銅に対する耐性が強くなるため,肝 機能低下やストレスなどのトリガーがなければ慢性銅中毒の発症に至ることはな い 5)。また,慢性銅中毒発症時の肝臓の銅濃度も一般に 500~2000µg/g とされてい る。しかし本事例ではそこまでの値に至っておらず,非発症牛の N1 では銅濃度 が肝臓で高く,血中では低いことから,発症牛は単純な銅摂取のみではなく,何 らかのトリガーによって銅の血中放出がされたものと思われた。同居牛では肉用 肥育牛 54 頭の血液で銅濃度が有意に高く,N1 の肝臓でも正常値を上回っていた ことから,肉用肥育牛全体が急性中毒には至らないものの,銅を長期的に摂取, 蓄積していた可能性が高い。そのうえで Ch が発症牛 3 頭のみから共通に検出さ れ,非発症牛からは検出されなかったこと,また,飼槽の洗浄後は新たな発症牛 がみられていないことからも,Ch 感染が銅の血中放出のトリガーとなった可能性 が考えられた。なお,銅の肝臓への蓄積については,現在原因を究明中である。 また発症牛では P1 のみ血中銅濃度は測定されていないが,肝臓の銅濃度値が高 いこと,また血液から Ch が検出されていることから,P2,P3 と同様の病態により 死亡したことが推察される。以上の内容から,今回の発症牛 3 頭の事例において は,肝臓の銅沈着をストレッサーとした BHU と,BHU をトリガーとした慢性銅 中毒の複合的傷害により発症した黄疸・血色素尿症であると診断した。慢性銅中 毒の発生機序,また BHU との関連性については未だ不明な点が多いため,さら に知見を積み重ねていき,詳細の解明につなげたい。 稿を終えるにあたり,肝臓の銅濃度測定を実施して頂いた宮本亨先生(動衛研), Ch に関する細菌学的検索についてご指導を頂いた,大和修先生(鹿児島大学), 高木光博先生(山口大学),佐々木貴正先生(動物医薬品検査所)に深謝いたし ます。 引用文献 1)前出吉光ら,主要症状を基礎にした牛の臨床,北海道協同組合通信社
2)Janzen.ED et al, Bacillary hemoglobinuria associated with hepatic necrobacillosis in a yearling feedlot heifer, Can Vet J, 22, 393–394, 1981
3)M.Takagi et al, Successful Treatment of Bacillary Hemoglobinuria in Japanese Black Cows, J Vet Med Sci, 71(8), 1105–1108, 2009
4)Y.Shinozuka et al, Bacillary Hemoglobinuria in Japanese Black Cattle in Hiroshima, Japan:A Case Study, J Vet Med Sci, 73(2), 255-258, 2011
5)家畜感染症学会,子牛の医学,緑書房
6)松本裕一ら,周産期に多発したサフォーク種繁殖羊の慢性銅中毒,日獣会誌 7)田中ら,銅中毒発症牛の肝細胞傷害機序における活性窒素種の関与について
表1 血色素尿の発症牛及び非発症牛の状況一覧 表2 細菌培養検査と遺伝子検査結果 表3 Ch 環境検査 発症 死亡 解剖 主要 臓器 血液 P1 黒毛 和種 7か月 1/14 1/16 1/18 (死体) ○ ○ 有 1/14 1/15 1/16 食欲低下,血色素尿 抗菌剤・輸液による治療開始 採血で溶血を確認 PM9:00 死亡 P2 黒毛和種 9か月 2/24 2/28 (死体)2/29 ○ ○※ 有 2/24 2/26 2/28 起立不能,食欲低下,発熱(38.7℃) 採血で溶血を確認,抗菌剤・輸液治療開始 体温が若干低下(38.0℃) 起立可能になり採食行動を確認。血色素尿継続 死亡 P3 黒毛 和種 10か月 4/1 予後 不良 4/4 (生体) ○ ○ 有 4/1 4/4 食欲低下,発熱(38.8℃),血液溶血なし GOT値は9354。抗菌剤・輸液治療開始。 可視粘膜の貧血,黄疸確認 予後不良と判断し,家保で鑑定殺 非発症牛 N1 黒毛 和種 10か月 予後 不良 4/15 (生体) ○ ○ 無 4/15 起立不能のため鑑定殺を実施。 臀部,大腿部筋肉の壊死と慢性炎症が見られたが, 感染症の所見はなく,物理的要因による起立不能 抗菌剤 治療歴 発症牛 発生状況・備考 血色素尿 の発症 個体 番号 品種 月齢 発生月日(H28) 検査材料 肝臓 ( 治 療 後 )血液 肝臓 ( 治 療 前 )血液 ( 治 療 後 )血液 肝臓 ( 治 療 後 )血液 肝臓 血液 C.novyi A型 NT + + C.haemolyticum NT + + C.novyi A型 NT C.novyi B型 NT C.septicum NT C.chauvoei NT C.haemolyticum +* +* + +* C.boturinum NT ※空欄は陰性。 ※*は鹿児島大学で実施。 遺伝子 検査 培養 検査 方法 菌名 発症牛 非発症牛 P1 P2 P3 N1 農場 採取場所 2月 10月 P2飼養区画の敷料 - - P2飼養区画の飼料 - - P2飼養区画の飼槽ホコリ +(相同性99%) - 備蓄オガ粉(2検体) - - ハッチ舎周辺の土壌 - - 放牧場土壌(4検体) - - 放牧場土壌(2検体) NT - 牛舎周辺土壌(3検体) NT - 家保 土壌(3検体) NT - 発生農場 他の和牛飼養農場
表4 肝臓・血液の生化学検査と肝臓病理所見 図1 血色素尿を発症した牛(P2)の臨床経過 解剖日 (H28) (μg/g)Cu ロダニン 染色 HE 染色 採血日 (H28) (μg/dℓ)Cu T-Bil (mg/dℓ) GOT (IU/ℓ) GPT (IU/ ℓ) LDH (IU/ ℓ) GGT (IU/ℓ) ALP (IU/ℓ) Alb (g/dℓ) BUN (mg/dℓ) Cre (mg/dℓ) P1 1/18 221 ++ 死後 融解 1/18 <0.1 351 22 189 21.5 2/26 969.7 19.6 800 59 188 63.3 1/18 <0.1 153 27 21 22.1 2/26 <0.1 151 26 50 17 3/8 <0.1 107 27 30 14.2 3/15 120.9 0.2 72 12 1003 39 614 3.6 13 1.1 4/4 909.0 7.8 >2000 10 >2000 308 1326 4.2 13 2.1 3/18 125.4 <0.2 189 12 1438 136 545 3.4 12 0.9 4/15 153.6 0.2 611 257 >2000 28 159 2.7 8 1.1 正常値 20 ~30 70 ~150 0.01 ~1 50 ~90 14 ~38 692 ~1445 6.1 ~17.4 0 ~448 3.1 ~5 10 ~18 0.5 ~1.5 ※空欄はNT ※■は正常値の上限を超えた値 +++ ++ 小葉 中心 壊死 死後 融解 肝臓 病変 なし P3 4/4 340 N1 4/15 244 個体 血液 P2 2/28 284 +
図2 血色素尿を発症した牛(P3)の臨床経過 図3 同居牛及び他農場牛の血清中銅濃度のボックスプロット 0 50 100 150 200 250 300 同居肉用肥育牛 (n=54) 同居乳用牛 (n=26) 他農場肉用肥育牛 (n=29) 他農場乳用牛 (n=30) (µg/dl) 血 清 中 銅 濃 度
18.豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス( PRRSV )の遺伝子解析 県北家畜保健衛生所 〇山下 薫 木村 将士 都筑 智子 飯島 知一 はじめ PRRSV は,遺伝子変異を起こしやすいことから,多様な株が存在する。本県 では,1993年以降に PRRSV の浸入が確認されているが,今回, PRRSV のコン トロールの一助とするため,これまでに県内で検出した PRRSV 株について,遺 伝子学的解析を行ったので,その概要を報告する。 材料及び方法 1 材料 2008年から2016年に採材した豚の血清12戸 644 検体,2012年から2016年に呼吸 器症状,死亡,発育不良で病性鑑定を実施した豚の肺乳剤35戸97検体,繁殖障害 で病性鑑定に供した豚胎仔等の乳剤10戸85検体について検査を実施した。 2 遺伝子解析 市販のキットを用いて RNA を抽出し, Kono らの型別 PCR (以下,型別 PCR ) を行った。このうち, PRRSV 特異遺伝子陽性であった検体の一部を,(国研) 農研機構動物衛生研究部門(以下,動衛研)に依頼し, PRRSV の Open Reading Frame5(以下, ORF5 )を増幅するプライマーを用いた RT-PCR を行い,増幅さ れた遺伝子断片についてダイレクトシークエンスにより得られた塩基配列情報を 既知のデータと比較した。さらに,各農場の代表的な株を用いて分子系統樹を作 成し,各株をクラスターⅠ〜Ⅴに分類した。なお,クラスターⅣについては,Ⅳ a ,Ⅳ b に細分化した。 3 制限酵素処理による検出株の分類 (1)制限酵素断片長多型 遺伝子解析を実施した一部の検体について,Wesley らの方法1)に従いプライマ ーペア P420/P640 用いた RT-PCR を実施した。得られた増幅産物を制限酵素 Mlu Ⅰ,HincⅡ, Sac Ⅱで切断し,切断パターン(以下, RFLP パターン)を 3 桁の コードで示した。 (2)クラスターⅣグループ Ka 型別 PCR 法 クラスターⅣ b に分類された検体について,型別 PCR で得られた増幅産物を制 限酵素Hinf Ⅰで切断し,九州地方で検出された PRRSV 株との簡易識別を実施し た。
結果(図 1 ) 型別PCR の結果, PRRSV 特異遺伝子は30戸の農場から検出され,その内訳は, 血清11戸85検体,肺乳剤22戸51検体,流産胎仔の肺乳剤 1 戸 2 検体,虚弱子豚の 肺乳剤 1戸 7 検体,胎盤乳剤 1戸 1 検体であった。このうち81検体を遺伝子解析 に供した。 1 茨城県内における PRRSV 分布状況 分子系統樹解析によるクラスター分類の結果,クラスターⅡ,Ⅲ,Ⅳ a ,Ⅳ b , が検出されたが,クラスターⅠ及びⅤは検出されなかった。 PRRSV 特異遺伝子が検出された年度について,2008年〜2010年を 1 期,2011 年から2013年を 2 期,2014年〜2016年を 3 期に区分し,検出されたクラスターを 比較した。クラスターⅢは,全ての期間で検出され,1 期 7 戸( 78% ), 2 期 8 戸(53% ), 3 期10戸( 45% )と推移した。一方,クラスターⅣ a は, 1 期 1 戸 (11% ), 2 期 2 戸( 13% ), 3 期 4 戸( 18% ), クラスターⅣ b は, 2 期 2 戸 (13% ), 3 期 2 戸( 9% )から検出された。どのクラスターにも分類されない 株(以下,未分類株)は2 期 2 戸( 13% ), 3 期 2 戸( 9% )から検出された (表2 )。 地域別に分類すると,県北12戸,鹿行 7 戸,県南 1 戸,県西10戸で,クラスタ ーに地域の偏りはなかった。また,直線距離1km 以下の 3 組の近隣農場間(農場 No.3と No.29 ,農場 No.25 と No.26 ,農場No.7と No.20 )で同じクラスターに属 し,遺伝子系統が同じ株が検出された(図2 )。 2 クラスター別の特徴と分布状況 (1)クラスターⅡ 弱毒生ワクチン株が属するクラスターⅡは,ワクチン接種歴のない6 戸から検 出され,検出株とワクチン株との相同性は91.5 〜 99.0% であり,発育不良豚から 検出された1 戸を除いて臨床症状はなかった。 (2)クラスターⅢ 国内標準株( EDRD-1 株)や県内初分離株( ibaraki93 株)が属するクラスター Ⅲは,今回,最も多い17戸から検出された。このうち 9 戸は呼吸器症状や急死の 臨床症状があり,他の8 戸は臨床症状を伴わなかった。 (3)クラスターⅣ a 国内では主に本県と千葉県で検出されているクラスターⅣa は, 6 戸から検出 された。そのうち2 戸は,2015から2016年に死流産や哺乳豚の死亡が多発してお り,その相同性は96.8% であった。このうち 1 戸は PRRSV 清浄農場であった。 (4)クラスターⅣb 北米強毒株のNADC30 株が属するクラスターⅣ b は,隣接する 2 戸から検出さ
れた。これらの農場では,繁殖障害や呼吸器症状等の原因究明のため,複数回病 性鑑定を行っていた。検出株とNADC30 株の相同性は 94.6 〜 96% であった。 3 同一農場由来株の比較 複数年にわたって検査を実施した10戸中 5 戸では,同一のクラスターに分類さ れる株が検出された。他の5 戸(農場No.3, 6 , 7 ,10,12)では,調査期間中 に異なるクラスターの2 株が検出され(表 1 ), 農場No.6ではクラスターⅢとⅣ a に属する株(相同性: 86.6 〜 87.2% ), 農場 No.10 ではクラスターⅢに属する 株と未分類株(相同性:91% )が同時期に混在し,農場 No.10 では同じ豚舎から 異なる株が検出された。 4 RFLP パターンの比較 (1)制限酵素断片長多型 RFLP は21戸50検体で実施し,遺伝子が検出された 8 戸23検体について RFLP パターンを分類した。 EDRD-1 株と同じ切断パターン【 1-4-4 】を示した株は 4 戸22株で,ワクチン株と同じ切断パターン【 2-5-2 】を示した株は 1 株であった。 ワクチン株と同じ RFLP パターンの 1 株のワクチン株との相同性は 99% であった (表3 )。 (2)クラスターⅣグループ Ka 型別 2 戸17検体について検査を実施したが,全ての株で first PCR 産物, nested PCR 産物ともに切断されなかった。 まとめ 本県には約500 戸の養豚場があり,多くの農場ではこれまでの検査で PRRSV 抗体が確認されていることから, PRRSV は県内に広く浸潤していると考えられ ていた。今回,30戸から検出された PRRSV 特異遺伝子についてクラスター分類 を行ったところ,県内に浸潤している PRRSV はクラスターⅡ,Ⅲ,Ⅳであるこ とが判明し,その分布に地理的な偏りはみられなかった。 病性鑑定材料から PRRSV 特異遺伝子が検出された21戸では,クラスターの違 いによる臨床症状に差はみられなかったため, PRRS の病態は感染ステージや複 合感染した病原体の影響を受けるものと考えられた。一方, EDRD-1 株が属する クラスターⅢは,1 期では県内の流行株の主要な株であったが, 2 期以降はクラ スターⅣa ,Ⅳ b ,未分類株が増加しており,県内の流行株が変化していること が見てとれた。 PRRSV は豚の導入や車両の往来など,あらゆる侵入リスクが想 定される。他の地域からの新たな PRRSV の侵入や,変異による株の多様化も推 察されることから,今後も PRRS の発生状況に注意が必要と考えられた。 6 戸( 3 組)の近隣農場間で同一のクラスターに属する株が検出されたことか ら, PRRSV の近隣伝播が疑われた。また, PRRS ワクチン未接種農場から,ワ
クチン株と相同性99% の株が検出された。このワクチン未接種農場の隣接農場で は PRRSV ワクチンを使用しており,ワクチン株でも近隣伝播する可能性が考え られた。 クラスターⅣ a が検出された農場 6 戸のうち 2 戸は, 1 戸は清浄農場, 1 戸は PRRSV 浸潤農場で,両農場とも死流産や子豚の呼吸器症状が多発していた。一 方,クラスターⅣb の検出された 2 戸は PRRSV の浸潤農場であったが,死流産 や子豚の発育不良が毎年繰り返されていた。一般的に PRRSV 浸潤農場で発症が 認められる場合,新たな株の侵入が考えられるが,この2 戸から検出される株は, 同一クラスターの株であった。クラスターⅣb には北米強毒株が属しており,他 のクラスター属する株と比較し病原性が高いとの報告もあるため,今後,このク ラスターⅣb の検出状況を注視したい。 異なる2 つのクラスターに属する株の浸潤が 5 戸で確認でき,うち 2 戸では同 時期に2 つのクラスターに属する株が侵入していた。複数株の侵入は病態を悪化 させるとの報告もあり,この様な農場ではまん延防止対策が急務である。また, 農場 No.10 の 2 株(相同性 91% )は,同一豚舎から検出されていることから,特 に農場防疫を徹底する必要がある。 PRRSV 株の簡易識別法として RFLP を検討した。 PCR で遺伝子が増幅された 検体の85% が同じ RFLP パターン【 1-4-4 】を示したが,これらの株が属するク ラスターは,Ⅲ,Ⅳ a ,Ⅳ b と異なっていた。一方,クラスターⅡに属する株は 多様な切断パターンを示したが,ワクチン株と相同性99% の株は,ワクチン株と 同じ RFLP パターンであった。ワクチンで PRRS をコントロールする場合,浸潤 株とワクチン株との識別が必要であることから, RFLP パターンで農場を評価で きるため, PRRS 清浄化に際しては有効な手段と考えられた。今回県内で検出さ れたクラスターⅣb に属する株は, Hinf Ⅰで切断されず,九州地方で検出された 株との識別が可能であった。 RFLP は比較的簡便に行うことができるため,本 RFLP は有用であると考えられた。 今後もクラスター分類や RFLP を活用し,県内の PRRSV 浸潤状況を把握して, PRRS コントロール対策の一助にしたい。 稿を終えるにあたり, PRRSV の遺伝子解析の実施並びにご指導ご助言頂いた, 動衛研 高木道浩先生に深謝いたします。 参考文献
1) Wesley R,et al.(1998) Differentiation of a porcine reproductive and respiratory syndrome virus vaccine strain from North American field strains by restriction fragment length
■2008 〜2010年検出株 ▲2011 〜2013年検出株 ●2014〜2016年検出株 図1 各農場の代表的な株の分子系統樹及びRFLPパターン 1-1▲ 1-2▲2-1● 2-2▲ 3-1▲3-2▲ 2-3■4-1■ 4-2▲ 4-3▲ 4-4● 4-5● 5-1■ 5-2▲ 5-3■6-1▲ 7-1■ 8-1● 9-1▲ Miyagi08-2Miyagi13-67 10-1▲ 10-2▲10-3■ 10-4● 10-5■10-6▲ 3-3■ 3-4▲ 11-1● 12-1● 13-1● 14-1● Miyagi12-19 Miyagi10-13 Miyagi11-68 Chiba09-4 15-1● Miyagi08-3 Miyagi14-9 Miyagi11-81Miyagi12-45 Miyagi10-101 Saga09-2 Saga09-3(j-8-3) Shizuoka13-7 Shizuoka14-1 Jiw2(2000) Shizuoka10-6 Jtg1(2000) 16-1●Shizuoka12-2 Shizuoka13-2 Saga09-5 Jeh1(2000) Jyn1(2000) Shizuoka08-1 Chiba93 Jiw1(2000) Jyt1(2000) Hokkaido93 Aomori93 EDRD1 Jib1(2000) Jst1(2000) Gunma92 Jsa1(2001) Ibaraki93 Jsz3(2000) Jsz2(2000) Aomori09-1 Aomori10-5 Aomori08-1 Yamagata14-19 Jnt1(2000) 5-4■ Saga08-1 17-1■ P202-1 ORF5 Jfs1(2000) Jyt3(2000) Shizuoka10-8 Shizuoka11-8 Shizuoka11-6 Shizuoka12-22 10-7▲ 18-1● Shizuoka11-35 19-1▲19-2▲ Chiba13-1 Chiba14-1 Chiba12-10 Chiba09-2 Chiba11-1 Chiba12-16 Chiba13-5 Chiba13-11 Chiba14-6 Chiba11-12 6-2▲ 6-3■ 6-4▲ Chiba11-39 Chiba11-33 Chiba12-36 7-2~3● 20-1▲ 21-1● 7-4~6● 22-1● 23-1~4● 23-5~7● クラスターⅢ Kouchi08-1 24-1● Shiga14-1 P221-1 クラスターⅠ EF112445 JXA1 FJ895329 SX2009 P210-2 P223-1 EC-310833 (JQ691587)(Canada 2005) PRRSV0000006253 (EU756921 IA 2001) XW010(KF724400 USA 2012) P222-1 Jpn5-37 Shizuoka09-8 MN-184A (DQ176019) Shizuoka13-14 Shizuoka14-6 NADC30(ORF5) 25-1● 25-2● 25-3● 25-4●26-1● 26-2● 26-3▲26-4▲ 25-5▲ 25-6▲ 25-725-8●▲ 25-9● 25-10● 25-11● 25-12● 25-13● クラスターV Saitama12-1 Saitama14-1 Aomori00(Jam2) 27-1● 28-1● Yamagata13-5 Yamagata14-6 Yamagata13-12 Yamagata14-8 Yamagata14-15 Jyt2(2000) Saitama12-4 3-5▲29-1● Shizuoka10-2 Shizuoka11-1 P192-5 ORF5 P209-13 ORF5 12-2■ Osaka08-1 Osaka08-2 Shizuoka14-9 Aomori11-7 Saitama13-1 Saitama14-6 Saitama12-15 Aomori10-1 Aomori11-1 Aomori10-10 Nagasaki14-1 Nagasaki14-9 Nagasaki12-1 30-1● Miyagi08-1 Aomori09-6 Vaccine strain(AF095499) 100 40 50 93 94 83 94 88 47 16 27 66 61 49 93 67 99 52 100 73 91 90 100 100 100 100 84 67 100 81 100 100 74 100 10 89 87 99 100 99 100 99 99 80 100 72 100 96 45 40 98 100 100 100 82 100 85 100 100 70 39 48 98 100 49 99 97 19 84 23 26 52 49 99 89 98 62 75 37 67 52 99 100 100 25 48 48 95 100 100 100 56 54 70 99 62 43 25 17 24 35 57 16 27 42 15 8 5 43 15 100 98 94 10 5 18 13 43 38 47 77 96 44 37 58 27 55 48 47 51 36 41 35 33 62 40 29 29 34 17 34 4 23 21 2 34 15 1 26 1 16 0 1 23 20 17 14 27 10 20 4 22 1 15 15 0 0 0 5 0 1 0 2 1 2 0 0 3 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0.020
クラスター
II
クラスターⅣ
b
クラスター
IVa
クラスター
III
表1 遺伝子解析を実施した農場 表2 検出年別戸数 (戸) 農場No 地域 検査材料 病性鑑定 検出年 クラスター(株数) 1 県北 肺 呼吸器症状 2013 Ⅲ(2) 2 県西 肺 呼吸器症状 2009,11,16 Ⅲ(3) 3 県北 血清 2010~13 Ⅲ(4)Ⅱ(1) 4 県南 血清 2010~12,14 Ⅲ(5) 5 鹿行 血清 2008,13 Ⅲ(4) 6 鹿行 血清 2010~12 Ⅲ(1) Ⅳa(3) 7 鹿行 血清 2008,14 Ⅲ(1) Ⅳa(5) 8 県西 肺 育成豚の死亡 2014 Ⅲ(1) 9 県西 肺 育成豚の呼吸器症状 2012 Ⅲ(1) 10 県西 血清 2009~14 Ⅲ(6)未分類株(1) 11 県西 肺 育成豚の呼吸器症状 2014 Ⅲ(1) 12 県北 血清 2009,15 Ⅲ(1)Ⅱ(1) 13 県西 肺 離乳豚の呼吸器症状 2016 Ⅲ(1) 14 鹿行 肺 育成豚の急死 2015 Ⅲ(1) 15 県西 肺 呼吸器症状 2014 Ⅲ(1) 16 県北 血清 2015 Ⅲ(1) 17 鹿行 肺 育成豚の発育不良 2009 Ⅲ(1) 18 県西 肺 肥育豚の死亡 2014 未分類株(1) 19 県西 肺 育成豚の急死 2012 未分類株(2) 20 鹿行 肺 離乳豚の削痩 2012 Ⅳa(1) 21 県北 肺 離乳豚の死亡増加 2016 Ⅳa(1) 22 県西 胎仔の肺 母豚の食欲不振、流産 2016 Ⅳa(1) 23 鹿行 虚弱子豚の肺 死流産 2016 Ⅳa(7) 24 県北 胎盤 早産 2016 未分類株(1) 25 県北 肺・血清 死亡,急死 2012~16 Ⅳb(13) 26 県北 肺 育成豚の死亡 2012~14 Ⅳb(4) 27 県北 血清 2015 Ⅱ(1) 28 県北 肺 発育不良 2014 Ⅱ(1) 29 県北 血清 2015 Ⅱ(1) 30 県北 血清 2014 Ⅱ(1) 検出年 クラスターⅡ クラスターⅢ クラスターⅣa クラスターⅣb 未分類 1期 (2008~2010年) 1 7 1 0 0 2期 (2011~2013年) 1 8 2 2 2 3期 (2014~2016年) 4 10 4 2 2
図2 各農場で検出された株のクラスター 表3 クラスターⅡに属する株とワクチン株との相同性 検出農場 No. 制 限 酵 素 切 断 パ タ ー ン ワ ク チ ン 株 と の 相 同 性 27 1-1-2 91.5% 3 1-5-2 92.7% 30 2-5-2 99.0% ワ ク チ ン 株 2-5-2 26 25 7 20 ● ク ラ ス タ ー Ⅱ ○ ク ラ ス タ ー Ⅲ □ ク ラ ス タ ー Ⅳ a ▲ ク ラ ス タ ー Ⅳ b ※ 未 分 類 ★ ク ラ ス タ ー Ⅲ + Ⅳ a ☆ ク ラ ス タ ー Ⅱ + Ⅲ × ク ラ ス タ ー Ⅲ + 未 分 類 数 字 は 農 場 番 号 29 3
19.飼育イルカにみられた皮膚病変の病理組織学的検索 県北家畜保健衛生所 ○矢口 裕司 藤井 勇紀 都筑 智子 前田 育子 水族館や動物園などの展示動物は多くが希少動物であり,種の保存の面から重 要であると共に,動物とのふれあい等を通じて来場者への文化的及び教育的な役 割も担っている。近年,高病原性鳥インフルエンザや口蹄疫など,重大な感染症 が猛威を奮い,人々の関心が高まっているなか,展示動物の中にはそれらの感染 症に感受性がある動物も含まれている。また,これらの動物が人獣共通感染症の 原因となる病原体を保有している可能性も考えられ,展示動物についても,家畜 保健衛生所が積極的にワンヘルスを意識した調査及び研究を実施していく必要が ある。 今回,イルカの死因と皮膚病変の原因究明をきっかけに,複数個体の皮膚生検 材料について病性鑑定を行った。イルカの皮膚疾患はパピローマウイルス感染症 1),非定型抗酸菌症2),ラカジオーシス3)などの人獣共通感染症が知られてお り,併せてそれらの感染症の検索を行ったので,その概要を報告する。 発生状況 イルカを飼養する展示施設で,約3 年前からほぼ全身に隆起した皮膚病変が多 発したカマイルカ1 頭が,平成28年 6 月下旬に発熱,白血球数の増加など,一般 症状が悪化したため,治療するも7 月上旬に死亡した。病性鑑定の結果, Aspergillus fumigatus による脳炎及び肺炎と診断した。 その後,同居イルカ4 頭にも皮膚病変がみられたため,死亡イルカの皮膚及び 皮膚病変を発症した同居イルカの皮膚生検材料の病性鑑定を実施した。 材料と方法 1 供した材料 死体1 頭の皮膚(No.1 ), 4 頭の皮膚生検材料(No.2~ 5 )について,病理学 的検査,ウイルス検査,細菌検査を実施した(表1 )。 (1)病理学的検査 材料を10% 中性緩衝ホルマリンで固定し,定法に従いパラフィン包埋,薄切 後,切片を作製し,ヘマトキシリン・エオジン( HE )染色を実施した。 イルカの皮膚疾患で報告されているパピローマウイルス感染症,非定型抗酸菌 症,ラカジオーシスの関与を調べるため,No.1~ 5 については,チールネルゼン
染色,過ヨウ素酸シッフ(PAS )反応及びグロコット染色を実施した。また, No.1について,一次抗体に抗牛パピローマウイルス血清抗体を用いた免疫組織化 学的検査(以下,免疫染色)を(国研)農研機構 動物衛生研究部門(以下,動 衛研)に依頼した。
(2)ウイルス検査
No.1について,牛パピローマウイルスを検出するプライマー( Subgroup A,B 4), PV unibersal5) )及び既報1)のイルカパピローマウイルスの遺伝子配列を参照して 作製したdegenerated プライマーを用いた PCR を動衛研に依頼した。 (3)細菌検査 No.1~ 5 を用いて,液体培地を用いた抗酸菌培養を約 3 週間実施し,培養液に ついてTelenti ら6)の方法に従い Mycobacterium 属 hsp65 の PCR-RFLP により切断 パターンを解析し,M. marinum の検出を試みた。 結果 1 皮膚病変の外貌 No.1は,背部,尾柄及び尾の広範囲で疣状に隆起する皮膚病変が多発していた (図1 )。 No.2~ 5 は,背部に限局して微小に隆起した皮膚病変が散発または孤 発していた(図 2 )。 2 病理組織学的所見 病変は,No.1は表皮に,No.2~ 5 は真皮に認められた。No.1は真皮乳頭が上方 に隆起し,表皮との境界が不規則に配列し,有棘層や顆粒層の過形成が認められ た(図3 )。 一部の顆粒層は核周囲の空隙形成や細胞質内における好酸性滴状物 の出現が認められた。 No.2~ 5 は,真皮浅層にリンパ球やマクロファージ浸潤及び線維芽細胞の増生 が認められた(図4 )。 さらにNo.2, 3 , 5 は,真皮浅層に壊死巣,表皮に穿孔 が認められた。No.2, 4 は,壊死巣内にチールネルゼン染色で陽性を示す抗酸菌 が少数認められた(図5 )。 PAS 反応及びグロコット染色では,いずれの検体も陰性であった。No.1におけ る免疫染色では,抗牛パピローマウイルス抗体に対する陽性反応は認められなか った(表2 )。 3 ウイルス検査 No.1の皮膚で実施したパピローマウイルスの PCR で,特異遺伝子は増幅されな かった(表2 )。 4 細菌検査 抗酸菌培養を実施したNo.1~ 5 の液体培地の培養液の PCR-RFLP で, M. marinum の切断パターンは確認されなかった (表 2 )。
診断 検査結果から,No.1は乳頭腫症,No.2, 4 は非定型抗酸菌症と診断した。 No.3, 5 は肉芽腫性真皮炎を疑う所見も認められたが,病原体を見出すことがで きなかったことから,創傷の治癒過程の可能性も考えられた(表2 )。 考察 イルカ5 頭の皮膚病変は多様であった。死亡個体であるNo.1は,肺と脳で真菌 による病変が確認されたことから,加齢もしくは免疫低下などの要因で,真菌が 感染し死亡したと示唆された。No.1の皮膚病変は,他の 4 頭と異なり,表皮の過 形成が特徴であり,真菌は皮膚病変には関与していなかった。皮膚病変は,組織 所見から乳頭腫症と診断したが,原因として強く疑われるパピローマウイルスの 関与7)は証明できなかった。この個体の皮膚病変が広範囲だったことから生前か ら感染症が疑われたが,病歴及び治療歴が長期間であったこと,死亡直近での皮 膚病変の拡がりがなかったことから,解剖時に病原体が消失していた可能性があ ると考えられた。 No.2, 4 は, M. marinum と類似した抗酸菌が病理検査で認められたことから非 定型抗酸菌症と診断した。M. marinum は環境中に多く分布しており,魚類や水槽 のフィルターなどからも検出されている8)。そのため,M. marinum は飼育水にも 存在していると考えられたが,皮膚と同時に実施した飼育水の濾過水を用いた細 菌検査では,検出されなかった。したがって,飼育水のM. marinum の菌量は検出 限界以下と考えられたが,餌の魚類(青魚)などから高率に分離されるため,そ れらを摂取した直後のイルカによる咬傷で,感染した可能性も考えられた。ま た,ヒトのM. marinum 感染症も時折発生が報告されている。皮膚の創傷部位から の感染が最も一般的で,皮膚に結節,腫脹,潰瘍などの症状を示し,人獣共通感 染症として注意が必要である。ヒトでの発症例は,魚類に接触する機会が多い水 族館や魚市場関係者に限られ,古くから「水族館病」として知られている。この 様なヒトの発病疫学を踏まえると,イルカの非定型抗酸菌症の初期病変は,創傷 (咬傷)によって起こることが容易に想像できる。一方,免疫が低下したイルカ では,播種性病変を形成するとの報告2)もあるため,非定型抗酸菌症のイルカ は,注意深く経過を観察することが重要と考える。 No.3,5 の皮膚病変は,肉芽腫性真皮炎と考えられる所見もみられ,非定型抗酸 菌の関与が否定できないが,病原体が検出されなかったことに加え病変が限局し ていること,イルカ同士の咬傷などにより体表に傷が出来やすいことを考える と,創傷による治癒過程の可能性が高いと考えられた。 これらのことから,イルカの皮膚病変が,感染症なのか創傷なのかを見極める
には,体調や皮膚病変分布の拡がりなどの観察に加えて,病性鑑定による早期診 断が重要である。病変が限局している場合は,創傷部位からの病原体の感染を防 ぐため,傷口の保護やストレス要因の排除,体調管理に注意し,皮膚病変の拡が りを注意深く観察する必要がある。万一,免疫低下やストレスなどによって,全 身症状を伴った場合は,免疫が正常に機能しないために皮膚病変が全身に広がる 恐れがある。よって体調の改善に努め,感染症を疑う場合は抗菌性物質による治 療を行う必要がある(図6 )。 また,非定型抗酸菌症などは,ヒトにも感染しうる人獣共通感染症である。そ のため,ワンヘルスの観点から展示動物はもとより作業従事者への感染対策も併 せて,講じていく必要がある。 稿を終えるにあたり,検査にご尽力及びご助言いただいた(国研)農研機構 動物衛生研究門 芝原友幸先生,花房泰子先生,渡邉聡子先生,谷村信彦先生に 深謝致します。 参考文献
1) Gottschling M et al., Mol Phylogenet Evol, 59, 34-42, 2011
2) 水島 亮,東北病理標本検討会(2014)における事例,動衛研研究報告, 122 , 11-17 ,2016
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表1 検体の詳細と病変分布
図1 No.1の皮膚病変の肉眼写真及び病変分布
図3 No.1の組織写真(HE染色)
図5 No.2の皮膚病変部にみられた抗酸菌(チールネルゼン染色)
表2 検査結果及び診断